執筆を進めていた途中、ちょっと気になったことがあったので調べ物して、その中で更に今後の展開に関わるものを精査していたら色々と考え無ければいけない箇所がちらほら出てきまして(汗)
それらを一旦整理して、再構築して、後々の展開とも矛盾無いか考えていたらこんな時間に。゜(゜´Д`゜)゜。
ともあれ! そのお陰でエピソードの編集や追加もやれそうだったのでそれは大きな収穫でしたっ。
では、今回はこの小説内の世界観や設定を少し紐解くため説明回となっております。
ので多少読みにくい感じになっているかも……
ではでは、始まります♪
伝説的な熱戦が幕を下ろしたその次の週、ここにあったのはいつもと変わらぬ風景。
お昼時とあって恋恋高校にも穏やかで賑やかな時間が流れていた。
そしてとある一角の空き教室でも他とは違った、だがそこにも確かにいつも通りの時が刻まれていた。
「でさ!? ボクのこと見るなり……悪いことは言わないわ、女の子で野球は止めといた方がいいわよ? ――って言ってきたのっ!」
「あ、あおい行儀悪いよ? 食べるか話すか、どっちかにした方が……聞いてないか…」
「それに、ボクめがけて突然ソフトボールを思いっきり投げてきたのよっ! もー思い出しただけでも腹立つぅーー!!」
何やら憎悪に満ちた愚痴を盛大にこぼしていたあおい、そのすぐ横に座って若干呆れながらもその様子を心配そうに見つめていたのははるか。
二人だけではなく、この空き教室には矢野をはじめ野球同好会全員が集まっていて一緒に昼食を摂っていた。
あおいが思わず身振り手振りで話さずにいれなかったこと、それは二日前の女子軟式野球大会決勝戦があった日。矢野と別れてからあった一連の出来事についてだった。
余程その出来事が腹立たしかったのだろうか、せっかく自分で手作りしてきた放つ色彩個性的な――いや、彩り豊かな弁当を事の顛末を力説しながらがっついていく。
「なるほど、ソフトボール部のグラウンドでねぇ」
ひとまず適度なところで相槌を打ちながら話を聞いていた矢野だったが、あおいの言う来訪者改め襲撃者のことがどうしても気になっていた。
母陽子お手製の鮭弁当をつまみながら、矢野は色々と思考を巡らせていく。
すると、メインである焼き鮭を何度か口に運んでいるうちに矢野の考えは何かに辿り着いた。
「ソフトボールねぇ……あぁ! もしかしてその人って、ハチマキしてなかった?」
「へっ? してたけど、どうしてそんな見てないと分からないこと矢野君が知ってんのよっ」
その場に居合わせた者にしか知り得ない情報、それを矢野は知っている。
あおいにはそれが不思議でしかたなく、荒々しく動かしていた箸を思わず止めてしまった。
が、その次の瞬間、やはり怒りの感情の方が勝っていたのか正面に座っている矢野へと鋭い視線を飛ばし始める。
ソフトボール。このキーワードから導き出された一つの推測。
「ちょっ、あおいちゃん怖いって! ……と、そうだった。きっと高木幸子さん、って人じゃないかな」
「高木、幸子……?」
あおいの問い掛けにゆっくりと頷いた矢野は更に幸子について語っていく。
「そう、
高木幸子、一年生にしてエースで4番。
それがあの日あおいを襲撃した者の正体だったのでは? と矢野は言う。
「へぇ~、だから野球やってるボクのことも気にくわなくって……」
襲撃者の正体を知ったあおい。
「って、と・に・か・くっ!! その高木さんがっ――」
一旦はその評判に関心しかけたが、ヒートアップした感情がそう簡単に静まるはずも無く。
ああでもない、こうでもないと矢野達への愚痴はまだまだ続きそうな勢いである。
あおいの愚痴大会がこのまま休み時間いっぱい続くのかと思いきや、話題はいつしかプロ野球の事へとシフトしていった。
きっかけは津村の宮間の間で交わされたこの会話。
「っにしても昨日のパワフルズ、あの試合はシビレたねぇ~。皆もそう思わんかい?」
「あっ、昨日のパワフルズ対ジャイアンツの一戦でしたか、あれは凄かったですよね!」
「だろん? 宮間っちもそう思っただろう?」
女子軟式野球大会があったためホーム球場を使用出来ずに、暫くアウェー戦を余儀なくされていたパワフルズ。
しかし敵地でもなんのその、順調に勝ち星を上げていた。
そのパワフルズは昨日、ようやくホームへ戻ってきての対ジャイアンツ戦。三連戦の初日だった。
ジャイアンツと言えばセ・リーグを代表する球団と言っても過言ではなく、実力や人気なども国内屈指のものを誇っていた。
普通に考えれば生まれ立ての球団が、歴史もあり力もある球団と互角に戦えるはずもない。
「オレも観ていたが、あのサード……橋森選手は技術が高いだけじゃない、意志の強さも並々ならぬものを感じた」
「いやいやいや、やっぱファーストの古葉選手だってっ。あの渋い活躍ぶりがたまらんのよ」
だが、昨日も勝っていたパワフルズにはそんな常識では計れない強さを持っていた。
事実、前半戦が終わりペナントレースを折り返す現時点で7球団中3位とAクラス。
それを可能にしていたのが、産声を上げたばかりの球団とは思えないほど前評判の良い戦力にあった。
新規参入球団とあって、パワフルズに支配下登録されている選手の多くが昨シーズン終了後、自由契約となり球団のトライアウトを受け、合格した者達だった。
実際、今まで所属していた球団から事実上の戦力外通告を受けた選手の集まりで結成された球団だったなら、現在の順位に到達することすら奇跡に近かっただろう。
では、何故Aクラス入りという奇跡を起こせているのか。
そこにはトライアウト以外でこのパワフルズに来た者達の存在が大きく関わっていた。
パワフルズ勝利への推進剤、原動力となっている存在。
他球団で主力選手としてプレイしていた彼らだったが、プロ野球人気復活を願って新たに創設されることになった2球団、そのうちの1つであるパワフルズが自らの地元である頑張市にホームを構える。
それを知った時、地元の球団は自らの力をもって支えたい。その一心で集まった者達がいたのだ。
そう、“自らの意志で移籍してきた者達”。
「うんっ、ボクも古葉選手は凄いと思う! けど、同じピッチャーとしてボクはやっぱり神下選手かな」
「わたしはどの選手がどうとかっていうのは詳しくないですけど、福家選手の打撃は凄いなと思いました」
津村達が各々に挙げた四人、彼らは皆頑張市出身の選手であり地元へ強い思いを持っていた。
本塁打王のタイトルを獲得したこともある頼れる4番、
プロ歴22年のベテランだが、積み重ねてきた猛打賞180回の数字が物語るその球界屈指と賞された匠の打撃はまだまだ健在な
140キロ半ばの速球と持ち球であるシンカーを武器に打者を翻弄、その実力と端正な顔立ちから女性ファンも多い
そしてエース神下とは好対照の、常に全力プレーが信条の『熱血フルスイング』の異名を持つ若きチームリーダー
この四人こそが前評判の高さの要因であり、今のパワフルズに必要不可欠な人材でもある。
またパワフルズに既存球団にも勝るとも劣らない勢いをも与え、球団創立一年目にして早くもパワフルズに黄金時代とも言える好調期を、彼ら四人はもたらしているのかもしれない。
「ホント地元にプロ球団出来ただけでも嬉しいのに、活躍してると更に嬉しさひとしおだよねー」
「だねっ。だけど、パワフルズの好調ぶり見てるとさ、逆に……」
あおいと共に地元球団の快進撃を喜ぶ矢野であったが、その顔は何故か冴えない。
途中で歯切れ悪く途切れた言葉が矢野の心境を如実に表してるようだった。
そして再び開かれた口から、その理由が語られていく。
「カイザースの低迷っぷりは……何だかいたたまれない気がするのは、俺だけかな」
「パワフルズと同じ創設一年目の球団ですし、ある意味こちらの方が成績としては普通なのかもですが……」
先ほどまで朗らかだったはるかですら“カイザース”という名前を聞いただけで落ち込んでしまった。
あおいや矢部、この場に居る全員が同じ気持ちを抱いていた。
武を示し頂点に立つ者、
そんな貴い名を戴くチームの正式名称は“たんぽぽカイザース”。
このチームもまた今シーズンから新規参入を果たした、パ・リーグ7番目の球団である。
だが、矢野達が揃えて肩を落としているように球団としての戦力は高くない。
寧ろセ、パ両リーグの中でダントツに低いと言ってしまっても誰もが納得してしまうほど。
球団の新規参入が決まり支配下登録の選手を募っていた時、実はカイザースにはあまり選手達が集まってこなかった。
地元でそれなりに経営力があった株式会社パワフルが中心となり共同運営されることになったパワフルズの方へ、トライアウト組等が集中して集まってきていたのが理由の一つと言われている。
そしてその理由を作ってしまった大きな要因も共同運営に携わる企業側にあった。
カイザースはパワフルズと違い特に主だった企業は関わっておらず、個々の経営力も少し劣っていたがそこを企業数で補っていたのだ。
それ故に球場や練習設備にも差が生まれ、その差がそのまま選手層の差に出た形、と言えるだろうか。
それはリーグ優勝も十分に狙える位置にいるパワフルズに対して、今シーズン6位に10ゲーム差付けられている事実からもうかがい知ることが出来ると言えよう。
皇帝の名は伊達か酔狂か、はたまた球団関係者達の切なる願いが込められたものなのか。
とは言え、球団が創設されて数ヶ月、その結論を出すのはまだまだ時期尚早なのかましれない。
「でもさ、確かに弱いけど、その中にあって“あの選手”の活躍は凄いねっ」
「あぁ、“あの選手”かー、そりゃまあプロ二年目とはとても思えん能力だし、オレも素直に凄いと思うぜ」
「でやんすね!」
手作りの卵焼き“のようなもの”を食べながらとある選手に思いを馳せるあおい。
共感する津村と相槌を打つ矢部。
「……その選手も確か、この近所が地元だったか」
「わたしの記憶違いでなければ、その方は確かパワフル高校出身、でしたよね?」
隣り合って座っていた山田と雪乃もその選手のことを知っている感じだった。
根っからの野球人である山田はともかく、野球を始めたばかりの雪乃ですら知っている選手。
「そうそうパワ高出身の
「うん、俺もそう思う! けど、プロ入り二年目であの成績の凄い選手を何でカイザースがトレード出来たのか――それが不思議でしょうがないけどね」
あおい達が語る日向という選手はカイザースへの移籍前、プロ入り初めてのシーズンに130試合以上出場していて、打率.289、本塁打数21本、安打数120本、盗塁26個――。
走攻守三拍子揃っていた日向は、ファーストでありながら打撃のみならず巧守での見せ場も多く、盗塁にも果敢に挑み、見事その年の新人王に輝いている。
更にはゴールデングラブ、ベストナインもダブル受賞。
それだけの逸材を如何にしてカイザースはトレード成立させれたのか、それは未だに多くのメディアが興味を寄せている事柄でもあるのだが――。
それがあおい達が話題にしていた選手の名前であり、実力ある選手がほぼ皆無の弱小カイザースにおいて獅子奮迅、孤軍奮闘していた選手の名前でもあった。
ちなみに日向は移籍後となる今シーズン、全ての試合にスタメンとしてフル出場している。
その日向は二年前のドラフトで1位入団。
中性的な柔らかい顔立ち、穏和で争い事を好まない人柄で女性ファンからの人気は特に高い。
新人離れした能力と経歴、人気を持つ日向だったが、あおいの言う通り甲子園出場経験はない。
日向自身は現在のプロでの活躍から見ても分かる通り、当時から優れた能力の持ち主であった。
だがそれ以上に他のチームメイトがあまりにも小粒過ぎ、チームとしての実力が低かったからだ。
そして、出場出来なかったもう一つの理由はやはりあかつき――。
当時から甲子園常連校だったあかつきには自然と有能な選手達が県内外から集まり、あかつきに入れなかった県内の者は他県の高校に進学し甲子園への活路を見出していく。
その結果、県内に、とりわけあかつきがあるこの地区には有力な選手は数少なくなってしまい、その数少ない選手達もまたそれぞれ違う高校へと分散。
県内に“あかつき一強”という特殊な現象を作り出していた。
当時のパワフル高校も正にその“あかつき一強”の波に呑まれる形となり、日向という逸材がいても地方予選を制するには至らなかったのである。
もっとも、今現在も県内においてあかつきの覇道を阻める高校は存在していないに等しいのだが……。
暫く地元の超新星について昼食を楽しみながら語り合っていた、恋恋野球同好会一同。
「――でさ、今思ったんだけどさ」
「へ? なにを?」
「今のあかつきに日向選手の最後の甲子園行きを阻止した、当時のピッチャーってまだいたよね?」
「あっ……」
すると話題は何かと名前が挙がっていたあかつきへと移っていく。
今までずっと日向について話をしていたが急に、それも真逆の話方向へと舵を切った矢野に初めは呆気に取られたあおい。
しかし、この地区に日向以外にもとんでもない選手がいたことを、矢野の言葉で思い出した。
「……そう言えばいたっけ。しかも今は三年生でエースでキャプテン、間違いなく県内最強のサウスポー」
「ピッチャーとしてはもちろん、バッターとしての実力もある要注意人物、
二人が口々に語り、その並はずれた彼の野球センスにただただ脱帽するばかり。
名前は一ノ瀬塔哉、彼が今の“あかつき一強”を背負って立つ男。
そして、今やプロとしての活躍を重ねている日向を高校時代、唯一苦しめた男でもある。
「一ノ瀬さんと日向選手が直接対決したのは確か――」
弁当に添えられていた沢庵漬けを食べながら、矢野は過去を振り返り始めた。
――今から二年前、矢野達がまだ中学二年生の頃。
当時から地区、県内の絶対王者としてその名を全国まで轟かせていたあかつき大学附属高校。
この年の新入生の中に一ノ瀬の姿があった。
一ノ瀬は前年十月に行われていた野球部のセレクションにて投打両方でトップの成績を叩き出し、入部直後に行われた一軍適性試験でも新入生の中でただ一人レギュラー格相手に勝利。
結果、新入生としては異例の一軍昇格をこの時期に果たしていた。
五月に行われた春季都道府県大会、一ノ瀬はリリーフエースに抜擢され千石監督の期待に応える好投。
続く春季地区大会においても少し前まで中学生だったとは思えないほどの球速と変化球、抜群のコントロールで活躍している。
この二大会、あかつきとパワフル高校の直接対決はあった。
しかし、良くも悪くもな意味で特筆出来る戦力を持っていなかったパワフル高校は点を取れず。
チームを引っ張ってきていた日向のみがあかつき投手陣を終始攻め立てる展開となっていた。
もちろん実戦経験を多く積む目的で一ノ瀬も終盤にマウンドへ上がっていたが、いずれも日向と相対する前に試合は終了。二人の直接対決は夏へと持ち越しとなる。
迎えた日向にとっての高校生活最後の夏――。
更に成長を遂げた日向と、その存在により今まで以上にチームが一つにまとまっていたパワフル高校は、当たると十中八九負けていた因縁の相手とも言えるあかつきと当たることもなく、トーナメントを順当に勝ち進んでいた。
連勝の勢いに乗り、遂に決勝戦までコマを進め、あかつき対パワフル高校。
この日も一ノ瀬はベンチで自分の出番が来る終盤を、試合を見つめながら待っていた。
だが、一ノ瀬の表情は見る見るうちに曇っていく。
パワフル高校は初回から繋ぐ打撃を意識し、始まってからさほど時間が経過していないうちにチャンスの場面を作り上げ、4番日向。
決して先発していたエースの調子が悪かったわけではない。
それでも、日向を中心として強い結束力を持つこの時のパワフル高校を象徴していたかのように日向のバットは閃き、先制点をもぎ取ることに成功。
勢いは収まるどころか増していき、追加点も数点入り、2回も保たずに絶対王者あかつきのエースは降板を余儀なくされる。
この予想外の展開に千石監督は若干焦りつつも、今大会一番安定感のあった一ノ瀬にスイッチ。
千石監督の采配は的中した。
完全に勢いづいていたパワフル高校の打線を多彩な変化球で封じ込め、一番気を付けなければいけない日向に対しても精密なコントロールで勝負を挑み、以後彼の全ての打席も凡打で打ち取っていった。
誰もがあかつきの不敗神話崩壊を意識していたが一ノ瀬の登板で一変。
勢い負けしていた打線も一年生の好投に奮起して、少しずつだが着実に点を返していった。
そして最終回、あかつきは逆転に成功し逆にパワフル高校は崖っぷちに立たされる。
超ロングリリーフとなっしまった一ノ瀬だったが、対日向のことを考えた千石監督の意向と本人の意思によりそのまま最後まで投げ切ることに。
一ノ瀬の鬼気迫るピッチングがパワフル高校を精神的に追い込み、残るアウトは3つという場面で先頭バッターは4番日向。
点差は1点、日向が打たなければ物理的にパワフル高校の逆転の芽は潰えることとなるだろう。
見つめ合い、譲れぬ想いを確認し合う日向と一ノ瀬。
時が満ち、一ノ瀬は左腕をしならせ、日向はバットを唸らせていった。
そんな勝負が暫く続き、とうに限界を超えていた二人だったが、この勝負を制したのは日向だった。
ぎりぎりのところで勝負に勝った日向。しかし試合に勝ったのはあかつきの方。
ライトへのスリーベースヒットを放った日向の後続が一ノ瀬からマウンドを託されたピッチャーを打てず、犠牲フライも打てず二者連続三振に倒れてしまったからだ。
甲子園行きを懸けた夏季都道府県大会決勝戦、そして二人が高校時代に対峙した最初で最後の試合。
力投した一ノ瀬に助けられる形で辛くも勝利を収めたあかつき。
その一方で日向の最後の夏はここで終わりを迎えることとなった。
これは少し後の話になるが、この年の八月末から九月初めに掛けて行われた十八歳以下による世界野球選手権大会に一ノ瀬、そして日向も選ばれ共に戦っていたため厳密に言えばこの大会が日向にとって最後の夏となるのだが……それはまた別のお話――。
お昼時で賑わっていた校舎の一角にある空き教室。
気付けば室内に居た全員が矢野の話に耳を傾けていた。
「要注意人物と言ってもでやんす、来年の春まで試合はおろか大会にすら出れないおいら達にとっては……要注意でもなんでもないでやんすがねー」
「ねぇ矢部くん? どうしてそう人の話の腰を折るかなあ……まぁ、事実だけど…」
だが、矢部の空気の読めない一言で日向と一ノ瀬、二人の活躍劇の話はここで一旦終えることに。
そこからはまたそれぞれが思い思いに他愛ない話で盛り上がり、教室内には八人の楽しげな笑い声が溢れていく。
その笑い声は窓から入ってくる午後の日差しのように明るく、温もりあるものだった。
今繰り広げられているこの光景が彼らの日常。
いつからだろうか、気付いた頃にはもう全員揃ってこうしてお昼時を一緒に過ごすようになっていたのだ。
「はるかちゃんが同好会のマネージャーになってもう三ヶ月は経つんだよね? 急にあれだけど、ボール磨きとかいつもありがとうっ」
「いえいえ、お礼を言っていただけるほどのことはまはだ出来てません……」
矢野からの突然のお礼ににこやかな笑みで応えるはるか、言葉が途中で詰まり視線を落とす。
「は、はるか……ちゃん?」
「私、皆さんのように体丈夫じゃないですけど、むしろよく倒れたりして人よりも体弱いですけど……」
俯いたまま、それでもはるかはゆっくりと、自分の気持ちを言葉にしていった。
「こんな私でも、あおいや皆さんのお役に立ちたかったから……だからこんな不甲斐ない私ですが、これからもマネージャーとしてよろしくお願いいたします」
「うん! こちらこそホントよろしくだよっ」
言い切る頃には俯いていた瞳も前を向き、いつもの見た者が癒される笑顔がそこにはあった。
はるかの隣に座っていたあおいも「うんうん♪」とにこやかに頷いている。
あおいだけではない、津村も宮間も雪乃も、あのいつも寡黙な山田もみんな、もらい笑顔。
「でもね? はるか、マネージャーやってくれてるのは凄く嬉しいし助かるけどさ、ほとほどに頑張ってよね?」
「そこは心配いらないよ。私の体の限界は私がよく分かってるもの」
今はまだ正式な部活動ではない野球同好会。
それだけに練習出来る時間も限られ、普通であればそれはそのままチームワークの善し悪しに直接関わってくるのだろう。
だが、矢野達の場合は少し様子が違っていた。
「長い付き合いのボクから見たら無茶してる時もあるから、無理な時は無理ってちゃんといいなよ?」
「うん、ありがとうっ。と言うかそういうあおいだって私から見たらかなり無茶なこと、よくしてるけどね」
授業間の短い休み時間、そして長い昼休み。
彼らにとってはこの時間もチームワークを育める大切な時間。
「え、えへへーー……そう、だっけ?」
(うっ、は、はるかってば、ホントいつも痛いとこ突くなぁ)
それぞれが心に持つ点、その一つ一つがこうやって“信頼”という名の絆の糸で結ばれていくのだろう。
厳しい練習を共に乗り越えていく、ただそれだけでは得ることが難しい本物の信頼関係。
彼らはその尊き信頼関係を自然体のまま紡いでいく。
「――いっただき~っ♪」
「あぁ! ちょっとそれ私の卵焼きー! ……もー、しょうがないなぁ」
今日も明日も、そのまた明日も、流れていく時の中で。
それぞれの良いところ、悪いところ、その全てを肌で感じ取りながら。
笑い、泣き、そして時には本音をぶつけ合って。
――こうして今日も野球同好会の面々は何気なくも、幸せな一時を満喫していくのだった。
……はい!
ここまで読んで下さりありがとうございましたー(≧∀≦)ノシ
分かる方はもう既に分かっていたとは思いますが、4話前にあおいちゃんを襲撃した人物の正体が今回明かされました。
そう、さっちー?こと高木の幸子さん!!
と、割とさくっと正体バレてしまった幸子さん…。
そして今回は遂にパワプロ的な要素(人物など)が登場コジロー!!←
その流れから今回は主に新規参入球団2チームについて触れました。
パワ10では元々両方セ・リーグ+パにキャットとやんきーも存在してましたが、こちらでは諸事情(主に作者の←)により新規参入は2チームということにしております。
まあ、パワフルズがいきなり黄金期っていうのはちょっとやりすぎた感が否めませんが(^0^;)
そして、今回のを更新しようとしたらパワスタの方でまさかの橋森&神下選手追加!!
これにはタイミングの良さ?に思わずビビってしまいました。
パワフルズについてはこれくらいにして、次はカイザース!
こちらはパワフルズ以上に作者の都合が色々と詰まっていたry…
話はズレますが、自分はパワ10やってた当時、猪狩カイザースになる前はチームのオーナーがたんぽぽ製作所だと”勝手に”思っていました←たんぽぽ製作所はパワ99のサクセスで選べる企業です。
――お話戻しましてっ(>_<)
プロ球界にスポット当てているパワフルズとは対照的にカイザースは所属しているとある一人の選手にスポットを当てています。
日向選手、彼は本文にもあったように現在あかつきのエースにしてキャプテン・当時一年生だった一ノ瀬さんと真剣勝負した間柄。
今後もこの二人は何かと出てくる予定なので、彼らの存在を忘れないでいて下されば幸いですヾ(^v^)k
そして明るい展開だった今回でしたが次回は……。
それは次回のお楽しみということで(爆)
では今回はこれにて!