ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は虹ヶ咲のメンバーであるエマ・ヴェルデちゃんの登場です!
 しかもがっつりほのぼの日常回で、彼女の魅力が十分に堪能できるかと!()


エマの日本文化堪能珍道中

 

「わぁ~! こんなに大きい風船なんて初めて見ました!」

「風船じゃなくて提灯(ちょうちん)な……って、ここへ来る前に日本文化の予習とかしてないのか?」

「写真で何度か見たくらいですね。それに予習してしまうと、こうして実際に日本文化に触れた時のウキウキが減っちゃうので、敢えてしなかったんですよ」

 

 

 そう言ってエマは雷門の提灯を前にしてはしゃぎにはしゃぎまくっている。あまりに騒ぎ立てすぎて、周りから不思議そうな目で見られてるの分かってんのかコイツ。まあ日本文化を学びたいからと案内役を頼まれた時点で、こうなることは大体予想してたけどな。

 

 今日は虹ヶ咲のメンバーの1人であるエマ・ヴェルデを引き連れて、東京の浅草に来ている。日本文化が知りたいからと突然電話を掛けてきたと思ったら、暇な日が今日しかないから一緒に行きましょうと半ば強制的に予定が組まれてしまった。押しの強さは虹ヶ咲の中でも随一で、電話口でも浅草で日本文化に触れられると知った瞬間にテンション爆上げ+早口のコンボで俺が喋る隙すらもなかったんだ。そしていざ現地へ来てみればこのはしゃぎよう。今日は疲れるな、絶対。

 

 

「零さん零さん! 早く行きましょうよ~!」

「そんなに急がなくても、今日は1日オフなんだろ? 時間はたっぷりあるじゃねぇか」

「せっかくのデートなんですし、1秒たりとも無駄にしたくないんです!」

「デート……?」

「はいっ♪」

 

 

 歩夢たちもそうだけど、男女2人で外出するだけでデートって気が早くないか? コイツらからしてみれば十年以上も待ちに待った人との初のお出かけなので、テンションが上がってしまうのは分からなくもない。もう俺と恋人同士になることを見据えているのか、コイツらは本当に自分の気持ちを隠さないよな。年頃の女子が男子を気軽にデートに誘うって、普通の人からすれば凄い度胸だと思うぞ。

 

 そんなことを考えてる間に、エマは雷門をくぐって寺の参道へと足を踏み入れる。1人にしたらあちこちで騒いで迷惑をかけるかもしれないので、しゃーないからとことん付き合ってやるか。デートであろうがなかろうが、可愛い女の子と一緒に観光できるなら文句はない。

 

 遅れたが、エマの紹介でもしておこう。

 エマ・ヴェルデ。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーの3年生。名前から分かる通り外国の子であり、どうやらスイスから留学に来ているらしい。おっとりマイペースではあるが、自分の好きなこと、特に日本文化に触れることに関しては途端に血気盛んになる。スイスの自然の中で育ったためか雰囲気はとても暖かく、背がすらっと高い三つ編み少女ってだけでも癒しを感じられる。

 そして何より目立つのが、希すらも凌駕する豊満な胸だ。俺の見立てではバストサイズは92cm。高校生にしてそのサイズはまさにアニメキャラのようで、今は夏場で薄着なためかその胸の大きさが良く目立つ。実はさっきからエマがはしゃぐたびに胸が程よく揺れているので、コイツのお守りをするにも悪くないかなぁと邪な気持ちを抱きながら思ってしまう。お守りのお駄賃としてこれだけいいものを見せてもらっていると思えば、今日のデート(?)も楽しめそうだ。まあ胸ばっか見てたら観光がそっちのけになっちゃいそうだけど……。

 

 

 雷門をくぐると、寺の参道を挟む形で道脇に屋台がズラっと並んでいた。

 食い物の店ばかりでなく、団扇や風鈴、提灯といった日本文化を象徴する小物を扱ってる店も多い。祭りでもこういった古典風な店は減りつつあるから、ここを歩いてるだけで日本が一世代前に戻ったように感じられる。だからこそ日本文化を堪能するには絶好の場所であり、俺はエマをここへ連れて行こうと思ったんだ。

 

 そういや、最近はこうしてゆったりと遊ぶことがめっきりなくなった気がするな。直近の事件と言えば、赤ちゃんにされて楓に介抱されるわ、穂乃果に俺の犯罪歴を白日の下に晒されるわ、酔っ払いの相手をする羽目になるわで、正直気が休まる時が一切なかった。だから今回こそは女の子と観光デートと洒落込みたいんだ。まあ相手がちょっとマイペース過ぎる気はするけど、最近の仕打ちに比べればエマの相手をしている方がよっぽど楽だろう。

 

 

 …………ん? あれ、いつの間にかアイツいなくなってやがる!? 今日はゆっくり観光しようと思ってた矢先にこれかよ幸先悪いなオイ。夏休みで人も多いから、こりゃ探すのはひと手間掛かりそうだ――――――

 

 

 

「わぁ~! このちっちゃなパンケーキはなんですか??」

 

「いたよ……」

 

 

 幸いにも、エマの声が大きいお陰ですぐに見つけることができた。目立つからあまり騒ぐなと注意したばかりなのだが、まさか早速その騒がしさに助けられるとは皮肉なもんだ。ま、何も知らない土地で迷子にならなかっただけマシか。

 

 

「そりゃ人形焼きだ。ほら、動物の形してるだろ?」

「ホントだ珍しい形ですね! ハチミツやバターとか付けて食べるんですか?」

「いやこのままだよ。食うか?」

「いいんですか!? あっ、でもお金……」

「気にすんな、買ってやるから」

「それではお言葉に甘えさせてもらいます!」

 

 

 なんつうか、人に譲られてそれに即同意をする行為は日本人との違いを感じられる。日本人って無駄に謙虚だから互いに譲り合う傾向があるのに対し、エマは笑顔で俺の提案に同意をした。もちろん彼女に悪気がある訳ではなく、むしろ奢る側からしても笑顔で感謝されるのは嬉しいことだ。

 

 人形焼きを一袋買ってやると、エマは早速1個取り出して半分だけかじる。すると、目を見開いて俺の方を向き、無言のまま咀嚼し始めた。

 あまりにも挙動が大袈裟なのでもしかして不味かったのかと思ったが、ごくんと喉を通した瞬間に顔をずいっと俺の眼前に近付けてきた。

 

 

「美味しいですよこれ! 中に入ってるのはチョコレート……ではないですよね?」

「それは餡子だ。豆を砂糖で煮て作る、日本古来の和菓子だよ」

「こ、これがかの有名な餡子さん!? 今まで本やネットでしか見たことがなかったけど、ようやく巡り合えましたね!」

「芸能人に会ったと言わんばかりだな……」

 

 

 餡子という食べ物が登場して何年経っているかは分からないが、恐らくここまで眩しい目で見られた餡子は後にも先にもこの人形焼きの餡子だけだろう。何事も出会いは一期一会と言われるが、今のエマにはその言葉がピッタリだ。人生が楽しそうでちょっと羨ましいよ。

 

 

「故郷の妹たちにも送ってあげるとして……あっ、あれは何ですか?」

「あぁ、あれは煎餅だよ。もしかして、煎餅も知らない?」

「名前だけは知ってますが、食べたことはありません。クッキーみたいに砂糖やバターで作るのでしょうか? でも鉄板で焼いてますよね?」

「材料は米なんだ。だからクッキーみたいな甘さはないけど、米が原料だから渋い日本茶とは相性バッチリだな」

「お米ですか!? あの柔らかいスライムみたいなお米から、あんなにパリッとした食べ物ができるなんて不思議ですねぇ~」

「お前の想像する米ってお粥かよ……」

 

 

 パンケーキだのクッキーだの、挙句の果てにスライムだの、反応が逐一異国の人って感じがして呆れつつも面白い。相変わらず騒々しくて周りから注目を浴びがちだけど、彼女の楽しそうな顔を見られるだけでも俺は満足だ。

 

 ちなみにエマがさっき妹たちと言っていたが、聞くところによるとコイツは8人兄弟の長女らしい。しかも兄弟揃って日本文化に興味があるようで、留学前に妹たちに日本のお土産を大量に強請られたと言っていた。最近は日本の家電を大量買いして帰国する外国人が増えているが、コイツの場合は法被(はっぴ)を着ながら提灯や団扇をぶら下げて帰国しそうだ。楽しそうなエマを引きつった顔で見送る歩夢たちの姿が容易に想像できるよ。

 

 そして、エマは煎餅を1袋購入して人形焼きと交互に食べ始めた。さっきから休むことなくバクバク食ってるけど、体重管理の方は大丈夫なんだろうか……?

 

 

「あと2週間でスクフェスなのに、そんなに食っていいのか?」

「大丈夫ですよ。何故だか知らないですけど、体重が増えない体質らしいんですよね。それよりも食べれば食べるほど胸が大きくなるので、体重よりもそっちが気になってます」

「お前、特定の女の子たちを全員敵に回したな……」

「ほぇ?」

 

 

 エマは人形焼きを口に加えたまま頭に"?"マークを浮かべる。今もどこかで胸が慎ましやかな子たちが必死に努力している中、コイツは好きなモノを好きなだけ食って胸を大きくしている。この事実を貧乳ちゃんたちが知ったら、もはや反逆する気もなく完全に屈服してしまうだろう。

 

 

「あぁあああああああああああああっ!!」

「今度はなんだよ……」

「あれはもしかしてサムライと言うものじゃないですか!? ドレスと剣が飾られてますよ!!」

「ドレスじゃなくて袴。剣じゃなくて刀な」

 

 

 エマは侍のコスプレ衣装が並んでいる店を見つけると、そちらへ全速力で駆け出していく。

 もうノリが遊園地で次から次へと乗り物に乗りたがる子供だな。

 

 

「袴って思ったより薄着なんですねぇ~。防御力が低いような気がしますが、これで戦えるんですか?」

「流石に戦場へ行く時は武装すると思うぞ。それに常に重装備なんてしてたら動きづらいだろうが」

「確かに、袴ってとても動きやすそうですもんね……って、これ試着できるんですか!?」

「ホントだ。ま、まさかお前……」

「零さん!」

「はい?」

「一緒に着ましょう!!」

「…………はい?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はわぁ~これがジャパニーズサムライ!」

「どうして俺まで……」

 

 

 エマに侍のコスプレ店に連れ込まれ、何故か俺まで着付けをされてしまった。夏場なので薄着の袴は涼しくていいのだが、周りの観光客たちに注目されているので堂々と立ち振る舞えないのが事実。もちろん彼女は袴姿でも元気に動き回っており、外国人+侍の組み合わせが珍しいのか観光客たちの被写体モデルとなっていた。

 

 どうでもいいが、袴って思った以上に身体のラインが出るんだな。何が言いたいのかと言うと、エマの凹凸の激しい部分が如実に浮き彫りになっているということだ。彼女が激しく動くたびに、胸なんて下着を着けてないかってくらいに揺れやがる。浴衣や着物って下着の形が現れるから、それらを着る時は下着は着けないって噂だけど、まさか袴もそうなのか? 気になって胸にしか目が行かねぇよ……。

 

 

「ここで会ったが100年目。いざ尋常に勝負!」

「ちょっ、いきなり刀構えんな危ねぇだろうが!?」

「えへへ、1回やってみたかったんですよ。武士の戦いというものを」

「血気盛んなのもここまで来ると重症だな……」

「さぁ構えてください! 零さんと私、長年の因縁に決着を着けましょう!」

「長年って、再会したの最近だろ!?」

 

 

 エマは何故か俺と一戦交える気なようで、既に両手で刀を握り構えの体勢を取っていた。コイツが一度こうして臨戦態勢に入ってしまったらとことん熱中する性格だってのは、まだ初デート数十分の付き合いだけど身に染みて理解している。まさにそっちが殺る気でなければこちらから行くぞの雰囲気であり、今にも俺に飛び掛かりたくてウズウズしているようだ。

 

 でもなぁ、女の子を相手に刃物を向けるなんて、世界一のジェントルマンと言われた俺ができるはずもない。でもエマはもちろん、周りからの期待の目も凄まじい。全く見世物じゃねぇってのに、今から1vs1の決闘が始まるぞとちょっとした人気になっていた。仕方ない、適当に付き合ってサッサと立ち去るとすっか。

 

 

「おっ、やっとやる気になったみたいですね。いきますよ――――それっ!!」

「うおっ!! って、お前本気で切りかかってくんな!!」

「私、侍が出てくる本で読んだことがあるんです。武士の最大の武器は誇り、それ以外は切り捨てろと。なので相手が愛しの零さんであろうとも、戦いの場で信じられるのは自分自身だけ。それ以外は敵です!!」

「それっぽいこと言いやがって――――あぶなっ!?」

 

 

 立ち回りの戦略もあったものじゃないが、エマは刀をブンブン振り回して俺に切りかかってくる。刀はもちろん模造品で、人に当てても大丈夫なプラスチック製だけど、彼女のように勢いを付けられると流石に軽い衝撃では済まない気がする。下手に何度も切られるよりも、刹那の見切りってことで一瞬でやられた方が早そうだな。

 

 

「う~~それっ!」

「ぐっ、や、やられた……。お前の勝ちだ」

「は?」

「え?」

 

 

 エマは『何してんの?』と言わんばかりの顔で倒れる俺の顔を見つめてくる。俺もてっきり彼女がこの流れに乗ってくるものとばかり思っていたので、演技も忘れて彼女の反応を待ってしまった。

 

 

「こ、こんな攻撃で倒れるほど零さんは軟じゃないはずです!!」

「はぁ?」

「こちらの攻撃を軽やかに避け、相手が女性であろうとも容赦なく叩き伏せる、いつもの鬼畜な零さんを見せてください!!」

「おい今すぐ口を閉じろ!! 周りにたくさん人いるだろ分かってんのか!?」

「私、知ってます。零さんは抵抗する女性を見ると更に興奮してしまい、女性を無理矢理組み伏せて服を脱がせるのが好きだと。なのに女性である私を相手にこんな簡単に倒されてしまうなんて、そんなのおかしいですよ!」

「おかしいのはお前の頭だっつうの!」

 

 

 いかん、周りの目がどんどん痛くなってきた。先日は穂乃果に俺の犯罪歴を赤裸々にされたのだが、今回はギャラリーがいるだけこっちの方がよっぽど極刑に近い。まさか浅草の観光で自分の性癖を晒されることになるなんて思ってもいなかったから、突然に恥辱に俺も冷静さを失っていた。

 

 ちなみに言っておくけど、抵抗する女の子に対して色々やるのは……まあ好きと聞かれたら好きと答えるだろう。これ以上はまた犯罪歴に黒歴史が刻まれることになるから言わないけどね。

 

 

「つうか、俺は敵なんじゃなかったっけ? 同情をかけるのは武士としてどうなんだ?」

「そこで敵である零さんが私を容赦なくぶった切るってシナリオですよ。『油断したな』ってね! ほら早く!」

「ったく――――――油断したな」

「う、くっ……や、やられた……ガク」

「なにこの茶番……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ~日本の演劇を体験することができて楽しかったです♪」

「それは良かったな……」

 

 

 茶番が終わって再び着替えた俺たちは、また参道内を練り歩いていた。エマは侍のコスプレと演劇に満足したみたいで、今なおその興奮は冷めていないようだ。

 対して俺はコイツの口から勝手に性癖を暴露され、周りの人たちから冷たい目で見られるという残酷な仕打ちを受けた。しかも写メを取られたりもしたから、下手にSNSにさっきの出来事をアップされると穂乃果たちの目に止まる可能性がある。何気ない発言行動1つ1つが即全世界に公開されるって、ホントに怖い世の中になったもんだよ。

 

 

「日本の文化って、他の国にはない独特なモノが多くて楽しいですね! これが俗に言う"和風"というモノなんですかね?」

「ま、今の日本人が和風を意識するタイミングも少なくなってるけどな。日本に来て分かったと思うけど、想像以上に洋式に包まれてるだろ?」

「はい。東京の街並みやお店、何もかもが他の国と変わらず、聞いていた日本の風景とは全然違いました。もっとこう、このような屋台が多く立ち並ぶ場所を想像してましたから」

「何百年前の日本だよそれ……」

「でも、周りが洋風の雰囲気ばかりだからこそ和風の雰囲気が輝いていると思えば、それはそれで良くないですか?」

「物は言いようだな。確かに日本独自の文化になったからこそ、お前のような外国人観光客がたくさん来るんだろうけど」

 

 

 そうは言っても日本の文化は廃れつつあるのが現状である。今の若者は日本古来の習わしを古臭いと捉える人が多く、実際にそれらの技術を学んで食っていけるかと言われたらそうではない。だったら都会に出て、安定職に就いた方が人生は楽しいと考える人が多いのだろう。こう語る俺も日本文化にはさほど興味はないので、日本文化を成長させていくのは俺たち若者ではなく、外国人観光客の注目による盛り上がりが一番の要因になるかもしれない。

 

 

「あっ、もうこんな時間ですし、お昼ご飯にしませんか? 私、焼きそばやたこ焼きなるものを食べてみたいです!」

「お昼って、お前さっき人形焼きと煎餅をバクバク食ってただろ?」

「美味しいモノは別腹ですよ」

「お前からしてみれば何でも美味いモノなんじゃねぇの……」

「細かいことは気にしない気にしない! ほら、行きましょう!」

「お、おい!?」

 

 

 エマは俺に腕を絡めただけでなく、身体ごとこちらにもたれ掛かってきた。さっきまでは俺をほったらかしにして次から次へと店をはしごしていたのに、いきなりデート感覚で密着するとか何考えてんだコイツ?? 子供っぽいノリばかりで世話が焼ける子だとばかり思ってたから、突然こんな乙女チックな行動をされて少し焦ってしまった。

 

 

「どうしたんだよいきなり。はしゃぎすぎて疲れたのか?」

「まだまだですよ! それにこうして零さんと一緒にデートできることが嬉しくって、気付いたら抱き着いちゃってました♪」

「ホントにマイペースだよなお前って。でもまぁ、こうしたいなら好きにしろ。俺は逃げも隠れもしない、とことん付き合ってやるよ」

「さっきまでは私のことを呆れた顔で見ていたのに、意外とノリ気なんですね」

「気付いてたのか……。どうであれ、俺がお前、いやお前たちと一緒にいてやることこそが、お前たちにとって一番の喜びなんだろ。それでお前たちが笑顔になれるってのなら、俺はもう隣を離れないよ。絶対に」

「零さん……」

 

 

 俺が隣にいてやれなかったから、虹ヶ咲の子たちには10年以上も寂しい思いをさせてしまった。自分が記憶喪失だったからとか、それを言い訳にするつもりは一切ない。過去を振り返って何があったのかを悔やむとか愚の骨頂、大切なのは今をどうするかだ。だから今後は彼女たちを悲しませないように、笑顔が消えないように俺が隣にいてやる。自分がなすべきことはそれだけだ。

 

 

「零さん、大好きです!」

「おいっ、それ以上は周りの目が……!!」

「隣にいてやるって言ったのは零さんですよ? だったらもっとくっつかないと♪」

「隣っつうか、もう一体化しちゃってるだろ!? それに、む、胸が……」

「あっ、そういえばおっぱいが大好きなんですよね? 恥ずかしいですけど、触ってみますか……?」

「え、いいの!? じゃ、じゃなくてこんなところでそんな大声を出したら……!!」

 

 

 思わず素の自分が出てしまったが、再び突き刺さる周りからの冷たい視線を浴びて我に返る。

 本来なら我が物顔で女の子を侍らせて道行く道を闊歩したいところだが、先程の寸劇の件もあってイキるにイキれないのが現状だ。だってさ、さっきエマが爆弾発言を投下した場所にいて、更に今回もまた俺たちの近くにいる人もいるから、流石に2度の被爆を経験した人の気持ちを汲み取ると萎縮せざるを得ない。

 

 さっきまで子供のような無邪気さを見せていたエマがいきなりしおらしくなったので、弄ってやりたいとは思う。だけど状況が状況だけにここに屯するのはマズい。かくなる上は―――――

 

 

「おいエマ、あそこに飴細工の体験コーナーがあるぞ! それにあそこには巫女さんの衣装が着られる場所もあるから、全部回ろう! なっ??」

「おおっ、いきなりやる気ですね零さん! はいっ、こうなったら今日1日かけて全部のお店を回りましょう!」

 

 

 疲れるのは覚悟の上だけど、常に移動しなきゃまたエマがどんな爆弾を投下するか分からない。その点、日本文化を体験している間なら少しは気も逸れるだろう。まぁ俺も、可愛い女の子とお出かけしているというシチュエーションを存分に楽しむか。せっかくのデートなんだし、楽しまないと損だもんな。

 




 今回は事件もないほのぼのとした日常を描きましたが、逆に言ってしまえば事件が多発するからこそこうした日常回が輝くのかもしれませんね(笑) これまでの虹ヶ咲のメンバーの中でも1、2を争うくらいにキャラの魅力を引き出せたと思っています。


 次回はとあるゲームでμ'sが大暴れ……?




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