東方穿孔羊   作:ほりごたつ

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第六話 別件依頼

 美しく青い川と北方に白い雪の被る山脈を望む地、その地の何処かに建つ血の屋敷。

 その屋敷の昼間の間を全て預かり掃除から警護までをこなす異国の者が、今日も忙しなく屋敷の中を動いている。

 派手な調度品を丁寧に磨き上げたり、佇めば顔が写り込むほどに磨かれた床を更に輝かせたりと、雇われの使用人らしく毎日を忙しく過ごしているようだ。

 唯のモップや掃除用具などでよくやると、本来ならばいなくなったはずの黒い悪魔が驚くほどの手入れのされようである。

 

「これほど手入れが行き届いているのなら、御身体に障る事もないのでは?」

 

 ピカピカに磨き上げられた床や窓、同じく輝く調度品を見ながら、黒い悪魔が横に立っている二人に向かって何かの確認をしていた。

 促されて回りを見ている二人組の男女。

 寄り添い立つ姿からは、長く連れ添っているという雰囲気が見て取れる。

 薄く紫がかったピンクのローブを着込んでいる女性と、濃いグレーのローブを身に纏う男。

 華奢な女性の体に対して少しばかり大きめな、悪く言えばだぶついて見えるような、ローブらしき何かの裾を見ながら、埃一つないことを確認させていた黒羊。

 主が消えた屋敷のはずなのにこれほどとは、と驚いてみせるのは、黒羊の悪魔アイギスよりも幾分背の低い男の方。

 男も女もどちらも見た目は人間だが、その身形や体に宿し巡らせているモノが唯の人間ではないと物語っていた。

 この二人が身に宿すものは魔力。

 本来人間が持ち得る事など叶わないはずの、膨大な魔力を身に宿した種族魔法使いのご夫婦が、旧知であるアイギスに屋敷までの護衛を依頼をして今晩三人で紅魔館を訪れていた。

 

「優秀な使用人がいるのです、警護役も兼ねたその者が手入れもしているのです」

「スカーレット卿が亡くなられた後、随分荒れたと聞いていましたが…その話が嘘のようです」

 

 床や灯りに向かい掌をかざす黒いスーツの袖、その腕にに促されて回りを見渡して、昔と今を悲痛な面持ちで比べている種族魔法使いの男性、ノーレッジ氏。

 悲痛な表情でいる旦那様を見て、そう言った物言いは非礼が過ぎます、と窘めているのは紫がかった髪を紅魔館の灯りの中で揺らす種族魔法使いの女性、ノーレッジ婦人。

 共にレミリアのお披露目会で姿を見せて跡取り娘の誕生を祝福してくれた、先代であるスカーレット卿の古い友人である。

 アイギスからすれば上客のご友人という顔見知り程度の間柄ではあったが、夫婦から見ればそうでもないらしく、特に奥方様から友人とは違った目線で見られていた。

 

「確認は取れたようですし、大丈夫だと思われるのでしたら早いほうが宜しいかと」

「そうですね、アイギパーン様がご健在で助かりましたわ。護衛などと恐れ多い事をお願いしてしまって…」

 

 ただの羊の悪魔であるアイギスを別の名で呼ぶ婦人。

 こう言われる度に訂正し続けているアイギスだったが、何度訂正しても直されず、ましてや今は雇い主として見ているため、訂正するのも失礼だと感じて何も言わずにいるようだ。

 彼女達種族魔法使いの女性陣。

 俗に言う魔女と呼ばれる者達が昔から好んで信仰し崇拝するのが、先ほど呼んだアイギパーンという悪魔。

 正しく言うならば、アイギス達バフォメットと呼ばれる悪魔の原型は古代ギリシャの自然神であり、その名がアイギパーンなのである。

 この神の名がアイギスの名の大元のようだ。

 勘違いから生まれた名無しの、唯の羊の悪魔が呼び名もないまま過ごしていた過去、神の名をもじりアイギスと悪魔崇拝を始めた者達がいたのが名の始まりのようだ。 

 

「後はご夫妻次第。体の弱い御息女様の為にも、誠意ある姿勢で交渉事に望まれるのが宜しいかと」

 

 本当にありがとうございましたと頭を垂れるご夫婦。

 夫婦に対していつもの姿勢、執事のような仕草で頭を垂れてまたどうぞと、完遂したそばから次回の利用を願うアイギス。

 赤いお屋敷の緩いアールのついた階段を並んで上っていく夫婦の足音を、大きな巻角から感じる振動と見えにくい耳で感じ取っていた。

 

「先程のは…御嬢様のお披露目会にいらしたご夫婦でしょうか、随分とやつれているように見えましたが」

「えぇ、貴女様と同じくいらっしゃいましたよ」

 

 吸血鬼の長女がいるだろう謁見室へと上っていく夫婦を見送っている背中。

 アイギスのその背中へと声をかけたのは屋敷の奥に続く長い通路の方から現れた、新しく従者として引き込まれた紅美鈴。

 従者となっても東方の何処かの国、美鈴の生まれた地の衣服を身に纏ったままで紅魔館の中では随分と浮いて見えている。

 美しく赤いロングヘアーのお陰でどうにか赤い屋敷に似合うように釣り合っている、と美鈴本人は言うがアイギスから見ればそれでも浮いて見えていた。

 

「スカーレット卿の古いご友人です、本日はお二人からの依頼を受けて護衛として伺いました」

「護衛…少し前から盛んになってきた魔女狩り、ですか」

 

 亡くなられた先代の友人。

 その友人から、魔女狩りという蛮行から御息女を守れるような先を探して欲しいという、ノーレッジ夫妻からの此度の依頼、その隠蔽先としてアイギスが選んだのはかつて過ごした紅魔館であった。

 今言葉を交わしている美鈴を従者として引き入れた当主の器の大きさを思い出し、同時に良き友が出来ればと考えた事も思い出して、多少の年齢差はあるが親世代が友人同士であるのなら子世代でも良い関係になれるかもしれない。

 そういった思惑の下にこのお屋敷を御息女の秘匿場所として選んだようだ。

 

「ノーレッジ夫妻の住まう辺りにも手が回り始めたようで、御嬢様次第ですがこのお屋敷で匿う事になるかもしれませんね。その際にはどうぞよしなに願います、紅様」

 

 美鈴に向かい深々と頭を垂れる、同じく雇われの従者兼墓守。

 なるかもなどと可能性の一つとして話してはいるが、その態度は確定事項だと伝えているように見える。

 言われたお屋敷の従者も、そうなるとわかっているような表情で言葉を聞いていた。

 自身が引き入れられた事から鑑みて、小さな主の懐の深さを理解しているらしい。

 

「御嬢様が許可されるならその時は快く…そのお話合い、アイギス様は参加されなくても宜しいので?」

「私にはそう言った役割はありませんし、余計な口出しは致しません」

 

 参加しないのかと問われ、下げていた頭を上げて営業スマイルで参加しないと言い切るアイギス。

 態度は商売人らしく人受けの良いやわらかな物であるが、言葉だけ聞けば突き放すような冷たさが感じられる。

 

「余計、ですか…御嬢様方も最近アイギス様が構ってくれないとご機嫌斜めですよ、同席された方が話が早いのでは?」

「宜しいのです、わたしがいない事にも慣れていただかないと先々困ります」

 

 会いたくないとは言わない、けれど会えばまた甘えを見せてしまうかもしれない。

 レミリアが単身で畏怖となるその時まで、という依頼だったはずが、いつの間にか御嬢様方と屋敷を守るという形が当たり前になり、それを良しとしていたアイギス。

 個人として考えるならば悪くない過ごし方ではあったが、商売人として、悪魔として契約以上の事をしてしまったような自分を少し恥じていた。

 姉妹や美鈴からすれば然程差の感じられない感覚だろうが、純粋な悪魔であるアイギスとしては一度甘えを見せた相手の忘れ形見に対して、再度甘えを見せまた約束や契約を見逃す事になるのが酷く嫌だった。

 

「側にいないというだけで消えるわけではありませんし、またご贔屓として頂きますよ」

 

 そうはいっても吸血鬼姉妹の事をビジネスパートナー以上に見ているという自覚はある、だからこそ余計に距離を取っているように思えた。

 二百年以上前の事を未だ引きずる齢数千年の古い時代の悪魔、一度体感した事を長く覚え忘れられずにいるとわかっているから、自衛の為に距離をとっているのかもしれない。

 

「なるほど、差し出がましい事を言ってしまいました…話しついでに、一つお願いがあるんですが」

「お気遣い感謝致します。して、お願いとは?」

 

「紅様というのはどうにもむず痒くて、せめて美鈴と…」

「お断り致します、場合によっては貴方様から仕事を得る事にもなりかねませんし、その際に言い直すのも手間です」

 

 他者には聞こえない声で何かを呟く使用人。

 アイギスにも聞こえないくらいの聞き取りにくい、何処か別の国の言葉を小さく述べて交渉に失敗したと苦笑する美鈴。

 そんな美鈴に対して、言われた事は一切気にせずに、商売人らしい文言を吐いて距離を置くような仕草を見せるアイギス。

 呼び名程度で何が変わるというものでもないが、物事に対する名称というのは大事だと感じていて、その辺りから気安い呼び方を嫌っているように見えた。

 美鈴に対してもそうであり、レミリアやフランドールに対しても必ず御嬢様と付けて距離を取り続けるアイギス。

 雇われではなくなった今、吸血鬼の姉妹や美鈴からすれば年の離れた友人という感覚で見られているようだが、あくまでも商売相手としか見ないように務めている棺桶職人。

 頑な過ぎて頑固だと思われそうだが、スカーレット卿を殺めた時の『おとう様をドコへやったの』と言った時のフランドールの顔や声がいつまでたっても忘れられず、近くにる事を拒んでいた。

 レミリアが言った、アイギスとフランドールが怪我をしながらも手を繋でいる未来。その怪我が、アイギスがつけた傷かもしれない、そう考えることもあり、手の掛からなくなった今は距離を取って離れるように心がけていた。

 

~少女帰宅中~

 

 紅魔館で立ち話をしてから数日。

 何処かの町の外れ、日中であれば人間でも訪れる事が出来る距離に、人間とは違う種族が営む店がある。

 丁寧に削られて合わせ目のピタリと揃う、風の通るスキマもないような木材がふんだんに使われた、石造りの家や店舗ばかりのこの辺りでは珍しい木造で組まれた外観。

 暖炉用の煙突以外はほとんどが木造だが、外観のドコを見ても丁寧な仕事が成されており夏は湿気を吸って冬は石よりも冷えず、定期的なメンテナンスさえすれば快適に過ごせる造りの建物。

 正面で目立っている重たい一枚板の扉にはこの建物が何なのかわかるように、店舗の名前が彫られた板が掛けられている。

 両面にOPENとCLOSEDと書かれている開店と閉店をついでに告げるこの店の看板、店舗内の薄暗い灯りこそ灯っているが作業する音等は聞こえず、今の時間は看板のCLOSEDが物語る通り閉店しているようだ。

 店の中には、綺麗に繰り抜かれた狼の頭がカバー代わりにされたランタンを灯して、人間が過ごすにはだいぶ暗い店内でカウンターの奥で、足を組み椅子に腰掛け、鋏など仕事道具を磨いているこの店舗の女主人がいた。

 

「魔女狩りなど、飽きもせずよくやるものです」

 

 盾役という依頼をすませ店舗に戻り、一人窓から望む遠くの空を見つめている、この店の主人アイギス=シーカー。

 受けていた依頼を途中で投げ出したというわけではなく、レミリアからの仕事の他にもう一つ受けていた魔法使いの夫婦から受けた仕事の為に一旦自身の営む店へと戻り、立ち昇る黒煙を窓越しに眺めていた。

 少し大きめに作られた窓から見える空、午後の青空の中をモクモクと立ち上っている黒い煙を眺めては、誰もいない店舗の中で一人言を呟いている。

 上っている煙は一番近い街の中心部辺りから発生しているようで、今日は午前中と今の二回ほど煙が立ち上っているように見られた。

 一度目は野太い男の断末魔と共に煙が立ち上り、二回目の今は少し前には耳に痛い女の悲鳴が町外れにあるアイギスの店まで聞こえ、焼け焦げていく肉の匂いまでもがかすかに鼻に届いていた。

 

「迎えに出ればよかったのでしょうか? ですがそれでは契約外となる、我ながら悩ましいですね」

 

 窓から見える黒い煙に語りかけているアイギス、彼女が今考えているのは先日紅魔館を訪れた魔法使い達の事。

 レミリアと夫妻の交渉は上手く纏まり、魔法使いの家族全員が紅魔館で匿われる事になっていた、なっていたはずであった。

 本来であればアイギスの店で家族と落ち合い、そのまま赤いお屋敷に向って、今頃は家族三人お世話になっているはずだったのだが、アイギスの店で会うと約束した期日より二日が過ぎても未だ姿を見せていないようだ。

 

「こうも悩むようになったのは、妹君にいらぬ世話などしたせいなのか…それは兎も角として、ご来店のようですね」

 

 天へと登っていき遠くの空で消えていく、誰かを生きたまま焼いた黒い煙。

 その軌跡と匂いを眼と鼻で感じながら別のモノにも気が付いたアイギス、自身の店舗に向かい息を荒らげて走ってくる者がいる、大勢に追われ追い立てられている、知る魔力を持つ者が向かってくると気が付いた。

 気がついてから時を待たずにドンドンと鳴る重たい扉、力ない腕で店舗の扉を叩く音がして、その手や体がある辺りには最近感じた魔力に似た力が感じられた。

 

「開けて!お願い! お願いします!」

 

 仕事の最中以外での荒事には関わらない。

 多少残酷だと言われたしても取り合わないアイギスだったが、今は依頼として受けて人待ちをしている最中。

 待人達の持つ魔力とはほんの少し違うように感じられるが、姿を見た事がない御息女もいたはずだと、悲鳴に近い声を上げる者を迎えるために扉を開いた。

 ギィっと重たい音を立てて扉を開くと、アイギスの胸に勢い良く飛び込んでくる華奢な少女。

 アイギパーンと呼んできた婦人に似た見た目に、同じく似た召し物を纏う少女が焦燥した顔つきで飛び込んでくる。

 焦りしか見えない少女の背後には店舗を取り囲む程の数の人間達、清められた白のローブを身に纏い大きな十字架を胸から下げている、何処かの大きな教会に属するだろう聖職者の集団。

 頭に大きな巻角を生やし赤黒い瞳と褐色の肌を持つアイギスに対して、悪魔だとか異端者だとか色々と言っては騒がしくなり始めた。

 

「営業妨害されては困ります、騒ぐのであれば他所で」

 

 一言だけ集団に言い切って乱暴に扉を締めるアイギス。

 ギィっと音を立てて扉が閉まると、更に外が煩くなり始めてしまった。

 怯えを見せる少女を椅子に座らせて落ち着かせるように小さく指を鳴らすアイギス。

 指から生じたパチンという音が店舗の中で、響くと外の喧騒が引いて途端に外が静かになってしまった。

 突如訪れた静寂に驚き、外の様子を伺おうとする少女に対して、何かをしたはずのアイギスは何事もなかったような顔でいる。

 驚いたままの少女と対面するように、椅子を並べ腰掛けた。

 

「外が気になりますか? ノーレッジの御息女」

 

 扉の外を気にして落ち着かない、対面している少女に向かいはっきりと言い切るアイギス。

 はっきりとした名前ではないが、話していない相手に出生がバレているとわかり少しだけ驚き、直ぐに畏敬の念を瞳に称える少女。

 母に似た色合いのゆったりとしたローブと、同じ色合いの少し大きな帽子を被り、下を見る度に帽子の月が床に向かって沈むように見える魔法使いの少女。

 

「いきなり訪れてしまいまして…ありがとうございました、アイギパーン様」

「大した事はまだ何も、それと、呼ぶのであればアイギスとお呼びください…ご両親はご一緒ではないのですか?」

 

 母のように別の名で呼ばれるが、アイギスはそれを訂正し話を別の方向へと運び始めた。

 本来であればこの少女と両親の三人が伴って訪れるはずが、強い怯えと焦燥感を漂わせる少女しか店に訪れなかった。

 聞かずともどうなっているのか、昨今の時勢から理解できるがただの思い違いという事もある、出来ればそうであって欲しいと感じて覚える少女に問いかけていた。

 

「吸血鬼のお屋敷から戻ってすぐ…」

 

 途中で言葉を失う魔の少女。

 そこから先は言わずともしっかりと伝わったようだ、アイギスの表情から営業用の薄笑みが消えて冷ややかな顔が浮かんだ。

 座ったままではあるが組んでいた足を揃え直して、少女に向かい丁寧な礼をしてみせるこの店舗の主。

 

「ご冥福をお祈り致します、もし亡骸が残っているのなら昔のよしみで丁重に弔わせて頂きますが…まずは貴女様をお送り致しましょう、少々煩くなりそうですがそこはご勘弁を」

 

 言葉を発しながら外へと続く正面扉と裏口を気にする仕草。

 営業用ではない冷酷さが宿る瞳で正面を、角と髪で隠れた耳で裏手を感知し指を鳴らすこの場での絶対者。

 裏口の方に向けて音が鳴り店舗の中で反響し、その音が消え入る前に動き出すアイギス。

 魔法使いの少女の手を取りカツカツと正面から打って出る。

 重たい扉を開く。

 何か書物のような物を開いて大声で戯言を話す年経た人間と、回りには枷のついた鎖や、何か洋なしのような形をしている物体を持った人間達。

 

「二度も同じ事を言わせないでほしいですね」

 

 感情の感じられない冷えた口調でアイギスがそう言い切った時には、書物毎二つに、縦に割れた人間が地に倒れていた。

 一番前にいた白い髭を生やした男と、その後ろの者達を断ち貫いたのはアイギスのスコップ。

 軽くスナップを利かせて放り、安々と数人を断ち切っていた。

 断たれた者達から数秒遅れて吹き出す血飛沫に驚く、残されてしまった者達。

 気が付かない内に死んでいたほうがきっと楽だった、血飛沫に顔を歪める者達を見て穏やかに微笑むアイギスを見て、助けを求めて来たはずの少女は安堵しながら畏怖もしていた。

 

 それから数分もかからずに再び静かになるアイギスの店舗前。

 ある者は下半身だけを穿たれて、何故半身がなくなったのか理解できずに死んでいき、ある者は首に足首や手首用の枷をはめられて周囲の木々へと鎖で釣り上げられていった。

 一番ひどかったのは洋なしのような物『苦悩の梨』と呼ばれる拷問器具を、使われるのなら使用感も気になるでしょうとアイギスにはめられていった者達だろうか。

 口や肛門、女性の審問官であれば膣へと挿入されてそのままキリキリと用途通りにネジを巻かれ、洋なしの果実部分が体内で開かれていく。

 たった一人の魔法使いの少女を追いかけていたはずの、運の悪かった異端審問官の一団。

 そのほとんど全てが、ギリギリで死ぬだろう範囲で放置されていた。

 

「露払いは済みましたし、お屋敷へと向かいましょうか」

 

 誰かの呻き声や血だまりの中に佇み、さぁと手を差し出すアイギス。

 流れ作業のように人を散らし血を飛ばしていながら、ほとんど汚れていない手が差し出される。

 少し戸惑いながらも差し出された手を取る魔法使いの少女、父や母から話を聞いていなければこの手を取ることは出来なかっただろう。

 依頼人の娘として見られている間は安心できるがその後は…?

 そんな事を考えながらも他に縋れる手もなく、選択肢のない病弱な少女は悪魔の手を取り、吸血鬼の住まうお屋敷へと歩み始めた。




拷問器具も色々とあって面白い調べ物となりました。
 

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