女体化して女子大に飛ばされたら初恋の人に会えたけど、面倒な運動にも巻き込まれた。 作:斎藤 新未
俺とカレンは、講義室Cの武器製造室担当だった。
まだまだ材料が余っている武器をひたすら作り続け、そして講義室AとBに運んでいく。
危険すぎるニトロを守るのも、俺の役目だった。
C講義室の担当はロッカ。俺たちにきびきびと指示を出す。
ニコニコしていたロッカの表情が引き締まっているということに、俺の気も引き締まる。
俺はカレンと組み、火炎瓶が詰め込まれているビールケースを台車に乗せ、隣りの講義室Bに運ぶ。
Bでは、窓を開けてハルが拡声器を使って「侵入は認めない。交渉には応じる」と同じ言葉を何度も叫んでいた。
Aからも、何人かが同じ言葉を叫んでいるのが聞こえる。
しかし、機動隊は全く聞き耳を持たない。外から「突入!」という男の声と、大勢の足音が聞こえてきた。
ハルに火炎瓶を渡しながら外を覗き見ると、2、30人はいる機動隊が校舎にどっと走り込んでくるところだった。
しかし、校舎の入り口にはしっかりと鍵を閉め、机や備品を積み重ねて有刺鉄線で固めた頑丈なバリケードもはっていた。
機動隊はそこから入ってこられず、ドアや壁を叩きながら右往左往していた。
ハルが
「攻撃!」
と叫ぶ。
すると、ハルを始めとする女子たちが火炎瓶の布部分にライターで火をつけ、下の機動隊に向かって放り投げた。
いくつもの火炎瓶は「パリン」と小気味いい音をあげ、そして思いのほかすさまじく燃え上がっている。
地面の上で燃え盛っている炎から、機動隊は散り散りに後ずさる。
とはいえ、ガソリンが燃え尽きると火も消えてしまう。
それ以上進めないよう、火が途絶えないように次々と火炎瓶を投げていった。
俺も、講義室Bの火炎瓶を途絶えさせてはいけないと、また武器製造室に走る。
武器製造室では、さきほどコツをつかんだ製造係たちが鬼気迫る様子で次々と武器を製造していた。
火炎瓶ひとつであんなにパニックに陥っていた女子たちが、その数時間後には武器製造マシンへと成長しつつあった。
女子の底力はスゴイ、の一言に尽きる。
屋上からは、アキが拡声器を使い、外に集まっている大人たちや学生、機動隊や警察関係者に訴える声が校内にも響いていた。
俺はそんな中で、夢中になって火炎瓶の運び屋をこなしていた。
透だった頃、こんなにも走ったことはあっただろうか。
みんなで一丸となって、何かに夢中になったことはあっただろうか。
いや、高校にさかのぼっても、中学にさかのぼっても、実は小学校でもこんなことなかった。
人よりも頭ひとつ劣っていると小二で早々と気づいてしまった俺は、それからの人生目立つことなくただひっそりと息をしてきたようなものだった。
部活も帰宅部だったし、テニス部や野球部が練習に熱中している様子を横目に俺は通学路を行き来していた。
あんなに汗をかいて何が楽しいんだろう、と思っていたが、汗をかくことがこんなにも楽しいなんて。
なにより、ここは女の子の園である。
女の子たちが汗を流しながらひとつの目標に向かって必死になっているというのは見ていて気持ちがいい。
いや、なんだかおっさんのような気持ちではあるのだが、この中にいられることへの優越感が俺を奮い立たせていた。
「トーコ、ブロックも持ってきてくれない?あいつら、消火器出してきやがった」
火炎瓶を渡しながら、ハルに言われた。
「本当だ。ひきょう者!」
なんとなく、興奮して、ヤジのような言葉を下で火消しに翻弄している機動隊たちに投げかける。
と同時に、俺は思い切り火炎瓶を投げつけていた。
俺が投げた火炎瓶は、消火器で消火作業をしていた機動隊の頭に直撃した。
思わぬ事態に、俺もハルも息をのむ。
頭に火炎瓶を食らった機動隊の一人は、火がついてしまったヘルメットをぶるぶるんと振りその場に倒れそうになっていたが、周りの仲間によりすぐに消火された。
この一瞬で、全身にぶわっと冷や汗が出る。
「よかった」
心の奥底から漏れた俺の言葉に、ハルは、
「殺しちゃったら意味ないからね」
とぽつりとつぶやいた。
ダリア連合軍の防御が意外にも厚かったことで、機動隊は一時撤退した。
テレビの情報によると、マスコミと警察側にはすでにダリア連合軍がニトログリセリンを入手していることが知れ渡っているようだった。
そこで、むやみに攻撃をすると爆発してしまうということから、撤退に至ったとレポーターは伝えている。
しかし機動隊は諦めたわけではなく、学校の隅で整然と待機し、警視庁長官からの命令を待っているようだ。
武器製造室で座りこんでいる俺のお腹がグーと鳴る。
室内の時計を見ると、すでに午後3時を回っていた。
機動隊との戦いに夢中になって気づかなかったが、実はもうこんな時間なのだ。
それは、お腹もすくわけだ。
「おにぎり食べなよ」
隣りに座りこんでいたカレンが、俺にアルミで包まれたおにぎりを手渡してくれる。
カレンもまた、アルミを開き、大きなおにぎりを頬張った。
カレンの顔をよくみると、頬と鼻にススがついている。
それに気づかずおにぎりを頬張るカレン。
「おいしい」と頬を緩めるカレン。
可愛すぎる。
あまりにも幸せすぎて、このまま昇天してしまいそうだ。
俺も大きな口を開け、おにぎりを頬張った。ほんのり塩加減のシャケおにぎりだった。
「これ、カレンが作ったの?」
「そうだよ。トーコがトイレに行ってる間にね」
あの15分ほどの間にこれを作っていたのか。
今となっては、「逃げなくて良かった」という気持ちが勝る。
「おいしいよ」
「ありがとう」
神様、何度も言わせていただきますが、ありがとうございます。
俺はこのシチュエーションを長い間待ち望んでいたのだ。
これが、太陽の光が降り注ぐ芝生の上だったらどんなに幸せだったことか。
「これから、どうなるのかな」
カレンが、周囲に座っている人たちに不安を悟られないよう、小さな小さな声で俺に囁いてくる。
俺は、俺の頭で考えられるだけのことをそのまま伝えた。
「ニトロがあるってことがわかってるから、攻撃はしてこないと思う。アキさんとか椿さんが言ってる、国家機密ってのも守らないといけないだろうし」
「そうだけどさ、本当は、朝の時点で防衛省の人か警視庁の人が来て交渉をする、っていう計画だったんだよ。でも、そんな動きも全然ないじゃない」
「俺は、それは、あんまりにも短絡的な計画だと思うけどな。何人ものお偉いさんの許可を通過してやっと動けるものなのに、午前中に動けるなんてことはないと思うよ」
俺の一言に、カレンが面くらっている。
そういえば、昨日から情けない発言ばかり繰り返してきたから、なんとなくなりにもハッキリと発言していることに、カレンは驚いているのだろう。
案の定、
「トーコがトーコっぽくなって良かった」
とカレンが笑顔を見せた。