目を覚まして、横たっていた場所はフローリングでもコンクリートでもなかった。耳元で枯れ葉がカサカサ音を立てている。冷たいけれど柔らかい土の感触。ここは。
「森の中・・・・・・?」
上体を起こしてきょろきょろすると、人の気配はまるでない。木々が鬱蒼と生い茂り、ただしんと静寂さを保っている。ここはいったいどこなのか、全く見当がつかない。
「Zの奴ら、こんなところ通ったのか?」
同じように目を覚ました翼が頭を掻きながらぼやく。
棗はすでに立ち上がり、歩き出そうとしている。
「突っ立ってたってどうにかなるわけじゃねぇ。さっさと探すぞ」
いずれにしろ、蜜柑達は穴を通りここへ来たのだ。ならばZもここを通ったと考えるのが妥当だろう。何か手がかりがあるかも知れない。
そんな僅かな期待と共に歩き始めたものの、手がかりらしきものは見つからない。奥へ進めば進むほど木々が密集し、黒々とした闇を創り出す様に、先行きへの不安が募っていく。
おかしい、と棗がつぶやいた。
「石像が多すぎる――不自然なほどに」
「・・・・・・いわれてみれば」
動物や人間の石像がごろごろと転がっている。じっと視線を合わせれば、それは不気味なほどリアルだった。まるで、つい一瞬前まで、生きていたかのように。
「――下がれっ!」
何かに気づいた翼が蜜柑を後ろへ押した。直後ピンッ、と光線が足すれすれに走った。光線は地面へと到達し――その周囲が灰色の硬い石となるのを、蜜柑達は呆然と見つめた。いつの間にか、木々がぐねぐねと奇怪に動き、ザワザワと葉音を鳴らしている。
「石化のアリス・・・・・・!?」
罠だ、と叫ぶように言ったのは棗だった。この場所にアリスが転移されているのだ。侵入者を阻むことが目的なのだろう、光線にあたれば、蜜柑達も転がっている石像と同じ末路をたどることになる。
「やばいぞこれ・・・・・・こんなアリスここに持ってくるなんて、相当なアリス使いじゃねぇか・・・・・・!」
翼が毒づくが、だからといって攻撃が緩まることはなかった。木に囲まれている中で、光線はいつどこから襲ってくるか分からず、皆常に気を張り身体を動かし続けるほかない。他人にまで目を向ける暇がなかったのだ。
だから、ドサリという音が聞こえてようやく、流架の状況を知ることができたのだ。石像やら枝に躓いたか、体勢が崩れ四つんばいの状態だった。どう見ても恰好の的だ。一番近くにいた蜜柑は、光線が流架へと走るのを見た。
「ルカぴょん・・・・・・!」
衝動的に身体が動く。思考もなにもあったものではなかったが、少しなら考えていた。自分の無効化なら、石化も防げるのではないか。
流架の横からしがみつき、半ば突き飛ばす勢いで地面に身を投げ出す。数秒間、そのままだった。時間が止まってしまったかと思うほど静かに感じた。恐い。今どうなっているのか。まだ平気なのか。
――生きてる?
流架が下でもぞりと動く。棗と翼の声が聞こえる。
「蜜柑、お前そのままそこにいろ!」
駆け寄ってくる足音、そして上に何かが乗った。翼が、流架と蜜柑ごと抱き込んでいるのだ。おそらく棗もそばにいる。翼が地面に手を突き、静まれ、とアリスを使った瞬間、葉のざわめきがやんだ。重苦しい緊張を孕んだ沈黙。密着され息苦しい中で、なんとか外の様子を見ようと頭を動かした。
「・・・・・・収まったか?」
翼が身体をどかしてくれたので、立ち上がることができた。蜜柑の無効化、翼の影使いのアリスによって、木々に転移されていた石化のアリスは収まったようだった。ほっと息を吐いて、それを助けてくれたものを取り出す。
「それ、殿の石じゃねぇか」
「行くときにくれたんや」
ナスの形をした紫色の石だ。
「俺たちこれに助けられたのかよ」
翼と棗がことさら微妙な表情をするが、とても役立つことは事実だった。アリス石の使用量には限界があるので、いつまで持つか分からないけれども。
どうやら山には罠があちこち仕掛けられていると考えた方が良い。落とし穴だったら可愛い方だ、命を奪うような罠がある可能性が高い。ことさらに気を引き締める必要があった。
疲労が溜まって油断してしまっては元も子もない。流架のアリスで場所を探し、休憩を取ることにした。
かなり遅れてしまいすみません。
しばらく不規則な更新になると思いますが、長い目で見てくれると嬉しいです。