ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
フロアボスの雄たけびと同時に全力疾走でその場を後にした彼らは、安全地帯まで逃げ切ってからその場に止まった。
「あれは苦労しそうだな……」
パっと見ただけでも、《グリームアイズ》はただならぬ強敵であることが分かった。
「武器はあの大きな斬馬刀だけみたいだったけど、ブレス攻撃もあるだろうしな……盾持ちが10人は欲しいな」
キリトの言葉に、アスナが頷いた。
「前衛に固い人を集めて、どんどんスイッチしていくしかなさそうね。……盾装備、ねえ」
彼女は、そう言うと意味ありげな視線をキリトへ送った。
「キリト君、何か隠しているでしょ」
「な、なんだよ」
「片手剣の最大のメリットって、盾を持てることでしょ。でもキリト君が盾を持ってるとこ見たこと無い。私の場合、細剣のスピードが落ちるからだし、スタイル優先で持たない人もいるけど。キリト君の場合、どちらでもないよね。まだプレイヤー全体のスタイルが統一されていない、去年くらいならまだしも、これだけ攻略が進んだ今、片手剣で盾を持っていない人は、ほとんどいないし。リズに作らせた剣も使ってないみたいだし……」
アスナは、疑惑の目でキリトを見る。
彼女の言うとおりで、片手剣を武器にする場合、盾を持たないメリットはほとんど存在しない。もっとも、ユウは偶然ではあったが、その理由を知っている。
しかし、その内容を勝手に話すわけにはいかない。キリトも逆に、ユウが持つ最強の武器の全容を知っているし、そのために変則的となった己のスキル構成もある程度知られてしまっている。
つまり、武器の情報は、己のステータスだけでなく、そこからスキルのデータを割り出されてしまう可能性もあるのだ。
それは危険極まりないことで、他のプレイヤーの妨害を受けたり、最悪オレンジプレイヤーに対策を練られて標的にされる可能性すら存在する。そのため、スキルの情報というのは、場合によってはレベル差よりも致命的になり得る。
「ま、いいわ。スキルの詮索はマナー違反だしね。それより、お昼にしましょうか」
アスナに言われてようやく気が付いたが、すでに昼の3時となっていた。アスナがストレージの中からバスケットに入ったサンドを出すと、シリカも同じようにサンドを取り出した。どうやら昨晩、《料理》スキルを《
「マヨネーズに醤油って……ここまでやるとは」
アスナは、味覚エンジンのパラメータを分析することで、現実世界のそれと同じ味を再現することに成功したらしい。そこまでして、料理にどれほどの情熱をかけているのだろうか、と一瞬考え、気が付いた。
よく考えてみれば、この世界では《はじまりの日》から、もうすでに2年近い月日が経っている。その間ずっと、自分たちはこの浮遊城で文字通り『生活』してきたのだ。
そう考えれば、いずれこの世界を脱出するという目標があるにせよ、この世界での生活を楽しみたい、その一環にある『食事・料理』に情熱を注いでみたいという考えを持っても不思議ではない。一人暮らしに慣れてきた大学生が、少し手の込んだ料理に挑戦してみよう、と考えるのと一緒だろう。
「「!」」
そこで、ユウとキリトの《索敵》が、何かをとらえた。思わず立ち上がって警戒するが、2人ともすぐにそれを解く。
そこから現れたのは、クライン率いるギルド《風林火山》のメンバーだった。
「おお、キリトにユウ! 久しぶりじゃねえか!」
「クライン、お前たちも来ていたのか」
「元気そうで、何よりだ」
旧知の面々とこういったところであると、思わず《迷宮区》の最奥であるにも関わらず、気を緩めて話し込んでしまう。
「ったく……お前、またユウと一緒かよ。ソロよりはいいけど、いい加減、もっと他のプレイヤーと大人数でパーティーを組んで行動したら……」
キリトに珍しく、ユウ以外の連れがいるということで、初めて認識したクラインだったが、アスナの姿を見た瞬間、硬直した。そんなクラインに構わず、キリトはアスナを紹介する。
「クライン、《圏内事件》のときや、ボス攻略の時に会っていると思うけど、こちら《血盟騎士団》副団長のアスナ。アスナ、こっちはギルド《風林火山》のクライン」
しかし、キリトが言っても、クラインはフリーズしたパソコンのように、一切動かなかった。
「おい、クライン。いつまで固まっているんだよ」
すると、ようやく再起動するようにいきなり気をつけの姿勢を取ると、アスナに頭を下げながら手を差し出した。
「ここ、こんにちは!クライン、二十四歳、独身、恋人募集中です!」
ごすっ、と鈍い音が発生した。キリトが、ダメージが発生しないギリギリの力加減で彼を殴り飛ばしたのだ。
「「「「「リーダー!」」」」」
ギルメンの面子が叫んだあと、一切にキリトとアスナ、ユウとシリカを取り囲んだ。
「アスナさんじゃないですか!」
「シリカちゃんもいるなんて!」
ごすっ、と再び鈍い音がした。理由は、今度はユウが2人目に叫んだ人物を、先ほどのキリトと同じように殴り飛ばしたからだ。
「俺のシリカに手を出すんじゃねえ、ロリコン共」
平然とロリコン呼ばわりしているが、20代の彼らに対して、シリカの年齢はつい先日誕生日を迎えて14歳になったばかりだ。あくまで2つの年齢差である彼らに比べれば、まだ大丈夫だろう。
ちなみに、シリカは『俺の』という言葉に反応して、顔を真っ赤にしていた。
「……ユウって、結構独占欲強いよな」
「そうね……」
キリトの言葉に、アスナは同意した。
最も、無理のないことではある。彼にとっては、家族以外において、初めて自分の心を開いた少女であるのだから。
そんな話をしているところに、さらに新たな影が現れた。
「キリト君、《軍》よ!」
アスナの声に、その場にいた全員がはっとなる。
《軍》――正式名称、《アインクラッド解放軍》。
全員お揃いの黒鉄色の鎧に、濃緑色の戦闘服を纏った十二人の男性プレイヤー。前線の盾持ち六人の武装には、特徴的な印章が施されている。
「……あいつら、ずっと最前線には来てなかったはずだろ? どうしてこの期に及んで、最前線にやってきたんだ?」
ユウの言うとおりであった。
《軍》はキバオウが立ち上げた《アインクラッド解放隊》(通称ALS)が前身である。所属するとメンバーには食事が支給されるため、多くのプレイヤーが参加し、千人超のプレイヤーが所属している巨大ギルドだ。ALSがシンカーというプレイヤーが立ち上げたギルド《MTD》を吸収したことをきっかけに、《アインクラッド解放軍》へと改名した。
当初はプレイヤー間の相互補助を目的としたギルドで、アイテムや情報をなるべく多くのプレイヤーで均等に共有し合おうとしていた。しかし、規模の拡大につれて統制が効かなくなった結果、入手したアイテムや情報の秘匿の横行、派閥同士による粛清・反発が相次ぐようになったのだ。
あのキバオウの主導によって、彼らは次第に狩り場の独占や徴税と処した恐喝行為など暴走を始めている……というのが、現状である。
なお、MTDを吸収したことは、最初のクォーターポイントである第25層の強力なフロアボスとの戦いで主力を失い、攻略組から脱落したのがきっかけであったはずだ。つまり、いつかは最前線に舞い戻り、再び花を咲かせたいと考えても、何ら不思議ではなかった。
しかし、第75層という3つ目のクォーターポイントを目前にしてここに復帰してきたということが、ユウには気になった。
(最前線へ舞い戻った直後に手柄を立てて、一気にトップギルドへと返り咲くつもりか)
ユウは、そう考えた。
確かに、成功すればALSは《血盟騎士団》に匹敵……いや、それを上回る勢力に返り咲くことだって可能になるだろう。しかし、それはあくまでも、今回のボス攻略に成功すれば、という話だ。
《軍》の集団は彼らの前までやってくると、1人が歩み出てきた。
「私は《アインクラッド解放軍》コーバッツ中佐だ」
「……キリト。ソロだ」
キリトが代表となって答えた。
「うむ、君たちはもうこの先まで攻略はしているのか?」
「ああ、ボス部屋までマッピングしてある」
「では、そのマップデータを提供してもらいたい」
その言葉に、クラインが大きな声を上げた。
「提供だと!?」
これは、かなり非常識な要求だった。
マップデータは、基本的に情報屋アルゴの所に行けば、きちんと知ることができる。ただし、それはあくまでも《攻略組》から彼女が受け取った範囲に限定されている。
当然ながら、今日攻略されたボス部屋までのマップデータは、現状ユウたち4人しか知らない情報だ。
「てめえ、マッピングする苦労が分かってんのか!?」
「我々は、君ら一般プレイヤー解放のために戦っている! 諸君が協力するのは当然の義務である!」
男は傲慢な態度でそう言い放った。そのことに、ユウは苛立つ。
「……ひとつ言っておくが、クォーターポイント以降、ビビッて引きこもっていた雑魚共が首を揃えたところで、フロアボスは攻略できないぞ」
厳しく、悪意さえこもっているその言葉に、コーバッツは強く歯を噛みしめた。しかし、一触即発の雰囲気の中で、キリトが前に歩み出た。
「どうせ、街に戻ったら公開しようとしてたデータだ。構わない」
「おいおい、そりゃ人が良すぎるぜ、キリト!」
「マップデータで儲ける気は無い」
声を上げるクラインを宥め、キリトはコーバッツにマップデータを渡した。ユウは、自分が出たところで状況を悪化することを感じ取って、それ以上何も言わなかった。
「協力感謝する」
「……ボスに挑むなら、やめておいたほうがいい」
「それはこっちが判断する」
そう言うと、コーバッツは疲れでへたり込んでいる部下を怒鳴りつけながら、そのままボス部屋の方へ行ってしまった。どうやら、強引に攻略を進めてきたらしく、精神的にかなり消耗しているようだ。
彼らが立ち去って行った後、クラインが言った。
「大丈夫なのかよ、あの連中」
「いくらなんでも、ぶっつけ本番でボスに挑むとは思えないけど」
アスナは不安を振り払うようにそう言ったが、シリカは彼女の嫌な予感に共感するかのように言った。
「でも、やっぱりあのリーダーの人……焦っていると思います。なんだか、安心してはいけない気がして」
「その通りだ、シリカ」
ユウは彼女の肩に手を置くと、微笑んで言った。
「さて、バカでお人好しな皆さん、一緒に行きましょう」
「それはお前だっつうの」
彼の言葉にクラインがため息交じりに呟くと、彼らは顔を見合わせて笑った。
キリトが先頭を歩き、その次にユウとその隣にシリカが並んで歩く。その後ろから、キリトの隣へ行くためにアスナが駆けだそうとした時、クラインが彼女を呼び止めた。
「あ~その、アスナさん?」
アスナが疑問に思って振り返ると、クラインはしばらく頭をガシガシと掻いていたが、やがて迷いながらも言った。
「えっとですな~……口下手で、無愛想で、戦闘マニアの馬鹿たれですが……」
そこまで視線を泳がせていたが、次の言葉は、彼女をしっかりと見つめて言った。
「キリトのこと、よろしく頼みます」
その一言には、どのような思いが込められていたのだろうか。
分からないが、このようなことをしっかりと行ってしまうのが、彼がキリトの兄貴分たる所以なのだろう。
その言葉を聞いた彼女は、しばらくキリトとクラインの間で視線を交互に漂わせていたが、やがて笑顔でこう言った。
「はい。任されました」
一度既に通った道なので、進むのはそこまで難しくなかった。
また、先ほどまでの4人に加え、今はさらに《風林火山》のメンバーまで揃っているのだ。そのため、先ほどよりもかなり速いペースでボス部屋まで進んで行くことができた。
しかし、いつまで経っても《軍》の連中には追いつけない。
「はあ!」
「やあ!」
ユウが敵の武器をディスアームで叩き落としたその直後に、シリカの《ファッド・エッジ》が炸裂した。さらに、その後に続いて槍が連続して突き刺さり、敵のHPを空にする。
《風林火山》との連携は初めてではなく、攻略は予想以上に順調に進んでいた。
「しかしなあ……これだけ来ても現れねえんだったら、《軍》の連中も、もう《転移結晶》で帰っちまったんじゃねえか?」
クラインが言った。
確かに、その可能性はある。しかし、ユウはその言葉に全く賛同できなかった。
「今、奴らは自分たちのプライドのために、血眼になって行動しているはずだ。ひょっとしたら、とっくに手遅れになっている可能性だって」
ユウは、その言葉を最後まで言い切ることができなかった。
――うわぁぁぁぁぁあああ!
悲鳴。
聞こえてきた方向は、《迷宮区》の最奥……すなわち、ボス部屋だ。
「キリト君!」
「ああ!」
「シリカ、行くぞ! クライン、悪いが頼む!」
「はい!」
アスナの言葉にキリトが頷き、ユウの言葉にシリカも真剣な表情で返事をした。
「ええ!? おい、お前ら――」
勝手に殿を務めさせられたクライン達《風林火山》であったが、彼らのことに気を配る余裕もなく、4人は一目散に駆け出した。
ボス部屋の直前では、Mobはポップしない。そのことも手伝って、彼らはすぐにボス部屋の前に辿り着いた。
その扉は開きっぱなしになっていた。
「なっ……!」
部屋の中央に立っている青眼の悪魔。その手に持っている巨大な斬馬刀が、《軍》のメンバーを一方的に蹴散らしていたのだ。
その周辺に倒れ込んでいる男たちのHPバーは、既にレッドゾーンに突入している者もいた。しかも、
(人数が2人少なくなっている……!)
ユウはさっとボス部屋の中に視線を走らせたが、《索敵》スキルを用いても、先ほど確認した数には2人足りなかった。つまり、ボスに殺されたのだ。この仮想世界と、現実世界の両方において。
アスナは悲痛な面持ちで叫んだ。
「何をしているの! 早く《転移結晶》で脱出しなさい!」
「駄目だ!結晶が使えない!」
「えっ……!」
――《結晶無効化空間》だと!?
その名の通り、あらゆる結晶アイテムが使用できなくなるエリアだ。このトラップに引っかかって命を絶つ者は決して少なくない。実際に《月夜の黒猫団》もかつてこのトラップで全員がイエローゾーンに陥り、あのキリトでさえレッドゾーンの一歩手前までHPが減少したことがある。
(だけど、ボス部屋がそうなったことは今まで一度もなかったのに!?)
ユウは歯を食いしばるが、恐怖を振り切るように勢いよく背中の剣を抜く。その時、《軍》の中佐、コーバッツが剣もう一度グリームアイズに向けた。
「我々解放軍に『撤退』の二文字はない! 戦え、戦うんだ!」
「バカ野郎!」
「おい、どうなってんだよ!」
そこに、クライン達が遅れてたどり着いた。そして、目の前の惨状を見て驚愕する。
「どうにかできないのかよ!」
ここで、彼らが戦いに参加するという選択肢はある。しかし、それは死の危険を非常に高めてしまう。
「全員……突撃!」
しかし、ここでコーバッツが命令を出した。だが、それはあまりにも無謀な攻撃だ。
「やめろ!」
キリトが叫んだ。
それよりも早く、グリームアイズが大きく息を吸い込んだ。
(ブレス攻撃……!)
斬馬刀がライトエフェクトを纏う。狙うのは、ブレス攻撃によって床に倒されたコーバッツだ。
「おおおあああっ!」
ユウは《アバランシュ》を発動すると、ボスの斬馬刀と真正面から衝突した。
(力が強すぎる……!)
無理矢理体を捻ると、なんとかその軌道を逸らす。しかし、コーバッツには当たらなかったものの、無理な体勢が限界を迎え、ユウはそのまま弾き飛ばされてしまった。
「死ぬ前に撤退しろ! 部下を死なせたいのか!」
「くっ……動ける奴は動けない奴を抱えろ! 撤退!」
他にも、《風林火山》のメンバーも《軍》の人々を抱えて次々とボス部屋の外へ運び出す。
だが、そのメンバーを見てボスが再びブレスの
「ダメー!」
アスナが叫び、《閃光》の名の如き神速でボスの背中に《スター・スプラッシュ》の連撃を突き出す。
「アスナ!」
「もう……どうとでもなりやがれ!」
キリトが彼女の名を呼び、クラインも叫んでその後ろを追いかけた。
その時、タゲが移動したことでアスナが斬馬刀の一撃を喰らってしまう。
「やあっ!」
すかさず、彼女が連撃を喰らう前にシリカが《インフィニット》でその腕に刃を突き立てた。しかし、ボスは斬馬刀を持った右腕を振り回して彼女を突き飛ばすと、空いている左手でアスナを殴り飛ばす。
地面に倒れ込んだアスナに、ボスの追撃が迫る。
「おおおおおおおおっ!」
キリトがボスと彼女の間に割って入り、逆手に持った《エリュシデータ》でギリギリその軌道を逸らした。さらに、ユウがその右腕に《アバランシュ》で斬りかかり、その右腕を弾く。
ボスのタゲがユウへ移動した。
「ユウ!」
ユウが敵の斬馬刀と鍔迫り合いを始めると、キリトがそこに剣を重ねた。しかし、《攻略組》のSTR型精鋭2人のステータスをもってしても、2人のHPゲージが次々と削られて行く。
ふと、2人の視線が合った。
彼らが出会ってから、そろそろ2年が経過しようとしている。親友、相棒と呼べるまでになった彼らの間では、この状況で言葉は最低限しか必要なかった。
「俺はもうアレを使う! ユウ、3人と持ちこたえてくれ!」
「分かった! 俺ももう、あの武器を使うからな!」
クソッタレが! と暴言を吐き、ユウはまず2人に前線を任せる。だが、AGI重視の2人では、未だボス部屋に残っている連中を守りながら戦うのは難しい。
すぐに、交代が必要になる。しかし、ユウの行動は速かった。
まずは、己の身を守るはずの防具であるスタデッドブーツなどを、その場で布防具に変更し始めた。そして、金属防具はついに《ドラゴンアーム》と《ドラゴンスカイ》だけになる。他にも、重いレザー系の防具も軽い素材の物に変更した。あらかじめ用意しておいたものであるので、それぞれに3秒程度しかかからない。
『竜』の名を冠する2つが特別重いわけではない。むしろ、今まで使用してきたものに比べれば、性能が高い反面、少し軽い。
しかし、この変更をしなければ、彼の今の
最後に、ストレージから己の最強の武器を出す。ここまでで、18秒。キリトは、もうしばらくかかりそうだった。
「キリト、お先に! 2人とも、スイッチだ!」
ユウは叫ぶと、完全に武器が実体化するよりも早く、駆け出した。
手の中に光と共に現れる、武器を握りしめる。今までの物よりもさらに重いその剣は、重量だけでなく、そのサイズも異常だった。
3メートルオーバー。
ボスの斬馬刀と対して変わらないサイズの武器を、約1.6メートルの身長であるユウのアバターが振り回す。
剣の名称は『アスカロン』。
『グラム』や『ノートゥング』と同一視されている『バルムンク』と並んで、伝説の中に登場する、聖ゲオルギウスが使用した竜殺しの剣だ。
重量が重すぎるが……代わりに、このところどころで湾曲した剣は、特殊な効果を持つ。
それは『どの武器のカテゴリーにも収まらない』という特性だ。そして、それを利用したユウのシステム外スキルが発動する。
刃先が赤くきらめく。ソードスキル《ランパー・ジャック》。斬撃3連撃。カテゴリは《両手斧》。
通常ならば、ここでスキル後硬直がかかるはずだった。しかし、ユウはスキルが完全に中断される前に、体を捻る。
刃の中腹にある、剃刀のように薄く研ぎ澄まされた刃が青い輝きを放つ。ソードスキル《ファラント・フルムーン》。斬撃4連撃。カテゴリは《曲刀》。
合計7連撃を終えて、ユウはさらに体を捻る。
刃の付け根にある出っ張りが、緑色の輝きを放つ。ソードスキル《トライ・ピアース》。刺突3連撃。カテゴリは《短剣》。
再び体を捻る。
刃全体が輝きを放つ。ソードスキル《ライトニング》。斬撃4連撃。カテゴリは《両手剣》。
合計……14連撃。
そこで、ユウの動きが停止した。しかし、すぐに硬直から抜け出した直後、『両手』に黒と白の片手剣を装備したキリトが、その手前に入って敵の斬馬刀を弾きとばす。
「……《スターバースト・ストリーム》!」
嵐のような16連撃がグリームアイズの体を切り刻み、ようやくその巨躯を四散させた。