ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
月夜の黒猫団
「――では《月夜の黒猫団》に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
(……俺はどうしてこうしているんだ?)
キリトは困惑していた。
2023年4月8日。
現在の最前線は28層。しかしこの日、キリトは偶然下層に降りて必要な素材やアイテムを取っていた。
下層なので、攻略組の中でも屈指の実力を持つ彼ならば、素材集めなどさほど苦労はしない。最前線に戻ろうとした時、このギルドに出会った。
正確には、うまくMobに対処しきれてなかったところを助けたのだが……。
「んでもって、俺らの恩人、キリトさんに乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「……か、乾杯」
キリトは戸惑いながらも、その手に持った杯を掲げた。
今彼はここで、このギルドメンバーと共に同じテーブルを囲んでいる。
パーティー構成が、槍使いが2人に棍使いが1人、短剣使い1人、メイス使い1人で、前衛ができるのがメイス使いのテツオ1人しかいない。
パーティーのバランスが悪い、というのが彼らの印象だった。
《月夜の黒猫団》の紅一点、槍使いのサチがキリトに歩み寄る。
「ありがとう。本当にありがとう。……すごい怖かったから、助けに来てくれた時、本当に嬉しかった」
お礼の言葉を言われて少し照れくさい気持ちを、キリトは照れを隠しきれない笑みで返す。
すると、ギルドリーダーのケイタという少年が他のテーブルには聞こえない小さな声で尋ねた。
「あの~、キリトさん。失礼ですかレベルの方はいくつぐらいなんですか?」
棍使いの少年のそんな質問に、キリトは少し戸惑う。本来ステータスの情報を聞くのはマナ―違反であるが、キリトはちらりと視界左上の数字を確認した後、彼らにレベルを教えていた。
「……20ぐらいかな」
――本来のレベルよりも20ぐらい低いレベルを。
「すごいですね。そのレベルでソロだなんて」
「ケイタ、敬語は止してくれ。それにソロって言っても効率は悪い」
キリトがそう言うと、ケイタは敬語を止めた。
「そうか。それじゃあ、キリト。もしよかったら、ウチのギルドに入らないか?」
その言葉に、キリトは一瞬喜びを感じた。
《ビーター》であることを知らないとはいえ、彼にそんな言葉をかけてくれる人間などいなかったのだ。どのギルドも、基本的にはお断りなのである。彼に対して良くしてくれるのは、第1層からの付き合いであるアスナやユウ、アルゴ、エギルといった人たちだけだ。
しかも、最初の《キャンペーンクエスト》の間はずっとアスナ、ユウと共に3人でいたものの、それが終わると次第にバラバラに行動するようになっていた。パーティーを組むこと自体、なかったのだ。
自分では自覚していなくとも、キリトは人恋しさを感じていたのかもしれない。
そんな心をつゆ知らず、ケイタは話をつづけた。
このパーティーにおいて前衛ができるのがメイス使いのテツオだけであるため、前衛として槍使いの少女サチを盾持ちの片手剣に変更させようと考えているとのことだ。
「でも、勝手がわからなくてさ、キリトが入ってサチに片手剣の使い方を教えてくれれば、前衛が3人になってかなり戦いやすくなると思うんだ。コーチお願いできないかな?」
「なによ、人をみそっかすみたいに。今まで後ろも方で槍で突っついてるだけだったのに、いきなり前に出るなんでおっかないよ」
そういって文句を言うサチに、テツオが「盾の陰に隠れていればいいんだって!」とツッコみ、皆が笑う。彼らは現実では同じパソコン研究会のメンバーであるらしい。
(とても暖かい)
そのアットホームな感じがとても心地よく、気が付いたらキリトは頷いてしまっていた。
「それじゃあ、仲間に入れてもらおうかな」
《月夜の黒猫団》全員が、彼の加入に喜んでいた。彼が《ビーター》であることを知らないまま。
そのことに後ろめたい思いを感じながらも、キリトはその気持ちを隠して笑顔でいた。
ユウは、最前線で今日のマッピングを済ませた後、待ち合わせの場所にやってきた。
つい先日、28層を突破した。ボス戦での犠牲者はゼロ。
「……で、調べてきてくれたんだよな? アルゴ」
26層主街区にある酒場の一角で、ユウは目の前にいるフード姿の女性に尋ねる。《鼠のアルゴ》。言わずと知れた、《アインクラッド》初にして最高の情報屋だ。
「まあ、そう慌てるなヨ、ユー坊」
「まあ、分かっているけどさ」
ユウはそう言うと、目の前に置かれたジョッキの黒エールを一気に飲み干した。しかし、アルゴからすれば彼が親友の身を案じてそわそわしているのがよく分かる。
この少年がどこまでも友人想いであり、そしてまっすぐな心を持っていることを、彼女はよく知っていた。
《鼠》はユウから受け取った500コルをストレージに収納すると、情報を話し始める。ユウが頼んだのは、最近最前線から姿を消し、そしてメッセージを飛ばしても芳しくない返答を返してくるキリトの情報だ。
「キー坊は、最近《月夜の黒猫団》というギルドに入っているらしいヨ」
聞き慣れない名称に、ユウは首を傾げた。
「……《月夜の黒猫団》? そんなギルド、あったっけ?」
攻略に参加しているギルドの名前くらい、だいたいは頭に入っているのだが……。だが、そんな疑問はすぐにアルゴの言葉によって解決された。
「知らないのも当然だヨ。《月夜の黒猫団》は、いわゆる《攻略組》には入っていないからナ」
「中層プレイヤーの集まり、ということか。キリトが最前線を離れているのか?」
ユウは眉をひそめる。
基本的に、キリトはソロで、最前線で剣を振るっている。時折クエストや武器強化の素材を目的に下の層に降りることはあるものの、継続的に上層を離れることはないはずだ。
「そうだナ。入ってから、結構時間が経っているみたいだヨ。ただ、時折深夜に最前線に来ているみたいだナ」
「経験値稼ぎは、しっかりやっているというわけか」
その情報を聞いて、ユウはため息をついた。
(あいつのことだからなあ……)
ジョッキ2杯目を注文しながら、彼は考える。
(さしずめ、彼らが困っているところを助けて、そのまま流れで入ってしまったってところかな。自分で《ビーター》を自称しているものの、なんだかんだ、あいつも人恋しいだろうし)
しかし、それだと1つ懸念があった。
それは、相手がキリトが《ビーター》だと知らずに接している可能性だ。
通常ならば、それは良いことのように思える。実際、キリトが《ビーター》であることを知っているのは最初の方から攻略に参加していた人たちくらいのものであり、大多数のプレイヤーがその正体を知らない。
だが、もしもそれが露見してしまった時、どれほどキリトはメンバーに、そして自分自身に責め立てられるのだろうか――。
「追加料金を払うから、《月夜の黒猫団》のホームと主な狩場を教えてくれ」
ユウの真剣な表情に、アルゴはいつもの人懐こい笑みで答える。
彼らは解散すると、情報を手に入れたユウは、まっすぐに転移門広場の方へと走って行く。その後ろ姿を見届けた後に、アルゴはボソリと呟いた。
「頼んだヨ、ユー坊。……キー坊を助けてやってくレ」
そして、彼女は再び街の中に
「転移《タフト》」
ユウは、彼らがホームにしているという、レンガ造りの優美な街の名前を叫ぶ。そして、青い光と共にその姿を消した。
「攻略組は、第28層突破か……」
ある日、新聞の第一面を見たケイタがそう呟いた。
先日、ボス戦が行われ犠牲者ゼロで突破したことが報じられていたのだ。
「ねえ、キリト。攻略組と僕たちでは、何が違うんだろう?」
「……情報量の差かな」
攻略組にいる人間たちは、効率的な経験値やコルの稼ぎ方を知っている。それが、戦力の差につながっているとキリトは考えていた。
しかし、ケイタの返答は予想外の物だった。
「情報量か……うーん、それもそうなんだろうけど、僕は意志力の違いだと思うんだよ」
「意志力?」
仲間を、全プレイヤーを守ろうとする強い意志があるのではないか、とケイタは言う。そして、ステータスでは劣っていても、自分たちもそれは負けないつもりであると。
「お、リーダーかっこいいー」
「うお!? 目標は高く持った方がいいだろ。とりあえず、今のところは全員レベル30な」
無理だよー、とサチが文句を言い、全員が笑う。
(彼らは、攻略組のギルドとも違う暖かさがある。《月夜の黒猫団》は、攻略組の閉鎖的な空気を変えるかもしれない)
キリトはそう考えていた。
しかし、自分の視界に表示されている『Lv.48』という数字を見て、暗い表情になる。本気で自分を信頼してくれている彼らに、コソコソと隠し事をしなければならないのだから……。
すると、その背後から声がかかる。
「おーい、キリト」
その言葉に、キリトだけでなくギルドメンバー全員が振り返った。
そこにいたのは、背中に両手剣を背負った剣士だった。
「ユウ!? どうしてここに……」
「久しぶり……と感動的な再会の前に、テメーギルドに入れてもらっていたなら報告くらいしろやー!」
驚くキリトを無視して、飛び膝蹴りを喰らわせるユウ。《圏内》であるためにダメージは発生しないが、その衝撃でキリトは草むらの上を転げまわる。
「え」
「えっと……?」
その光景を、《月夜の黒猫団》のメンバーたちは、唖然とした表情で見ていた。
カオスな状況が収まった後に、ユウの自己紹介が始まる。
「ソロのユウだ。見ての通り両手剣使いで、キリトとは結構前に知り合った。よろしくな」
ユウは適当に言葉を濁した。本当はデスゲーム初日からの知り合いなのであるが、そんなことを言えばキリトが隠しているであろう本当のレベルとかまで、ドミノ倒しのようにばれてしまう可能性がある。
彼らはその日のレベリングを終えると、自分たちが拠点としている街の酒場に集まった。
「へえ、ユウさんもキリトと同じくらいの実力なんですか。ソロなのに、凄いですね」
ケイタが言うと、ユウは「敬語はやめてくれよ」と笑いながら言った。
「じゃあ、ユウ。ユウもできればウチに入ってくれないかな。もちろん、無理にとは言わないけど」
「いや、嬉しいよ。正直なところ、ソロでのレベリングには限界を感じていたところだから」
自然な理由をつけて、ユウは計画通り《月夜の黒猫団》の中には入る。
その夜。
誰もが寝静まった頃に、キリトとユウは第11層主街区《タフト》の外周近くにいた。正確には、ユウが彼を呼び出したのだ。
「俺から、お前の事情を勝手に暴露するつもりは、ない。そこは安心してくれ」
ユウは、俯いて黙り込んだままのキリトに、厳しい表情で話す。
「だが、このままずっと黙っている訳にはいかない」
「……分かってる」
キリトは、落ち着いた声で言った。
いや、その声にはわずかに震えを含んでいる。
「分かっているんだ……」
「そうだな、キリトなら分かっていると思っているさ」
しかし、そう言っていてもユウの表情は厳しいままだ。いつも浮かべているような、人懐こく優しい笑顔とはかけ離れていた。
「だが、『頭で分かっている』と『体で行動できる』……その両者の間には、絶大な『差』が存在する」
そして、ユウは現実世界にいたときから、常に『行動』を起こす側であった。なぜなら、そうでなければ妹を守ることなどできなかったのだから……。
その言葉に、キリトはさらに俯いてしまう。
「とりあえずさ、おせっかいだけはさせてもらうぞ。このわずかな歪みが、傷口となって広がる前に手を打たなければならないのだから」
「どうして……!」
キリトは、思わず大きな声を出していた。
「どうして、そこまで《ビーター》の俺について来ようとするんだ……」
そう言う彼の表情には、後悔と、申し訳なさが混ざっていた。
だが、その辛そうな表情を前にしても、ユウの態度は一切変わる様子がない。
「俺は決めているんだよ……俺は俺の大切な人のためだったら、その先が地獄であろうとついて行く。そして、その地獄から引きずりあげて見せるってな」
恐ろしい、とも言える覚悟であることが、その真剣なまなざしからは読み取れる。むしろ、その強い思いからは闘気すら滲み出ているような気がした。
すると、困惑するキリトの前で、ユウは右手でウインドウを開いて操作した。すると、キリトの目の前にウインドウが開く。
【Yuu から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか? YES/NO】
デュエルの申請だった。
「《初撃決着モード》なら、大丈夫だろ?」
ユウがそう言う。
この世界での時間が進むにつれて、少しではあるが
『HP全損=死』を意味するこの世界では、当然ながら《全損決着モード》は使われない。そのため当初は《半減決着モード》が使われていた。しかし、《半減決着モード》では敗北が『HPが半分になった時』ではなく『半分を下回った時』であったために、HPを半分少し手前まで落とした後に、クリティカルヒットで一気に残りHPをゼロまで削り取る、という合法
そのため、現在では必ず《初撃決着モード》が使用されている。
「キリト、お前の覚悟を見せてもらうぞ。このデュエルでお前が勝ったら、俺はこの件以降はお前の行動に深入りをしない。だけど、俺が勝ったらどこまでもお節介を焼かせてもらう」
「……ユウ」
ユウはそう言いながら、ウインドウを開いて両手剣を装備した。キリトも、困惑しながらもデュエルを承諾し、片手剣を装備すると背中から抜く。
プレイヤーとしての実力は、レベルにしても技術にしても両者の間はほぼ互角。そして、キリトが取り扱いやすい片手用直剣であるのに対し、ユウが使用するのは威力と攻撃範囲が大きいものの、どうしても大振りな攻撃になってしまう両手剣だ。
《初撃決着モード》のルールから考えれば、スピードがあり小回りの利く片手用直剣を使用するキリトが圧倒的に有利である。
開始までのカウントが残り10秒となるまで、両者は黙って相手を見据えているだけであった。そして、ようやく互いに背中の剣を抜いて構える。
(ユウには、ここで諦めてもらう)
キリトは、右手の中の剣を強く握りしめる。体の右半分を少し後ろへと引き、正眼に剣を構える。
(強くて、優しいユウがこれ以上《ビーター》の俺に関わる必要なんかないんだ)
対し、ユウも大剣を構える。剣道のように両手を自分の体の前に置き、その剣先を前方斜め上へと向ける。
カウントが0になった瞬間、両者のソードスキルが発動した。
キリトが発動したのは突進単発技《レイジスパイク》。システムアシストだけでなく、プレイヤー自身の運動命令によってブーストされた素早い斬撃が、ユウに襲いかかる。
実力はステータス的にも技術的にも互角。しかし、持っている武器の特性上、キリトはユウの
そのスピードでもって、初撃を決める。キリトはそのつもりだった。
対し、ユウはその剣先をわずかに下に向けた後、腕をまっすぐにのばして相手の顔面へとその剣先を上げながら突進を始めた。ソードスキル発動の証である、赤いライトエフェクトがその刀身を包む。
(あの
ユウが発動したのは、突進二連撃技《イラプション》。剣を中段に構えた状態で小さく袈裟切りをした後にそのまま体を回転させ、次には大きな袈裟切りを二連撃目として放つ技だ。
キリトはわずかに困惑する。《初撃決着モード》である以上、単発技で一撃を早く決めた方が良いはずなのに……。
両者が交差し、そして勝敗はあまりにもあっさりと決した。
ユウの初撃がキリトの斬撃をその重さで叩き落とし、そのまま体を回転させると2撃目で相手の体へ袈裟切りを決めたのだ。
デュエルの決着がついたことを示す表示が現れる。
【Winner Yuu】
その文字を、キリトは立ち尽くしたまま呆然と見つめていた。
「焦りすぎだぜ、キリト。あんな見え見えの攻撃、誰にだって防がれるだろ」
ユウは、手に持った剣を背中の鞘に納めながら言う。しかし、キリトは無言のまま背中に剣を戻した。
「とにかく、約束は守ってもらうぜ。キリトも、デュエルをすること自体は承諾したんだからな」
それだけ言うと、ユウは装備を解除して、キリトの肩を軽く叩くと去って行った。消え去ったその後姿を見つめながら、キリトは呟く。
「……すまない」
キリトは呟いたその言葉が、ユウに対するものなのか、それとも《月夜の黒猫団》に対するものなのか、自分でも分からなかった。
ある日、キリトとユウが深夜に最前線の第28層《狼ヶ原》へレベリングをやりに行くと、見知った顔を見つけた。
「お? キリトとユウじゃねえか!」
赤い服装に、バンダナを頭に巻いた野武士面の男――《はじまりの日》に出会った、クラインだ。
初期は慎重にレベリングを続け、ボス戦にはなかなか参加していなかったものの、現在では最前線での攻略に参加するほどのプレイヤーとなった。現在では、《風林火山》という少数ギルドを率いるリーダーでもある。
彼は自分の得物である刀を鞘にしまうと、2人に近づいてきた。なお、《カタナ》スキルは《曲刀》をしつこく上げ続けていると発生する、エクストラスキルであり、ゲーム開始から1年も経たない現在にそれを使いこなしているのは、彼の実力が十分に全プレイヤーの中でも優れていることを示していた。
「最近見かけねえと思ったら、こんな夜中にレベル上げかよ。……お?」
その時、クラインが何かに気が付いた。ユウがその視線を負うと、その先はキリトとユウの顔の横に向けられている。
正確には、そこに浮かんでいるHPバーの上にあるマークだ。
「ギルドのマーク……?」
「ああ、ちょっと、な……じゃあな」
キリトはそれだけ言うと、クラインの横を通ってMobの出現ポイントに向かって歩いて行ってしまう。ユウはそれについていかず、ため息をつきながら頭を掻いた。
「あー、クライン。俺たち今な、ギルドに所属しているんだよ。だけど、ちょっと訳アリでな……」
ユウは、簡単に事情を説明した。
《月夜の黒猫団》のこと、そして、キリトの置かれている状況を。
「はあ~」
ユウが一通り説明を終えると、クラインは盛大にため息をついた。
「まったく、まだあいつ気にしてやがるのか」
「ま、それがキリトだからなあ……。ほら、あいつって必要以上に背負い込むだろ?」
「ホント、ユウが第1層ボス攻略後に来たメッセージ見た時は、目を疑ったぜ」
はあ、と2人揃って親友の不器用さぶりにため息をついた。
「とりあえず、不器用君のことは俺がなんとかしておくから、とりあえずは気に留める程度にしておいてくれると嬉しい」
「分かった。すまねえな、ユウ」
「お互い様だ、クライン」
深夜、2人が狩りを終えた後で《タフト》に戻ってくると、ギルドのリーダーであるケイタから連絡が入った。
サチがいなくなった。
ケイタたちは迷宮区に行ってみるとのことだが……2人の行動は、まずメニューウィンドウを開くことだった。
次々に現れる一覧から選択肢をタップし、そして《索敵》スキルModの《追跡》を発動する。すると、視界の隅に光る足跡が現れた。
その後を急いで追う。
町の中心から遠ざかり、そして水路の脇にある足場、石橋の影になっている場所に、彼女は隠れていた。その体は、最近手に入れた《
「「サチ!」」
2人が声をかけると、サチはゆっくりと顔を上げた。
「……キリト? ユウ?」
「みんな心配しているよ」
キリトはそう言葉をかけて歩み寄るが、彼女は顔を伏せてしまった。
現実世界において何度か見た覚えのあるものと似たようなその表情に、ユウの顔が強張った。