女体化して女子大に飛ばされたら初恋の人に会えたけど、面倒な運動にも巻き込まれた。   作:斎藤 新未

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戻ってきたけど、終わっていない?

 目を開くと、うす暗い室内だった。

 頭はひんやりと冷たく、身体が重い。

 目を泳がせると、天井が見えた。

 そして視界に突然、カレンの顔が飛び込んできた。

「あ、起きた!」

「カレン?」

 俺は思わず声をあげた。そして、自分の声が低いことに気づく。

「やだ、またカレンって言った?だから花梨だって言ってるでしょ?」

 カレンは、頬を膨らませている。

 ここがどこなのか、俺が誰なのかが思い出せず、俺はゆっくりと身体を持ちあげてみた。

 身体はなんだか重く、大きくなっている気がして、扱いにくい。

 そして気づいた。

 俺の見なれた手。見なれた腕。見なれたぺたんこの胸と、そして、見なれた股間!

 戻ってきたのだ、花田透に。

「ねえねえ、俺、男?」

 俺の妙なテンションに困惑しながらうなづく。

「そう、男男。おとといもずっとそんなこと言ってたよね?」

「そうか、やっぱり…」

 

 嬉しいことは間違いないのだが、複雑な感情が入り混じる。

 トーコは、俺と入れ替わりにあの身体に戻った。

 そして、あの銃声。カレンは、炎に焼かれ苦しむ前に、心中を図ったのだろう。

 深刻そうにうつむいている俺の顔を、カレンと同じ顔をした女の子が不思議そうに覗きこんでくる。

「なに、どうしたの?」

 俺が花田透だということは、目の前にいるのは、あの、花梨ちゃんだった。

「花梨ちゃん」

「ん?」

「花梨ちゃんだよね?」

「うん」

「会いたかった」

「……」

 花梨ちゃんはきょとんとした顔で俺を見つめ、そして恥ずかしそうにほほ笑んだ。

「本当だよ、死んじゃったかと思った」

 花梨ちゃんは、俺の背後に向かって呼びかける。

「みんな、透くんが目をさましたよ」

 

 なんとか体をねじって後ろを振り返ると、そこでは他の誰かも寝かされており、その周りに大勢の学生たちが集まっているところだった。

 周りを見渡す。

 あのボロアパートではなかった。

 なんだか見なれた場所。

 そう、整頓されているが、講義室だ。

 AかBかCかわからないが、俺はあの講義室の隅に寝かされていたのだ。

 安本が、俺にかけ寄って来た。

 なんだかこのこ憎たらしい顔が懐かしくてたまらず、

「久しぶりだなー!」

 と声をかけていた。

「は?そうか?なんだよ昨日までは『お前は誰だ』とか言ってたくせに」

「そうかそうか、そんなこともあったなー」

 

 しかしふと気づく。

 なぜ俺は講義室に寝ているのだろう。

 もう一度改めて周囲に目をやると、あちこちに布がつっこまれた瓶が置かれているのが目に入った。

 その隣りには、砕かれたブロックが置かれている。

 まさか、と思ったが、俺は今透なのだ。

 何度も自分の顔に触れてみるが、どうしたって触りなれた皮膚に鼻に唇がここにはある。

 しかし透なのに、なぜ武器が置かれた講義室に寝かされていたのだろうか。

 これじゃまるで、トーコの世界だ。

 

「なあ、安本。今どういう状況?」

「お前、バリ封中に突然倒れたんだぞ」

「バリ封?」

 聞き捨てならないワードである。

「そう。これから屋上で演説するぞってときにいきなりばたっと倒れやがって。明子さんも同じタイミングで倒れたから、ガス漏れでもしてんのかと思ったけど全然そんなことないし」

 安本はそう言って、さきほどから寝かされている誰かを指差す。

「明子さん、大丈夫かなぁ」

 花梨ちゃんも不安そうに寝かされている誰かを見る。

 

 明子さん。

 

 ものすごく、嫌な予感がした。

 そしてその明子が寝かされている周囲から、大きなどよめきが起こった。

「起きた!」

「目ざめた!」

「大丈夫ですか!?」

 俺が目を覚ましたときには花梨ちゃんと安本以外は俺のそばにいなかったが、明子さんとやらが目を覚ましたときには、20人以上の男女が一斉に集まってきた。

 俺も、重たい身体を持ちあげ、歩きだしてみる。

 トーコはだいぶ体重が軽かったのか、今は自分の身体がでかくて重くてしかたない。

 

「透くん、大丈夫?」

 花梨ちゃんが、肩をかしてくれた。

「ありがとう」

 照れくさくて、思わず顔を伏せてしまう。

 今は、花梨ちゃんがここにいる。

 正真正銘、俺がずっと会いたくてたまらなかった花梨ちゃんが、俺の顔を見て、俺の名前を呼んでくれているのだ。

 大勢の人たちの肩の間から、明子の顔を見た。 

 そして思わず

「アキさん」

 と声をあげてしまっていた。

 周りが、

「お前、いきなりアキさんってなんだよ。明子さんだろ」

 と小声で言うが、俺にとってはアキだ。

 だって、アキそのまんまの姿なのだから。

 明子は俺をじっと見つめたが、目を細め、言った。

「トーコ?」


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