ハイスクールD×D 満たされぬ欲に狂う者   作:山北深夜

2 / 26
プロット書こうとしたらこれ書いてました。無意識って凄い!
でも主人公の名前が決まらない。


二話

 ライザー・フェニックスにとって空繰人形(パペット)と呼ばれる下僕はどのような存在であるか。そう問われると、彼は答えるだろう。あれは有能な下僕であると。その言葉自体に偽りはない。ライザーは間違いなく彼女を有能であるとみている。しかし、もし彼の心の内全てを、彼女に抱いている感情の全てを言葉にするのなら――。

 

 果たして、そこに信用の言葉はあれど、信頼の言葉はあるのだろうか。

 

 彼女に心なんてものはない。ライザーはそう確信している。忠誠心に厚いだとか、そんな世間の評価をライザーはありえないときって捨てる。心がないから忠誠心がない。忠誠が厚いだなんて、そもそもの前提が間違っている。

 

 確かに下僕としては模範的だ。その行動は、評価されるだけあって一兵士としては素晴らしい。だが理想的とは言い難い。あれは単に、あれ自身の役割を果たしているだけにすぎず、つまり独りよがりでしかない。自分の味方のフォローをしているわけではなく、ただ己の敵を殲滅しているだけだ。

 

 故に、彼女は頭脳派の者たちに評価されていないし、また罠に対しては基本的に後手に回る。対処できる能力があるために罠で敗れることは滅多にないが、問題は罠にかかっていることだ。それも、二度同じ罠にかかることなどざらにある。

 

 あれではまるで、機械のようだ。

 

 融通が効かず、特定のパターン以外の反応ができず、想定外に対する対処は常に遅れる。対処法を会得しても、パターンなどが少し変われば応用して適応することができない。頭の悪いAIを搭載した人形みたいだ。それもいやに精巧な。

 

 もし心があるのだとしたら、あまりにも頭が悪すぎる。確かに戦闘技能は高いだろう。だが、自らを攻撃させてから、その隙をついて攻撃するなんて、狂っているとしか思えない。確かに治癒力は高いが、どうあがいてもライザーほどではないし、再生能力があるというわけではないのだ。

 

 だから、ライザーは彼女を信頼しない。心ない人形なんて、ここぞというべきで頼るようなものでないと分かっているのだ。その実力は買おう。その行動は買おう。応じた信用はしよう。応じた使用はしよう。だが、それだけだ。彼女はエース足りえても切り札足りえない。最後まで使われても、最後まで隠されることはない。

 

 間違いなく有能で、間違いなく優秀で、だが天才足りえない。応用の効かない機械なんて、融通の効かない人形なんてそんなものだ。

 

 どれほどライザーの役に立とうと、しょせん操り人形でしかない彼女が、空っぽの、まさしく空繰人形でしかない彼女が、真の意味で信頼されることなんて、あるはずがない。おもちゃを信頼するほど、ライザーは馬鹿ではない。

 

 ライザーのことを慕っているのなら、恨んでいるのなら、そこを煽ってしまうなりして、いくらでもどうとでもなるだろう。だが、ライザーに対し、主という記号以外の認識をしていない彼女は、心がない彼女には、どうしようもない。

 

 だから、ライザーは彼女の心を作ろうとしている。あれほどの有能さだ。果たして心をえれば、どこまで優秀になるのだろうか。あの動かない表情が、あの響くことのない言葉が、どのようなものであるか。

 

 ライザー・フェニックスの楽しみの一つは、それである。

 

 だから、意味なく彼女の頭を撫で、意味なく彼女に話しかける。まず、彼女の表情を崩すために、ライザーはまるで子供を相手にするかのように彼女に接する。心が壊れた者と同じように扱う。

 

 もしかしたら、心は生まれないかもしれない。どころか、できない確率の方が高いであろう。けれど、やはり悪魔というものは欲深いのだ。やらないわけにはいけない。

 

 ああ、とライザーは考える。もし彼女に心が生まれたら、もし彼女が言葉を発したら、もし彼女が表情を変えたのなら。

 

 ――もう一度、彼女を犯してみるのもいいかもしれない。

 

 いくら具合がよくても、人形相手に腰を振るのはあまりに滑稽な姿だろうが、人形でないのなら問題ない。心ある彼女が、ライザーの技にどのような声を上げ、どのような顔をするのだろうか。

 

 楽しみだ、とライザーは笑った。

 

 彼がドラゴン恐怖症に陥る、何年も前のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日未明誘拐ナウな状況下。はたしていったい何が起こったんだ。いやわかるけどね。なんか屋敷に武装した奴らがたくさん来て、どうせ敵だろうと戦ってたんだけど普通に対策とられてやられました。で、ここはどこだろうというわけである。

 

 俺にはライザーの引きこもりを治して犯してもらうという大事な大事な使命があるというのに、困ったものである。というか前世には一度も経験したことない誘拐が今世で二回目とかどうよ。ちなみに性行為は前世今世あわせて一回なので、誘拐経験の方が上回ってしまった。ふざけんな死ね。はよ俺を押し倒せライザー。千倍くらいに塗り替えろ。

 

 誘拐犯どもは俺が目を覚ましたことに気づいて何か言っているが、どうでもいい。力入んないし神器使おうとしたけどなんか封じられてるっぽい。なんだこいつら。俺を犯すつもりか。バッチコイ、と言いたいところだけれど、正直前世男としてのあれがあるので一度ヤられたライザーには吹っ切れるんだが他はどうもなあ……。

 

 そもそもライザーは結構遊んでそうだから上手いけど、どっからどう見ても童貞な誘拐犯どもが上手いなんてあるはずがない。俺も初めてのオナニ●は加減わかんなくて結構痛かったし。何回もやってようやく達することはできるようになったが、ライザーには到底及ばない。つまり、こいつら絶対痛くするよね、ということである。

 

 いや、別に痛いのはいいんだけどね? なんか怪我とかすぐ治るし。悪魔って凄い。でもさ、気持ちよくないのは駄目だろ。俺が満足するできになるのかこの童貞どもが。

 

 そんな悪態を心の中でついていたら、奴らの一人が俺の方へ近寄ってきた。その手に何かを持っているようで、目を向ければ何かの液体が入った注射器がある。

 

 まさかあれは……媚薬!? え、ちょ、なにそれ困る。たしか同人誌みたいな媚薬なんて現実には存在しないわけで、つまり何かって言うとヘロインだとかのガチな奴しかないわけで、どう考えても依存症だとか後遺症だとかいろいろ障害が残るんじゃないだろうか。俺は気持ちよければ何でもいいみたいなスタンスをとってるわけではないのだ、後からのこととかそういうことも考えようと努力もしているし、なんかこう、どうにかなるようなことは嫌だっていう自覚もあるし。ちょい待ってほんと待って困る、まじ困る。てかガチ薬物は駄目だろ常識的に考えて。いくら悪魔が頑丈だったり治癒力高いとしても薬が効かないとかそんな描写なんて知らないわけで、ってかふざけんなよ。お前らみたいな快楽しか求めないやつのせいで人生とかそういうのを破壊された奴だっているんだぞ。そういう犯罪ってのは同人誌だから許されるもので現実でそんなことすればモラルだとか道徳だとかなんかいろいろな人道かなんかに反するんだぞ。確かに童貞だから気持ちよくなれないとかそんなことを思ったけどそれはないだろ。あれはあれだよ、その、ほら、これから風俗とかで頑張って技術を磨いてねみたいなそんなことで決してじゃあ薬使おうみたいなそんなことを推奨しているわけではないのであって、取り敢えず注射器を俺に向けないでおろそう? ね? ほら待とうぜ待って待ってくださいホント謝るから何でもするから待ってホントに待ってこれからの人生お先真っ暗とかホントに嫌だから待て待て待って嫌だ嫌だ来るな来るなやめろ――!

 

 

 ――あっ

 

 

 

 

 

 

 禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライザーと彼女が出会ったのはまだライザーが人間界で契約をとっていたころである。下僕が配ったチラシからなんとなく気が向いたので召喚に応じ、差し出された生け贄の容姿が良かったので食べ、具合がよく、神器の反応もあり、無口無表情というジャンルのコレクションとして良さそうだったために眷属化した。自らの行為に何の反応もなかったことがちょっと悔しかったために自分にだけは反応するように調教しようと思ってはいたが。

 

 けれど、何をしても彼女に反応はなかった。体温はある、怪我をすれば血が出る、ご飯も食べる、排泄もする、睡眠も、瞬きも、呼吸も。生きるために必要な行為はする。けれど、それ以外はしなかった。たまにすることと言えば、ベッドにもぐりこんで、何やら休憩することだが、それは体が幼いために疲れやすいからだろう。

 

 初めこそ、ライザーは彼女は人間を辞めさせられたことから、あるいは知らない相手に処女を散らされたことから、またはほかの要因から心を閉ざしてしまっているのだろうと思っていた。

 

 だが、そうではない。

 

 目が死んでいないのだ。人形のように感情を映さないビーダマのような瞳に、一切の陰がない。

 

 そうして、ようやくレーティングゲームができるようになって、初めて気づいた。

 

 こいつは、心底から人形なのだと。

 

 心なんてものは、はじめから持ち合わせていないのだと。

 

 心なんて持っていないのだから、余計なことをするわけがない。生きるための行いは、人間であったころに親からインプットされたものなのだろう。そうしろと言われたからしているだけにすぎず、つまりそれ以外の行動を知らない。

 

 レーティングゲームの初試合は散々だった。不死身たるライザーが(キング)だったために負けることこそなかったが、彼女の動きはそれは酷いものだった。当然だ。なぜなら彼女にレーティングゲームの時にこうしろ、と教える者はいなかったのだから。

 

 彼女の動きがどうにか形になったころには、十の敗北を経験していた。彼女が素晴らしいと称賛されるころには、数えきれぬほど辛酸をなめさせられていた。彼女が心を得て、理想的な動きができるようになるころには、はたしてどれほどの年月がかかるだろうか。

 

 だが、彼女は確かに成長している。ただの足手まといから、数年足らずで高評価を得るまでになっている。それがしょせん繰り返しによる行動の保存であり、単なるインプットされた行動をアウトプットしてるだけの、心なんてないものだとしても、きっといつか心と変わらないほどのものになるかもしれない。その影響で心が生まれるかもしれない。

 

 ライザーは笑う。

 

 情愛に厚いグレモリー家の長女たるリアスとの婚約も決まった。リアスの情愛は、彼女にいい影響を与えるだろう。感情が芽生えるかもしれないし、もしかしたら心が生まれるかもしれない。リアスならば、あのグレモリーの情愛ならば、彼女のがらんどうな中身に暖かな炎を授けることが出来るかもしれない。

 

 素晴らしい。自分好みな婚約者を得られた。評価の高い下僕を抱えている。その下僕はきっと将来素晴らしい悪魔となるだろう。そうすることで、主たるライザーの評価も相対的にあがる。もしかしたら魔王になることだって夢でなくなるかもしれないのだ。

 

 そんなバラ色の未来を夢想しながら、ライザーは満足げに笑った。

 

 彼が引きこもる、一月ほど前のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、目が覚める。あたりは壊滅、周囲は崩壊、何がなんやらさっぱりである。誘拐されて媚薬(っぽいガチ薬物みたいなの)を打たれそうになったのは覚えている。もしかして打たれたのだろうかと思ったが、体は正常、心も元気、性欲旺盛、欲求不満といつも通りの俺である。もしかしたらアレは媚薬じゃないかもしれない、と冷静になるとそう思う。そもそも誘拐イコール性行為とかそんな考えに至ったのはライザーのせいであるからして、俺は悪くない。責任をとってライザーは俺をファックするといいよ。俺が許可する。

 

 しかし体がだるい。きっと神器とか封印されたときの後遺症かなにかだろうけど物凄く疲れてる。すげえ眠い。けど、瓦礫だらけのなかで眠るというのはどうなんだろうか。寝違えたりしないかな。あとゴツゴツしてるから絶対痛いよね。破片とかそんなんあたりに散らばってるし、傷口に入り込んで膿んだりしたら大変だ。

 

 そもそもここはどこなのだろうか。はよ屋敷かえってライザーを性的に襲いたいんだけど。いやむしろ襲われたいんだけど。ファックミー! 出不精な俺にとって外というものは未知の領域で、そもそも冥界広すぎて位置とか全然把握してないしそんなん覚えるくらいならライザーの一物を模したモノでナニる。違うそうじゃない。俺は帰りたいんだ。だってライザー引きこもってるし、きっと溜まってるだろうから俺で抜いてもらうんだ。

 

 まずいな。どうしても思考が変な方向に逸れる。欲求不満すぎで大変なことになっている。びちゃびちゃだ。じゃない。とにかく帰る方法を探さないと。どうすれば帰れるだろうか。適当に歩けば親切な人にあえるかな。そしてその人は俺とライザーの行為まできっちりエスコートするのだ。やだ。ステキ……!

 

 まあそんなん親切でもなんでもないけどね。ただの変態だろ。知らん少女と知らんイケメンがセック●できるようにエスコート。違和感しかねえよ。せめて意思疎通ぐらいであってほしいわ。いや意思疎通とかステキすぎる。『セックスしようぜライザー!』がきっちり伝わるとか最高だ。アイツなら断らないだろう。そして毎日激しい夜の運動会が開かれるのだ。

 

 まあそんな優しい人どころか人っこ一人見当たりませんけどね。てか俺が意思疎通とか筆談か読心くらいしかないだろう。実は俺ってばものすごく意識したら口を開くことが出来るのだ。おかげでゆっくりだがご飯は食べられる。ただ開くと閉じるしかできないので笑顔とかは作れない。ちなみに瞬きはオートでしてくれる。これは助かる。充血して目が真っ赤にならずに済むし。声はなんか意識して出そうとするとでなくなる。俺の脳内七不思議の一つだ。

 

 しっかし歩き回った方がいいのか待った方がいいのか。たしか迷子になったときって動き回らずその場でじっとしてた方がいいんだっけ? 理由は知らないけど。でもなー。暇だしなー。てかさっきまで疲れてたのにもう大分元気なんだけど。凄いな悪魔。治癒力どころじゃねえぜよ。社畜向きだな。夜遅くまで残業できて回復も早いし丈夫だから無理がきく。最強じゃねえか。いや待て。たしか悪魔に転生するときって死んでも生き返るんだっけ?

 

 つまり。過労死か自殺→悪魔として復活→仕事 の社畜軍団が完成するな。一度の自殺では逃げられない。労働基準法も真っ青だ。さすが悪魔、人を恐怖のどん底に陥れるな。しかもこれのなにが怖いって悪魔だから人権なんてないよね、ご主人様には絶対服従だからねが成立してしまうわけだ。薄給どころか無給かつ無休で働かされることもあるわけだ。絶対はぐれ悪魔大量発生するな、これ。

 

 そんな悪夢のような悪魔のシステムを考えて遊んでいる間にも時間は過ぎ去る。お腹もすいてきた。しまった。そもそも拉致られたのがお昼前だったからお昼ご飯食べてないんだよ。今何時だろう。もしかしたら晩御飯の時間かも知れない。やばいぞ。一食抜くくらいならまだしも今の俺の年齢で二食抜くのはきつい。そもそも俺は小食(というかご飯食べるのが遅いため多く食べられない)だから連続行動時間は短いんだよ。

 

 あ、だめだ。ちょっと性欲が食欲に押されてる。そりゃあ生きるために必要な食欲は圧倒的に強いよなあ……。睡眠欲も同様に強いけど今は関係ない。てか三大欲求っていうけどそれでも二つがずば抜けるよね。二強だよね。超欲求不満な俺でさえ食欲が押すんだから三度の飯より気持ちいいことを優先する奴なんてサキュバスくらいだろ。あいつら性欲と食欲同時に満たせるじゃん。いいね。

 

 あー。しかしお腹すいた。栄養が足りない。特にタンパク質。たくさん噛まなきゃいけないのが多いからあんまり食べてないんだよね。だからライザー。タンパク質として白濁液を与えてもいいんじゃよ? 下のお口にな。

 

「やっと見つけたぞ、俺の下僕。ったく。探させやがって」

 

 ……やべえ。いまめっちゃ(子宮が)きゅんとした。さすがはライザーだ。そのまま俺ルートを突き進んでくれたまえ。俺も立派なエロゲヒロインになるから。でもNTRだけは勘弁な。

 

 てかライザーが眷属引き連れて俺を探してくれたらしい。ライザーの後ろにずらりと揃っている。ちなみに全員戦闘準備ばっちりっぽい。だが残念。敵はすべて壊滅済みなのよね。手間かけさせた罰として俺を凌辱するといいよ。でも先にご飯食べさせてくれると嬉しい。

 

 というか引きこもり治ってんじゃん。誰が治したんだろうか。時間か。時間なのか。……まあいいや。後はドラゴン恐怖症治して俺を襲えば完璧だな。

 

 そういえばあのロリコン集団の目的ってなんだったんだろう? やっぱり強姦?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの下僕がさらわれた。

 

 それを聞いて、ライザーは自らが感じていた羞恥や恐怖といった感情を全て投げ捨てた。ただの元人間に負けたことによるゴシップ。それを見るたびに感じていた劣等感から逃げるために引きこもっていた。だが、そんなことは必要ないと切り捨てる。

 

 すぐにほかの眷属を集めて話を聞く。どのような相手だったか、どのような攻撃をしてきたか、目的は、規模は、様子は。そして、判明する。

 

 それは最近問題となっているむりやり眷属にされた神器持ちのはぐれ悪魔たち。それらが何を思ったかライザーの下僕をさらっていったのである。考えられるのは、彼女の心を壊すなり洗脳なりで眷属化させていると思われたか。ならば目的は救済だろう。

 

「つまり俺に喧嘩を売ったってことだろ?」

 

 彼女はライザーの下僕で、動く理由はそれだけで十分。自らの下僕を勝手にされて引きこったままでいるほど、ライザー・フェニックスは安くない。リアス・グレモリーとの結婚式の一件で彼の評価は落ちはしたが、もともとエリートで、上級悪魔で、名門フェニックス家の三男だ。ライザー自身が落ちぶれたわけでは、決してない。

 

 転移したのだろう魔力をたどる下僕の報告を待ちながら、ライザーは敵の資料を探していた。はぐれ悪魔の情報は彼らを討伐するために基本的にすべての悪魔に伝えられる。その中で神器持ちの者どもを探して、ふと、気づいた。

 

 人数が少ない。

 

 考えれば当然だ。そもそも神器所有者自体があまり多くいるものではない。教会では上層部以外には知られず、悪魔の業と呼ばれるほどだ。そんな少ない神器持ちの中で、さらに悪魔に転生しているもの、と条件がつくならば、それはもうごく少数だ。

 

 彼女自身を捕まえるのは決して難しいことではない。少し搦め手を使えば彼女は簡単に引っかかる。だが、それを力づくで破れるからこそ彼女は評価されているのだ。よほど実力がない限りは、罠にはめても決定打にはならない。

 

 そして、ライザーの知るかぎりの情報では、そんなことをできるはぐれ悪魔はほとんどいない。相手が強くなっていることも、相性が悪かったこともあるかもしれないために、出来ない事ではないと分かるのだが……。

 

 しかし。どうしても違和感が拭えない。

 

「ライザー様! 捕捉しました!」

 

 そんな下僕の声に、ライザーは思考を打ち切った。今考えても仕方のないことである。そんなことより、するべきことがあるのだ。下僕たちはすでに用意を整えている。今すぐにでも戦闘を行えるだろう。

 

「すぐに転移しろ」

 

「了解です!」

 

 その言葉と共に景色が移り変わり――。

 

 目の前に、血の海が広がった。

 

「これは……!」

 

 そこにあっただろう建物は崩壊し、瓦礫の山と化している。そこにいただろう悪魔は全員、強い力で殴られたように倒れふし、ピクりとも動かない。そんな彼らから流れる血液が海となり、地面を赤く染め上げている。

 

 その惨状に下僕全員が構える中、ライザーだけは彼女の姿をとらえていた。血の海の中、瓦礫の山の中、死体の川のなかにおいてなお、その表情が凍りついたように変わらず、ただ一人立ち尽くす彼女を。

 

「やっと見つけたぞ、俺の下僕。ったく。探させやがって」

 

 そうライザーは言う。その言葉に振り向いた彼女の顔が、その瞳が、どことなく喜色を孕んだように思えた。

 

 彼が惨めに敗北した、十数日後のことである。




 正直ライザーって主としてすごい優秀だと思います。妹は除くとして14人の女性から好意を向けられ、しかもそのハーレムをしっかり維持するんですから。

 主人公もその魅力にメロメロです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。