学園黙示録:Cub of the Wolfpack   作:i-pod男

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原作突入までもう少しゲームの方のエピソードを入れますが、タイトル詐欺だと誤解されない様に極力抑えます。


Containment

ウルフパックはハンクを援護してバーキンの私兵となったUBCSを蹴散らしながら狭い廊下を駆け抜けた。コンピューターサーバーが部屋の端に陳列しているだだっ広いラウンジに入った瞬間、ブザーと共に赤い警報灯が明滅し始める。

 

『緊急事態発生!施設内に侵入者を確認。研究員は侵入者との接触を回避せよ!』

 

アナウンスが流れるのを聞いてヴァイパーは嘆息した。

 

「まさか僕らが来るのバレちゃった?」

 

「それはあり得ん。断じて我々ではない。アンブレラに承認されたアクセスを使用している。いずれにせよ、やり難くなる事に変わりは無いから気を引き締めろ。」

 

耳障りなブザーが鳴り止まない中、ラボの一つへと辿り着いた。何を思ったのかフォーアイズはそこに置かれているコンピューターの一つを起動し、キーを叩き始める。

 

「あれ、フォーアイズ何やってるの?」

 

「回収。」

 

手短にそう答えたフォーアイズはヴァイパーには目もくれずに画面をスクロールしながら数式や記号、画像を追いながらファイルを記録端末にコピーして行く。

 

「主語入れてよ。いや、でも流石にデータらしきデータなんてもう残ってないんじゃない?こんな分かり易過ぎる所に情報を残す程バーキンがアホなら誰も出張らずにスペクターのハッキングでどうにでもなってた筈だよ。」

 

そうなれば今頃自分はたらふく食べて惰眠を貪っているだろう、とヴァイパーは心の中で付け足す。

「ああ、G-ウィルスの研究データはまず間違い無くバーキンが処分しただろうな。だが、何も使えるのはそのデータだけと言う訳じゃない。別物だろうと、手に入るデータが断片的な物だろうと充分価値は有る。」

 

「ヒヒヒッ、成程。確かにな。考えたくはないが、もしウィルスのサンプルを手に入れられなかった場合を想定すると、手ぶらで帰る訳にはいかないか。そう言う事なら私も手を貸すとしよう。ベルトウェイ、ヴァイパーと部屋を消毒して記録媒体を見つけたらこのテーブルに積み上げてくれ。使えそうな物なら回収する。修復作業は帰ってからだ。」

 

スペクターも記録媒体をコンピューターに繋いではキーボードを凄まじい勢いで叩きながら中身を確認して行く。

 

「マスター、バーキンに逃げられたら元も子もありません。」

 

「バーキンが内部の構造を熟知していたとして、単身で我々から逃げ切る事など不可能だ。護衛の特殊部隊が来るまでその場からは動かないし動けないだろう。データ回収に必要な時間は?」

 

「このペースなら一分以内。」

 

「こちらはもう少し掛かる。サルベージ出来た情報は思っていたより少ないが、個人的に使える物が幾つかあった。三分だけ待ってくれ。」

 

作業が完了した後、ハンクは壁のキーパッドに暗証番号を入力して重複した分厚い鋼鉄のシャッターを開く。そこで待つ様ハンクに指示されていたのか、彼と似通った服装と装備を身に付けた者がいた。体型からして男だろう。

 

「デルタチーム、このドアを死守しろ。誰一人中に入れるな。」

 

ウィリアム・バーキンの名前が書かれたシャッターを開き、ハンクはその中へ待機していたアルファチームメンバーと入った。

 

「遂に来たか・・・・」

 

「博士、G-ウィルスを渡してもらう。」

 

「残念ながら拒否させて頂くよ。人生を捧げたライフワークをそう易々と渡せる物か。」

 

直後に銃声とバーキンの断末魔、そしてG-ウィルス確保の旨を本部に伝えるハンクの声が通信機を通して全員の耳に届いた。だが言い知れぬ漠然とした嫌な予感を感じたヴァイパーは右側にある同じ重複した鋼鉄のシャッターに目をやった。

 

「ドアから離れろ!!」

 

その直後、耳を劈くと共にそのシャッターが粉々に吹き飛び、ウルフパックも密閉された逃げ場の無い所を爆風に煽られて仰け反った。重い装備を身に付けていて一番先に伏せたが、それでもチームで一番体重が軽い故にヴァイパーが一番影響を受けた。紙切れの様に宙を舞い、壁に叩き付けられる。

 

一瞬視界が真っ暗になり、耳も甲高いキーンと言う音しか聞こえなくなって使い物にならない。強い力で襟を掴まれ、遮蔽物の後ろに引っぱり込まれるのを感じた。視界が戻ると、ベルトウェイが隣でM4A1を乱射していた。マガジンの弾が切れ、再び身を隠して再装填する。

 

「おいヴァイパー、大丈夫か?!」

 

「今頭がスッゲー痛い。耳も殆ど役に立たないかも。」

 

「しばらく待ってりゃそん位直ぐに治る、突発性の難聴だ。それより喜べ!バーキンとウィルスを迎えに来た特殊部隊の野郎共だ!警報が鳴った原因を作ったのはコイツらだぜ!」

 

新たに銃撃音と叫び声が入り乱れる中でベルトウェイの行っている事を聞き取るのは至難の業だったが、何とか『迎え』と『特殊部隊』と言う単語だけは聞き取れた。

 

「イライラするぜ、吹っ飛ばすのは俺が専門だってのによお!」

 

回復の兆しが濃くなって来た所でヴァイパーは薬室に銃弾が装填されているのを確認すると、吹き飛ばしたシャッターから銃弾を浴びせて来る特殊部隊に向けて発砲してベルトウェイを援護した。だがその時、ふと一人足りない事に気付いた。

 

「あれ、ベクターは?」

 

「あの忍者野郎ならさっき透明になって奴らを後ろから潰してくって張り切ってたぜ。『死神』の前で良い所見せたいんだろうな。」

 

「知り合いなのは会話から分かるけど、あの二人ってどう言う関係なのか、なっ!」

 

指切りバーストの連射で二人殺し、間髪入れず爆破で開通した穴に比較的距離が近いスペクターが手榴弾を投げ込んだ。

 

「各員、ベクターからの連絡を待て。」

 

「了解。」

 

一瞬空間が揺らめき、血まみれのナイフとベレッタを握ったベクターが現れた。

 

『ウルフパック、こちらベクター。脅威対象は全て排除した。マスター、オールクリアです。』

 

「私のPDAからも敵の反応は無い。」

 

「スペクター、こんな状況で為損じるなんて事はしない。まあ、あれだけで済むとは思えないがな。」

 

「長居は無用だ、ついて来い。」

 

ウィルスサンプル入りの大型トランクを脇に抱えたアルファチームのメンバーを囲む様に隊伍を組んでハンクに先導されるままに業務用エレベーターに乗り込んだ。その途中で肌がゾワリと泡立つほど不気味な何かの咆哮を聞いたが、今はどうでも良い。

 

「ゴブリン6、そちらの状況は?」

 

ハンクの言葉に応えたのは女性の声だった。

 

『こちらゴブリン6、上階は安全です。地上への避難経路も全て封鎖されていますので合流地点でお待ちしています。』

 

「了解。」

 

『アルファチーム、報告しろ。サンプルは手に入れたのか?』

 

「ああ。現在合流地点に向かっている。」

 

『了解した。』

 

通信が切れた所でヴァイパーは嫌悪感を隠そうともせずにどういたしましてと皮肉って呟いた。やはり本部で連絡をしている男の高圧的な態度が癇に障るのだ。

 

「確かに、ボーナスって事で危険手当位は上乗せして貰いてえわな。」

 

ヴァイパーの皮肉にベルトウェイもジョークを飛ばす。

 

「ベルトウェイ、これ以上ふざける様なら私から本部に貴様の報酬を減らす様に提言するぞ。」

 

ルポの脅しに流石のベルトウェイも怒気を孕んだ彼女の眼力には逆らえないのか、ガスマスクの奥で口を噤んだ。巨漢を畏縮させるその視線は恐ろしいの一言に尽きた。

 

「うぉ〜、隊長怖っ!」

 

「お前もだぞヴァイパー。任務中に一々余計な茶々を入れるな。」

 

「・・・・はい。」

 

障らぬ神に祟りなし。家庭内で子供に暴力を振るった夫を素手で殺し、その裁判であろう事か無罪を勝ち取った心身共に強かな女を怒らせる程愚かしい事は無い。それ以降ベルトウェイもヴァイパーも必要な時以外は沈黙を貫いた。

 

エレベーターが止まり、皆は出口を目指して走り始めた。だが途中から堅い地面を打つ九人分の足音以外の地響きにも似た音が聞こえる。ルポやベクターなどのウルフパックの中でも随一の俊足

を持つ二人の間を走っていたヴァイパーもそれを感じた。

 

「隊長。」

 

「うるさい。給料減らすぞ。」

 

「いや、でも・・・」

 

続けようとした所で後ろから唸り声が聞こえた。振り返ると不自然に筋肉が盛り上がった身長五メートル近くの化け物が唸り声を上げながら巨大な鉄パイプを振り下ろそうとしていた。標的にされたのは、ケースを持ったアルファチームのメンバーだった。咄嗟に持っていたケースでその一撃を防ぎきったが、あまりのパワーにケース諸共吹き飛ばされ、ハンクに激突した。ケースはパイプが当たった所が無惨にアルミ缶の様に拉げ、電子ロックが故障したのか落ちた衝撃で開いてしまう。それによって中のT-ウィルスのサンプルが中から弾き飛ばされ、落ちた衝撃で割れてしまう。無傷だった最後のサンプルもバーキンが踏み潰した。

 

「Merde(クソッ)!」

 

普段は言葉遣いに厳しいルポが珍しく悪態を、それもフランス語でついた。

 

先程の一撃から回復したハンクはライフルを構えてその化け物に向けて発砲し、ある事に気付いた。体付きは歪な物になっているが、頭だけは普通の人間と同じだ。そして特徴のあるその顔は、バーキンの物だった。

 

それによって導き出されるのはバーキンは凶弾に倒れながらも死力を尽くしてウィルスを体内に注入した、と言う答え。

 

一瞬ほうけてしまっていたが皆は直ぐに銃口をバーキンに向けて発砲した。だが虫に刺された位の痛みしか感じないのか、鉄パイプを引き摺ってどんどん近付いて来る。幸いと言うべきか、下半身はまだ発達しておらず、動きが遅い。歪に筋肉が盛り上がった上半身を支える事に力を使っているからだろう。

 

「走れ!」

 

ウィルスサンプルは破壊されてしまった。流出してしまった以上、今からラクーンシティー全域に広がるのは最早時間の問題だろう。覆水盆に返らずとはこの事だ。ヴァイパーは腹式呼吸と走りのペースを少し上げた。ライフルの銃弾が利かない相手とまともに戦うなど自殺行為でしかない。確実に無力化するならRPGやロケットランチャー、欲を言えば戦車ぐらいの火力が望ましいが、そんな物が都合良く近場に転がっている筈も無い為、逃げるしか無い。

 

「隊長、良いニュースと悪いニュースがある。いいニュースは、施設の見取り図からして、我々が現在通っているこの廊下は脱出用の最短ルートだ。悪いニュースは、ハッキングしたカメラのリアルタイム映像で特殊部隊の新手が先の方で待ち構えているのを確認した。まあ、我々に掛かれば障害と呼べる障害はそれぐらいしか無いが、後ろのアレを考えると厄介だ。」

 

「報告ご苦労。それの対処は後で考える。今は兎に角逃げ切れ!」

 

最後尾ではハンクとベルトウェイがバーキンに向かって足止めに撃ち続けて弱点を探していた。と、偶然にも二人が撃った銃弾の何発かがバーキンの右腕に現れた巨大な血走った眼球に当たると、元々鈍かったバーキンの動きは更に遅くなった。

 

「おお、やったぜ!」

 

「成程、あれが弱点か。各員、バーキンが近付き過ぎたら奴の右腕に現れた眼球を狙え!」

「いやいや、どうせならこいつで出来るだけダメージ食らわせましょうや、死神の旦那。」

ベルトウェイは背負ったデイパックに括り付けられたティーカップの受け皿程のサイズがある円盤を取り出し、フリスビーよろしくバーキンの右肩目掛けて投げつけた。右肩の目に当たりはしなかった物の、理性を失い図体が大きくなったバーキンに当てるのは容易だった。円盤の中心は赤くピコピコと点滅を始め、爆発を起こした。

 

「ルポ、今指向性の爆弾で奴の動きを鈍らせた!もっと速く走ってコイツとの距離を出来るだけ稼げ!」

 

一人だけが弾薬を大量に消費をにするのを避ける為にバーキンを足止めする殿の役割を時折交替しながら急いだ。

 

だがT-ウィルスを上回る効力を持つG-ウィルスは想像を遥かに超える力をバーキンに齎した様で、決定打を未だに与えられないまま追われている。バーキンが暴れ回る所為でアルファチームメンバーの一人は呆気無く死亡、時折ルート上にあるシャッターが誤作動を起こして開かなかったり、スペクターの言葉通り特殊部隊の待ち伏せもあった。

 

それらを突破した所で、ハンクはウルフパックをドアの向こう側に押しやり始めた。

 

「行け!自らにG-ウィルスを投与したバーキン相手に、お前達に出来る事は何も無い!ここから脱出して本部にこの事を全て報告しろ。」

 

扉を閉めようとした所でベクターがそれを止めた。

 

「マスター、貴方はどうするつもりです?」

 

「・・・・・サンプルを紛失した。まだ破損していない物が残っている。回収に戻らねばならん。」

 

ガスマスクの所為で表情は見えないが、ベクターには心持ち師の口調が何時もよりほんの僅かに柔らかく聞こえた。ドアが閉じられ、向こう側から施錠されてしまった。

 

「ほっといて良いの、アレ?」

 

「・・・・・心配無用だ。あの人は・・・・・死神は死なん。戻るぞ。」

 

任務であろうと無かろうと感情を殆ど表に出さなかったベクターの声はどこか沈んでいたのをヴァイパーは感じた。声の震えをを悟られぬ様にそれ以降は何も言わず、足早に動き出した。


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