史上最強の武偵   作:凡人さん

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2話同時更新です




空から女の子が・・・・・・

「2人ともおかえり」

 

病院に担ぎ込まれ、警察による事情聴取やマスコミたちの取材を受けた2人が解放されたのは、事件の次の日の夜になってからだった。

 

部屋にはエプロンを身に着けた兼一が、何食わぬ顔で夕飯の準備をしていた。それを見た2人は何とも形容しがたい気分になったのは仕方のないことだ。

 

「兼一さんが急にいなくなるから、壁に空いた穴とか、機体の不自然な凹みとかの説明が大変だったんですよ」

 

面倒事を押し付けられたのだから、キンジの抗議は至極当然のことである。

 

そのことに関しては兼一も申し訳ないとは思っている。だが、それ以上に申し訳ないと思っていることがあるため、軽く笑うだけで流す。

 

「ごめんねアリアちゃん。理子ちゃん捕まえられなかったよ」

 

『武偵殺し』峰・理子・リュパン四世を逮捕できなかったこと、それこそがこの事件で兼一が一番悔やんでいることだ。アリアの母への思いの深さを知っている兼一は、降り立った直後から時間を作り探し続けたが結局見つけることができなかった。

 

「ママの公判が伸びたから、今回は特別に許してあげる」

 

「ありがとう。それじゃ、ご飯食べようか」

 

切り替えの早さに目を白黒させるアリアを余所に、兼一とキンジは準備をするのであった。

 

 

 

「もうこんな時間? ……急がなきゃ」

 

食事を終え他愛ない会話をしていると、アリアがそう言った。

 

「約束でもあるのか?」

 

「ロンドン武偵局が帰って来いってうるさいの。御大層にヘリからイギリスの海軍空母、艦載ジェットまで用意してね。でも、丁度いい機会だしいっぺん帰って態勢を立て直すことにしたの。今回の事件で色々あったし」

 

「そっか、寂しくなるね」

 

「ありがとう」

 

悲しげな笑顔を浮かべ、アリアは部屋を出る。

 

「見つかるといいな。お前のパートナー」

 

扉が開き足を踏み出そうとするアリアに、キンジがそう声をかけた。

 

「きっと見つかるわ。『世界のどこにもいない』ってワケじゃないもの」

 

バイバイ、そう言って大きな音を立て扉が閉まった。

 

 

 

「キンジくんは本当にこれでいいの?」

 

しばらくして、兼一が問い掛けた。

 

「どういうことですか?」

 

「アリアちゃん泣いてたよ」

 

兼一の言葉にキンジはあの崩れそうな笑顔を思い出す。

 

「ボクは君の人生にいちゃもんをつける気はないよ。引き出しにしまってる書類に関してもそうだ。君の人生は君の物なんだからね。でもこれだけは言わせてもらうよ」

 

兼一は言葉を一度切る。

 

「その選択で本当に後悔しないのかい」

 

キンジの胸の奥深くにこの言葉が深く突き刺さった。

 

「少し散歩に行くから、きちんと考えてみて」

 

そう言って兼一も部屋からいなくなった。

 

 

 

一人残されたキンジは思い悩む。その手には、引き出しに眠っていた転出申請の書類が握られている。

 

「後悔しないかだって。するわけないだろ」

 

だが、キンジの胸に突き刺さった棘が鈍い痛みを与える。出会ってからの期間は短いが、アリアとの思い出が湯水のごとく溢れてきているのだ。

 

「違う、違う。こんなのはただの気の迷いだ」

 

首を振り、強く否定する。けれど、その思いとは裏腹に痛みは増していく。

 

机に置かれている携帯についたストラップが目に入る。

 

アリアとゲームセンターに行ったときに取ったものだ。そんな無機質なはずの物が、涙を浮かべているように見えた。

 

「――あぁ、そうか。アリア、お前は俺と似ているんだ」

 

手に持っている申請書類を2つに裂き、ゴミ箱に捨てるとそのまま玄関に向かう。

 

「お前の味方ぐらいにはなってやれるよな」

 

アリアが出て行ってから40分程度経っている。普通の手段ではどう足掻いても間に合わない。だが、外には兼一が立っているに違いないという予想から、

 

「兼一さん、手伝ってください」

 

開くと同時にそう言った

 

「とりあえずは吹っ切れたみたいだね」

 

玄関の前にはキンジの予想通り兼一が立っており、承諾をした。

 

 

 

「ボクが送るのはここまでだよ」

 

そう言って、ヘリポートのある女子寮の前で背中からキンジを下ろす。若干グロッキーになりながらも、エレベーターホールに向かうが、運悪く点検中。止む無く、非常階段を駆け上がり屋上へと向かう。

 

屋上へと続く扉を蹴りあけると、今まさにヘリコプターは飛び立ったところだった。

 

「アリア!」

 

声を大にしてその名前を呼ぶ。回転翼の音に掻き消され聞こえていなくとも関係ないと言わんばかりにその名を叫ぶように呼ぶ。

 

「アリア! アリア!!」

 

届かないかもしれないそう思う暇があるならば声を出す。

 

そして、

 

「遅い! バカキンジ!」

 

勢いよくヘリの扉が開かれ、その姿を現した。

 

そして、ヘリの縁にワイヤーを括りつけると、強風など意に返さず飛び降りてきた。

 

しかし、アリアの突然の凶行によってパイロットが操縦を誤ったのか機体がふらつき、アリアは思ってもいない方向に流された。

 

「ちょっ、お前」

 

「え、あ、あれ」

 

キンジはアリア受け止めるために後退していると、金網にぶつかる。もうこれ以上はどうしようもないと思っていると、アリアがワイヤーを切り離すと、キンジめがけて斜めに落ちてくる。

 

「っ、お前なぁ――」

 

背中に走る痛みを堪え、掴んだアリアに文句の1つでも言おうとするが、上空から降ってくる白人の叫び声によって掻き消された。

 

 

 

女子寮から少し離れた場所に経つ兼一は、屋上での2人のやり取りに懐かしさを感じる。

 

「まるで映画だよ」

 

屋上から飛び降りる瞬間を目にし、かつて師達が自分の戦い方を評した言葉と同じ言葉を呟いた。そうこうする内にシーンは進む。2人の着地した先をサーチライトが照らし出す。

 

「さて、回収しに行きますか」

 

言葉を置き去りにして兼一の姿が消えた。

 

その数秒後、サーチライトが砕け、2人を追って地上に降りたはずのロンドン武偵局の役人がなぜかヘリコプター内に戻っているという不可思議な現象が起きた。

 

 

 

「――だから何なんだよその『H』って」

 

口論をする2人の元に辿り着いた兼一の耳に入ってきた言葉は、あまりにも酷いものだった。

 

「キンジくん前から思ってたけど……探偵科に向いてないよ」

 

だから、こんな辛辣な言葉を投げつけることも仕方のないことだ。むしろ、古いテレビを直す際に使う斜め45度チョップを放たなかっただけましだろう。

 

「アリアちゃんの本名は」

 

「神崎・ホームズ・アリアよ」

 

「つまり」

 

「シャーロックホームズ四世よ」

 

「兼一さん、息ピッタリ過ぎじゃないっすか」

 

兼一とアリアの巧みな語り方に、若干の諦め交じりで苦言を呈す。だが、この場にそんなことで止まる人間はいない。

 

「キンジはあたしのパートナー、J・H・ワトソンに決定したの! もう逃がさないからね! 逃げようとしたら――――風穴あけるわよ!!」

 

この夜、シャーロックホームズ四世こと神崎・ホームズ・アリアのパートナー役が遠山キンジに決まった。本人の希望など構うことなく……




これにて、一応一巻の終了です。実際は後数ページ分残ってるんですが、二巻の頭と被るし、次の更新が分からないしで、そちらにまとめさせてもらいます。

読んでくれた方、感想くれた方、評価してくれた方、みなさんありがとうございます。

活動報告にて、敵キャラとしてやってくるケンイチキャラについて書いてます。気になる方はそちらを見てください。色々ネタバレ的な考察がありますけど……一番下までスクロールすれば問題ないです。

それではまたその内


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