ハイスクールD×D 満たされぬ欲に狂う者   作:山北深夜

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遅れて申し訳ありません。そしてちょっと忙しいので更新が遅れるかもしれません。


二十五話

 リゼヴィムが笑っていたのは空繰人形(パペット)から離れて数分までのわずかな間だけだった。けらけらと愉しそうに歩いていたリゼヴィムだが、ふと嫌な予感に顔をしかめる。なにかがおかしい。リゼヴィムの勘がそう叫んでいた。

 

 なにがおかしい? 勘に従い、リゼヴィムは立ち止まって考え込む。彼の身体に不調はない。それもそのはず、リゼヴィムは空繰人形(パペット)から一切のダメージを受けていないのだ。その身に宿る神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)により、彼は神器からの影響を受けることがない。神器を主として戦う空繰人形(パペット)はリゼヴィムに対して何もできないはずだ。何もできなかったはずだ。だが嫌な予感は途切れない。

 

 何かを見落としている。そんな気がする。だが、何を? 

 

 神器から発生したものならば、たとえ衝撃などの二次被害であってもリゼヴィムには届かない。神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)とはそういうものであり、それほどのものだからだ。それを何らかの手段で無効化されたかと言えば、それも考えにくい。自らの能力をよく知るリゼヴィム自身、様々な魔術を用いてようやく神器を手に取ることができる程度にしか抑えられない。神器でリゼヴィムを害す方法など、彼自身すら皆目見当がつかない。

 

 つまり空繰人形(パペット)ができる事などあるはずがない。それなのに、どうしても気にかかる。リゼヴィムの超越者たる感覚が、何か違うと訴えかける。リゼヴィムの頭脳が、どこかずれていると叫んでいる。

 

 リゼヴィムが苛立ちに歯を噛み締める。なんだこれは。空繰人形(パペット)を愉しくからかって、気分上々に赤龍帝のところまで向かっていたはずなのに。水を差されたどころではない。せっかくの気分がなにもかも台無しである。舌打ちを一つするが、リゼヴィムの気分は優れない。

 

 ああ、とリゼヴィムは強く拳を握った。思考は終着点を見出せず、空繰人形(パペット)の手のひらの上で踊らされている気さえしてきた。そんな考えが浮かび、リゼヴィムは怒りに顔を歪ませた。操り人形に操られるなど、もはや道化ではないか。相手を煽り、そして操るのは自分の役割であったはずだ。あざ笑うのは己だったはずだ。だが、いつの間にか立場が変わってしまっている。

 

空繰人形(パペット)ッ……!」

 

 無表情で何も語らない女の様子が、リゼヴィムの脳内を駆け巡る。リゼヴィムの脳内の女は、何に対しても無駄なことばかりしてた。そのはずだ。だが、はたしてそれは本当に無駄なことだったのか。そのなかに、いくつかの何かを仕組んでいるのではないか。リゼヴィムの疑心は止まらない。リゼヴィムの疑問は止まらない。

 

 そうだ。リゼヴィムは思う。よくよく考えてみれば、空繰人形(パペット)は力技では考えられないようなことをいくつも為している。空間を捻じ曲げて異界を開いたり、結界を外部から内部崩壊させるなど、多大な知識と経験が必要なことを事も無げにこなしている。

 

 彼はそれらを偶然と切って捨てていた。空繰人形(パペット)のこれまでを考えると、彼女では到底為しえないようなことであり、偶然としか考えられなかったのだ。だが、偶然であるはずがない。偶然でできるようなものではない。ならばリゼヴィムが調べた空繰人形(パペット)のことすべては、彼女を過小評価させるように見せかけるための、彼女の過去のことすべてがそう誤解させるためのものということになる。

 

 空繰人形(パペット)という女は、あの人形のような面の下で、あの童女のような行動の間で、これから来るリゼヴィムのような敵に罠を仕掛けていたのだ。自らの能力を見せながら、それらを偶然と切って捨てさせるように。自らの本命を隠し、確実にぶつけられるように。そしてその本命を、おそらくリゼヴィムは受けてしまった。

 

 間違いない。リゼヴィムは確信する。

 

 それはつまり、空繰人形(パペット)が力だけの子供でないことを示している。操られるだけの人形でないことを示している。リゼヴィムという傑物を操ることができるほどの狡猾さを有していることを示している。

 

 中級悪魔昇格試験の結果も、かつてあった敗北ばかりの歴史も、もしかしたら彼女の両親のことですら、すべてリゼヴィムにした何かのための布石かもしれない。

 

 リゼヴィムの中でどんどんピースが嵌っていく。嫌な予感が膨れ上がる。何かされたのは間違いないのに、何をされたのか分からない。それがあまりにも致命的すぎる。リゼヴィムは空繰人形(パペット)が自分を嵌めるという予想すらしていなかった。彼女にしてみればさぞやりやすかったことだろう。リゼヴィムは歯噛みする。

 

 どうする――リゼヴィムは考える。リゼヴィムの選択肢は二つ。このまま赤龍帝の元まで行くか、それとも引き返すか。リゼヴィムにとってはどちらもしたくあり、どちらもしたくない。進むも地獄、退くも地獄。進むなら本命の何かにおびえ続けることとなり、退くのなら本命の何かにぶつかることになる。

 

「どうするべきかねぇ……」

 

 正直に言えば、リゼヴィムは自身が殺されても、状況は悪くはなるが最悪ではないと思っている。彼が死んでもはるかに強いリリスや、アジ・ダハーカなどの邪龍がいるうえ、さらにはリゼヴィムの死をトリガーとした彼自身の本命もある。あるが、しかしここで大丈夫だろうと断じる強さを、リゼヴィムは持ち合わせていなかった。

 

 リリスは強いがそれだけであり、搦め手を使われるとどうにも難しい。邪龍だと空繰人形(パペット)の攻撃力に耐えられるかも分からない。リゼヴィムの本命は彼自身もよく分からないが、おそらく誰であろうと一蹴できる力はあるはずで、だが確実に発動できるかが分からない。下手をすれば、リゼヴィムが死んでそれでおしまいという可能性もある。あるいはリゼヴィムすらも手玉に取る空繰人形(パペット)なら、本命を察し彼を殺さず封印なりするかもしれない。

 

 どうすればいい? リゼヴィムは考える。空繰人形(パペット)の本命がどんな状況下でどう影響するか分からない以上、リゼヴィムは迂闊に行動できない。戻った瞬間に封印されることすらあるかもしれない。リゼヴィムは考える。考え、考え、考えて――

 

「めんどくせぇ。もういいや」

 

 そう呟くとともに思考を投げ出した。その顔にはニヤニヤとしたいつもどおりの笑みが浮かんでいる。へらへらと嘲るような笑みが浮かんでいる。考えたってしかたないならば、考えなければいいのだ。リゼヴィムが思いついた対策は単純。罠も工夫も策も、何もかも一切を無視して粉砕する。リゼヴィムもリリスも、それを為すだけの力がある。

 

 空繰人形(パペット)の本命がリゼヴィムを上回れば彼女の勝ち。下回ればリゼヴィムの勝ち。ただそれだけの話である。それだけの話だったのだ。リゼヴィムはけらけらと笑う。

 

 ならばあとは簡単なことだ。リゼヴィムは進むか戻るかを選べばいい。難しいことを考えず、勝手気ままに、いつもどおりに。もう、罠にかかろうがどうなろうが、なんでもいいのだから。来たモノを粉砕するだけでいいのだから、悩む必要などない。

 

 ――そうだ、これが俺だ。余裕を持って、嘲笑を浮かべ、愉しげに煽る。それこそがリゼヴィムなのだ。彼はそう思い、またも笑う。さあどうしよう。ああ、せっかくだ。リリスに任せるのもいいかもしれない。行こうが退こうが、どっちでもいいのだから。

 

「なあどうするよリリ――」

 

 そう思って振り返った先。リゼヴィムは空繰人形(パペット)の本命を見た。そして、空繰人形(パペット)のもとへと戻ることを決めた。既に彼の笑みは消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろうこれ。消えたと思ったおっさんと幼女がなんか屋敷に居たんだけど。もしかしてライザーの知り合いだったりしたのだろうか。やべえ。殴っちゃったんだけど大丈夫かな。死んでないっていうか攻撃が効いてなかったから多分大丈夫だとは思うけど。

 

 ていうかなんだこいつら。なんか窓壊れてんだけど。ちょっとこれどうしてくれんだ。そんなに玄関から入るのがいやだったのか。いやまあ確かにそれでレイヴェルとかに見つかったら説教されそうだけどそうやって壊したらもっと怒られるに決まってんだろ。こいつら馬鹿なのか? ……いやまてよ? そういう趣味とか性的嗜好があるかもしれないのか。……うわあ。ないわあ。

 

 そういう説教プレイはライザーで考えたらこみ上げてくるものがあるけど、でもやっぱりオードソックスな普通のセック●には及ばないと思うんだよね。考えてみろよ。普通にずぽずぽとされてめっちゃきもちいいのと、ずぽずぽされながら「大体お前は勉強しなさすぎなんだ」とか「少しぐらい我慢できないのか」とか言われながらするのじゃ……あれ? 説教プレイいいな。

 

 やばい。すごいぞ説教プレイ。なにがいいってお仕置きと称してできるってのが何よりいいし、あと言葉責めも正直俺好きだわ。萎えるかと思ったけど全然オッケー。むしろばっちこい。いやはや。俺ってエムだったのか。いや気持ちいいならなんでもいいんだけどさ。うん。

 

 俺を心配して言ってくれてるから無視することもできなくて、でもセック●もしてるからずっと気持ちよくて、その中で必死に快楽に流されないように言葉に耳を傾けるんだけど、どうしても我慢できなくて。それで「ちゃんと聞いてるのか」とか「説教中なのによがるな」とか言われてどうしようもなくなって、「なんてやつだ。お仕置きだ」ってなって……。

 

 やべえわ。最高だわ。クールだわ。こんなプレイ思いつくとかこいつら天才なんじゃね? おっさんと幼女とかいう犯罪的な組み合わせの癖にすげえわ。人は見かけによらないってほんとなんだな。ただの変なやつかと思ったけど最高だわ。

 

 そういえば俺って試験とかそこらへん駄目だったし、これ説教理由になるんじゃね? ライザーがそれを理由にお仕置きとして俺を犯して、全問正解するまで焦らされたり逆に逝かされまくったりして、でもそんなことされてるから正答とかできるはずもなくて明日もまたやるからなみたいな。みたいな!

 

 そうと決まればおっさんたち早く帰れ。そうしたらすぐにでも説教プレイ始めてくれて構わないのに。朝から晩までどころか一日中だって頑張るからチン●ぶちこんでくれないかなあ。俺の体の隅から隅まで白濁で汚してくれないかなあ。

 

 あ、でも最初の一回ぐらいは普通のセック●したいな。あれだよあれ。ピロートークやりたい。まあ喋るの大変なんだけどさ。俺の経験って最初のレイプまがいのしかないからやっぱりちょっとそういうのに憧れるんだよね。ちょっとだけだけど。

 

 あれ? いやでも待てよ。最初にハードなのを経験して疲労の残ったあとでゆったりとしたスローセック●とかもいいんじゃね? うん。悪くないかも。全身でライザーを感じるのもいいし、中でしっかりとライザーの形を覚えるっているのもいいし。

 

 うん。うん。いいなこれ。カモンライザー!

 

「とりあえず死んどけよ」

 

 ……うん? あれ。なんか何も見えなくなったと思ったら全身吹き飛ばされてる。なんで? いやまあ答えは目の前のおっさんしかありえないんだけどさ。てかこいつらライザーの知り合いじゃなかったの? まじか。どうしよう。

 

「チッ、再生出来ないはずの威力だったんだけどなっ」

 

 何言ってんだこいつ。全身吹き飛ばされて再生もなにもあるわけねえだろ。魔人ブウの倒し方も知らんのか。まあ俺の場合再生じゃないから細胞一つ残らず消しても生き返るんだけど。ライザーとかはどうなんだろ。半身ぐらいなら普通に復活してたと思うんだけど。

 

 いやまじなんなのこのおっさん。めっちゃ魔法放ってくるんだけど。おかげで屋敷がものすごい勢いで崩壊していってる。なんの嫌がらせだ。これ何故かおれのせいになったりするんだからな。説教されて……うん。やっぱ俺の責任だわ。お仕置きは受けなきゃね。うん。

 

 でもなんだこれ。というかライザーはなんで固まってんの? これ正直ライザーがくらったらやばくない? そういう意味でもいい加減魔法がうっとうしいんだけど。とりあえず禁手化(バランス・ブレイク)しておっさんを引き寄せようとするけどやっぱり効かない。困った。どうしよう。あと顔吹っ飛ばされて戻ってを繰り返してるからなんかチカチカする。うぜえ。

 

 近づいて殴る。やっぱり効いてない。羽で殴られて吹っ飛ばされる。ついでに全身がはじけ飛ぶ。まあ復活するけど。なんだこれ。俺の攻撃はおっさんに効かないし、おっさんの攻撃も俺に効かないから千日手みたいなことになってんだけど。むしろのれんに腕押しかな。

 

 どうしよう。正直もうめんどくさいからライザーとセック●したいんだけど。いやまあセック●はいつでもしたいんだけど。なんでおっさん諦めないかな。俺はもう諦めたんだし、いい加減おっさんもやめろよ。屋敷もう跡形もないんだけど。青姦しろってか。……いやまあそれもいいけど。

 

 そういえばユーベルーナとかは屋敷にいたはずだけどどうなってるんだろうか。ちょっと倒壊しただけだし、おっさんの魔法に当たったりしなければ大丈夫だと思うんだけど。うーん。まあ多分大丈夫かな。うん。

 

 まあそんなことよりおっさん殺す方法考えないと。

 

「……はっ、俺は一体何を」

 

 あ、ライザー復活した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空繰人形(パペット)のもとへ向かい、そして彼女より先にフェニックス家まで辿り着いたリゼヴィムであるが、彼がライザー・フェニックスを襲うことはなかった。なぜなら、単純にできなかったからである。

 

 超越者たるリゼヴィムの戦闘能力は非常に高い。当然ながら、未だ若手のライザーをはるかに上回る強さがある。彼自身、殺戮に躊躇するような性格でもない。だが、リゼヴィムはライザーを襲えなかった。

 

 ライザーの姿を目に映し、屋敷に突入したリゼヴィムは、空繰人形(パペット)への怒りと苛立ちからライザーを殺そうとはしていたのだ。襲い掛かろうとして、その手を止めざるをえなかった。怒りと苛立ちをさらに膨れ上がらせながらも、殺意を抑えざるをえなかった。

 

 ふらり、ふらり。熱に浮かされたような足取りで、リリスがライザーへと向かっていったからである。

 

 そこで初めて、リゼヴィムは空繰人形(パペット)の本命を理解した。そもそも、彼が空繰人形(パペット)の方へ向かおうとしたのは、リリスの様子があまりにおかしかったからである。熱に浮かされたような表情で、とろけるような顔つきで、ずっと後ろを見つめていたのだ。リゼヴィムが声をかけても返事はなく、ここで彼は空繰人形(パペット)の本命の対象がリリスであると知る。

 

 どうやったかはリゼヴィムには分からない。無限の片割れ、半分になってなお世界最強の座に位置するリリスになにをどうやって干渉したのか。純粋なただの力である状態ならまだ分かる。その状態ならば、僅かな方向性を与えるだけでいい。それはリゼヴィムがリリスを創ったときもそうであるからだ。

 

 だが、人格を与えられ、力の塊となったリリスを、一体どうやって揺さぶったのか。絵の具で海の色を変えるような異業を、いったいどうやって成し遂げたのか。

 

 そこでリゼヴィムは思考を打ち切った。そんなことを考えても意味がないからだ。リリスの様子は尋常ではない。どうにかする必要があった。リゼヴィムにとって、いまここでリリスを失うのはあまりに痛すぎるからだ。

 

 だから、元凶を断とうとリゼヴィムは戻った。それこそが空繰人形(パペット)の本命だった。

 

 ライザーを見た途端にそちらに向かうリリスを見て、リゼヴィムはようやく理解したのだ。リリスの視線の先が、空繰人形(パペット)でなくライザーであることを。どうやったかは分からない。だが、ライザーこそが空繰人形(パペット)の本命の引き金であり、そしてその本命であることを理解した。つまり空繰人形(パペット)の本命とは――

 

(リリスに俺を裏切らせることかよ。くそが。的確に嫌なことしてきやがって)

 

 必要だったのは元を断つのではなく、ライザーを殺すこと。だが、リリスがライザーについた以上、リゼヴィムがライザーを殺すのは不可能といっていい。リリスがそれほどまでに強いからである。

 

 リリスはじいっと目の前のライザーを見上げている。意味不明の状況にライザーは混乱し、思考を放棄して固まってしまっている。リリスはリゼヴィムから背を向けているが、それでもライザーを殺せない。

 

 リゼヴィムが強く拳を握り締める。苛立ち、怒り、焦り。様々な感情がリゼヴィムの心を駆け巡る。そんな彼を馬鹿にするかのように、ゆっくりとドアが開かれた。そこにいたのは、空繰人形(パペット)だった。

 

「……よう」

 

 その言葉はリゼヴィムの精一杯の虚勢だった。彼に余裕などない。切り札を奪われ残るは奥の手のみ。しかしその奥の手は自らが死なないと発動できないのだからどうしようもない。リゼヴィムにはもうほとんど何も残っていなかった。

 

 空繰人形(パペット)は答えない。相変わらずの無表情で、リゼヴィムをただ見ている。

 

「まったく、やられたぜおい。裏切らせようとしたら裏切らせるなんて、もしかして意識返しのつもりか?」

 

 リゼヴィムのいつもの軽口が、どうにも重い。そんな彼の言葉に、空繰人形(パペット)は答えない。

 

「だんまりなんてひでえなあ。あ、そうそう聞いときたいんだけどさ。リリスちゃんをどうやってたぶらかしたのさ。簡単にできるようなことじゃないはずなんだけどよう」

 

 空繰人形(パペット)は答えない。

 

「あ、もしかして企業秘密ってやつ? 特許申請中とかそんな感じ? 大丈夫だって誰にも言わないから。ちょっとだけ教えてくれよ」

 

 リゼヴィムが何を言おうとも、空繰人形(パペット)には何も響かない。ゆえに彼女は答えない。

 

「んーまあ仕方ないか。答えたくないなら。そりゃあ秘密にしたいよなあ。俺だってわかんないことだもん。あ、でもちょっと一つだけお願いしてもいいか? いや、ちょっとだけなんだけどさ――」

 

 空繰人形(パペット)は答えない。リゼヴィムも返答は求めていなかった。

 

「とりあえず死んどけよ」

 

 言葉と同時に、リゼヴィムが翼を開く。六対十二枚の強大な翼が、跡形も残らず空繰人形(パペット)を吹き飛ばす。しかし直後、炎とともに彼女は蘇る。フェニックスとしての転生能力。輪廻を閉じ、自己完結させることで無限に転生する不滅の力。その点のみにおいて、空繰人形(パペット)のそれは他の追随を許さない。

 

「チッ、再生出来ないはずの威力だったんだけどなっ」

 

 殺し、殺し、殺して殺し。しかし消耗した様子もなく復活する空繰人形(パペット)を見て、それでもリゼヴィムは止まらない。空繰人形(パペット)に魔法を放ち、翼で穿ち、拳で貫き、魔力で叩く。百度殺してもまだ死なず、千度を超えてもなお立ち上がる。リゼヴィムは、そんな彼女が目障りだった。

 

 何度攻撃を繰り返しただろう。リゼヴィムが気がついたとき、ライザーもまた硬直が解けていた。そして魔法を放たれる空繰人形(パペット)の姿を見て、ライザーは迷わず彼女の前に滑り込んだ。リゼヴィムが気がついたとき、それは既に遅かった。空繰人形(パペット)の前に立つライザーをかばうようにして、リリスがライザーの目の前に立っていた。リリスの目は、リゼヴィムに対する敵意に満ちていた。

 

「……あーあ」

 

 これはだめだとリゼヴィムは確信した。直後、リリスから放たれたのは、どこで覚えたのか、強力な封印の魔法だった。空繰人形(パペット)の仕業だろう。リゼヴィムは内心で苦笑する。

 

 ああ、だめだ。これは逃げられない。当然防御も意味を成さない。リゼヴィムは一目で理解した。そして、せめてもの抵抗に自らの持つ異様なほどの魔力をかき集め、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にいる少女を見つめて、ライザーはどうしようもなく胃が痛くなるのを感じた。少女の姿は、どこからどうみてもテロリスト集団、禍の団(カオス・ブリゲード)の親玉オーフィスである。感じる力からもそれは間違いないだろう。そんな彼女が、熱に浮かされたような目でライザーを見ていた。どうやら懐かれたらしい。

 

 ――どうしてこうなった。

 

 これからのことを考えて、思わずライザーは引きこもりたくなった。




主人公を策士と勘違いする節穴リゼウィム。筆が乗りました。
そういえば感想で蛇の使い道を多くの方がオーフィスにとおっしゃっていましたが、最初からリリスに使用する予定でした。生まれたばかりで自我がひどく薄いのであっさりと蛇の媚毒にやられた、という設定です。ちなみに最後の封印術はリリスが見たであろうトライヘキサのものです。主人公パワーが蛇を通じて僅かに乗り移りました。
あとごめんねライザー。

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