夢を掴む、その瞬間まで・・・   作:成龍525

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一先ずテストも兼ねて1話目更新!
ちなみに、一応縦書きを意識して書いてたりしますが…
本人の技量不足により変に見えるかもしれません……


第1話 ~出会い~

「おふくろ、行ってくるよ!」

 

4月も何日か過ぎた今日この日。おふくろの忘れ物がなんたらという毎度の小言に背中を押されて、矢野は玄関を勢いよく出た。

そして、そのまま今日から通うことになる”恋恋高校”へと駆けていった。

 

今日は初日ということもあり、矢野達1年生はお昼過ぎに放課後となった。

「で、矢部君…あのことだけど、大丈夫、だよね?」 

「さて、見たい番組があるでやんすから…おいらはこれで失礼するで…」

やんすを言い終える前に、矢野の手は逃げ出そうとした矢部の肩をがしっと掴んだ。

「は、離すでやんす!おいらにはガンターの熱い戦いを見守るという大事な使命がっ!!」

「ガンダーは横に置いといて…いいの?さっきも喜んでたし、女子にぃ……」

その言葉に矢部のメガネは微かに、それでいて敏感に反応した。

「モ、モ…モテモテっ!!」

しばらく悶絶していた矢部は微妙にズレたメガネをかけ直し――

「まったく、しょうがないでやんすね~…つき合うでやんす」

「そうこなくっちゃっ!!」

顔がゆるみまくりの矢部を連れ、教室から出た二人は職員室へと向かった。

しかし……

職員室のドアは空しい音と共に閉まることとなる。

「失礼しました…」

「やっぱりダメでやんす…」

沈む二人の口から漏れるのは弱音とため息ばかり……

一通り落ち込んだ矢野はやっと立ち直りをみせる。

「ここで落ち込んでも仕方ないっ! こうなったら理事長に直接!!」

そう意気込み、矢部の腕を掴んで強制連行。

後日、職員室周辺で”やんす~ッ”という怪しい悲鳴が響いていたと噂になった――

 

 そして、二人が理事長室のある別棟に通じる渡り廊下を歩いていた時のこと。

「短いはずの渡り廊下が長く感じるでやんす」 

「まあまあ、もう少しで終わりそうだよ?」

そんなやり取りをしていた、その時。

「うわっ!?」 

「きゃっ!?」

理事長室のある方から飛び出してきた誰かとぶつかった矢野は軽く後ろに飛ばされる。

しかし、誰かは派手に吹き飛ばされて地面に尻餅をついていた。

「いたたぁ~! もぅ、どこ見て歩いてるの!? 怪我でもしたらどうすんのよっ!!」

スカートの尻餅をついた部分を軽く両手ではたいたその誰かは、発した言葉と同様に表情は険しかった。

「ご、ごめん……よそ見してたのはこっちだし、悪かったよ」

「わ、わかればいいのっ……ボクの方こそごめんね」

その誰かは矢野の素直な謝罪の心にはにかみ出す。

かと思うと何やら辺りを、今度は切なそうな表情で見渡していた。

「ん? どうかしたの? そんなにキョロキョロと」

「うん、たぶんさっきぶつかった時だと思うんだけど……大事なもの落としちゃったみたいなの」

凄く肩を落とした誰かの様子を察して、矢野もその誰かの大事な何かを探すのを手伝うことに。

少しの間探していると、矢野は何かを見つけたのか不意に大声を上げる。

「これって……キミの探してたのってこれのこと?」

それを拾い上げて誰かに差し出した。

「う、うん…あ、ありがとう……」

見つかったはずなのに誰かはまた切なそうな瞳に戻る。

「えっと…グローブを持っているってことは、キミももしかして野球するの?」

「そ、それはぁ…離せば長くなっちゃうんだけど…」

誰かの胸の内を知ってか知らずか、矢野は気になっていたことを誰かに尋ねてみた。

その誰かの説明によると、小学校の頃から男の子と混じってリトルで野球をやっていた――

ということらしい。

 

それを聞いて何かを閃いた表情に変わった矢野。

「ちょうどよかった! 俺達と野球やらないかい? 経験者なら大歓迎だよ!?」

野球のこととなると熱くなるその癖で、矢野は誰かへともの凄い勢いで詰めよった。

「え? 野球って、そもそもうちの学校に野球部なんかないよ??」 

「それがある……というより、今から作りに行くんでやんす」

矢部のその言葉で更に頭上のクエスチョンマークを増やしていく誰か。

「先生達に頼んでもダメだったから、今度は直接理事長にお願いしに行くんだ」

「あっそういうことね…うぅ~ん、どうしようかな……」

誰かはしばらく考えていたが……

「うん、わかった! ボクで良ければ入ったげるよ!?」

弾ける笑顔でそう答えた。

「じゃあ、これからよろしくね? え、えぇっと……」

そこまできて、何故か矢野は言葉に詰まってしまう。

「あっ……」

握手をしようとした瞬間、お互い今まで誰かも知らずにいたことに今になって気付いたのだ。

「そういえば、自己紹介まだだっけ。俺は矢野武、よろしく!」 

「ボクはあおい、早川あおい! こちらこそよろしくねっ!?」

がっちりと握手を交わす二人。

「で、おいらが矢っ」

「あっ、メガネくんね? よろしくっ」

自己紹介を遮られた矢部は、一人沈んでいた。

「グスっおいらはどうせメガネでやんすよ……」

 

こうして、あおいの綺麗な緑髪のおさげが風ではたはた揺れるのを見ながら、三人は理事長室へ。

 

しかし、現実というのはそう上手くはいかないもので――

「……それにしても、いないもんでやんすねぇ」

「そだね…もっともボク達三人だけで同好会としての許可をもらえただけでも奇跡に近いし、この上さらに部員になってくれる人がすぐに見つかったら……それはそれで逆に怖いか、な?」

生徒用玄関でボヤく二人の気持ちも仕方のないものだった。

そもそも恋恋は今年から男女共学になった元有名女子高。

男子生徒は今年入学した新入生しかいなかったのだ。

「同じ新入生の一年の男子がどこにも見あたらないのもある意味奇跡な感じも……でも! 先輩達ももうすぐ部活の時間、ということは…?」

矢野は矢部に視線を移す。

「先輩達の部活を見学しに、他の男子が動くかも…っ…てことでやんすか?」

「ナイスアイディアじゃんっ! 矢野君冴えてるね!?」

二人の言葉に笑顔で頷く矢野。

あおいの賛同を得た二人は早速部活巡りに行こうとした。だが……

「あっ……ちょっと待って?」

「「???」」

突然のあおいの一言に矢野と矢部は何事かと目を見開く。

「今思ったんだけどさ…ボクがやるってことは、別に女の子でもいいんだよね!? だったらボク別行動で女の子の方でも探そうか?」

「確かに、言われてみたら……うん、分かった! じゃあ1時間後の4時半、ここに集合ってことで」

腕時計の文字盤を指差す矢野にあおいは笑顔で応えてみせた。

「オッケーっ! じゃあそっちは任せるね!?」

あおいはウインクを合図にしてその場を後にした。

「じゃあ、こっちも行きますかっ」

あおいを見送った二人も、彼女とは逆の方へと駆け出す。

 

「矢野君また明日ねー」

「でやんすっ」

そして、時間いっぱい校内を回っていた三人だったが、結局見つからず。

今日のところは同好会員集めは解散に。

二人と別れた矢野は、朝日に照らされながら来た道を、今度は沈みかけた夕日の背を追うようにして家路につくのだった。

 

しばらく歩き、河川敷の堤防をいつもと変わらず穏やかに流れる羽和川(ぱわがわ)を横目で見ながらさらに歩みを進めていく。

自宅のすぐ横までたどり着いた矢野だったが……

川とは反対側の、堤防下にある自宅の方へは降りずに、何故か堤防を挟んで自宅のすぐ横にある河川敷へと降りていく。

 

矢野は降りた先でがちゃ、ガチャッ、と音を鳴らしながら何かを動かそうとしていた。

「しっかし、親父には感謝だけど……」

手元からは不規則な起動音。

「この動き始めの悪さはどうにかならないのか?」

そうボヤキながら矢野が懸命に動かしていたのは、中学に上がった時に息子のためにと矢野の父が壊れて捨てられていたバッティングマシンを改造、一定の間隔でノックもしてくれるものだった。

「後は、ここをこうしてそれをああして…この辺を叩けば……」

……ウイィィーン!!

こんなことは日常茶飯事だという風に、慣れた手つきでマシンのある部分を一発叩き、見事に起動。

「さてと、コイツも動いたことだし……日課の自主トレ始めますかっ」

気合いを入れた矢野は父作のノックマシンにボールを10球セットして、マシンから約15m離れた辺りで身構えた。

矢野が守備を磨くために独自に考えた”近距離ノック”がマシンから放たれたボールを合図に始まった。

 

――それから20分ほど後。

河川敷にはまだ捕球音が心地よく響いていた。

矢野はまだマシンによるノックを受けていたのだ。

「っし! 次のでラスト!!」

このセットの9球目を捕球した矢野は、そのボールを素早く一塁に見立てたネットへと送球。

10球目に備えて一呼吸置いて身構える。

 

そして、10球目――

 

その時、すぐ上の堤防を一人の少女が歩いていた。

「今日は思ってたより早く終わったし、下に降りて自主トレでもしていこうかなぁ……あれ? 何んだろ、この音」

その少女はその場で河川敷に視線を下ろし、音の正体を探す。

「え? マシンで近距離ノックっ!?」その光景に少女は驚くほかなかった。

次の瞬間――

「っ! とんでもないとこにボールがっ!!」

捨てられていたものを修繕改造したマシン、放たれるボールの軌道も元々ランダム。

だったのだが、今回の軌道は明らかに異常で堤防の方へと上がっていくものだった。

堤防の下、河川敷にいた矢野は慌てて振り向いてボールの行方を追う。

「ひ、人が!? 危ないっ!!!」

「えっ!?」

少女は叫んでいる矢野と向かってくるボールを視界に捉える。

そして……

堤防からも心地よい音が、鳴った。

「捕っ…た??」

その少女はとっさに持っていたバッグの中に右手を突っ込み。

そのまま中で右手へグローブをはめてバッグからその右手を引き抜きながら体の中心に……

ボールは綺麗にその少女のグローブに納まっていたのだ。

「ご、ごめん!怪我は?大丈夫だった??」

「ハ、ハイ!大丈夫ですっ」

矢野は急いで少女の下へ駆け寄る。

その声と心配そうな表情を見て、少女の心臓が不意に鼓動を早め出した。

「ほっ…よかったぁ……それよりもさ、グローブ持っててあの身のこなし、もしかして……野球やってたり、する?」

よく見ると少女はショートカットで学校帰りなのか制服姿だった。

「え、えぇっと…まあ、多少は」

そう答えた少女は捕ったボールを矢野へと手渡す。

その手は緊張からか、少し震えていた。

ボールから離れた手は震えが止まらないまま今度はスカートをギュッと掴んでいる。

視線を矢野へと移せないままの少女だったが、勇気を振り絞り自分の気持ちをぶつけてみた。

「あ、あのっ! 毎日ここで練習して……るん、ですか!?」

「え? そうだなぁ……この時間って決まってはないけれど、ほぼ毎日かな? でもどうして?」

妙に焦っていた気持ちを矢野に悟られまいと、少女はなるべく平然を装い会話を続けていく。

「私もたまにここで自主トレとかしてたんですけど、今まで一度も会ったりしてないなと…」

「ちょっと前までは中学で野球部あったから、季節にもよるけど…だいたい6時半前後かな?」

でも今は、野球部としての活動がないから今の時間にやってたんだ…と照れくさそうに頭に手をやりながら、そう答えた。

それを聞いた少女は頬を薄紅色に染めながら、意を決して……

「ま、毎日その時間なんですよねっ!? よよよろしければっあぁ明日! 練習ご一緒してもいいぃですか!!?」

(わわ私、初めて会った人になんてことをっ)

言い終えた少女はまた視線を地面に落とし、薄紅色だった頬もまた、今度は耳まで真っ赤に染め直していく。

「えっ? そうだなあ、野球部が明日明後日でまともに活動できる状態でもないし…うん、かまわないよ!」

「いいい、いいんですか? 本当に!? ありがとうございますっ!!」

真っ赤だった顔が、矢野の言葉を聞いてあっという間に笑顔に変わり、気がつくと少女は矢野の右手をグローブをしたままの両手で握り、上下にブンブンとさせていた。

 

少女はおもむろに自分の手と一緒に上下していた腕時計に視線を移す。

「あぁ! もうこんな時間に……」

矢野の右手から両手を離した少女は、右手にはめていたグローブを急いでバッグへと入れた。

「す、すみません! もう帰らなくちゃいけないので、また明日来ますね!?」

そう言い残して、少女は去っていった。まるで、桜吹雪舞わせる春風のように……

 

「また、明日……か」

矢野はしばらく右手を見つめていた。

 

 

 矢野から別れ河川敷から走ってきた少女は、息を弾ませながらゆっくりと自宅の玄関を開ける。

(まだ父さん帰ってきてない、よかったぁ、間に合った)

ゆっくりと開け、ゆっくりと閉める。

「あれ、今帰ったの?」

しかし、突然背後からの声に、聞こえるはずのない声に少女は驚き振り向いた。

「……はぁ~、脅かさないでよもぅ」

声の主は少女と同じ位の背丈の少年だった。

「ゴメン……でも僕より早く家に帰ってなかった?」

「しぃぃ~、声が大きいっ……父さんが急に帰って来たらどうするのよっ」

口元に人差し指をあてて少年を牽制する少女。

「……っ!?」

少年と話していた少女であったが、少年の後方から視線を感じ言葉を失う。

「あら、お父さんがどうかしたの?」

「か、母さん」

少女の母はいつからなのか、リビングのドアの前で微笑んでいた。

「な、なんでもないよ??」

「うふふ、何かあったかはあえて聞かないけれど……あんまり遅くまで無理しちゃダメよ? みんな心配しているのだから」

少女は苦笑いしながら「はぁ~い」と短く答えたが、内心では――

(ふぅ、怒られるかと思ったよ……)

と思っていたことだろう。

 

その夜、少女の顔から笑顔が消えることはなかった。

 




ここまで読んで下さった皆様ありがとうございましたっ!
あおいちゃんや矢部君といった原作キャラ(以降サクセスキャラ)を”そのキャラらしく”書けているか少し不安でありますが……
自分らしく”そのキャラらしさ”を表現していけたらなと思います。

次話の更新時期は未定。
ですが、なるべく早く更新できるように頑張ります!

あっ、感想などありましたら気兼ねなく書いて下さると、作者の自分も喜びます♪

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