ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
リーファの言葉に、シリカは口を閉ざした。
(やっぱり……)
彼女たちの予想通り、ユウはALOに捕らえられ、そして利用されていたのだ。しかも、グランド・クエスト最大の敵として……。
「でも、諦めきれないよね、一旦飛ぶことの楽しさを知っちゃうと……たとえ何年かかっても……」
「「それじゃ遅すぎるんだ(です)!」」
キリトとシリカは、急に叫んだ。
2人とも、それぞれ大切な人があの上に囚われている。
「パパ、シリカさん」
ユイの言葉に、彼らは椅子に座り直した。
「ごめん…、でも、俺たち…どうしても《世界樹》の上に行きたいんだ」
キリトは、改めて真剣にリーファに言った。その様子に、彼女は驚いている。
「何で……そこまで……?」
「人を、探しているんだ」
「どういうこと?」
「簡単には説明できない……」
彼女は、あくまでも親切心から助けてくれている、一般プレイヤーだ。そこに、危険のあるSAOとの繋がりを持たせるわけにはいかない。
それに、あの2年間の中で積み上げたものを、簡単に説明できるはずもない。
2人は立ち上がった。
「ありがとう、リーファ。色々教えてもらって助かったよ。ごちそうさま、ここで最初に会ったのが君でよかった」
「ごめんなさい、リーファさん。ありがとうございました。ここから先は、私たちでやりますから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。世界樹に……行く気なの?」
立ち上がろうとしたキリトの腕を、リーファは掴む。
「ああ。この眼で確かめないと」
「無茶だよ、そんな……。ものすごく遠いし、途中で強いモンスターもいっぱい出るし、そりゃ君も強いけど……じゃあ、あたしが連れていってあげる」
「「え……」」
彼女の言葉に、2人は驚いた。
「いや、でも、会ったばかりの人にそこまで世話になる訳には……」
「いいの、もう決めたの!!」
案外、彼女は強引なようだった。
その様子に、シリカは懐かしい気持ちになる。
(そういえば、私も《圏内事件》の後で、ユウさんに強引に連れて行ってもらったんだっけ……)
あの時は彼の危うさを間近で感じ取っていたからあのような行動に出たものの、いざ思い出してみると、自分の行動は恋する乙女の暴走に近かったことを感じ、シリカは少し顔を赤くした。
「じゃあ、お願いします。リーファさん」
「シリカ?」
「だってリーファさん、去年の《圏内事件》のときにユウさんへ迫った私みたいなんです。これ以上、言葉で納得させるのは無理ですよ」
《圏内事件》? と金髪のエルフは頭を傾げたが、キリトはその言葉を聞いて納得したような表情になった。
「だったら、これ以上説得は難しいか」
彼はやれやれ、といった様子でリーファの同行を承諾した。
「あの、明日も入れる?」
「「あ、うん…」」
「なら、午後3時にここでね。あたし、もう落ちなきゃいけないから。ログアウトには上の宿屋を使ってね。じゃあ、また明日」
「あ、リーファ!!」
リーファがログアウトしようとするが、キリトはリーファを引き止めた。
「ありがとう」
「私からも、ありがとうございました。また、明日もよろしくお願いします」
2人のお礼の言葉を聞いて、リーファは少し笑顔になりログアウトした。
2人はそれぞれ宿屋で部屋を取ると、ベッドの上に横になってからログアウトした。
翌日。
無事に両親にばれないまま、再びシリカはログインすると、すでに3人とも待っていた。
「お、シリカ、ちょうどよかった。今から武器屋に行くところなんだけど、シリカも新しいダガーを買うだろ?」
キリトの言葉に、シリカも肯定した。
正直なところ、初期装備の短剣ではこの先心もとない。
あの世界でリズベッドにつくってもらった《フェアリー・オーシャン》は文字化けして使い物にならなかったので、新たな剣を用意しなければならなかった。
「シリカも多分、かなりの金額をため込んでいるんじゃないか?」
「ってことは、キリトさんもやっぱり……」
「ああ。《コル》が全部そのまま《ユルド》になっていた」
そんなわけで、彼らはALOでも屈指のお金持ちになっているようだった。そのため、《スイルベーン》の中にある武器屋の中でも、かなりものがいいやつを買うことができた。
しかし、キリトは……
「うーん、もっと重いやつを」
「キリトさん、あとどのくらいで終わりそうですか……?」
彼の持つパラメータからすれば、ほとんどの剣が軽すぎるのだった。そのため、結局は身の丈よりも長いほどの両手剣を、片手剣の代わりに振るうことになった。
まるで子供が大きな剣を背負っているようなその姿にリーファは笑っていたが、キリトが体格に合わない両手剣を背負うその姿を見て、シリカはつい、目を伏せてしまう。
「……どうしたの、シリカちゃん?」
その様子にリーファが気づき、声をかけてくれるが、シリカはそれどころではなかった。
(……まただ)
この世界に入ってから、つい何かとつけてユウを連想してしまう。
青い鎧を着た人を見るたびに。
金色の模様が入ったガントレットをつけた人を見るたびに。
身の丈に合わない両手剣を背負うキリトを見た時に。
かつて《アインクラッド》で一緒にいた、ユウという優しくて強い両手剣使いを。
「シリカちゃん!」
「きゅるる!」
「痛っ! もう、ピナ!」
リーファの声には気づかず、愛竜にその口先で小突かれてようやく、シリカは我に返った。
「あの、大丈夫? 気分が悪いとかなら、今日はもう落ちた方がいいんじゃ……」
「いや、リーファ。今のは、俺が余計なことをしたからだ。気にしないでくれ」
リーファが心配そうに言葉を投げかけるが、キリトがそれを遮った。恐らくは、同じような立場であるため、少し分かるところがあるのだろう。
彼は、自分の背中にある大剣を、腰の位置に移動できないかウインドウを開く。
「あの、大丈夫ですよ、キリトさん」
だが、シリカがそれを制した。
「ただ、ちょっと……懐かしくなった、だけですから。早く行きましょう、リーファさん。今日のうちに、できる限り動いておきたいんです」
彼女はそれだけ言うと、「あと、買うものはありませんか?」とリーファに尋ねた。
「ポーションも補充しておいたし、あとはないわよ。じゃあ、塔まで歩きましょうか」
「何で塔に…?」
キリトは少し引きつった表情をして尋ねた。
(そういえば、キリトさんは昨日この塔に激突したんだっけ……)
その顔がちょっとおかしくて、シリカはわずかに笑みをこぼした。
「ああ、長距離を飛ぶときは塔のてっぺんから出発するのよ。高度がかせげるから」
「なるほど……」
確かに、高度をかせいだほうが、飛距離も伸びるし、そもそも飛ぶのが楽になるだろう。
「さ、行こ。夜までには森を抜けたいからね」
2人はリーファに背中を押され、塔の中に入って行く。
すると、1人の男が声をかけてきた。
「リーファ!」
「あ、こんにちは、シグルド」
彼女の知り合いであるのか、リーファは普通に挨拶をした。しかし、シリカは彼を睨みつける。
このような視線は、《アインクラッド》で何度も感じ取ってきたのだ。
「パーティから抜ける気なのか、リーファ」
シグルドは、苛立たしそうに言った。
「うん。まあね……」
「残りのメンバーに迷惑がかかるとは思わないのか?」
「パーティーに参加するのは都合の付くときだけで、いつでも抜けていいって約束だったでしょ」
リーファがそう言った。どうやら、事前にパーティーメンバーでそう決めてあったらしい。
しかし、シグルドはこう言った。
「だがお前は俺のパーティーの一員として既に名が通っている。何の理由もなく抜けられるとこちらの面子に関わる!」
その言葉に、全員が露骨に嫌な表情をした。
シリカも、このような傲慢な男に絡まれたことも多い。しかし、ユウやキリト、アスナといった面々の人たちと一緒になってからは、彼らの態度に感謝していた。
良識のあるプレイヤーは、一緒のパーティーに誘うことはあってもそれは心地よいものだった。嫌がる人を、無理矢理連れて行こうとするような真似はしない。
「仲間はアイテムじゃないぜ」
すると、キリトがその前に出た。
「……なんだと?」
「仲間はアンタの大事な剣や鎧みたいに、装備にロックしておくことはできないって言ったのさ」
この気障な言い回しに、シリカは呆れながらも同意した。
「き、貴様ら!! 屑あさりのスプリガン風情がつけあがるな! どうせ領地を追放された《レネゲイド》だろうが!」
「失礼なことは言わないで! 2人はあたしの新しい仲間よ!」
すると、リーファも強気の態度で出た。
「何! リーファ、お前も領地を捨てて《レネゲイド》になる気か!?」
「……ええ、そうよ。あたし、ここを出るわ」
「子虫が這いまわるくらいは捨てて置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎたな。のこのこ他種族の領地に入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな!」
シグルドは剣を取り出した。そして、その剣を振り上げる。
しかしそれよりも、シリカが自らのダガーを抜く方が一歩早かった。
彼女は目にもとまらぬ速さで一気に間合いを詰めると、振り上げたその瞬間、一瞬その手の力が抜けるときを狙って、神速の突きを繰り出した。浮遊城で彼女が愛用していた、短剣初級スキル《ラピッド・バイト》だ。
その狙いは、剣を握るその手許。
キィン、と大きな音と共に、その剣が弾かれる。そして、それは空中で回転しながら、地面へと突き刺さった。
《
この世界では、もしかすると誰も成し遂げていないその芸当に、その場にいた全員が目を見開いた。しかも、それをやったのは、プレイヤーの中でも年齢が低そうな、10代前半の少女だ。
その事実を認識し、シグルドが思わず一歩後ずさった。
「あのケットシー、剣を弾き落したぞ……!」
「偶然か……?」
辺りが一斉にざわつき始める。しかし、誰の目から見ても、実力差は一目瞭然だった。
当然ながら、偶然などではない。ユウのすぐそばでいつも見ていた彼女は、彼が完全にものにしたと言っても良いそのシステム外スキルを、彼ほどの成功率ではないが実戦レベルでものにしていたのだ。
「き、貴様ぁ……!」
「ま、まずいっすよ、シグさん」
顔を真っ赤にしてさらに怒りを高めるシグルドであったが、そんな彼を取り巻きの1人が宥めた。
ケットシーは、古くからシルフとの親交がある種族だ。万が一、シルフ領内を訪れていたケットシーのプレイヤーをシグルドが斬った場合、彼に責任が降りかかる。
それこそ、彼が領主から追放命令を受ける可能性が高い。
彼は剣を収めた。
「せいぜい外では逃げ隠れることだな、リーファ。今俺を裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」
「留まって後悔するよりはずっとマシだわ」
リーファは、はっきりと言い返す。
「戻りたくなったときのために、泣いて土下座する練習をしておくんだな」
それだけ言うと、シグルドは仲間たちを連れて去って行った。
「ごめん、変なことに巻き込んじゃって」
「いや……でも、いいのか?領地を捨てるなんて?」
キリトの言葉に、リーファは無言になって2人の背中を押してエレベーターに向かう。
塔の最上階に着くと、そこには広々とした場所が広がっていた。
「おお、すごい」
「空が近いですね」
キリトの言葉に、シリカも同意する。それを聞いたリーファも、頷いた。
「でしょ。この空を見ていると、いろんなことがちっちゃく思えてくるよね。……いいきっかけだったよ。いつかは、ここを出ていくつもりだったし」
「そうか……。でも、喧嘩別れのような形にさせちゃって」
「どの道、穏便にはいかなかったよ」
彼女はそう言った。
「……なんで、ああやって縛ったり、縛られたりするのかな……せっかく翅があるのに……」
先ほどシグルドが言っていた《
「フクザツですね、人間は」
すると、リーファの言葉に答えたのは、キリトの胸ポケットの中にいたユイだった。
「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
「求める……?」
「わたしなら……」
彼女は一度言葉を区切り、キリトの頬にキスをした。
「こうします。とてもシンプルで明確です」
ユイの突然の行動に、リーファは唖然とし、キリトは苦笑いした。
「す、すごいAIね。プレイべートピクシーってみんなそうなの?」
「こいつは特に変なんだよ」
キリトは適当に答えると、彼女の胸ポケットの中に押し込んだ。
するとその時、後ろから声をかけてくるプレイヤーがいた。
「リーファちゃん!」
「あ……レコン」
「ひどいよ。一声かけてから出発してもいいじゃない」
「ごめーん。忘れてた」
素でそう返事をした彼女の言葉に、レコンはがっくりと肩を降ろした。
彼は、気を取り直してリーファに話しかける。
「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
「その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」
「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」
彼はそう言って自分の短剣を抜いたが、
「えー、別にいらない」
そんなそっけない返事により、彼はよろけた。
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついてくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」
「……なに?」
「まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ」
どうやら、彼は彼なりに、シグルドへの対策を考えるようだ。
「……キリトさん、シリカさん。彼女、トラブルに飛び込んでいく癖があるんで、気をつけてくださいね」
「あ、ああ。わかった」
「はい、気を付けます」
「それから、キリトさん、言っときますけど、彼女は僕の」
その瞬間、余計なことを言おうとしたレコンの足を、リーファが思い切り踏みつけた。
「痛!」
「しばらくは中立区域に居るから、何かあったらメールでね!」
リーファは彼に向かってそれだけ言い残すと、空へと飛び立った。
彼女に続いてキリトも飛び立ち、シリカも一応レコンに礼をしてから羽根を広げて宙に身を躍らせる。
空中でも、キリトとシリカの近接戦闘能力は、十分に発揮された。それに、空中機動で追いつけない敵は、リーファのホーミング魔法で倒すことができたため、彼らの空中の旅は非常に順調だった。
しかし、次第に羽根の持つ輝きが失われてたように、シリカは感じた。すると、彼女が疑問の声を上げるよりも先に、リーファが口を開く。
「そろそろ、翼が限界だわ。一度、下に降りなきゃ」
彼女の言葉に従って、3人は下の森の中に降り立つ。
「どう、疲れた?」
「いや、まだまだ」
「特に、そこほどには」
戦闘において命のやりとりがないと分かっているだけでも、かなり体の力が抜けるものだった。少なくとも、かつての《迷宮区》を探索しているときのような疲労感はなかった。
「2人とも頑張るわね。でも、空の旅はしばらくお預けよ」
彼女はそう言って、目の前の山を指さした。
あの山が飛行限界高度を越えているため、ここから先は、空を飛んで移動することはできないらしい。中にある、長い洞窟を抜けなければならないそうだ。
「私もここからは初めてなのよ。2人はまだ、時間大丈夫?」
「リアルだと、夜7時ってところか……。俺はまだ、当分平気だよ」
「私は、そろそろ一度ログアウトしないと……」
しばらくの間、両親ともに仕事が忙しいとは聞いているので、夕食の席に呼ばれることはなく作り置きのものを食べておけばいいが、食べていなかったら、夜遅くに仕事から帰ってくる両親が心配して、部屋の扉を開けるだろう。そうなれば、一発で《ナーヴギア》を使用していることがばれてしまう。
そろそろ、一度ログアウトして用意された夕食を食べておく必要がある。健康的な意味合いだけでなく、これから先も《ナーヴギア》を被り続けるためにも。
「じゃあ、《ローテアウト》しようか」
《ローテアウト》というのは、ローテーションで順にログアウトすることで、空っぽのアバターを他の仲間が守ることだ。中立地帯では、ログアウトしてもしばらくの間、アバターがその場に無防備な状態で残ってしまうらしい。
「じゃあ、お2人からさきにどうぞ」
「すみません、お先に失礼します」
「じゃあ、よろしくね」
シリカは、リーファと共にログアウトした。
珪子は、再び《現実世界》に戻ってきた。
《仮想世界》から《現実世界》に戻るのは既に3回目であるが、自由にログアウトできるということに、やはり感慨深いものを覚えてしまう自分がいた。
あのデスゲームの当初は、無意味に、何度も、なくなったログアウトボタンを探していたこともあったのだ。
親はまだ仕事でいないので、冷蔵庫に入っている夕食を電子レンジで温めて食べ、食器を洗っておく。
風呂に入った後にスマホを確認すると、藍子から連絡が入っていた。どうやら、彼女は順調に《アルン》から旅を進めているらしい。和人と珪子も、混線によりシルフ領から出発していることを伝えてあるため、この分なら順調に合流できそうである。
返信すると、彼女は再び《ナーヴギア》を被ってログインした。
「お待たせしました。あれ、どうしたんですか?」
彼女が戻ってくると、なぜかリーファが咳き込んでいた。
「じゃあ、今度は俺が落ちる番だな」
キリトはそう言って、さっさとログアウトしてしまう。すると、キリトの胸ポケットからユイが出てきた。
「うわ、あなた、ご主人様がいなくても動けるの!?」
キリトの肩に座った彼女の行動に、リーファは驚いた様子だった。
確かに、彼女はユイのことを、ALOでは珍しい《ナビゲーションピクシー》だと思っている。そのことからすれば、彼女はキリトの所有アイテムのようなものであるため、ログアウトしているのにもかかわらず行動できることはありえないだろう。
しかし、実際には《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》の試作AIである彼女は、あくまでもキリトの《ナーヴギア》のメモリーに保存されているというだけであり、言ってみれば居候に近い。ALOという新たな世界を得た以上、彼女がキリトの行動に囚われる必要はないのだ。
「パパは私を助けてくれたんです。俺の子供だ、って。そう言ってくれたんです。だから、パパです」
「そ、そう……。そういえば、どうしてシリカちゃんは、キリト君と一緒にいるの?」
「それは……」
彼女がキリトと共にここにいるのは、目的の場所がほぼ一緒だからだ。
しかし、その詳細を語るわけにはいかない。
「そうですね。前にやっていたゲームの頃から、知り合いですから。それに、目的も同じ《世界樹》ですし」
そこに、彼氏であるユウの親友であるから、という理由も付け加わるが、そこには触れないようにする。
「えっと、その……付き合ってたりするの?」
「付き合っているように、見えました?」
シリカは、彼女の質問に質問で返した。
「そうは……感じないけど。ただ、様子を見る限りでは、普通のネトゲ友達っていうのとも、何か違う気が」
結構鋭い人だ、とシリカは思った。
キリト、エギルと再会して思ったことは、あの世界でできた絆は、他の友達との間にある物とは比べ物にならない、ということだった。
小学校に入学した時からの友人との繋がりさえも、あの2年間の隔たりだけでなく、互いの命を預けたその繋がりの前には、脆弱なものに感じられてしまう。
ようやく、望んでやまなかった『現実世界』に戻ってきたのに、そこにあった絆は多くのものが失われていることに、彼女はこの2カ月間で気が付いた。
別に、友人たちが嫌いになったわけではない。しかし、やはり命懸けの2年間を過ごしてきたその仲間の前には、霞んでしまう。
「否定はしません」
彼女は、そう答えた。
「キリトさん
今は、少し欠けていますけど――という言葉は、彼女は口に出さなかった。