学園黙示録:Cub of the Wolfpack   作:i-pod男

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ストック用の話を書いているうちに投稿が遅れました。しかも短めです、すいません。


The Return The Six

橙色の夕焼けはもう殆ど水平線の彼方で沈みかけていた。頼りになる光源は最早時折明滅する街灯の灯りと車のヘッドライトぐらいしか無い。

 

車体が大きいシボレー・タホはベルトウェイが運転する間、サンルーフから頭を突き出したスペクターがゴーグルの暗視モードで辺りを警戒し、ルポがフォルクスワーゲンのハンドルを握ってベクターが後部座席で背後を警戒する。勿論定期的に異常が無い事を車間同士で報告するのも忘れない。

 

一行は確実にセーフハウスへ進んではいたが、進行スピードは日常的に運転する時よりは格段に遅かった。人気が無くなった夜道を走る車はハイブリッド車でも案外うるさい。小規模の群れならば先行するタホの馬力に物を言わせて突破は出来る。だがうっかり感染者の巨大な群れと鉢合わせてしまえば必然的にバックしなければならない。そうするうちに背後から追って来る小規模の群れが合併して前後を感染者に、左右を壁に挟まれる。車を捨てるのはどうとでもなるが、余分に積んだ物資を放置するのはあまりにも勿体無い。

 

その為運転は何時も以上に細心の注意を払い、ポツリポツリと進行方向に現れる数体の感染者を轢殺する時を除いて加速する事は無かった。何事も無く三十分程の時間が経過した。

「ルポ、さっきからお腹擦ってるけど大丈夫?まさか怪我?それとも噛まれた?」

 

バーサに指摘され、ルポは無意識に折り畳まれた写真を収めている横腹のポケットを撫でる手を放し、再びハンドルを両手で握り直した。

 

「大丈夫だ、どちらでもない。」

 

「知ってるわよ。早く会いたいんでしょ?分かるわ。」

 

でも、と優しい声が一転して冷たく、女性の声とは思えない程ドスの効いた声で囁いた。首筋も金属製の何かが押し当てられている。ルームミラーを一瞥すると、予想通りバーサが職業上最も使い慣れている手術用のメスだった。

 

「逸る気持ちで事故ったりしたら、幾ら隊長(アナタ)でも、只では済まさない。それでベクターが死ぬか噛まれる様な事になったら、遠慮無くぶち殺すわよ?確かにヴァイパーは皆に取って特別な存在だし、貴方にとっては人一倍特別。でも、忘れないで。ヴァイパーが貴方にとってそうである様に、私にとってベクターは別路線で人一倍特別なのよ。」

ルポは硬い表情で小さく頷き、それと同時にバーサはメスを引っ込めた。

 

「スペクター。目算だが、後続の感染者の数が二百を超えた。距離30メートル。」

 

「ならばそろそろ疑似餌を撒く頃合いと言う事だね。ベルトウェイ、ルポ、右に曲がったら停車、エンジンも切ってくれ。」

 

二台は路肩へ寄って停車し、エンジンを切った。刹那、辺りは闇に包まれた。

 

ルーフを小さく叩いて合図を送ると、後部座席にいるフォーアイズが彼の銃を受け取り、代わりにゴルフボールサイズの球体とスリングショットを渡した。それを限界まで引き絞ると、極自然にリリースした。普通に投げる時とは比べ物にならない程の勢いでボールは夜の空へと消えて行き、十秒程してから凄まじい破裂音が断続的に響いた。

 

「まだエンジンはかけないでくれよ?確実に食い付かせてギリギリまで距離を離す。合図を待て。」

 

極小さい声でも無線のインカムに付いた高性能のマイクで十分伝わった。

 

長距離から一撃必殺の狙撃で相手を屠るのがスナイパーだ。その間は気取られたり、狙いを外したりしない様に体勢を何時間であろうと維持し続けなければならない。腹式呼吸を意識して感染者の様子を見守った。狙い通り、破裂音が止んでも、感染者の群れは音がした方向へ進む事をやめなかった。進もうとしていた道にいた群れも散って行く。腕のレーダー装置で群れの距離が100メートルを超えた所で指先でルーフを弾いた。

 

タホとフォルクスワーゲンは同時にエンジンを点火してバックすると、元の道に戻ってアクセルを思い切り踏んで発進した。丁度上がり坂もない一本道なので感染者との距離をかなり離す事が出来た筈だ。

 

「後何キロだスペクター?」

 

「4.5キロ!もっと速度を落とせ、次の交差点で左に曲がる。今だ!」

 

速度は落としはしたがそれでも急にカーブした事に変わりは無い。物理の法則に従って二台の車は右の前輪と後輪が地面から離れたまま数秒程走行を続け、スペクターは危うく車から放り出されそうになった。銃を持っていた状態でああなったら間違い無く放り出されてあの世行きだろう。

 

「ベルトウェイ、お前は耳が腐っているのか?私はもっと速度を落とせと言ったんだぞ!?お前5キロしか減速していないだろう?!」

 

「バレたか。」

 

『ベルトウェイ、いい加減にしろ。ヴァイパーと合流するにあたってチームの通信兵兼狙撃兵を失う訳には行かん。今度はお前が作ったIEDか地雷でもう一方の足どころか下半身を吹き飛ばすぞ。』

 

「おお怖っ!わりぃわりぃ。久々の無謀運転(ジョイライド)が楽しくてよぉ。すまねえ。」

 

チーム一の巨体を誇る若手のムードメイカーも然しものルポに軽口は叩けず、素直に謝罪した。

 

「後2キロ先の角を右に曲がってそのまま約500メートル進めばもうすぐだ。」

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃、竜次は目を覚ました。タオルケットと散乱した衣服をどかし、腕時計を確認した。ぼんやりと光る針は既に十時を回り、もう十一時半前後を指していた。その隣では寝返りを打ちながらも冴子は静かに寝息を立てている。タオルケットで裸体は隠れてはいるがそうでない所は至る箇所に竜次が付けた歯形とキスマークがあった。量の多さから蕁麻疹の様に見える。

 

竜次からすれば予想通りだが、冴子は処女だった。ぎこちなくもペースや動き合わせようと努力したが、当然慣れている筈も無くされるがままだった。はしたない喘ぎ声を漏らすまいと努力して口を抑えても、抑えた所で弱点を攻め抜かれてそれ以上の快楽に嬌声を上げずにはいられず、成す術が無かった。そして我慢も出来ずとうとう達してしまった。

 

それで箍が外れたのか、その後は先程まで処女だったとは思えない程に乱れた。普段からは想像もつかない様な言葉遣いで積極的に竜次に身を委ねた。緩急を付けて時折体勢を変えてねちっこく、そしてたまに荒々しく貫かれ、ほぼ半狂乱だった。二回、三回と行為を続け、一度目より二度目、二度目より三度目の方がより高く、遠くに意識が飛んで行った。性格や体の相性も今まで可愛がって来た女の中では三本の指に入る。戦闘中はサディスティックな所がある彼女が閨ではかなりマゾヒスティックだと言う事も分かり、多いに満足した。暴力とセックスは密接な関係を持つと良く言われているが、彼女は正にそれを体現している。

 

彼女が意識を手放した所で自分も簡単に辺りを片付けて眠りにつき、今に至る。清潔な服を箪笥から取り出して身につけると、二丁の銃とナイフ、ベストを身に付けて屋上に上った出た。今までずっと見張りを続けていたのか、鉢植えが幾つか置いてある屋上のデッキチェアで涎を垂らしながらコータが眠りこけていた。

 

「コータ、寝るのは構わんが中で寝ろ。」

 

ズレた眼鏡を外して目を擦ると、欠伸をしてコータは目を覚ました。欠伸を噛み殺しながらおはようと挨拶を交わす。

 

「で、眠るまではどうなってた?」

 

「一人二連散弾銃を持っていた奴がいたけど、直ぐに噛まれた。ここにある小型テレビで床主大橋や御別橋の中継を流してるのを見たけど、かなりヤバいよ。しまいにはアメリカ政府との陰謀説を唱える奴まで出て来るし。後、橋とは反対側にも感染者が向かっていたのが見えたから、何かやってる人がいるんじゃないかな?発砲の音とは違う別の破裂音が聞こえたし。」

 

それを聞き、コータが寝ていたデッキチェアの隣にある双眼鏡を取って彼が示した方向に目を向けた。外国航路を渡る船長が使う様な高性能の物である為、倍率もかなり高い。確かに遠くの方から僅かだが車のヘッドライトらしき一対の光の点が見える。

 

「来た。皆が帰って来た。俺の仲間が。俺の・・・・家族が!」

 

MP7のスリングを外し、手持ちのマガジンと共にそれをコータに押し付けた。

 

「車から降りたら、六人の背後と両脇にいる奴らを片付けろ。外すなよ。」

 

言うや否や、皆が寝ている事などおかまい無しにドタドタと下に駆け下りた。自室の部屋の引き出しに入っている無線機の電源をオンにし、チャンネルを合わせるとインカムから声がし始める。ガスマスクを付けながら地上階まで降りる。

 

「皆、後もう少しだから。屋上と地上から援護射撃が来るよ。」

 

『ヴァイパーか。分かった。だが程々にしておけよ、お互い弾は出来るだけ温存したいだろう。』

 

ドアを開き、P-14の薬室に弾が入っている事を確認してからサイレンサーを装着し、レーザーポインターを起動した。マスクの目を暗視モードに切り替え、視界が薄暗い緑色に変わった。こちらに向かって極力音を立てず小走りでウルフパックが向かって来る。ベルトウェイとスペクターはセーフハウスから援護している方と自分達の弾の消費を更に抑える為、車の中からスリングショットで放ったのと同じ物を一戸建ての塀の中に放り込んで道を開いていた。反応して左右に分かれた所を素早く通り抜ける。

 

玄関先から狙える所は限られているが夜間であるにも拘らず竜次とコータは隊伍を組んだ六人の後ろから来る感染者に的確にヘッドショットを浴びせて安全を確保していた。全員入って門を締めた所で何故か竜次は先頭にいたルポに銃口を向けた。

 

「強者の理屈は?」

 

「・・・・いつでも罷り通る。」

 

そう答えた所で竜次は銃の安全装置をかけて撃鉄を寝かせ、ホルスターに収めた。全員がセーフハウスの中に入った所でルポとしっかり抱き合った。先程の質問は、合言葉だったのだ。

 

「待たせてすまなかったな、リュウジ。」

 

「遅いよ、母さん。でも良いよ。これでやっと少しだけ安心出来るから。」

 

「感動の再会に水を差す様で悪いが、ベルトウェイがデカいし玄関は狭い。お世辞にもあまり居心地が良いと言える様な所じゃないんだ。リビングで冷えた茶の一杯でも飲みたいんだが?」

 

「あ、俺はコーラで頼むぜ!」

 

ベクターの言葉に便乗してベルトウェイも注文を追加した。

 

用意しとく、と竜次は言い残し、喜びと安心を噛み締めながらリビングに向かった。

 

やっと帰って来た。

 

やっと再会出来た。

 

これでまた、心置き無く背中を預けられるし預けてもらえる。

 

また、ラッキーセブンの幸運でまた少し皆を守る事が出来る。


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