学園黙示録:Cub of the Wolfpack   作:i-pod男

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次回から原作(と言っても黙示録開始より前ですが)に突入します。長い前振りですいません。


Search and Destroy

特殊部隊を一掃してサーバールームに辿り着くのに差程時間は掛からなかった。と言うのも、既に感染者達と数カ所で小競り合いが始まっていたのが幸いして、フォーアイズがそこで感染者をフェロモンガスで興奮状態にさせて誘導する事で遠方(と言っても五十メートル以内なのだが)からの効力射で殆どの隊員を一人ずつ確実に始末する事が出来たのだ。

サーバールームの扉を開くと、そこには原形が留まっていない程の咬み傷を受けた三つの死体が横たわっていた。

 

「あの監視カメラの映像に映っていたニコライの部隊の殺害現場って、ここだったのか。」

冷めた声でそう呟きながらヴァイパーは呟き、ニコライの部下だった死体を見下ろし、足で小突く。

 

「奴は何がしたいんだ・・・・?」

 

フォーアイズは訝った。ニコライの意図が読めないのだ。要所で一人ずつならまだしも、全員を一気にここで切り捨てると言う行動は長い目で見れば自分が死ぬ確率を上げているだけでしかない。

 

「わざわざ感染者に人を食わせるとは、私達以上に頭がイカレているな。まあ、感染者になる前にくたばったのはある意味運が良かったと言えるかもしれないが。」

 

スペクターの言葉にベルトウェイが体を揺すってゲラゲラ笑い始める。

 

「否定は出来ねえが、イカレてるなんて俺達が言えた義理かよ、スペクター?こちとら全員が全員頭のネジなんざとっくの昔に三本以上は外れてるサイコ集団だぜ?」

 

「あ、それ言えてるかも。」

 

ヴァイパーはクスクス笑って相槌を打った。ベルトウェイはサーバーを積んだ棚をひっくり返そうと足を上げたがスペクターがそれを止める。

 

「ちょっと待て。サーバーを破壊すればそれで事足りるんだろうが、少しの間だけ無傷のままにしておいてくれないか。私が直接そこからデータを完全に削除する。」

 

ライフルを壁に立て掛けて自前のポータブルハードドライブを接続してキーボードを叩き始めた。テラバイト単位の膨大なデータを全て吸い出し終わると、メインフレームのコンピューターの外付けハードを撃ち抜いた。

 

それを皮切りにヴァイパーとベクターはサーバーを積んだ棚を全てひっくり返し、片っ端からベレッタで内部の基盤の中心を狙って撃ち抜いた。バーサとルポは更にそれらをそれぞれ鉈とトマホークで粉砕し、最後はベルトウェイの義足でプレスされた。最早ウィザード級のハッカーでもこの残骸からデータを復元する事は不可能だろう。

 

「司令部、こちらデルタチームリーダー。サーバーを全て破壊した。」

 

『よし。では記録室に向かえ。』

 

再び通信が切れた。結局こう言うぞんざいな扱いが続くのかとヴァイパーは空になったベレッタの弾倉を取り替えながら嘆息したが、Gウィルス回収の任務の時にもあったあの嫌な予感を再び感じた。鉈の刃の具合を調べているバーサにニコライの部下だったUBCS隊員が感染者となって()()、立ち上がって近付いて来ているのだ。

 

後方注意(チェックシックス)!」

 

フロントサイトとリアサイトが感染者を捉えた瞬間、ヴァイパーは迷わず引き金を引いた。鼻の頭から二センチ程上の鼻腔を狙って撃たれた銃弾は脳幹を破壊し、更に盆の窪を貫いて脳髄をぶちまけた。

 

拳銃をホルスターに納めると再びG36Cを構えようとした。

 

「オラオラオラオラァ、どうしたぁ!?来いや化け物ども!」

 

だがそれが出来る前に最早我慢の限界だったらしいベルトウェイはFN MINIMIを腰撓めに構えて掃射し、感染者を薙ぎ払い始めた。それも手当り次第にぶっ放しているので彼以外の全員が巻き添えを食らわない様、腹這いになって頭上を飛んで行く銃弾をやり過ごすしか無い。感染者に当たった物は血煙を、精密機器やその他の機械類に当たった物は火花を散らす。ベルト一本分の弾薬、即ち二百発の弾丸を撃ち終わり、その部屋で襲って来た感染者は完全沈黙した。

 

「俺達まで殺す気か!?」

 

ベクターは立ち上がって体からコンクリートの粉や銃撃で剥げて舞い散った壁や天井の塗装、更には吹っ飛ばされた感染者の内蔵の破片を払い落としながらベルトウェイに詰め寄った。

 

「あのままSAWを使わなくとも感染者は殲滅出来た!そうすればベルトの弾薬を分配して補充出来たかもしれない!行動する前に少しは考えろ、ウスノロ!」

 

既にナイフを抜いて臨戦態勢に入っているベクターはベルトウェイに飛びかからんばかりに肩を怒らせていたが、バーサが押さえ付けていたお陰で殺し合いに発展する事は無かった。

 

「ベクター、やめろ。お前の言い分は尤もだがまだ任務が終わっていない。話はそれからだ。」

 

「・・・・次にやったら今度こそ貴様のもう一本の足をを切り取ってブーツごと食わせてやるからそう思え。」

 

ナイフを納めたベクターはライフルに新しいマガジンを叩き込みながら低い声でそう警告し、ルポに続いた。

 

「確かに今のはやり過ぎだ。私達の任務は殲滅ではなくあくまで破壊工作だぞ。一掃出来たのは良いとしても、SPEC-OPSの奴らに聞こえたらまずいだろう?」

 

フォーアイズには弱いのか、ベルトウェイは気まずそうに顔を背けて詫びた。

 

「わーったよ、ったく。悪かったって。」

 

「損傷が酷い所為で良質のサンプルも手に入らなくなってしまった・・・・」

 

「お前、そっちが本音だろう。」

 

冗談混じりにベルトウェイはしょげるフォーアイズの尻をぺしりとはたき、仕返しとばかりにフォーアイズもはにかみながら彼の臑を蹴る。

 

「仲が良いのは良い事だけど、急がないと置いてかれるよ?」

 

この様なやり取りが出来る様になったのはやはりヴァイパーとの邂逅があってからだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南階段を通って三階へ上がるが、予想とは違って感染者は一人しか見えなかった。だがそれもバリケードの後ろに隠れていたSPEC-OPSに穴だらけにされて倒れる。まだ銃声が木霊している間にベルトウェイはスタングレネード、ベクターは手榴弾を彼らがいる辺りへ投げた。

 

炸裂した後に背が低く、一番被弾の確率が低いヴァイパーが特攻し、銃弾を怯んでいるSPEC-OPSに打ち込み、遮蔽物の後ろに身を隠して返って来る銃弾をやり過ごす。

 

殲滅、前進。

 

この七人には後にも先にもそれしか道はなかった。だがお互いが側にいるからこそそれでも迷わず歩を進める事が出来るのだ。

 

上下左右、陰になる所や人が隠れられそうな所に視線を巡らせて進む。痛いぐらいに内側から胸を打って来る心臓はまるで連続で繰り出されるボクサーの鋭いジャブだった。それを必死に落ち着けようとヴァイパーはベクターが部屋で良く座禅を組んでいる時にする呼吸法を真似た。五つ数えて息を吸い、五つ数えて息を吐き出して呼吸に意識を向けると言う至ってシンプルな物だが、それを三度、四度と繰り返していると不思議にも動悸は収まるのだ。

 

記録室(Records Room)と書かれたプレートが取り付けられた扉を開いて中に入った。部屋は殆どが本棚で占領されており、様々な記録が詰まった本やバインダーが所狭しと並んでいた。もっとも、その棚の幾つかは横転していて爪痕や血痕がべっとりとついており、中身がそこら中に散撒かれていたが。

 

「バーサ、フォーアイズ、出入り口を固めろ。他は証拠を見つけ次第このテーブルに集めるんだ。」

 

スペクター、ベルトウェイ、ベクター、そしてヴァイパーの四人はアンブレラに繋がると思しき書類を探し回り始めた。

 

「ベクター、ちょっと待って。」

 

ベクターが先へ進もうとした所をヴァイパーが袖を掴んで止めた。下を指差す。

 

「ん?」

 

見ると、ベクターの足は極細の赤いレーザーに当たる寸前だった。注意深く足を後ろに下がらせる。レーザーが出ている所は恐らく何らかのトラップだろう。

 

「ベルトウェイ!」

 

「ああ、何だ?トラップだろ?知ってるよ、今スペクターと幾つか解除してる。俺ぁデカいから避けて通るよりも解除して進んだ方が確実だしな。そっちは破壊すんなよ?もし追っ手が来たらそれで撒けるかもしれねえ。」

 

「懐かしい・・・・第二次世界大戦時代の大日本帝国軍の地雷を思い出す。TNTの独特な匂いも。間違って踏んだ奴がいて解除に手間取ったなぁ。そう言えば一人失敗して顔の七割以上が吹っ飛んだ奴もいた・・・・」

 

「お、証拠発見。」

 

目玉クリップでとめられた書類の束や筒状に丸められた物を抱えて戻った。

 

「思ったよりも時間が掛かったな。」

 

「証拠の量自体は大した事は無かったが、これだけ広いと多少のタイムロスは致し方無い。燃やすぞ。スペクター。」

 

スペクターは懐に手を入れてライターを取り出した。何度かやすりを回転させて点火しようとしたが、肝心の火が出ない。空しく小さな火花が散るばかりだ。

 

「・・・・・すまん、燃料切れだ。ベルトウェイ、お前はどうだ?」

 

「俺のは発火石が摩耗しちまってるから置いて来たよ。」

 

二人の答えにバーサは地団駄を踏む。

 

「も〜〜、スペクターは良いとして、爆弾魔が火種持ってないってどう言う事よ?それじゃまるで拷問しても叫び声が無いのと一緒じゃない!」

 

「バーサ、例えがヤバすぎる。せめてもうちょっとマイルドな物を・・・・」

 

「ライターなら僕、あるよ?ほら。」

 

ヴァイパーはステンレスケースに入ったライターを取り出した。それを見たベルトウェイはガスマスクの奥で息を飲んだ。

 

「あっ!?てめえ、それ俺の・・・・・!!」

 

 

「部品と道具を出しっぱなしにしてたから勝手に直しといた。燃料もちゃんと満タンにしてあるし。ほら。」

 

やすりを回転させ、シュボッと言う小さな音と共に点火した。

 

「ヴァイパーは凄いな。ここまで成長するとは。」

 

フォーアイズは手袋を嵌めたままの手でポフポフと頭をたたく。

 

積み上げられた証拠の数カ所に火を点け、完全にそれら全てが灰になるまで見届けると、本部にその旨を報告した。

 

「長居は無用だ。撤収!」

 

「やれやれ、やっとか。」

 

「とっととズラかろうぜ!」

 

使った出入り口の真向かい側にあるドアを抜けて階段を降り、一気に一階へと駆け降りる。

 

 

 

 

 

階段を下りた所で足元を銃声が襲った。銃弾で弾けるフローリングの欠片が宙を舞う。

 

「ニコライ・・・・・!!」

 

ルポが憎々しげに唸る。

 

「何の真似だ、貴様?何故隊の者を殺した?」

 

だがニコライはただ大声で笑うだけで何も答えない。

 

「奴らは見事に任務を全うしてくれたよ。これからのお前達の様にな!」

 

手に持っていた拳銃をウルフパックに向けて発砲しようとしたが、既に銃口を彼に向けていたヴァイパーがG36Cの引き金を引いてそれを妨害した。

 

「ルポ、だからあいつあの場で殺しとけば良かったんだよ。ベクターだって殺す一歩手前だったし。次会ったら命令違反でも射殺するから。」

 

「殺したければ好きにしろ。許可する。」

 

「今はとりあえず上にいる奴らをどうにかしよう。」

 

フォーアイズがライフルの銃口を上に向けている。

 

映画の中でしか登場しない様な化け物が天井を突き破って現れた。基本的な体の構造は大の大人のそれとほぼ同じだったが、見た目は人間とは程遠い。脳や背骨、肩甲骨、そして筋肉組織が異常に肥大化している。その肉体の異常なまでの発達が原因なのか、全身の皮膚を突き破って完全に外気に晒されているのだ。両手両足の指の間は蛙の様に水かきがついており、その先端には全長四十センチはあろうかと言う鋭利な爪が四つずつ伸びている。おまけに口からはまるで別の生き物の様に長い舌が蛇の様に動いていた。

 

生物兵器(B.O.W.)・・・・・!!」

 

天井に張り付くそれらを見て、バーサは空いた手を頭にやって忌々し気に呟いた。そう、この生物兵器、通称『リッカー』は、アンブレラが開発したウィルスに汚染された後、突然変異によって誕生するのだ。

 

糞っ(Mierda)、後ちょっとで帰れたってのによお。」

 

ベルトウェイはグレネード弾をG36のランチャーに装填して右手に構え、FN MINIMIを左手に構えた。

 

「ひい、ふう、みい・・・・・七体。一人一体ずつか。」

 

「ヴァイパー、お前は本気でアレを一人で倒せると思っているのか?」

 

ベクターに窘められてヴァイパーは不貞腐れた。

 

「目算だよ、目算。ベクターやベルトウェイだったら楽勝でしょ?皆に出来て僕に出来ないって恥じゃん。僕ラッキーセブン」

 

「全員武器をフルオートに切り替えて応戦した方が良い。見た所コイツらは暗い所から立体的な素早い動きで撹乱してあの長い舌で奇襲を仕掛ける。眼球らしき物も見当たらないから、聴覚で狩りをすると見てほぼ間違い無い。」

 

フォーアイズは素早く特徴を分析して情報を共有した。

 

「つまりその発達し過ぎた聴覚を逆手に取れると言う訳か。全員スタングレネードを使え。爆発するまでのラグに気をつけろ。そして撃つのは奴らをある程度引き付けてからだ。闇雲に弾薬を消費するなよ?」

 

ルポは意味深長にライトマシンガンを持ったベルトウェイを一瞥する。

 

「へいへい、了解だよ隊長殿。フォーアイズ、死角は任せた。」

 

「・・・・・了解。」

 

新しいマガジンを取り付けて初弾を装填し、ベルトウェイの背後に回る。

 

「ヴァイパー、バーサ・・・・死ぬなよ?」

 

「そっちこそ。怪我しても麻酔使ってあげないわよ?」

 

「僕の死に場所はここじゃない。死ぬとかあり得ないから。」

 

殲滅、前進。

 

ただ、それだけ。何も変わらない。今も、これからも。

 


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