段々と部員、まだ正式な部ではないですが…が集まってきました。
オリキャラ率が高いのは、この作品においてはある意味いで仕様(ぇ)
そして、矢野は遂に運命的な出会いを果たしますっ。
次の日もまた何事もなく放課後を迎え、その知らせはやって来た。
勢いよくドアを開ける音と甲高い声が賑やかな教室中に響き渡る。
「矢野君っ、大変だよ!」
今日もこれから部員探しをしようかと話していた矢部と矢野は驚くようにして、同時にドアの方を見た。
「あっ、あおいちゃんどうしたの? そんなに慌てて」
相当な勢いで走って来たのだろうか。
肩で息をするあおいの髪は、女の子らしからぬ激しい乱れ方をしていた。
「はぁ、はぁ……二人共っ、早くグラウンドに来て? た、大変な…のっ」
絶え絶えの息で何かを伝えようとしていたあおいだったが、発した言葉も一緒に途切れていて何が大変なのか聞いてる方にしてみたらさっぱり分からず。
だが、辛うじて“早くグラウンドに行こう”ということだけは理解出来た二人は、あおいに導かれるままグラウンドへと急いだ――
三人は大変な何かが待っている現場へと到着。
矢野達へ知らせるべく往復で走っていたあおいは、言葉を口にする気力も失っていた。
肩が上下する度、一緒に上下する指先で何とかある方を指差す。
「こ、これって……」
「でやんす……」
矢野と矢部、二人が熱い視線を送るその先には、人が――
人が三人立っていた。
尚も驚きのあまり声を出せないでいた二人と言葉を出す気力すらない一人。
「あの張り紙を見たのだが……入部してもいいか?」
真ん中の一番背が高い生徒がそんな三人の状態をよそにそう尋ねる。
「そ、そりゃもうっ、即OKだよ! ただ、正確にはまだ部じゃなくて同好会だけど……それでも大丈夫かな?」
グラウンドで待っていた三人はお互いに見合ったが、三人とも迷うことなく頷きその意思を改めて確認。
「野球ができるなら……それで構わない」
と真ん中の生徒がまたぼそっと呟く。
「よっし! そうと決まれば、まずは自己紹介しようか」
矢野はさっきから話していた真ん中の生徒に手で「君からっ」と合図を出した。
「オレは
茶色い短めの髪で腕を組みながら渋い声の山田。
「わ、わたしは
少しおどおどしたところはあるものの、大和撫子思わせる長い黒髪の女生徒は雪乃。
「僕は
三人の中で一番背が低く、というよりはむしろこの場にいる全員の中で一番小柄で深緑の髪を持つ宮間と――
以上の個性ある三名が恋恋野球同好会にめでたく入会した。
そして、矢野、矢部、あおいも自己紹介を軽く済まし、これで一先ず同好会は六人集まったことになる。
矢野らは中学三年間苦楽を共にしたユニホームに、山田らは恋恋高校指定の体操着に袖を通し同好会としての初の活動が始まりを告げた。
「さてっと、今日は野球道具がない人もいるし、軽くランニングしたあとストレッチをやって、宮間と雪乃ちゃんがどれだけ動けるか見て終わりにするよ?」
ある者は期待に満ちた瞳で、またある者は不安そうに頷く。
「んじゃ、ランニングぅー!!」
矢野の号令を合図に、六人は一斉に駆け出した。
陸上部や他の運動部が活動している中、一周400mはあるグラウンドを軽めのペースで5周。
ラスト1周の残す所あと50m程のところで、矢野の提案により今出せうる限りのペースでダッシュすることとなり――
さすがは野球経験者と言うべきか、トップでゴールしたのは矢部。
次点に矢野、山田、あおいと続き、あおいの数秒後に辛そうな表情を浮かべながらも賢明に走りきった雪乃がゴールする。
「村沢さんっ、ナイスファイトだね!」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとうござい、ます。は…走るのは、苦手で……」
爽やかな汗を額に滲ませる笑顔のあおいに出迎えられ、雪乃もそれに気力を振りしぼって応えた。
そして最後となった宮間はというと、400m半ば程で力尽きたのか、息も絶え絶えとなり自信ある足の速さを出せないまま最下位。
「……短距離、の方が…自信、あるのですが」
一目見ただけだと女の子に見えなくもない宮間は、ある意味その華奢な容姿通りの持久力の持ち主らしい。
それから軽めのストレッチをして――
野球未経験である雪乃と宮間ために矢野らは道具を貸し、二人に素振りとキャッチボールを教え始めた。
「うーん、村沢さんちょっと力みすぎかもしれない」
「そう、ですか? 竹刀とは長さも重さも違うから感覚がなかなか掴めなくって……難しいです」
竹刀はバットと比べると握りこぶし二つ分ほど長く、実剣ならともかく竹刀となるとバットよりも軽い。
その違いからくる雪乃のぎこちないスイングはバットを振る、というよりバットに振り回されている、そんな感じであった。
それでも微かに垣間見せる閃きの如きスイングの軌跡で、周囲を驚かせたりもした。
「だが、たまに現れるあの鋭さ……剣道でいう、胴打ちとかいうやつの動きか? あれは素直に凄いと思う」
「え? あ、あぁれはたまたま出ただけでっ、その、あの……無意識にやってました」
山田に誉められたからか、いや誰かに素直に誉められたからなのだろう。
雪のような白い肌を一瞬のうちに赤く色づかせて、雪乃はすっかり動きを止めてしまった。
「はぁ…はぁ…僕なんかは10回、振るだけでも息を切らして……しま、います」
「宮間はまず基礎体力作りから、かな?」
その後のキャッチボールでも山田を除く二人の動きは試されていき――
雪乃は剣道をやっていたからなのか、野球としての動作はまだ鈍いものの、制球ミスのボールにも時折ではあるが果敢な反応をみせていた。
「村沢さん、大丈夫大丈夫―っ、初めてでその動きならこれから次第だよー?」
細くしなやかな指先から放たれたボールはひょろひょろ弧を描き、ワンバウンドで相手となるあおいの下へ。
「あ、それと! 村沢さーんっ、ボクのことはあおいでいいよー? 名字だとなんだか照れくさくってさー」
「……はやか、じゃなくって! あおい、ちゃんっ、でいいですか?」
額に感じる爽やかな春風のような、屈託のない笑顔であおいは頷き、雪乃もまたはにかむ。
「それでしたら私のことも雪乃、で大丈夫ですよー? 学年も変わらないわけですしー」
“オッケー! ”と言わんばかりにあおいは頭上に両手で大きな丸を作ってみせる。
その後も二人の間では白球と、賑やかな声が交わされていた。
一方の宮間、地肩も弱かったのか山田とのキャッチボールでも15m前後投げられれば良い方だった。
「何はともあれ、三人も入ってくれて少し安心したでやんすっ」
「うん、俺もそう思うよー!」
(しばらくは雪乃ちゃんと宮間、この二人の特訓……かな)
そう矢部とのキャッチボール中に心の内で一人思う矢野であった。
こうしてこの日も未経験者に合わせて4時半を少し過ぎた頃に終わり、今日ここに集った六人はそれぞれの家路へとつく。
みんなと別れた矢野は日課の自主トレをするべく、いつもの河川敷へ急ぐのだった。
昨日、数奇な縁がきっかけで出会った少女が待っているであろう約束の場所、河川敷へと――
ランニングも兼ねて学校から走ってきた矢野はいつもより早く河川敷に着いた。
急いで下へと降りた矢野は辺りを見渡す。
「えっと、さすがにまだ来て…あっ」
視界の中のいつも休憩に使っているベンチに……
少女は、いた…………
「こ、こんにちは!」
緊張していたのか、裏返りそうな声でそう答えた少女も、矢野を見つけてベンチから跳ねるようにして立ち上がる。
「やぁ! 待っててくれてたみたいだけど……もしかして、随分待たせちゃったかな」
「そそ、それほど待ってないですよ!? 私も5分くらい前に来たので…」
照れるようにはにかんだ少女は、矢野が昨日見た制服姿ではなく長袖のトレーナーにスパッツの出で立ちだった。
「そっか、じゃあこれからどうしようか?」
「そ、そうですね……素振りを軽く、というのはどう、ですか?」
若干考え込むような様子を見せた少女ではあったが、一つの提案を自信無さげに矢野へと告げる。
「えっと……じゃあ素振りから!」
少女の少し首を傾げながらの「ですか?」に矢野は思わずドキッ! として――
何も考えないまま矢野は即答してしまう。
そうして二人は適度な距離で隣合いながら素振りを始めた。
それから10分程時は経ち――
何本素振りしただろうか。
最初こそ二人で声に出してカウントしていたが、あまりに集中していたからかそれも途中からなくなり、とにかくこの10分間、黙々と素振りをしていた。
そんな中、矢野は突然素振りを止めた。
「……」
そして、少女の素振りに見入る。
「……? どうかしたんですか?? 私の素振り、変、でした?」
「えっ? あ、いやぁ、あまりにも綺麗なフォームだなあって…俺とはえらい違いだなあってね」
ほらね? と言うように矢野は一つ素振ってみせた。
「そんなことありませんよ、力強いスイングでしたし」
「まぁ、そう言ってもらえると素直に嬉しいんだけど……うちの野球部は野球初めてって人達もいてさ、いつの間に決まったとはいえ一応キャプテンだから」
そう言うと、矢野はおもむろにバットを空高く――
まるで剣を天へ掲げて何かを誓う剣士のように、両手でバットを頭上へと持ち上げるのだった。
果たして謎の少女の正体は一体……!?
第3話で明らかに、なるかもしれません。
今回初登場の山田、雪乃、宮間と、主人公である矢野の現時点での能力を後で更新したいと思います!