ハイスクールD×D 満たされぬ欲に狂う者   作:山北深夜

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 なにが大変だったって人工神器の名前です。大分時間を費やし、めんどうになって適当に決めました。


九話

 イケメン君は俺に何か恨みでもあったのだろうか。剣投げたり剣生やしたり完全に俺を殺しにきてたよね。イケメンだからって何でも許されると思ったら大間違いなんだぞ。しかもなんだ再生阻害って。達磨プレイでもするつもりか。変態にもほどがあんだろ。馬鹿じゃねえの?

 

 特に最後の串刺し。なんだあれ。本当になんだあれ。もう一回言うけどなんなんだあれ。正直走馬灯見えたわ。でもそのおかげでライザーとの初体験を追体験できたから今となってはいい思い出です。現場思いだして余計虚しくなったけどね。宝くじ当てる妄想した気分だったわ。

 

 そうそう、総督から聞いたけど俺ってフェニックスらしいんだよね。ライザーとはちょっと違うらしいけど似たようなものなんだって。道理で回復とか再生すげえと思ってたんだけどさ、俺じゃなかったら死んでるよね? イケメン君明らかに俺を殺そうとしてたよね? わざわざ再生まで阻害して殺しにかかってたよね? 俺がお前に何をしたというんだ。

 

 確かに前回ボコしたよ? でもそれはゲームの上での話じゃん。ルール違反もしてないし殺してもないじゃん。なのになんだあれ。どんだけビビったと思ってんだ。まだライザーと一回しかシてないのに死にそうになるとかほんと焦ったんだからな。正直イケメン君殺そうかと思ったわ。いや殺されかけたんだけど。

 

 まあ串刺しだけで終わったのは助かったけどさ。ほんと引力は使えて良かった。向こうは引力のこと忘れてたのか警戒とかしなかったし思いっきり自分が生やした剣にぶつかってやんの。ざまあ。そのままケツ掘られろ。

 

 でも総督に怒られたのは納得いかない。向こうが禁手(バランス・ブレイカー)使ってくれって言ってるんだから使ってもいいじゃん。死んだら自己責任だろ。なんでそれで頬をつねられなきゃいけないんだ。結構痛いんだぞあれ。俺は痛みを快感に変化させる術は有してないんだぞ。残念ながらライザーによる開発が足りないんだ。次のレベルまであと60セック●必要です。

 

 追い詰められたの責められてもそんなん知らねえし。だいたいライザーとの性行為とかそういうご褒美もないのになんでやる気になると思ってんだ。ヤる気にしかならねえよ。常にそうなんだけどな。

 

 まあつまり。俺に反省するべき点なんてない。でも次イケメン君とやるときは死に物狂いでいく。多分次は殺されるかもしれないから初めっから全力尽くす。ライザーと性交する次の次の次の次ぐらいの優先順位だ。そんな感じでいこう。

 

 

 ってことでイケメンに恨みをライザーに欲求を心の中でぶつけてたのが先日の話である。本日なんと総督が俺が喋れるようになる装置を開発してくれたらしい。イケメンと戦闘したときのデータのおかげで雛形ができたとか。で、今日はなんか実験をするらしい。すごいワクワクする。すごい楽しみ。なに言おうか。何がいいかな。ライザーへの欲望を叫んでやろうか。セック●への欲求を高らかにうたい上げようか。

 

 ライザーがいれば悩む必要ないのになあ。もう決まってるし……。何がいいかな。うーん。総督への感謝の言葉はまあ確かにいるかもしれないけど、いやまあ言うつもりでもあるけど第一声がそれとかなんかアレだし、やっぱいきなり『ありがとう』とか言われても困るじゃん? だからそういう言葉は俺が言いたいな、って思ったときとか催促されたときとかそんなんでいいと思うんだよ。うん。

 

 あー。どうしよう。何がいいかな。何がいいかな。やっぱこの世に生まれての初めての言葉だからね、なんかかっこいい感じがいいよね。歴史に残る感じの。教科書に載る感じの。心に残り、記録に刻まれ、誇り高く、誉れ多く、情け深く、みたいなそんな感じの。

 

 そんなことを考えてたら

 

「おい、説明するぞ」

 

 と、総督に頭を平手で叩かれた。今までそんな総督の行動にイラっときてたりしてたんだけど、今の俺は機嫌がいいのでそんな無礼な行いを許してやるのだ。俺ってば懐深い! 優しい!

 

 そんな俺の寛大さに気づかない哀れで目も当てられない可哀想な総督は、その手に開発したという人工神器を持ちながら得意げに話す。

 

「こいつは王子の返り血(リバース・ボイス)。まだ実験段階だがゲル状の不定形の人工神器で、声帯に取り付いて呼気から声帯とその周辺の筋肉とかを反応させるものだ。集中することで声帯の反応を変えて言葉を発せられるようになる。まあそれなりの集中力はいるだろうがな」

 

 そんなことを言う総督。そんな総督自慢の人工神器、王子の返り血(リバース・ボイス)だが見た目は完全にスライムである。いやゲロにも見える。色が赤くなかったらゲロだ。ゲロである。というかスライムってなんだ。そういうプレイか。そういうのが好みなのか。いいな。

 

 あれだね、たぶん服を溶かす成分とか媚薬とか分泌するんだよ。なんてエロい神器だ。ライザーにプレゼントしよう。ついでにセットで俺もプレゼントしよう。賞味期限はまだまだ先だからおいしく食べられるよ!

 

 そんな風にライザーとのにゃんにゃんに思いをはせていると、総督が手の中のスライムを丸めだした。固め出した。手の中の王子の返り血(リバース・ボイス)が、手のひらからあふれ出すサイズから、おにぎりみたいになって、最終的には飴玉くらいの大きさになる。

 

 総督はそれを俺に差し出して言う。

 

「飲め」

 

 ……いやいやいやいや。お前ちょっと待てよおい。確かにスライム状態のを飲み込むのは大変だからサイズを小さくしたっていうのは分かるんだけどさ、それでもその過程でお前の手垢とかついてるよね? もとがゲル状だったせいで汚れとか全部くっついてそうなんだけど。嫌がらせか。

 

 いやさ、王子の返り血(リバース・ボイス)が声帯に取りつく必要がある以上飲み込むのは当然っていうのは分かるんだけどさ、なんか生理的に嫌だ。ゴキブリを殺菌して洗って天ぷらにしたからって食べるくらい嫌だ。でも喋れたらライザーとヤれるかもしれないし……。

 

 そんな悩める俺を見かねたのか、総督は優しい様子で俺の顔に手をかけ――

 

「さっさと飲めよ」

 

 強引に俺の口を開いて飴玉サイズの王子の返り血(リバース・ボイス)を突っ込んだ。

 

「――〜〜っ!?」

 

 出ないはずの悲鳴が出てきそうなほどなんか気持ち悪い。スライムが俺の舌の上でどろぉっと広がる。吐き気を催すがどうにか我慢する。ていうか飲み込めない! 喉の奥にゆっくり流れて行っているけど飲み込めない! 死ぬ! 窒息死する! 死ぬならライザーとの性交で腹上死がいい! テクノブレイクがいい!

 

 あ、でもそういえばフェニックスって不死身なんだっけ。じゃあ大丈夫か。苦しいけど窒息死も腹上死もテクノブレイクもしないのだろう。狂うことはありそうだけど。狂うといえば発狂するほど感じてみたいなあ。まあ一回味わって現在も抜け出せないんだけど。まだまだ味わいたい。期待してるぞライザー。

 

 そんなことを思いながら十分もしたころ、俺の口内からようやくスライムがいなくなった。

 

 そう、そこには声を上げる俺の姿が――ない。

 

 騙しやがったな糞総督が!

 

「睨むなよ……だいたいそれは人工神器っつったじゃねえか。神器と同じ使い方をしろ」

 

 ため息を吐きながらそうのたまう総督。なんでこいつこんな上からなんだ。そんなん初めっから言っとけや。

 

 まあしかし。そんな心の狭い総督とは違って、今の俺は機嫌がいいことだし、それはもう神様仏様のように懐も深く器も大きく心も広いのだ。俺でよかったね総督。運が良かったね総督。

 

 よしよし。神器使うようにすればいいんだっけ? とりあえず『ライザー!』って叫ぼう。万感の思いを込めて、俺の不満を全て開放するつもりでいこう。

 

 緊張で動機が激しくなり、期待に心臓が高鳴る。さあ言うぞ! 言うぜ行くぜヤられるぜ!

 

 ライザー!!!

 

「あー……」

 

 ……? あれ? うん? えーっと。……うん。

 

 ……そうだもう一回やろう。そりゃあいきなり大声とか出せないよね。一区切りずつやったほうがいいよね。慣れてないからね、仕方ないね。

 

 さて行くぞ!

 

 ラ!

 

「あ」

 

 イ!

 

「あぃ」

 

 ザー!

 

「あー」

 

 

 ……なにこれめっちゃむずい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか喋れるようになった三時間後。第一声はもちろんライザーである。今ではライザーだけはスラスラ言える。ちなみにセック●しようぜ! はちょっと無理だった。小さいつが難しいのだ。そして俺が喋ろうとしている間総督はずっと見つめてきててキモかった。今も見てる。キモい。

 

 ので、隠さず言う。

 

「き、もい」

 

 意外とマ行が難しい。ちなみにこの一言にめっちゃ労力を費やしていたりする。具体的には箸でヨーグルト食べてる感じ。カルピ●(意味深)とかケフィ●(?)でも可。ただしライザーのが前につくから直接お口にホールインワン! になるけどね! 上の方ではしたことないからルナティック級の難易度である。そんな大変さを無視して提督は拳を振り下ろした。もちろん俺に向けてである。痛い。

 

「いたい」

 

 抗議の意味も込めて総督を睨み、だいぶ苦労しながら言葉をひねり出すが、総督はそんな俺を無視してため息を吐く。なんてやつだ。こいつには心というものがないのか。だから独身なんだよ。でもライザーは生涯独身貫いて俺を犯し続けるのがいいよ。

 

「突然罵倒された俺に謝りもせず、喋れるようにしてやった俺に感謝もせずに言うのがそれか」

 

 そんなことを言う総督。なんて押し付けがましい奴なんだ。いやまあ確かに総督がいなけりゃ喋れるようにはならなかったと思うし、別に感謝してなくもないんだけど、本人目の前にして言うのは恥ずかしいっていうか照れくさいっていうか……。

 

 そう、だいたいありがとうって長いんだよ。三文字喋るだけで大変なのに五文字とかなんだよ。ほとんど倍じゃねえか。まったく。うん。だから感謝とか別に言葉にしなくても心できっと伝わると思うんだよね。心って大事。気持ちも大事。気持ちいいのはもっと大事。ねえそうだよねライザー?

 

 よし決めた。言葉に出さなくてもきっと伝わるよね! ってことでお礼は言わない!

 俺は決意した。しかし総督は無情である。

 

「しゃあねえ。じゃあその王子の返り血(リバース・ボイス)は回収しねえとな」

 

 まさかの人質ならぬ物質である。というかもう王子の返り血(リバース・ボイス)は俺のものなんだけど。でも総督俺より強いから襲われたら奪われる……。やめて! 乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに! それをしていいのはライザーだけだよ!

 

 なんて考えてたら総督が俺の方に手を伸ばす。その目はなんかもうマジだった。俺の王子の返り血(リバース・ボイス)を奪うつもりに違いない。……くそう。仕方ない。

 

「……りがと」

 

 俺の言葉と共に、総督の手がようやく止まる。なんてやつだ。仮にも女の子に言わせたくない言葉を言わせるなんて……! これで俺の総督への好感度が下がった。ガタ落ちである。

 

 まあしかし声出せるからそのくらいの細事は別にいいのだ。やっぱね。感謝ってのは口に出さなきゃ伝わらないからね。そこに気づいただけで俺は素晴らしいってことがよく分かるよね。

 

 ほら、俺にお礼を言われたせいか総督もどこか満足げにうんうん頷いてる。そして結構機嫌がいいまま、俺に手を伸ばしてきた。

 

 ……なんぞ?

 

「調整するから王子の返り血(リバース・ボイス)回収すんぞ」

 

 いやいやいや。これ俺のだから。調整とかいらないから。これで俺は割と満足してんだから。首を横に振って抵抗するが、総督の腕は的確に俺の口を捉えている。

 

 やめろ! やめるんだ! 唇に手を掛けるな喉に手を突っ込むな――!!

 

 ぐわー!

 

 

「よーし、取れた」

 

 イ、イラマチ●された気分だ……。始めてはライザーのが良かった。ていうかなんで王子の返り血(リバース・ボイス)とるんだ訳わかんねえ! そもそもなんで俺の口に手を突っ込んで回収するんだよ! 新たな扉を開いたらどうしてくれる!

 

「へえ、ふん、なるほど」

 

 そして俺を完全に無視する総督。禁手(バランス・ブレイカー)状態でぶん殴ってやろうかと思うが、そうすると王子の返り血(リバース・ボイス)が貰えなくなりそうだから却下。というかそれ俺の口の中に入ってたものだから多分唾液とかめっちゃついてるよね? なにいじくりまわしてんだ。そういえば直接手を口に突っ込んでたな……。なるほど、そういう趣味か。

 

 そんな目で見つめていたのがばれたのか、総督が俺の方を向く。なにニヤニヤしてやがんだ変態め。去勢するぞ。

 

「そう睨むなよ。ほら、調整終わりだ」

 

 そう言って俺に王子の返り血(リバース・ボイス)を差し出す総督。……意外と早いな。うん。仕事が早いのはいいことだ。褒めてつかわす。

 

 しかし渡されたところでどうすりゃいいんだ。また飲み込めと。まあそうだろうな……。王子の返り血(リバース・ボイス)をぐにぐにと固めていく。同じ固めるならライザーの息子を固めたかった。育てたかった。

 

 そんなこんなで再度飲み込み終わって、もう一度喋る。

 

「ライザー」

 

 よしよし超余裕。ライザーだけは何百と言い続けたからな。淀みなく言える。しかも唯一カタカナっぽい。まさしく俺の愛の形である。愛の結晶である。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 と、突拍子もなく突然そんなことを言う総督。なんだこいつ。いきなりなに言ってんの? そもそもどこ行くんだ。

 

「と、だぉ、どこに」

 

 そう問い返す俺。濁点も喋るのは難しかったりする。『どこに』と言いたかったのだが最初でつまづきかけたのだ。それでも言えちゃうあたり俺のすごさがよく分かる。

 

 そんな俺の言葉に、総督はそれはもう意地悪そうにニヤリと笑って言った。

 

「そりゃあお前が今一番行きたいところだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 己の眷属を堕天使の総督たるアザゼルに預けてから、ライザーは夜も寝られぬ日々を過ごしていた。彼女の有する神器は珍しく、神器マニアだとかいうアザゼルに解剖されてはいないかと気が気でなかったのである。

 

 しかし、そんな杞憂は、ライザーがアザゼルに彼女を預けてから僅か数日で解決した。

 

 そう、彼女が帰ってきたのである。彼女はいつもと変わらぬ無表情で、アザゼルとともにフェニックス家へと帰還した。彼女はとても優秀らしい。アザゼルの、神器の安定どころか禁手(バランス・ブレイカー)も使いこなしているという言葉に、ライザーは安堵した。

 

 彼女の実力は知っていたし、信じていたが、それでも心配には変わりない。一歩間違えれば不死身たるライザーも彼女も死にかけないほどの禁手(バランス・ブレイカー)を制御する。どれほど信用しようが信頼しようが、失敗してしまえば彼女は失われていたのだ。だから、ライザーは彼女の姿に、そしてアザゼルの言葉に安心した。

 

 己が眷属の優秀さを再確認し、己が眷属の無事を喜び。今日は幸運だ、とライザーは笑う。

 

 そんなライザーに、さらなる幸福が訪れる。

 

「ライザー」

 

 無機質に、淡々としながら、確かに彼女が出しそうな、そんな声。今まで一言たりとも喋ることはしなかった彼女の喋る姿を見て、ライザーはそれはそれは喜んだ。ついに彼女はライザーに心を開いたのか、とそれはもう大喜びだった。

 

 表情こそ変わっていないが、それでも初めて彼女がライザーに口を聞いたのだ。これが嬉しくないはずがない。言葉に感情はこもらず、声に表情は乗らずとも、それでもとんとん拍子に開かれて行く彼女の心に、ライザーは確かに幸福だった。

 

「いやあ驚いたぜ。まさかコイツが喋れなかったなんてな」

 

 ――そんな、アザゼルの心ない一言を聞くまでは。

 

 ライザーは己の眷属を可愛がっている。さすがにグレモリー家のように家族同然とまではいかないが、それでもしっかり可愛がり、だからこそ眷属たちもライザーについていく。

 

 もちろん、それは空繰人形(パペット)たる彼女も例外ではなく、どころか手塩にかけて育てているからこそ、ライザーは特に彼女に目をかけていた。

 

 ――だから、ライザーは彼女のことをすっかり理解したつもりになっていて。

 

 だから、今まで"彼女が喋れない"という事実に気づくことなく、また付き合いの浅いはずのアザゼルがそのことに気がついたことがショックだった。聞けは、彼女が喋れるようになったのはアザゼルのおかげ、ということも、ライザーのプライドに傷をつけた。

 

 そういうことは主たるライザー自身の役目だと思っていた。それなのに、主たるライザーの知らぬところで問題が露呈し、主たるライザーの知らぬところでその問題が解決された。

 

 これでライザーは主と言えるのだろうか。眷属の抱える問題に気づかず、その解決を関係の無い他人にまかせ、自分は何もしない。そんな者が、はたして主として相応しいのか。

 

 相応しいはずがない。ライザーは乾いた笑みを浮かべる。主は主だから主なのだ。頼れぬ主などに眷属がついてきてくれるはずがない。

 

 なんだか、とても虚しい気分だった。その気持ちと同じように、ライザーの顔が下を向いていく。

 

 そんなライザーを心配したのか、彼女はライザーのそばに歩み寄る。うつむいたライザーの顔を覗き込む彼女。ライザーの瞳が彼女のものとぶつかったとき、ライザーは慌てて微笑んだ。無様な姿を下僕に見られたくはなかった。そして、そんなライザーに安堵したのか、彼女はその満月のような瞳をライザーに向け、その目に僅かな期待を込めながら言い放つ。

 

「て、ださないの」

 

 て、ださないの。手、出さないの。手を出さないの。

 

 ――手を出さないの?

 

 ライザーの割かし優秀な脳は、彼女の言葉を瞬時に翻訳した。つまりこういうことである。

 

『ほかの眷属には手を出しているのに、どうして私には手を出さないの?』

 

 彼女がライザーと他の眷属との行為を気にしている、ということをライザーは分かっていた。ただ、ライザーは彼女の教育によくないものとして彼女と行為に及ぶことは拒んでいた。もちろん、そこには反応の無い人形相手に腰を振るという、ハーレムを築いた者とは思えないほどあまりにも滑稽な姿を客観視し、これはないと思ったことも含んでいる。

 

 だが、心が成長途中である彼女に快楽を与えるのは確実に悪影響だということは分かっていた。彼女の中でその行為がどう処理されるか分からない以上、避けざるを得なかった。下手をすればそれを当然と思い、誰にだって股を開くビッチになってしまうだろう。ライザー相手ならそれもいいが、ライザーでないものが相手になる可能性があった。だから、彼女が心を育て心を開き、その声が出るその瞬間に、その表情が変わるその瞬間に犯そうと、そう思っていたのだ。

 

 けれど、それを彼女はどう思っていたのだろうか。それが彼女にどう伝わっていたのだろうか。

 

 他の皆がやっている行為を、自分一人がやっていない。他の皆ならライザーに受け入れられる行為を、自分一人が受け入れられない。他ならよくて、自分だけがダメ。そんな状態で、そんな状況で。はたして彼女はどのような思いをしていたのだろうか。

 

 彼女はライザーを慕っている。それだけは疑いようのない事実で、アザゼルも認めるほど彼女はライザーに傾倒している。第一声が”ライザー”であったことからも、それがうかがえる。

 

 そんなライザーに相手にされず、そんなライザーに一人冷たくされ、はたして彼女はどのような思いをするか。

 

『ほかの眷属には手を出しているのに、どうして私には手を出さないの?』

 

 彼女が、その意味が込められた言葉を口にした際に瞳に浮かべていた僅かな期待は、何を目的として込められていたのか。彼女が、どんな思いでそんな言葉を口にしたのか。

 

「あ……ぁ、あ、あああ……!!!」

 

 なぜ気づかなかったのか。喋れないこともそうだ、彼女の気持ちもそうだ。少し考えれば、少し気を付ければ分かることだった。

 

 ライザーに惨めな気持ちが募っていく、自己嫌悪が心を占める。リアスとの婚約もそうだった。衆人環境で無様に負け、それでドラゴン恐怖症なんてものに陥り、一時期はふさぎ込み、ゴシップにはあることないこと書かれ放題で、外に出る事さえままならなかった。

 

 そのときの惨めな気持ちがよみがえってくる。あまりにも苦すぎる思い出が、ドラゴンの恐怖がよみがえる。

 

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

 惨めで、惨めで。やるせなくて仕方なくて。そんな思いから逃げるように、そんな感情から目を背けるように。

 

 いつぞやのように、ライザーはひきこもった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……えっ?




 ライザー、再び引きこもる、の巻き。
 いろいろタイミングが悪かったのです。ドンマイ主人公!
 これにて一章、欲求不満のフェニックスが終了しました。二章からはばんばん原作に関われる……といいですね(願望)。

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