学園黙示録:Cub of the Wolfpack   作:i-pod男

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え〜、色々と書いては消し、消しては書きの見切り発車を繰り返していますi-pod男です。今回はある程度書き溜めが出来たのでこちらから投稿します。

バイオハザード:オペレーション・ラクーンシティーの後日談でHOTDに繋げて行きますが、そうする前にゲームのルートに沿って書きます。

HOTD原作はギャグが多めですが、拙作はアメリカのテレビシリーズ『ウォーキングデッド』のシリアス調を取り入れて行こうと思います。既にシーズン5も終わったらしいので。銃や武器などの詳しい情報は出来る限り本文の方に取り入れますが、それでもまだ分からないと言う方がいるかもしれないので、場合によっては補足と言う形で後書きの方にも入れるつもりです。


Retrieval of G

1998年9月某日

 

『アンブレラ』の社名は『傘で人類を庇護する』と言う目標に基づいて付けられた物で、薬品以外に医療機器の開発と販売を行っている今までに無い程巨大化した国際企業だ。

 

だがその裏で非人道的な人体実験、そして生物兵器の開発と研究をしている。そしてその莫大な利益で社会の裏と表の両面で勢力を伸ばし、根を深く張っている。

 

しかしいくら優秀な大企業とは言え、間違いは必ず起こるものだ。

 

ある日、アメリカ合衆国中西部にある企業城下町『ラクーンシティー』にある研究施設の一つから『T-ウィルス』と言う感染力が非情に高いウィルスとそれがもたらす凄惨な効力を映した動画が漏洩した。アンブレラはこの事態を収拾する為に社が保有する準軍事組織である保安警察アンブレラ・セキュリティーサービス、通称USS部隊を証拠隠滅及び生存者抹殺の為に投入した。

 

だがUSSのメンバーに知らされなかった事が一つある。それはアンブレラがこのバイオハザードの混乱に乗じて生体兵器(BOW)も投入し、その実戦データを得ようとしている事だ。

 

黒一色で統一された防弾ベストや重火器以外の装備を収納するタクティカルベストに身を固めた男女七人は、銘々支給されたアクセサリ—付きのM4A1とベレッタM92FSで武装している。それに加え全員が顔の殆どもしくは頭部全体を覆うガスマスクを装着している為に素顔も碌に見えず、闇に紛れて動く彼らは正しく死神の使いと呼べよう。彼らこそがアンブレラの汚れ仕事を請け負うUSSのデルタチーム、通称『ウルフパック』である。

 

『こちら本部、聞こえるか?』

 

全員のガスマスクに内蔵された通信機からイギリスなまりの英語を喋る男の声がした。それに対して短い茶髪を後ろで一つに束ねた女性がハスキーな声で受け答えする。

 

「こちらデルタチーム隊長のルポだ。感度良好。』

 

『よし。お前達の任務は先遣隊アルファチームのサポートだ。隊長のハンクと合流し、彼をサポートしろ。武器の使用も許可する。』

 

「了解した。ウルフパック、行くぞ。」

 

ルポを先頭にアンブレラの工場地下にある生物兵器の研究施設へと続く隠し通路へと入り込み、移動している間は誰一人として口を開く者はおらず、銃の点検をし直したり足腰を解す為に歩きながら出来る簡単なストレッチをしていた。壁に張られているプレートや天井から下げられている標識が示す方向に従って進み、やがてアンブレラ社のエンブレムが入った鋼鉄のシャッターの前に辿り着いた。

 

「アルファリーダー、指定位置に到着。」

 

『了解、合流するまで待機していろ。』

 

最後尾で発せられた幼く、酷く場違いな少年の声に六人は一斉に振り向いた。ガスマスクの奥から咎める視線が最後尾の彼に注がれる。と言うのも、チームの皆と同じ装備を持ち歩いているその声の主である七人目は他の六人よりも頭二つ分程背が低い、幼い子供なのだ。

 

「良いだろ別に。所属は同じなんだから。」

 

まるで自分がヘマをしたとでも言いた気な周りの空気に少年はガスマスクの奥で難色を示した。

 

「こんな所にガキを連れて来たなんて向こうが知ったらナメられるに決まってんだろうが。」

 

左脚の膝から下に金属製の義肢をつけた一番大柄な男が拳で少年の頭を軽く小突いた。

 

「都市ゲリラ戦の訓練で真っ先にそのガキに落とされてるデカい的に言われたくないよ。」

 

その直後に閉じていたシャッターが開き、ウルフパックと同じ黒尽くめの装備と黒い鉄帽、そして自動小銃を手に持った男が現れた。人間とは思えないその圧倒的な存在感はウルフパックのメンバー一人一人が醸し出す物を凌駕している。これがアルファチームの隊長、通称『ハンク』と呼ばれる、経歴の一切が謎に包まれた男である。

 

「お前達が新設のデルタチームか。報告しろ。」

 

「私はフォーアイズ。以後よろしく。」

 

黒髪の女が抑揚の無い声で手短に自己紹介をした。それに続いてデルタチームの全員が名乗る。

 

「バーサよ、準備は出来てるわ。」

 

バーサと名乗った女はブロンドの髪を団子結び(シニョン)にしており、腰には拳銃以外にポーチに収まった簡易的な手術道具一式と一振りの鉈を下げていた。

 

「スペクターだ・・・・何時でも行ける。」

 

スペクターと名乗る男は低く、気怠気に聞こえる声で静かにそう告げた。ズームレンズ機能付きのゴーグルを装着したガスマスクが特徴的で、銃もそれに合わせてカスタマイズされている。

 

「ベルトウェイって呼んでくれ。よろしくな、『死神』さんよぉ。」

 

少年を小突いた大男は小さく笑いながらも自己紹介をした。他の隊員より遥かに巨大な体躯の為か、予備の装備と弾薬を持ち運んでいる。

 

「また貴方にお会い出来て光栄です、サー。」

 

装備の下にグレーのフード付きジャケットを身に付けたベクターは予てからハンクと面識があったらしく、腰から体を折って会釈をした。ハンクも小さく頷いてそれを返す。

 

「デルタチーム隊長のルポだ。」

 

最後にルポが名乗った。

 

「無線で小僧の声を聞いたが、ソイツはどうした?」

 

「こっちこっち。」

 

ベルトウェイを少しだけ横に押しやって前に出た。

 

「名前はヴァイパー。よろしく。」

 

「・・・・使えるならば年齢は関係無い。足を引っ張るようなら始末する。」

 

値踏みする様にヴァイパーをガスマスクの奥から見下ろして冷淡にそう言い放ち、無線で連絡を取り始める。

 

「本部、デルタチームと合流した。」

 

『よろしい。ではバーキンを見つけ出してサンプルを確保しろ。失敗は許されんぞ。』

 

「聞こえただろ、行くぞ。」

 

ハンクの号令と共にウルフパックは動き出してエレベーターで施設の下層へと降りて行った。

 

「我々はこれからウィリアム・バーキン博士のラボへと侵入する。奴はアンブレラの研究員だがアメリカ政府と極秘裏に兵器化したウィルスの売却を企んでいる。」

 

「T-ウィルスを、か?」

 

ルポの言葉にハンクは首を横に振った。

 

「違う。これはバーキンが独自に開発した遺伝子に突然変異を齎す、通称G-ウィルスだ。Tウィルスよりも遥かに強力で、少なくとも我々が知る限り現時点ではそのウィルスサンプルは奴しか持っていない。恐らく現場には護衛としてアンブレラ(U)バイオハザード(B)対策(C)部隊(S)が派遣されているだろう。UBCSはこの作戦の事は何も聞かされていない。任務の障害になる様ならば始末しろ。俺もそう命令を受けている。」

 

「おいおい、所属場所が同じの奴らぶっ殺せってのかよ。味方だろ、一応?電話の一本でも入れてやりゃあ済む事じゃねえのか?」

 

ベルトウェイは冗談混じりでそう訪ねたがハンクはくすりとも笑わずに淡々と返事をした。

 

「UBCSは傭兵の集まりだ。金で動く連中である以上、社への忠誠心は無いと考えている上の方針だ。殺したとしても代わりは幾らでも補充が利く。」

 

「じゃあ今回の目的はバーキンとウィルスの確保で良いんだよね?」

 

壁にもたれかかったままベレッタのレールに付いたレーザーサイトとフラッシュライトの調子を見ながらヴァイパーは確認した。

 

「そうだ。」

 

エレベーターが下降を停止し、ドアが左右に開いた。

 

「ルート確保。進むぞ。」

 

エレベーターから少し離れた所にあるキーパッドを操作してシャッターが上に上がり、ルポとベクターが先陣を切った。階段を下りて行くと、様々な精密機器が小さく唸りながら作動していた。その機械の殆どは培養液に浸されたおぞましい怪物が収められたカプセルに繋げられている。

 

「これは新型のBOWか・・・・・興味深い。サンプルが欲しいな。」

 

ガラスに触れながらフォーアイズはそのカプセルの周りを飽きる様子も無くぐるぐると回り、BOWをあらゆる角度から観察し始めた。スペクターの右腕に付いた装置に目を下ろし、画面を見てガスマスクの奥で目を見開いた。

 

「伏せろ!」

 

彼が叫ぶのと侵入した部屋の眩い照明が点灯するのはほぼ同時だった。

 

その刹那、多数の銃声と狙いが外れた銃弾が壁に当たる音が部屋中に木霊した。

 

「やはり来たか、UBCS。スペクター、人数!」

 

銃声の嵐の中、ルポは伏せる直前にマズルフラッシュが見えた所に向けて発砲した。

 

「把握した、現在部屋にいるのは二十人。ルポ、位置だけならば高台にいる我々の方が有利だが階段が我々の側面や背後に繋がっているから回り込まれると面倒だ。全域を見渡せる所を探しに行く。ヴァイパーは私の援護を頼みたい。」

 

「えー、ナイフでブッ刺すかグレネードぶち込みたいのに。」

 

スペクターの要望にヴァイパーは物騒な事をサラリと言いつつ露骨に嫌がる素振りを見せたが議論していても埒が空かない。仕方なしに彼の死角を警戒しつつ付いて行った。

 

UBCSの面々は元PMC、逃亡犯、テロリスト紛いの行動をしていた凶悪な犯罪者の集まりだ。個々での戦闘能力はそれなりに高いのだろうが、統制の取れた群狼達の前では意味を成さなかった。皆区別無く瞬く間に餌となって食い散らされる。

 

「あー、タルい。ゲーセンの敵キャラ並みに動きがタルい。」

 

ヴァイパーは遮蔽物の裏に隠れたUBCS隊員を燻り出し、狙撃体制に入ったスペクターを守りながら文句を言い続けた。

 

「少し黙っていてくれ、隣で文句を垂れる君の声を聞いていては集中出来ん。」

 

そうは言いながらもスペクターはダットサイトを覗きながらタン、タン、タンと照準を滑る様に合わせてリズミカルに敵兵の頭部を正確無比に狙撃していた。それによって位置が割れて援護射撃を浴びせられ、動けなくなったその間に三人のUBCS隊員が二人を挟撃しようと距離を詰めて来た。

 

「ベルトウェイ、私の死角から援護射撃をしている奴らが目障りだ。どうにか出来んかね?」

 

『任せとけ、でっかい花火を見せてやるぜ。』

 

スペクターの要望にゲラゲラと笑いながらベルトウェイが答えた。

 

しばらく待つとボシュッと言うガスが高速で抜ける音がして、すぐ後に爆発が起こった。M4A1の銃身下部に備えてあるグレネードランチャーを援護射撃をしていた隊員達目掛けて発射したのだ。40mmグレネード弾は遮蔽物ごと彼らを吹き飛ばし、下敷きにした。仮に生きていたとしても戦闘はもう続行出来ないだろう。

 

『どんなもんだ、スペクター?俺が手ずから改造した爆裂徹甲グレネード弾は!』

 

嬉しそうな声で感想を聞くベルトウェイにスペクターも喜ばずにはいられなかった。彼もまた自分と同じ穴の狢(犯罪者)であり、この様な汚れ仕事の才能に恵まれている。それ故に良き理解者なのだ。

 

「素晴らしい破壊力だベルトウェイ、感謝する。ヴァイパー、残りの鼠三匹の始末は君に任せる。」

スパスィーバ(ありがとう)。」

 

ロシア語で礼を述べると、ヴァイパーは自身のM4A1のスリングを外して安全装置をかけるとスペクターの隣に置いた。タクティカルベストに収まった閃光弾のピンを抜き、左側から迫って来る二人の方へと投げつけた。

 

逆方向から迫る一人は太腿のホルスターに収まったベレッタM92Fの銃撃で沈黙する。五発のフルメタルジャケット弾は防弾ベストと心臓を貫き、止めの一発はケブラーヘルメットに穴を穿って脳を破壊した。ヘッドショットを確認した所で閃光弾で怯んでいる二人の方へ取って返し、流れ弾が当たらない様に体制を低く維持しながら走って左肩と左腰に収まったナイフを淀み無い動作で引き抜く。

 

まず一人目に超低空タックルで下腹部に頭突きを食らわせ、足の間を潜り抜けるとアキレス腱を切り裂いた。痛みに悲鳴を上げて膝をついた所で振り向き様に盆の窪を貫いて脳幹を破壊すると、悲鳴はすぐに途絶えた。死骸を楯にし、目と耳が未だ使い物にならないまま銃を乱射する二人目の膝頭をベレッタで撃ち抜いてナイフを投げつけた。回転するナイフは吸い込まれる様に男の喉笛に深々と突き刺さる。ナイフを抜くと噴水の様に喀血して未だに痙攣している彼の首を力一杯捻って頸椎を破壊し、とどめを刺した。汚れた刃を彼の服で拭い、シースに収める。

 

「ふぅ、スッキリ。」

 

他のウルフパックのメンバーとハンクも残ったUBCSを片付けたのか、丁度その時になって銃声が止み、ルポの号令(オールクリア)と共に散開していた皆が集結した。彼らの前には満身創痍の兵士が膝をつかされて両手を頭に乗せている。

 

「小僧、USSに入るまではどこにいた?」

 

「南米のスラム街で拉致られて麻薬王の護衛。ボディーガードの親玉が元特殊部隊の人間だったから市街戦とゲリラ戦の訓練をその時に。壊滅したんで今はここ。何で?」

 

「その割に動きが洗練されていると思った、それだけだ。」

 

「おい、ここに配備されている護衛の人数は?」

 

血が付着したトマホークを持ったルポの質問に男は恐怖に竦んで何も言えなかった。今自分達の周りにいる彼らは人数に三倍近くの差があったのにも関わらず、僅かな時間で、それも無傷で勝利した。そして喋ろうが喋るまいが、どちらにせよここで果てる事に変わりは無い。

 

その沈黙に早くも痺れを切らしたルポはヴァイパーに目配せした。

 

目付きから意味を見て取り、僅かにしゃがむとヴァイパーは男の顔を覗き込んだ。

 

「こっちはチンタラしてる暇無いから、さっさと喋ってくれないと困るんだ。どうせだから選ばせてあげるよ。喋ったら一撃で楽になるから。拒否ったらバーサの切除ないし摘出手術を受ける事になるよ。切除なら足指、摘出なら膝蓋から始まる。睾丸だったら失血死するからね。ちなみに麻酔抜きだから。」

 

ナイフの切っ先で臑の辺りを刺し、徐々に力を入れ始めた。

 

「し、知らない!本当だ!本当に俺は知らないんだ!ただバーキンが適当な奴らを集められるだけ集めたら金払って自分を守れって言っただけだ!なあ頼むよ、助けてくれ!そ、そうだっ!何ならアンタ達に協力したって良い!」

 

「うるせ。」

 

臑に切っ先が僅か一センチ程埋まっていたナイフを抜き取ると、下顎の隙間を狙ってナイフを突き上げた。刃はそのまま口蓋を突き抜けて脳へと到達し、男は息絶えた。

 

「コロンビアン・ネクタイってのもアリだったんだけど、あれ時間掛かるし一歩間違えたら只殺すだけになっちゃしな。」

 

「まあ良い、何人いようと関係無い。行くぞ。」

 

『ハンク、こちら司令部だ。バーキンは研究室にいる事が判明した。』

 

再びアンブレラ本部からの連絡が入った。

 

「了解した。デルタチーム、これよりサンプルの回収に向かう。バーキンは既に米軍と交渉の算段をつけている。任務の過程で特殊部隊(SPEC-OPS)と接触する可能性が極めて高い。」

 

「おお、誰が来るんだ?グリーンベレー?SOCOM?デルタ?それともSEALS?」

 

強敵を爆発物で一掃している情景が今正に鮮明に浮かんでいるのか、ベルトウェイは興奮気味に聞いていた。不謹慎な質問にルポは無言で彼の臑に蹴りを入れる。

 

「分からん。」

 

「殺しちゃっても良いんだよね?」

 

「接触してしまえばの話だ、突破口の障害となっている時以外は弾の消費を抑える為に交戦は避ける。こちらは先にウィルスを回収してバーキンを始末するだけで良い。敵と見なした者は全て排除するその気性で毒蛇(ヴァイパー)を名乗るとはまだまだ青いな。行くぞ。」

 

「あの人は昔からああ言う性格だ。悔しかったら腕を上げる事だな。」

 

ベクターのフォローがあってもヴァイパーの気は少しも晴れず、ハンクの言葉に舌打ちしながらも再び隊伍を組んで進んだ。

 


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