東方穿孔羊   作:ほりごたつ

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第四十五話 終わらない冬、続く宴

 降り止まない雪が空気も町並みも冷やしていく。

 地上世界であれば、シンシンと降り積もる雪の結晶が音を吸収して静かな風景となるところだが、ここは地底の旧地獄、冷えた空気に湯煙が目立つ地獄街道一丁目だ、雪程度で静まる事などそうはない。

 今日も今日とて賑やかな地底の町並み。

 整えられた街道には楽しげに肩を組んで歩く強面の鬼や、客引きの為にあざとい声をかけている遊郭勤めの女が並ぶ、一本入れば金を巻き上げる強者と、金品を巻き上げられへたり込む弱者も見られるが、それも常の事で誰一人として気にしていない。いや、気にかけている者はいる、正確にはそれを肴に酒を浴びる者がいる、といった感じになるが。

 その気にかけている者達がいるのは言わずもがなのいつもの場所、鬼の頭目がたまり場としている一つの酒場、こちらの方も、今日も今日とて騒がしくなっていた。

 だが、今日は奥座敷からではなく酒場の外。

 店舗入口のすぐ横から談笑が聞こえてきている。

 店内から引っ張り出された厚い一枚天板のテーブルには、背の高い大きな番傘が立てかけられ、その下から数人の女性の声が発せられていた。集まる者は全員が妖かし、金髪黒髪桃色頭と、白い景色の中でその一角だけがやけに華々しい。

 

「しっかし今日も冷えるねぇ、こう冷えちゃ酔えそうにないなぁ」

 

 口を開いたのは大江山の鬼。

 愛用の盃を高く傾け、額から生やす堅強な角を真上に向けて豪快に笑う女、少し話しては楽しそうな声を上げ、ハラハラと降る雪を盃に注がれた酒で受けている星熊勇儀。

 暦の上では春、月で言えば卯月も過ぎる頃合いだというのに、未だ降り止まぬ白い結晶を肴にして、今日は雪見酒と洒落こんでいる。 

 

「飲んでも飲まれない奴が何言ってんだ、好き好んで外で飲もうって言い出したのは勇儀だろうに」

 

 次いで語るは土蜘蛛。

 笑う度に揺れ動いている、天を衝く鬼の角を眺め話す。

 週に一度の頻度で行われていた化け物少女の宴会だったが、先月の終わりくらいからその周期が少し変わったらしく、今ではメンツを変えて5日に一辺は集まるようになっていた。

 その宴会に必ずいるのが先の鬼と、この黒谷ヤマメである。

 

「そう言うなよ、偶にゃ外もいいもんだろう?」

「そこに文句は言ってないよ、文句を言ったのは冷えるって方さ、卯月も終わるってのにいつまでも雪じゃ花見もできないってこった。なぁ、そう思うだろ?」

 

 地底の何処に桜があるのか、それは兎も角としてヤマメが言う通り今は春、それも4月の終わりを迎えていて、後数日もすれば5月に入るといった時期。

 だというのに未だ降り続く白い雪。

 さすがに長いと、勇儀の一言に乗ったヤマメが、6人掛けのテーブルに両肘をついて誰かに話を振る。並んで座る勇儀とヤマメが見つめる相手は、彼女達と同じく金の髪を揺らす女とその隣に座る黒髪の女、朗らかに笑むヤマメからなぁと振られると二人共何も言い返さず、目線だけを逸らしてみせた。

 

「なんだい、返答もなしか、つれない女共だねぇ」

 

 口を尖らせてケッと地底のアイドルがおどけてみせると、隣の鬼がカラカラと笑う、明るい笑い声が周囲に響くとつれないと評された女達が口を開いた。

 

「パルスィは兎も角、私は強引に振ってくるのはおやめ下さいと再三申し上げておりますので」

「アイギス一人で逃げないで、私達だけノリが悪いような言い方はやめて」

 

 先に反論し、隣のつれない仲間の一人、水橋パルスィに全てなすりつけようとしたアイギスだったが今回は失敗したらしい、口早に訂正されている。

 黒羊を挟んで座るもう一人、おなじくつれない桃色髪の少女はアイギスの物言いを聞いても薄く笑むだけで無言であった。

 数カ月前から続く宴会の席、その最初の頃から毎回ヤマメに話を振られ、その度に誰かや何かにそれをなすりつけるようになっていたが、今回のように大概は失敗している。

 そんな見慣れた失敗を見ていたヤマメが、笑顔のまま問掛けた。

 

「これって異変ってやつじゃないのかい?」

「私に聞かれてもお答えできかねますが?」

 

「仲良しのスキマからなにか聞いていないの?」

「今回は何も。宛自体はなくもないですが、こちらから伺って巻き込まれるのも困りますし、正確な所はわかりませんね」

 

 ヤマメには一言返すだけだが、隣に座るパルスィにはちょっとだけ話すアイギス。

 毎度話を振ってくる友人は少し雑に、特に詮索せずに疑問だけを聞いてきたもう一人の友人には答えられる範囲で返していく。

 何故雪が続くのか?

 何故春が来ないのか?

 そこまでの理由はわからないが、白玉楼での会話や、博麗神社の階段で八雲紫と話した事から、これが異変だとすれば起こした相手はあの亡霊のお姫様だろうと当たりをつけていた。

 そういえば場合によっては自身が動くとも言っていた紫、暗躍してばかりのあの女が動くとはどういう場合なのだろうか?

 姿が脳裏に浮かんだ事で、そちらの事を考え始めるアイギスであったが‥‥振られる手が視界に入ると考えを止めた。 

 

「おいこら、帰ってこいって」

「何か?」

 

「いい女しかいない酒の席だってのに呆けちゃダメさね、考えるならこっちの事にしときなって、なぁ勇儀」

 

 自分から話を振ってきたくせに考えるなら目の前の事にしろと、都合のいい事を言ってのける地底のアイドル、僅かに眉根を寄せたアイギスの事を笑うと次は別の相手、隣の鬼に話の筋を放り投げた‥‥けれど、勇儀はそうだねと薄く頷いて酒を煽るのみ、話が膨らむ前に消えそうでそれは面白くないヤマメが、今度は投げた相手をだしに使う。

 

「そういやアイギスちゃん、今更だけどさ、なんで勇儀だけ星熊様なのさ? 私やパルスィは呼び捨てにするくせに、勇儀だけ畏まって話すのはなんでだい?」

 

 ヤマメが聞くとそういえば、と勇儀も身を乗り出す。

 先ほどの思考時から少し傾いたままのアイギスがそのまま考え始めるが、隣のパルスィが傾いた角を押し返して頭を真っ直ぐに戻した、傾いで言い訳を考えていないで早く話せという事らしい。

 ちなみに特に理由はない。

 ヤマメはそう呼んでもいいくらいに気に入った喧嘩の相手。

 パルスィの方は他者の心を弄び堕として嗤い、そこから生じる嫉妬を糧とする姿が気に入ったから名で呼ぶようになっただけである、この流れからすれば良き喧嘩相手である勇儀も名で呼ぶくらいの仲ではあるが‥‥

 

「町を仕切る御方ですので、一介の住人としてそう呼んで当然では?」

 

 という事らしい。

 儲けの事は考えていないがアイギスもこの地底で屋号を上げた商人、言うなれば勇儀の仕切りに身を任せる側の者である、交友関係や周囲からの見られ方は置いておくとして。

 そういった商人の立場から見れば、形だけでも旧地獄の繁華街を取り仕切る勇儀は敬い、それなりに敬意を表すべき相手だと考えているようだ。

 

「あたしゃなんでも構わんよ、呼ばれ方で変わるわけでもなし、呼びたいように呼んだらいいのさ」

 

 言い切ると盃を煽る鬼。

 並々と注がれ揺蕩う酒を数度喉を鳴らすだけで空けた、一升入る鬼の逸品星熊盃を傾けてなんでもいいと快活に破顔した。

 

「鬼が噓を言うなど、なんの冗談ですか?」

 

 今の今まで黙っていた桃色頭が静かに語る。

 左の目を瞑り、残る二つの眼で勇儀の顔を眺めている少女、普段は住まう屋敷から出てくる事がない覚妖怪が鬼の顔を見てニヤリと嗤う。

 

「あぁ? 聞き捨てならないなぁさとりよぉ。あたしには嘘偽りなんてないよ?」

「では言い換えますね、一人だけ仲間外れなようで嫌だ‥‥という感じですかね? 私達も名前で呼ばれますし、勇儀さん、いえ、星熊様だけ違うのが気に入らないといったところでしょうか」

 

 存在感が強くなるとクスクス小声を漏らす。

 読んだ心を言い切ると勇儀を見つめるサードアイが横に動く。

 目線の高さは変わらずにギョロリと真横に瞳が動くとアイギスと目が合った、視線を外した辺りでは少し不機嫌になっている怪力乱神がいるというのに結構な余裕が見られる。

 というのも以前の争いで倒れ目覚めた後、悪い意味でも目覚めたらしい。

 管理を任された地が溢れでた血に濡れ、燃え上がった事から心を痛めていたが、その後の閻魔のお説教から悪い意味で開き直り、誰が相手でも心を読んで突くような事が増えていた。

 そうした事で忌み嫌われて地上を追われたというのに、それが嫌で地底へ逃げたというのに‥‥ソレを忘れたかのように昔の姿を取り戻した地霊殿の主。

 荒れた旧地獄が復興したのと同じく今の古明地さとりも立ち直り、いや、以前にも増して相手の心を弄ぶくらいには、気持ち良く吹っ切れていた。

 

「おぉ、ズケズケと言い切ったな」

「勇儀相手に強く出るなんて、豪胆で妬ましいわ」

――お姉ちゃんがやる気だ、珍しい――

 

 金髪二人と誰かがそれぞれ嗤う。

 テーブルに頬杖ついてさとりを褒めるヤマメ、アイギス越しにサードアイを見つめ妬むパルスィ、そして酒の注がれたグラスを傾けているかもしれない誰かの声が聞こえた、気がした。

 旧地獄が炎上した日もまるで他人事のように話していた者達が、今回も他人事の様相でさとりの言い草をらしく評した。

 

「さとり様もこいし様も、姓では紛らわしいのでそう呼んでいるだけですが‥‥」

「そこは黙っとけって、酒の肴になりそうなんだからさ」

――私はこいしちゃんでもいいよ?――

 

 さとりに見られ少し考えていたアイギスが理由を話すが、黙っとけとヤマメに口を挟まれる。

 ヤマメが手と口でそう促すと、それを聞いた誰かが少し長くて余るフリル付きの袖を揺らし、アイギスの後ろに回って両手で口を優しく塞いだ、わからないまま余計な事を言えなくなった黒羊が目だけ動かし鬼を見る。

 見られた鬼がガタッと立ち上がりさとりを見下ろした、そのままの形でニィっと嗤い右腕を突き出してクイッと手招きをしてみせる。

 煽られたさとりが懐から数枚のカードを取り出すと、勇儀が無言で頭を掻いて頷いた。

 拳を振るい暴れる事を好む鬼だが、名の通り遊戯も好むらしい。 

 

「互いに五枚で如何かでしょうか?」

「おいおい、わかってるくせに無理を言うな、まだ三枚しかないよ」

 

 弾幕ごっこに乗ってきた勇儀にさとりからの提案がされるが、これも挑発の一つだったようだ。

 吹っ切れたとはいっても好戦的とは言えないさとりだったが、地上で流行り始めた華麗な遊びはそれなりに嗜んでいるらしく、それ故勇儀相手でも強気に出る事が出来ていた。

 閻魔経由で地底でも広めろと話されているこの地の管理者、繁華街を収める勇儀相手に仕掛け私が勝つ姿を見せれば他の者達も強い興味を示すかも、という算段もあるようだ。

 

「おぉっと、勇儀ちょっと待った」

「なにさヤマメ? って、そうだったね」

 

 立ち上がった勇儀を呼び止めヤマメが酒瓶をフリフリ見せる。

 彼女が相手を見極める為によくやる己だけのルール、盃の酒を零さずに争うというのはこの遊びでも見られる。破滅的な金剛力と言えるその身体能力を制限するには、結構いいらしい。 

 表面張力でどうにか溢れない、それくらいまで注がれた酒をチビっと、少しだけ舐めて水面が揺れるくらいまで減らした勇儀が先に争いの場へ向かう、動いた怪力乱神を追うようにさとりも空へと飛翔した。

 

――お姉ちゃん頑張れ~!――  

「いい肴が出来たねぇ、確かに、偶にゃ外もいいもんだ」

「注目の的ね、二人で視線を集めてくれて、妬ましいわ」

「ならば皆様方も混ざっては? 多人数戦もアリだと伺っておりますよ?」 

 

 雪華舞う空を見上げる四人、地獄の皆が見上げる先をこの四人も見上げ語る。

 鬼と覚の演し物仰ぎ見て、今日は乗り気じゃないだとか、今日も面倒だから嫌だとか、キャイキャイと楽しげなガールズトークが始まると、空の方で動きが見られた。

 まずは小手調べと勇儀が弾幕をばら撒く。

 空いた右腕を振るい、自身の妖気を周囲に広げそれを爆発させる、地獄の針山のような鋭い弾幕が全周囲にバラバラと広がると、少し後退しながらそれを躱すさとり。

 

「なんだか刺々しいねぇ、あれで結構気にしてたのかね?」

「だとしたら勇儀も可愛い所があったのね、意外性もあるなんて‥‥」

「妬ましいわ、でしょうか? そう言うパルスィも大差ないように見えますが」

 

「お、そうかそうか、パルスィはそうだったか」

「違うわ、注目を浴びて気持ちよさそうな姿が妬ましいだけよ、変な勘ぐりはしないで」

――こっちでも始まるの? これはどっちを見たらいいのかわかんないわ――

 

 華々しい弾幕が雪空を彩る中、酒場の店先も見目麗しい者達の騒ぎが始まりその場を彩り始めた。冬空を見上げながら姦しい酒場の入り口、誰が何処で何をしていてもこの地獄街道は喧しいらしい。

 

~少女達上機嫌~

 

 まだまだ続くから騒ぎ。

 地の底から見上げる者達は空を彩る華麗な弾幕と、それを放つ二人を眺め、やんややんやと花見酒。最初は静かに飲んでいたアイギスやパルスィも表情を柔らかく、最初から騒がしかったヤマメは相変わらず嗤っていて、隣の席には閉じたサードアイを空に向け、まるで見えているみたいに空を拝む者が、いつの間にか座っていた。

 

「そういやこいし、お前さんいつからいたのさ?」

「最初からいたよ?」

 

「酒もツマミもすぐなくなったのは‥‥」

「私の分がこなかったんだもん、しょうがないでしょ?」

 

「だからといって私のグラスを使わないで頂きたいですね、さとり様の物を使えば宜しいのでは?」

「一番多く入ってるのを取っただけよ?」

 

 ヤマメとパルスィ、それぞれから声をかけられどちらにも答え、グラスを飲み干して綺麗に空けると、それをアイギスに突っ返す古明地こいし。

 またこいつはと見ている三人を他所に、ケラケラと無邪気に笑い酒とアテを口に運ぶ、何も考えていなさそうな者。先程まではいたのかいなかったのか、よくわからなかった地霊殿のもう一人の主も、姉が鬼相手に善戦している姿を見て自身の姿をくっきりと現し、皆に混ざって酒と花火を楽しんでいるようだ。

 

「私よりあっちを見ようよ、お姉ちゃん頑張ってるよ?」

 

 視線になれていないのか、話題を変え、私の見ている先を見ろと、袖に隠れた人差し指がちょこんと差す。

 そこには不敵に笑う覚と高らかに嗤う鬼の姿があった。

 

 未だ続いている弾幕ごっこ。

 今は互いにスペルカードを一枚宣言し、勇儀のスペルをさとりがブレイクさせた瞬間である。

 先に放った勇儀のスペル、鬼符『怪力乱神』から放たれた∝型の弾幕を、さとりが想起『石窟の蜘蛛の巣』で相殺し絡め取った形だ。

 してやったという顔で勇儀を見返すさとりが小さな身体に似合う短めの腕を伸ばすと、少しだけ眉の位置を上げた勇儀が何かを言いながらカードを投げ渡した。

 

「気に入っていただけたなら見せた甲斐がありますね」

 

 カードを受け取ったさとりが口の端を上げ語る。

 一枚目は勇儀が認める土蜘蛛のスペルカードを模した物、互いに伝説として残り肩を並べる妖怪のスペルをさとりの持つ能力で具現化させたのが先ほどのスペルであった。

 

「こちらも気に入って頂けると嬉しいです」

 

 さとりが二枚目のカードを手にするが、そこには何も書かれていない。

 無地? と勇儀が目を細めるとすぐに見開かれた。

 鬼の瞳に映るのは炎。

 無地のカードを二本の指で挟み笑んでいるさとりの周囲に、轟々と燃え上がるスコップが何本も現れたのを見てこいつは厄介だと嗤う鬼。

 笑顔を確認するとさとりがわざとらしく指を鳴らす、それを合図にして、スコップが火の粉を撒き空気を焼き切るように回転し始めた。

 

「あれは私の?」

「まぁた面倒臭いのを出すなぁ、あんなんだから嫌われるってわかってるのかね」

「ヤマメ、それわかってて言ってる?」

 

 あ? と呆けるヤマメがクスクスと声を漏らすパルスィを見やるが、その横と目が合うと顔にやべえと書き席を立った、さとりが展開した物と同じような物をアイギスが周囲に現したからだ。

 瀟洒に笑みを浮かべ、面倒とはどういう事かと同じく席を立ちヤマメに詰め寄る黒羊。

 

「ちょっ! 待った! 今のはあれだ! 言葉の綾だっての!」

 

 両手と金のポニーテールをブンブンと揺らし、そうじゃないと全力で訂正するヤマメ。

 ズズイと伸びてきたアイギスの手を払い、強引に肩を組んで悪い意味じゃないと声を荒らげて苦笑する。

 

「では面倒以外の意味が? てっきり喧嘩を売って頂けたのかと思いましたが?」

 

 組まれた肩に回る手を取り、ほんの少しだけ力を込めて握る。

 嫌われるという方は大昔から忌み嫌われているため気にしてないようだが、闘争であれば誰が相手でも真っ直ぐに突っ込み、口論であれば小難しく言う事はあまりないと、自身では考えている我儘な悪魔。

 面倒と言われるのは予想外であるらしい。

 

「やりにくいってだけさ、アイギスちゃんはぶん投げる側だからわかんないだろ? ほら、勇儀だってやりにくそうだ」

 

 ヤマメが取られた手を上げて、喧嘩から空へとアイギスの思考を逸らす。

 見上げるとまさに丁度の場面。

 さとりが想起した勇儀のトラウマ、とまではいかないかもしれないが面倒な業を対戦者に向けて奔らせ始めたところだ、耳に響く高音を響かせ回るスコップが勇儀に向かい空を駆ける風景。

 空中を走る回転ノコギリを同じくスペルカード、枷符『咎人の外さぬ枷』で強引に弾いていく勇儀。ビリビリと青く奔る鬼の妖気と、猛る勢いが弱まらない炎の角が空中でぶつかり合い、一層派手な弾幕ごっことなっていく地底の空。

 その音だけが響いて、ヤマメの前に見えていたスコップは消えた。どうにか誤魔化したと確信したヤマメがアイギスをチラリと見る。覗き見るアイギスの頭は、下で騒がず上を見ろと騒ぐ妹妖怪に角を抑えられ、けたたましく争う二人を見上げる形となっていた。

 持ち上げられた視界に映る自身の攻め手を見て、端から見るとあぁなのか、確かにアレは面倒かもしれない‥‥が、だからこそ潰されにくい、我ながら良い手であると空の二人を見上げ、どこか満足気に頷いてた。

 

 


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