ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~   作:nozomu7

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妖精の世界

 キリトやエギルとの再会、そしてユウの妹たちとの出会いから一夜明けた1月20日。

 

 珪子は改めて、自分の部屋で残っていた《ナーヴギア》を見つめ直す。

 

 彼女は、この悪魔の機械を捨てる気にはなれなかったのだ。この中にはたくさんの思い出と、関連するアイテムのデータが、大量に保存されているから……。

 

 だから、せめて処分するのは、この現実の世界でユウと再会を果たしてからにしよう、と彼女は決めていた。それが、幸いにも思いもよらぬ形で役に立つものとなった。

 

(それに、藍子ちゃんが言っていた言葉……)

 

 藍子は、和人と珪子に、ひとつの仮説を伝えていた。

 

『よくよく考えてみたらね? こうも簡単に、新しいVRMMORPGが出現するのはおかしいと思ったんです。だけど、調べてみたらすぐに分かった』

 

『レクト』はSAOの販売会社である『アーガス』から、事件が起こった後に管理を任されていたらしい。ならば、そのサーバーからデータをコピーして、新たにVR世界を創り出すことは、そう難しくないだろう。

 

 つまり、これから行く場所は、あの《アインクラッド》とは違うようで同じであるということだ。

 

「ごめんなさい。お母さん、お父さん」

 

 今日も、2人は家を留守にしている。よく考えれば、両親は共働きで帰宅も比較的遅いので、夜遅くまでゲームをしていなければ、VRゲームをやっていることがばれることはないのだ。

 

 2人に知られれば、必ず止められる。しかし、珪子は止められるわけにはいかないと考えていた。

 

 彼女は一応謝罪の言葉を呟くと、二度とかぶることはないと考えていたその機械を頭に装着して、ベッドに仰向けになる。

 

「リンク・スタート!」

 

 その瞬間、なつかしい感じがした。

 

 仮想世界にダイブする感覚は、実に2年ぶりなのだ。

 

 神経との接続が良好であることを示す文字が、瞼の裏に浮かび上がった。そして、アカウント情報登録ステージへ彼女は降り立つ。

 

『《アルヴヘイム・オンライン》の世界へ、ようこそ』

 

 性別とキャラクターネームの入力を求められたので、名前の欄に《Silica》と入力し、性別を《女》に設定する。

 

『種族を設定してください』

 

 種族については、あらかじめ調べてあった。

 

 火妖精族(サラマンダー)水妖精族(ウンディーネ)風妖精族(シルフ)土妖精族(ノーム)闇妖精族(インプ)影妖精族(スプリガン)猫妖精族(ケットシー)工匠妖精族(レプラコーン)音楽妖精族(プーカ)の9つの妖精族がいるらしい。

 

 この中で元《ビーストテイマー》、あるいは《竜使い》の自分がなるものといえば、当然《ケットシー》しかない。敏捷性に長けていて、モンスターをテイミングする魔法が得意な種族だ。

 

『それでは、ケットシー領のホームタウンへ転送します。幸運をお祈りします』

 

 そのアナウンスを最後に、シリカは光に包まれた後、空中へと放り出された。

 

 下には街……ケットシーのホームタウンがあった。時間的には夜だというのに、灯りがともっていた非常に明るかった。

 

 かつていた《アインクラッド》にある様々な層の《主街区》を連想させ、シリカは思わず笑顔になる。

 

 と、次の瞬間。

 

 急に映像がフリーズした。

 

 周囲でポリゴンが欠け、ノイズが走る。

 

「な、何!?」

 

 彼女はなす術もなく、暗闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

「痛!」

 

 落下した先は、どこかの森であった。

 

 しかし、完全に顔を起こす前に、覚えのあるふわふわとした羽毛の感触が、シリカの腹の上に乗ってきた。

 

「ピナ!」

「きゅるるる!」

 

 懐かしい、愛らしいその鳴き声に、思わずシリカは愛竜を抱きしめる。

 

 いくらこの世界がSAOを基盤にしているといっても、この世界に存在するMobは《アインクラッド》にいたものとは大きく異なるはずだ。そのため、《フェザーリドラ》であるピナが再現できるかどうかは非常に不安であったのだが、無事に再会できたことに、彼女は非常に喜んだ。

 

「えっと……キリトさんと一緒に、ランさんとユウキさんがいる《アルン》って街に行くことになっていたと思うんだけど……」

 

 しかし、どう見てもここは《ケットシー》のホームタウンではない。

 

《ケットシー》には女性プレイヤーも比較的多いという話だったので、ネカマに注意しながら見つけて、案内してもらおうと思っていたのだが……。

 

「あ、そうだ」

 

 とにかく、解らないのであれば地図を見ればいい。

 

 そう思ったシリカは右手を振るが、メニューウィンドウが出てこなかった。

 

「ま、まさか……バグ!?」

 

 しかし左手を振るときちんと現れたので、彼女は胸をなでおろした。

 

「良かった……あれ?」

 

 ログアウトボタンもきちんと確認した彼女であったが、初期ステータスとスキルをチェックして、首を傾げた。

 

 ステータスがおかしい。

 

「《短剣》や《索敵》《軽金属装備》がカンストしているし……どうしてだろう? あっ」

 

 思い出した。

 

「これって、SAOのデータ?」

 

 そう考えた彼女は、今度はアイテム欄(ストレージ)を開いた。

 

「うわ、文字化けばっかり……」

 

 彼女は少し考えたが、それらのデータを全て破棄した。持っていても何も良いことがないからだ。

 

 これらのデータの中には、愛剣である《フェアリー・オーシャン》や、あるいはユウとあの世界でのデートでもらったアクセサリなどを始めとして、さまざまな思い出のあるアイテムが入っていたはずだが……。

 

 そう考えると、どうしようもなく悲しい気持ちに襲われた。

 

 これで持っているのは、初期装備の剣と防具だけになった。もっとも、お金に関しては《コル》が数字がそのままで《ユルド》という単位になっていたので、そのまま引き継ぎが可能だったようだ。

 

 SAOではキリトが《ビーター》などと呼ばれていたが、これでは正真正銘のチーターである。

 

「じゃあ、まずは中立地帯《アルン》に向かわないと!」

 

 ALOでは種族間同士の争いが激しく、異なる種族であるというだけでPKの対象にされてしまうらしいが、世界樹の側にある《アルン》だけは別で、比較的種族に関係なく、どのプレイヤーも仲良く過ごしているらしい。

 

 まずは、補助コントローラーというものを使って、空を飛ぶ練習から初めてみた。これで《アルン》までたどり着くことができれば、あとは藍子たちと合流することも可能だろう。

 

 ちなみに、彼女たちは種族間同士の揉め事や縄張り意識のようなものが嫌いで、基本的に《アルン》を行動拠点としているらしい。もっとも、時折別の場所で《レネゲイド》(同じ種族の人々から、領地を追放されたプレイヤー)として好き勝手に戦闘やゲリラに近い形で、初心者プレイヤーの手助けなども行っているとのことだが。

 

 つまり、本当はケットシー領から来るシリカと、スプリガン領から来るキリトを、ランとユウキが《アルン》から迎えに行くということになっていたのだ。

 

 だが、彼女は思いがけないところへ勝手に来てしまったということである。

 

「困ったなあ……ん?」

 

 その時、この世界ではほとんどいないであろう800を超えている《索敵》スキルが、複数のプレイヤーをとらえた。

 

(えっと……5人?)

 

 この状況では、どんなALOプレイヤーだろうと、頼らなければならない。彼女は覚悟を決めると、反応のあったそちらへと近づいて行った。

 

 どうやら、人数分布的に2体3のようだ。しかし、次の瞬間1つの反応が消えた。 

 

「誰か、倒されたのかな?」

 

 そこまで行くと、そこには炎が燃えていた。

 

 正確には《リメインライト》と呼ばれるもので、簡単に言えばHP全損で戦闘不能になったプレイヤーの、魂のようなものであるらしい……と、彼女は説明書で読んだ内容を思い出す。

 

 そして、残っているのは、鎧に包まれた重戦士のサラマンダー2人と、シルフの金髪少女が1人、そして剣を構えているスプリガンの少年だ。

 

 そして、スプリガンの少年が目にもとまらぬ速さで、再び1人のサラマンダーを切り裂いた。

 

「で、どうする? あんたも戦う?」

 

 スプリガンのその言葉に、残ったサラマンダーは両手を上げて『降参』のポーズを取った。

 

「やめておくよ。もうすぐで魔法スキルが900なんだ。死亡罰則(デスペナ)が惜しい」

「正直な人だな。………そちらのお姉さんはどう? 彼と戦いたいなら、邪魔はしないけど」

「あたしもいいわ。でも、今度は勝つわよ」

「正直、君ともタイマンで勝てる気はしないな」

 

 サラマンダーの男はそう言うと、羽を広げて飛び去っていった。

 

 すると、スプリガンの男が小陰に隠蔽(ハイディング)して覗いていた、シリカの方を見る。

 

「で、そこに隠れている君は?」

「え?」

 

 シルフの少女はシリカの存在に気が付かなかったのか、目を丸くする。一方で、シリカは苦笑いをしながら、大人しく出てきた。

 

「すみません、キリトさん。悪戯をするつもりはなかったんですけれど」

 

 シリカは、見覚えのある剣技に、そのスプリガンの少年がキリトであるということに気付いていた。最も、黒づくめの姿を見てすぐに連想したのが、彼であるということが大きな理由であるが。

 

「ケットシー……なら大丈夫そうね。でも、スプリガンのあなたは?」

「あ、その人、私の知り合いです……キリトさんですよね?」

「シリカか。ピナも、一緒に来れたんだな」

 

 本人の確認が取れたことに、シリカはほっとした。さすがに、この状況で本人でなかったら恥ずかしい。

 

 すると、シルフの少女はシリカの肩に乗っているピナを見て、目を丸くする。

 

「そのテイムモンスターって……竜種よね? ってことはあなた、かなりの高レベルプレイヤーなの?」

 

 彼女曰く、この世界のケットシーでもドラゴン系統のMobをテイムするのはかなり至難の業であるらしく、ケットシーの中でも一部のプレイヤーに限られているらしい。そのため、ケットシーに亜竜種ばかりを揃えた《ドラグーン隊》があるという噂があるものの、どのプレイヤーも半信半疑であるそうだ。

 

「いえ、ピナをテイムできたのは、たまたまというか……」

「へえ、すごいわね……」

 

 彼女は感心しながら、自分の長刀を鞘に納めた。

 

「さっきは剣を向けてごめんなさい。私はリーファ」

「俺はキリト。この子はユイ」

 

 キリトが言うと、彼の掌に乗っているユイはお辞儀をした。

 

「シリカっていいます。この子はピナです」

 

 シリカの言葉に反応して、ピナがきゅるる! と鳴き声を上げた。

 

「ねえ……この後、どうするの? その、良かったら、お礼に一杯奢るわ。どう?」

「それは嬉しいな。実は、いろいろと教えてくれる人を探していたんだ」

 

 キリトがそう言い、シリカも頷いた。

 

「私たち、リアルで知り合いの人がいるんですけれど、《アルン》まで行く方法を探していたところなんです。そこが、集合地点なので」

「アルン!? それって……結構、ここから遠いわよ? しかも、《世界樹》のふもとじゃない。分かったわ。あたしこう見えても結構古参なのよ」

 

 リーファがそう言うと、彼女は気軽にこう言った。

 

「じゃあ、ちょっと遠いけど、北の方に中立の村があるから、そこまで飛びましょう」

 

 心強い仲間ができたところで、キリトが疑問の声を上げた。

 

「あれ? 《スイルベーン》って街の方が近いんじゃないのか?」

 

 その言葉に、リーファは呆れたような表情をする。

 

「本当に何も知らないのね。あそこはシルフ領だよ」

「キリトさん、シルフ領ではインプとか他の種族は攻撃できないけど、その逆はありなんですよ……説明書ちゃんと読みましたか?」

 

 シリカが言うと、キリトは頭を掻いた。

 

「そういえば、読んでなかったな。別にいいよ。皆が襲ってくるわけじゃないんだから。それにリーファさんもいるし」

 

 その言葉に、2人が呆れかえった。

 

「リーファでいいわよ。そういうことならあたしは構わないけど、命の保障まではできないわよ。じゃあ、飛ぼっか」

 

 彼女はそう言いながら、羽根を出してそれを動かす。その様子を見て、シリカが尋ねた。

 

「あれ? リーファさんは、補助コントローラーなしで飛べるんですか?」

「できるわよ。君たちは?」

「ちょっと前に、こいつの使い方を覚えたところだ」

 

 キリトが、手をコントローラーを握った形にしてそう言った。

 

「私は、実はまだ飛んだことがないんです。本当に、さっき初めてログインしたばかりなので」

「随意飛行にはコツがあるから、できる人にはすぐにできるわ。キリト君。ちょっと背中を向けて、羽根を出してみて」

 

 リーファの言葉に従って、キリトは彼女に背中を向けた。すると、リーファは彼の背中に手で触れる。

 

「ここから、仮想の骨と筋肉が伸びていると想定して、それを動かすの」

 

 彼女の言葉に従ってみると、2人の背中からそれぞれ半透明の黒と黄色の羽根が出現した。

 

 キリトは険しい表情で、シリカも集中した様子で、普段使ったことのないその筋肉を動かしてみる。

 

 すると、少しずつシリカの体が浮き始めた。

 

「やった! あれ、キリトさん?」

 

 止めてくれぇ~、と、情けない叫び声が聞こえた。

 

 上空に上がってその様子を見ると、月夜の中を右往左往しながらふらふらと飛ぶその姿が見えた。

 

 その様子に、シリカとリーファ、そしてユイは目を合わせると、同時に噴き出した。

 

「あははははははははは!」

「ごめんなさい、パパ。おもしろいです~」

「キリトさん、その姿は、反則です……!」

 

 3人は、その姿に腹を抱えて笑った。

 

 それから十分程度経つと、キリトは見事に随意飛行をマスターし、旋回やターン、後方へ並行に飛ぶこともできるようになっていた。シリカもキリトほどではないが、少なくとも移動に問題ない程度にはできるようになっている。

 

「おお、これは凄い」

「そうでしょう? 2人とも、なかなか筋がいいね。それじゃあ、《スイルベーン》まで飛ぼっか。ついてきて」

 

 リーファはそう言うと、そのまま空を飛び始めた。

 

 途中でキリトとリーファがスピード競争を始めそうになっていたが、さすがにシリカが追いつけないので、途中で中断された。

 

 そして、目の前に明るい街が見えてきた。

 

 シルフ領の《スイルベーン》は四角の形に立つ4本の塔と、街の中心に立つものの合計5本の塔が立っている、独特の形状をしていた。

 

「真ん中の塔の根元に着陸するわよ」

「そういえば、着陸の時にはどうするんですか?」

 

 リーファに言われた言葉で、シリカはふと頭に浮かんだ疑問を放つ。

 

「えっと……」

 

 すると、リーファは口をつぐんだ後に、もう一度目の前の塔を見て苦笑いをした。

 

「ごめん。もう間に合わないや。幸運を祈ってるよ」

「そ、そんなバカなあぁぁぁぁ――――」

「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」

 

 2人の絶叫が《スイルベーン》の町に響き渡り、そして衝突音がした。

 

 

 

 

 

 シルフ領である《スイルベーン》の中央にある塔の根元に倒れているスプリガンとケットシーの姿に、群衆は注目していた。

 

 その傍らでは、ピナがシリカのHPをヒーリングブレスで回復している。

 

「ありがとう、ピナ」

「いてて……ひどいよ、リーファ」

 

 シリカが愛竜の頭をなでる傍らで、キリトは自分の足下に着陸したリーファを恨めしそうに睨んだ。

 

「まあまあ、ヒールしてあげるから」

 

 彼女は何やら呪文を唱えると、キリトの周囲が青い光に包まれた。そして、彼の失われたHPが完全回復の状態まで戻っていく。

 

「おお、凄い、これが魔法か………」

 

 初めての魔法に、キリトは感心の声を上げた。

 

「高位の回復魔法はウンディーネにしか使えないけど、必須スペルだから、二人も覚えた方がいいよ」

「種族によって魔法の得手不得手があるのか。スプリガンは何が得意なんだ?」

 

 キリトは体を起こすと、彼女に尋ねた。

 

「得意なのは、トレジャーハント関連と幻惑魔法かな。どっちも戦闘には不向きで、不人気種族ナンバーワンなんだよね」

「うへ、やっぱり下調べは大事だな」

 

 要するに、罠解除系やデバフ特化型ということだろうか。《アインクラッド》だったら、《迷宮区》の中では役に立ちそうなスキルだとシリカは思った。

 

「本当に、綺麗な街ですね」

「でしょ!」

 

 シリカの言葉に、リーファは嬉しそうに言った。彼女も、この街が気に入っているようだ。

 

「リーファちゃーん!」

 

 その時、街の中から1人の少年が声をかけてきた。

 

「ああ、レコン」

「無事だったんだ。流石はリーファちゃん………って、スプリガン!?」

 

 彼はその姿に安堵している様子だが、キリトの姿を見るなり警戒心をあらわにし、腰の短剣を握る。

 

「ああ、大丈夫よ。この人たちが助けてくれたの」

「へっ?」

 

 唖然とするレコンを余所に、リーファはレコンを指差す。

 

「こいつはレコン。私のフレンドなんだ」

「よろしく、俺はキリトだ」

「シリカです」

「あ、どうもどうも……」

 

 2人が自己紹介をすると、彼は短剣をしまってキリトと握手をし、頭をぺこぺこ下げていた。

 

「って、いや、そうじゃなくて! 大丈夫なの? ケットシーの子はともかく、このスプリガン、スパイとかじゃ」

「大丈夫よ。スパイにしてはこの人、ちょっと天然ボケ入りすぎているし」

 

 その言葉に、シリカは思わず笑う。

 

 かつて《アインクラッド》にいた時も、キリトは時折とんでもない行動をしでかしていたことを知っていたからだ。主に、情報元はユウであるが。

 

 その返事に、レコンはまだ納得できていないようだった。

 

「シグルドたちは、いつもの酒場で席取ってるよ」

「あ、そっか……ん~、あたし今日はいいわ」

 

 彼女はそう言って、両手を合わせて「ごめんね」という仕草を取った。

 

「え! 来ないの?」

「お礼にこの2人に一杯奢る約束してるんだ。じゃ、お疲れー」

 

 そう言うと、リーファはキリトを引っ張り、先に行ってしまった。

 

 シリカも慌てて彼女の後を追うと、3人は《すずらん亭》という店に着き、リーファの奢りでそれぞれ注文した。

 

 注文が届いたところで、キリトが質問した。

 

「さっきのはリーファの彼氏?」

「コイビトさんなのですか?」

「はぁ!? 違うわよ! ただのパーティーメンバーよ!」

 

 キリトとユイの質問に、リーファは慌てて否定する。

 

「でも、その割には仲良さそうでしたよ?」

「リアルでも知り合いっていうか、学校の同級生なの。……それじゃあ、改めて、助けてくれてありがとう」

 

 互いにグラスをぶつけ合い、一口飲む。

 

「それにしても、えらい好戦的な連中だったな。ああいう集団PKはよくあるのか?」

「元々、サラマンダーとシルフは仲悪いんだけどね。でも、ああいう集団PKは最近よ。……多分、《世界樹》の攻略を狙っているんだと思うわ」

「その《世界樹》に、私達は行こうと思っているんです。《アルン》で待ち合わせしている人たちとも、一緒です」

 

 シリカが言うと、リーファは少し下を向いた。

 

「……それは、全プレイヤーがそう思ってるよ。っていうか、それがALOのグランド・クエストなのよ」

「確か、光妖精族(アルフ)に転生できるんだったか」

 

 その辺りは、藍子と木綿季が説明してくれたことと、ほとんど同じである。

 

「グランド・クエストというのは、具体的にどんな感じなんですか?」

「世界樹の根元がドームになっていて、そこが空中都市の入口になってるの。でも、そのドームを守ってるNPCのガーディアン軍団が、凄い強さなのよ」

「そんなに……」

「オープンして1年経つのに、まだクリアできないクエストなんてアリだと思う?」

 

 確かに、オープン直後からクエストを受けることができたにも拘わらず、1年以上もクリアされないクエストなんて、ほとんどない。

 

 すると、キリトが言った。

 

「何か、キークエストとか見落としてるとか、単一の種族じゃ攻略できないっていうのは?」

「いいカンしてるわ。クエスト見落としはいま躍起になって検証してるわ。でも、後者は絶対に無理ね」

「どうしてですか?」

「だって矛盾してるもの。『最初に到達した種族しかクリアできない』クエストを他の種族と協力して攻略しようだなんて」

 

 確かに、彼女の言うとおりである。

 

「それに、問題はNPCのガーディアンだけじゃない。前回のアップデートで導入されたMobの《シグルズ》……何度か挑戦したプレイヤーがいたけれど、アイツの強さは尋常じゃないわ。魔剣《フロッティ》がもらえるなんて言っているけれど、あの大きさの剣を扱える人なんて、そうそう出るわけないし」


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