ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~   作:nozomu7

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剣と黒い影

《アース・スケイル》の青い鱗が妖しく光る。このアルマジロはこの周辺の青い鉱石を取り込んでいるのか、その鱗も同様に煌めく青であった。

 

「回避!」

 

 ユウがそう叫び横へ飛ぶと同時に、アルマジロが勢いよく転がっていく。それを5人は躱すと、アルマジロが大岩に衝突して止まったところで、リズを皮切りに一斉にソードスキルを放った。

 

 多段ソードスキルの効果により、そのHPがどんどん削られて行く。

 

 全部で5本あるHPバーの最初の1本が無くなってから、巨大アルマジロの攻撃パターンに転がり攻撃が加わったものの、どうやら誰か1人でも一定距離以内(具体的には、約5メートル以内)にいれば、その厄介な攻撃をしてこないことが分かったので、その後は順調に攻撃を繰り返した。

 

 しかし、やはりというか、HPバーが最後の一本になったところで、至近距離にいようが一定時間ごとに転がり攻撃をしてくるようになった。しかも、その速度が増加した気もする。

 

 時間が経つにつれて、プレイヤーの精神的な疲労が蓄積するような設計になっているのだろう。あの攻撃は、足をもつれさせる、手を滑らせる(ファンブルする)などの要因で回避が遅れたら、ほぼ確実に命中する。そのため、常に気を張っていなければならないというわけだ。

 

 だが、この5人には通用しなかった。

 

「スイッチ!」

 

 リズが片手棍スキル《トライス・ブロウ》を叩き込むと、背中の甲羅が破壊された。その次に、シリカがスイッチとして入ると、短剣5連撃技《インフィニット》が甲羅のない柔らかな皮膚に炸裂する。

 

「アスナさん!」

「シリカちゃん、スイッチ!」

 

 アスナがそこに入り、三連撃技《アクセル・スタブ》を放つ。

 

「キリト君!」

 

 キリトが入ると、そこで右手の《エリュシデータ》がライトエフェクトを帯びる。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

 片手剣最上位スキル《ファントム・レイブ》。高速で放たれる6連撃が、《アース・スケイル》の柔らかな皮膚に刻まれた。

 

「攻撃来るぞ!」

「任せろ!」

 

 至近距離にいるため、アルマジロの鋭い爪が襲い掛かる。しかし、ユウがそれを両手剣で受け止め、さらにそれを弾き飛ばした。

 

「はあっ!」

 

 ユウが威勢の良い声と共に放ったのは、高速7連撃技《アストラル・ヘル》。パリィによって大きな隙ができたアルマジロの腹に、重い斬撃が次々と命中する。

 

 しかし、最後のイエローゾーンに突入したところで、アルマジロが屈んだ後大きく跳躍した。

 

「「下がれ!」」

「ユウさん!」

「キリト君!」

 

 キリトとユウの叫びに、アスナとシリカが思わず2人の名前を呼んだ。

 

 その直後――アルマジロの巨体が床に落下。

 

 轟音と共に砂埃を巻き上げるその中から、2つの影が素早く飛び出した。どうやら、キリトがAGIに劣るユウを突き飛ばすような形で、2人とも踏みつけ(ストンプ)攻撃を回避したらしい。

 

「危ねえ……助かったよ、キリト」

「たまには借りを返さねえとな」

 

 ユウの言葉に、キリトは照れながらも笑顔で返事を返す。

 

 なんとか全員回避したものの、万が一あの攻撃を喰らっていたらかなりのHPを持っていかれたであろう。ひょっとすると、紙装甲のキリトは一撃で数割のHPが失われていたかもしれない。

 

 そう考えると、全員がヒヤリとした思いを抱く。

 

 だが、再びアルマジロが屈んだ姿勢を取った。それを見たユウは、全力で《アバランシュ》を放つ。

 

 敵が跳んだその瞬間、ユウの剣先がアルマジロの腹をかすめた。そして、バランスを崩したフィールドボスは、そのまま地面へと仰向けに落下する。

 

 それを見た暫定的パーティーリーダーであるユウは、思い切り叫ぶ。

 

「全員、総攻撃! 取り囲め!」

 

 その言葉を聞くよりも早く、4人は一斉に無防備状態と化しているアルマジロの周囲へ群がった。その柔らかな腹に、ソードスキルが色とりどりの光の尾を引いて降り注ぐ。

 

 ユウも、チャンスとばかりに両手剣最上位スキル《カラミティ・ディザスター》を叩き込んだ。

 

 3回目までそれを繰り返した時、シリカの《インフィニット》が命中すると同時に、その姿が青い光となって四散する。

 

 こうして、フィールドボス《アース・スケイル》は消えた。

 

「やった! ユウさん、初めてラストアタック・ボーナス手に入れました!」

 

 戦闘が終わりそれぞれ武器を鞘に納めて一息ついた次の瞬間、シリカが嬉しそうにユウに抱き付いた。

 

「お、おお、おめでとう」

 

 短剣使いは、ボス戦では基本的にクラウドコントローラー(ボス戦において、デバフ付きソードスキルで敵のヘイト管理などをする役割を持つプレイヤー:CC)の役割となるため、LAを決めるということは珍しい。威力の高い大型武器や、扱いやすくチームの主力となる片手剣や曲刀、刀使いなどのダメージディーラー(DPS)がLAを獲得することが多いのだ。

 

「はあ、せっかく涼しげな場所なのに、一気に暑くなったわね。そうは思わない?」

「ほっとけ」

 

 2人の様子を見たリズベッドが冷やかすようにそう言ってきたので、ユウはそれを軽くあしらう。

 

 シリカは嬉しそうに、彼の腕に抱き付いたまま離さないが、その様子を見てユウが言った。

 

「そういえば、LAボーナスの中身は確認したのか?」

「あ!」

 

 彼女が何も確認せずにそのまま腕に抱き付いてきたので、やはりというか予想通りだったことに、ユウは苦笑いする。

 

「はいはい。シリカにとってはLAボーナスよりも、彼氏の方が大事だもんねー」

「リズさん! それは……まあ、そうですけど……」

 

 顔を赤らめながらも、左手はユウの腕を離さずにアイテム欄(ストレージ)を確認する彼女を、アスナは羨ましそうな表情で見ながら、ちらちらと隣にいるキリトの腕に視線を送っていた。

 

 その様子を目ざとく見つけたリズが彼らをからかいに行くが、すぐにシリカがドロップしたLAを装備する。

 

 どうやら、今回のLAはブラストプレートだったらしい。そのふちにはアルマジロの甲羅のような模様が施されていた。幸いにも《軽金属装備》スキルで装着可能であるようで、日頃からブラストプレートを使用している彼女にとってはちょうどよい品物だったようだ。

 

 その他のドロップアイテムについても、53層としてはなかなかに贅沢なものだった。最前線が60層である今、アイテムについては使わずに予備にしてしまうものもあるだろうが、少なくとも目的の素材だけでなくプレスアルファが思ったよりもあったので、満足のいく冒険と言えるだろう。

 

 そんな訳で、彼らはリズベッドが店を構えている《リンダース》へと戻った。

 

 

 

 

 

 カン、カン、カン……。

 

 リズベッドのハンマーの音が、彼女の工房の中に響き渡る。

 

 武器の製作手順は決まっていて、芯材(インゴット)と基材、添加材を(フォージ)の中に入れ取り出したところで、鉄床(アンビル)の上で一定回数、ハンマーで叩くことで完成する。ここでの叩く回数は武器の性能に比例して増加するので、この『叩く回数』というのも武器作成における醍醐味なのだ。

 

 リズベッドが真剣な表情で剣を叩いているのを、4人と1匹で見守る。

 

 そして、彼女が叩く回数を4人でハラハラしながら数えていたが、ついに金属音が途切れてインゴットが変形を始めると、その緊張が最大限まで高まった。

 

 その光が収束し、そこに一振りのダガーが現れた。

 

 刀身は鮮やかとも呼べる青さを持っており、わずかに湾曲していた。その光沢だけで、キリトの《ダークリパルサー》には一歩及ばなくとも、かなりの業物であることが分かる。

 

「えっと……固有名は《フェアリーオーシャン》……『妖精の海』ってとこかしら」

 

 はっきり言って、今の彼女にとってはもったいないほどの剣であるとも言えた。しかし、シリカはごくりとつばを飲み込むと、その業物を手に取って構える。

 

「やあっ!」

 

 威勢の良い掛け声とともに放たれた《ラピッド・バイト》は、そのライトエフェクトが綺麗な軌跡を残した。

 

「調子はどう?」

「凄いです。すんなり手になじむと言いますか……」

 

 シリカが、感心した様子で新しい己の武器を見る。

 

(うーん、そういうものなのかなあ……)

 

 ユウにとっては、剣はとにかく重くて性能が高ければ良い、という感じで扱っているので、そのあたりの感情がよく分からなかった。どちらかといえば、剣を振りやすくするためには自分で持ち手を少し変えてみるなど、自分のスタイルに試行錯誤を重ねていくタイプなのだ。

 

「じゃあ、続けてアンタの防具も作っちゃうわね」

「頼むぜ」

 

 口調だけを聞くと、ついで、みたいな感じがしてしまうが、彼女も鍛冶屋としてのプライドというものがあるので、全力で製作に取り組んでくれるであろう。

 

 カン、カン、という金属音が工房の中に響き渡り、そしてそれが収まった時、光を放ちながら新たなブラストプレートが形を作った。

 

 その輝きは、どこか空を連想させるような鮮やかな青をしていた。偶然にも、それはユウのイメージカラーにピッタリである。

 

 固有名は《ドラゴン・スカイ》――『天空の竜』。

 

 まさに、《竜騎士》ユウにとってふさわしい一品であると言える。性能も、今までに装備してきたモンスタードロップのものとは一線を画すものだった。

 

「十分すぎるものだな。ありがとう、助かった」

 

 ユウは今まで使っていたブラストプレートの代わりに《ドラゴン・スカイ》を装備する。真新しい装備であるはずなのにも関わらず、シリカにとって、不思議とその姿には違和感が感じられなかった。

 

「良し、じゃあ新しい装備もできたことだし……狩りに行こうぜ」

「いや、今日はもう《フローリア》に戻りましょうよ!」

 

 新装備が試したいユウであったが、シリカはもう今日は切り上げておきたいようだ。というのも、ここ数日はユウに追いつくべくずっとレベリングを続けているので、たまには休憩が欲しくなるのも当然のことだろう。

 

 持っている技術は常識外れであっても、ユウの性格は常識人であるので忘れそうになるが、ユウも結局は重度のネトゲオタクであるという事実を忘れてはならなかった。

 

 そんな訳で、ユウとキリトが新しい装備で狩りを繰り広げ、女性陣はそれを尻目にゆっくりと休憩していた(それでも、シリカも一応新装備の慣らしをしていたが)。

 

 そんな感じで、新装備の入手は終了した。

 

 

 

 

 

 それから約3か月後。

 

「はあ、今日はユウさんもボス戦か……」

「シリカ……。アンタ、さっきからため息ばかりね」

 

 この日は第70層のフロアボス攻略が行われ、ユウ、キリト、アスナはそこに参加しているため、シリカはリズベットと少し下の層の《迷宮区》でレベル上げをしていた。

 

 しかし、フロアボス攻略にはその前の迷宮区突破と併せると、3~4時間ほど要する。やはり半日も会えないのは寂しいのだった。

 

「しょうがないじゃない。恨むなら、《はじまりの街》を出るのが少し遅かった自分を恨みなさいよ……まあ、早めに街を飛び出したからといって、その方が有利だったという保証はないけどさ」

 

 彼女の言うとおりであり、逆に《はじまりの街》を出るのが遅かった方が、攻略のための情報が整っているので、死亡率は少し低かったりする。しかし、宝箱やボスのLAなどゲーム全体での唯一品は《攻略組》に取られた後なので、装備品のステータスは総じて上げにくいという欠点も存在した。

 

 そのため、どちらがよいか、と言われれば、どちらでもない、というのが正しかった。

 

「それは分かってますよ……でも」

 

 やはり、考えてしまうのだ。

 

 もっと早くに《はじまりの街》を出ていれば、彼と肩を並べて戦うこともあったのではないか、と……。

 

「いいじゃない……それでも、シリカはユウの隣まで行くことができたんでしょ? ボス戦の後は疲れているでしょうから、彼女のあんたが癒してあげなさいよ」

 

 ほら、男子が喜びそうなこととか、いろいろあるじゃない、とリズベットに言われ、シリカは少し顔を赤くした。

 

「あれあれ~? シリカはどうやってユウを癒してあげようと考えたのかしら?」

「べ、別に変なことなんて考えていませんよ!」

 

 リズベットがシリカをいじり、シリカは顔を真っ赤にして彼女に抗議する。いつもの光景であった。

 

 と、その時。

 

「……君たち」

「わっ!」

「きゃあ!?」

 

 突然、彼女たちの後ろから低い声が聞こえた。

 

 2人は女の子らしいかん高い悲鳴を上げたものの、すぐにその場を飛び去り、武器を構えて振り返った。

 

(私達2人の《索敵》にひっかからなかったってことは、かなりの《隠蔽》スキル持ちね……襲うのではなく、声をかけたという点が気になるけど)

 

 リズベットは考えながら、盾ごしに声をかけてきた相手を見る。

 

 そこには、頭にフーデッドケープを被った少年がいた。その手には両手槍が握られており、全身は灰色の服装に覆われている。

 

 ちらり、と2人は頭上のカーソルを確認した。

 

 ――色はグリーン。

 

 もちろん、カルマ回復クエストを受けたオレンジプレイヤーという可能性も否定はできないが、それでも十分に警戒心は下がった。

 

「……驚かせてしまってすまない。ただ、君たちに武器を向けるつもりはない」

 

 少年は、落ち着き払った声で言う。しかし、声は対照的に高かったので、案外年齢は低いのかもしれない。もっとも、リズベッドとほとんど年が変わらないはずのキリトやユウも、けっこう声が高いので、それだけで自分よりも年下であるとは限らないが。

 

「何ですか?」

 

 シリカも始めは警戒したものの、年が近そうであることも手伝ってか、慎重に言葉をかけた。

 

 その言葉を聞いて、少年は少しためらった後に言い放つ。

 

「……今さっき話していたユウというやつは、《竜騎士》とかいう二つ名がつけられているソロプレイヤ-でいいか? もしもそいつのことを知っているなら、少し聞きたいことがあるんだが」

 

 その言葉に、シリカとリズベットは顔を見合わせた。

 

「知っていますよ。ユウさんは今、ボス戦に行っていますけど……この後主街区で一緒に待ちますか?」

 

 その言葉を聞くと、彼は灰色のフーデッドケープに覆われた頭を少し俯けた。そして、しばしの沈黙の後で、言う。

 

「いや、直接本人に会いたいわけじゃないからいい……そうか、今でも最前線(そこ)にいるのか」

 

 彼はそれだけ言うと、頭を下げた。

 

「いや、少しあいつの近況が知りたかっただけだ……。ありがとう。それでは、これで失礼する」

 

 そう言うと、彼は踵を返して下へ続く階段へと歩き去ってしまう。

 

 その様子を、彼女たちは2人でキョトンとした表情で見つめていた。

 

「えっと……今の、何だったの?」

「さあ……ユウさんを知っている人でしょうか?」

 

 ひょっとしたら、ユウがかつて助けた中層プレイヤーなのかもしれない、とシリカは思う。

 

 基本的には最前線にいるものの、何か緊急事態が迫れば、ユウはどこにでも駆けつけていくプレイヤーだ。そもそも、例の《ドラゴンアーム》のクエストにしても、始めは犠牲者が出る前になんとかできればなんとかしよう、という考えからクエストを受けたのである。

 

 ……もっとも、実際に一度行ってみたら本人がそれにのめりこんでしまい、4回ほど再挑戦してドラゴン型フィールドボスを撃破したのだが。

 

 それはともかく、《竜騎士》ユウの名前は《アインクラッド》全体に知れ渡っていると言っても良い。むしろ、《ビーター》扱いされているキリトとは対照的に、《神聖剣》の使い手ヒースクリフと共に、アインクラッドに希望の光を灯した存在とされているのだ。

 

 だから、2人はあの少年が、単なるユウに憧れている、自分たちと同程度のレベルのプレイヤーなのだろう、と考え、それきり再びレベル上げに専念した。

 

 一方、少年はシリカとリズベッドと別れた後、《迷宮区》の入り口に向かって階段を下がって行った。

 

「《竜騎士》ユウ……」

 

 己の目的であるその名前を、呟く。

 

 その時、後ろから声がかけられた。

 

「よう、相変わらずのようだな~、レイン」

「……ジョニーか」

 

 陽気とも言える声で話しかけるのは、ジョニー・ブラック。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の幹部であり、その実力はPoh、ザザに次いで3番目に入るほどの実力者だった。

 

「わざわざ事前に対象者(ターゲット)のお友達なんかと面会なんてしてないで、サクッとその子も含めて殺しちまえばいいのに」

 

 さらりと恐ろしいことを笑顔で語るジョニーであるが、それが彼らにとっての常識だった。

 

 このデスゲームは、楽しむもの。

 

 合法的な殺人が可能なこの世界に、死の恐怖がもたらされて行く様子を楽しむ。

 

 自分の死を目前にした人間の表情が、恐怖に染まっていく様子を楽しむ。

 

 それが彼ら《レッドプレイヤー》なのだ。

 

 だから、普通は本当に必要に迫られたようなときにしか、カルマ回復クエストを受けることなどしない。別に《圏内》である《主街区》まで入らなくとも、1つ上下の層に移動する程度であれば、クエストを達成するよりも《迷宮区》を利用した方が移動は早い。そして、レッドプレイヤーがわざわざ慌てて特定の目的地に行くようなことはない。

 

 買い物はどうするのか、といわれれば、《主街区》以外の町や村では、時折《圏外》である場合があるため、そこを利用するのだ。

 

 しかし、このレインという少年は異なっていた。

 

「……俺は俺の目的があって殺しをしている。殺人が目的であるからレッドプレイヤーと言われるが、お前らのようにそこに興奮と快楽を求めているわけではない」

 

 目的。

 

 必要があったから、彼のダボついた灰色の袖の中に隠れたその腕には、黒地に白で描かれた《笑う棺桶》が描かれていた。

 

「つまんねーな~。今度一緒にやろうぜ? 『殺し合って、残ったやつだけ助けてやるぜゲーム』!」

「お前の遊びに付き合ってやる暇はない」

 

 彼はそう言いながら、行く手を遮るMobに向けて槍中級スキル《リヴォーヴ・アーツ》を放つ。彼がこのギルドに入ってからの時間が短くても、彼が幹部であるジョニーと対等に話せているのは、彼もまた幹部であり、彼と同等、あるいはそれ以上の実力を持っているからであった。

 

 それは、レベルとしても、武器を扱う技術や戦闘におけるセンスという意味においても、両方の意味で優れている、ということだ。

 

 実際のところ、彼の実力は《攻略組》の中でも特に優れたキリトやアスナ、ユウと比較しても遜色ない……リーダーのPohは、そう考えていた。

 

 つまり、彼の実力は、ほとんど自分自身と変わらない。

 

 彼はPohのような強力なカリスマ性を持ち合わせてはいないため、リーダー争いが発生する可能性もなく、また本人もそのような欲は一切ないため、そういう意味ではPohにとって都合の良い存在であると言えたのだった。

 

 ただひたすらに己の目的のみに固執し、そのためにはPohから命じられたことを、ためらいなく行ってきた。

 

 実は自らの武器で他プレイヤーのHPを全損させたことはないのであるが、レッドゾーンまでHPを削ってからザザなどの他のメンバーにとどめを譲ることは多々あったので、その点でもレッドプレイヤーであることには違いない。

 

 しかし、ジョニーやザザの考えからすれば、プレイヤーのHPが全損するその直前こそ、一番の『楽しみ』であるはずだった。それを簡単に否定した彼には、疑問しか覚えない。

 

 だが、どれだけ質問しても、答えは同じだった。

 

『自分には、殺すべき相手がいる』

『そいつは必ず、俺自身の、俺だけの手で殺す。邪魔をする奴には容赦はしない』

 

 その相手がユウであることは、すぐに分かったのであるが、その理由までは語られなかった。もっとも、そこまで興味がなかったので、しばらくすると、《笑う棺桶》の誰も、それ以降その手の質問はしなくなっていたが。

 

 レインは再び己の槍を構えると、相手に向かって多少苛立たしげに槍初級スキル《ツイン・スラスト》を放った。

 

 攻撃範囲がそこそこあり、硬直が短い上に低確率で《スタン》を与えることができるという優秀なこの技は、彼が好んで使用するスキルの1つであった。

 

 それこそ、アスナが《リニアー》で《閃光》と称されたその実力と並べられるほどに。

 

 的確な2連撃がクリティカルヒット特有のエフェクトを発生させ、亜人型モンスターを葬り去る。

 

「ユウ……貴様は、俺の手で……殺す」


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