ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
2023年12月24日。
クリスマスイブの今日は、昨年第4層でこの日を迎えた時と同じように、《アインクラッド》のあらゆる場所で雪が降っていた。流石に、明らかに砂漠や火山の地形をしている場所は別であるものの、そのような一部の例外を除けば、基本的にしんしんと雪が降り積もっている。
そんな中ユウは、キリト、クラインたち《風林火山》、そして《月夜の黒猫団》と共に第35層に来ていた。
この層には《迷いの森》というエリアがある。その名の通り木々が立ち並ぶ森のエリアなのであるが、最近になって、ある衝撃的な情報が《攻略組》の間を駆け巡ったのだ。
《迷いの森》の何処かにある、捻れた大きな枯れたモミの木。そこにはクリスマスの0時になると、イベントボス《背教者ニコラス》が出現する。
年に一度のイベントボス。それだけでも十分話題の的なのに、それがレアアイテムをドロップする、という話まで出てきたのだから、有力ギルドはこぞって、その場所を探し始めた。
なぜなら……そのドロップするレアアイテムというのが、《アインクラッド》にはあり得なかったはずの『蘇生アイテム』だと言われているからだ。
主街区《ミーシェ》の転移門広場へとやってきた彼らは、目的地に向かって歩きながら雑談する。
「しっかし、あり得るのかよ、『蘇生アイテム』だなんてよ」
「……そうだな」
クラインの言葉に、ユウは少し考えてから言う。
アイテム自体はあり得ないことではない。なぜならこのゲームは、茅場晶彦以外のスタッフにとっては、単に世界初の本格的なVRMMORPGということになっていたのだから。そのようなアイテムが実装されていることは不自然ではない。
だが、デスゲームとなっているこの正式サービスで、実際にそれが使えるのかどうか……となれば話は別だ。
「考えられるとしたら……時間制限付きってところかな」
SAOがデスゲームとなっているのは、この世界でHPを全損すると現実世界の自分の脳が、高出力マイクロウェーブで焼き切られるからだ。
すなわち、《ナーヴギア》がSAOでの死を確認してから、電磁波が放たれるまでのわずかな猶予の間……それまでに蘇生に成功すれば、脳を破壊されることは食い止められるかもしれない。
そんな考えを、ユウは言った。
「なるほどなあ。ほんと、ユウってこういうところで神がかり的な推理力を発揮するよな」
「そこまでじゃねえよ……」
ただ、他の人よりも冷静に状況を分析することに長けているだけだ、とユウは内心でテツオに付け足した。
現在、サチはこの場所にいない。
そもそもフィールドに出て戦いをしておらず、商人をしているエギルの手伝いを基本的にしているが、時折キリトとユウを通じて知り合ったアルゴの助手などもしており、ある意味で知り合いの間では『何でも屋』に近い扱いを受けている。今まで育ててきた戦闘系スキルもあっさりと手放し、現在は後方支援担当だ。
「じゃあ、作戦を確認しようか」
暫定的なレイドリーダーとなっているユウ(キリトが辞退した)が、現在の時刻が23時30分であることを確認して話し始める。
「もう1つか2つ、この先にあるエリアを突破すれば、恐らくモミの木のある場所へと到着する。《背教者ニコラス》はイベントボスである以上、並のフィールドボスよりも強敵になるだろう。この層の安全マージンを取っている俺たちだが、敵の情報が少ないからその強さがどのくらいなのかは分からない」
イベントボス、というもの自体が初めてなのだ。危険性はそれなりに高い。
「したがって、まずはレベルが高く、紙装甲のキリトくんよりは防御力が高い俺が、最初に剣を交えてみる」
「紙装甲は余計だろ……」
ユウの冗談にキリトがツッコみ、少しだけ笑いが起こる。しかし実際、布オンリーのキリトよりは《軽金属装備》スキルを持ち、ブラストプレートや手甲をつけているユウの方が防御力は高い。
「それで、俺1人でも十分に攻撃をいなすことができるようなら、そのまま攻撃続行。俺やテツオがタゲを取りながら、他の人たちで攻撃をしてもらう。だけど、俺を両手剣ごと軽々と吹き飛ばすようなふざけた威力の持ち主だったら、尻尾巻いて全力で逃げるしかない。まあ、極端な話、出たとこ勝負な面が強い」
それが問題だった。
ボス戦というものは、それだけでも危険なものだ。ましてや、情報が少ない上に事前の偵察も無理、などというのはやらない方が良いのかもしれない。
しかし、情報から察するには、このボスにはそれ以上の価値が潜んでいる可能性が十分にあるのだ。
そして、それからさらに移動すると、目的地にたどり着いたのは、ちょうど出現予定時刻の5分前だった。
周囲にMobがいないことを確認すると、各々が目の前に高くそびえるモミの木をじっと見つめる。それがずっと続いた。
「なあ、ユウよ」
残り3分を切った時、キリトには聞こえない程度の声で、クラインが言った。
「キリの字のやつ、大丈夫なのかよ?」
「……まあ、《月夜の黒猫団》のやつらとのこと、ちょっと気にしすぎている節はあるけどな」
ユウは、落ち着いた声で答える。
「だけどこの数か月間、俺が何とか言ってもどうにもならねえんだよ。アルゴとかが声をかけても、あまり返事は芳しくないとのことだし、アスナは知っての通り、な……」
「ああ……あいつらを一緒にするのは、今はな……」
アスナは、現在《血盟騎士団》というギルドに所属している。《ドラゴンナイツ》に端を発した《青竜連合》や《アインクラッド解放隊》から発展した《アインクラッド解放軍》に比べると歴史は浅いが、ギルドリーダーのヒースクリフという男はかなりの腕前を誇る男だ。
彼女は現在そこで副団長を務めているのだが、最近はだんだんと攻略にのめりこむあまり、《攻略の鬼》などというあだ名がちらほらと発生していて、誠によろしくない状態のようである。
(まあ、アスナの性格から考えてっていうのと、時期的にも1年以上が経過してっていうのもあるしなあ……)
精神的に、追い込まれて行っているのだろう。
ユウも、キリトと一緒に食事に誘ってみたり、などは試みたのであるが、まったくもって芳しくない返事をもらってしまった。おまけに、最近では攻略会議でキリトと対立し始めている始末だ。
逆に言えば、キリトに正面切って反論を述べることができるほど、成長したとも言えるのであるが……。
「会っても、互いに何も言えないような状況になるだけの気がするからな。どちらにしろ、被害はゼロで済んだんだ。後は、この戦いでキリトの気持ちも少しは整理してもらえると嬉しいんだけれど」
「……できると思うか?」
「だよな」
クラインの疑問に、ユウは肯定しながら少し先に立っている黒いコート姿を見つめた。
「まあ結局のところ、全力でサポートしてやりますか、ってところだな」
「おうよ。お前らも、行くぞ!」
ユウが背中から両手剣を抜き放ち、正眼に構える。クラインも刀を抜き、その他の面々も武器を構えた。
0時の鐘が鳴り響き、そして雪が下りてくるその天空から、巨大なMobが落ちてくる。
《背教者ニコラス》。
聖ニコラスをモチーフにしているのであろう、格好はサンタクロースに似ているが、顔色は悪い上に崩れており、不気味としか言いようがなかった。
ニコラスが雄たけびを上げたのを皮切りに、作戦通りユウが突進し、思い切り斬り付ける。
ボスへのファーストアタックに成功すると、その斧を思い切り振り下ろしてくるのを、一先ずは避ける。その後、続けて横薙ぎに振るわれた攻撃を剣で防いだ。が、受け止めきれず、ユウは体をひねってその軌道をそらす。
(……1人でも防げないことはないが、真正面から受け止めるのはきつい、といったところか)
ユウは白い息を吐きながら、敵の力を冷静に分析する。
「このまま戦闘を続行! だけど、1人で攻撃を受け止めようとするな。必ず複数で武器を重ねろ!」
「「「おう!」」」
ユウの言葉に、テツオも前に出てきて前衛となる。そして、キリトとクラインが敵の両サイドから突進した。
キリトの片手剣上位突進技《ヴォーパル・ストライク》と、クラインの刀スキル《緋扇》がニコラスを斬り付ける。
「スイッチ!」
「おう!」
2人が硬直が解けると同時に下がったそのタイミングで、ニコラスの《ワールウィンド》に合わせ、ユウが全力の《アバランシュ》で相殺、テツオがさらに追撃を叩き込む。
「「スイッチ!」」
さらに、他のメンバーが立て続けにソードスキルを決めた。
(とりあえず、出だしは好調か)
再びスイッチしてボスの斧をテツオと2人でいなしながら、ユウは考える。
(このまま行けるといいが……ってのは、少し希望的観測が過ぎるかな)
しかし、今のところは十分に順調だ。キリトも、ユウも、《風林火山》も、《月夜の黒猫団》も、うまくスイッチとPOTローテーションをこなしているし、タンクのメンバーのHPにも十分に余裕さえみられる。
そうこうしているうちに、ボスの持つ5本のHPバー、その1本目が空になった。
「よし、クライン、頼む!」
「おうよ!」
ユウが後ろへと飛び、クライン達《風林火山》にその前衛が変わる。
「頼むぜ……」
ユウは、彼らの戦いを後ろから眺め、状況の把握と指揮に勤めながら、そんなことを呟いた。
あと少しで、ニコラスのHPバーが最後の1本になる。
バーの変わり目というものは、常に緊張が伴う。なぜならば、そこからボスの戦闘パターンが変わることが多いからだ。
それはこの戦いでも同じだったようである。
最後の1本になったところで、ニコラスが手に持った斧を捨てたのだ。
「なっ……」
誰が叫んだのか。そして、ニコラスは新しい武器を取り出した。
「全員さがれ!」
ユウが指示を出し、一斉にメンバーが雪の上を走る。
ニコラスが手に取った武器は、服の中に隠し持っていたベルだった。カテゴリは、恐らく《片手棍》。その初級スキル、《パワーストライク》が炸裂する。
「おおおおおっ!」
ユウはためらわずに敵に突進する。なぜなら、その攻撃で数名が動けなくなってしまったからだ。
《パワーストライク》は初級スキルであるため、威力自体はそこまでではない。しかし、当たるとそこそこの確率でスタンを付与することができる。
片手棍使いのプレイヤーにとっては、それは助けにもなるのであるが、敵に使われると厄介であることには変わりない。それに、初級スキルであるがゆえに、敵の硬直は少ないのだ。
ボスの追撃《ダイアストロフィズム》が迫るその前に、ユウはその初動の瞬間に敵の武器に向けて《アバランシュ》を叩き込んだ。
ボスのソードスキルが強制的にキャンセルされ、
「スイッチ!」
「ああ!」
キリトと入れ替わると、彼は思い切り剣をまっすぐ上に振りかぶった。片手剣上位スキル4連撃技《バーチカルスクエア》が敵に決まる。そのタイミングで、一斉に周囲からソードスキルが入った。同時の多段攻撃により、敵のHPゲージが一気に削られる。
「とりあえず、対処は成功か……」
最後の峠を越えた。
敵が消えるまで気を抜くわけにはいかないが、このまま行けばそれで十分だろう。POTローテーションも十分に回っているし、これ以上の奥の手がニコラスから出てくる様子はない。
予想通り、とどめにはキリトが片手剣最上位スキル《ファントム・レイブ》できっちりとLAボーナスを決め、決着がついた。
「お疲れ」
ボスがポリゴン片となって四散した後。ユウは両手剣を杖代わりに体重をかけながら、みんなに声をかけた。
「おう、お疲れ!」
「おつかれー」
全員が武器を鞘に納めて、互いに健闘をたたえ合う。
そんな光景が繰り広げられた後、しばらくすると、全員の視線がキリトに集まった。
「分かってるよ」
キリトは笑ってそう言い、全員の目の前でメニューウィンドウを開くと、1つのアイテムをオブジェクト化して見せた。
《還魂の聖晶石》。
透き通った青いその石を見て、全員がおおっ、とどよめいた。
「で、どんな効果なんだ?」
「えっと……あー、ユウの言った通りだな」
プレイヤーが死亡した場合、『10秒以内』であれば蘇生することができる、とのことだ。
(10秒以内、か……)
すなわち、それがプレイヤーのHPが0になってから、脳破壊シーケンスが実行させるまでの猶予、という訳なのだろう。
「よし、とりあえず……みんなイベントボス戦への参加、ありがとう!」
とりあえず、レイドリーダーとして、ユウは全員の前で話し始めた。
「なかなかの強敵だったけれど、予想外にスムーズに戦闘が進んだのは、みんなのお陰だと思っています。予定通り、この後主街区《ミーシェ》で打ち上げ兼クリスマスパーティーをします! 夜が明けるまで、存分に楽しもう!」
わっ、と全員から歓声が上がる。
その後、ボス戦後にも拘らず、誰もが高いテンションだった。
無理もない、去年のクリスマスパーティーは、そこまで誰もが、というわけにはいかなかったからだ。
クライン達は慎重なレベル上げのために、未だ第1層でレベル上げをしていた。
攻略に参加していなかった《月夜の黒猫団》のメンバーにしても、全員がまだ《はじまりの街》から抜け出せておらず、全員でギルドをつくって活動することを決定したのは、その後のことだった。
キリトとユウは、アスナと共に第4層で《キャンペーンクエスト》に参加しており、キズメルと第3層以来再会できたのが、クリスマスプレゼントだった。
そんなわけで、まともにクリスマス……と騒げるのは、誰もが2年ぶりなのである。
「キリト、ボス戦お疲れ」
「ユウこそ、リーダーお疲れさま」
互いにグラスをぶつけ合い、その中身を口にする。
クリスマスという事で、誰もがシャンパンを飲んでいた。最も、この世界でのお酒は一切酔わないので、大人たちは少々不満そうだが、彼らは酒よりも食事や会話を楽しんでいる。
キリトたちも、たまにはその中に入ってふざけ合う。ユウも、教会にも行かずにこんな大勢で過ごすようなクリスマスは初めてだったので、大いにはしゃぎまわった。
普段、通常の年齢よりも大人ぶってキリトの面倒を見ていることも忘れ、15歳の少年らしく、おおいに騒ぐ。そんな彼を、エギルやクライン達は温かく見守っていた。
「少しは息抜きできたみてえだな」
「ああ」
そう言って互いにグラスを傾けた。
キリトや《月夜の黒猫団》などの面々などを普段心配している彼らであるが、ユウに対しては普段あまり心配していない……というと、少々語弊があるかもしれないが。
しかし、実際にあの少年と一緒にいると、ついユウがキリトと同じくらいの年齢であることを忘れそうになるのだ。彼の立ち振る舞いが、他のみんなよりも少し、大人びているせいで。
明るく振舞い、そしてフォローなどの立ち回りも、十分にクラインに並ぶ兄貴分としてやっていけるその精神力と経験。そして冷静に物事を見つめ、的確に解決策を見出すその分析力。
それらが、この1年間だけではなく、デスゲーム開始して間もなくわずかながら発揮されていたものであることを考えると、驚嘆するばかりだ。
一体、あの少年が現実世界で、どのような人生を送ってきたのだろうか……どうすれば、あそこまで大人びた中学生に育つのだろうか、などと考えてしまう。
それほどに、時にユウは並の大人よりも優れた判断力と精神力を発揮していた。
だからこそ、ユウに対するフォローは後回しにしがちになる。しかし、その背後にどれほどのものを背負っているのかは、彼自身にしか分からない。
だが、彼が時折、いつもの人懐こい笑顔とは別に、空回りするような笑顔を表情にしているのを、誰もが感じ取っている。
キリトが聞いたことには、現実世界に置いてきた妹2人が気がかりなのだと言うが。
なぜ『両親』ではなく『妹』なのか。その理由を、誰も知らなかった。
クリスマスパーティーも終わり、そろそろ《アインクラッド》にも2023年12月25日が訪れようとしていた。
さすがにこのくらいになれば、各々で片づけをして、今はあれだけ騒がしかった室内もだいぶ静かになっている。
あらかた片付いて解散も近くなったころ、サチを始めとした《月夜の黒猫団》が、ユウの方へと歩み寄った。
「ユウ……今、いいかな」
「ん、大丈夫だけど、どうした?」
ケイタに対しても、ユウはいつも通りふるまっている。だが、その表情は少しだけ優れないように見えた。
この世界では、感情を完全に隠すことはできない。なぜなら、この世界においてアバターの表情を動かしているのは、《ナーヴギア》によって読み取られた脳からの電気信号であるからだ。
「ちょっと、来てくれる? 他の人がいないところで、話したいからさ」
彼らの言葉に頷き、ユウは彼らの後に続いてパーティ―会場となっていた酒場を出た。
外に出ると、仮想の物であるにもかかわらず冷たい空気が肺の中を満たしていく。口から出る白い息に、改めてこの世界の精巧さが感じられた。
しばらく歩いた場所にある、街の角。小さな広場になっているその場所で、ユウは彼らと向かい合った。
ケイタが話始める。
「まずは……ユウ、本当にありがとう。キリトだけじゃなくて、ユウもいてくれたから、僕たちはここまでやってこれた……いや、生きてこれたんだと思う。ひょっとしたら、もしかするとキリトもあの時、死んでしまっていた……いや、死なせてしまった可能性もあったから」
そこまで話すと、今度はサチが言葉を継いだ。
「私はね、実は言うと、《はじまりの街》から出たくはなかったんだ。だけど、みんながフィールドに出て行くって言っている中で、1人だけ街に残されるのも嫌だったの。……わがままだよね、本当に。そんな気持ちのまま戦っていたから、いつか必ず死んじゃうんだろうな、ってずっと思ってた。あの夜もね、キリトとユウが見つけてくれなかったら、きっとあのままみんなに黙って、どこかでずっと泣いていたんじゃないかな」
だけどね、と彼女は言葉を続ける。
「キリトが、死なない、って何度も言ってくれて……それで、私はようやくこの世界に前向きになれたんだと思う。だけどユウ……君のおかげなんだよ」
『俺は、生きたい。生きて、愛する者の場所へと帰りたい。仮に俺が強いように見えるのだとすれば、多分きっと、それが理由だ』
『生きることは、俺にとって大前提だからな』
「そんな言葉を言いきっちゃうんだもん、あんなにもあっさりと。だからかな、少しだけ、生き延びようって気になれたの。死ぬんじゃないかって怯えて過ごすよりも、今日を生きよう、明日も生き延びようって思いながら毎日を過ごすんだ、って」
「サチ……」
あれだけ臆病だった少女が、今はその瞳の中にかすかに、だがしっかりとした意志の光が見える。そのことに、ユウは驚くが、すぐに笑顔になった。
「ああ……そうだな」
ササマルが、テツオが、ダッカ―が、口々に言った。
「本当に、ユウのおかげだよな。俺たちが、こんなに強くなれるなんて思いもしなかったし」
「それに、ユウって戦闘の時、かなり僕たちに気を配って立ち回っていたよね。あの動きをずっと見ていたから、僕たちもここまで強くなれたんだ」
「ありがとな!」
感謝の言葉を一身に受けたユウは、俯いて肩を震わせた。
「俺は……」
少し言葉を詰まらせたが、それでも続けた。
「……俺は、みんなに、《月夜の黒猫団》に会えて本当に良かった……心からそう思う。だから、今度は最前線で……そして、現実世界で会おう。こんなデジタルデータの街じゃなくて、本当に存在する喫茶店でいつか、みんなでオフをやろう」
その時は、自分の妹達も連れてくるから……と、ユウは言葉には出さずに言った。
「その時は、キリトも誘おうぜ」
「そうだな、今のうちに連絡先交換しておくか!」
「気が早いよ!? まだこの先結構あるよ!?」
「いーや、キリトとユウにかかればすぐのはずだ!」
そんな彼らの暖かい声が、アインクラッドの雪降る夜に響いた。