花襲 -はながさね-   作:雲龍紙

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※実はこの話は説明回。

※正直、この話が一番、Pixiv版で投稿する時に神経を使った。今も精神力をガリガリ削られて胃が痛いし気持ち悪い。

※Pixiv版の時より、より細かい言い回しに神経を使っている。胃が痛い。

※胃が痛いのは状況整理の説明部分。

※なお、後書きには一応、本編よりは丁寧に説明文を書いてあります。胃をギリギリさせながら。


※後半にBL臭……いや、そもそもボーイズって年齢でも無いのでどういえばいいのか……でも警告タグにはBLしかないし……と悶々しながら、BL臭っぽい何かがあるかも知れないと思う。

※とか言いつつ、単純に黄龍殿が獣殿をからかって遊ぼうとしたら意外にも獣殿が乗ってきて、内心ビビッて自棄になった黄龍殿がいるだけ。でも苦手な人は苦手だと思うので、一応警告。




花篝り -黄金-

 

 

「――なぁ、カールよ」

 

「何かな? 獣殿」

 

 いつものように声を掛ければ、いつものように応えが返る。ただ、この国の伝統衣装であるという衣は自分から見れば異国情緒を感じさせるもので、そんなものを身にまとう親友の姿を見るのは新鮮だった。

 カールが身に纏うものは女物であるらしいが、この親友は傍から見れば女に見られることも多い程度には細身で女顔である。よって、違和感は全く無い。

 家主から供された透明な色の酒を妙に平たい朱色の(さかずき)で味わいながら、口を開く。

 

「我等は一度、砕かれた。――そうだな?」

 

「…………ああ。認めるのは業腹だがね」

 

「そして、おそらくは卿の女神も刹那も砕かれたのだろう。第五天(黄昏の世)は崩壊し、第六天の世へと移ってしまった。――――卿が残っていれば、再び永劫回帰の理で呑み込んだのだろうが」

 

「…………」

 

 カールは応えない。だが、応えない事こそが、何より雄弁な『答え』だった。

 既知に飽き、自らの死さえ望むようになった永劫回帰の蛇が、唯一愛した既知――――黄昏の浜に在る、至純の魂。その魂を持つ少女を自らの後継たる女神とし、その腕に抱かれて死ぬ為に、那由他の永劫に渡って世界を繰り返したほどだ。それほどまでに恋い焦がれた女神を失ってしまった可能性など、考えたくもないだろう。

 だが実のところ、いま問題にすべきは別にある。

 

「だが、『此処』には第六天の気配などは無い。無論、黄昏でもないが――もっと根本的な問題として、『我等が【座】と認識しているもの』の気配が感じられない。卿は、どうだ?」

 

「――――流石は獣殿。仰る通り、此処には我等が【座】と認識しているものは存在していない。はじめは単に空位なのかとも考えたが、どうも違うようだ。この点で以ってまず、『此処』は我等が存在していた『神座が統べる世界』では無いという事が解かるが――そんなことは些末な事だ。『異なる世界』であるということ自体は、気にする程のことでも無い。問題は、『我等が【座】と認識していたもの』が存在せず、それとは違うシステムによってこの世界は構築されている、という事だ」

 

「ふむ……具体的には?」

 

「エイヴィヒカイトの発動は可能だ。ただ、質――というか規模は落ちる。創造も可能なものとそうで無いものがあり、原則としていずれも劣化……と言っていいのか微妙だが、劣化が見られる。流出に至っては……発動はするが、おそろしく限定的かつ自らの意思で止めることも出来る」

 

「…………」

 

 思わず、言葉を失った。

 要は、発動出来るものと出来ないものがあり、その基準が不明である、という事になるのだろうが――それにしても、良く判らない。

 いっそ、発動しないならしない、するならするとはっきりしていれば、まだその理由も察しやすい。だが、そういう事にはなっていないらしい。一体どういうことなのか。

 

「――おそらく、だが……」

 

 少し考えながら、カールは続ける。

 

「――まぁ、多少の語弊はあるが、簡単にまとめてしまおう。かつて【座】に在った私は、【座】の交代劇を促すために、『エイヴィヒカイト』と称する魔術を作り上げた。まず、『エイヴィヒカイト』とは私が作り上げたものだというのが、前提だ。そしておそらく、直接的な原因はコレなのだろうね。――この『エイヴィヒカイト』は【座】の機構を前提にしている。言ってしまえば、『【座】が存在する世界』での運用が大前提なのだ。何故ならば、そもそもの目的が『【座】の交代劇に至ること』なのだから」

 

「……確かに。卿にとっては、そうであったな」

 

「――よって、『エイヴィヒカイト』の運用に支障をきたすのは、その前提となる【座】が存在しない、あるいは『我等が【座】と認識していたもの』の在り方、とも言うべきものが、我等の認識するそれとは異なっている、と考えられる」

 

「……後者であれば、部分的には発動することにも説明がつけられる、か?」

 

「おそらくは。発動する部分に関しては――やはり語弊はあるが仮に【座】とさせてもらおうか――おそらく、【座】による規制が緩い、あるいは我等の知る【座】と同じ仕様になっている部分がある、と解釈できる」

 

 あるいは、と一度言葉を切り、息を吐く。手にしていた盃を渡して酒を注げば、愉しげに眼を細めた。薫りを楽しみ、一口呑んで笑みを深める。

 

「――少し、甘くないか?」

 

「家主が言うには『日本酒を呑んだことがあるか解らなかったので、とりあえず初心者でも呑みやすいものを用意してみた』とのことだ」

 

「なるほど。確かに呑みやすいが――ひょっとして、これも女性向けとかいうオチは無いだろうな?」

 

「……その辺は、家主からも聞いていないな」

 

 確かに、聞いてはいない。だが、『これならご婦人方にも呑みやすいだろう』と思った事は、胸にしまっておいた。

 

「それよりも、カール」

 

「わかっている。――と言っても、私の予想を結論から述べてしまうと、正直、頭が痛くなるものでね」

 

 その物言いに、思わず瞬く。この影のような男は、比喩表現として『頭が痛い』という様な時でも、基本的に薄く笑んでいることが多かった。だが、今は本心から微かに顔を顰めている。――珍しい、と言える事だ。

 

「ここの家主――――彼が【座】だ」

 

「ふむ。――だが覇道の神格と云うには……」

 

「違う。そうではない。彼は『【座】に至った神格』では無く、【座】そのもの。より正確には、【座】の機構の一部を統括・制御する為の存在。――これも語弊はあるが、家主殿の今の姿は、かつて私が地上に送り込んでいた『触覚』のようなものだと思われる。――そもそも、解りやすく【座】と言っているが、我等の知る【座】とは違う構造である訳だし」

 

「つまり、我等の知る世界に照らし合わせて考えるならば、彼は【座】にあたる、と言いたい訳か。そう考えた根拠は?」

 

「それを訊かれると、説明が難しい。強いて言うならば、視えてしまったのだよ。彼の御仁の血を頂いた時に、色々と。この世界の構造とも云えそうなものが」

 

 カールが呑み乾した盃をそっと返すように差し出して来る。それを受け取れば、今度はカールが酒を注ぎ込んだ。

 ふわり、と花の香にも似た柔らかな薫りが鼻腔をくすぐる。

 それを愉しみながら、話を続けるよう視線を向けて促した。カールは微かに自嘲のような笑みを零すと、再び口を開く。

 

「……彼はこの世界の中心と直結しており、その中心からは絶えずエーテルが湧き出で、世界を満たして溢れ出し、一部は循環しながらも一部は広がり続けている。――――そんな風に視えた。これは、我等の知り得る言葉にするなら【座】から流出する理に相違無いが――たったひとつだけ、絶対的に異なる部分がある。流れ出しているのは所謂エーテル、あるいは『力』の源とでも称されるモノのみ。もっと解りやすくすれば、『生命力』でもいい」

 

「確かに、我等が【座】より流出させるのは、自らが抱く渇望であり、それを叶えるための世界法則、即ち理。――対し、この世界の【座】から流れ出るものは純粋に『力』のみ。……なるほど」

 

 言ってしまえば、この世界の【座】には個人的な自我など無く、ただ世界を維持し、繁栄させる為に力を与え続けているだけの存在、であるらしい。

 いや。もしかすると『【座】からの『力』が届く範囲にのみ、世界が存在している』という風にも考えられる。

 初めに『力』が湧き続ける源泉があり、その恩恵が注がれる範囲に『世界』が生じた。『世界』にとっての『力の源泉』――これが、我等の世界で言うところの【座】である、と考える方がより自然かもしれない。

 

 それでは、【コウリュウ】と名乗った此処の家主は、どういった存在なのか。

 いや。カールは、『彼はこの世界の中心と直結している』と言った。『力の源泉』と直接繋がっているということは、つまりその『力』を任意に使える、という事だろう。

 何故そのような存在がいるのかは不明だが、存在している以上――それを利用しようと考える者がいるのは、人間の性と云える。

 

「…………なぁ、カールよ」

 

「さて。正直、その先に手を出すのも如何なものかと」

 

「確認する。――つまり、この世界においては彼の御仁を掌中に収めたものは、この世界を統べることが出来ると。そういう事にならないか?」

 

「少なくとも、そのように考える輩は腐るほどおりましょうな。――少々、不愉快にも思えますが」

 

 あの御仁自身がどう考えているのかは関係無い。ただ、『彼』は『人間の姿形で』存在している。ならば『遣りようはいくらでもある』と考える権力者は多いだろう。

 何せ、『彼』ひとり押さえれば、『世界』を統べるも同然の『力』が手に入ると考えられるのだ。お釣りがくる、どころの話では無い。

 

「我等の世界では、流出位階に至った者が神格を有する。その中でも覇道神に類する者が【座】にて流出すれば、世界の理は塗り替えられる。――だが、この世界においては【座】に直結するものを手に入れた者こそが、世界を統べることが出来ると」

 

「そういう事になりましょう」

 

 そう応えて、カールはふと笑みを浮かべた。そうして、ある指摘をする。

 

「――今、敢えて『彼の御仁』では無く、『【座】に直結するもの』とおっしゃいましたが……何か特別な意図がおありかな?」

 

 言われて気付くと同時に、ふと先日見かけた『客』を思い出した。

 まさしく『澄んだ大気(エーテル)』と云うに相応しい気配を纏った、細身の青年。あの青年は自らを依代であり生贄だと言った。それから『テンミャクから絶えず力が注がれる』とも。

 

「……ふむ。つい先日、家主が留守の時にやって来た客も、おそらくは【座】に直結している。だが彼は――飛べぬように翼を折られ、虐げられて捨てられた小鳥のようだったな」

 

 もし、あれが何者かの手に落ちた『【座】に直結するもの』の末路であるならば、なんて愛の無い扱いかと思う。カールにしても「役者を輝かせる事が出来ない筋書などいらん。私が書き直してやる」とか言い出したとしても、あまり不思議では無いような気もする。

 

「また来るように言っておいた故、会ったら声を掛けてみると良い」

 

「――ふむ。では、そのように致しましょう」

 

 互いに笑み交わしたところで、聴覚が微かな衣擦れの音を拾った。視線を部屋の戸へと向ければ、静かに戸が開かれて鮮やかな白と紅を纏った家主と視線が合う。彼はそっと微笑むと戸を閉め、僅かに目を伏せながらこちらに歩み寄り、出ていった時よりも少し距離を置いて両膝を着き、両手を着いて深々と一礼して見せた。

 しゃら、と頭上に乗せた金色の小さな冠飾りが、幽かな音を立てて揺れる。

 緩やかに上げた顔には、薄らと化粧を施しているようだった。さらり、と長い黒髪がひと房、肩口から滑り落ちる。――――これほど髪が長かった記憶は無いから、舞台用の(かつら)でも付けているのかもしれない。

 

「――――宜しければ、」

 

 女の、声。

 薄く(べに)を引いた唇が言葉を紡げば、流れ出たのは少し低めの、だが完全に女の声色だった。

 

「神前に奉ずる舞など一指(ひとさ)し、如何(いかが)でしょう」

 

 黒い双眸を見れば、その奥には他愛無い悪戯を仕掛けている者の愉しげな色。それを見て、思わず笑みが込み上げて来た。

 なるほど。面白い趣向ではある。ならば、こちらも乗ってみるのも一興だろう。

 

「……ほう? それはまた、面白そうだ」

 

 手を伸ばし、細い(おとがい)に手をやって上向かせ、その双眸を覗き込んだ。一瞬狼狽えたようで素が見えてしまったが、それでも直ぐに清純な乙女のような怯えと、それを隠すように毅然とした色の眼差しを向けて来る。――中々に、芝居上手と言えた。役作りも演技も巧い。

 

「魅せてみるが良い。但し、我等を満足させられなければ――……」

 

 するり、と指先で頬を撫で、耳元で小さく囁くように、告げる。

 

 わかっていような、と。

 

 そっと身を離せば、『乙女』は緊張した面持ちで静かに立ち上がり、しずしずと歩を進めて庭へと降りる。手にしていた面を被り、頭の後ろで組み紐をきつく結ぶのが見えた。更に懐から長く五色の飾り布が付いた鈴を取り出し、静かにこちらへ向き直る。

 夜闇の中、白と紅の衣は月明かりに良く映えた。

 

(――やはり、人間の気配はしないな)

 

 最初に見た時に感じた印象は、更に深くなる。だが、何故ヒトでは無いモノがヒトの形をとるのだろうか。

 

 さわり、と藤が風に揺れる音がする。

 同時に、ゆらり、と微かに白い袖と金色の鈴が揺れるように動いた。

 

 

 ――――楽の無い、静かな神楽が始まった。

 

 

 

 





 胃が、痛いです。

 要は、『神座世界』と『この世界』は【座】が干渉できる範囲には無い、非並行世界、並行世界外なので『神座世界』の理の中で生み出された術理であるものの一切は、そっくりそのままで通用する訳では無い、と。
 但し、部分部分では似たような術理が存在するので、世界が勝手に『置き換え』て認識・解釈・理解し、発動できる場合がある。

例)創造
『この位階に達した術者は、心の底から願う渇望をルールとする“異界”を作り出す能力を得る』

→「おk。そういう特殊な結界な」


例)流出
『己が願いによって全世界を塗りつぶす力。創造位階の能力によって作り上げられた“異界”と法則を永続的に流れ出させ、世界を塗り替える異能。流れ出した法則は最終的に全世界を覆いつくし、既存の世界法則を一掃して新たな世界法則と化す。
 世界法則を定めるものを神と呼ぶのであれば、流出とは新たな神の誕生であり、また新たな神が旧神を打ち倒してその座を奪うこと、即ち神の交代劇でもある』

→「えーっと……神域作って良いから、その中で好きにして。教祖見付けて宗教作るのは勝手にどうぞ~。え? 旧神?【座】? そういう制度があったんだ~。うん? ここには無いから、無効だよ。ごめんね?」


 ものすっごく軽~いノリで書いてみましたが、大体こんな感じの誤認識やら世界観の差異やら何やらで、『神座世界』と同一の発動にはならない、という感じで理解していただければよろしいかと。
 似た術理が存在していれば、何となく発動はします。ただ、おそらく過程式(方法)が違うので、勝手が違ってやりづらい事この上ないでしょう。


 嗚呼、ほんとに胃が痛い……。


 あ。あと重要な解説はこちら。

【並行世界】
 パラレルワールド。ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。並行世界、並行宇宙、並行時空ともいう。
 『異世界』、『魔界』、『四次元世界』などとは違い、パラレルワールドは我々の宇宙と同一の次元を持つ。(by Wikipedia)

 つまり、『神座世界』にとっての並行世界とは、【神座】が作られた世界軸の、【神座】が作られた以降の並行世界群を示す。
 よって、第四天であるニートが齎した『この宇宙が単一のものではなく、無数の未来のうちの1つを進んでいるに過ぎないという「並行世界」の概念』によって『干渉できる範囲』もまた同様に『【神座】が作られた世界軸の、【神座】が作られた以降の並行世界群』であると考察。

 何が言いたいのかと云うと、『【神座】が作られるより以前に分岐している世界軸に関しては、さすがに支配領域には置けない』のではないか、という事。


 ……原作でこの点は語られていないので実際には不明ですが、とりあえず雲龍紙はこのように解釈しました。なので、この見解に基づいて進めています。

 よって、この考え方が気に入らない、引っ掛かる、こんなこと考えるなんて理解できない、こんな風に思いたくない、という方は、どうぞこのシリーズについては忘れて日常にお戻りくださいませ。m(_ _)m


 い、胃ががががg


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