しかし試験の後ってどうして頭痛がするんでしょうか。
いくら呼ばれたからとはいえ、当然ながら単なる下級悪魔がそうそう魔王と謁見など出来るわけがなく、そもそも、
彼女の問題を解決する眷属こと、彼――もともと聖獣であった唯一の眷属悪魔、炎駒――は今、酷く困惑していた。
「…………」
だが、対峙してみるとどうだ。何も話さず、何も為さず、彼女はただ立っているのみである。人形などと揶揄されてはいるが、確かに彼女に意思はあるだろう。しかし意志があるかと聞かれれば、首を傾げざるを得ない。
まるで赤ん坊のようだ、と炎駒は思う。何も分からない、何も知らない、ただ自分の世界を創り上げ、そこを中心にして世界を回す。彼女が求めているのはライザーで、彼女の世界にはライザーしかいない。
ライザーこそが絶対、ライザーこそが世界、ライザーこそが正義。そうと言わんばかりに、彼女はライザーを強く求めていた。はたしてそれが何を原動にしているかなんてことは、考えるまでもない。子が親を求めるような、そんな理屈だろう。
愚直なはずだ。素直なはずだ。そうでないはずがない。何故なら彼女は赤ん坊なのだ。真っ白で、真っさらで、まるで新雪のよう。だから彼女は己が求めるままに、ライザーに尽くしている。忠誠ではない。単なる子供心で字名が着けられるほどに、真っ直ぐに。
とはいえ、今はそんなことは関係のないことだ。彼女の主たるライザーが報告してきたのは、彼女から悪魔の気配が薄れていることと、聖なる気配が生じてきていること。その理由は簡単に推察できる。
例えば彼女の能力が
あるいは単に生じた聖なるオーラに
それ自身は別に大丈夫だが、問題となるのは聖なる気配はどうして生じたか、ということ。連れ去られた際に注入されたのかもしれないし、何らかの事情で体に宿したのかもしれない。神器の影響であるとも考えられる。聖なる存在が悪魔となった前例なんて、数える程しかないだろう。それも、聖なる気配が感じられるほど濃密なものを宿しているとなると、やはり炎駒ぐらいか。
しかし、その聖なる気配の発生源はどのような存在であろうか。炎駒はじっと彼女を観察しているが、いまいち掴みきれない。この気配は感じたことはある。微かではあるが聖獣の匂いがする。しかし、それがうまく隠されているような、隠れているような、はっきり分からないものとなっている。
まさしく森の中に木を隠されたような気分である。聖なる存在のくせに、魔なる存在と似たような、そもそも根本自体は同じか、あるいは僅かにずれただけのような、そんな気配。
意味がわからない。聖なる存在と魔なる存在は、聖書の神が死んだ今だからこそ両立できるが、通常正反対であるとされたものだ。通常は聖なる者と魔なる者の気配ははっきりと違う。だから、解せない。
これでは、聖獣としても悪魔としても、その両方の伝承が別離して存在し、しかし能力などを同じとするようなものである。そんな存在なんて……。
――いた。
★
なんか変なおっさんがなんか言ってたけど、俺って難しい話わかんないから聞いてなくてもいいよね。どうせあれだよ。ライザーくんがんばっているから君も労ってあげてね、とかいうやつだよ。全裸で労わってもいいですか。
しかし魔王から呼ばれてるって行ってみれば出てきたのは魔王じゃないってどういうことなの。思わず立ち尽くしてしまった。まあ気にしてないみたいだったからいいんだけどね。
しかし誰だあのおっさん。原作にいたっけ? 少なくとも魔王じゃないよな。でも呼ばれたの魔王だしなぁ……秘書かなんかかな? あれ? でもサーゼクスの秘書って女じゃなかったっけ。あ、そっか魔王四人いるのか。じゃあ他のやつの秘書だな。
とりあえずどうしよう。待つように言われたけどもう帰りたい。いや帰り道分かんないから帰れないんだけどね。というか魔王城からの出方すら知らないし。もちろん魔王城なんて名前じゃないけど、魔王居るし名前知らんからこれでいいだろう。でも今いたの秘書だから魔王の秘書城なのかな。どうでもいいや。
そういえば冥界って太陽ないくせに月はあるよね。昼がないくせに夜があるみたい。ていうか紫色の空とか目に悪くて困る。いっそ一面緑にしろよ。
こういうとき転移ができると便利なんだけど、実は俺使えないのである。いや、呼ばれたら出て行くことはもちろん可能だが、呼ばれないのに出て行くことはできないのだ。なんでだろ。これさえできれば交通費かかんなくて便利なのに。
そういえば和平ってもう終わったのかな。でも和平したからってずっと戦争してきた相手にはい仲良くしましょうって普通できないよね。俺ならこっそり後ろからやる。
そうか。そういうことにも注意しなきゃなんないのか。うわー。めんどくせえ。俺は正直ライザーの上にまたがって腰さえ振れれば満足なんだけど。ビッチって言うやついるかもしんないけど俺一途だからね。一穴主義ならぬ一棒主義だからね。あ、でもライザーより気持ちいいならちょっと考える。そしてその結果ついていく。
あれだよあれ。俺とライザーの理想はビジネスライクな関係なの。俺は快楽を享受し、ライザーも性欲を発散する。みたいな。
あ、そうだ。たしか俺って操り人形? て呼ばれてるんだって。同じ人形なら性欲処理人形がいいよね。ダッチワイ●。そう扱ってくれてかまわないよ。俺はまさしく空気のように、家事も仕事もしない、ただセック●のためだけの嫁となろう。空気嫁だ空気嫁。ライザーが望まずともそうしてくれる。……できないけど。
来たことないけどサンタさん。今年のプレゼントはこれでお願いします。サタンさんでもいいや。叶えてくれるといいなぁ。叶えてくれないならライザーを逆レイ●してでも叶えてやる。衣食住セック●すべて揃えた夢の快適リア充ライフをおくってやるのである。
しかし魔王城って広いよね。ちょと大きすぎない? 頭おかしいんじゃねーの。こんなに広くてどうすんだ。管理が大変なだけじゃねえか。おかげで魔王城からフェニックス領なんて全然見えない。どんだけ遠いんだ。ほんと転移便利だな。使えるようになりたい。
転移が無理なら飛んでいけばいいのだけど、実際、飛ぶのは速いのは速いのだが、走るのと同じで疲れる。確かに訓練はしてるしそれなりに体力はあるからずっと飛んでても大丈夫といえば大丈夫なのだが、いかんせんめんどくさい。
なんで走らなきゃいけないの? みたいな気分になるのだ。知らねーよ。じゃあ歩けよ。
ていうか俺なんでこんなとこで待たなきゃなんないんだろ。ライザーもてなせばいいんだろ? それ伝えるだけでなんでこんなに時間かかってんだよ。そして何で待たなきゃいけないんだよ。市役所かお前ら。そりゃあお偉いさんって時間かかるものだけどさ。
めんどくさい。ライザーいないのかライザー。あいつならきっと俺の代わりにめんどくさいこと全部やってくれるから呼んでこいよ。その間俺はライザーが仕事している机の中でものすごい体勢でチン●くわえてるから。重力に逆らう感じで。床に手をついて顔をまたの下にし、脚はライザーの腰に回してバッドいんアンダーマウスしてるから。
想像しただけで頭に血が上りそうだ。絶対背骨とかごりごりいう。ダメだな。ライザーの仕事が終わるまでちゃんと待ってからやろう。体勢のせいで感覚に集中できないなら俺の今までの苦労が全部水の泡となってしまうのだ。そんなのは俺が許さない。
おっさんもいつの間にか出ていったしどうしたらいいんだろ。脱げばいいの? でもここライザーいないからなあ。ライザーいるなら脱ぐんだけどまたスルーされたら俺は泣く。涙でないけどあれだ。心が泣いているってやつ。やだ……感動的!
まあでも脱ぐのはいいよね。正直服って胸がきつくってちょっと苦しかったりする。しかも今回のは特別堅苦しくて圧迫感がやばい。なんで魔王に会うわけでもないのにこんなん着なきゃいけないんだ。いや我慢できるんだけど。でも外した時の開放感は絶対最高だよね。ってことでさあ、開放だぜ、とボタンに手をかけたところで、扉が開かれた。ていうかおっさんだった。お前出ていくとき見えなかったのになんで入るときはそう主張すんの?
ちょうど俺は服のボタンに手をかけたところで、あ、やべとか思ってても残念ながら車は急に止まれない。つまり俺の手も急に止まらない。しかたないね。このままでは俺は上半身下着というハレンチな姿でおっさんの目にさらされてしまう。まずい。けっこうイケメンだから不潔ではないと思うんだけど俺にはライザーという心に決めて人がいるわけで。
でもちょっと魔王の秘書ならうまいかもしれない。あ、や、違う、俺にはライザーがいる。でもライザー全然犯してくれない……。
そしてじわじわ近づいてくるおっさん。待って今俺感傷に浸ってんじゃん。空気読めよNTRとかお呼びじゃねーんだよ。
そしておっさんは俺の近くまで来ると、下に落ちていた俺の服を持ち上げ――
「お嬢さん。風邪をひきますぞ」
あ、どうもこれはご丁寧に……。
服を着せてもらった。これはこれで恥ずかしい。なんだろう。エロいこと考えてた俺が凄く変態に思えてくる。おっさんめっちゃ紳士だった。あれだね。きっと俺が外見通りの年齢で服が堅苦しいから脱いじゃったように思えたんだね。それに羞恥と背徳を求めたことを加えれば完璧だ。こうなれば俺はライザーへのこの思いを貫くしかないね。貫かせてみせる!
「サーゼクス様がお呼びです。行けますな?」
え? あ、もしかしてこのおっさんの難しい話って時間稼ぎだったの? まあそうか。そう簡単に時間とれるわけないもんね。
おっさんの言葉に頷いて応じる。ていうか準備なんてあるはずないし。強いて言うならやっぱり服が苦しい。脱いでいいかな。
「サーゼクス様の御前となりますからな。もう少しだけ我慢していただきたい」
……!! やべえこのおっさんすげえ! ぱねえ。まじすげえ。俺の考えを読み取りやがった。つまり俺の性欲のことも伝わってるに違いない。よっしゃこれでライザーと交尾できる。長年の欲求不満がいま解決されるのだ! おっさんすげえ!
「むこうにはライザー様もいますからな」
ひゃっほー! 絶対通じてるよこれ! 以心伝心だよヤバいなホント! よっしゃ行こうさあ行こう! ライザーとヤれるなら堅苦しいのくらい超余裕で我慢できるにきまってる! 待ってろよライザー! 今犯しに行くからな!
★
ライザー・フェニックスは混乱した。必ず、かの意味不明な命を理解せむと努力した。
さて、炎駒が
ライザーが報告したのは、彼女が悪魔の気配を薄れさせ、聖なる気配を纏い始めたこと。そして問うたのは、聖書の神の生死。単に、前者は彼女を心配してのことで、後者は自身が知ってしまったことを伝えるためである。
それなのに。
「じゃあライザーくん。君も和平の場についてきてくれ」
これである。なんというか……なんといえばいいのか。たとえばリアス・グレモリーが呼ばれるのも、ソーナ・シトリーが呼ばれるのもおかしくはない。彼女等は和平が開かれる駒王学園の生徒であり、かつ魔王の縁者なのだから。
しかし、ライザーにはそれがない。人間界は嫌いなのでほとんど出向かないし、魔王と血縁などあるわけがない。では、なぜライザーが和平の場まで魔王についてきてくれなどと言われるのか……まったくもって不明であった。
「魔王様、どうして私が……」
「今回の和平では神が死んだことを知るものが集まっている。当然全員ではないが、各勢力の主要な者が多い。つまり、そこで
なるほど。ライザーは納得した。つまり護衛のようなものである。通常なら各勢力の首脳陣は相当な実力者であるので護衛など必要はないが、相性もあるし、不足の事態も起こりうる。それを防ぐために、不死身たるライザーを連れて行くのは悪くない判断だ。
「分かりました、魔王様」
ライザーはそう答えた。まあリアスに会うかもしれないが、別にちょっと気まずいだけだ。リアスが危険な場所に眷属を連れてくることもないだろう。
「サーゼクス様」
のんびりと、リアスと出会ったらどう話そうかななんてライザーがのんきに考えていると、サーゼクスの兵士、炎駒が魔法陣に乗って現れた。そしてなにやら内緒話をはじめている。
恐らくライザーの兵士、
「ライザーくん。
「……は?」
思わず、ライザーは停止した。ライザーにとって、彼女の問題は炎駒に預けたことで解決したことになっていた。しかし、魔王のその言葉、もしや彼女になにかあったのか……。
「いや、ちょっと彼女を見てみたくてね」
どんな理由だ。そんなつっこみをライザーは呑み込む。残念ながらライザーは魔王の命に逆らう手段を有してなかった。しかたない、とライザーは一人ごちる。こうなれば和平の日までできるかぎりフェニックスの涙を量産して彼女に持たせなければ……。
しかし和平の日は今日らしい。ライザーは頭を抱えた。なんだこの魔王。軽すぎる。ちょいとそこまでの感覚で大事な――命の危険がある――会議まで部外者を連れてくるなど、常軌を逸している。というか逸しすぎだ。もしかしたらライザーを連れて行くのもなんとなくなのかもしれない。なんてことだ。どうにか彼女を連れて行くことは回避しようとライザーは反論したが、大丈夫だよ、とサーゼクスは取り合わなかった。
(こんなのが魔王で悪魔は大丈夫なのか……)
ライザーは頭を抱えるが、実際大きな問題はない。というか他の魔王も似た調子である。悪魔社会は、四人のトップがそれぞれ魔女っ子だったり面倒臭がりだったりしても極普通にまわっているのだ。公私を完全に使い分けているといってもいい。
でもちょっとプライベートゆるすぎである。魔王としての威厳がない。イロモノばかりである。
そんな文句を抱えながら、ライザーは魔王についていく。魔王と共に魔法陣で抜けた先は人間界である。和平の場所は人間界であるのだから当然だ。出てしばらく魔王についていくと、ライザーはリアスとその下僕に出会った。まさかのリアスまで眷属を連れて来ていた。驚愕で思わず眷属を見てしまったライザーはイッセーと目があってしまう。時が止まり、ライザーの額に脂汗が滲む。ドラゴンの恐怖がライザーを襲い、ヘタレそうになるがなんとかこらえた。
そこで、イッセーが構えた。
「なにしに来やがった!」
そんなん俺が知りたいわ。
怒鳴りそうになったのを、ライザーは寸前で我慢する。魔王の前である。一度見せてしまって居るが、無様な姿は見せられない。まあそんなことを考えていても、膝が震えているのだから明らかに無様な姿だった。
「ライザーくんは僕が呼んだんだよ」
サーゼクスが口を挟む。というかそういうことは初めから言っとけよとライザーは思った。既に魔王に対する敬語が抜けてしまっている。ライザーはもう魔王に戦闘能力以外期待していない。尊敬もしていない。評価はめちゃくちゃ強いだけのダメなやつである。力がある分たちが悪い。
「お兄様が? でも……」
リアスも何か思うところがあるようだ。そりゃあ元婚約者だし、ライザーも未練はあるが、結婚するにあたり赤龍帝がついてくるならライザーとしては願い下げだった。毎日ビクビクする生活なんて嫌すぎる。
「大丈夫だよリアス。ライザーくんはもう婚約者じゃないし、彼が今日来たのは警備のためだよ」
「警備? 何に対するの?」
「テロリストさ」
そう言って、サーゼクスはウィンクした。イケメンであるためか、無駄に様になっている。ライザーはいらっとした。
「安心するといい。ライザーくんと同じくらい強力な助っ人も呼んでいる」
そして現れたのは、一切動かぬ人形のような表情をした、一人の少女。いつも通りの無表情で、いつも通り無口に、いつも通り無感動に、周囲をゆっくりと見回している。そしてその両眼がライザーを捉えた後、頷いてから、ゆっくりとまた周囲を見渡した。少しして、その瞳に驚愕の表情が現れる。
しかしそれは、周囲の――リアスたちもそうであった。
「あのときの……!」
という感じである。ライザーはしかめ面であった。
「なるほど。炎駒みたいに聖獣をベースに悪魔となっているのではなく、聖獣であり悪魔であることを両立させている……。でも聖獣側に傾くのは時間の問題かな」
サーゼクスはといえば、彼女の姿を見て、興味深そうちなにやら呟いていた。
ライザーは頭痛がした。
主人公「あれ? おっさんいない!?」
主人公は別に誰を振り回すわけではありませんが、自由人な魔王様なら誰だって振り回しそうです。
そして今回運悪くその対象となってしまったライザー。