声が出なくなった。これは実に大変なことである。確かに喋れるようになってからもそんなに喋ってなかったけど、それでもやっぱり喋れるっていうのがあるからこそみたいな訳で。
「んー。神器も安定してるし、むしろ馴染んでるし、不具合があるようには思えねえな」
「……まあ後で調べりゃ分かるか。そんなことより、っと。お、もうそろそろ決着か?」
おい、こっち見ろよ。なんでライザーたちの戦い見てんだよ。こんなん見る暇があるなら……っとライザー危ない後ろ後ろ! っと、おお。気づいてた。よしさすがライザー。……あ、いやでも爆発するまでがだいぶ遅くなってる。疲れてるのかな。精神的な限界なのかな。でもまだいけるって、また後ろ!
くそ、主人公強いな。負けんなライザー! そう、そこだ。いけ! やれ! 殺せ! あ、くそ。もう。上、上だって! あ、やばい。まずい、再生が遅い。腕が間に合ってない。やばい……おお!? ナイス! ナイス羽! よく防いだ! よし、よしよし。いけるよ! いけるいける、っては? え、ちょ、なにそれ。まだ変身残してるとかありえねえだろ。ふざけんなおい。あ、あ、あ。あー! あー!
あー……。ライザー負けた……。
「イッセーが勝ったか。余力が尽きるギリギリで勝つなんてあいつらしい。しっかしライザーのほうもありゃあ惜しかったな」
確かに惜しかった。どっちが勝ってもおかしくない戦いだった。ライザーが倒れた後、主人公も倒れてるからね。くそ、ギリギリで勝つとかさすが主人公と言うべきか。でもそこまで追い詰めたライザーだって強いはず……ていうか変身はずるくない? まさか変身することでダメージ回復とかないよね?
うーん。ライザーの自爆って威力結構あると思ったけどそうでもないのかな。見た目は派手だし花火みたいで目を引くんだけど、見掛け倒しなのかそれとも主人公が固いのか。まあ普通に考えれば自爆の威力が弱いわけないんだけどさ。でもアレって自爆っぽい何かだしなあ。
それよりあれって俺にもできるかな。いい加減遠距離攻撃がないとレーティングゲームのとき面倒だしなあ。主人公と戦ってからレーティングゲームしてないけど多分そろそろだし。そもそも自爆が遠距離攻撃かどうかはまあ別として炎飛ばせるようになれば楽だろうなあ。もしできたらフェロモンも飛ばそう。媚薬的な感じのを。大丈夫ライザーにしか使わないから。
しかし卵は出せるのになんで他はできないんだろうね。俺とライザーの性交を望んでいる誰かのせいなのかな。いや誰だよそれ。俺以外にいるのか。まあ卵はありがたいからお礼しなくちゃ。そしてご利益をくれ。もっとくれ。毎日くれ。
そうしたら俺は悪魔をやめて巫女にでもなってやるから。……ん? あれ? もしかしてだけど、そうしたらライザーから離れなきゃならなくなるのか? 巫女だったら神社にいないとダメだよね? じゃあダメだ。やっぱ今のなし。これからも俺は悪魔だから。ライザーの性的な奴隷だから。
というかライザーが俺とセック●してくれるんなら遠距離攻撃とかいらないんだけどなあ。どうしたら致してくれるのかの条件が全く分かんないのよね。全裸特攻は駄目だったし恥ずかしかったし。全裸でベッドに潜り込もうにもライザーって大抵他のやつと寝てるからなあ。二つの意味で。
どうすればいいんだ。くそう。ライザーも察してくれたらいいのに。なんで他のやつとはするくせに俺には手を出さないんだ。仲間はずれか。これがいじめか。なんてことだ。人を追い詰めるのに効果的すぎる。いじめって怖い。
まあそんな冗談はともかく、えーと、なんだっけ? なに考えてたんだっけ? んー、確かライザーと交わる方法みたいなのだったような……。……え? まじで? 俺そんなん思いついてたの? え、ちょ、思い出せ思い出せ。これさえ分かったら後はもう薔薇色の人生なんだよ。
うぐぐ……思い出せない。くそう。これさえ、これさえ分かれば俺はこれからの一生を幸せに生きることができるっていうのに。駄目だ、わからん。どんな方法考えついてたんだ。押し倒せばいいのか? いや駄目だ。多分逃げられる。
……まてよ?
なるほどなるほど、じゃあさっそく訓練を……
「おいおい、ご主人様が負けて帰ってきたってのに慰めの一つもねえのかよ」
ぐりぐりと頭をかいぐられる感触。懐かしい声。燃えるような熱い気配。間違いない。間違えるはずがない。我らが主君のライザーだ。まともな会話は本当に久しぶりの生ライザーだ。ライザーだ。ライザーだ!
うわはははは! なんだこれ。なんだこれ! すごい楽しい。すごく嬉しい。なんだこれ。なんだこれ。へいライザー! へいへいライザー。ライザー本物だぜこのライザー。ライザーセック●しようぜライザー。ライザーピロートークしようぜライザー。
あはははっ! ってあれ? 声出ない。あ、そっかなんか今どうかなってるんだっけ?
「よお、随分と惜しかったな」
おお総督いたっけそうだっけ? そうだそうだ惜しかったねライザー。もう少しだったねライザー。自爆凄かったよライザー。ベッドの上でも凄いのかなライザー。ヘイカモン!
「ふん、例えあと一歩で勝利していたとしても、結果的にその一歩を踏み出したのはイッセーの奴ですからね。そういうことですよ」
まあ相手赤龍帝だからねライザー。神滅具相手だからねライザー。正直な話自爆するとかライザーの正気を疑ったからね。でも自爆良かったよライザー。ロマンだねロマンだねロマンだね! ついでにさらにロマンの14pプレイとかどうよライザー!
「とか言って目はんなこと言ってねえけどな」
お? おおお。やっと
「当然だ。次は間違いなく俺が勝つからな」
「何言ってんだライザー。次も俺が勝たせてもらうぜ」
ライバルかなライザー。主人公のライバルポジションかなライザー。いいねそれなら多分死なないよねライザー。一日中どころか一年中俺とまぐわってても死なないよねライザー。だってライバルだもんねライザー。主人公ハーレムに対抗して乱行しようぜライザー。
「くくっ、いいねえそういうの。おいお前もなんか言えよ
え。あ、そうだった。解けてたんだ解いてたんだ。えっと、何を言えばいいかなライザー。ライザーに伝えたいことかな、いや今の戦いのことかな、それとも今まであったことかなライザー。どれがいいかなライザー。えっと、えっと。
「ライザー」
「ああ」
自爆すごかったかっこよかった、羽もよかった、あと再生も凄かったしいろいろ凄かったし。すごいと言えばそうだ俺卵生だった。胎生かと思ってたらなんか媚薬効果のある卵産んだんだけど、あ、それのせいで寝る時はいつも下半身裸なんだよねそれでライザーを誘おうと思ってて、そうだへび拾ったんだ、レイヴェルにばれたら怒られそうだから内緒で拾って卵食べさせてて
「ライザー」
「ああ」
久しぶりに男に戻ってケフィア噴出させたんだけどやっぱりライザーにしてもらったときが一番いいと思うまあライザーと交わったとき女だったけどそれと警察に子供と思われてチラシ配りができなくてでも契約はいくつかできたしお得意さんもあるし、あ、悪魔文字もちゃんと覚えたと思うけど勉強してないからよく分かんなくて、でも頑張って覚えたし
「ライザー」
「ああ」
あ、そうだ俺も自爆したい、あと遠距離攻撃したい、フェロモンとか炎とかでもライザーがやってくれるならしなくていいよ、そうだあれで思いついたんだけど炎って個体みたいに凝縮できるのかなそれともやっぱり無理かなできたら面白そうなんだけどでも扱い難しそうだね
「ライザー」
「ああ」
うわっはっはっは。なんだこれ、なんだこれ。どんどんなんかいろいろ出てくるぞおい。何を言っていいか分かんねー、何を言えばいいか分かんねー、何もかも言いたいけど何もかも出てこない。なんだこれ。さっぱり分かんねー。やべえ超楽しい。何を言おう。何を言おう。
何か言わなきゃいけないかな。何も言わなきゃいいのかな。いやでも言いたい。でも言えない。これはやばいなライザー。これは楽しいなライザー。これが有名なあれか。これが噂のあれか。言葉が出てこないってこういうことか。溢れすぎて出てこないのか。正直溢れるなら精●がいいけどでも積もるのは出てこない言葉ばっかりだよライザー。
「ライザー、ライザー、ライザー、ライザー」
「ああ」
駄目だこれ。やばいわこれ。今ちょっと興奮しすぎて多分声でねえわ。いや出てるけど言葉が出ねえわ。どうしようもないね。落ち着くまで待てばいいのかなライザー。それとも無理やりまとめていったほうがいいかなライザー。あといつまで頭撫でるのさライザー。いやいくらでも撫でていいけど、どうせなら下腹部も撫でてほしいなライザー。
「ライザー、ライザー、ライザー、ライザー、ライザー」
「……少し、落ち着いてから話せ」
うわっはー。とまんねえー。
★
研究室、というよりは怪しい実験室というような不気味な暗い部屋だった。いくつもの資料が並べられ、いくつもの写真がそこらに貼られ、いくつもの器具が散乱している。そんな部屋の中央、一人椅子に座る男がいた。
アザゼルである。彼は眉間にしわを寄せながら、しかしその顔に笑みを浮かべ、一つの資料とにらめっこしていた。
ライザーとイッセーの戦いのあと、アザゼルは
例えば
アザゼルでさえ、人工神器の
これでは、
圧倒的な才能はヴァーリが持っている。理外の理はイッセーが持っている。片方だけでも凄まじい存在だ。両者ともたった一人で戦局をひっくり返すほどの強者だ。ヴァーリの才能は、イッセーの理外は、それほどまでのものだ。それほどまでのものなのだ。
それに肉迫する
幸いなのは才能はヴァーリより有さず、理はイッセーより外れていないことだった。肉迫してはいるが超えられない。負けず、劣らず、しかし勝てない。もし同等以上であったなら、果たしてアザゼルのつくった人工神器はどうなっていたのだろうか。
「ああ、くそ。それもちょっと気になるな」
そう言いながら、アザゼルは資料から目を離さなかった。腑に落ちない点はまだあった。
暗い部屋に窓はなく、朝日が昇ったことさえ、アザゼルは気づかなかった。
★
気がついたら眠ってた。と思ったら物凄い勢いで起こされた。
「おい! おい! なんだこれは! なんなんだこの腹は! どうした!? 病気か!? 大丈夫か!?」
なんかめっちゃライザー慌ててんだけど。むしろお前がどうした。なんだ? 興奮したの? 朝勃ちを処理すればいいの? よっしゃまかせろ。すぐにでも治めてやんよ。
とりあえずまあどうしたんだライザーと声を出そうとして、総督に
てか本当にどうしたんだライザー。ちょっと慌てすぎじゃなかろうか。
「痛み、痛みはないのか!? 待ってろよ、すぐ医者を呼ぶからな!」
お前が待て。部屋から出て行こうとしたので、異様に慌てているライザーの腕を掴む。ってここ家か。帰ってたのか。いつの間に……って普通に寝てる間だよね。
しかしなんでライザー慌ててんだろ。首を傾げてると、どうやらライザーも少しは落ち着いたようだった。
「お前、その腹どうしたんだ?」
ライザーに言われて気づく。そういやライザーってこのこと知らなかったよね。まあせっかくだ。ライザーの腕を握ったままゆっくりと息を整え、下腹部に力を込めて行く。もちろんひっひっふーの呼吸である。
快楽と僅かな痛みが体に走る。思わずライザーの腕を強く握るが、ライザーは声ひとつ漏らさず、逆にもう一方の手で俺の手を柔らかく包み込み、しっかりと握り返してきた。お返しにさらに力を込め、歯を食いしばってお腹に力を入れる。
直後、強烈な圧迫感と解放感でふっと力が抜けた。ごろりと股から球体が出てくる感覚。どうやら今日も俺は卵を産んだらしい。というか下履いてるせいで、いろいろとびちょびちょなんだけど。だから寝るときは履いてないのに。もう。
ライザーの腕を離し、パンツを脱いで卵を取り出す。……ってあれ? ライザーが固まっている。どうしたんだろうか。
「む……」
む?
「娘なら、ソフィアという名はどうだろうか……」
これ無精卵だよライザー。口調おかしいよライザー。俺は妊娠したこともないよライザー。これからさせてもいいけどね? むしろ大歓迎です。
とりあえず卵はライザーに預け、服を脱ぎシャワーを浴びて戻ると、ライザーは卵を大事そうに抱きかかえていた。というか多分暖めてる。ちなみに俺は裸であり、なんか間違いでも起きそうな感じではあるが、なんだこのシチュエーション。そうじゃねえよ。
まあいいや。悪魔文字覚えたんだしそれでちょっと教えればいいだろ。えっと『それは無精卵』……無精卵ってどう書くんだ。普通こんな単語使わねえよ分かるわけねえよ。……どうしよう。
ていうかなんでライザーは俺が卵生であることに突っ込まないの? 確かフェニックス家も胎生だったよね? どう考えてもおかしいって分かるよね? くっそ、変なところで勘を鈍らせやがって。
……ん? そういえば今ならライザーに卵食わせられるんじゃね? そして湧き上がる性欲を我慢できずライザーは手近にいた俺を貪る……うん。よし、多分卵割って中身浴びせるだけでもいけるしヤレる。いまならヤレる。そしてヤられる!
覚悟しろライザー!
「……やはり息子ならアルベルトがいい名前だ」
ライザーの近くまで寄ったときだった。視界の隅に映った一筋の影。ほんの数瞬の間、ライザーに危害が加わらないように準備したその僅かな隙間を縫うようにして、それはライザーが持っていた卵を呑み込んだ。直後、するりと物陰へと入り込みその姿を消す。
しかし俺はその姿を見ていた。っていうかへびがやってた。くそっ! なんでチャンスタイムでそんなことしてくんだよおい! お前昨日まで卵砕いて皮膚で吸収させないと食わなかっただろうが! 変な能力を今開花させてんじゃねえよ!
「な、消え……!?」
突然消えた卵をライザーがキョロキョロとして探している。見当たるわけないよね。だってもうないもん。
「あ。あ……す、すまん……俺の不注意で、お前の子が……」
だから無精卵だって!
「お前の子が……子が……? お前卵生だったのか!?」
遅えよもう!
どうにかこうにかライザーが落ち着き、冷静な思考力を持って俺にイエスノーで答えられる質問をして、ようやく卵が無精卵であると突き止めた。遅えよ。
「あんなことがあるなら事前に言ってくれればいいものを……くそ、からかわれたか」
まあ確かに驚くよね。卵生だもんね。っていうか俺って妊娠したらどうなるんだろ。やっぱり卵孕むのかな。
そういえばライザーは仕事とかどうしたんだろうか。サボり?
「ん……? ああ、そうだった。お前にこれを届けに来たんだ」
そうしてライザーが差し出したのは赤黒いスライム、
「それで、
おお! あのわけ分からんのにもちゃんと能力あったのか!
「声を媒介として使う何かに対し、媒介にするための声を復活させる能力だそうだ。簡単に言えばプロモーションとかが出来るようになると言っていた」
なるほど。わからん。
「まあ、つまりこれからは詠唱が必要なことができるようになったってことだな」
ふむ。うん。さっぱりなんだけど。詠唱が必要なものってなんやねん。
そういえばもう投稿から1年が経ちます。まあ記念とかそんなんないんですけど。