アリス学園の生徒はアリスという不思議な能力をもっているという。炎や氷が出せたり飛べたり。様々な能力をもった子供たちが保護されてくると。
「きみも同じようにアリスを持っているんだ。覚えがないのは、まだ目覚めていないからだ。きみには確かに、アリスがある。そうだろう? 行平校長」
高校長という、偉い人らしい男の人は頷いた。
「ウチ・・・・・・何をもってはる?」
やや明るい気持ちになった。超能力。子供が聞けばわくわくしてくるような話だ。ウチも飛べたりするんやろうか、ときらきらした目で問いかける。
見つめられて初校長も笑った。やっぱりどこか不気味な笑い方だった。
「無効化のアリスと――他人のアリスを盗み、入れるアリスだ」
高校長の顔が曇る。蜜柑は気づかず無邪気に話を続ける。
「むこうか?」
「他人のアリスを使えなくできるんだ。たとえば、炎を出すアリスがいるだろう。きみは炎を出すことをやめさせたり、出している炎を消すことができる」
「なんか地味やなーそれ。もうひとつは?」
「そのままだ。人のアリスを取り出し、それを別の人に入れ直すことができる。見てごらん」
初校長がいくつかの石を取り出してきた。赤や水色、黄色など、いろいろな色がある。綺麗だ。
「瞬間移動、氷、読心術――アリス石といって、アリスの力がこめられているものだ」
「きれい」
「私のコレクションだ。私はアリス石を集めることが趣味でね、是非きみにも手伝ってもらいたいんだ」
蜜柑はまだ知らなかった。初校長がどんな人間か。なぜ自分が求められていたのか。自分の出生の秘密も。
初校長は悪魔だと、蜜柑は断言できる。
学園にきてから数日はなにもなかった。蜜柑は本部のある一部屋をあてがわれた。バルコニーから外が見えて、時折制服をきた生徒を見かけた。楽しそうだった。混ざりたいと思った。けれど蜜柑は入学を許されなかった。
八日目にまた初校長の部屋に呼ばれた。仮面の男の人に連れてこられた。部屋にはもう一人、女の人がいた。
「蜜柑、まずは彼らを紹介しようか。二人とも私の側近だ。ペルソナは初日にあったかな。彼女は小泉
「佐倉蜜柑です」
挨拶をして手を出したら、ぱしりと振り払われた。月の目は思わずひるむくらいきつい光を宿していた。
「この子が、あの女の・・・・・・」
なぜそんな目で見られるのか分からない。とりあえずは初校長の声で収まった。
「あの部屋には慣れただろうから、今日から仕事をしてもらうよ」
「しごと?」
「そう。きみのアリスを使って、私が指定する人のアリス石を盗って欲しい。たまに入れる事もやってもらうよ。とはいえ、まだ初日だ。まずは私の身体でアリスを使ってみて欲しい」
「初校長、彼女はまだアリスを使ったことがない。何が起こるか・・・・・・」
ペルソナがとがめたが、初校長は平気だと笑った。
蜜柑は恐る恐る初校長の胸のあたりへ手を伸ばした。とはいえ、どんな風にやればいいのか分からない。盗るアリス。盗る。取り出す。アリスを盗る。身体の中にあるものを。えいやっと何かをつかみ、取り出すイメージを浮かべた途端、頭の中がぐらりと揺れた。立っていられない。
気づいた時には、自分の部屋のベッドに寝かされていた。そばには高校長が腰掛けていた。蜜柑が目覚めたことに気づき、気遣わしげにのぞき込んでくる。
「具合は悪くないか」
頷く。
「初めてアリスを使ったからだろう、身体に負荷がかかったんだ」
「アリスを使った・・・・・・? てことは、ウチ」
「初校長のアリスを取り出した」
なぜか高校長の顔は苦渋に満ちていた。喜んでいないのだろうか。どうして。
「高校長・・・・・・は、嬉しくないん? ウチ、初めて使えたのに」
何かをためらって、結局いうことをやめてしまったようだ。高校長は蜜柑の頭をなでた。
「無理をしてはいけないよ。何かあればすぐにいいなさい」
「はい」
「それと、おじさんで構わない」
高校長は蜜柑に優しかった。今まであった大人で一番安心する。まるでじーちゃんみたいだ、と思って少し胸が痛んだ。
じーちゃん、元気ですか。病気になっていませんか。