ハイスクールD×D 満たされぬ欲に狂う者   作:山北深夜

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 二ヶ月ぶりの更新です。

 ……いやほんとすいません。どうにか時間見つけて頑張りますので許してください。


十五話

 卵のおかげでテンションはもうだだ上がり。早くライザー帰ってこないかな、と待つこと実に三日間。そう三日間。……うん。なんかライザーが帰ってこないんだけど。え? なに? なんなの? 家出? もう成人してるのに?

 

 いやそうじゃない。家出とかそんなのは問題じゃない。問題はライザーが帰ってこないと卵が食べさせられないということなんだけど。つまり卵で発情させてライザーとヤることが出来ないということである。どうすりゃいいんだ。

 

 ……もしかして俺のやろうとしてることに気づいたとか? いやでもなあ。卵のこと知ってるの総督ぐらいだし。イルとネルは寝てる間に食わせたから気づいてないだろうしなあ。というか知ってたとしても拒否する理由なくね? 生理的嫌悪だったら泣きわめく。

 

 あ、それともあれか。主導権握りたいから卵を食べたくないみたいな? じゃあどうやって卵の存在を……ってまさか総督がライザーに知らせた? いやでもそんなことする必要も意味もないよな? ……いや、まさか俺への嫌がらせのためだけに、とか? ……うわあ。ありえる。

 

 くそう。まさかのここで総督の裏切りが発生するとは思わなかった。総督は味方だと思ってたのに……。次あったら覚えていろよ。闇の惑星(ダークネス・リグル・プラネット)の底力を見せてやる。

 

 みたいにライザーへの欲情と総督への殺意をぐるぐると湧き上がらせながら歩く。と、向こうからレイヴェルがやってくるのが見えた。……そう言えばレイヴェルにライザーの居場所を聞いてなかった。レイヴェルならライザーの居場所を知ってるかもしれない。

 

 というわけでレイヴェルの行く先を遮るようにして立つ。

 

「あら? どうしましたの?」

 

 と、やはりレイヴェルが声をかけて来た。なぜ俺から話さないかと言うと、レイヴェルの発音が難しすぎて『れーべう』みたいなことになるからである。一回それで呼んだら怒られた。総督の王子の生き血(リバース・ボイス)が悪いのであって俺は悪くない。

 

 まあそんなことは今関係のある話じゃないからさておいて。問題はライザーの居場所である。

 

「ライザー」

 

「お兄様? お兄様は今修行をしていると聞きましたわよ?」

 

 レイヴェルの良いところは一言で色々察してくれるところである。まじ便利。あ、違う。有能。レイヴェルまじ有能。

 

 ……って、ん?

 

「しゅぎょー?」

 

 修行ってなんだ。なんの修行だ。俺の方が強いからいたたまれなくなったんだろうか。いやでも正直ライザーの強さとかどうでもいいんだけど。ヤってくれればそれで。うん。

 

「ええ。なにやらトラウマを治すためだとか」

 

 ……え? なに? ライザーのドラゴン恐怖症まだ治ってなかったの? あれから結構時間経ったと思ったんだけど。いや確かにトラウマってそう簡単に拭いされるもんじゃないってのは分かるんだけどさ、でもライザーは主人公と普通に会ってたじゃん。まさかやせ我慢してたの? なにその根性。そんなんあるなら俺を押し倒せよ。

 

 いやもうそんなんどうでもいいから――いや俺を押し倒すのはどうでもよくない――帰ってこいよ。ライザーの一人や二人くらい俺が守ってやるからさ。というかライザー不死身なんだから大丈夫だって。

 

 媚薬効果のある卵とかいう無駄に現実的に性行為を行える道具を手に入れられたせいで色々溢れちゃってんだよこっちは。期待とか情欲とか涎とか。なんでここで御預け喰らわなきゃなんねえんだよ。

 

 ってことでライザーを迎えに行って出来れば卵を食わせよう。そしていちゃこらあはんうふんやろう。へいレイヴェル。ライザーはどこだい?

 

「そういえば、私貴女に用がありましたの」

 

 と、聞こうとするまえにレイヴェルが口を開いた。基本俺って喋ろうとすると口挟まれること多いよね。仕方ないけど。

 

 しかしレイヴェルの用事ってなんだろうか。卵の殻はまだ使えるから持ってるし、屋敷を壊したことはもう十分叱られたから多分違う。……んー。わかんね。まあなんでもいいや。多分叱られることじゃないし。

 

「貴女――喋れるようになったのなら、契約をとってみるのはどうでしょう」

 

 契約――つまりあれである。チラシを渡して呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんって奴である。まあ俺下級悪魔だからね。そりゃあそういう積み重ねはいるかもしれないけど、ぶっちゃけ面倒だし興味ないし。

 

「中級悪魔への昇格のために、貴女はそういった実績が必要でしょうし、貴女にとっても良い経験となるでしょう」

 

 うん。そういうのはライザーに言うといいと思うからライザーの場所を教えて欲しいんだけど。大丈夫。その話し合いの前にちょっと濡れ場挟むけどすぐ終わるから。ちょっと数時間待つくらいで終わるから。

 

「今お兄様もドラゴン恐怖症を治すために頑張っていることでしょうし、その間に下僕悪魔たる貴女も何らかの実績を残すことは決して悪いことではありませんわ」

 

 ……いや、正直やりたくない。契約とかあれじゃん。チラシ配って願い叶えてってやつだけどさ、明らかに俺相手だとニッチな欲求ばっか来るだろ。ロリ巨乳とか明らかにもうね、ね。前世の俺なら絶対エロいことする。ライザーならまだしもなんで他の男に触れられなきゃならんのだ。

 

「……あら? そういえば貴女、悪魔文字覚えておりませんよね?」

 

 おお! そういえばそうだった。ってことは仕方ないからこの話はお流れねってことになってじゃあせっかくだからライザーのところへごーとぅーべっど! 来た! よっしゃ! ありがとう怠惰な俺! 面倒だからって覚えなくて良かった! 大勝利!

 

「仕方ありません」

 

 そう、仕方ありません。仕方ないから取り敢えずライザーのところへ行ってちょっと席を外してもらうだけであら不思議。俺のテンションは急上昇というわけである。

 

「せっかくの機会ですし、私がみっちりと教えて差し上げますわ!」

 

 ……え? あれ、ちょっと予定と違うっていうか大分違う。全然違う。待って。ライザーときゃっきゃっいやーんうっふんの流れはどこに行った。なんでここで勉強ルートが解禁されてんだよおい。ていうか文字を覚えるとか無理だから。俺は英語は言わずもがな、最近全然見てないから日本語すらちょっと危うい感じなんだぞ。自分で言うのもなんだけど。

 

 やる気満々に寄って来るレイヴェルからじわじわと距離を取りながら後退する。戦略的撤退である。ここで捕縛された場合なんかいろいろ大変なのでこの逃亡はおかしくないし恥でもない。

 

 正直今すぐ背を向けて逃げ出したいけど、ぶっちゃけ俺いつも神器に頼ってるからパワーはともかく速さはあんまりないんだよなあ……。レイヴェルのが速いかもしれない以上、そう簡単に背は向けられない

 

 ――なんて言うとでも思ったか!

 

 闇の誘惑(ダーク・アブソルート)。引力を発生させて引き寄せるこの神器は、かつて総督に使った時のように、向こうが動かないとこちらが移動するのだ。あとなんか圧倒的な力の差があるときとか。

 

 まあつまり、俺はやろうと思えば重力に従って落下して行くような速度で、その方向に向かって移動できるのだ。羽を使って飛べばもうちょい速い。おかげで速さ要らずである。神器まじ便利。

 

 ただもちろん問題があって、一つは神器の射程範囲が500mくらいだということと、今の俺の力だと、相当大きいものでもないと向こうが引き寄せられるということである。そして今現在、見渡す限り俺が引き寄せられるような大物は存在しない。

 

 ……やっべえ。詰んだわ。

 

 最終手段として『レイヴェルを攻撃する』があるが、流石にそれはちょっと人として、というか悪魔としてもアレだよね? 後からが怖いし、下手すりゃ追いだされてライザーとセクロうスできなくなるかもしれないし。あとしたくない。

 

 つまり俺はこれから地力だけでどうにかレイヴェルから逃げなければならないのだ。それもレイヴェルへの邪魔とかは怪我するかもだからなしで。……どうしよう。どうしようもない気がする。

 

 だがまだ希望はある。それは俺の速度がレイヴェルを上回っていた場合だ。というか充分可能性がある。だって俺の方が強いし。うん。

 

 レイヴェルがまた何か言う前に体を反転させ、全速力で逃げ出す。一拍遅れてレイヴェルの「待ちなさい!」の声。よし、これならレイヴェルを振り切れる。

 

 そう思って振り向いた先、そこにはぐんぐんと俺に迫るレイヴェルの姿が――!

 

 やべえ。詰んだ。というか速すぎだろレイヴェル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の話の途中で逃げ出すとはどういうことですの?」

 

 仕方ないのである。悪魔文字とかいうわけわからんのを覚えるよりもライザーとえろえろしていた方が何百倍も有意義で楽しいことだと思うんだ。

 

 あの後結局もちろん捕まって、何故かレイヴェルが持っていた縄でぐるぐる巻きにされた。どうせならライザーに亀甲縛りしてほしかった。ぐるぐる巻きってなんだ色気の欠片もねえぞ。いやまあレイヴェルに色気見せてどうすんだって話だけどさ。

 

「そもそも貴女は少々ものを知らなさすぎですわよ。普通転生して十年もすれば悪魔文字など覚えていて当然でしょうに」

 

 俺は悪くない。悪魔文字っていうんだから悪魔なら問答無用で読めるようにしてくれなかった転生システムが悪い。なんで悪魔になってまで勉強しないといけないんだ。俺がしたいのは性的な生活なんだってのに。

 

 ぶっちゃけ文字なんか読めなくても生活していけるから覚える必要なんかないだろ。

 

 どうしてもっていうんなら俺が納得できる理由でも用意しろよおらー。

 

「このままでは貴女……お兄様と一緒になれませんわよ?」

 

 ……え?

 

 え、どういうこと? え? え? なに? もしかして悪魔文字覚えないとライザーと一つになれないの? まさか今までことごとく俺の目論見が外れたのってそのせい?

 

 ……まじかよ。悪魔って悪魔文字覚えないと性交しちゃいけねえのかよ。だから人間の時は襲ってきたくせに転生してからライザーは俺に手を出さないのか。あー。なるほどなるほど。そういうことか。……ふざけんな!

 

 なんなんだその意味不明なルールは! そもそもライザーも律儀に守ってんじゃねえよ! どう考えてもおかしいだろ! ていうかそのルール守るんだったら俺に文字覚えさせろよ! そんな事情だったら俺は嫌がらずに勉強してたわ!

 

 あー。もう。なんだったんだ俺の十年は……。ひたすら修行して、ライザーにアピールして、性欲を持て余してそれを一人慰めて……。この全てが無駄だったのかよ!? こんなアホなルール作った奴誰だおい! 何を思って作ったんだ! 死ね!

 

 十年だぞ十年。流石に十年もあれば俺でも悪魔文字を読めるようになるし、というか多分その半分くらいでいける。うん。つまり俺は普通なら今頃ライザーとヤれていたにも関わらず、何故かできていないのだ。どういうことだ。

 

 くっそう。大体ライザーもライザーだ。教えろよそれぐらい。「悪魔文字を覚えてないと悪魔同士の性行為は禁じられているんだごめんねお詫びにセック●しよう」ぐらい言っとけよ。あと教えなかった詫びに犯せよオラァ!

 

 ……落ちつけ俺。今更どうのこうの言っても仕方ない。過去に戻れるわけでも文字を覚えられるわけでも、ましてやライザーとにゃんにゃんできるわけでもない。そう、必要なのは準備だ。悪魔文字を覚え、ライザーとのセック●の用意を果たし、卵を食わせて俺を襲わせる。うん。完璧だ。

 

 ていうかぶっちゃけ卵さえあればライザーは我慢できなくて俺を襲うんじゃね? と思ったけどレイヴェルとかユーベルーナとかが邪魔してきそうだな……。やっぱり悪魔文字を覚えるしかないのか……。

 

「――というわけでまず貴女には契約をとる、そして同時に悪魔文字を覚えられるように頂いたこの端末を使ってもらいますわ」

 

 ……やべえ。レイヴェルの話聞いてなかった。ま、まあどうせアレだよね。ライザーとセック●できないのは仕方ないから取り敢えず契約と勉強頑張ってねってことだよね?

 

「この端末、契約をとる際に契約者の願いに応じた代償を算出してくれるものでして、普段ならその方の読める文字で書かれるのですが、今は悪魔文字で書かれるようになっています。ただ、読めもしない文字を眺めていても意味はないので、文字を読み上げる機能がついており、これで勉強もできるというものですわ!」

 

 よし、当たってた当たってた。端末やらなんやらはよくわかんないけどまあ使っていく内に慣れるだろうし、取り敢えず契約と勉強頑張ればライザーがご褒美をくれる、と。

 

 ふふふ。それさえ分かればオールオッケー。何もないところからなんか強くなった俺にとっては多分悪魔文字くらい余裕で覚えて契約もたくさん取れて、そしてライザーとのセック●フルな日常になることぐらい朝飯前である。

 

 レイヴェルから貰った端末を持って久しぶりかもしれない人間界へれっつらごー。ちなみに、レイヴェルも後から来るらしい。主人公たちの学校に転入するとか。つまり俺は日本へ行くのだ。あと俺の生まれ故郷であるイタリアはエクソシスト多いからなしだとか。……あれ? ライザー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン、というインターホンの音でイッセーは目を覚ます。ここ最近はロキの襲撃、修学旅行の準備などで忙しく、更に自らに課しているトレーニングもあいまってイッセーは疲れていた。時計を見ると早朝の三時ということもあり、居留守を決め込もうと目を閉じる。

 

 ――ピンポーン。

 

 またも鳴るインターホン。

 

(……誰だよ。こんな時間に)

 

 眠ろうとしていた意識がインターホンによって邪魔され、イッセーは僅かに苛立つ。出ようと思ったが、あまりの眠気に体が起き上がろうとしない。リアスたちが起きる前に出なければ、と思ってるうちに扉の開く音が聞こえた。聞こえるのは、母の声。

 

(あ、母さん起きちまったのか……)

 

 母を起こしてしまったという気持ちもあったが、しかしそれ以上に母が出てくれたという気持ちの方が強かった。そのまま、イッセーの意識は邪魔されることなく、夢の世界へと旅立って行った。

 

 

 そして、翌朝。

 

「母さん、夜来てた人ってなんだったんだ?」

 

 朝ごはんを食べながら、イッセーは母に尋ねる。

 

「イッセー……あんた起きてたの?」

 

 イッセーの言葉に、母が非難するような目でイッセーを見る。起きてたならさっさと出ろ、ということだろう。どうやら母も起こされていたようだ。

 

「いや、起きてたっていうか起こされたんだよ」

 

 イッセーが肩をすくめながらそう言うと、ようやく母からの非難の視線がやむ。

 

「……えっと、何があったのかしら?」

 

 そんな二人の様子に、話についていけないリアスが言う。アーシアたちも分かっていないようで、首を傾げている。

 

「ああ、夜中の三時くらいにインターホンが鳴ってたんですよ。で、俺はそれに起こされたってわけです」

 

「あら、そうなの。……何だったんですか?」

 

 イッセーの答えを聞き、納得しながらイッセーの母へと問うリアス。そんなリアスに、イッセーの母は苦笑しながらそれがね、と話しはじめる。

 

「出てみたらちっちゃくて可愛らしい女の子が蕎麦持ってじっとこっち見てて。何かと思ったら近くに引越してきたから挨拶しにきたらしいのよ。外国から来たらしいわ」

 

 外国と日本だと大分常識違うのね、夜に挨拶に来るなんて思わなかったわ、と笑うイッセーの母。

 

「その子のおっぱいはどうだった!?」

 

 可愛らしい女の子という言葉が聞こえた時点で、イッセーは外国と日本の常識とかそんな問題じゃない、というつっこみをのみこんだ。

 

「先輩……」

 

「イッセーさん……」

 

 そんなイッセーにじとっとした目を向ける小猫(ひんにゅう)アーシア(ふにゅう)

 

「あ、や、これは男として仕方ないことであって!」

 

「そうそう! すごかったのよその子! 身長は小猫ちゃんくらいなのにおっぱいはこーんなに大きくて!」

 

 焦るイッセーを無視してイッセーの母は、こーんなに! と腕を広げて楽しそうに話す。

 

「しまった! 俺が出とけば良かったあああっ!!」

 

 おっぱいが大きいという言葉を聞いて、後悔の声を漏らすイッセーに向けられる非難の目が倍増する。慌てて弁明するイッセーを呆れた目で見ながら、イッセーの母はため息をついた。

 

「あんた……リアスさんたちっていう彼女を持ちながらまだ求めるの?」

 

「おっぱいに限界はない!」

 

 何言ってんだこいつ。そんな目でイッセーを見ながら呆れる母。どこか諦観の色も見え、どうしようもないと悟っている様子である。

 

 と、そこへピンポーンとインターホンの音。

 

「お、俺が出る!」

 

 すぐさま立ち上がり、玄関へ走るイッセー。

 

「だ、駄目ですイッセーさん!」

 

 そんな明らかにおっぱい目当てのイッセーを必死で止めようとすがりつくアーシア。しかしアーシアの軽い体重では力の強いイッセーは止められない。あっという間に玄関にたどり着き、その扉を開く――

 

 

 それは、まさしく巨乳であった。

 

 

 ぱんぱんに張り詰めた肉が、フリフリの服をはち切れんばかりに押し広げている。誰がどう見ても、見事なほどに発達した――

 

 

 ――大胸筋であった。

 

「にょ?」

 

「うわあああああぁぁぁっ! 俺のドキドキを返せええええっ!」

 

 可愛らしい魔法少女服に筋肉を詰め込み、一騎当千の佇まい、威風堂々たるその姿、強靭という言葉を体に宿し、純真無垢を瞳に携う。彼こそはイッセーのお得意様、ミルたんである。

 

「ここは悪魔さんのお家だったのかにょ」

 

「そうですよって、知らないで来たんですか?」

 

 投げやりに答えるイッセーにミルたんは付き添いだにょと続ける。

 

「付き添い?」

 

「謝罪のお菓子は何がいいか聞かれたにょ。夜分に失礼したからそのお詫びらしいにょ。ミルたんは心配だったから着いて来たけど悪魔さんのお家なら心配ないにょ。ミルたんは帰るにょ」

 

 そう言ってミルたんは嵐のように去って行った。のっしのっしと帰っていくミルたんの影から表れたのは、ライザーの下僕悪魔、空繰人形(パペット)。ミルたんのその姿を目にしても、変わらぬ表情を……いや、気のせいか冷や汗をかいている。

 

「イッセーあんたいつまで……ってあら、昨日の」

 

 空繰人形(パペット)を目前としたイッセーが何らかのアクションを起こす前に、その母が彼女を見つけ話しかけた。それに対し、空繰人形(パペット)はぺこりと礼をして手に持った菓子折りを差し出す。

 

「えっと、何かしら?」

 

「おわび」

 

「あら、別にそんなのいいのに。ありがとうね」

 

 イッセーの母はにこにことお菓子を受け取った。そしてちっちゃいのにおっきいわねーなんて呑気に笑っている。

 

「いや違うだろ! そうじゃないだろ!」

 

「うるさいわよイッセー」

 

 イッセーの訴えは当たり前のように叩き折られた。

 

「あ、あの! 空繰人形(パペット)さん……ですよね?」

 

 そこでようやく、イッセーに引きずられ、目を回していたアーシアが復活する。アーシアの問いに頷く空繰人形(パペット)

 

「アーシアちゃんお友達?」

 

「え、あ、ええと、知り合いといいますか……」

 

 イッセーの母の問いに微妙な関係のアーシアは答えにつまる。リアスの元婚約者の下僕悪魔というのは、一体なににカテゴライズされるのだろうか。せいぜいが知り合い程度である。

 

「へー。どこで知り合ったの?」

 

「え、ええと……」

 

 どこで、というとリアスとライザーのレーティングゲームの会場であり、悪魔のことを知らないイッセーの母に言えるような場所ではない。とはいえ咄嗟に嘘をつけるほどアーシアは器用でもなく、とにかく戸惑うしかなかった。もちろんイッセーもイッセーでやはり役に立たない。

 

「イタリアですわ。お母様」

 

 と、そこへ救いの手が差し伸べられる。

 

「あら? リアスさんも知り合い?」

 

「ええ。パーティー会場でちょっと」

 

「素敵ねえ……」

 

 パーティーに思いを馳せるイッセーの母。リアスが行くのだから、と豪勢なパーティーを想像している。あながち間違ってはいない。

 

「あの、ありがとうございます」

 

 そんなイッセーの母を尻目に、こっそりとアーシアはリアスにお礼を言う。

 

「いいのよ……それにしても、随分早く来たわね」

 

 どこか呆れたような様子のリアス。まるで空繰人形(パペット)が来ることを知っているかのような物言いにアーシアは首を傾げた。

 

「どういうことですか?」

 

「レイヴェルが駒王学園に来る話はしたわよね?」

 

 はい、と頷くアーシア。

 

「その時、契約を取らせるとかで空繰人形(パペット)も来るって聞いたのよ。まさか彼女がこんなに早く来るとは思ってなかったけど……彼女、成人してるらしいし、理由はそこらへんかしら?」

 

 そう言って目を向けた先、空繰人形(パペット)は既にいなかった。




 主人公はミルたんに会ったときビビって禁手(バランス・ブレイカー)でぶん殴りました。結果、無傷のミルたん。

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