東方穿孔羊   作:ほりごたつ

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第二十八話 渡りを付けるは川渡し

 火事と喧嘩が華となる薄暗く明るい地底の町並み。

 少しのボヤと少しの殴り合いを楽しみ、偶に出る死人も致し方なしとされる町。

 平常時から荒っぽい閉ざされた世界の開けた町。

 その一角で始まった大火をバラ撒いた馬鹿と大成している馬鹿の喧嘩。

 それの終わりはもうすぐ側まで来ていた。

 

「しつこい女だな、アイギスさんよぉ! そろそろ気持ちよく逝っちまったらどうなんだ!」

 

 声高に叫んで手形の目立つ腕を振るう鬼。

 振り抜いた右の腕にも、二発目を放とうと構える左腕にも、身体を支える両足にも手形のような痣のような何かが浮かび…いや、抉れて残っている姿で暴れている。

 その不自然な跡の残る腕で殴る相手は体中の痣を残してくれた者、グラリと立っては揺れながら、それでも真っ直ぐに勇儀に向かって手を伸ばす敵対者に向け拳を振るい殴り抜いていた。

 

「一人で逝けとはつれないですね、こうして肌を重ねているというのに」

 

 鬼に殴られ身体を欠損させながら前進する悪魔。

 右のアモン角も折れ、身体を戻す勢いも衰えて見えてきたアイギスが血塗れの姿で勇儀に向かう。殴り抜かれた左の肩、そこに突き刺さり残ったままの鬼の腕を掴み、新しい手形を穿ちながら、肩に刺さる腕が深々刺さるのも気にせず前に進み鬼の顔に手を伸ばす。

 

「そういう冗談も飽きたってのさ!」

 

 顔面に迫る褐色の手。

 それを避けるように大きく仰け反ってから勢い付けて頭を前に突き出す勇儀。

 額から生やす立派な一本角でアイギスの腕を肘手前まで裂くと、そのままの勢いで近寄っていたアイギスの顔面目掛けて頭突きをかます。

 

「本心…です!」

 

 勇儀の角を残った左の角で弾く黒羊。

 硬度はほとんど同じのようで、大型の建造物同士がぶつかり合うような音を立てながらも互いに折れる事なく、その頭を大きく弾き合う。

 だが、鬼は顔の中央に在る角、羊は頭のサイドに生やす角。

 互いの角の位置のせいで弾かれた後に動き始めるまで少しの時間差が出来た。

 

「壱ぃぃ!」

 

 弾かれて数歩離れた二人の間合い。

 そんな中先に動きを見せたのは勇儀、空いてしまった間合い詰め、同時に自身の奥義を放つ構えを見せた鬼の四天王。振り上げて地を抜いた右足から亀裂が走り、その振動がアイギスの両足を破壊する。ただでさえグラついていたアイギスの足が壊され片腕を地について止まってしまう、動きを止めたアイギスに向けて勇儀の二歩目が振り下ろされた。

 

「弐ぃぃぃ!!」

 

 勇儀の足元から奔る亀裂の数が増える。

 地を割り周囲の建物を揺らして壊す鬼の歩行、咆哮も武器なら歩行も武器になる常識外れの鬼の力。その力があと一歩で放たれる、動けないアイギスでは回避する事は無理な間合い。

 その3歩目が振り上げられるとパチンと指なる音が響く、勇儀が踏み抜くはずだった足元の地がアイギスにより穿たれる…3歩歩いて殴るならその拍子を崩せばいい、踏み抜く地面がなければいいと動かぬアイギスが地を穿った。

 

「くぉ! っ参ぁぁん!!!」

 

 強引に、それこそ力業で宙を踏抜き必殺の拳を放る勇儀。

 空間毎周囲を殴る拳が動き、腕が完全に伸びきる。

 すると一度目の奥義では残ったアイギスの身体が綺麗さっぱり消え失せた、がその魔力は未だ消えず、彼女が動けず止まっていた位置よりも低い位置から魔力が流れてきていた。

 壊れ動けないといえどアイギスの両足は地についていたのだ、足元を穿ちその身全てを落としこむ穴を掘り下へとズレただけであった。

 

「避けるお前さんのほうがつれないなぁ、ぶち抜いてやるってのによぉ!」

「数千年前に散らしておりますので間に合っております」

 

 突き出した拳を引けない勇儀が文句を吐く。

 突き出し振りぬかれたままの右腕には、下方から伸ばされたアイギスの両手が食い込んでいた。

 歪に細くなった勇儀の右腕に爪を立てて穿つ姿勢を見せる黒羊、これは持っていかれるかもと顔に覚悟を見せた勇儀と、腕を伝って垂れてくる鬼の血を舐め笑むアイギスの視線が合った時、聞きなれない声が場に響いた。 

 

「喧嘩の台詞にしては随分色っぽいなぁ、お二人さん」

 

 血で染まる大輪の花、そう言える見た目の二人が火花散らして争う最中。

 引き剥がそうと腕に力を込め持ち上げた勇儀と、その腕に釣られるように穴から這い出てきたアイギスの横に現れた誰かが話す。

 その地にちんたら現れたのはこれまた綺麗な曼珠沙華であった。

 携えた鎌を両肩で担ぎ二人を見比べる地獄の死神が、恍惚に笑む異国の悪魔とそれを釣り上げた姿の地底の鬼、終わりそうにない争いを続けるこの二人の間に割って入った。

 

「地獄の船頭が何用だい? こっちは取り込み中だ、邪魔するなら一緒に殴り飛ばすだけだ!」

 

 アイギスを剥がして肩を回す勇儀が、その拳を死神の赤髪に向けて放つ。 

 だがその拳は届かず寧ろ体ごと遠くなった、拳とともに前に踏み出た勇儀だったが真逆の後方へと一瞬で動いた…ように見えた。

 

「?…いつかのカロン代理の…? 貴女様までこの地にいるとは、世間とは狭いものですね」

 

 動きを見せず勇儀を後方へと動かした死神。

 彼女の操る能力『距離を操る程度の能力』を行使し鬼を前に歩ませながら後方へと下がらせた女に向けて、カロン代理と知り合いのような表情で話しかけるアイギス。

 黒羊の地元にも地獄が在りそこにも川がある、そして川渡しも存在するのだが…代理とはどういう事か?

 

「よう羊さん、アケローン以来だ。何年ぶりかね? 随分前な気がするが変わらず生真面目そうでなによりだ…まぁその辺はいいか、上司命令でね、この辺で手打ちにしてくれないかい?」

 

 アイギスの地元の地獄、そこに流れるアケローン川の名を話す死神。

 随分前というように一時期この船頭があちらの船頭、アケローン川の船頭を務めているカロンという船頭の代理をしていた事があった、その際に顔を合わせ安定のじゃれ合いをやらかしたらしい…どちらも生きている、というよりどちらも死なぬ者だから今も気安く話せるのだろうか?

 懐かしむ顔で話すアイギスとあっけらかんと返答する小町、後腐れないような会話に聞こえるがどちらも腐り落ちる事などないからかもしれない。

 少し話が逸れたので戻す。

 

 で、本来ならば代わりの者などいないはずのカロンだが、歌声と竪琴が素晴らしい誰かに魅了され仕事サボって抜けだし、罰として一年間ほど閉じ込められる事があった。

 その一年間、カロンに代わり船頭をしていたのが彼女である。そういった流れがあったからこの地の閻魔も他国の冥府の神を知っているようだ、距離を操りどうにか両方の仕事をこなした仕事のデキルやらない死神、多少サボっても説教だけで済むのはやれば出来ると知られているからだろう。何処の船頭もサボったり他に気を取られてみたりして、変わらないように思える…そんな似た彼女達の事を発端に上司同士も愚痴を言い合うくらい交流し、それ故仲が良くなったようだ。

 

「確か小町様、でしたか。上司というとヤマザナドゥ様…直接ヤマ様がいらっしゃらないのは…」

「良く名前なんか覚えてるねぇ、私は羊さんの名前なんて忘れちまったよ。うちの上司もそのうちに来るさ、今はお前さんの雇い主にお説教かましてる、そのうち来るから取り敢えずこれで終いにしようや」

 

「突然出てきて横槍入れてくれて、ハイそうですかってのは無理な相談だな!」

 

 アイギスと小町が話す中、大声で話すのは勇儀。

 後方へと動かされその位置から声を荒らげている。

 無傷で全力の彼女であれば小町の能力をよくわからない方法で突破出来るのだろうが、今の彼女は結構な重症だ、然程血は流れていないが至るところを削り取られそこを流れるはずの妖気も穿たれている。それでも動けているのは力尽くだ、持ちうる怪力があるからこそだろう。

 

「星熊様と同意見なのですが、邪魔するのであれば小町様といえど…」

「やめときなっての、外のお前さんならともかく今の羊さんじゃ私にゃあ届かんよ…それにあの鬼を無くしちまったら約束破ることになっちまうよ?」

 

 勇儀の声を受けて尚やる気を見せるアイギス。

 鼻息荒い黒羊に向けて携えた鎌をくるくると回してから、その首筋に軽く宛てがう小町。

 外で受ける信仰心が届かず弱体化しているバフォメット、死にはしないが身体を戻すのも力を行使するのも外ほどではないアイギスに力の差を見せつける死神だが、現状ではそうかもしれない。

 距離を操られそれを穿つとしても、伸ばされた距離の結果を穿つほどの力は幻想郷では現せない、出来ても伸びた道にでっかい穴凹開けるくらいだろう…外での全開ならわからないが。

 

「星熊様との約束? 特にこれといって…」

「喧嘩後に風呂で酒盛りするんだろう? 一緒に呑む相手を掘り返しちまったら約束なんて守れやしないよ?」

 

 小町の述べる方便を噛みしめる元偶蹄目。

 久々に見た相手がひょうひょうとした態度で接してきた事で、完全に荒事の空気が抜けたアイギス。

 あれだけ血生臭い事をやらかしておきながらころっと変わるこの態度、性格でも変わったように見えるがなんて事はない、争いよりも大事な約束なんて物を投げつけられて興味がそっちに移っただけだ。小町が言うものが方便だとわかっている、言った勇儀のその場の冗談だとも理解しているが、神相手に抗えるほど万全ではない今の状態…やりあうなら万全で、わかりやすい方便でも乗ればこの場は収まると考え敢えて噓に乗るようだ。

 お楽しみはまた後でと小町と勇儀を見比べてから、今日は諦めるとボロボロの両手を上げた黒羊であった。

 

 そして荒事の雰囲気が抜けたのがもう一人、遠巻きに吠えていた鬼の四天王だ。こちらは争う相手がいなくなったと感じ取り、やり場のないモノも湧いているが相手が死神では相性が悪かった。

 死神小町も名の通り神様の一人、死人がいる限り存在し続ける神様で殴り殺して死ぬような相手ではない、怪力乱神の鬼が張り切れば瀕死くらいにはなるかもしれないが、死神が死ぬなんて事はないだろう、多分。

 殴るにしてもこちらも万全とは程遠い、下手を売って喧嘩で負けるなら、横槍入れられた興が削がれた…ついでに嫌々ながらも住まいを与えてくれた地霊殿の主に恩を返すつもりで拳を納めるようだ。一本気で義理堅いのも鬼の性分、怪力乱神で在る前に彼女は鬼の頭目だった。

 

 そんな二人を見て場を〆る小町。

 ひょうひょうとした死神が拍子を取って終わりを告げた。

 

「さぁさ終いだ、続きをやるならお説教を聞いて町並み戻した後にしとくれ。店がないんじゃサボりに来れやしない」

 

◇◇◇◇◇

 

 上司をスキマの内に届けてすぐさま迎えと言われた地獄の渡し。

 自身の操る能力を使えば数秒かからずにたどり着けるはずが、それはせずに命ぜられた仕事をサボるようにわざと遅れて現れた者。

 遅参したサボり魔死神小野塚小町の迷裁きを見て、スキマの中でため息をつく誰か。

 送られた上司がため息と言葉を同時に吐いた。

 

「後でお説教ですね、ですが任せてよかった。アレの扱いは八雲紫よりも小町のほうが向いているかもしれませんね」

 

 スキマTVを見ながら部下を褒めてけなす閻魔様。

 ついでのようにけなされた八雲紫が少しだけ目を細めるが、確かに言われた通り紫よりも小町のほうが向いているように見て取れた。

 曖昧で遠回しに言う紫より、方便でもハッキリと物を申す小町のほうが、アイギスに何かを言うのなら向いているのかもしれない。

 

「映姫様、お話を戻してもよろしいでしょうか? お小言よりも先ほどまでの話の方が興味深いのですが」

 

 話しついでに小言を言われた妖怪の賢者が、はっきりと小言よりも大事な、続きを聞きたいと幻想郷の閻魔様に問いかける。

 スキマから紫に向き直り、悔悟の棒を一度鳴らす映姫。パァンと鳴った四季映姫の平手に一瞬だけ紫が視線を取られると、そのまま目を逸らすようにスキマに向き直る映姫。

 

「アレ、アイギス=シーカーは迷える羊なのですよ、自身の成り立ちを求めて自ら彷徨い続ける哀れな羊。それが彼女です」

 

 映姫の瞳にアイギスが映る。

 自身の部下と会話しながら荒れた雰囲気を消していく姿が見えると、やはり歪なモノだと納得するように頷いていた。

 

「成り立ちであれば既にわかっている、アイギス自身もわかっているはずですが?」

 

「えぇ、理解しています『勘違い』で贄とされた、そう理解していながら探し続けているのですよ。何故勘違いされたのか…勘違いに理由などないのに。その時そう思われたからそうされただけだというのに…それを理解しながら在りもしない答えを求めているのです」

 

 アイギスが紫に話した成り立ち、そこに隠したモノ。

 紫が『噓』だと述べたモノに対して地獄の閻魔が説明をし始めた、内容は四季映姫の話す通りの事で聞く限り。

『噓』というよりもアイギスからすれば唯話さなかっただけの事、深く聞かれなかったから話さなかっただけの理由であり、隠し通すほど深いものでもなかった。

 

「答えがないとわかりながら探す、矛盾しているように思えますが…それが真名だというのですか?」

 

「その通りです、既に知る答えを探す、盾の真名を持ちながら穿つ矛である彼女…生きも死にもせず在りもしない答えを求めて現世を彷徨い探し続ける者、矛盾している存在というのがあの悪魔の在り方です」

 

 スキマに映る仮初めの従者を見ながら説明を受けた紫。

 一瞬考えてから思いついた事を話す、それに対しても四季映姫から説明が入った。

 語られたのはアイギスの在り方、四季映姫の言葉を借りればそのまま矛盾した存在というのが彼女だ。勘違いから生まみ出されそうされた理由を求めて彷徨う者、悪魔っぽい色と容姿だっただけで堕とされたかわいそうな羊。

 アイギス自身それはわかっているが同じ羊の中に似た者は大勢いた、だというのに何故私だったのか?

 その答えを求めるように生きもせず死にもせず、堕としてくれた恨みを宿したままに現世を移ろいいくだけの者…真名に縛られ理解しながら求め続ける哀れな黒羊が彼女であった。

 

「探した末にある救いを求めていないのが更に厄介ですが、それは別問題なので今はいいでしょう。納得しましたか、八雲紫」

 

 哀れな羊と言う割に嬉々として他者を手に掛けるのはこれだ、悪魔として成り果てた今はそれも楽しんでいるらしい。

 終われないのならそれもいい、いつかあるかもしれない終わりまでなんでもいいから暇を潰す、その暇つぶしの中で好ましいのが血腥い事だったというだけである。

 

「彼女についてはわかりましたが、彼女を招き入れた事を聞かれましたね? あの言葉の真意はどのような?」

「気がついているでしょうが敢えて言いましょう…命じられた事を守りそれをその通りに遂行する悪魔、八雲紫との契約が完遂するまではその姿は変わらないでしょう。ですがその後…仮に貴女以外と契約し幻想郷を壊せ、そう命じられたらどうなるでしょうか?」

 

 スキマの中で小町と話すアイギス。

 穏やかさを取り戻した彼女を見ながら真面目な顔で語る閻魔様。

 アイギスの在り方を知る者でこの地を大事に思う者なら懸念する事だろう、八雲の子飼いとして従順な間は良い番犬になる、けれど仮にこの地を壊す…転覆させたりひっくり返そうとする者と契約し、それをしようとすれば…そんな懸念を話す映姫様。

 

「貴女の懸念している通り、真正面から壊そうとするでしょう。先ほど見せていたように何度死んでも終わらないままに破壊の限りを尽くす、どうにか滅したとしてもそのうちに外の世界で復活し、結界を穿ち再度現れるのでしょうね」

 

 無言で聞いて考えている素振りの紫。

 扇を開いてその奥で悩むような瞳のスキマ妖怪に閻魔様が追加を述べる、先程まで見ていた地底世界の惨状。紫が試すように敢えて首輪を緩めて向かわせた旧地獄の町がどうなっているのか、それを見せるようにスキマTVを悔悟の棒で差す楽園の裁判官。

 映姫の指したスキマを見てここまで無言で聞いていた紫が少し変化を見せる。

 そこに映るは小野塚小町。

 パンパンと両手を叩き場の〆を告げた瞬間が映る。

 紫の変化、それは疑問であった。 

 本来定命の者とは関わらない立場の閻魔様がここまで肩入れする理由、自身の右腕、というには動きが悪い事が多いが信頼の置ける部下を使ってまで場を纏めた理由が気になったようだ。

 

「そんな危険因子を引き入れた、この地の管理人を名乗る貴女がですよ? 私はこの地の死後を見る者、生者の行いにこれ以上関わるつもりはありませんが…裁き切れないような状態になるのは好ましくない…そうならぬようアレを上手く使い続ける自信はありますか?」

 

 紫の心を読んだかのようにドンドンと追加される言葉。

 お説教が趣味、そう言っても過言ではない閻魔様の心に火が着いたようで、問いかける前から今後に対して考えられるお説教をガンガン話していく四季映姫。浅く思える判断でアイギスを招き入れた紫にお説教だけ、そのつもりだったはずが幻想郷に対する懸念も見せる。

 今回のお節介の理由なども話してからこれ以上はないと告げているが、口うるさいながらも有り難い説法を解くのは自身が衆生を救うお地蔵様だったからだろうか? 

 

「返答がないのは何故でしょう? また曖昧にぼかすのですか? その結果幻想郷がどうなるかわからなくはないでしょう? アレを抑える吸血鬼(手段)があるのはわかります、ですが貴女のその企みは確実ではない、危ういのですよ…そう、貴女の…」

 

 元石像だとは思えない滑らかさを見せる閻魔の口。

 幻想郷を憂う説法から本格的なお説教に移る素振りを見せ始めた、映姫の説教が始まるスイッチである『そう、貴女は』と聞こえた辺りで、ここまで静かに聞いていた紫が動いた。

 表情を隠すように開いていた奥義をパタンと閉じて、有り難いお説教を垂れ流し始めた四季映姫に向って正面切って返答する。

 

「問題ありませんわ、既に契約の代償で裏切れない状態なのです、じゃじゃ馬だろうが暴れ羊だろうが乗りこなして見せましょう…幻想郷はなんでも受け入れるのです、残酷な事ですが終わりを内包する者も当然として受け入れますわ」

 

 噓を見抜く四季映姫に向かいはっきりと、真っ直ぐに瞳を見据えて返答する紫。

 抑える手段と言われた吸血鬼の事を持ちだされ、その時の心境を思い出しながら饒舌に語る。吸血鬼姉妹を見るアイギスの瞳は慈しむものだった、ああいった者達が住まう地を壊す事を望まない。

 もしそうなれば何かしらの難癖をつけて契約者を堕とし、契約自体をなかった事にするだろう、素直に雇い主に使われながら裏切れば何度死んでも殺すと脅してくる狡猾な悪魔なのだ、何を犠牲にしても守りたいものは守る。

 真名に囚われているのだからそこは揺るがない。

 アイギスからの期待を裏切らず、上手に乗りこなす為には?

 地底の鬼よりもやはり吸血鬼を利用すべきか?

 もうすぐ広める新しいルールを思いながら四季映姫に返答し、スキマに映る黒羊を見て嗤う妖怪の賢者だった。

 

 

 余談だが、この騒ぎの復旧のためアイギスはしばらく帰ってこなかった。

 閻魔の来訪により始まったお説教は丸三日。

 地底組、黒羊、部下とそれぞれ一日掛けて説かれていた。

 その説教が終わりすぐに復旧作業は始まったのだが…

 ここでもタイムロスがあった。

 本来陣頭指揮を取るはずの地底の管理人が説教後に腹を抑えて倒れたからだ。

 代わりに鬼連中と土蜘蛛が陣頭指揮を取って復旧作業に当たったが、指揮と呼べるモノではなかった。

 酔っ払って作業に当たる鬼連中とそれを嗤う土蜘蛛、まともな指揮など出るはずもない。

 どうにか始まった復旧作業。

 その場に混ざるのは黒羊と、偶に悪戯する路傍の小石。

 ついでに捕まり作業に混ざる封じられた妖怪達。

 何もせずに逃げ切ったのは橋姫位だろうか。

 炊事等で動いていたらしいが詳しくはわからなかった。

 工事途中で喧嘩もあり、宴会だけの日もあった。

 温泉の拡張などもついでにされて、色々な要因が混ざり期間が長くなった修復工事。

 予定よりも一年以上伸びた着工期間。

 その為、地底にも仮住まいを構える羽目になった雇われ人がいるらしい。




主人公がコンティニューしまくり、なので敢えてこんなエンディング。
吸血鬼異変でもそうでしたが、原作やってないと中途半端で意味がわからないというオチはどうなのか?
その辺は忘れた事にしました。

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