孤独のプレイヤー   作:ベリアル

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内容に戸惑って遅れました。






帰りたい理由

 

──────エイトside

 

 

1層攻略から時が経ち、現在22層まで進んだSAOに希望の光が形になってきた頃に、俺の前に2人の厄介者が仁王立ちしている。

 

 

「こんにちは、エイト♪」

 

 

前言撤回、厄介者は1人でもう1人は男にしては可愛らしい笑顔を見せてくれる天使と書いてキリトと読む存在であった。

 

 

「久しぶりね、エイトくん」

 

 

キリトとは反対に表面上は笑顔ではあるものの、肌で感じられる程の威圧感があるフェンサーさんことアスナ。

 

 

「攻略なら参加しねえぞ」

 

「あなたのレベル、攻略組でもトップクラスなのよ。勿体ないから来なさい」

 

 

12層の紅葉の絨毯が敷き詰められる人通りが少ないベンチに座って、フェンサーさんに説教混じりに言われる。

 

 

「フェンサーさんさぁ、自分がやられて嫌なことはしちゃいけませんって教わらなかったの?」

 

 

「私は攻略に参加しても嫌じゃないもの」

 

 

彼女達に会う度に必ず攻略に参加しろと言われる。

 

 

「近々、23層へのボス攻略が始まるから、戦力は多いだけいいんだ」

 

 

「でも、お前等活躍してるらしいじゃん。鼠から聞いてるぜ」

 

 

「そのアルゴからエイトの強さを耳にするんだよ。槍と投げナイフを組み合わせて戦う珍しい戦い方だって」

 

鼠め、余計なことを。

 

 

キリトはキラキラした顔を俺に向けてくるのでやめてほしい。折れちゃうよ。

 

 

「珍しいだけで、いなくはないだろ。他にもいそうだし」

 

 

「エイトくんクラスだとそうはいないでしょ………。【隠蔽】【索敵】【体術】【投剣】【槍】【料理】。なかなかの熟練度だって」

 

 

そりゃまあ、人と関わらないように【隠蔽】使いまくって、【索敵】を発動してれば背後からのモンスターにも対応出来る。

 

【槍】も使わなくなると思ったが使わなかったらかなりきつかったので、【投剣】に合わせて戦う。

 

 

 

【料理】だってラーメンやマッ缶を食したいが為に、熟練度を上げほぼ毎日三食作っているのだ。嫌でも上がってしまう。

 

 

「あれだ、俺が行っても場の空気悪くしちゃうだろ。現実世界じゃ空気清浄機を買おうした奴までいるんだぜ」

 

 

「「うわぁ………」」

 

 

ドン引きされちゃいました、てへ☆

 

 

「そもそも、お前等2人で連携上手くいってたんだ。今更必要ないだろ。そこに俺が入ってもなぁ」

 

 

俺の言葉に動揺を見せるフェンサーさん。甘いな、ポーカーフェイスは大事だぞ。

 

 

「うぅ、でも、今からエイトくんと一緒に練習すれば………」

 

「キリトが近々って言ってただろ。キリトクラスの連携はシビアだ。ましてや、フロアボスはなにがあるか分かんねえからな。死んだら終わりだ」

 

 

少年少女たちよ、こっちは氷の女王にボロクソ言われていたのだ。お前たち如き100年早いわ。

 

 

「…………エイトくん………」

 

 

「………やってくれないのか…エイト…」

 

 

その泣きそうな表情やめてくれませんかね。どんだけ困ってんのよ。

 

 

「わあったよ、条件付きなら参加してもいい………」

 

 

「ほんとに!?」

 

 

ちかいちかいちかい顔ちかいですよフェンサーさん。そういうの気にしちゃうお年頃だからやめて。勘違いしちゃうから手握らないで柔らかい。

 

「条件ってなんだよ?」

 

 

アスナの肩を引っ張って手を引き離すキリトは少し怒っている。

 

 

「さっきも言ったが、キリトクラスの連携は厳しい。即席じゃたかだかしれてる」

 

 

「それじゃ連携組めないってことなの、エイトくん?」

 

 

「いや、そうじゃない。単純に俺は近付かずにナイフを投げまくってりゃいい話だ。連携とまではいかねえが、やばくなったら俺が出りゃあいい」

 

 

とまぁ、あながち嘘ではないし、最善ではあるだろう。これの利点は俺はあまり働かなくてもいいという点である。

 

 

キリトもフェンサーさんも俺より強いんだ。障害なくパパッとこなせるだろ。

 

 

「23層のボス情報は?」

 

 

「″エメラルド・フクロウズ″っていう翠の梟。ボスにしては珍しい遠距離。羽を飛ばすらしいの」

 

 

ほーへーって…………。

 

 

「遠距離?」

 

 

「遠距離」

 

 

フェンサーさんはこくりと頷く。

 

 

「空飛ぶの?」

 

 

「梟だしな」

 

 

キリトもこくりと頷く。マジ天使。

 

 

「待てお前ら。攻略組に【投剣】スキル持ってる奴はいるのか?」

 

 

「いても大して強くないわよ。だからエイトくんには来てもらわなきゃ困るの」

 

えー。実質俺1人で戦うもんじゃないですか。働きたくなーいー。

 

 

しかもフクロウズとか日本語じゃねえかよ。まぁ、フロアボスだけでも100はあるわけだし、考えてる最中にダレたんだろ、茅場も。

 

 

「ちなみに″フクロウズ″に【隠蔽】は意味ないから」

 

 

ふざけんな。自慢のステルスが使えねえじゃねえか。あれ、ステルスだけの方が格好良くない?

 

 

あれだな。多少なりイメトレしといた方がいいのかもしれないが、相手の姿がはっきり見えないとイメトレは難しい。

 

 

「練習もなくいきなり本番か」

 

 

飛行するモンスターはいなくはないが、その手のボスは2回しか戦ったことがない。

 

 

「終わったら飯奢れよ」

 

 

「エイトくん、年下に奢らせるの?」

 

 

意地悪な笑みで手を口に当てるフェンサーさん。それは出会った時に比べて心に余裕を持っているように見える。

 

 

「おい、人が親切で社畜やってやろうしてんだ。専業主婦志望な俺にとっては苦痛なんだぞ。リターンを欲するぞ」

 

 

「冗談よ、ご飯くらい奢る。よくもまぁそんなことを誇らしげに言えるわね……。感心する……」

 

 

が、一転呆れたようにこめかみに指を当てて、溜め息を吐きながら首を降る。

 

「人は何か誇れるもんが一つでもあればいいって言うだろ。個性だ個性」

 

 

「ハハ、相変わらずの捻くれ具合だな。現実世界で友達いるのかよ」

 

 

困ったように笑うキリト。

 

「類は友を呼ぶって言葉の通りに、友達のいない俺は個性溢れるオリジナリティな人間だからな」

 

 

「「………………」」

 

 

ドン引きしないでくれません?

 

 

大体、個性が大事とか言ってる癖に、求めてるのはリーダーシップのある人間とかめっちゃ指定してるし。

 

 

「………部活には入ってたけどよ」

 

 

「「えっ!!?!?」」

 

 

2人は驚愕の表情を露わにして、キリトは後ずさりし、フェンサーさんは手を口に当てて眸を開く。

 

 

「生きる気力もなくただ暗い場所を好みそうで初対面と会話する度にあのエイトが?」

 

 

ちょっと言い過ぎじゃありませんかね?しかも、最後のはほとんど正解だし。サイコメトラー?いつの間に俺に触ったの?

 

 

「彼のような眼を腐らせた何かを受け入れてくれる寛容な部活があるなんて…………」

 

 

何かとはなんだ。歴とした人間だ。

 

 

「半ば強制的だったけどな」

 

 

「何の部活やってたの?エイトくんだから運動系はなさそうよね」

 

 

食いついてくるアスナとキリトは俺の隣に座ってくる。あの、やめてくれませんかね。

 

 

「奉仕部っていう人の手助けをする部活。部長曰く、飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるんだと」

 

 

 

 

そう説明するアスナとキリトはどこか納得したようだ。

 

 

「依頼が来るまでは本読んでるな。1人は携帯いじったり、部長と話したりだけどな。活動つったらクッキーの作り方教えたり、くそつまんねえ小説読ませられたり、テニスしたり」

 

 

「どんな活動………」

ざっくり言うとこんな感じなんだよ。

 

 

「小学生の人間関係ぶち壊したりとか生徒会長を決める為の仕事とか不良娘を更正させたりとか好きでもない娘に告白したりとかだな」

 

 

「途中から最低な行為もあるし、いいことしたり、最後の罰ゲームじゃないの!?」

 

 

「端折るとこんなもんだよ。細かいところまで説明するかよ」

 

 

でも、と続け後頭部を掻きながら立ち上がり、2人が座るベンチに振り返る。

 

 

「俺はなんもしてねえよ。ほとんど部長とか本人が解決しちまってる」

 

 

 

「その人達に会いたい?」

 

フェンサーさんの問いに沈黙が生まれかけたが、すぐに断ち切って疑問に答えた。

 

 

「さあ。向こうは会いたがらないかもな。友達ってわけでも、仲がいい訳でもない連中だが」

 

 

彼女達と俺の間には何もない。強いていうなら同じ部活に所属しその上で、協力しあってるに過ぎない。

 

 

冷血な完璧美少女。

 

ビッチなアホの子。

 

いつの間にか居座っているあざとい後輩。

 

テニスを頑張る部長。

 

執筆を続ける中二。

 

男らしい独身アラサー。

 

受験勉強に励む妹。

 

 

 

「帰る理由にはなる」

 

 

柄にもなく放った言葉に自分の心がざわつく。


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