ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はリクエスト回!!零君がまさかのスクールアイドルにスカウトされます。それを汲み取ったμ'sの心情の変化にも注目です!

 この小説にしては珍しい超真面目回なので、覚悟した方がいいですよ(笑)


零がスクールアイドル!?

「アイドルだと?俺が?」

『そうそう、やってみない?』

「いやお前、いくらなんでもそれは唐突過ぎるだろ……」

 

 

 珍しく秋葉から電話があったかと思えば、突然『アイドルになってみないか?』とスカウトを受けた。女子高校生たちが集うスクールアイドルなら流行っているが、男のスクールアイドルなんて聞いたこともない。特段に俺はアイドル界隈の事情は詳しくないため、ただ俺が世間知らずなだけかもしれないが。

 

 

「まずどうして俺に白羽の矢が立った?」

『容姿端麗で運動神経も抜群、そして歌も上手いでしょ?だからだよ♪』

「それは表面上の理由だろ。ちゃんと説明しろ」

『も~う!!持ち上げればすぐだと思ってたのにぃ~~!!』

「俺はそんな軽い人間じゃねぇよ!!」

 

 

 容姿端麗で運動神経抜群とか、今更過ぎて持ち上げにもなっていない。俺を持ち上げるならそれ以上の魅力を見つけてみせるんだな。それはさて置き、歌が上手いのはどうだろうか?そもそもカラオケぐらいでしか歌わないから歌唱力は特別高いわけでもないと思うけど、アイツが適当に言ったことだから気にしない。

 

 

『別に込み入った理由はないんだけど、高校生にしちゃあ結構なお金が入るんだよ。まぁそれも動画を投稿して、視聴者の反響に応じてだけどね』

「金か……楓が無駄遣いするから意外と困ってんだよな。俺もそこそこ使う方だし」

『レッスンの期間は短くて、早ければ1週間、長くても2週間半くらい。恐らくそれなりに素質のある人を引き抜きたいから、短い期間での採用なんだと思うよ』

「それくらいなら丁度いいか。テストも終わったし、特にやることもないしな」

『およ?前向きに検討中?』

「あまり乗り気じゃないけど、やってみたいと思うところはある。ただしアイツらの意見を聞いてからだな。一応アイドル研究部の部員だし」

 

 

 スクールアイドルの募集を受けてしまえば、当然μ'sの練習に付き合うことはあまりできなくなってしまう。俺としてもみんなと会えないのはイヤだし、そこまで乗り気ではない。だが俺はアイツらが見てきた世界を、自分でも見たいと思っている。いくらμ'sと一番近しい仲だとしても、その世界だけは絶対に共有できない。それはスクールアイドルとして舞台に立っている奴らだけの特権だからだ。だから俺もアイツらと同じ世界を見て共有したい。

 

 

「とりあえず明日みんなに聞いてみる。話はそれからだ」

『前向きにお願いね♪』

「善処する。ところで、このスカウトに成功したらお前にいくら入る……?」

『さぁねぇ~♪』

「はぁ~……じゃあまた連絡すっから」

『はいはい~~♪それと郵送した資料が今日中に届くと思うから、適当に目を通しておいてね♪』

 

 

 秋葉の奴……俺がちょっとでもやる意思を見せたら露骨にご機嫌になりやがった。アイツの思い通りに動くのは癪だけど、俺の願いが叶うかもしれないんだ。いつもなら面倒だからやらないのだが、これはまたとないチャンス。やってみる価値はある。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えぇーーーー!?零君スクールアイドルやるの!?穂乃果、人生一番のビックリだよ!!」

「そこまで驚くことか……?」

 

 

 大学生組を含め全員集合した学院の屋上、俺は練習の休憩の合間に昨日の内容をみんなに話した。これには穂乃果だけではなく全員から驚きの声が上がる。俺がめんどくさがりだってことは周知の事実だから尚更だろう。

 

 

「男のスクールアイドルねぇ~、にこはそこまで注目してなかったわ」

「私もです。スクールアイドルといえば女性がメインですから」

 

 

 アイドル好きのにこと花陽ですら男のスクールアイドルについてはよく知らないらしい。どれだけ認知されてないんだよ……でもそれだからこそ即戦力を集めて世間にアピールをしたいのだろう。

 

 

「でも零くんならアイドル似合うと思うよ♪もし零くんがスクールアイドルになったら、ことり全力で応援する!!」

「凛も!!もしかして一緒に踊れるかもしれないし!!」

「ハラショー!!私も零くんと一緒に踊って歌いたいです♪」

「穂乃果も!!零君と一緒にアイドルできたら楽しいだろうな~」

 

 

 ことり、凛、亜里沙、穂乃果は俺の背中を押してくれている。物珍しそうな目をしているところを見ると、にこと花陽もそうなのだろう。初めからこの6人が否定するとは全く思ってなかったけど、こうして後押ししてくれると嬉しいものだな。

 

 

「私も零と一緒にアイドルができるというのは素晴らしいと思うのですが、時間は大丈夫ですか?」

「そうやねぇ、あまりμ'sの練習に出られなくなるんと違う?」

「そこは割り切るしかないだろうな」

「私たちも零のアイドル姿は見てみたいし、やりたいなら挑戦してもいいんじゃないかしら。時間なら上手く調整するわ」

「悪いな」

 

 

 海未、希は絵里の提案に乗り、それならと快く勧めてくれた。意外とトントン拍子で話が進むんだな。でも俺もみんなと一緒に歌って踊れるのなら、割とスクールアイドルもアリだと思えてきた。

 

 

「零がスクールアイドルをしようがしまいが私たちの練習時間が減るわけでもないし、どっちでもいいんじゃない」

「私も特別どっちかと決められはしないので、零君の判断でいいと思います」

 

 

 ツンデレ組である真姫と雪穂は若干俺を突き放した背中の押し方だ。どっちでもいいという選択肢ほど迷うものはない。『今晩のおかずは何がいい?』理論と同じだ。でもツンデレの『どっちでもいい』は『やってみるといい』だからな。少なくとも俺はそう解釈する。

 

 

「それで楓、お前は?」

「それってお姉ちゃんが持ってきた仕事?」

「仕事ってわけじゃないけど、お金は貰えるらしい」

「ふ~ん……」

 

 

 なんかジト目で俺を見つめてくるんだけど!?もしかして俺に下心があると思われているのか!?いつもの俺ならそうだが、今回ばかりは違う!!俺の中で叶えたい願いがあるんだ!!

 

 

「じゃあやってみればいいんじゃないのぉ~」

「なんだよその適当さは……」

「別にぃ~~」

「そうか……じゃあやる方向で話を進めるか」

 

 

 今の楓に何を言っても『やればいい』で返されるだけなので、とりあえずスクールアイドルをやるという方向で話を通すことにする。まさか今までスクールアイドルを傍観する側だった俺自身がスクールアイドルになるなんて……人生何があるか分かんねぇもんだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そこからの話は早かった。秋葉にその旨を伝えると光の速さで事務所と連絡を取り、俺をスクールアイドルとして仮登録した。仮というのはただ単にそこまで長く続けるつもりもないからだ。俺は一度でいいから舞台に上がることができればそれでいい。

 

 驚いたのは、秋葉が直接『ラブライブ!』開催事務局とのパイプを持っていたことだ。どうやら事務局側は秋葉を通じて、あらかじめ俺に目を付けていたらしい。やはり謀ってやがったな……でも事務局と直接交渉できるのはこちらとしても都合がいい。だがなぜスクールアイドルと無縁のアイツが、事務局とのパイプを繋いでいるのかは謎だ。

 

 

 

 

 そして俺はその翌日からレッスンを受けることになった。穂乃果たちの練習を見ていて『俺でもできるな』と思っていたのは大きな間違いで、やり始めてみると意外に手こずる。ダンスや歌などの感性がなかった俺に、いきなりステップを踏んだり声色を変えたりすることは非常に難しかった。

 

 だけど次第に上達していくのはとてつもなく楽しい。いつも俺はみんなに『もちろん上を目指すことはもちろんだけど、まずは自分たちが楽しめ』と言ってきた。レッスン中は、その自分の言葉が分かる瞬間の連続だ。さらにこのまま行けばアイツらと同じ土俵に立てると思うと、それだけで胸が掻き立てられる。手の届かなかった次元に俺も立つことができるんだ。

 

 もちろんμ'sの練習に参加することも疎かにしていない。μ'sの練習の場合俺はただの傍観者だが、俺がスクールアイドルを始めたことによって的確なアドバイスができるようになるならそれ以上のことはない。μ'sはメンバーであるみんなと俺、一緒になって引っ張っていくとあの時に決めたからな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零君、今日もレッスンあるの?」

「まあな。でも穂乃果たちの練習にもちゃんと参加するから」

「絶対だよ……?」

 

 

 レッスンは順調に進んでいる。このままいけば期限の2週間半までには簡単なPVぐらい撮影できるだろう。もしかしたら多くの女性ファンを獲得できるかもとちょっとだけ期待してみたり。いや、この俺だったら間違いなく黄色い声援を浴びるだろうな。楽しみ楽しみ!!

 

 

「大丈夫なのですか?私たちの練習に付き合って自分の練習にも打ち込むとなると、お身体の方が心配です」

「心配すんな。俺がタフだってことぐらい海未も知ってるだろ?なにより楽しんでやってるから、疲れなんて吹き飛ぶよ」

「そうですか、それならいいのですが……」

 

 

 まさかここまでアイドル活動が楽しいだなんて思わなかったな。いつも勉強には打ち込まない穂乃果や凛が、アイドル活動だけは真面目に取り組む理由がよく分かった。これでまたコイツらと共有できるものが増えたな。

 

 

「でも零くんと会える時間が少なくなって、ことりは悲しいかな……」

「俺もみんなと一緒にいる時間が少なくなって寂しいけど、もしかしたらことりたちと一緒に歌って踊れるかもしれないだろ?もしそうなったらっていう楽しみを想像して、今はお互い頑張ろうぜ」

「うん、そうだね……」

 

 

 今までただμ'sの傍観者だった俺に巡ってきた、最初で最後かもしれないチャンス。そのチャンスを掴めば、俺もμ'sが見てきた世界を見ることができる。これでもっとみんなとの距離が近くなるんだ。

 

 

 しかし――――この時、俺はまだ何も気づいていなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 それから間もなくして、俺のスクールアイドル人生初のPV撮影が始まった。そうは言っても仮登録でかつ元々期限付きのスクールアイドルなため、動画は派手な演出を入れない簡単なものとなる。この1週間で練習してきたダンスや歌をただ垂れ流すだけ。でもただの垂れ流しで反響があれば、その人材は正しく逸材というわけだ。

 

 

 俺は今までのレッスンで培ってきたことをPV撮影でフルに発揮し、無事に撮影を終えた。とりあえず仮のスクールアイドルとしての活動は一旦ここまで。あとはPVがどれだけの反響を呼ぶかによってこの先が決まる。お金はもちろん欲しいけど、それよりも一度だけでいいから舞台に立ちたいというのが俺の願いだ。

 

 

 そして反響のほどは――――――――俺の想像を遥かに超えていた。

 

 

 俺のPV動画はネットやSNSを通じて一気に拡散され、動画の再生数およびコメント数が初日から並大抵のスクールアイドルとは比較にならないぐらい伸びたのだ。これは秋葉や事務局側も想定外だったみたいで、話によれば俺に会いたいからと女性ファンからの問い合わせまで来ているとのこと。流石の俺も少し震えちまったよ。

 

 

 さらにそれは事務局だけにはとどまらず――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん、はいこれ」

「な、なんだこの手紙の量は!?免許更新の催促状じゃねぇんだから……」

「何言ってるの……これ全部ファンレターだよ、お兄ちゃんへの」

「ホントに!?いやぁ~、俺も有名になったもんだ!!」

 

 

 それから数日間、自宅のポストがパンパンにならない日はなかった。ファンレターには応援メッセージやPV動画の感想、中には『使ってください!!』という手紙にタオルやハンカチまで付けてくれる人までいて感謝をしようにもしきれない。これはあのA-RISEの気持ちがよく分かるな。有名になるって大変だけど、それだけ嬉しいこともあるんだ。

 

 

「楽しそうだね、お兄ちゃん」

「そりゃあこれだけ応援や感想を貰えば嬉しくないわけないだろ」

「そう……」

「お前、まさか俺が女の子からファンレターを貰ってるから……」

「それもある……」

 

 

 珍しく楓が真面目な顔で俺と向き合う。声のトーンもいつもより低めで、これは明らかにお怒りのご様子。いや、怒るというよりかは何かに呆れているみたいだ。やっぱり俺がこんなことで舞い上がっているからか?

 

 

「お兄ちゃんさぁ、私とμ'sを競わせた時に言ったよね、『みんなに追いついてみせろ』って」

「それがどうした?」

 

 

 

 

「前を歩き過ぎだよ、お兄ちゃんは……」

 

 

 

 

「なに……?」

 

 

 それだけ言い残すと、楓はリビングから立ち去ってしまった。

 前を歩く?俺が?あの"惨事"以降、俺はμ'sを見守る立場ではなく共に歩んでいくことに決めた。彼女たちがまた立ち止まってしまうことがあれば、手を引いて引っ張ってやるんだ。そのために彼女たちの前にいなきゃいけないのは当然のことだ。今更なことをなぜアイツは……?

 

 

 この時も、俺はまだ気付かなかった。心の奥に置きっぱなしにしていた願いがようやく叶うという嬉しさがあり、そしてそんな自分に酔いしれいていたのかもしれない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よっ、みんな準備できてる……あれ?」

 

 

 翌日の放課後、俺は掃除当番だったので遅れて部室へ入った。もう着替え終わって屋上へ行く流れだと思っていたのだが、何やらそんな空気ではなさそうだ。そこで1人1人の顔を見てみると、誰もが寂しそうな表情を浮かべ、穂乃果や凛に至っては目がウルウルとしていて泣き出しそうであった。一体何があった……?

 

 

「零君……」

「穂乃果……?」

 

 

 μ's全員が何か言いたそうにしているのは分かったが、その中の代表として穂乃果が口を開く。いつもの明るい口調とは全く違い、声が震えている。恐らく何か後ろめたい気持ちがあって、自分の口からは言いたくないことなのだろう。どこか後悔を背負っているような気もする。それはここにいる全員から感じられた。

 

 

「零君……スクールアイドル続けるの?」

「この前撮ったPVの反響がいいからな、あと少しぐらいは続けるかもしれない」

「そうだよね……零君、すごくカッコよかったもん。続ければ絶対人気が出るよ」

「あ、あぁ……ありがとな」

 

 

 多分だけど、俺は穂乃果たちが望んでいる答えとは別の答えを選んでしまったのだろう。今までの重い空気にさらに重圧が掛かる。息をするのも一苦労しそうなくらい、部室の雰囲気は張り詰めていた。

 

 

 

 

「そんなのイヤだにゃーーーーー!!!!」

「うおっ!?凛!?」

 

 

 

 

 遂に凛は涙腺が崩壊し、俺の胸に飛び込んで来た。彼女は大きな声を上げながら、大粒の涙を流し俺の身体をギュッと抱きしめる。俺は状況の理解ができず一瞬頭が真っ白になるが、改めて穂乃果たちを見て我に返った。

 

 穂乃果もことりも泣いている……?他のみんなもさっきより辛そうな顔をして――――あれ?どうして俺は今こんな状況に陥っている……?俺はスクールアイドルとして仮でもいいからデビューして、一度でいいから舞台に立ってみんなと同じ世界を見たかっただけだ。あわよくばみんなと一緒に踊ったり、歌ったり――――なのに、みんなは泣いている……どうしてこうなったんだ!?

 

 

「零くん、最近いつも早く帰って……全然一緒にいてくれないにゃ!!」

「い、いや……それは」

「さっきみんなと話してたんだ。零くんがこのままスクールアイドルを続けることになったら、凛たちはどうなるのかなって……」

「凛……」

 

 

 確かに最近はレッスンの都合でみんなと一緒には帰れなくなった。学年と教室が同じである穂乃果たちはまだしも、学年が違う凛たち2年生、雪穂たち1年生、そもそも学校自体が違う絵里たち大学生、そのみんなと一緒にいられる時間が急激に減ったことは事実だ。

 

 

 次に絵里が険しい表情のまま口を開いた。

 

 

「零がスクールアイドルとして活躍する姿を見るのは、私たちだって嬉しいわ。でも、そうなったらあなたは私たちから離れていってしまうと思ったの。今でさえこれだけ私たちと一緒にいる時間が減っているんだもの、これから本格的になるともう会えないかもってね……」

 

 

 絵里がここまで言葉を震えさせているのは久しぶりかもしれない。最後にこうなったのはいつだったか……卒業式、いやもっと悲しそうにしていたのは"あの時"だ。俺と元μ'sメンバー9人が争っていたあの時。その時ほど彼女たちの言葉から悲愴を感じたことはない。

 

 そしてまさに今、あの時と全く同じ悲愴を感じている……

 

 

 次に亜里沙が口を開く。もう彼女の目には涙が溜まりに溜まっていた。

 

 

「私、零くんと一緒にスクールアイドルをしたいです!!でも離れちゃうのはイヤ!!我が儘かもしれませんけどイヤなんです!!ずっと私たちの隣にいて欲しいです!!」

 

 

 続けて口を開いたは海未。彼女のこんな悲痛な目も、あの時以来かもしれない。

 

 

「あなたにスクールアイドルを勧めたのは私たちです。一度勧めておいて辞めろだなんて、おこがましいにもほどがあることも分かっています……」

 

 

 なるほど、だから言いづらそうにしていたのか……自分たちから勧めておきながら、それを辞めせようとする。そのどうしようもない葛藤とみんなは今までずっと戦ってきたんだな。

 

 

「穂乃果たちはずっと零君の側にいたい!!そして零君も穂乃果たちの側にいて欲しい!!亜里沙ちゃんの言う通り我が儘だよ!!我が儘だけど、この気持ちだけは絶対に抑えられない!!だから零君、遠くに行かないで!!ずっとずっと、一緒にいてよ!!」

 

「穂乃果……」

 

 

 また見てしまった――――穂乃果の涙を、そしてみんなの涙を。こんな悲しい涙を決して流させないよう心に誓ったはずなのに、俺はまた……

 そしてここで楓の言葉の意味がようやく理解できた。

 

 

『前を歩き過ぎだよ、お兄ちゃんは……』

 

 

 俺は"未来"にあるみんなの笑顔しか見ていなかった。"未来"の彼女たちが見せる最高の笑顔を想像しながら、自分の願いを叶えようとしていたんだ。それが"今"の彼女たちの笑顔を壊していたとも知らずに……

 

 

「ゴメン穂乃果、ゴメンみんな。辛い思いをさせてしまって……俺、スクールアイドルを辞めるよ」

「え……?」

「初めは自分の願いを叶えるためだったんだ。このままだとずっと叶わないであっただろう願いを。でも今やっと気づいたよ。俺が一番見たかったもの、それは舞台の上から見える世界なんかじゃない。本当に見たいのは、みんなの笑顔なんだって」

 

 

 そう、これが俺の見たかった世界。舞台に立てばみんなと同じ世界を共有できるようにはなるだろう。だけど根底はそこじゃない。俺の本当の願いは、みんなの笑顔を見ることなんだ。そしてその笑顔を決して消さないこと。あの時の惨事もみんなの笑顔が見たい、ただそれ一心で突っ走っていた。未来の想像に取り付かれて、今の彼女たちを見失っていたよ。

 

 

「零君……零くーーーーん!!」

「ちょ、ちょっと穂乃果苦しいって!!」

「凛も嬉しいにゃーーーー!!」

「凛まで!?」

 

 

 穂乃果や凛の涙は明るい涙に変わっていた。それはみんなも同じ。張り詰めていた雰囲気も緩和され、また暖かい空気が戻ってきた。穂乃果と凛に続いてことりや亜里沙にまで抱きつかれたけど、むしろ久しぶりに彼女たちの温もりを感じることができて懐かしい。いつもは止めに入る海未や真姫たちも『やれやれ』といった様子で、そして安堵の気持ちで俺たちを眺めていた。

 

 

 以前みんなには俺の我が儘を聞いてもらった。じゃあ今度は俺がみんなの我が儘を聞く番だ。体裁や上っ面の事情なんてどうでもいいし、綺麗事でもない。ただ誰よりも俺はμ'sのみんなと一緒にいたい。その笑顔を見ていたいという、俺の我が儘でもある。でも我が儘で何が悪い。俺はみんなの笑顔さえ見られれば、それだけで十分なんだ。そしてそんな彼女たちと一緒にいれば、自分の願いを叶える機会はまた訪れるだろう。

 

 

 今はその時が来るまで、みんなと一緒に――――――

 

 




 本当はこの話、プロットの段階ではもっと長かったのですが1話に収めなければならないという関係上、地の文だけで済ませてしまうシーンがいくつもあり、結果荒削りなところがいくつかあったことをお詫びします。
やっぱりこのような話は2、3話続けてやるべきでしたかね?かなり駆け足だったので。


 大体を1話に収める関係上、リクエストの内容によっては超短編小説として投稿するので活動報告にも目を光らせておいてください(笑)


 こういった真面目な文章を書いていると、『非日常』を思い出すので懐かしいですね。現に今でも『非日常』に感想を頂くこともあるので、まだ読んでいない人は是非読んでみてください!


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


 今回は崩葉さんからのリクエストを採用させて頂きました!!ありがとうございます!!

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