ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 作者も手が付けられないマジキチ回。


魔境の南家

 

 この世には、『魔境』と呼ばれる場所が存在する。ファンタジーの世界では魔物が住むおどろおどろしい境界で名が通っているが、リアルだと身の毛もよだつような秘境といった意味らしい。心霊スポットのような背筋が凍る怖さと言うよりも、いるだけで気分が悪くなるような沼地や空気が悪く険しい山岳地帯など、精神的にSAN値が擦り減りそうな場所を差すのだろう。まぁ、リアルに魔物なんていないからな。

 

 しかし、俺が住むこの東京には『魔境』が存在する。現代科学に塗れた都会で何を言ってるんだと思うかもしれないが、()()()()()の魔境が、今()()()にあるんだよ。

 俺の目の前にそびえ立つ一軒家。この家、謎の瘴気で覆われている気がするんだけど気のせいか? うん、この場所がそう見える俺だけだろうな……。

 

 

『南』

 

 

 その表札を見た瞬間、本能的に臆してしまう。

 俺がここを魔境だと解説した理由が、これで分かってもらえただろう。単刀直入に言ってしまうと、この家の女たちは度を通り越した変態ばかりだ。もっとヒドい言葉を使えば基地外と言ったところか。それくらい俺はこの家が軽くトラウマになってるんだよ。この家を訪れて、精神疲労せずに帰れたことなんて1回もないからな……。

 

 それなのに今日ここへ来た理由は、理事長からとある依頼を受けたからだ。どうやら家をリフォームしたらしく、模様替えのために家具の模様替えを手伝って欲しいとのこと。南家の大黒柱は海外で働いているため、この家に男手は存在しない。そこで俺に白羽の矢が立ったって訳だ。面倒だから断ろうと思ったんだけど、大の大人に頭を下げられたらどうしようもない。魔境に足を踏み入れるのは抵抗しかないけど、高校時代にお世話になった恩もあるし、仕方ないから手伝ってやろうとして現在に至る。

 

 ここで立ち往生していても何も解決しないため、意を決して南家のインターホンを押す。

 すると間もなく、玄関から理事長が現れた。

 

 

「あら、零君いらっしゃい」

 

 

 どうでもいいことだが、理事長は場所によって俺のことを『神崎君』と『零君』で呼び方を変えている。学校を含め外にいる時は『神崎君』で、南家にお邪魔した時だけは『零君』となる。公私混同しない大人の事情ってやつだろうが、外と中では馴れ馴れしさが全然違うため、この人のテンションの差にいつも違和感を覚えてしまう。外では立派な理事長だけど、南家の敷地内に入ると――――それはこれから分かるだろう。

 

 

「来てやったぞ親鳥。休日に元教え子を引っ張り出してんだから、感謝して欲しいもんだ」

「もう、相変わらず辛辣ね」

 

 

 お世話になった理事長になんて口の利き方をしてるんだと思うかもしれないが、南家の敷地に入ったら俺はいつもこんな感じだ。俺も理事長と同じく、外と中では呼び方と口調を使い分けている。敬意を払う必要なんてないってことも、この後すぐに分かる。それに理事長も俺とのこんな関係になれているのか、『親鳥』なんて馬鹿にされていることや、こっちの口調が荒くても文句1つ言わない。むしろ俺がどんなに罵っても常に笑顔だから、ことりと同じくやっぱりコイツもドMなんじゃ……。親子の血筋だしな、あり得る。

 

 

「夫がいないから、どうしても力仕事が捗らなくてね。零君が来てくれて助かったわ」

「一応お世話になっていた恩もあるからな。そうでなきゃ誰がこんな魔境なんか……」

「そんなこと言っちゃって。ゆくゆくはあなたの家になるんだから、今のうちからこの家もことりも自分色に染め上げちゃいえばいいのよ」

「とりあえず、今の旦那さんを大切にしてくれ……」

 

 

 こんな会話、ことりのお父さんには聞かせられないよな……。

 実はことりのお父さんに会ったことがない。俺がこの家に来るときは、いつも出張で出払っているので顔を見たことすらないんだ。そんなタイミングを見計らって俺を家に呼ぶなんて、浮気を疑われても仕方ねぇぞ……。

 

 玄関先で早速気が重くなりながらも、遂に魔境に侵入する。

 すると、ちょうどことりが2階から降りてきた。

 

 

「あっ、零くんだ! いらっしゃい。今日は頑張ってことりたちの愛の巣を作ろうね♪」

「何が悲しくて彼女の実家を愛の巣にしなきゃならねぇんだ……」

「そうよことり。流石の私も娘の彼氏と3Pをする勇気はないわ」

「ちげぇよ!! 両親がいるかもしれない緊張感で、あることないことできないって意味だよ!?」

「それはそれでことりは興奮するけどね。いつバレるかも分からない緊張感の中で、零くんに激しく攻められるとか……♪」

「私も、娘の部屋からギシギシ音が聞こえる恥ずかしさをようやく体験できるのね。もうすぐ孫が見られると思うと嬉しいけど、お婆ちゃんになるのはちょっと寂しいわ」

 

 

 どこで会話の道筋を間違えた……? いや、コイツらと話していると話が脱線どころか地球の裏側へ行くことなんていつものことだから、もう気にするだけ負けなのかもしれない。もうツッコミを入れるだけでもこちらが疲弊するので、早く用事を済ませてとっとと帰った方がよさそうだ。そうしなければ、この2人の妄想に飲み込まれてメルヘン空間から脱出できなくなりそうだから……。

 

 

「とりあえず、まずは何を運べばいいのか教えてくれ。グダグダ話してたらいつまで経っても終わらねぇぞ」

「そうだね。それじゃあ、まずはことりの部屋のモノから運んでもらおうかな」

「はぁ? お前の私物くらい自分で運べよ。力仕事が必要になるモノなんてお前の部屋にねぇだろ」

「むしろ、ことりの私物こそ零くんの力が必要なんだよ。そのために今日は来てもらったんだから」

「どういうことだ……?」

「それはことりの部屋に来ればすぐに分かるよ」

 

 

 俺はことりに促されるまま2階へ上がり、コイツの部屋に入る。

 そして、部屋の中を一目見ただけで俺がここに呼ばれた理由が分かった。テレビ局の衣裳部屋かと勘違いしてしまうくらい、ことりの部屋には大量の服がハンガーラックにかけられていたのだ。

 

 

「なんだよこの服の量……」

「えへへ、可愛い服があるとついつい買っちゃって……。それにファッションデザイナーの勉強のために、自分で作ったのもたくさん……」

「これとか、まだビニール被ってるじゃん。てことは、まだ1回も着てねぇってことか」

「だって、綺麗な服は着るのが勿体なくて……。ほら、汚れちゃったら嫌だし……」

「いるよな、買ったばかりの傘や自転車が使えない奴……」

 

 

 その思考は勿体ない主義というか、買ったモノを部屋のインテリアとして見ているのだろう。現にことりが持て余している服は素人目から見てもブランド製だと分かるので、あまり外の空気に触れさせたくないのは分かる。言ってしまえば、オタクのエロ本の買い方となんら変わりはないな。使う用、保存用、鑑賞用といった感じだ。

 

 

「こっちにデカいクローゼットがあるけど、ここには何が入ってんだ? これだけ大きいのに、部屋に服が溢れるとか異常だろ……」

「あっ、そこは……!!」

 

 

 俺は何んとなしにクローゼットを開けてしまう。そこが魔境の中でも底なしの魔境だとは知らずに……。

 ここを開けなければ良かったと後悔するのは、その直後だった。

 

 

「な゛っ……なんじゃこりゃぁああああああああああああああああアア!?」

「もうっ、女の子のクローゼットの中を勝手に覗き見るとか、デリカシーがなさ過ぎるよ!」

「いやいやいやいや、そんな問題じゃねぇだろ!?」

 

 

 本来なら服を収納するクローゼットだが、そこには布切れ1枚も存在しない。存在しているのは、俺の姿が写り込んだ写真ばかり。クローゼットの中の隅々まで、俺の写真が貼り巡らされていた。最初ここを開けた時は鏡に自分が映っていると思ったのだが、明らかに盗撮としか言えないようなアングルばかりなので、一瞬血の気が引いてしまった。

 しかし、一瞬だけと言うのが如何にも訓練されていて、すぐに冷静さを取り戻した自分自身が恐ろしいよ……。ぶっちゃけ、コイツの奇行とは数年の付き合いだから慣れてんだよな。だからといって許したことは一度もないが……。

 

 

「クローゼットの右半分の写真は、大学に入って撮った新鮮な写真ばかりだよ♪」

「釣ったばかりの魚で魚拓を取ったみたいに言うなよ……。つうか、お前まだこんなことやってたのか……」

「まだって、ことりは永遠にやり続けるつもりだよ! 零くんの成長過程を描いた写真集を作ること、それがことりの夢なんだから!」

「お前の夢はファッションデザイナーだろうが!! こんなことに魂をかけている暇があったら、ちょっとでも服のこととか英語を勉強したらどうだ?」

「それはそれ、これはこれだよ。零くんがよく言ってるでしょ? 二兎を追う者は二兎とも取れって。だから、ことりは自分の夢は全部叶えるよ!」

「盛大な夢を語ってご満悦だろうが、これただの盗撮写真集だからな? 犯罪だからな??」

「零くんがよく言ってるでしょ? 人間は正しいことばかりをして生きてたら、絶対に損をするって。どこかで手を抜いたり、卑怯な真似をして利益を得ている人こそ世渡りが上手いって。だから、犯罪者と言われてもめげないんだから!」

 

 

 確かにその考えは俺の主張に基づくものだが、まさかそれをコイツに伝えたことで己の首を絞めることになるとは……。俺だってたくさんの女の子を恋人にしている以上、ことりの発言を聞いて反論できないのだが実情だ。でも俺は人様に迷惑をかけていないのに対し、コイツのやっていることは俺がめちゃくちゃ被害を被っている。この差はどう足掻いても覆せないくらい大きいことを、コイツは理解しているのだろうか……? いや、満面の笑みを見る限りではしてねぇだろうな……。

 

 

「あらあら、零君にその写真を見せちゃったのね」

「親鳥、アンタ知ってたのか!? 知ってたのなら娘の躾くらいしっかりしておけよ……」

「いいえ、むしろもっと写真を撮ってこさせたわ。ことりと、そしてあなたの将来のためにもね」

「盗撮なんかで俺の将来が変わるとでも……?」

「私は既に考えてるのよ。あなたとことりの結婚式に映し出される写真をどれにしようかなってね。そのためには零君の写真がもっともっと必要なの」

「は……?」

「お母さん、最近はよく零くんとことりの結婚式で使う写真を選定してるんだよ。ことりたちの結婚式なのに、お母さんが張り切っちゃって♪」

「大切な1人娘の結婚式だもの、張り切らない方がおかしいじゃない♪」

「いい話に持って行こうとしてるけど、選別してるのって全部盗撮写真だろ!? 人の知らないところで何やってんだお前ら!?」

 

 

 親が親なら子も子。子も子なら親も親だ。俺のどんな写真を結婚式に流そうとしているかは知らないが、別にそんなことをしなくても式典用の写真くらい普通に撮られてやるのに……。もうストーカー魂が心の奥にまで根付いてしまっているため、一般常識的な行動を取ること自体を忘れているのかもしれない。

 

 

「それじゃあこの写真はことりが運ぶから、零くんはこの服たちをお願いね」

「平然としてるけど、これは没収だからな」

「ええっ!? ことりが5年間も撮り溜めてきたお宝だよ!? いくら零くんの頼みでも、これだけは渡せない!!」

「そんなに前から!? 確かに、制服姿の俺の写真もちらほらあるような……。つうか、どうやって隠し撮りしたのか分からないようなアングルのもあるんだけど……」

「それはね、お母さんのおかげなんだよ」

「実はね、音ノ木坂学院の至る所に監視カメラを設置していたの。ことりが零くんの写真がどうしても欲しいっていうから、高いカメラだったけどちょっと奮発しちゃった♪」

「笑顔で恐ろしいことを暴露すんな!! 学校の金を私的利用するとか横領じゃねぇか!?」

「いいのよ、私が理事長なんだから。音ノ木坂は私のモノよ」

「職権乱用どころの騒ぎじゃねぇだろそれ……」

 

 

 魔境は南家だけではなく、まさか音ノ木坂まで浸食していたとは……。学校に監視カメラなんて教育委員会が許さないと思うのだが、この理事長のことだ、裏で手回しすることなぞ容易いだろう。それが全て1人の男子生徒を監視するためとか、この世の誰も南家の野望に気付くことはない。それくらいこの親鳥は聡明なのだ。今の親鳥を見ているとそうは思えないが、外ではしっかりとした理事長であり教育者なんだよ。敵に回したら厄介ってのはまさにこのことだな。

 

 俺が制服姿で映っている写真のほとんどは、監視カメラの撮影によるものだろう。いつから設置されたのかは不明だが、通報されていないってことは誰にも気付かれずに設置してあったと見て間違いない。でもこれだけ鮮明に俺の姿が映っているから、設置されたカメラはよほど性能の良いモノだ。つまり、それだけ学校の金が南家の私利私欲に使われたってことか。そう考えると、学費を払ってた俺たちが馬鹿らしくなってくるじゃん……。

 

 

「これを教育委員会に報告したら、お前らの人生を終わらせるのは簡単だな……」

「それは無理ね。あなたが卒業したその日にカメラは全て撤去済みだから、証拠は何1つ残ってないわ。この写真だけでは明らかに証拠不十分だし、何より教育委員会にも……フフ」

「えっ、もしかしてそこにも工作員がいんのか!?」

「零君、あなたは自分の魅力を分かっていないのね。幾多の女性が、どこであなたを狙っているのかも知らずに……」

「こえぇよ! それで『女性に好かれまくってるぜ、やっほぅ!』とはならねぇからな!?」

「大学でも零くんに抱かれていい女の子をたくさん知ってるよ? 見知らぬ女の子に好かれるのが怖いなら、今度紹介してあげようか?」

「そんな子たちがいるのかよ……。どうやって知り合ったんだ……」

「零くんの写真を見せたら一発で堕ちちゃったよ♪」

「俺の写真って病原菌かなにか……??」

 

 

 俺の知らぬところで、教育委員会や大学の女性たちに謎の感染が広がっているらしい。もうそれは俺のせいじゃなくて、人に断りもなく勝手に写真を広めている南家の人間が悪いんじゃないか……? それで堕ちる方も堕ちる方だけど、諸悪の根源はコイツらなことは間違いない。

 しかし、ここで犯罪の尻尾を掴もうにも、証拠不十分で不起訴にされるのは確定的に明らかだ。こういった打算的で狡賢いところは南家の人間って感じがするよ。犯罪に走るとしても絶対にヘマをしないので、もうどう足掻いてもコイツらを止めることはできないだろう。

 

 

「さて、無駄話もここまでにして、模様替えを始めましょうか」

「無駄どころかこれは撤去して欲しいんだが……もういいよ。とりあえず片っ端から服を運んでいけばいいのか?」

「そうやってなんだかんだ許してくれるところ、ことり大好きだよ♪」

「はいはいありがとな――――ん? なんだこの段ボール?」

「あっ、それは……!!」

「いや、今度は開けねぇからな……」

 

 

 さっきは制止されたのと同時にクローゼットを開けて痛い目をみたから、今度はしっかり様子を窺った。ことりの反応を見るに、どうやら九死に一生を得たみたいだ。またこの中にとんでもないモノが隠されているのは確定的だが、できれば拝みたくはない。知らぬが仏という言葉通り、どうせ中身を知ったところで俺のSAN値が削られるだけだろう。だったら知る必要はないのだ。

 

 

「この中にはね、ことりと零くんの愛の営みが映像媒体として……きゃっ、これ以上は恥ずかしいよぉ♪」

「おいちょっと待て、今なんつった?? 学校の隠し撮り以上に衝撃的な事実を突きつけられたような……」

「いくらことりでも、自分の口から言うのは恥ずかしいよ……。見たかったら、零くんが自分の目で確かめてみて」

「イヤに決まってんだろ! 何が悲しくて自分が出演してるAVを見なきゃいけねぇんだ!!」

「でもこのおかげで、ことりの日々の性欲は抑えつけられているのです。これがなかったら、いつ零くんを襲ってもおかしくないからね」

「いや、今でも普通に盗撮してんじゃねぇか。それで欲求を抑えてるってよく言えたな……」

「盗撮は欲求を満たす行動じゃない、ただの趣味だもん」

「そっちの方がタチ悪いだろ……」

 

 

 これだけ至る所で盗撮されていたら、おちおち外も歩けねぇじゃん……。いや、コイツのことだから自宅にいてもあらゆる手を尽くして盗撮されそうな気がする。もはやプライベートどころか、プライバシーすら吹き飛んでしまっているような……。

 

 

「てか、これこそ何に使うんだよ。個人使用なら百歩譲っていいけど、さっきの写真みたいに誰かに布教してんのなら流石の俺だって怒るぞ?」

「これは南家のお宝なんだから、誰かに見せるなんて絶対にしないよ! ね、お母さん?」

「そうね。私たちが使用する以外の目的では絶対に使わない。これで儲けようなんて一切思ってないしね」

「私たちって、アンタも観てるのかよ……」

「我が娘とその未来の旦那の濡れ場、母親としてはいいシチュエーションよね♪」

「気持ち悪っ!」

「私が特にオススメするシーンは、零君がことりに対して『いつもいつも誘惑しやがって、こんなエロい身体で誘惑したらどうなるか教えてやる』って迫るところよ」

「零くんがことりを押し倒して、そのセリフを言ったんだよね。あの時は興奮し過ぎて押し倒されただけで濡れ濡れだったもん♪」

「言ってねぇだろそんなこと!! もはや妄想と現実が混在してるじゃねぇか!!」

 

 

 突然何を言い出すのかと思ったら、根も葉もない事実をあたかも被害者ヅラして語りやがった。一応誤解されないように説明しておくと、俺はそんなセリフを吐いたことは一切ない。コイツらの嘘があまりにも衝撃的だったから、思わず記憶の糸を手繰り寄せてしまったが、そんな事実は存在しないと断言できる。コイツら、どれだけ俺を鬼畜に仕立て上げたいんだよ……。

 

 この展開で1つ分かったことは、コイツらが普段からどんな目で俺を見てるかってことだ。そしていつも俺にどんなことをされるのか、どんなことをされたいのか、そんな妄想で頭がいっぱいだってこともな。その妄想が捗り過ぎて、とうとう現実と虚構の区別がつかなくなったらしい。幸いにもその嘘を誰かに言ってはいないみたいだが、今後あらぬ噂が俺の周りに蔓延りそうで気が抜けねぇな……。

 

 

「そもそも、教育者としてこんなことをして大丈夫なのかよ……」

「大丈夫、仕事とプライベートは完全に分離する主義だから」

「全然大丈夫じゃねぇよ。仮にも既婚者なんだから、俺に現を抜かすような真似はやめとけ」

「それは俺のモノになれって暗喩かしら? そ、そんな、夫もいるのに……」

「頬を染めるな誰得だよ」

 

 

 ったく、南家の女連中は悉くこんな奴らばかりで身が持たねぇよ。むしろよく5年間もこの変態たちと付き合ってきたんだと、自分自身を褒め称えてやりたい。俺自身も性欲に従順なヤリチン――とはまではいかないが、そこそこやり手な男だと自負している。しかしコイツらを見ていると、自分がまともな人間なんだって思えるから安心するよ。むしろコイツらと自分を比較して、なお自分の方が変態だと思う奴がこの世に何人いるだろうか……?

 

 まぁどうやってもコイツらを更生させることはできないので、他の人に迷惑がかからないようコイツらの欲望は俺が抑えつけておいてやろう。こんな性獣をこのまま世に解き放つ訳にはいかねぇからな。

 

 

「さてと、長話しが過ぎたわね。そろそろ模様替えを始めましょうか」

「お前らが無駄に話を引き延ばすからだろ……。今日は早く帰ろうと思ってたのに、とんだ災難だよ」

「ことりは零くんと1秒でも長くいたいから、もっとお話していてもいいけどね」

「だったらもっと有意義な時間を過ごさせてくれ。あんな話で引き延ばされたら堪ったものじゃない」

「それじゃあ早く作業を終わらせて、お茶にしましょうか」

「賛成! 零くん、まずはこれから運んでね!」

「またダンボールかよ。うわ、結構重いな……」

「だってそれ、零くんとことりの毎日を綴った日記とか、戯れに描いた同人誌とか入ってるもん。つまり、ことりの愛がたっぷり詰まってるんだよ!」

「またその展開!? もう絶対に中身見ねぇからな……」

「ちなみに描いたシチュエーションはね――――」

「言わせねぇよ!?」

 

 

 ことりも親鳥も楽しそうだが、俺の正気度はみるみる削れていく。

 分かってもらえたと思う。日本にも魔境が存在することがな……。

 

 




 ことりの誕生日に間に合わせたかったのですが、他の人の小説に比べて流石に度が過ぎているので投稿日をズラしました。

 それにしても、ことりも理事長もいいキャラをしていると自分が描いておきながらにそう思います(笑)

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