別に最初からこの状況を作りたいと思った訳じゃない。女の子の笑顔を守りたいという信念を持ち、ごく普通に毎日を過ごしていたらこうなっただけだ。だからと言って彼女たちの想いを無下にするつもりはなく、むしろもっと自分に依存させてやる勢いで愛でてやろうと思っている。
そりゃね、そこらの大学生や高校生よりも断然魅力的な美女美少女集団に囲まれる毎日なんて、想像しただけでも興奮するだろ? 俺の人生が今まさにそんな状況なんだ、そりゃ大満足すぎて笑うしかないって。自分から何かアクションを起こさなくても、女の子たちから自主的に自分に寄り添ってくれる。そして女の子たちは
もはや誰にも到達できない境地。全国どころか世界から注目されるスクールアイドルたちを手中に収め、こうしてお互いに求めあいながら毎日を過ごしている。たくさんの女の子に好意を向けられるこの立場は、言ってしまえば至高の一言。今朝は寝起きだったこともあり千歌たちの刺激的な行動に圧倒されはしたが、女の子たちに寄り添われるあの状況はただならぬ充実感を味わえる。良く言えば満足感、悪く言えば支配欲、どちらにせよ俺の欲求は大いに満たされるのだ。
そういった欲望に塗れた気持ちを抱いていることは確かだが、一応まともな感情も持ち合わせていると付け加えておく。だってμ'sともAqoursとも共に大きな壁を乗り越えて紡いだ心なんだ、そりゃ純粋に彼女たちを想う気持ちだってもちろんあるよ。女心に気付かないフリをしていたり、逆にお互いの距離が近すぎて相手の想いに気付かなかったりと、たくさんの失敗を経てここにいる。何も最初から女の子の扱いに長けていた訳じゃなく、むしろ下手すぎて何度も躓いた。それでもみんなとこんな関係になれたのは、ドス黒い欲望に塗れた心を捨てて純粋な気持ちで彼女たちと接していたからかもしれない。ただ単に女の子たちを侍らせようなんて思っていたら、この状況は間違いなく訪れなかっただろう。
俺は庭の縁側に座りながらそんなことを考えていた。μ'sとAqoursが一堂に会しているせいかリビングの人口密度がやたら高いため、急遽ここへ避難してきた次第だ。μ'sと同棲生活をしていた時もキャパシティがオーバーして家が潰れそうだったのに、今回はその倍近くの人数がいるから、どれだけこの家がごった返しているのか想像できるだろう。現に今は絶賛朝食タイムなのだが、全員座れないからみんな立って飯を食っている。朝から立食パーティなんて海外の富豪かよって話だよな……。
「あれ、零くんは朝ごはん食べないの?」
「凛……。お前、朝からカップ麺か……?」
「だって前までスクフェスがあったから、体重管理云々で海未ちゃんに禁止令を出されてたんだもん。でももう終わったし、最近は毎日食べまくりだにゃ!」
「太ったら太ったで女の子的に問題ねぇか?」
「大丈夫、凛は太らない体質だから」
「それ、絶対に穂乃果や花陽の前で言うなよ……」
体質の面で太らないのもそうだが、コイツの場合はスポーツ系の部活やサークルを掛け持ちして活発に動いている都合上、体脂肪の燃費も良いのだろう。そのせいで身体は大学生になってもちんちくりんのままなのだが、まぁ凛の場合は華奢な身体の方が似合ってるな。
「あっ、零君ここにいたんだ」
「花陽か――――って、お前もなんだそのご飯の量は? 山盛りってレベルじゃねぇぞ……」
「だって前までスクフェスがあったから、体重管理云々で海未ちゃんに禁止令を出されてたんだもん。でももう終わったし、最近は毎日食べまくりだよ!」
「かよちん、それさっき凛が言ったよ」
「ふぇっ!?」
「でもお前の場合は腹に肉が付きやすいから、海未の監視がなくても抑えねぇと。でなきゃまたアイツのダイエットを受けることになるぞ」
「う゛っ、ト、トラウマが……」
「いやぁ今日もラーメンが美味い!」
「凛ちゃん!? それ当てつけだよね絶対!?」
この光景もここ数年で何度目にしたことやら。でもスクフェスへの準備期間中は海未の厳しい管理下のもと、食事も体力と栄養を考えたものに強制されていた。だからこそ、この2人の会話を聞いていつもの日常に戻ってきたんだと改めて実感できるよ。偏った食生活なんて、心に余裕がある時にしかできねぇもんな。
スクフェスでは色々あり過ぎて、スクフェスが終わった今でも何度もその実感に浸ってしまう。もしかしたら自分が思っている以上に、俺はコイツらとの日常を大切にしているのかもしれないな。
「あなたたち、こんなところで騒いでたら近所迷惑でしょ。まだ朝よ?」
「真姫。絵里も希も、お前らいつの間に来てたんだ?」
「ついさっきよ。外までみんなの声が聞こえてたから、何事かと思っちゃったわ」
「ご近所さんから冷たい目で見られそうやったから、零君の家に入るの躊躇うくらいやったんやから」
「それなら心配すんな。近所の人たちはみんな『あぁ、また零くんが女の子と宜しくしているのね』って、むしろ微笑ましく思ってるから。現に近所の人からそう言われたし……」
「なんか表現が穏やかじゃないけど、周りの人が温厚で良かったわね……」
ホントだよ全く。隣の家のおばさんなんて、顔を合わせるたびに『いつも違う女の子を家に連れ込んでるけど、新しい彼女できた?』とか『女の子の声がこっちまで響いてたんだけど、何をしていたの?』とか煽るように聞いてくる。そのせいで近所からは俺が女の子をとっかえひっかえしているヤリチン野郎だと思われているらしく、だったら朝や夜が騒がしいのは色んな意味で無理はない、と形容し難い理解のされ方をしている。最初は誤解を解こうと近所に説明しに回っていたのだが、向こうが微笑ましい顔であしらってくるのでもう諦めた。完全に遊ばれてるよな俺……。
そうやって呆れながらも、やっぱり女の子たちに囲まれているこの立場に満足してしまっている自分もいる。ま、他人に自分の立場を理解してもらおうなんて端から思ってねぇけどな。むしろ俺たちの関係をバラして面倒な事になるくらいなら、このまま秘密にしておいた方がアイツらのためになる。そうは言ってもこれだけ密接な仲を外でも隠さず見せつけているので、意外と周りにバレてたりするんだよな。ことりの母である理事長を始めとして、先生たちも薄々勘付いているだろうし、こころとここあも俺がみんなと肉体関係を持っていると、少しベクトルは違うが俺たちの関係を知っている。そう考えると、隠そうとする努力が無駄な気がするぞ……。
「零くん零くん! これ凄いですよ、このケーキ!」
「亜里沙か。どうした突然……」
「鞠莉ちゃんが家に余ってた海外のケーキを持ってきてくれたんですけど、これが美味しいのなんのって!」
「もう亜里沙ったら、零君困ってるよ? 美味しいのは分かるけど、後輩たちもいるんだしもう少し落ち着いて……」
「雪穂、お前も大変だな……」
「えぇ、まぁ……。でも亜里沙と楓の対応はもう慣れてるんで今更です」
何にでも興味を持つ行動力の塊である亜里沙と、隙あらば会話にさり気なく下ネタをぶち込み、人を見下すように煽る小悪魔の楓。そんな珍獣を飼いならしているのが今の雪穂だ。亜里沙と楓と3人でμ'sに入った当初は彼女たちとのテンション差に置いてかれるばかりで戸惑っていたが、今はしっかり順応している。まあ4年も2人の面倒を見ていれば、珍獣使いのジョブをマスターするのも必然か。
「零くんもこのケーキ食べてみてください! はい、あ~ん♪」
「えっ、お、お前それは……」
「はい、あ~ん♪」
「わ、分かったから――――――う、美味い……」
この歳になってあ~んはちょっと恥ずかしかったけど、亜里沙の天使のような笑顔でそんなことをされたら逆らえねぇよ。向こうに悪気はないと思うが、スプーンを向けられている時に若干威圧感もあったし……。
「雪穂はやってあげないの?」
「やらない。もういい大人なんだし、する必要ないでしょ。ほら、リビングに戻るよ」
「ま、待って雪穂ぉ~!」
雪穂は亜里沙をクールにあしらっていたように見えるが、俺は見逃さなかったぞ。頬を赤くして自分のスプーンと俺の顔を交互にチラ見していたことを。アイツのことだ、恐らく間接キスを気にして恥ずかしがっていたのだろう。現実主義者で冷めているように見えて、意外と心は乙女なんだよなアイツ。
「まさか雪穂があそこまでデレるなんて、穂乃果にももっとその優しさが欲しいよ……」
「穂乃果、お前いつから隣に座ってた……?」
「えへへ、さっき来たばかりなんだね。零君に挨拶しようと思ったら顔を赤くした雪穂とすれ違ったんだけど、また何かした?」
「
「どうかな? 零君ってデリカシーないから、女の子をすぐ惚れさせちゃうんだよね。穂乃果たちもその性格のせいで何度困らされたか……」
「悪かったな、どうせ一生女心なんて分からねぇ鈍感野郎だよ」
「ゴメンゴメン、楽しくてテンション上がっちゃった。こうしてみんなで集まるのは久しぶりだもんね」
少し卑屈になったが、俺にデリカシーがないのは本当のことだ。そのせいでみんなにはいつの間にかセクハラ発言をしていたり、そんなつもりはないのに相手を胸熱にさせたりと、女の子の心を引っ掻き回す才能は世界一とμ'sに絶賛(非難?)されたくらいだ。自分でも改善しようとは思っているのだが、高校時代から根付くこの性格を治すのは到底無理な話だろ。
そんな自分の性格を皮肉っていると、穂乃果がリビングを振り返り笑みを浮かべていることに気付く。
リビングではμ'sとAqoursの面々が入り乱れ、歳の差やグループの間柄など関係なく談笑している。お互いに何の柵もなく、何の重荷も背負っていない。そんなみんなの純粋な笑顔を見て、穂乃果はほっこりとしていた。
「みんな笑ってる。これが、零君の夢なんだよね?」
「俺の夢か……そうだな。でも、これだけじゃまだ足りない。Aqoursのみんなとはむしろこれからだろ」
「お付き合いし始めたのに、何もしてないまま1週間以上経ってるもんね。早く何かしてあげないと、もっと騒がしいことになっちゃうかもよ?」
「今日だけでもアイツら相当溜まってたから、これ以上欲求を爆発されると何をされるか分かったものじゃねぇな……」
そもそも千歌たちに告白してから1週間以上も会えなかったのは高校の夏休みが終わってしまったからであり、アイツらが地元へ帰るのは仕方のないことだった。だから俺のせいではないんだけど、どんな事情があれアイツらに寂しい思いをさせてしまったことに変わりはない。1週間も待たせてしまった分、今日はスクフェス以上の思い出を作ってあげないとな。
「それにしても、μ'sが解散してもこうしてみんなと一緒にいられるなんて思ってなかったよ。これも零君のおかげだね!」
「俺の?」
「うんっ! 穂乃果たちにとって、零君は帰るべき場所なんだよ。にこちゃんはアイドルとして全国に、ことりちゃんはファッションデザイナーとして海外に、他のみんなも夢のためにここを離れちゃうけど、ここに帰ってくれば零君がいる。零君がいるからこそ、穂乃果たちは夢に向かって羽ばたけるんだ。だって、帰ってくる場所があるってとっても安心するもん! 零君が穂乃果たちを繋いでくれているんだよ?」
みんなの帰る場所になる……か。全然考えたことなかったが、確かにそれが穂乃果たちの夢を一番近くで見守れる場所なのかもしれない。そして、そんな場所こそ自分の夢を叶えるのに最適だ。俺の夢はみんなの笑顔を守りたい、ただそれだけ。俺がここにいるだけでみんなが夢に全力をかけられるのなら、喜んで帰るべき場所になってやろう。そう、俺は夢に向かってひたむきに羽ばたくみんなの笑顔が大好きなんだから。
「零さん、穂乃果さん!」
「ん、千歌か? どうした?」
「え、えぇ~っと、ちょっとお話したいことがあると言いますか……あっ、もしかしてお邪魔でしたか!?」
「うぅん、大丈夫だよ。それで、何かな?」
リビングから庭へ出てきた千歌は、縁側に座っている俺と穂乃果の前に回り込む。さっきまで俺と添い寝をするくらい積極的だったのに、今は借りてきた猫のようにおとなしい。今更改まって、一体何をするつもりだ……?
「零さんも穂乃果さんたちも、この度はありがとうございました! 皆さんのおかげで、スクフェスではとても貴重な体験ができました! Aqoursとしての成長にも繋がりましたし、私たち個人も強くなれた気がします」
「本当に今更だな。でも、お前らの自信に繋がったのなら良かったよ。お前らの目標、達成できるといいな」
「"いいな"じゃないです、絶対に達成します!」
「おっ、いいやる気じゃねぇか」
浦の星の統廃合を阻止するため、学校の名前を知らしめる目的で参加したスクフェスだったが、結果としてAqoursが優勝したことでその目的は達せられた。レジェンドスクールアイドルのμ'sや、事前人気投票1位で天才的な実力を持つ虹ヶ咲を破ったことで、俺たちの想像以上にAqoursの名が世界に知れ渡ったのだ。
だがAqoursの目標としてはスクフェスなんて通過点であり、本当の敵は内部にあり。つまり浦の星の存続だ。千歌たちは統廃合の話になると険しい顔になることが多かったが、今では目標完遂のために苦い顔は一切見せない。自分たちが笑顔でいること、そして内浦や浦女がどれだけ魅力的なところかをアピールするため、自分たちが沈んでいられないからだ。そんな前向きな気持ちを育んだのは、間違いなくスクフェスでの出来事のおかげだろう。
「穂乃果たちって、何かしたっけ? コラボライブで一緒にステージに上がったり、決勝で競い合ったりしただけだと思うけど」
「そんな! μ'sの皆さんがいてくれたから、私たちももっと輝きたいと思ったんです! μ'sや虹ヶ咲の皆さんと一緒に競い合えたからこそ、今のAqoursがいるんですから!」
「そう言ってもらえると照れるなぁ~♪ 穂乃果たちはただ思い出作りのためにスクフェスに出場しただけだから、あまり何かをやった自覚はないんだけどね」
「だからこそ、ライブを純粋に楽しむ気持ちを千歌たちに教えられたんじゃないか? ステージに上がる興奮や快感は、スクールアイドルじゃない俺には教えられないことだからな」
「はい! これからは零さんとμ'sの皆さんに教えてもらったことを教訓に、私たちの力で目標を達成してみようと思います!」
Aqoursの歩んできた道は、俺がμ'sが先導していた。
だけどこれからは違う。これからは千歌たちが自分たちの力で目標を完遂する番だ。そんなひたむきな彼女たちを見ているとどうも手を差し伸べてやりたくなるのだが、ここはグッと我慢。スクフェスで頂点に輝いたコイツらがどんな奇跡を魅せるのか、楽しみに静観しようじゃないか。もう既に、意気込みMAXの千歌は朝の陽ざしに負けないくらい輝いてるけどな。
「え、えぇ~と、も、目標もそうなんですけど……」
「なんだよ、また畏まって」
「そ、それとは別に、零さんともっとお近づきになりたいなぁ~なんて」
「うわぁ~零君ってやっぱり罪だよ。こんなにも零君を想っているのに、1週間も放置したんだから。うわー最悪だー」
「棒読みやめろ。千歌、放置してたわけじゃなくて、物理的に会いに行けなかっただけだからな?」
「あはは、分かってますよ。でもこれからは、もう少し一緒にいてもらえると嬉しいです♪」
「っ……!?」
千歌の眩しい笑顔に、俺は思わず怯んでしまった。もうその笑顔から目を離せない。雰囲気が許せば、今すぐ抱きしめてしまいそうな愛おしさだ。女の子のこの笑顔を見るために生涯を捧げてもいい。以前穂乃果からどんな夢を持っているのかと聞かれた時に『女の子の笑顔を守り、最高の笑顔を見る』ことを夢として掲げたが、今まさにその夢を絶対に実現させようと心に決めた。もちろん最初から決めていたのだが、こんな眩しい笑顔を見せられたら決意がより固くなっちまうって。本当に最高だよな、女の子の笑顔って。
すると、千歌の顔が俺の眼前にまで迫ってきた。
そして気付けば、唇と唇が重なっていた。
突然だったが乱暴ではなく、優しく唇を重ねられる。彼女の唇は熱く、柔らかく、甘い。相手を思いやるような心の籠った口付けで、そんな彼女からありったけの想いが俺の中に流れ込んでくる。俺もその気持ちに応えようと自分からも唇を押し付けるが、彼女は俺が与えたものよりももっと強く応えようとする。そんな彼女の純情な気持ちに、俺は安らぎながら唇を受け止めていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。唇と唇が離れて我に返った時、時間が再び動き出したような気がした。時間が止まっていると感じるほど千歌のキスに心を奪われていたらしい。
そして俺から一歩後ろに下がった千歌は、改めて俺と向き合った。
「大好きです。今も、これからも」
今まで見た千歌の笑顔の中でも、最高の笑顔。
惚れた。
いや元から惚れてはいたけど、笑顔でそんな告白をされたら余計好きになっちまうだろ。嬉しさや感動、愛おしさや満足感、こんな素敵な子に告白されているという高揚感、女の子から愛を向けられているという欲高い優越感――等々、あらゆる感情を抱いていた。誠実な感情もあれば欲塗れの感情もあるが、どちらにせよ彼女の想いによって生まれた感情なことには変わりない。
「俺もだよ。これからもよろしくな」
「はいっ、よろしくお願いします!」
俺たちの関係は、ここでようやく始まったのかもしれない。告白自体は1週間前に済んでいるが、あの時はAqoursがスクフェスで優勝した直後でお互いに気分が高ぶっていたから、お互いに落ち着いて気持ちを伝えあったのはこれが始めてだったりする。だからこそ、俺たちの物語はここからが本当のスタートなのだ。
すると、隣から熱い視線を感じた。
まあ隣に座っているのは穂乃果なので、さっきの光景をネタにして弄ってくるんだろうな……。
「……って、えっ!? お、お前ら!?」
「という訳で零さん、あとはごゆっくり♪」
「ちょ、千歌!? 逃げるな……あっ」
千歌が逃げるのも無理はない。俺の背後には千歌を除くAqoursのメンバー全員が、何か言いたげな様子でこちらを見つめている。恥ずかしそうにしている者もいれば、期待している奴もいて、中には不機嫌そうにしている者もいた。
そういや、Aqoursのみんなとはお付き合いする関係まで進展したけどキスは一切してなかったな。そりゃ千歌とだけあんなにロマンチックな口付けをしたんだ、みんなが直訴したい気持ちは分からなくもない。つうか、嫉妬して当然だよなぁ……。
そんなことを考えている場合ではない、もうみんなの欲求が爆発しそうに――――!!
「零さん! 千歌ちゃんと2人で隠れてだなんて、そんな秘密の関係だったんですか!?」
「わ、私は零さんに愛してもらえるのなら、別に何番目でもいいですよ……?」
「凄くドキドキする光景だったずら……。マルもあんなキス、零さんとできるかな……?」
「ル、ルビィにも、お暇な時にしてもらえると、そのぉ、嬉しいかなぁ~って……」
「別に私はしてもらってももらわなくてもどっちでもいいけど? ま、まぁアンタがしたいってのなら仕方ないわね!」
「好きな人とキスをするのは私としても憧れだったので、わ、私にもできたらお願いしたいなぁ……なんて」
「全く、私たちに内緒でそんなことを……べ、別に羨ましくも何ともないですわ!」
「よ~し、こうなったら今からみんなでKiss Timeにしましょう♪ 大丈夫、アメリカなら挨拶みたいなものだから!」
「ちょっと、みんな落ち着けって! わ、分かったら、そんなに流れ込んでくると――――って、うわ゛ぁ゛あ゛あっ!?」
リビングから庭を覗き込んでいた梨子たちがバランスを崩し、全員が波となって俺に雪崩れ込んでくる。これだけたくさんの女の子に密着され、愛を向けられるなんて……この重さもそんな愛の強さだと思えば、多少は我慢できるかな?
い、いや、普通に重いけどね。
「お前ら、見てないで助けてくれよ……」
そうμ'sのみんなに助けを求めるが、誰もかれもが笑みを浮かべていたり呆れていたりと、手を差し伸べてくれる気配が全くない。秋葉も微笑ましい表情を向けるばかりだった。もはやアイツらからしてみれば日常的な光景すぎて、助けようとも思わないのだろう。薄情な奴らめ……。
「零君はいつまで経っても零君のままだね! 零君が女の子で災難に遭ってると、なんか安心しちゃうかも」
「あぁ、ことりも久しぶりに零くんに可愛がってもらいたいなぁ……♪」
「はぁ……全く、零と一緒にいるといつも騒がしくなって困りますね」
「でも、Aqoursのみんなも零君も楽しそうだよ」
「いいなぁ、凛も混ぜてもらおっかな?」
「やめておきなさい。あの子たち今とても熱くなってるから、下手に割り込むと火傷するわよ」
「見てる分には楽しいんだけどね。零も相変わらずと言うか……」
「ウチらにもあんな時期があったから、ちょっと懐かしいかも♪」
「ま、にこからしてみたらあの程度の押しじゃまだまだね」
「これから今まで以上に騒がしくなるんだよね。少し面倒かも……」
「私はAqoursのみんなと一緒にいられる時間が増えるから、これからがとっても楽しみだよ!」
「こうなったのも流石はお兄ちゃんって感じ? 女誑しもここまで来ると表彰ものだね」
μ'sのみんなは各々好き勝手なことを言ってるが、どれも的を得ているため反論することができない。
もちろん、女の子たちに囲まれるこの状況を作ったのも俺だし、そんな状況を楽しんでいる自分がいる。それに楽しんでいるのは俺だけではなく、騒がしい状況ながらもμ'sもAqoursも和気藹々としているため雰囲気はとても和やかだ。そんなみんなの表情には笑みが浮かんでいるので、嫉妬したり恥ずかしがったり、呆れたりしながらも今を楽しんでいるのだろう。
そう、これが俺の望んだ日常なんだ。
誰も悲しまず、みんなが笑っていられる究極のハッピーエンド。俺は遂にその日常を手にした。長年追い求めてきた、女の子たちの笑顔で溢れかえる世界。そんな夢みたいな世界をようやく現実できたんだ。誰にも真似できない、誰にも到達できない、魅力的な女の子たちに囲まれた最高の日常に、もう湧き上がる愉楽が止まらない。様々な苦難を乗り越えたこの日常を掴み取ったんだ、こうなったら思う存分楽しませてもらおうか。
こう言っては欲望塗れの変態に思われるかもしれないが、やっぱり女の子はいい。笑顔はもちろん、夢や目標に向かってひたむきに努力するその姿、何気ない日常で垣間見える可愛い仕草、自分へ真っ直ぐな愛を向けてくれる一途さ、男の欲求を唆る肢体――等々、女の子の魅力を1から10まで語っていたら人生いくらあってもキリがない。そんな魅力を教えてくれたのがコイツらで、俺はコイツらに没頭するくらい女の子の全てが好きだ。もうお互いにお互いを求め合い過ぎて、何があっても一生離れることはないだろう。
俺たちの物語はここで一旦の区切り。
でも、またすぐに新たなる日常が始まる。例えこの先にどんな日常が待ち受けていようとも、俺たちはずっと――――――
「あ~穂乃果お腹空いちゃったよぉ~! みんな、早くリビングに戻った戻った。ほら、零君も行こ! 千歌ちゃんもね!」
「はい! 零さん、そんなところで寝てないで、早くリビングに戻りましょう」
「寝てるのは半分お前のせいだけどな……。はいはい、今行きますよっと」
穂乃果と千歌は、俺に手を差し伸べる。
雪崩に巻き込まれて横になっていた俺は、穂乃果と千歌から差し伸べられた手を掴む。
なんかこれ、俺たちのこれからを暗示してるみたいだな。ま、そんなものがなくても俺たちはずっと一緒だよ。今でももう満足し過ぎて笑いが出ちゃいそうだ。
「どうしたの? 面白いことでもあった?」
「いや、ただ思っただけだよ」
そう、俺が言いたいことはこの一言に尽きる。
やっぱり――――――
「女の子は、素晴らしいってな」
~FIN~
『日常』『非日常』『新日常』を通して4年半、ご愛読ありがとうございました!
『新日常』としてはこれまで何度か最終話を迎えてきましたが、今回こそ本当の最終回ということで、
零君とμ's、Aqoursの物語はここでピリオドとさせていただきます。
もう読者様への思いや、ここまで私に付き合ってくれたキャラたちへの思いなど語りたいことが多すぎるので、
そのあたりの個々へ向けたお礼は活動報告にて投稿する予定です。
とは言ってもこの後書きを描いている時点では既にその活動報告は作成済みなので、近いうちに投稿できると思います。
ここでは『日常』から『新日常』を通して、総合的なお礼と感謝をお伝えします。
冒頭でもお伝えしましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
5年間も小説活動を続けられたのは、間違いなく読者様からの応援があってこそです。特に目に見えて声援が分かる評価と感想はいつも励みになっており、「投稿したら誰かが評価や感想を入れてくれる」と確約されていたからこそ、毎話自信を持って投稿できたのだと思っています。中でも毎話感想を書いてくださった方には多大なる感謝を。割とありきたりな感謝の伝え方ですが、いざこの立場になってみると本当にこうやって感謝することしかできないです(笑)
自信になったと言えば、同じ『ラブライブ!』小説の作家さんたちにも感謝を。
2015年には『新日常』のアンソロジー企画に付き合ってくださり、2018年秋の平成終わり企画にもたくさんの作家さんたちにご参加いただきました。もしかしたらすっごく上から目線になるかもしれませんが、私が企画したらこれだけの作家さんたちが集まってくれたので、自分には人望があると思っただけでも小説への自信に繋がりました(笑)
同じラ作家の方々に薮椿という存在が知られていることでも執筆を続ける気概となったので、この場を借りてお礼を申し上げます。どれだけの人がここを読んでくださるのか分からないですが……()
この小説は元々『ラブライブ!』のキャラでハーレムモノを描きたいという、私の欲望から創作されたものでした。
私自身ハーレムモノが大好きで、しかもそれに加えて誰も悲しまないハッピーエンドも好きという、無茶なシナリオがドストライクだったりします。もちろんそんなアニメや漫画は早々ないので、こうなったら自分が書くしかないと思ったのが始まりだったりします。結果的には自分が想像していたよりも輝かしいエンドを迎えられたので、私自身この小説に非常に満足しています!
ハーレムやハッピーエンドの良さを伝えたかったのもそうですが、もう1つ、『ラブライブ!』のキャラの可愛さもこの小説を通じて伝えようと考えていました。
穂乃果や千歌などのメインキャラはもちろん、ツバサたちなどのサブキャラまで、登場する女の子は読者様が忘れられないほど魅力的に描くことを念頭に置いていました。
結果的には読者様から「この小説を見てたら公式の穂乃果たちじゃ満足できなくなった」や「公式よりもこの小説のキャラの方が魅力的」などいった声があり、私の目標としては完遂できたのではないかと思います。中にはオリキャラである楓や秋葉にカルト的な人気があったりと、オリキャラたちも原作キャラに負けない魅力を放ち、『新日常』ワールドを盛り上げてくれました。
長々と語ってしまいましたが、最後にこの小説がハーメルンの『ラブライブ!』小説でどの立ち位置にいるのか公開します。
・総合評価―1位
・通算UA数―1位
・平均評価(高い順)―1位
・お気に入り数(多い順)―6位
・投票者数(多い順)―1位
・総評価数(多い順)―1位
・感想数(多い順)―1位
・Wilson Score Interval―1位
・相対評価―1位
(※日間・週間・月間総合評価等、順位の変動が短期間で入れ替わる条件や、1話辺りの文字数等、さほど努力せずとも上位を取れる条件は集計対象外です)
やっぱり、ハーレムモノは最強ってことがこれで証明されましたね(笑)
改めて、ここまでのご愛読ありがとうございました!
またどこかのハーレム小説でお会いできればと思います。
最後の高評価、ご感想お待ちしております。
【オマケ】
前回の実施したアンケートの結果を開示します。
『Q1. シスターズの中で妹に欲しいキャラは?』(投票数93)
・高坂雪穂(40票/43%)
・絢瀬亜里沙(31票/33%)
・神崎楓(22票/24%)
雪穂が1位だろうなとは思っていましたが、全体の4分の1が楓好きと知って嬉しい自分がいます(笑)