学園黙示録:Cub of the Wolfpack   作:i-pod男

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True Feelings

一点の曇りも無いスコープを通して、三人の女性が民家の塀を越え、それぞれ手に持ったピッケルやナイフなどで静かにその場にいる感染者を始末しては次の家へと進んで行くのが見える。

 

うつ伏せに寝たままAACハニーバジャーを構える竜次は軽く素早いリズムの呼吸を繰り返して三人の周りをしっかりと見ていた。だが何時しかスコープのレティクルは金髪の女の後頭部を追い始めている。

 

撃て、撃つんだ。

 

駄目だ。彼女は医者だ、いざと言う時手伝ってくれる人は多ければ多い程良い。それに短期間でバーサとフォーアイズの知識を叩き込まれた。まだ頼り無いが経験を積んで行けば今より更に使い物になる。

 

お前の大好きな母親を奪われているんだぞ?それでも良いのか?

 

奪われちゃいない。もし奪うつもりなら気付いてるし、とっくに殺してる。

 

あの女じゃない、娘の方だ。もし彼女が生きていたら、お前はそっちのけだ。お前はもう大人だ。自分の身は自分で守れるだろう。だが娘の方はどうだ?ただのガキに、奪われたいのか?

 

奪わせやしない。もし生きていたとしても、俺が立場を分からせてやる。俺が経験した地獄を味わわせ、俺と同じ兵士に仕立て上げる。生き延びればそれで良い。役に立てばそれで良い。死ねばそれまでさ。

 

もし彼女が死ねば、大好きな母親は壊れてしまうぞ?撃て。止めるんだ、そうなる前に。

 

黙れ!!!

 

全身が強張り、軽い曲げ伸ばしを続けていた人差し指を完全に曲げ切る前に、後ろから伸びた手が安全装置をかけた。

 

「ヴァイパー、ヴァイパー。私だよ。落ち着きたまえ。」

 

腰のナイフを抜きそうになったが、不健康なまでに青白い肌と落ち窪んだ割にはギョロリとした大きな目を見て柄から手を離した。

 

「全身に力が入り過ぎだ、それでは当たる物も当たらない。流れ弾がルポに当たったらどうするつもりだね?」

 

「スペクター・・・・」

 

「彼女達の援護は私に任せろ。」

 

肩に担いでいた狙撃銃、VSSヴィントレスのスコープを調整し、竜次と同じ伏せ撃ちの構えを取った。

 

「君の焦る気持ちが分かるなどと思い上がった事を言うつもりは無い。君とルポの関係は、皆とは一線を画す物だ。だが、そんな関係が許されるのは自分だけだとは思わない方が良い。それに種類はどうであれ、度を超した関係は波に晒された砂の城だ。」

 

落ち着きを取り戻した竜次は立ち上がって見回りを始めた。

 

「俺がソポクレスの『オイディプス王』みたいになるとでも?」

 

オイディプス。父と知らずに父を殺す事を、母と知らずに母を孕ませる事を運命付けられた、悲劇の王。またそうと気付くや、己の盲目さを呪い双眼を潰した、哀れな王。

 

その話を持ち出され、スペクターは小さく笑った。

 

「そうは言っていない。確かに君の守備範囲は広いが、そこまでマニアックな嗜好の持ち主ではないと知っているつもりだ。ただ、ルポには子供が二人いたと言う事を念頭に置いていて欲しい。それだけだ。」

 

そう。アンブレラを出奔して以来、本人ですら触れる事を禁じた話題。ルポの二人の子供の事だ。ヴァイパー ————竜次がルポと打ち解けてから数年後、良くその事を話していた。そして長い間竜次が代わりとなり、何時しか互いに本当の母子の様に接し、彼女の心の奥底にまで達する程の深い傷はゆっくりとだが確実に癒えていた。だが、やはりそれでも何かが足りないのだろう。

 

その足りない物を息子であると言うたった一つの理由で補う事が出来ない。それがどうしようも無く悔しい。もどかしい。だからだろうか、彼女が娘を捜しに行く事を止めようとしたのは?

 

「どう?調子は?」

 

「後三件先だが、まだ辿り着いていない。バーサとフォーアイズが目をかけているあの金髪美人が主に足を引っ張っているな。やはり馬鹿に付ける薬はないと言う事か。そっちはどうかね?」

 

外周をスコープ越しに見渡すが、特に怪しい人影は見当たらない。

 

「今の所は特に何も異常は無さそうだ。」

 

援護の役目をスペクターに替わって貰ったのは正解だった。心の折り合いがつかぬまま援護を続けていたら、間違い無くどこかでミスをしていただろう。何度か深呼吸をしているうちにまともな思考が出来る位に心は静まったが、それでも万全とは程遠い。

 

「お、辿り着いた。ふむ・・・・・ん?何だと・・・?」

 

「え?」

 

「生きている?!・・・・・生きていた、のか・・・・!?」

 

竜次は振り向き、スコープを覗いた。そして見た。ぐったりと動かない少女の脈を測り、頷き合う三人の姿を。

 

馬鹿な。そんな、馬鹿な。生きていたと言うのか?何故?どうやって?

 

一瞬にして視界が赤と黒が渦巻く禍々しい物に変わり、竜次はハニーバジャーの安全装置を外しており、構えていた。狙う先は、少女の頭。狙撃の技術はスペクター直伝の物だ、今では一キロ前後先にある人間の頭を横風があっても撃ち抜けるだけの技術はある。

 

後は彼女の顔がレティクルの中心に来るのを待つだけだ。

 

来い。来い。来い、的。

 

だが引き金を引き切る前に、一瞬首筋に痛みが走り、全身の筋肉から力が抜けた。倒れそうになった所を受け止められ、銃を取り上げられる。あっと言う間に視界が暗転した。

 

 

 

 

目覚めた時、竜次は鎖で雁字搦めにされていた。両腕は首と両足首に繋がる様に錠前が付けられており、ピッキング対策として両手の指も動かせない状態にある。

 

「気が付いたか、馬鹿が。」

 

声の主はベクターだった。顔をそちらに向けると、彼はパイプ椅子に座ってペン回しの様にバタフライナイフを指先で操っていた。

 

「あれ、吹き矢か・・・・」

 

「ああ。濃縮された麻酔薬に浸した物だ。」

 

「時間はどれ位経った?」

 

「一時間と少しだ。相変わらずお前の回復力は化け物並みだな。以前用心棒をやっていたプロレスラーに試した事があるが、半日程してからようやく覚醒したよ。それでもまだ意識は混濁していて口もまともにきけない状態だったが。」

 

「で?何で俺はここに転がされてる訳?」

 

「スペクターが無線でお前が情緒不安定になり始めているから頭を冷やしてやってくれと言われた。キレた時のお前は手の施しようが無い。故に俺が先手を打った。」

 

と言う事は、ルポ達が連れ帰ったあの少女は無事と言う事か。

 

「ベクターは、母さんがした事に納得してるって事?」

 

「イエスかノーで言えば、間違い無くノーだ。」

 

「なら———」

 

「だが、彼女は長年この部隊を差配して来た。俺が知る中で随一の指揮官だ。その能力を最大限に引き出す為なら已む無しとも考えている。長年戦場を共に渡り歩いた仲だ。戦士として、指揮官としての技量は信頼している。勿論、一人の人間としても尊敬に値する。」

 

ナイフを作業台の上に置き、転がされた竜次の隣で胡座をかいて再び口を開いた。

 

「だが、ルポは善くも悪くも『母親』だ。子供を二人も失って出来た心の傷は決して浅くない。その悲しみをお前と言う存在を側に置く事で和らげようとした。結果的にそれは成功したが、やはりまだどこか生々しい、治っていない部分が血を流し続けているのだろう。お前だけでは、今のお前ではもう足りないのだ。」

 

「何でだよ?俺はもう守る必要が無いってか?」

 

答えは聞かずとも分かっていたが、聞かずにはいられなかった。

 

「違う。お前が大人だからだ。有事の際、自分の身は自分で守れるだけの力と技術と知識を身に付けている。ルポは一方的に『守れる』存在を欲しているんだ。それが後々身の破滅を招く事になるのではないかと正直心配ではあるが。」

 

竜次は暴れてゴロゴロとその場で転がり始め、例の力を解放して鎖を引き千切ろうとしたが、ベクターが馬乗りになってすぐ抵抗出来なくなり、上腕に痛みが走った。

 

「いい加減にしろ、ガキかお前は。」

 

再び体に力から力が抜けて行く。恐らくまたあの濃縮ケタミンを注射されたのだろう。意識がある分、量か希釈を調整された物なのだろうが、竜次の動きを止めるのには充分だった。

 

「言った筈だ、俺だって納得している訳ではない、と。だがルポに死なれたくなければ、我慢しろ。そして必要な事だと受け入れろ。バーサやベルトウェイ、フォーアイズにスペクターも俺と似通った考えを持っている。」

 

「あっそ。じゃあ俺は考えを改めるまでここに閉じ込めとくつもり?」

 

「少なくとも、日付が変わるまではここにいて貰う。ルポも独断行動に対する相応のペナルティーを自分に課す様にと言っていた。協議の結果、期限は設けていないが、外出禁止、そして議論への参加禁止と言う事で落ち着いた。今はスペクターが代理と言う事で現場を仕切っている。俺はまた外周の見回りに行くが、よく考えておけ。お前にとって、我々にとって、何が一番大事か。」

 

そう言い残し、ベクターは竜次を床に転がしたまま階段を登って行った。地下室の頑丈な扉が閉まる音がして、静寂が訪れた。

 

「考えろ、ね・・・・・」

 

竜次の目は変色し、鎖を引っ張り始めると針金の様に曲がり始め、やがて糸の様に鎖を引き千切った。地下室の扉は恐らく外側から鍵がかかっている。抉じ開ける事も出来るがまた何らかのペナルティーを喰らう事になるのは目に見えているのでやめた。軽くストレッチをすると、鎖でつり下げられた大きなサンドバッグに向かい合った。

 

両足を肩幅程の距離を空けて開く。深呼吸と共にゆっくりと拳を握り込み、目線より僅かに高い位置で構える。軽く右足を引くと、捻りを利かせた鋭い回し蹴りを放った。臑がサンドバッグに叩き込まれると、爆竹の様な破裂音が響いた。打点を変えてそれを三度、四度、五度と繰り返して行く。逆の足でも同じ事をして、最後に拳と肘の嵐を繰り出した。

 

軽く汗をかき始めた所でサンドバッグの隣にある柱の方へ移動した。柱と行っても建物を支えている訳ではなく、形状はどちらかと言えばスタンド型のサンドバッグに近い。相違点は材料がカーボンと硬質のゴムである事と、そこから竜次に向かって四本の棒が突き出ている事だ。

 

上の二本は鎖骨辺りの高さに位置し、V字型に広がっている。中心の一本は鳩尾辺りの高さから突き出ており、一番下の棒は足を見立てているかの様に下に向かって緩やかなカーブを描いている。両手を開き、サンドバッグを使った時よりも更にコンパクトに構え、型を取り始める。

 

拳や肘、足が柱にぶつかる無機質でリズミカルな音に身を任せ、竜次は考え始めた。

 

『たとえ他者を蹴落としたり、見捨てたり、倫理や道徳の観念を捨てると言う事になっても、優先順位は遵守しなきゃならない。』

 

まさか人に言った言葉を自分で見つめ直す破目になるとは。

 

型を取るスピードが上がって行く。

 

自分が最も優先する物はウルフパックが生き長らえる事。では、ウルフパックが生き長らえるには何が必要か?答えは、優秀な指揮官が優秀であり続ける事。

 

では、優秀な指揮官が優秀であり続けるのに必要な物は?指揮官が助けたあの少女を死なせない事。

 

確かに屋上にいた時の自分は、自分ではなかった。ルポの事になるとやはり大なり小なり冷静さを欠いてしまう。ベルトウェイは良く竜次をマザコンだとからかっていたが、十中八九それは正しいかもしれない。

 

ウルフパックと言う一個の生命体は、例の少女を渋々とは言え受け入れる事となった。総意に断固反対しているのは自分だけ。自分がマザコンだと言うのが事実であるとしよう。ならば反対している理由は———

 

彼女を、母親(ルポ)をあの少女に取られたくないから?つまり嫉妬?自分は、嫉妬しているのか?会った事も無い赤の他人に?馬鹿な。そんな馬鹿な事があってたまるか。

 

『俺達は誰一人欠けさせないし、欠けてはいけない。全員揃っているからこそ意味がある。ウルフパックはそうやって生き延びて来た。』

 

ならばやる事は一つ。ルポが助けた少女の存在を受け入れる事だ。ウルフパックの生存に繋がるのであれば、下らないプライドの一つや二つなど犬に食わせれば良い。だがどう言う訳かどうしても腹に据えかねる。

 

最後にもう一発だけ柱を殴り、構えを解いた。

 

「何があったか聞いたよ。」

 

戸口に冴子が立っていた。手には手料理らしき物を盛りつけた盆が乗っている。

 

「・・・・何の用だ?」

 

「空腹かと思って食べる物を持って来た。出来るだけ物を使うなと釘を刺されたから簡単な物しか作れなかったが。」

 

実際、竜次は今かなり空腹だった。一度半月以上水以外何も口にせずに生き延びた事があるがあの時は非常時であった為、そう何度も出来る様な事ではない。

 

しかしそれでも食べる気には慣れなかった。

 

「後で食べる。どこか適当に置いて上に戻っていろ。見張りには人手がいる。」

 

盆が置かれる音がしたが、冴子が部屋を出た気配は無い。

 

「竜次を見張る様に言われた。君の母に・・・・ルポさんに。君は縛られているとベクターさんから聞いたのだが?」

 

竜次は冴子に背を向けたまま引き千切った鎖を指差した。

 

「余程頑丈な材料で作られていない限り、力づくでどうにか出来る。そう言えば、約束の物をまだ渡していなかったな。」

 

ポケットから細い鎖を引っ張り出した。それには小さな十字架とタグ、そして精巧な模様が彫り込まれた銃弾が通されている。

 

「それを、私に・・・・?」

 

「言った筈だぞ?俺達にしか分からない、お前が俺の物だと言う証をいずれ渡すと。あの後、色々と忙しくて渡しそびれていたから忘れないうちにな。ほら。」

 

揺らすとチリンと音が鳴る。

 

「つけて、くれないか?」

 

何故か彼女の方を向きたくなかった。だが、自分からああ言ってしまった手前取り消す訳にも行かない。仕方なしにゆっくりと、本当にゆっくりと振り向いた。出来るだけ彼女の方を見ない様にしながら首に手を回し、金具を留める。

 

「目が赤かったぞ?」

 

「は?」

 

虚を突かれたその質問に竜次はぎょっとして思わず顔を上げた。

 

「泣いていたのか?」

 

「何で俺が泣いて———」

 

その刹那、目尻から一粒の涙が零れ、頬を伝って床に落ちた。

 

ちょっと待て。

 

竜次はもしやと思い、一階に続くドアの近くに設置された洗面器へと大股で駆け寄り、壁にかかった鏡を見た。そこに写っていたのは、充血した虚ろな目をした汗だくな紛う事無き自分の姿だった。涙の後もハッキリと見て取れる。

 

つまり自分は考えている間、訓練をしている間、汗をかきつつもずっと泣いていたと言う事になる。

 

鏡から目を背け、作業台に向かった。そこに冴子が作った握り飯と味噌汁、卵焼き、そして網で焼かれた目刺が数匹、皿に盛りつけられていた。

 

もう良い。今はとりあえず考えるのをやめよう。余計に頭がグチャグチャになる。今は兎に角、欲望に身を任せ、安易な満足感に浸りたい。そうでもしなければ————

 

自ら命を絶ちかねない。

 

握り飯を手に取り、大きく噛りついた。次に味噌汁を一口飲む。再び握り飯を食べる。

 

「どうだろうか?」

 

心配そうにおずおずと冴子が尋ねた。

 

冷めてしまっているが、どうでも良い。どうせ食べるなら美味い物を食べるに越した事は無いが、生きるか死ぬかの状況が常だった。選り好みなどしないし、出来ない。食えるか食えないか、食う量が多いか少ないか、。考えなければならないのはそれだけだ。

 

「出来立ての時の方が遥かに美味かっただろう。」

 

そう言いつつ卵焼きを丸ごと口に放り込んだ。仄かに甘いこの味は砂糖醤油を使っているからだろうか?焼き加減も絶妙だ。

 

「だが、これでも十分美味いぞ。」

 

握り飯と卵焼きを食べ終えると次に目刺に手を伸ばした。噛めば噛む程独特の苦みと旨味が染み出る目刺は、流した涙と汗で消費した塩分を回復してくれた。最後に残った味噌汁を飲み干し、手を合わせる。

 

「竜次。」

 

「ん?」

 

「ここに来たのは、指示されたと言うのは事実だ。だが私が志願したのだ。君に見て欲しい物がある。」

 

手を取られ、竜次は振り向かされた。そこで初めて冴子の胸にあるローマ数字のタトゥーに気付いた。

 

「私のこれは、摩利支天だ。まだ侍が存在する時代に信仰されていた。著名な者で言えば山本勘助や毛利元就が旗印として用いたらしい。強き先駆けであり続けられる様にと思ってこれを背に刻んだ。」

 

そう言いつつ、冴子は後ろを向き、タンクトップを脱ぎ捨てた。彼女の背中に彫られたタトゥーを見た瞬間、竜次は思わずはっと息を飲んだ。背中の右肩甲骨辺りには枝から芽吹く八輪の八重桜が、反対側には蓮の花の中心に梵字が彫ってある。

 

「君が何故泣いていたか・・・・理由は聞かない。だがもし私にその痛みの万分の一でも和らげる事が出来るならば手伝わせて欲しい。」

 

そう言いつつ竜次に向き直った瞬間、ひっくり返って天井を見上げていた。

 

「なら、是非手伝ってくれ。」

 

しかし顔を近づけた瞬間、腹に痛みを感じ、位置を入れ替えられた。

 

「殴った事は謝罪する。しかし手伝うのならば、私に主導権を譲ってもらいたい。初めてを奪われた時は君に攻められっぱなしだったからな。今度は私の番だ。」

 

両手を頭の上で押さえ付けたまま冴子は竜次に覆い被さり優しくキスをした。竜次の上体を起こすとシャツを脱がせ、彼を優しく抱きしめた。

 

「私は、死んでも君の側を離れないよ。」

 

熱くなった吐息と共に竜次の耳元でそう囁いた。

 

「私は君の女だ、だからそれらしく振る舞わせてもらうよ。今度は、私が君を悦ばせる番だ。」

 

鎖骨辺りに舌を這わせながら冴子は目を爛々と輝かせた。

 

始めて彼に抱かれた時の荒々しくも慣れた手付き、動き、そして言葉であっと言う間に、短時間で何度も気をやってしまった事から、竜次は過去に女を何人も抱いていると理解した。それも恐らく両手の指では数えられない数の女を。そんな経験豊富な男の技に堕ちない女はいない。立った一度であろうと、その毒牙に掛かれば脳髄が焼き切れ、ハレーションが見える様な陶酔を求めずにはいられなくなる。彼から離れられなくなる。

 

それなら、自分もまた彼が離れられない位に溺れさせてやろう。時間ならたっぷりある。


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