リゼヴィムが笑っていたのは
なにがおかしい? 勘に従い、リゼヴィムは立ち止まって考え込む。彼の身体に不調はない。それもそのはず、リゼヴィムは
何かを見落としている。そんな気がする。だが、何を?
神器から発生したものならば、たとえ衝撃などの二次被害であってもリゼヴィムには届かない。
つまり
リゼヴィムが苛立ちに歯を噛み締める。なんだこれは。
ああ、とリゼヴィムは強く拳を握った。思考は終着点を見出せず、
「
無表情で何も語らない女の様子が、リゼヴィムの脳内を駆け巡る。リゼヴィムの脳内の女は、何に対しても無駄なことばかりしてた。そのはずだ。だが、はたしてそれは本当に無駄なことだったのか。そのなかに、いくつかの何かを仕組んでいるのではないか。リゼヴィムの疑心は止まらない。リゼヴィムの疑問は止まらない。
そうだ。リゼヴィムは思う。よくよく考えてみれば、
彼はそれらを偶然と切って捨てていた。
間違いない。リゼヴィムは確信する。
それはつまり、
中級悪魔昇格試験の結果も、かつてあった敗北ばかりの歴史も、もしかしたら彼女の両親のことですら、すべてリゼヴィムにした何かのための布石かもしれない。
リゼヴィムの中でどんどんピースが嵌っていく。嫌な予感が膨れ上がる。何かされたのは間違いないのに、何をされたのか分からない。それがあまりにも致命的すぎる。リゼヴィムは
どうする――リゼヴィムは考える。リゼヴィムの選択肢は二つ。このまま赤龍帝の元まで行くか、それとも引き返すか。リゼヴィムにとってはどちらもしたくあり、どちらもしたくない。進むも地獄、退くも地獄。進むなら本命の何かにおびえ続けることとなり、退くのなら本命の何かにぶつかることになる。
「どうするべきかねぇ……」
正直に言えば、リゼヴィムは自身が殺されても、状況は悪くはなるが最悪ではないと思っている。彼が死んでもはるかに強いリリスや、アジ・ダハーカなどの邪龍がいるうえ、さらにはリゼヴィムの死をトリガーとした彼自身の本命もある。あるが、しかしここで大丈夫だろうと断じる強さを、リゼヴィムは持ち合わせていなかった。
リリスは強いがそれだけであり、搦め手を使われるとどうにも難しい。邪龍だと
どうすればいい? リゼヴィムは考える。
「めんどくせぇ。もういいや」
そう呟くとともに思考を投げ出した。その顔にはニヤニヤとしたいつもどおりの笑みが浮かんでいる。へらへらと嘲るような笑みが浮かんでいる。考えたってしかたないならば、考えなければいいのだ。リゼヴィムが思いついた対策は単純。罠も工夫も策も、何もかも一切を無視して粉砕する。リゼヴィムもリリスも、それを為すだけの力がある。
ならばあとは簡単なことだ。リゼヴィムは進むか戻るかを選べばいい。難しいことを考えず、勝手気ままに、いつもどおりに。もう、罠にかかろうがどうなろうが、なんでもいいのだから。来たモノを粉砕するだけでいいのだから、悩む必要などない。
――そうだ、これが俺だ。余裕を持って、嘲笑を浮かべ、愉しげに煽る。それこそがリゼヴィムなのだ。彼はそう思い、またも笑う。さあどうしよう。ああ、せっかくだ。リリスに任せるのもいいかもしれない。行こうが退こうが、どっちでもいいのだから。
「なあどうするよリリ――」
そう思って振り返った先。リゼヴィムは
★
なんだろうこれ。消えたと思ったおっさんと幼女がなんか屋敷に居たんだけど。もしかしてライザーの知り合いだったりしたのだろうか。やべえ。殴っちゃったんだけど大丈夫かな。死んでないっていうか攻撃が効いてなかったから多分大丈夫だとは思うけど。
ていうかなんだこいつら。なんか窓壊れてんだけど。ちょっとこれどうしてくれんだ。そんなに玄関から入るのがいやだったのか。いやまあ確かにそれでレイヴェルとかに見つかったら説教されそうだけどそうやって壊したらもっと怒られるに決まってんだろ。こいつら馬鹿なのか? ……いやまてよ? そういう趣味とか性的嗜好があるかもしれないのか。……うわあ。ないわあ。
そういう説教プレイはライザーで考えたらこみ上げてくるものがあるけど、でもやっぱりオードソックスな普通のセック●には及ばないと思うんだよね。考えてみろよ。普通にずぽずぽとされてめっちゃきもちいいのと、ずぽずぽされながら「大体お前は勉強しなさすぎなんだ」とか「少しぐらい我慢できないのか」とか言われながらするのじゃ……あれ? 説教プレイいいな。
やばい。すごいぞ説教プレイ。なにがいいってお仕置きと称してできるってのが何よりいいし、あと言葉責めも正直俺好きだわ。萎えるかと思ったけど全然オッケー。むしろばっちこい。いやはや。俺ってエムだったのか。いや気持ちいいならなんでもいいんだけどさ。うん。
俺を心配して言ってくれてるから無視することもできなくて、でもセック●もしてるからずっと気持ちよくて、その中で必死に快楽に流されないように言葉に耳を傾けるんだけど、どうしても我慢できなくて。それで「ちゃんと聞いてるのか」とか「説教中なのによがるな」とか言われてどうしようもなくなって、「なんてやつだ。お仕置きだ」ってなって……。
やべえわ。最高だわ。クールだわ。こんなプレイ思いつくとかこいつら天才なんじゃね? おっさんと幼女とかいう犯罪的な組み合わせの癖にすげえわ。人は見かけによらないってほんとなんだな。ただの変なやつかと思ったけど最高だわ。
そういえば俺って試験とかそこらへん駄目だったし、これ説教理由になるんじゃね? ライザーがそれを理由にお仕置きとして俺を犯して、全問正解するまで焦らされたり逆に逝かされまくったりして、でもそんなことされてるから正答とかできるはずもなくて明日もまたやるからなみたいな。みたいな!
そうと決まればおっさんたち早く帰れ。そうしたらすぐにでも説教プレイ始めてくれて構わないのに。朝から晩までどころか一日中だって頑張るからチン●ぶちこんでくれないかなあ。俺の体の隅から隅まで白濁で汚してくれないかなあ。
あ、でも最初の一回ぐらいは普通のセック●したいな。あれだよあれ。ピロートークやりたい。まあ喋るの大変なんだけどさ。俺の経験って最初のレイプまがいのしかないからやっぱりちょっとそういうのに憧れるんだよね。ちょっとだけだけど。
あれ? いやでも待てよ。最初にハードなのを経験して疲労の残ったあとでゆったりとしたスローセック●とかもいいんじゃね? うん。悪くないかも。全身でライザーを感じるのもいいし、中でしっかりとライザーの形を覚えるっているのもいいし。
うん。うん。いいなこれ。カモンライザー!
「とりあえず死んどけよ」
……うん? あれ。なんか何も見えなくなったと思ったら全身吹き飛ばされてる。なんで? いやまあ答えは目の前のおっさんしかありえないんだけどさ。てかこいつらライザーの知り合いじゃなかったの? まじか。どうしよう。
「チッ、再生出来ないはずの威力だったんだけどなっ」
何言ってんだこいつ。全身吹き飛ばされて再生もなにもあるわけねえだろ。魔人ブウの倒し方も知らんのか。まあ俺の場合再生じゃないから細胞一つ残らず消しても生き返るんだけど。ライザーとかはどうなんだろ。半身ぐらいなら普通に復活してたと思うんだけど。
いやまじなんなのこのおっさん。めっちゃ魔法放ってくるんだけど。おかげで屋敷がものすごい勢いで崩壊していってる。なんの嫌がらせだ。これ何故かおれのせいになったりするんだからな。説教されて……うん。やっぱ俺の責任だわ。お仕置きは受けなきゃね。うん。
でもなんだこれ。というかライザーはなんで固まってんの? これ正直ライザーがくらったらやばくない? そういう意味でもいい加減魔法がうっとうしいんだけど。とりあえず
近づいて殴る。やっぱり効いてない。羽で殴られて吹っ飛ばされる。ついでに全身がはじけ飛ぶ。まあ復活するけど。なんだこれ。俺の攻撃はおっさんに効かないし、おっさんの攻撃も俺に効かないから千日手みたいなことになってんだけど。むしろのれんに腕押しかな。
どうしよう。正直もうめんどくさいからライザーとセック●したいんだけど。いやまあセック●はいつでもしたいんだけど。なんでおっさん諦めないかな。俺はもう諦めたんだし、いい加減おっさんもやめろよ。屋敷もう跡形もないんだけど。青姦しろってか。……いやまあそれもいいけど。
そういえばユーベルーナとかは屋敷にいたはずだけどどうなってるんだろうか。ちょっと倒壊しただけだし、おっさんの魔法に当たったりしなければ大丈夫だと思うんだけど。うーん。まあ多分大丈夫かな。うん。
まあそんなことよりおっさん殺す方法考えないと。
「……はっ、俺は一体何を」
あ、ライザー復活した。
★
超越者たるリゼヴィムの戦闘能力は非常に高い。当然ながら、未だ若手のライザーをはるかに上回る強さがある。彼自身、殺戮に躊躇するような性格でもない。だが、リゼヴィムはライザーを襲えなかった。
ライザーの姿を目に映し、屋敷に突入したリゼヴィムは、
ふらり、ふらり。熱に浮かされたような足取りで、リリスがライザーへと向かっていったからである。
そこで初めて、リゼヴィムは
どうやったかはリゼヴィムには分からない。無限の片割れ、半分になってなお世界最強の座に位置するリリスになにをどうやって干渉したのか。純粋なただの力である状態ならまだ分かる。その状態ならば、僅かな方向性を与えるだけでいい。それはリゼヴィムがリリスを創ったときもそうであるからだ。
だが、人格を与えられ、力の塊となったリリスを、一体どうやって揺さぶったのか。絵の具で海の色を変えるような異業を、いったいどうやって成し遂げたのか。
そこでリゼヴィムは思考を打ち切った。そんなことを考えても意味がないからだ。リリスの様子は尋常ではない。どうにかする必要があった。リゼヴィムにとって、いまここでリリスを失うのはあまりに痛すぎるからだ。
だから、元凶を断とうとリゼヴィムは戻った。それこそが
ライザーを見た途端にそちらに向かうリリスを見て、リゼヴィムはようやく理解したのだ。リリスの視線の先が、
(リリスに俺を裏切らせることかよ。くそが。的確に嫌なことしてきやがって)
必要だったのは元を断つのではなく、ライザーを殺すこと。だが、リリスがライザーについた以上、リゼヴィムがライザーを殺すのは不可能といっていい。リリスがそれほどまでに強いからである。
リリスはじいっと目の前のライザーを見上げている。意味不明の状況にライザーは混乱し、思考を放棄して固まってしまっている。リリスはリゼヴィムから背を向けているが、それでもライザーを殺せない。
リゼヴィムが強く拳を握り締める。苛立ち、怒り、焦り。様々な感情がリゼヴィムの心を駆け巡る。そんな彼を馬鹿にするかのように、ゆっくりとドアが開かれた。そこにいたのは、
「……よう」
その言葉はリゼヴィムの精一杯の虚勢だった。彼に余裕などない。切り札を奪われ残るは奥の手のみ。しかしその奥の手は自らが死なないと発動できないのだからどうしようもない。リゼヴィムにはもうほとんど何も残っていなかった。
「まったく、やられたぜおい。裏切らせようとしたら裏切らせるなんて、もしかして意識返しのつもりか?」
リゼヴィムのいつもの軽口が、どうにも重い。そんな彼の言葉に、
「だんまりなんてひでえなあ。あ、そうそう聞いときたいんだけどさ。リリスちゃんをどうやってたぶらかしたのさ。簡単にできるようなことじゃないはずなんだけどよう」
「あ、もしかして企業秘密ってやつ? 特許申請中とかそんな感じ? 大丈夫だって誰にも言わないから。ちょっとだけ教えてくれよ」
リゼヴィムが何を言おうとも、
「んーまあ仕方ないか。答えたくないなら。そりゃあ秘密にしたいよなあ。俺だってわかんないことだもん。あ、でもちょっと一つだけお願いしてもいいか? いや、ちょっとだけなんだけどさ――」
「とりあえず死んどけよ」
言葉と同時に、リゼヴィムが翼を開く。六対十二枚の強大な翼が、跡形も残らず
「チッ、再生出来ないはずの威力だったんだけどなっ」
殺し、殺し、殺して殺し。しかし消耗した様子もなく復活する
何度攻撃を繰り返しただろう。リゼヴィムが気がついたとき、ライザーもまた硬直が解けていた。そして魔法を放たれる
「……あーあ」
これはだめだとリゼヴィムは確信した。直後、リリスから放たれたのは、どこで覚えたのか、強力な封印の魔法だった。
ああ、だめだ。これは逃げられない。当然防御も意味を成さない。リゼヴィムは一目で理解した。そして、せめてもの抵抗に自らの持つ異様なほどの魔力をかき集め、そして――
★
目の前にいる少女を見つめて、ライザーはどうしようもなく胃が痛くなるのを感じた。少女の姿は、どこからどうみてもテロリスト集団、
――どうしてこうなった。
これからのことを考えて、思わずライザーは引きこもりたくなった。
主人公を策士と勘違いする節穴リゼウィム。筆が乗りました。
そういえば感想で蛇の使い道を多くの方がオーフィスにとおっしゃっていましたが、最初からリリスに使用する予定でした。生まれたばかりで自我がひどく薄いのであっさりと蛇の媚毒にやられた、という設定です。ちなみに最後の封印術はリリスが見たであろうトライヘキサのものです。主人公パワーが蛇を通じて僅かに乗り移りました。
あとごめんねライザー。