ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
「双方、剣を引け!」
キリトの言葉が辺りに響き渡り、その場の全員がざわついた。
彼らは会議から強襲の場へと変貌しようとしていたこの場へ、スプリガンの闖入者が来たことに驚いている。
「指揮官に話がある!」
そして、さらにそのスプリガンに続いて、インプとウンディーネの《絶速剣》が続いていることにどよめきが広がるが、その後に来たケットシー……つまり、シリカの登場によって、プレイヤーたちは納得の様子を見せ始めた。
そんな中、リーファはシルフ領主であるサクヤの元へ降り立った。
「リーファ!? どうしてここに?」
ここにいるはずのない同朋の登場に、サクヤは驚く。リーファは、少し緊張した面持ちを見せながら彼女の説明した。
「簡単には言えないけど……ひとつ言えるのは、あたし達の運命はあの人次第ってことだわ」
「……何が何やら……」
その一方で、キリトの前には指揮官らしきプレイヤーが出てきた。
「俺はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使である!」
キリトは勝手にそう言ったが、それはもちろん法螺吹きである。
「我々スプリガンは、この同盟ののちにケットシー、シルフとも可能であれば同盟を結ぶことを検討している。そのため、俺たちとしてはこの同盟に邪魔が入ることは好ましくないってことだ」
そこまで言うと、キリトは息継ぎをしてから言い放った。
「この4種族を敵に回したことを、後悔したいか?」
「なるほど。貴様たちの警告は分かった……しかし、お前らが大使ということを、そう簡単に信じる訳にはいかないな」
指揮官は、やはりキリトのことを疑っていた。
無理もない。その場で急に後出しのように言い聞かせようとしたところで、疑われるのは当然のことだ。
「だったら、私が証人になります」
すると、シリカが飛び立って彼らの目の前に出た。
SAOもそうであったが、ALOにおいてもある程度はプレイヤーの現実世界の体格などが、そのまま仮想世界でも模倣される。したがって、シリカの12、3歳程度にしか見えない若手女性プレイヤーに、驚きの声が生まれた。
「私はシリカ。キリトさんと共にここまで来た者です」
シリカがここまで大人数を前に話をすることは、SAOでもなかったことだ。彼女は、少しばかり緊張していたが、なんとか声が上ずるのを抑えていた。
「ここに来る前に、私たちはサラマンダーのメイジ部隊に襲われました。この会談の妨害を邪魔されないようにするための部隊だったことを、証言させています」
「そうか。ウンディーネのみならず、ケットシーとインプもそのスプリガンと一緒にいることには、そういう意味があったのか……だが、その話を鵜呑みにするわけにもいかないな」
指揮官の男は自分たちの戦力的な余裕もあってか、ずいぶんと冷静だった。
「だが、お前らのどちらか1人が俺と戦い30秒避けきったら大使として認めてやる」
サラマンダーの指揮官は、背中の両手剣を取った。
それを見て、ユウキが言った。
「あの剣……《魔剣グラム》だよね?」
北欧神話において、竜に変身するドワーフであるファフニールを殺すために、レギンというドワーフからシグルズが与えられた剣である。
竜殺しの剣、ということで、シリカは再びユウのことを思い出した。奇しくも、両手剣というカテゴリも同じである。
だから、シリカは言った。
「キリトさん、私に戦わせてくれませんか?」
「え?」
自分が戦う気まんまんであったキリトは、その意外な要請に思わず気の抜けたような声を上げてしまった。
確かこの少女は、そこまで好戦的ではなかったはずなのだが……。
「相手は両手剣ですから、私の得意分野ですし」
「ああ……分かった」
しかし、自分の予想外に積極的なシリカに、キリトは思わずその場を譲ってしまう。
そして、周囲の者たちの予想に反して、スプリガンの男ではなくケットシーの少女が出てきたことに、その場にいた全員がどよめいた。
「ほう、俺は男が出てくるのかと思っていたのだがな。しかし、竜種を連れているのだから、油断などしない」
「構いません。行きます!」
シリカがダガーを構えて突撃し、ユージーンがその突きを受け止める。
返す刀で斬り付けるユージーンの魔剣の軌跡を、シリカは下がりつつダガーで弾こうとして……そして、両手剣はダガーを『すり抜けて』彼女の体を浅く切り裂いた。
シリカに動揺が走り、そしてその隙にユージーンは再び彼女に迫って剣を薙ぎ払う。
だが、そこは《アインクラッド》最強の両手剣使いをパートナーにしていたシリカだ。あえて前に進み出ると、その右肩を突いて無理矢理剣の動きを止める。
そして体術スキル《水月》のような水平蹴りを叩き込み、再び距離を取った。
「ほう。なかなか反応がいいな」
「武器を透けさせることができるんですか……」
両者が武器を構えなおす。そしてその隙に、ピナはシリカのHPをヒールブレスで回復させていた。
その戦闘の様子に、周囲がざわめいた。
「な、なんなんだよ、シリカの防御を貫通したぞ!?」
キリトの疑問に答えたのは、ケットシーの領主のアリシャだ。
「ユージーン将軍の《魔剣グラム》には、《エセリアルシフト》っていう、相手の剣や盾を非実体化してすり抜ける能力があるんだよ!」
「な、なによそれ! 無茶苦茶だわ!」
リーファの言うとおりの無茶苦茶な性能の剣を前に、シリカは苦戦を強いられた。
元々スピードタイプのシリカは防御よりも回避に重点を置くスタイルを取っているが、それは彼女が未完成のシステム外スキル《
シリカの現在の戦闘スタイルは、ダガーの使い方はそれまでの経験を基にして、スピード型の戦闘スタイルはアスナから、そして効率の良い体裁きをユウから、それぞれ見て、盗み、学んだものなのだ。
だが、空中戦ともなれば、それを完全な形で活用することは難しい。かつての浮遊城とは異なり、その戦場に『足場』がないということは、ユウから授けられた戦闘スタイルも、少しずつ崩れていた。
その姿を見て、ランが呟く。
「まずいわね……なんとか食いついているけど、このままじゃシリカさんが一方的に消耗していくだけだわ」
「キリトは、前からシリカのこと知っているんでしょ? なんとかならないの?」
シリカに勝ち目はあるのか。ユウキは、この中で唯一昔からの彼女を知っている少年に尋ねた。
質問を受けたキリトは、うーん……としばらく考える。
「確かに、あのユージーンってプレイヤーの戦闘スキルは一流だよ。両手剣の扱いにかけては、多分『今の』ALOではトップなんだと思う」
1人のゲーマーとして、その高い実力には目を見張るものがある、とキリトも感じていた。
「でも……大丈夫だ。俺とシリカは、あれよりも優れた両手剣使いを知っているから。優しくて、器用で……そして、とても強い奴を」
だから、キリトは自信満々に言い切った。
「シリカが勝つさ」
そう言い放ったその直後、ピナがブレスをユージーンに直撃させた。
「今!」
シリカはポーチから、店売りのアイテムのひとつを使用する。周囲に煙幕を発生させるそれは、その場にいた全員の視界を奪った。
そして、その視界が晴れかけたその瞬間に、ユージーンの目の前から、シリカが飛び出す。
ガードの体勢を取るユージーン。しかし、予想外にもその斬撃が来なかった。
いや、正確には違う。
シリカがそれまでとは違い、《両手剣》という大振りの武器を手にしていたために、攻撃がユージーンの予想に比べてワンテンポ遅れたのだ。
その重い斬撃が、タイミングをずらされたことにより手からわずかに力の抜けたユージーンの魔剣を、弾き飛ばす。
システム外スキル《ディスアーム》。
シリカの恋人であるユウの、ガントレット《ドラゴンアーム》に並ぶもう一つの代名詞。
「なっ……」
ユージーンは、これまでの戦闘でシリカの能力の高さを分かっていたものの、予想外のスキルに驚愕する。そして、その隙にシリカは両手剣を手放しながらユージーンの懐に飛び込み、左手で貫手――体術スキル《エンブレイサー》を叩き込んだ。急所は外したものの、ユージーンのHPが一気に減少する。
さらに、シリカはその体制のまま右手でダガーを構えた。
「この距離なら、外しません!」
左手を相手の体から抜くと、体を回転させながら、一瞬のうちに四連撃の刺突を叩き込む。
短剣最上位スキル《エターナル・サイクロン》を、全てクリティカルヒットで炸裂させると、ユージーンの体は炎に包まれ、アバターが燃え崩れていった。
ユージーンが燃え尽きてリメインライトとなるその行く末を見届けると、それまで激しい戦闘に無言で魅入られていたプレイヤーたちが、一斉に歓声を上げた。
「見事!」
「すごい、ナイスファイトだよ!」
シルフの領主サクヤと、ケットシーの領主アリシャも、シリカの奮闘ぶりを絶賛する。そしてまた、周囲のシルフとケットシーの護衛部隊、そして驚いたことに、サラマンダーの奇襲部隊もまた、先ほどの戦闘に賞賛の声を上げていた。
シリカがユージーンを相手に繰り広げた戦いは、ALOプレイヤーならば誰しもが賞賛するものだったのだ。
その後、サクヤがユージーンのリメインライトに蘇生魔法をかけ、話し合いが始まった。講和会議みたいなものだ。
「俺に勝つとは、見事な腕だな。まさか、《魔剣グラム》を弾き飛ばされるとは」
《魔剣グラム》は、戦いを見ていた他のサラマンダーが取りに行ってくれていた。いくら魔剣であっても、長時間
「私なんて、まだまだですよ。あれは……私の大切なパートナーが教えてくれた技なんです」
「ほう、ぜひとも、そのプレイヤーと戦ってみたいものだな」
今はまだプレイヤーじゃありませんし、戦いたいなら《世界樹》まで行けば頑張り次第で戦えますけど……とシリカは思ったが、口にはしなかった。
サラマンダーの部隊がそのまま大人しく引き下がってくれたところで、サクヤが尋ねてきた。
「すまんが、状況を説明してくれると助かる」
ごもっともだった。
彼らはサクヤとアリシャに、これまでの経緯を簡潔に説明する。すると、サクヤはアリシャに《月光鏡》という闇魔法の使用を依頼した。
どうやら、離れている相手と直接話をすることができるものらしい。テレビ電話のようなものだろうか? とシリカは考える。
シグルドを領主権限でシルフ領から追放する。これで、領主会談の邪魔をする者は完全にいなくなった。
「助けに来てくれてありがとう、リーファ。礼を言う」
《月光鏡》の効果が切れると、サクヤはリーファの方へと振り返ってそう言った。
「お礼なら、シリカちゃんとキリト君にどうぞ」
「ねえ、君たち……スプリガンとウンディーネの大使って、本当なの?」
その言葉に、キリトとシリカは顔を引きつらせる。だが、キリトは開き直ったようにこう言った。
「もちろん大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」
「前からですけど、キリトさんのやることは一々冷や汗ものですよ……」
自信満々なその言葉に、シリカは肩をがっくりと落とす。
「まあ、私たちがいたところで、《レネゲイド》だし関係ないですから……」
ウンディーネであるランの言うとおりである。
やはりというか、その場でのでっちあげだったようだ。
「あの状況でそんな大ボラを吹くとは…」
「手札がショボイ時は、とりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」
シリカはため息をつきながら言う。
「その大嘘に付き合う人の気持ちも考えてくださいよ……」
そんな中、アリシャはシリカに近づいた。
「でも、そんな無茶ぶりの中で戦った君は、強かったよね。でも、君みたいな子は初めて見るんだけどな~」
ケットシーの領主であるならば、自分の種族の強者はおおよそ把握しているのだろう。しかし、シリカのことを知らないのは当然である。ALOには来たばかりなのだから。
「えっと……このゲームの前には、別のゲームをしていたんです。キリトさんとALOに来たのは、つい先日ですけれど……」
「じゃあ、ひょっとしてウチの領主館にも立ち寄らずに来ちゃったのかな?」
「は、はい……」
ウソは言ってないが、なんとなく、ケットシー領に足を踏み入れることすらせずに来ちゃったんです、とは言い出せないシリカであった。
そこで、ランが助け船を出す。
「シリカさんは、ダイブしたときに混線の影響か、シルフ領の近くからスタートしたみたいなんです。そこに、前のゲームからの友人であるキリトさんと、彼を連れていたリーファさんが合流したんです」
その説明で、彼女も納得したようだ。
そこで、リーファが口を開く。
「ねぇサクヤ、アリシャさん。今回の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?」
「まぁ、究極的にはな」
「その攻略に、あたしたちも参加させて欲しいの。それも、できるだけ、早く」
4人の焦る思いが伝わっているのか、急ぎであることも彼女は言ってくれた。どうやら、きちんとキリトたちの思いを汲んでくれているようだ。
「それは構わない。というより、こちらから頼みたいぐらいだ。だが」
「攻略メンバー全員の装備を整えるのに暫くかかると思うんだヨ。とても一日二日じゃ……」
2人は少し困ったように言う。
今回の《グランドクエスト》攻略は、いわば《アインクラッド》における第百層フロアボス攻略と同じだ。レベルが存在しないとはいえ、そう簡単に準備が整う訳ではない。
彼女たちに助け舟を出したのは、キリトだった。
「いや、いいさ。取りあえず樹の根元まで行くのが目的だし……あとはなんとかするよ。あ、そうだ」
彼は全財産が入った革袋を取り出す。
「これ。攻略資金の足しに使ってくれ」
「え! こ、こんな大金を!?」
「ああ、俺にはもう必要ないからな」
確かに、SAOでの戦いが終わった今、ALOの《グランドクエスト》こそが最後の戦いになる。そのため、かつて《アインクラッド》で稼いできた
2年間少しずつ溜めてきただけあって、それはかなりのものだ。
「これだけあれば、かなり目標金額に近づくよ」
「すぐに装備を整えて、準備が出来たら連絡させてもらうよ」
「その時はよろしく頼む」
それだけ言葉を交わすと、彼女たちは去って行った。
「じゃあ、俺たちも行くか」
キリトはそう言って羽根を出すが、他の4人はなんとも言えない表情で彼を見つめている。
「おい……どうした?」
「あ、あの……キリトさん」
快活な彼女にしては珍しく、シリカがおずおずといった様子で尋ねてくる。
「い、一応なんですけれど……ひょっとして、さっき全財産渡した、なんて言いませんよね? 最後の宿泊費や、武器のメンテですとか、アイテムの購入費くらい……残してますよね?」
彼女がこんな質問をしたのは、シリカが《アインクラッド》でキリトのことをある程度知っていたからであろう。案の定、彼はその質問に冷や汗をかいていた。
「キリトの自業自得なんだから、キリトは今日は激安の宿だからね!」
ユウキの辛辣な言葉が、全員の気持ちを代弁していた。
その後は、アルンを目指してひたすら飛び続けた。
しかし、到着する頃には真夜中になっている。さらに、この日の午前4時から午後3時にかけては、長期のメンテナンスが入るというアナウンスがされた。
ひとまず、長い旅は一度休憩である。
とりあえずログアウトすると、《ナーヴギア》を外した。そして、万が一朝になって両親が入ってきても大丈夫なように隠す。
ちょうど両親が共に仕事で忙しい時期に入っており、夜遅くに帰ってきた母親が用意してくれる簡単なつくりおきの料理を、冷蔵庫から取り出して食べるのが最近の日常となっている。ようやく『現実世界』へと還ってきた一人娘を可愛がってくれる両親には悪いが、彼らに隠れて《ナーヴギア》を被るには最適とも言えた。
もっとも、明日は両親ともに仕事に一区切りつき、夕方には帰ってくる。そのため、部屋に入らせないような言い訳を考えておかなければならない。
そんなことを考えながら眠りについた。
朝起きて朝食を食べると、午後3時までは昼食以外にやることがない。しかし、そんな時に自分のスマートフォンが鳴った。SAOから戻り、退院した時に両親が買ってくれたものだ。当然ながらGPSがついているので、娘のことを心配する両親にとっては都合の良いものだった、というのも理由のひとつではある。
相手は、和人だった。
「キリトさん?」
『シリカか。今日これからアスナのところに行くんだけれど、シリカも来るかな、と思ってさ。ユウの妹2人も来るって』
「アスナさんですか? 行きます!」
この日は、倉橋先生が忙しくて対応ができないので、あまり裕也のところへは見舞いに来ない方がいい……ということを、珪子は藍子から聞いていた。そのため、手持ち無沙汰だった彼女は二つ返事で承諾する。
また、あの世界で姉のように接していた彼女に会えることは、純粋に楽しみでもあった。たとえ、未だに目を覚ましていないとしても。
幸い、所沢総合病院という場所は彼女の家からそこまで離れていなかったので、自転車でも十分であった。
病院の入り口に着くと、駐輪場に自転車を止めて入り口で待つ。
しばらくすると、和人と藍子、木綿季に加えて、1人の少女がやってきた。
「直葉、彼女がシリ……いや、綾野さん」
「年下ですから、珪子で構いませんよ。和人さん」
キャラクター名のシリカが呼び捨てであったため、和人に名字+さん付けで呼ばれるのは、違和感しかない。そのため、すぐさまその呼び名を訂正した。
「わ、分かった……で、こっちが俺の妹の直葉だ。年は俺のひとつ年下……つまり、珪子よりひとつ年上だ」
「はじめまして、直葉さん」
「は、はじめまして」
軽く挨拶を済ませたところで、彼らは病院の中に入った。
受付を済ませると、彼らは目的の病室へと向かって行く。
「ここが、アスナの部屋だ」
「結城……明日奈、さん。キャラネーム、本名だったんだね」
病室の入り口に付けられているネームプレートを見て、直葉が言った。
「本当に、ネットゲーム初心者だったんですね。意外です。あれほど強かったのに……」
珪子も、彼女の剣閃を思い出しながら言う。
「シリ……珪子にも前に話したけど、1層の時には《アイアンレイピア》で《迷宮区》に潜っていたくらいだからな」
そう言いながら、和人はその扉を開けた。
「お久しぶりです、アスナさん」
珪子はかつて姉のように慕っていた少女に語り掛ける。しかし当然ながら、白いベッドの上で眠る彼女が目を覚ますことはなかった。
その頭には、悪魔の機械《ナーヴギア》を被っていた。
「アスナ、今日はシリカと俺の妹、それにユウの妹も連れてきたんだ」
「はじめまして」
「お兄ちゃんがお世話になっています……」
しばらくの間彼女に話しかけたものの、その手を取るキリトの姿を見て、彼女たちは病室からそっと抜け出した。
「桐ケ谷さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい……直葉でいいよ」
表情の優れない直葉に、藍子が声をかけた。
「直葉も、ボクたちのこと名前で呼んでいいよ?」
フレンドリーな木綿季の言葉に、直葉は少し笑顔になる。しかし、すぐに神妙な面持ちになり、珪子の方を向いてきた。
「あ、あの、珪子ちゃん……お兄ちゃんや明日奈さんとは、SAOの中で知り合ったんだよね? その、明日奈さんって、どんな人だった?」
そう言われて珪子は、数か月前まで見ていた彼女の姿を思い起こした。