女体化して女子大に飛ばされたら初恋の人に会えたけど、面倒な運動にも巻き込まれた。 作:斎藤 新未
バリケードは、崩れてもバリケードだった。
なんとか山を越えれば4階の階段に辿りつけるかもしれないが、仲間がこの下に埋まってしまった今、この上をのぼる気にはなれなかった。
それに追い打ちをかけるように、机とイスの山に火炎瓶が投げ込まれた。
瓶は派手な音をたてて割れ、赤い炎をあげて燃え盛っている。
火炎瓶を投げたのは、アキと、園子だった。
園子は顔を真っ赤に腫らしながらも、かろうじて目を開けているようだ。
二人は、屋上への階段を降りながら、崩れたバリケードに向かって火炎瓶をもう一本投げた。
「何するんですか」
俺の問いかけに、アキは
「この山を越えようとバカな気を起こすやつが現れないように」
とためらうことなく言ってのける。
その時、屋上から降りてくる二つの足音が聞こえた。
「ここから出ることは許されない。逃げようとするものは皆、犬とみなす」
アキと、園子だった。
園子は顔を真っ赤に腫らしながらもかろうじて目は開いており、その目は俺を真っすぐ睨んでいる。
俺は思わず顔を伏せた。
「何人巻き込まれた」
アキの冷静な声が、俺をとらえる。
「たぶん、10人は」
恐る恐る答える俺に、アキはニヤリと笑ったようだった。
そして手にしていたもう一つの火炎瓶に火をつけ、投げ込みながら言った。
「バカばっかりだ」
燃焼材料となるものが山となった今、天井から降り注ぐシャワーでもその燃え盛る火の勢いには敵わず、シャワーは徐々に弱まっていった。
「みんな、ここに集まっているのか?」
アキの声に、俺は少しだけ振り返り、人数を確認する。
カレン、ハル、マツリ含む10人ほどがそこに立ちつくしていて、俺は首を曖昧に傾けた。
「たぶん、Cにまだ何人か」
誰かがぼそっとつぶやく。
「逃げよう」
そして俺、カレン、ハル、マツリ以外が、講義室Cへとかけ出していった。
恐らく、光ともう一人が外から狙撃されたことを知らない、アキ派の誰かだろう。
「あそこからは逃げられない!」
俺が叫ぶが、誰もこちらを振り向きもせずに、一直線に走っていく。
「私、止めてくる」
「私も」
カレンと、マツリがあとを追いかける。
俺も駆け出そうと思ったが、その場で燃え盛る瓦礫の山と化したバリケードの山を見つめているハルが気になり、駆け出すことができなかった。
「なあ、ハル」
アキの声に、ハルは睨むようにしてアキを振り返る。
「なぜ、みんな逃げたがるんだろう」
「どっちにしろ死ぬって、わかったからじゃないですか」
「死ぬ?」
「アキさんについていたって、殺されるんだ」
「それはどういう意味だ」
「アキさんは、戦争反対とか言いながら、本当は戦争が大好きですよね」
「……」
「あなたは日本をどうしたいんですか?」
「おい、ハルやめろよ」
しかしハルは俺の声が聞こえていないように、目を血走らせてアキを睨みつけている。
「自分の好きなように操りたいんですよね?周りの人間も、日本も。そんな人に、平和を訴えられたくない!」
パンっ。
一瞬の出来事だった。
俺の目の前で、ハルが胸から血しぶきをあげながら壁に叩きつけられ、そしてその場に崩れ落ちた。
「アキ」
園子が、アキが手にしている拳銃を奪う。
アキは呆然としている様子で、そのまま階段に座り込んでしまった。
「おい、何してんだよ…」
仰向けになって倒れたハルの顔を見ると、いつでも顔を真っ赤にして叫んでいたハルの顔は、真っ白になっていた。
苦しそうにむせ、そして口から泡のような血をゴボゴボと吐き出す。
「ハル」
ハルにかけより、無我夢中で血が溢れ出ている胸を押さえた。
「ハル、ハル」
一生懸命話しかけるが、ハルは俺のことを見てはくれない。
「なあ、ハル、ハル。ここから出るんだろ、なあ」
その時
「ダメ!危ない!」
というカレンの叫び声が、講義室Cの前から聞こえた。
そして、爆音とともにCのドアが吹き飛ぶのが見えた。室内から、粉々になった何かが吹き飛んでくる。
その中には、ピンク色をした肉片とも思える何かがたくさん混じっていた。
「うそだろ…」
すぐに察した。
ニトロだ。
誰かが、ニトロの箱を倒すか落とすかして、爆発させてしまったのだ。
カレンとマツリはかろうじて講義室Cの前に倒れ込んでいたが、顔や手足に怪我を負っているらしかった。
俺は、カレンの元へ走ろうと立ちあがったが、すぐに後頭部を殴られた衝撃で、その場に倒れ込んだ。
すっかり油断していた。
園子だ。
振り返ると、顔の皮膚がただれた園子が、鬼のような形相で俺を睨んでいる。
そして容赦なくもう一度、思い切り脳天からゲバ棒を振りおろしてきた。
頭から熱いものが吹き出すのを感じながら、その場に崩れ落ちた。