ハイスクールD×D 満たされぬ欲に狂う者   作:山北深夜

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眠ってもなお眠いです。春眠暁を覚えずですね。


十一話

「まさかこんな所で出会うとは思いもしませんでした」

 

 そう言う男、いやストーカー。やっぱり俺のことを知っているらしい。しかし思いもしませんでしたって……つまり、こいつには俺とかの第三者から見つけられない絶対の自信があったってことだ。どんな過信だよおい。魔力全然使えねえ俺なんかに簡単に見つかってんじゃねえか。

 

「しかしどうしましょう。私は様子を見に来ただけなのですが……」

 

 そう言ってストーカーは指を顎に当てる。つーかなんて正直な奴だ。なに覗いてること告白してんだ。普通、例えば女湯を覗くとして第三者に見られたとき『女湯を覗きにきただけだけど?』みたいなことを言える奴なんていないだろう。こんな奴初めてだ。せめて言い訳ぐらいしろや。

 

 まあしかし残念だったなストーカーよ。お前が覗いていることは別にどうでもいいんだけど、ストーカーがストーカーしてる本人に会ったらされることぐらい分かるはずだ。そう。正当防衛という名の攻撃である。ついでに日頃の欲求不満の八つ当たりも加えてやる。

 

 ちょうど今禁手(バランス・ブレイカー)の状態だし戦闘準備はばっちりだ。まあストーカーは死ぬかもしれないけどそこはご愛嬌ということで。あれだよ。ストーカー殺したらきっとライザーも部屋から出てきて俺を犯すから。なにやってんだー、みたいな。

 

 というわけで悪いなストーカーくん。俺のために死んでくれ。秘技、引力ぱぅわー!

 

「いきなり来ますか。しかし、甘い」

 

 しかし引き寄せられない。なんでやねん。どういうことだろうか。一応俺の引力は割と強いんだけど。 ベッドの中でもぞもぞしてるとき、入れた模型が手加減してもがつんがつん奥に当たるくらいに。気持ちいいからいいけど。

 

 うーん。引力が弱いのかな。とりあえず限界まで引力を強くしよう。えい。

 

「おっと」

 

 ……なんだこいつ。全然引き寄せられないんだけど。まじでなんだこいつ。どうすりゃいいんだ。限界まで引力強くしたんだけどなあ。もしかしてまだ引力が足りないのか。じゃあもっと強くしよう。

 

 限界突破なんて軽いものである。意外とその場のノリでいけたりする。現に引力は更に強くなっている。実感できるほどのパワーアップであり、そんな結構強いはずの引力だがストーカーは全然動かない。ぜんぜん引き寄せられない。あ、ちょっと動いた。

 

「なるほど、ヴァーリが期待するだけのものはありますね。……しかし、まだまだです!」

 

 ストーカーが手の剣を振るう。と、およ? ぐらり、と傾く視界。これはあれか。気がつけば切られていたとかそういうやつか。まあすぐ治るけど……あれ? 微妙に、ほんとに微妙に治りが遅い気がする。気のせい……かな? まあいいや。もう治ったし。

 

 さてどうしよう。俺は近づかせてから殴ればいいで今までやってきたので遠距離とかどうにもできないのだ。しかも相手はストーカーのくせして妙に強い。てか強くないとストーカーとか出来ないのだろう。気配とかそういうのもあるだろうし。

 

 ふむ。しかし考えるの面倒だな。いいや。近づいて殴ろう。取り敢えず引力の出力を更に上昇。ストーカーがじりじりと俺に引き寄せられていく。このままいけば殴れるんだけど正直結構きつい。ちょっと限界突破しすぎたかな。

 

「これほどとは……!」

 

 翼を出して、俺、出撃である。まずはそのストーカーのくせして無駄にイケメンでむかつく面をしこたま殴ってやるのだ。まあ当たれば一撃で凹むんだけどね。

 

 しかし当たらない。当たらない当たらない。こちとら引力も使ってるのにこいつ攻撃捌くの上手すぎだ。少なくとも俺に引き寄せられてるのは確実であるが、それを加味しても当たる気がしない。なんというか前に戦ったイケメンをメガシンカした感じである。やべえこいつ強い。

 

 というか太刀筋が見えずらい。一応不死身だからといって常に即効で再生できるわけじゃないのだ。疲れたらその分再生能力が落ちたりする。今みたいに空ぶってばかりだと段々いやになってくる。

 

 というか俺は何でこんなことしてんだ。なんのためにこんな労力を費やしているんだっけ。んー、と。……あ、そうだ思い出した。森の中の第三者のセック●を覗きにきたんだった。ってことは俺は別にストーカーであるとはいえこいつと戦う必要はない気がする。だってもともと同じ行動をしていたストーカーとしようとしていた俺である。ある意味利害は一致していると言えなくもない。

 

 よし、ここはいったん落ち着いて話し合うべきだ。ストーカーの攻撃を受けながら距離をとる。と、あれ?

 

 ぐらり、とバランスが崩れる。あれだ。切られながら下がったせいで変なところに体重かかっちゃったのだ。おいおいおいまじかよおい。どうにかバランスを取り戻そうと腕を振る――

 

 破裂音、後に轟音。それらとともに、気がつけば森の近くに戻っていた。そう、なんか壁みたいなものはもうなく、森は元の姿に戻って……ない。めっちゃえぐれてる。どんな激しいプレイしてんだよ。ハードSMか。ハードすぎるわ。ヘルとかルナティック級じゃねえか。

 

 って主人公がいるし。お前かよ。お前ちょっと女の子食いすぎじゃないかなあ。遠目に見える限りだとロリに王様に遊女に……ドラゴンに猿? 変態だ変態だ思ってたけど主人公お前……ケモナー、いや動物がどうみたって金玉ついてんだけど、え? ホモケモナー? むしろバイセクシャル?

 

 ……やめよう。うん。人の嗜好に口出すわけにはいかないもんね。もしかしたらライザーもそんな性的嗜好持ってるかもしれないけどさ、うん。まあその場合は俺もなんとかがんばろう。ホモだったら泣く。

 

 しかし意外だったな。少なくとも主人公は女の子大好きなだけだと思ってたんだけど。まさかバイセクシャルな上ケモナーでもあり、受けか攻めかわかんないけどハードSMも嗜んでいたとは……。こいつライトノベルの主人公だよな?

 

 てか不味くね? そんな変態に見つかったら魅力溢れる俺なんかすぐにロックオンされてしまう。赤龍帝パワーで手篭めにされてしまう!

 

 よし、こっち来たら殴ろう。禁手(バランス・ブレイカー)解除してないから、まあ少なくとも一発くらいは殴れると信じている。そして死ぬがよい。

 

 ってあれ? 遊女たちが消えてる……。しかもなんかまた騒がしいし。ついでにたくさん足音とか聞こえるし……。

 

 あ、そうか。そりゃあんだけでかい音出てたら気になるよね。で、主人公は森の責任を取らされるのか! あーなるほど。合点がいった。ということは俺は変態に襲われることがないわけだ。安心した安心した。

 

 しかし野次馬ってなんでこんなに集まるのかね。森がえぐれた跡とか変態とか見たって別に面白いものっていうわけでもないのにね。

 

 あ、レイヴェルもこっち来てる。お前もか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が切れる。空間が割れる。空間が裂ける。美猴と、黒歌と戦っていたイッセーたちは、その異様な景色に目を奪われた。

 

「そこまでです」

 

 裂け目より現れたのは、メガネをかけた優男。剣を一本腰に挿し、剣を一本持ったおかしな姿。

 

 彼は禁手化(バランス・ブレイク)を果たしたイッセーを一目見、そしてそれ以上を見ない。ドラゴンの、それも二天龍の鎧を目にしてもなお、彼はそれから目を外すという余裕を見せた。

 

 通常、強いものを目にすると、それから目が離せなくなる。なぜなら、目を外すと殺されてしまうかもしれないからだ。よほど隔絶した実力でもないかぎり、通常強いものは目から外されることはない。

 

 ゆえに。それだけで、彼の実力の高さが伺える。

 

「何をやってるんですかあなたたちは。悪魔に気づかれましたよ」

 

 あきれたように言う彼。その声に、黒歌はわずかに肩をすくめ、美猴はばつが悪そうに笑った。なんとなく自分たちがやっていることが、彼の迷惑になっている、と気づいたのだろう。美猴は彼のほうへ顔を上げ――

 

 と、そこで気づく。

 

「うん? おまえちぃと疲れたようすだねぃ?」

 

 彼の声には、わずかな疲労が乗っていた。彼の顔には、確かな疲労がこもっていた。

 

「ええ、空間の裂け目に侵入されたので先ほどまで戦闘してましたから」

 

 美猴の目が、黒歌の目が細まる。空間の裂け目に入れるものなど、そう多くはいない。魔法に長け、空間を操るすべを有するか、または聖剣などで直接空間を切るか。もちろんほかにもあるが、どんな方法にせよ、そう簡単にできるものではない。

 

「だれかしら? それ」

 

「ヴァーリの言っていた空繰人形(パペット)ですよ」

 

 彼の答えに、黒歌や美猴はおろか、イッセーたちまでもが硬直した。彼女は魔法を使わないことで有名である。そして、武器を使わないことでも有名である。だから、彼女は魔法を使えないのだと、そういう話まであるほどだ。

 

 そんな彼女に、空間に入れる術など、あるはずがない。

 

「と、思ってたんですけどね。黒歌が隔離した森周辺の空間を、引力で捻じ曲げたようで、そこから無理やり入られました」

 

 狙ったのか偶然なのかは分かりませんが、なんて続けながら言った彼に、黒歌は苦い顔をした。これでは、つまり彼が見つかったのは黒歌が要因となっているようなものだ。黒歌の妹である小猫を連れ去ろうとして、失敗して。踏んだりけったりである。

 

「いやはや、確かに恐ろしい存在です。聖王剣コールブランドの存在を押しのけて私に引力の影響を与えるのですから。一撃もらえば死ぬ可能性が高いこととあいまって実にスリリングでした」

 

 なんてことを言いながら、しかし彼には余裕があった。どうあがいても、何が起きても負けはしなかっただろうという確信があった。それほどには、実力の差があった。

 

 しかし。

 

「んで? その空繰人形(パペット)ってぇのはどうしたんだぃ?」

 

「逃げられました」

 

 そう、負けはしなかったが、勝てもしなかった。あまりにいさぎよく、あまりに唐突に、あまりにあっさりと彼女は戦線から離脱した。彼の虚をつき、彼に逃走の意図を一切見せず撤退を選択され――結果、逃げられた。

 

 彼は一撃も攻撃を受けていない。彼は何度も彼女を切り刻んだ。彼は彼女に本気を出していない。しかしそれでも、彼女を侮る理由にならない。

 

「少なくとも、あなたから逃げるほどの相手ってことね」

 

 なぜなら彼は強い。どれほど手加減していようが、そう簡単には逃げられない。それなのに、逃げおおせた彼女は、少なくとも弱くはない。

 

「ええ、肝に銘じておいてください。突拍子もない行動に注意する必要があります」

 

 そんなことを言って、彼はふと森の外を見た。彼の視界に、騒ぎを聞きつけたであろう多くの悪魔と――その先頭に立つ、彼女の姿が映る。彼女の瞳は、彼を、黒歌を、美猴を貫い離さない。

 

 そんな彼女の視線を――

 

「おっと。無駄話をしている暇はありませんでした。黒歌、美猴。戻りますよ」

 

 彼は、無視した。かまっている暇はない。今彼女を倒すためには、大勢の悪魔を相手することになる。それは、少々性急に過ぎるし、そもそも彼がここに来たのは黒歌たちの様子を見るためだ。

 

 戦いに来たわけではない。

 

 彼が手の剣を振るうと、空間の裂け目がさらに広がった。数人くらいなら簡単に入れそうなそこに、黒歌と美猴が入っていく。

 

「ああ、そうそう。赤龍帝殿。聖魔剣の使い手さんと聖剣デュランダルの使い手さんに『いつか、お互いいち剣士として相まみえたい』と伝言をお願いしてもいいですか?」

 

 それだけ言って、彼らは空間の裂け目へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティーが中止になったみたい。やったね! なんかパーティー会場にテロリストが入り込んでたらしい。あっぶねー。俺外出てて良かった。中だしは大歓迎だけど。しかし簡単に入り込まれるとか悪魔大丈夫か。いや大丈夫じゃないから入られてるんだろうけど。

 

 てか主人公なのにそんなイベントに巻き込まれず青姦していた主人公はどうなのよ。何でお前盛ってんだ。俺だってライザーと盛りたいんだぞふざけんなくそが。楽しげに新しいキャラとにゃんにゃんしやがって。

 

 そういえばレイヴェルが主人公のことをめっちゃ心配してた。うん。まさかレイヴェルまでたぶらかしてるとは思わなかった。何してんだ主人公……。ハーレムとかたいがいにしろよ……。

 

 というかハーレムって絶対嫉妬起こるだろ。現に俺も嫉妬してたもん。性的な意味で。

 

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。問題は今日も部屋から出てこないライザーである。

 

 レイヴェルとかに聞く限り、ちゃんとご飯は食べてるらしい。まあ良かった。きちんとした栄養取らないと体力も精力も性欲も落ちるからね。そこは本当に良かった。

 

 だがしかし、部屋から出てこない。何をしているのかというと、本を読んでいるらしい。というか勉強? らしきことをしているらしい。なんぞそれ。

 

 同じようなジャンルの本を何冊も読んで、情報を多角的に見ながら、いろんなことを紙に書きつけ、さらに新たな本を取り寄せ、みたいなループに陥っているのだとか。

 

 で、そのジャンルというのが、なんというか、例として一冊の本の題名を挙げるとするなら『初めての子育て』みたいなのである。そう、育児本である。

 

 ……誰を孕ませやがったライザー。しかも聞けば、育児に関するものだけでなく、心に関する本だとかそういうのも読んでいるらしい。マタニティブルー対策ですね分かります。

 

 俺を犯さず、自分は部屋に引きこもってお勉強してやがるのだライザーめ。どうせこいつ子供の名前とか考えてんだろ。この脳内お花畑が! ほかの奴を孕ませる暇があれば俺を犯せよ! あれか? 母体の影響とか考えてんのか? 大丈夫フェニックスだから! 死なないから犯せ!

 

 あー。あーあ。なんかもう、なんかもう。ライザーに何か嫌なことがあって引きこもってると思ってたのに。どうにか俺が力になってあわよくばライザーの好感度を上げようと思ってたのに。当のライザーは子供に大喜びかよボケが!

 

 くそう。確かにさ、確かに子供の名前は大事だよ? 親がしっかり考えるべき項目だと思うよ? でもさ、せっかく俺がしゃべれるようになったの無視してこれはないんじゃないかな。てか引きこもる必要まったくないよね。なんで引きこもってんだよ。俺の心配返せよ。そしてその分犯せよ。

 

 ていうか妊娠してるの誰だよ。俺が聞いても誰も違うとしか答えないんだけど。主人公のところの王様でもないみたいだし。そして俺が質問するとされた奴は大体俺を撫でる。なんかもうほほえましそうにニコニコ笑いながら。何なんだお前ら。というか俺より年下な奴らにもなでられる。訳分からん。

 

 レイヴェルに聞いたときなんか『まあ、お兄様ったら!』って言った後俺の目の前から消えたからね。質問に答えろよ。めっちゃ嬉しそうな感じだったけど。……え? いやまさかそんなはずはないよね? だってライザー自分で実妹はないって言ってたし。うん。まさかライザーが孕ませたのがレイヴェルであるはずがない。ていうかあってほしくない。

 

 まあさすがにないだろう。うん。だってレイヴェル主人公が好きみたいだし。

 

 ってことはライザーは行きずりの女を孕ませたのか。最低だな。しかも責任取る気満々だし。なんで俺を犯さないかなあ。自分で言うのもなんだけど俺外見はめっちゃいいんだけどなあ。ただ家事も育児もできないけど。

 

 まあそんな感じでライザーがパパになりそうなことに気づいたのが昨日の話。

 

 さて本日、うーん。どうにかライザーが俺にむらむらするようにならないかなあ、なんて考えてると、扉をノックする音が。

 

「さあ行きますわよ!」

 

 誰であろう。レイヴェルだった。レイヴェルは俺の腕を取り、すたこらさっさとどこかへと向かう。

 

 ……最近レイヴェル強引になったよね。

 

 

 

 

 

 引っ張られた先はどこかのゲーム場だった。っていうか確かここはレーティングゲームするときの所である。ライザーなしでレーティングゲームとかできるわけがない。つまりあれだ。レイヴェルは観戦に来てるのだ。

 

 ……なんで俺つれてきてんの? 俺関係なくね?

 

 まあいいや。あのままだとライザーの部屋の扉を屋敷ごと壊していたかもしれないし、そうなると弁償やらで大変になるかもしれないし。うん。まあ良かったんじゃないかな。

 

 しかし誰が戦うのだろうか。レイヴェルが見たがるって事は主人公たちかな。そう思ってみるとそのとおり。相手はソーナ・シトリーという若手悪魔らしい。

 

 で、主人公側が余裕で勝つだろうみたいに言われている。ていうかレイヴェルが言ってる。

 

 いやでもパーティー中に外で(にゃーん)するような奴らだぞ? まあイケメンは多少はいけるかもしれないけど他がどうもなあ……。俺が片手間でやれた記憶しかないんだけど。

 

 まあ多少は強くなっているのかもしれないけど、でもなあ……。たぶん主人公たちの強さってせいぜいライザーぐらいなんだよなあ。確かに強いけど隔絶はしてないよね。

 

 あ、でも相手も初心者なのか。じゃあ余裕かもしれない。まあ別に興味はないんだけど。なんて、適当に見て――

 

 そして俺は、運命に出会う。

 

 それは主人公が相手唯一の男に勝利し、なんやかんやあって追い詰められたあとのこと。

 

「リタイヤ前に……俺は俺の煩悩を果たしてから消えようと思う……」

 

 その声が、妙に俺に意識を向けさせた。ほとんど聞き流してたはずの声なのに、その声だけははっきりと俺の耳に届いた。

 

「高まれ、俺の欲望ッ! 煩悩開放ッ!」

 

 主人公から、目を離すことができなかった。主人公から、意識をそらすことができなかった。主人公の声を聞き流せない。主人公の存在を意識せずにはいられない。

 

「広がれ、俺の夢の世界ッ!」

 

 気づけば、俺は全神経を主人公に集中させていた。その僅かな動きすら見逃すまいと、僅かな声すら聞き逃すまいと、俺の全身が、全力で主人公に魅せられていた。

 

 乳語翻訳(パイリンガル)。女性のおっぱいを介し心の声を聞く主人公の新技。その能力がどれほどのものなのか、どれほど恐ろしいものなのか。考えるまでもない。

 

 俺は、初めて、主人公が主人公であることを意識した。主人公の放ったその技に、俺はどうしようもなく心惹かれていた。

 

 だって、あれさえあれば、ライザーとの性行為は思うがままなのだ。引きこもった原因がすぐに分かる。妊娠させた相手が分かる。今何がしたいか分かる。ライザーはどんなシチュエーションに、どんな格好に弱いかが分かる。

 

 女性限定なんて関係ない。なぜなら性転換させてしまえばいいのだ。確か総督がそんなものを作ってたような気がするし、ああ。あれさえ覚えたら、どれほど毎日が幸せで爛れた、快楽に満ちたものとなるだろう。

 

 ああ、主人公。――お前は、最高だ。

 

 

 

 

 

 気がつけば、レーティングゲームは終わっていた。俺が乳語翻訳(パイリンガル)に魅せられている間に決着がついていたらしい。主人公側の勝利、とのことだ。まあ勝ち負けなんてものはどうでもいいんだけど。

 

 しかしこの感覚は久しぶりである。どうしようもなく魅せられる、どうしようもなく抗えないと思うその感覚。かつてライザーに犯されたときと似た、この感覚。

 

 とはいえ、もちろんライザーへの欲の方が圧倒的に強い。ライザーへの欲を下敷きにしている以上、それは当然なのだけど。

 

 しかし、本当に。あれはいいものだ。恐らく俺に習得は出来ないだろう。俺は胸に執着などないし、そもそも魔力を外に出している以上、俺にはできないだろう。

 

 だが、主人公ならできる。なるほど、主人公を皆が欲しがるのが少しだけ分かる。便利なのだ。都合がいいのだ。俺も欲しい。それ以上にライザーに犯されたくはあるが。

 

 そう言えばレイヴェルが静かだ。ちょっと前まで、赤龍帝、赤龍帝うるさかったんだけど。

 

「ああ……。赤龍帝は今日も格好良かったですわ……」

 

 見ると、なんかぽーっとしていた。うん。格好良くはないと思うよ?

 

  肩を叩くと、少しした後に正気に戻ったようだ。なんかびくっとしていたし。

 

「か、帰りますわよ!」

 

 え、あ、うん。慌てて立ち上がるレイヴェルを尻目に、俺もゆっくりと立ち上がる。

 

 ……それにしても乳語翻訳(パイリンガル)欲しいなあ。




主人公の強さはこんな感じです。イッセーたちより強いですが、ヴァーリたちより弱いです。
まあ相性とかにも依りますが。

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