東方穿孔羊   作:ほりごたつ

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第三十六話 稼ぐ者達

 あの時こうしておけば良かった。

 そう考える事は誰にでもある。

 日常でも非日常でも色々と思うものだ。

 例えば、仲の良い誰かと喧嘩をしてあの時こう言っておけば良かったとか、出かける前にあの時確認しておけば忘れ物をすること等なかったのにとか。

 上記のような可愛い物事で思うこともあれば、もっと真剣味が感じられる場合にも考える事もあるだろう。仕事の最中にあの時ああしておけば今楽だったのにとか、あの時に殺しておけば今殺される事もなかったのにだとか。

 全てが後の祭りというやつだ、後々で後悔しても時間は既に流れる物で足掻いても戻らないのが当たり前、後悔して反省して後に活かす事しか出来ない。

 けれど、今屋敷の廊下を進むメイドには当てはまらなかった。

 

「妖精メイドが‥‥これでは掃除が大変だわ」

 

 廊下のあちこちで倒れている妖精メイド達を横目にして、すぐに場を整理する瀟洒な従者。

 特に動きを見せずに愛用の懐中時計を握っただけで、散らかったメイドを全て消してみせた。

 能力を行使しその間に処分した、わけではなく、ただ窓から投げ捨てただけだ。

 自然の化身なのだから放っておけば戻る事を彼女は知っていた。

 今のように彼女は後悔する前にその場で判断する時間を作れた。

 彼女だけが動ける彼女だけの時間、条件によっては動ける相手もいるが屋敷にいる限り敵対する事はないのだから、その者については割愛する。 

 

 取り敢えず、一回お休み状態に入ったメイド達をポイ捨てし、後は散らかすモノを片付ければおしまい。そういった合理的な考えを思い浮かべていると、片付けるべき者が現れる。

 

「掃除の邪魔をしに来たの?」

 

 言葉を発すると咲夜の雰囲気が変わる。

 番犬から狩猟犬へと変わるように、日常世界で話す声色から荒事に向けた冷たい空気を纏って、正面から現れた巫女、美鈴を下し屋敷の中へと踏み入った人間に向けて話し始めた。

 

「あんたがここの主人、じゃあなさそうね」

 

 門番とは話さなかった巫女が返答をする。

 妖怪相手ではなく同じ人間同士だから少しは会話する素振りが見られるようだ、だがその声は抑揚のない物で警戒の色は解かれていないように感じられた。

 

「御嬢様目当てのお客様、まずは私が歓迎して差し上げますわ」

「あんたに用事はないから通してほしいんだけど、言っても通してくれないわよね」

 

「えぇ、御嬢様は滅多に人と会われる事はないわ」

「軟禁でもされてるの? なんでもいいけどさっさとアレを止めて、暗くて迷惑なのよ」

 

「それは別の御嬢様、後半も無理な話ね、御嬢様方は暗い方が好きだもの」

「あっそう、じゃあここで暴れて出てきてもらうわ」

 

「好きにしたら、何をしようと先には行かせないから会えないと思うけど」

 

 時間稼ぎは得意なの、最後にそう言った咲夜が両手の指にナイフを挟む。

 一瞬で戦闘準備を済ませたメイド長に対して、同じく一瞬だけ目を細めた巫女が右手に破魔の札、左手に封魔の針を携えて対峙した。

 数秒にらみ合い互いに動き始める、先に攻めたのは咲夜。

 両手のナイフを投擲し、その刃を追うように一気に距離を詰めていく。

 移動しながら再度ナイフを構えると、投擲した刃物を避けた巫女に向かって刃を光らせた。  

 キラリと光る銀のナイフが奔るが、巫女が半歩下がりこれを避ける、まるでそこを狙われるのがわかっているような動きで避け、回避とともに針を放った。

 咲夜の攻撃に合わせて放たれた針、普通の人間であれば避ける事困難なタイミングであったが、針が当たる前に咲夜の姿は消えていた。

 

「消えた? って感じもしない? なにこれ?」

 

 姿を眩ませた咲夜を探し左右の窓や扉へと視線を流す巫女だったが、振り向かずに札を背後へと展開させ札の障壁を発生させた。

 壁が出来てすぐにカカカッと札に刺さる銀のナイフ。

 

「良い読みね」

「ただの勘よ」

 

 忽然と背後に現れた咲夜が弾幕を撃ちながら話しかける。

 それを回避し障壁を張る巫女も迎撃の弾幕を撃って返答していた。

 どちらも弾幕勝負用の物だが彼女達は人間、当たれば唯の怪我では済まないはずなのだが、どちらも冷静さを保ったまま行動していた。

 冷ややかな思考を働かせる内の見た目も冷ややかな方が、このままでは長引くだけだ、そう認識して左足のキャットガーターに挿していたカードを一枚提示した。

 

――幻在『クロックコープス』

 

 提示したカードはすぐにしまわれて代わりに大量のナイフが巫女の視界に映る、けれどこれだけなら大した事はない。

 巫女が反撃しようと少しだけ距離を詰めると咲夜の手元でナイフとは違う物が光っている事に気づいた、巫女が視認すると同時にカチリと音が鳴るその懐中時計。

 音と共に針が止まると、咲夜以外の全てが止まった。

 そのまま動きを止めた巫女を中心にして、咲夜がナイフの壁を作り上げる、ぐるりと取り囲むように展開させると再度カチリという音が鳴った。

 

 音と共に咲夜以外の時間が流れ始めると一気に動き始めるナイフの壁。

 巫女からすれば瞬きをする間に出された大量の弾幕である、が、それに焦ることなく巫女もカードを提示した。

 

――夢符『封魔陣』

 

 宣言と同時に巫女に近いナイフ弾から勢い良く弾かれていく。

 巫女から放たれた白い枠線が展開されたナイフの殆どを弾き飛ばして、そのまま領域を広げていくが、咲夜自身の体は弾かれる事なく結界とも言える白線枠の内にあった。

 放った巫女が少し目を細めるが、なんとなく目についた咲夜の懐中時計を視界の中心に捉えると、アレかと当たりをつけていた。

 巫女の視線を追った咲夜が声には出さずに鋭いと関心し、感付かれたのか確認するかのようにもう一枚スペルカードを見せつけた。

 

――メイド秘技『殺人ドール』

 

 メイド秘技って、と巫女が一瞬呆けた顔になるがそんな事は関係なしと秘技を放つメイド長がバラバラとナイフを広げていく。

 放射状に投げ出された青い柄のナイフとそれに線引するように走る紅い柄のナイフ、パターンもわかりやすく大した事はないと感じた巫女が接近しようとするが、突如現れた緑のナイフに行く手を阻まれる。ランダムに飛ばされる追加分が厄介、と、空飛ぶ巫女がこの異変で初めて敵を厄介者だと感じていた。

 人間と妖怪が争うために考えたスペルカードルール、だというのに初めて苦戦する相手が人間相手だというのが腑に落ちないようだが、少しだけ楽しげに見えなくもない顔をする博麗の巫女。 

 同じ年頃の人間、それも同姓の者で魔理沙以外にも遊べる相手がいたというのが嬉しいらしい、そんな嬉しさを面には出さず、冷めた面で咲夜へと針と札を飛ばしていった。

 

~人間遊技中~

 

 屋敷の廊下が人間同士の弾幕ごっこで騒がしい中、地下も地下で騒がしい。

 こちらは人間VS妖怪という正しく対立すべき物同士が争っているが、争う内容は華麗で楽しい弾幕ごっことはいかず、片方が一方的に撃たれ逃げ回っていた。

 開幕こそ多少の弾幕を撃ってみたり、得意そうな魔砲を放出してみたりと色々と試していたが、その全てを穿たれたり、軽々と弾かれたのを見てからは逃げの一手を選んでいた。

 逃げる人間の少女が全力で本棚の間を縫うように飛んで、命を刈り取る勢いで回り放られ続けるスコップから身を逃していく。

 逃げる側は必死な顔で本気で逃げまわっているのだが、投げる側は淑やかに笑んだまま。

 上手く躱して逃げる獲物だと、エモノを投げつけては偶にクスクスと笑っている。

 

「喧嘩を売ってきたというのに、いつまでも逃げてばかりですね。これでは埒が明きませんし、強引にでも明けてしまいましょうか」

 

 高速回転する三本目の角をテキトーに、何かに当たればいいくらい雑に周囲に奔らせて、空いた両手の指を好き放題に鳴らしていく。

 逃げ先を読んだり逃げた先を狙ってではなくランダムに、視界に入るところならどこでもいいといった風に、乱雑に辺りを穿っていくアイギス。何度となく鳴らして、本棚も床もボコボコと歪な形にしていくと、その最中にチラチラと周りを確認しながら飛んでいる魔理沙の姿を見つけた。

 見つけた獲物に向かって笑んだままの悪魔が指先を向ける、狙撃手が照準を合わせるようにわざとらしく片目を瞑り、パチンと伸ばした右手の指を鳴らそうとした瞬間に魔理沙が動く。

 ゴソゴソとエプロンから試験官を数本取り出すと、宙に向かって放り投げ八卦炉からの弾幕で撃ちぬいた、撃たれ弾かれた瞬間から小さな爆発を起こして少しの煙を辺りにバラ撒いていく。 

 爆煙が漂うとそれに紛れ、再度身を隠す人間少女。

 

「良く逃げる、けれど逃げ続けるだけでは意味がないのよね」

 

 魔理沙が逃げた先、並ぶ本棚に向けてパチュリーが呟くがその小さな独り言はアイギスの指の音にかき消された。

 音が響くと煙も本棚も消える、すると隠れていた魔理沙が再度逃げる。命を種銭とした鬼ごっこは始まってからこれが繰り返されていて、周囲で残る本棚は虫食い状態で機能を成していないように見えていた。能力で穿たれた部分はまだいい、後で戻してもらえるはずだ‥‥けれどスコップで破り散らされた書はどうにもならず、これ以上逃げられて蔵書が傷つくのならと、パチュリーが動いた。魔理沙と争った時のように5色のクリスタルを周囲に展開し召喚用の魔導書を手にすると、あちこちを飛んで逃げ回る魔理沙と、狙いを定め指を合わせるアイギスの間に割って入る。

 

「この辺りでお引きくださいませんか? また荒らされては困ります」

 

「お断り致します、止めるのならば力尽くでどうぞ。横槍でもなんでも歓迎致しますよ、ノーレッジ様」

「出来もしないとわかっていてそう仰るのは‥‥」

 

 視界に入り話す魔女も気にせず、指を鳴らしてその奥を穿つアイギス。

 邪魔しに来たパチュリーには残るスコップを投げつけ、奥で逃げる魔理沙には能力を行使する。割り入られて増えた所でさして障害にもならないと見せつけ、両者を同時に狩り立てていく。

 が、パチュリーに奔らせた回転する得物は弾かれて、代わりに5色の魔法弾と召喚された大図書館の司書役がアイギスへと迫る。

 放たれた魔法弾を穿ち掻き消すと、そのすぐ後ろから爪を突き立てようとする司書。

 

「その姿、少しだけ昔に戻りましたか?」

 

 突き出された小悪魔の爪を切られながらも握り折ったアイギスが、見た目の変化した司書に問いかける。問われたのは当然小悪魔だが、その姿は今までに見慣れていた姿ではなかった。

 頭と腰から生える翼などはそのままだが、胸にも尻にも凹凸もくびれもなかったちんちくりん体型だったはずの小悪魔が、胸も尻も膨らみ体つきが女性的なラインとなっていた。

 

「サイズだけどうにかって感じよ! あんたのお陰ってのが癪なんだけどさ!」

「私の? 仰る意味がわかりかねますね」

 

「あんたの角も混ざってんのよ、癪だけど調子いいわ!」

「角‥‥なるほど、媒介の話ですか」

 

 霧雨魔理沙に吹き飛ばされた後、本棚の中で埋まってやり過ごそうとしていた小悪魔が、悪魔らしい下卑た笑みで嗤い話す。

 先の吸血鬼異変後から妹様の遊び相手としても使われているようで、殺されかける度につまらないと言われていたパチュリーが、実験を兼ねて再召喚した事があった。

 花の妖怪に折られたアイギスの角を混ぜればどうなるか?

 レミリアの羽を主な媒介に、アイギスの角を追加の媒介に使ってみるとどうなるのか?

 思いついてすぐに行われた実験の結果が今の姿。

 身長こそアイギスよりも低めだが、以前よりも随分と頑丈で少女の魔砲や妹様の戯れではかき消えないくらいには強く、見目麗しい姿へと変じて姿を見せていた。

 

「そういう事よ、そういうわけでお礼してあげる!」

「どういうわけかわかりませんが、前よりは殺り甲斐がありそうですしいいでしょう。貴女で我慢するとします」

 

 小悪魔の成長した四肢、その内のすらりとした左手から伸ばされた鋭い爪を手の平で受け貫かれる。肩が外れる勢いで真っ直ぐ抜かれているが、何でも無いというようにそのまま握りこむ黒羊。

 乱暴に握りこんで爪も指もひしゃげさせると、掴んだままで地上に急降下していく。激しい激突音を響かせて小悪魔を床へと打ち付けるが、今の小悪魔はこれくらいでは止まらない。床に打たれた反動を利用し掴まれた腕を気にせずに体を捻り立ち上がると、残っている腕をアイギスの腹に向けて伸ばした。

 風切る爪を避けようと身を翻すアイギスだったが、貫かれている左手を強引に引かれて体を戻され、避けきれずに脇腹を抉られる。

 そのまま小悪魔の爪が振りぬかれると、床や本棚に血飛沫が舞った。

 

「うお、ビシャっていったけど大丈夫なのか?」

 

 赤黒く染まったその本棚の影から聞こえた声。

 小さな独り言を口にしながら棚の影から半分だけ顔を出す魔理沙、視界に映るのは悪魔同士で酷いじゃれ合いが行われる光景。

 嗤ったまま体を裂き貫く死なない二人。

 生々しい音と匂い、それらと共に肉々しい赤色を周囲に撒き散らせながら、罵り合いと小競り合いを続けていく。体の何処かが欠損しても止まらない二人を見て、うわぁ、と独り言をボヤくとその言葉に反応する者がいた。

 

「今のうちに逃げなさい、長くは保たないから」

 

 隠れる魔理沙の更に背後からの声。

 5色のクリスタルを霧散させ、意識されないように気配を殺したパチュリーが、自身の使役する悪魔と信仰する悪魔の争いを見ながら話す。

 

「ん? 負けたくせに逃がしてくれるのか?」

 

 つい先程争った相手から手助けされるとは思えない。

 敵だった者の言葉を素直に信用するほど愚かではない魔理沙が問い返すと、逃げされる理由も少し話された。

 

「逃さざるを得ないのよ、異変の全容を語ってくれる者がいないと私達が困る」

「負けた事を知られるのが何かの役に立つってのか」

 

「勝ち負けが重要ではないとだけ教えておくわ、いいから早く行きなさい」

「よくわからんが甘えさせてもらうぜ、後でまた来るから礼はその時にな」

 

 勢い良く出口へと飛び立った魔理沙の背に、来なくていい、そう言いかけたパチュリーだったがそれは伝えずに静かに見送った。

 加減した遊びとはいえ自身の魔法を初見で破った幻想郷の魔法使い。

 五行説を利用し二つの属性を混ぜた手法までを理解された相手なら、自身の研究の糧に出来るかもしれない、であれば今後も交流を持ってもいいかもしれない、そんな事を考えていた。

 地上へと消えた背を見送り魔女が視線を荒事へと戻す、見つめる先には‥‥

 

「殴り合いをしていたはずが、何が‥‥」

 

 映るのは悪魔二人が抱擁し合うような姿、クチュっと音が立つのは合わさっている唇だが、パチュリーが視線を戻すと同時に瞼を閉じていた両者が眼を開く。

 何故こうなるのかと魔女は訝しむが小悪魔からすればこれが自身の戦う術だ、誘惑し堕落させ自身の思うがままに操る淫魔らしい攻め手が彼女の持ち味である。

 土手っ腹に風穴やら肩にトンネルやら作る二人が淫猥な瞳で見つめ合う姿、顔だけを見れば色濃い景色に見えるが、腕は互いもげていたり捻れていたりと綺麗とは言い切れない‥‥そしてその風景も長くは続かない。

 奪われた側のアイギスから唇が離される、ツゥっと紅い糸を引いた口元には何かが見えた。

 歯で甘咬みされるソレは舌。

 少し先の尖った長めの舌には歯型あり、ソレから紅い血が垂れると、とてもマズイ物を吐くように紅い血糊とともに床に吐き捨てていた。

 

「キスだけで堕ちると思われるとは、舐められたものですね。逆に堕として差し上げても良いのですが‥‥目的は達しましたし、今はこれくらいでいいでしょう」

 

 小悪魔との小競り合いを楽しみ浮かべていた歪んだ笑みから、魔理沙を追う前の瀟洒な顔へと戻して終わりと告げるアイギス。

 自慢の舌を噛み切られ、口元を抑える小悪魔の腹を殴り抜いて、中身を雑に握ってそのまま投げ飛ばすと言葉通りに終わりを迎えた。握ったままのモノをポイと放り、カツカツと魔女に向かって歩み寄ると嫌な顔をしたパチュリーから話しかけられる。

 

「終わり‥‥? アイギス様にしては中途半端な?」

 

 らしくない。

 一言で感想を述べるならこうだろう、パチュリー以外でアイギスを知る者から見てもらしくない所で見逃して終わった争い事。

 自分から追い立てておきながら逃すのは何故か?

 普段からよくわからない方だがいつも以上によくわからないと、こちらも珍しく眉根を寄せるパチュリー。

 

「先には進ませず追い返すのが目的でしたので、少し脅してみました。ノーレッジ様まで釣れるとは、我ながら良い演技だったと思えますね」

 

 最初から殺すのが目的ではなく追い返すのが目的だった、その為に少し脅したというが二人の視界に収まるのは随分と荒れ果てた大図書館、少しでこれかと溜息をつく書庫の主。

 

「異変を解決に来たのなら異変関係者と争っていれば良いのです、それにあのまま地下に進まれては妹君に殺されるだけ。出会うならもう少し慣れてから会って頂きたい」

「妹様ですか?」

 

 吐かれた溜息を履き返すように饒舌に語る黒羊。

 話す内容は今し方逃した獲物の事ではなく地下で寝る幼子の事、今までにした事がない手加減に疲れ果て、糸の切れた操り人形のように寝落ちしたフランドールを思い出しつつ語り始めた。

 

「多少の加減は出来るようになりましたがまだ危うい、少し高ぶるとすぐに壊そうとしてしまいます、人間と遊ぶにはもう少し練習が必要でしょうね」

「……なるほど、レミィは関わらせないと言っていたけどアイギス様は関わらせるのですね」

 

「目の前に楽しそうな遊びがあるのに、それから離してお預けなどと意地悪な事は致しません。遊べないなら遊べるようにして差し上げるのも年寄りの役目と考えます」

 

 妹を思うあまり遠ざけさせた姉と、同じような感情を持ちながら敢えて近寄らせる古い知人。

 どちらもフランドールの誕生から見ている保護者二人だが、扱い方が変わるのは血を分けた肉親と一歩引いた立ち位置にいるからか、そのように結論付けた魔女が頷いた。

  

「だからアイギス様も加減したと、わざと逃したのはそういう事でしたか」

 

 最初からそう話してくれれば割入るような危険など冒さなかったのに、再度のため息を吐いたパチュリーが友人の事を少し考える。

 変な所で頑なで素直じゃないのはこの方に似たのか‥‥そう考えるがその思考はあながち間違ってはいない、主なら不遜で、傲慢であれと仕込んだのは目の前のアイギスなのだから。

 

「語弊がありますね、形だけは弾幕ごっこに見えるよう加減はしましたが死んでも構わないつもりでした」

 

 言われてふむと考える魔女。

 確かに直接的な殴り合いはせず真っ直ぐに突っ込んで追い立てる事もしなかった、唯スコップをバラ撒いて能力を行使していただけ。見た目だけは言う通り弾幕ごっこらしいが‥‥それでも酷い有様だと思うが蔵書が燃えていないだけマシと、自ら地獄に仏を見つけた書庫の主殿。

 考えが纏まり心に余裕が出てくると今の言葉の穴をついた。

 

「死んでもいいとは? 先ほど仰った事と矛盾しますが?」

「遊び相手は霧雨様だけではないのでしょう? 彼女が死のうが生きようが詮無きこと。後に妹君が遊べれば良いのですよ? 楽しめるのであれば相手は誰でも構いません……ですが、上手く逃げられましたし、後の来訪までに妹君を慣れさせなければなりませんね」

 

 言い切って最後に、頑張ってください、そう呟くアイギス。

 弾幕ごっこに付き合うのは私ではなくパチュリーだと、名を出さずに押し付けると三度目のため息が咳と共に吐かれた。

 獲物が逃げ去り小悪魔も静かになった今、戦闘の気配が落ち着いた為、天井近くを舞っていた埃が降りてきたのだろう、大きな溜息を何度もすれぼ吸い込んで当然だった。

 ゴホゴホと咳き込む魔女を見て、お大事にと告げスコップを顕現させるアイギス。顔色が悪くなるほど咽るパチュリーを余所に、満ち足りない腹を撫でてから、自身で穿った本棚や床を楽しそうに埋め戻し始めた。

 




BGM格好良いですよね咲夜さん、フラワリングナイトよりルナ・ダイアルの方が好みです。
ミスディレクションやめて下さいピチュってしまいます。

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