ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~   作:nozomu7

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勇者の少年

(なに……!?)

 

 6段もあるHPバーを見たユウは、一瞬頭が真っ白になった。しかし、すぐに歯を食いしばり、自分の手の中にある両手剣の柄を強く握り直した。

 

 何が起きたのかは明白だ。ベータテスターのキリトを含めた、レイドの誰もがフロアボスだと信じて疑わなかった《バラン将軍》は、この正式サービスでは《ナト大佐》と同じく取り巻きMobに過ぎなかったのだ。出現のキーは恐らく、将軍の最後のHPゲージが黄色(半減)になることだろうが、今はそのことはどうでもいい。

 

 今、最優先すべきなのは、レイド全員のボス部屋からの脱出だ。

 

 予期せぬ真のボスの登場である上に、事前情報が一切無い状態で戦うのははっきり言って愚の骨頂。だが、脱出のためにはまずやるべきことがある。あの《アステリオス王》が攻撃を始める前に、すでに戦闘の最中となっている《ナト大佐》と《バラン将軍》を撃破、あるいは退けなければならない。

 

 同様のことを考えたのか、キリトが叫んだ。

 

「――全員、全力攻撃!」

 

 その言葉と共に、身軽な動きで2メートルほども跳び上がった彼は、トーラス族の弱点である額に《スラント》を打ち込む。ユウたちもそれに続けてソードスキルを全力で放つが、瀕死の状態で耐えた《ナト大佐》は怒りの咆哮と共に《ナミング》のモーションを開始した。

 

 ソードスキルからソードスキルへとつなげることは、武器が1つしかない以上基本的に不可能だ。しかし、他の武器があればそれが可能になる。例えば、《体術》スキルの武器である自分の四肢、だとか。

 

「おらっ!」

「う……おおおっ!」

 

 ユウが後方宙返りしながらの縦蹴り《弦月》を放つとほぼ同時に、キリトが渾身の《ホリゾンタル》を炸裂させる。だが、それでも1ドット残ったHPゲージを見た彼は、ユウと同じように《弦月》を放ち、LAを決めた。

 

 中ボスその1の四散を確認した彼らは、すぐに後方を振り返った。すると、アステリオス王が移動を開始している。ユウは焦ってボス部屋全体をぐるりと見渡したが、幸いにも隅で《麻痺(パラライズ)》からの回復を待つ人たちがタゲられるようなことはなかった。

 

 もっとも、本隊である36人のプレイヤーは未だに《バラン将軍》と戦闘中であった。幸いにも、彼らは無秩序な逃走をするようなことはなかったらしい。だが、地響きとともに歩みを進めている《アステリオス王》と彼らが接触してしまうのは、時間の問題だ。

 

 ユウがキリトの横を抜けて走り出すと、アスナもそれに続きながら言った。

 

「……行こう、キリト君!」

 

 しかし、当の本人は走り出そうとはせずに、口を動かす。

 

「ユウ、アスナ、2人は……」

「逃げろ、とか言ったら、《圏内》に戻ってから《ブラスト》喰らわせるぞ」

 

 寝言を言いかけたキリトの言葉の先を封じ、ユウは2人を置いてエギルたちに歩み寄る。すると、アスナがキリトに毅然と響く声で言い放った。

 

「行こう」

「……分かった」

 

 そのやり取りを見ていた巨漢の斧戦士たちも、臆する様子もなくキリトの指示に従って飛び出す。

 

 《アステリオス王》の右側を大きく迂回して《バラン将軍》に迫ると、こちらに気付いたリンドたちが目を見開いていた。しかし、悠長に話をしている暇などないので、何も言わずに将軍の目の前に躍り出る。

 

 キリトの《ソニックリープ》が将軍の弱点である2本の角の中央をとらえ、そのディレイの間にユウたちだけでなく本隊のメンバーもソードスキルをお見舞いする。わずかに残ったHPゲージに対し、ユウの《弦月》とキリトの《閃打》がほぼ同時に発動。

 

(これで、あとは(キング)のみ!)

 

 だが、そう思ったユウが本命のボスに振り返った時、彼は思わずその場から横へ全力で跳んだ。なぜなら、接触まで10秒はかかるはずだった《アステリオス王》が、その腹が樽のように膨らむほど息をいっぱいに吸い込んでいたからだ。

 

「アスナ、右へ跳べ!」

 

 キリトのその言葉に思わず振り返ったユウは、アスナの後ろから彼もまた全力で駆け出しているのが見えた。しかし、その直後。

 

 ビシャァン! という雷鳴と共に王の雷ブレスがボス部屋を一閃した。

 

 このSAOというゲームにおいて、魔法というものは存在しない。だが、それに代わるものもいくつか存在するのだ。装備するだけでステータスを上昇させるさまざまな装備品、各種支援(バフ)を与えてくれるマジックアイテム。

 

 他にも、特定種類のMobに対してのみダメージ値を増大させる武器などもあるし、大きな町にある教会にいるNPC神父から祝福を受ければ、自分の武器に一時的な神聖属性も付与できる。

 

 だが、そのような特殊攻撃はプレイヤーだけの特権ではない。むしろ、Mobのほうにこそその力が多く与えられていると言っても良い。すなわち、モンスターが駆使する毒、炎、氷、雷ブレスである。

 

 最も攻撃力が高いのは炎であるが、雷ブレスもそれと同等に警戒すべきものがある。何しろ、異常に速い。一瞬で最大射程距離まで到達するため、放たれてから回避することは事実上不可能だ。加えて、高確率でスタンをするというおまけつき。

 

 しかも、それだけではないのだ。

 

 ユウから少し先にいるキリトとアスナが、地面に倒れたまま起き上がらない。そしてその体を緑色の光が覆っていた。また、パーティー間で示される視界左上のHPゲージの縁も同じ色に染まって、やはりデバフアイコンが表示されている。

 

 雷ブレスを喰らうと一定確率で発生する阻害(デバフ)、《麻痺(パラライズ)》だ。

 

「キリト、アスナ!」

 

 ユウはボスに注意を払うことも忘れて、彼らに駆け寄った。しかし、2人とも通常の機敏な動きとは程遠い、のろのろとした動きをしているだけだ。

 

「アス……ナ。POTで……治療、を」

 

 キリトがそう言いながら、右手の鈍い動きで腰のベルトポーチから緑ポーションを引っ張り出す。ユウもすばやくアスナにビンを握らせて飲ませるが、その間にボスの巨体がわずか10メートル先にまで迫っていた。

 

 彼は迷わずに立ち上がると自分の大剣を構え、その剣先を《アステリオス王》に向ける。

 

 ちらりと周囲を見渡すと、幸いにも麻痺には陥らなかったらしい青服と緑服の姿がいるのが確認できた。しかし何たることか、リーダーたるリンドとキバオウが麻痺しているために、指示が出せないのだ。加えて、彼ら2人はあろうことかボスのすぐそばに倒れてしまっている。

 

 そして、その無防備な背中に向けて王はその大金槌を高々と振り上げた。

 

「させねえ!」

 

 ユウは、迷わずに走り出した。

 

 このままレイドリーダーたちが倒されてしまえば、恐らくこの層のボス攻略は当分先になる。加えて、指揮系統の取れなくなったレイドから何人の死者が出るのか分かったものではない。

 

 そうなれば、キリトとアスナ、あるいはエギルたちもまた――。

 

 彼らだけは、絶対にやらせない。その覚悟と共にユウは剣を振り上げると、《アバランシュ》の準備動作(プレモーション)に入ろうとする。

 

 その時。

 

 煌めく何かがボスの王冠の中央に的中した。一瞬幻覚かと疑ったユウの考えを否定するかのように、かん高い金属音が響き、ボスがその上体をぐらりと揺らす。そして、本来その場で落下するはずの投擲武器は、見えざる糸に引かれるかのように後ろへと戻っていった。

 

 思わず突撃とソードスキルの発動を中止してそれを見つめていたユウであるが、短いディレイから復活した《アステリオス王》が怒りの声と共に、ユウのはるか後方にいる何者かへそのターゲットを定めた。さっきのがボスへのファーストヒットだったので、一撃でもタゲが移動したのだ。

 

 その光景に思わずユウが呆然としていると、視界の隅でエギルがキリトとアスナを動かしているのが見えた。周囲を見渡せば、彼の友人や青服緑服の連中も麻痺者の避難に動き出している。

 

 そして、ボスに隠されていたコロシアムの南側。そこに、己の武器を握りしめ巨大なボスを必死の表情で見上げる小柄なプレイヤーの姿があった。

 

「あいつは……!?」

 

 誰もが、そこにいる人物に驚いた。しかし、ほとんどのプレイヤーが驚いたのが『鍛冶師がボス部屋に来たこと』であるのに対して、ユウ・アスナ・キリトが驚いた理由は違う。わずか3日で《体術》のクエストを完了させてきたことに対してだ。

 

 鍛冶屋ネズハ。いや、現在は勇者ナタクと言った方が正確であろうか。

 

 装備も鍛冶屋としてのエプロンではなく、ブロンズの胸当てとガントレット、頭にはオープンヘルムまでかぶっていた。もっとも、その装備がむしろ『ヒゲのないドワーフ』といった様子を強調しているが。

 

「ネ……」

 

 誰かが言いかけて言葉を飲み込んだその声にユウが振り返ると、そこには《レジェンド・ブレイブス》の人間がいた。どうやら、この期に及んでも、ネズハのことを隠し通すつもりらしい。

 

 オルランドを含め何も言わない仲間たちを見たネズハは、一瞬だけ悲痛な表情を浮かべた。しかし、すぐに毅然と叫ぶ。

 

「僕がギリギリまでボスを引き付けます! その間に、体勢を立て直してください!」

 

 確かに、《アステリオス王》の移動速度はかなり遅い。もっとも、それもHPゲージが1本目の間だけであろうが――直径が100メートルを超える広大なボス部屋をすべて使えば、彼1人でも十分にタゲを取り続けることは可能かもしれない。

 

 しかし、そこには問題がある。そう、例の雷ブレスだ。ボスの移動速度を補って余りあるあれは、所見では恐らく絶対に回避しようがない。そして、登場のタイミングからしてネズハは、最初のブレス攻撃を見ていない可能性が高い。

 

 だが、彼にユウが何か叫ぶ前に、立ち止まった王が空気を吸い込みその腹を樽のように膨らませた。ブレス攻撃の準備動作であるが、ネズハは立ったままボスの顔を見上げていた。

 

「「避けろ!」」

 

 ユウの叫びと、レイドメンバーの誰かの声が重なった。しかし、それよりも一瞬早くネズハは素早い動きで横に跳んでいた。その直後、先ほどまでネズハが立っていた場所を稲妻が走ったが、彼はそれを2メートル以上の余裕をもって回避していた。

 

(ボスのブレス攻撃のタイミングを、知っている?)

 

 そんな訳が……と思ったその時、キリトたちの近くにある壁のタイル模様がぐにゃりと歪み、1人のプレイヤーが出現した。両頬に3本のヒゲペイントが描かれた彼女は、言わずと知れた情報屋《鼠のアルゴ》。

 

 誰もが、その姿を呆然と見つめた。

 

 

 

 

 

 キリトが後でアルゴから聞かされたことによると、迷宮区近くの密林から開始されるとある連続お使いクエストをクリアすれば、きちんと真のボスたる《アステリオス・ザ・トーラスキング》の情報が手に入ったらしい。そして、その中には『額の王冠を投擲武器でヒットすればディレイさせられる』こともあった。

 

 しかし、ネズハがそのクエストを発見してからクリアをしたのが、ボス攻略レイドが迷宮区に入ってしまった後だった。しかし、彼女のステータスや装備で迷宮区をボス部屋まで駆け抜けるのは危険だ。

 

 どうしたものか、とアルゴが迷宮区の入り口近くで逡巡していると、やはりソロで迷宮区へととても不安そうに入っていくプレイヤー、すなわちネズハを発見。隠蔽(ハイディング)とネズハの新武器《円月輪(チャクラム)》の投擲による回避と誘導でMobをやり過ごし、ようやくボス部屋に到達したと思ったら、まさしく《アステリオス王》が大暴れしているタイミングだった、というわけである。

 

 キリトが起き上がり、アスナに落ちていた彼女の武器《ウインドフルーレ》を渡しているうちに、アルゴは彼らの様子を見ていたリンドとキバオウに向かって歩いていった。リンドが嫌悪感を示す一方で、キバオウはどこかばつの悪そうな表情をしている。

 

 しかし、彼らはそれでもボス戦を続けることを決断した。アルゴから特別に無償で提供される情報によって、戦うことは十分に可能であると判断したようだ。

 

 それが正しい判断だったのかどうかは結果次第であるが、ネズハが2分以上もタゲを取り続けてくれたおかげで、全員がHPと状態異常をフル回復させていた。そして、ボスの攻撃パターンの情報もある今では、状況ががらりと変わっている。

 

「よし……攻撃、始めるぞ! A隊D隊、前進!」

 

 重装甲の(タンク)部隊の攻撃により、ようやくネズハからタゲが外れた。その途端、緊張の糸が切れたかのようによろめく彼に3人は駆けつける。

 

「ネズハ!」

 

 キリトの呼びかけに、彼は弱々しくも芯のある笑みと共にチャクラムを掲げた。

 

 チャクラムは古代インドに存在したとされる武器であるが、この世界におけるそれは少々改造されていて、輪の一部に革が巻かれてグリップの機能を果たしている。そこを握って投げるだけでなく、ナックル武器のような使用も可能だ。

 

 しかしその性質上、使用には《投剣》の他に《体術》も必須なのだ。しかし、その代わりにブーメランのように手元に戻って来る性質があるので残弾数を気にする必要がない。

 

「やあっ!」

 

 なかなか堂の入った気合と共に、チャクラム専用のソードスキルが発動する。ディレイの瞬間「ナイス!」と、キバオウ隊のアタッカーの1人が叫んだ。

 

「夢、みたいです。僕が……僕が、ボス戦で、こんな……」

 

 震え声で言いかけた言葉を、ネズハはそこで呑み込んだ。

 

「僕は大丈夫です! 皆さんも、前線に加わって下さい!」

 

 その言葉を受けた3人は、エギルたちと共にボスへ向かって突撃した。

 

 アルゴから正確な情報がもたらされてからは、攻略パターンが確立されてボスのHPを確実に減らしていった。すると、この大詰めに来て《レジェンド・ブレイブス》の面々の存在感が大きくなってきたのだ。

 

 なぜなら、彼らの武装は徹底的に強化されている。その並外れた阻害抵抗値(デバフレジスト)は、《アステリオス王》が放つ、《バラン将軍》と同じ広範囲スキル《ナミング・デトネーション》を喰らってもほとんどスタンしないのだ。リンドも、他のパーティーが下がっているタイミングでも攻撃を続けることができる彼らに、退避の命令を出すことはできなかった。

 

 その強化の資本となったものがネズハに詐欺で稼がせたコルであるという事実は、ユウにもひっかかるものがある。しかし、当のネズハが鍛冶屋を廃業した今、それを糾弾する機会も失われてしまった。

 

「……なんだか、複雑だな」

「……そうね」

 

 HP回復のために後退したタイミングでユウが呟いた言葉に、アスナが頷いて同意した。

 

「ああ。でも、少なくとも今後はもう2度とできないはずだしな……」

 

 強化詐欺を、の一言を省略してキリトが言う。

 

「まあ、その迷惑料は攻略に貢献することで示してもらうしかないな」

「でも、このまま彼らにMVPを取られるのは癪だから、ちょっと最後に抵抗してみないか? タイミングが合えば、だけど」

 

 キリトのその言葉に、2人はキョトンとした表情で彼を見つめる。すると、彼は小声でその内容を打ち明けてきた。

 

 それを聞いたユウが、にやりと笑って言う。

 

「いいな、それ。よし、そろそろ準備するか」

「おう。行くぞ……ゴー!」

 

 ボスが持つ6段目のHPバーが赤くなったのを確認した彼らは、キリトの掛け声に合わせて一斉に猛ダッシュ。再びボスのブレスがチャクラムでディレイさせられると、ストンプを3連発してから《ナミング》のモーションに入った。

 

 しかし、彼らはそれを許さない。

 

「今だ!」

 

 キリトの掛け声に合わせて、3人は一斉に跳んだ。

 

「セイ……リャアアア!」

「「おおお……らあああっ!」」

 

 3人の《ソニックリープ》《シューティングスター》《アバランシュ》が一斉に放たれる。その剣先は1点――王の額にある王冠に命中し、その巨体と共にポリゴン片と化して爆散した。

 

 

 

 

 

「まったく……なんで私たちが使いっ走りみたいなことしなくちゃならないのよ」

 

 3人がボス部屋から第3層の入口へと続く階段を上っていると、アスナがそんな不満をもらした。

 

「しょうがないだろ、俺たちはおまけなんだからさ。もっとも、アスナがギルドを結成すれば別だけどな」

「するわけないでしょ! というか、ユウ君、分かってて言っているでしょ」

「そりゃ、もちろん」

「まあ、今回パーティーに加われたのも、エギルたちが気を利かせて、パーティーに混ぜてくれたお陰だからなぁ。落ち着いたら、きちんと礼言っとかなきゃなあ」

 

 何気なく言ったキリトの言葉に、友人2人の視線が突き刺さった。

 

「……な、何だよ?」

「別に。ただ、あなたの人付き合いスキルも少しは熟練度上がってきているのかしらって思っただけ」

「そうそう。初めの頃は、俺とクラインにレクチャーするのにも戸惑っていた人間だったのにな」

 

 ユウが笑ってそう言うと、キリトは《クライン》の言葉に一瞬表情を変えたが、すぐに取り直して言った。

 

「そりゃもう、エギルに渡す謝礼の品まで用意しているくらいだからな」

 

 この階段を上っているのがこの3人だけであるのは、今ボス部屋では突発的なオークションが開かれているからだ。オークションに出されている品は、当然ながら《レジェンド・ブレイブス》の持っていたフル強化の装備品。

 

 ボス戦が終わった後、ネズハが罪を告白したことによって、集団は険悪な雰囲気に包まれた。しかし、1人で罪を背負い込もうとした彼に対し、リーダーオルランドは謝罪の言葉と共に事実を語ったのだ。

 

 最も、ネズハの告白の後に第1層の時、キリトにかん高い声で叫んだダガー使いが『強化詐欺によって主武装を取られたプレイヤーから死者が出た』と再びかん高い声でわめき散らした。その件については調査をすることにしているそうだが、そう言った本人ですら「うわさで聞いた話だから詳しいことは知らない」という始末。

 

 いい加減あの野郎は殴ってやろうか、とユウは思わなくもなかったりする。(当然、《圏内》で、であるが)

 

 そんなことを考えていると、アスナの言葉でユウは現実に引き戻された。

 

「そうだ、そういえば結局、ボスのLAボーナスってどうなったの?」

「えー、あー、えーっと」

「誤魔化そうとするなよ、キリト。アスナにも俺にも出てこなかったんだから、あの状況だとキリトしかいないだろ」

 

 その言葉にアスナが少し表情を変えた後、あっと何かを思いついたのか言う。

 

「考えてみれば、あなたナト大佐とバラン将軍もLAとってなかった?」

「3連続、いや、1層のことも含めればLAを4つか。つーか、今のところフロアボスLA完全制覇って」

「おっ、あれ出口じゃないか?」

 

 アスナの追及をかわして走り出すキリトを、彼女は追いかける。その様子をほほえましく思いながら、口元を緩めてユウも追いかけた。

 

 ――ナタク、いつかは最前線に追いついてこい。本当の意味で勇者となれる場所へ。


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