孤独のプレイヤー   作:ベリアル

6 / 16






打算の別れ

 

 

 

友情・努力・勝利

 

 

ご存じの通り、今は廃れてしまった週間少年ジャンプの三大テーマである。

 

 

最近はこの三大テーマはあってないようなものになっている。

 

 

友情とかいいつつ、最終的には1人で解決しちゃうし、努力とか言っても俺の家系すげえから、と訳の分からん力を与えられ、そこに努力というものは存在しない。

 

 

ならば、いっそのこと孤独・才能・勝利にしてしまえばいいのだ。

 

 

基本、目と理数系以外は高スペックな俺にはぴったりであるし、働いたら負けを志しにしている俺にとってもはや勝ち組である。

 

しかも、今の作品は中身がないものばかりで胸を熱くさせるようなものはない。

 

 

つまり、絵は多少下手な方が胸を熱くさせやすく、綺麗すぎるとただの駄作になるのだ。

 

 

結論を言おう。

 

 

 

「オラに力を分けてくれ」

 

 

両頬に各3本ずつ線を引かれた俺は巨大な岩を前に、光が宿らない瞳を濁らせていた。

 

 

勿論、俺の言葉に反応する者もいなければ、力を分けてくれる者もいないのだ。

 

 

2層に来てから5日といったところだろう。あまり経ってはいない中で、ひたすら進んでいたら胴着を着たおっさんのクエストを受けたらこのありさまである。

 

 

鏡がないので、見えないが鼠のアルゴを彷彿させるような顔をしているに違いない。

 

 

クエスト内容は巨大な岩を拳のみで砕く。

 

 

平塚先生が聞いたら喜びそうな展開である。しかし、ここに来て3日。

 

 

自分にしては頑張った方だ。今日で駄目ならそろそろ諦めよう。

 

 

「二重の極み!」

 

「魚人空手千枚瓦正拳!」

 

「衝撃のファーストブリット!」

 

 

などなど、口に出すも無理なものは無理なのである。

 

 

押して駄目なら諦めろ。

 

 

空はもう暗い。これで無理なら帰ろう。消えないペイントつっても隠せない訳じゃないんだ。

 

 

そう思い、最後の一撃を振り下ろした瞬間、岩ははひび割れていき崩壊していく。

 

 

「うーしクリア………」

 

 

間抜けなペイントもなくなり、【体術】スキルを会得した俺は浮かれた気持ちで【隠蔽】スキルを発動させ森へ入っていく。

 

 

攻撃力は低いが素手でも他のスキルと併用して使用するスキルか。

 

 

モンスターを実験に使用して、槍と投擲ナイフをそれぞれ試し、ガラスのエフェクトと化した仮想の生物。

 

 

馬鹿みたいに根気のいるクエストであったが、やる価値はあったのかもしれない。

 

 

遠くにいる飛べそうにない太った鮮やか鳥を目掛けて、ホルダーからガンマンの如く飛ばしたナイフは見事命中し、素材として鶏肉をゲットする。

 

 

「黒のヴィルマの流星を思い出すな」

 

 

そういうつもりでやってるわけではないが、投げナイフと言えば彼女を思い浮かべるだろう。

 

 

しかし、俺はアルレッキーノ派であるからあしからず。次点で鳴海のお師匠さんだ。

 

 

平塚先生もきっと読んでいるに違いない。彼女はきっと鳴海派だと信じたい。どうしてアニメ化しないんだろうな?

 

 

「オイラは阿紫花 英良押しだナ。何気に初期キャラだゾ。お代はいかほどいただけるんで。あのセリフ痺れるじゃないカ」

 

 

「お前好きそうだもんな。からくりサーカスは良キャラが多いから迷うな………うおっ、鼠!」

 

「にゃハハハハ!いーい反応ダ忠犬!」

 

 

うぜぇ。【隠蔽】スキル発動してたよね。

 

 

「たまたまオイラの横を忠犬を通り過ぎて、黒のヴィルマの流星って聞いたかラ」

 

 

偶然こんな守銭奴に出会ってしまうなんて、俺は運が悪いのだろうか。

 

 

「あ、オイラの情報上げたがら200コルプリーズ」

 

 

「ふざけんな守銭奴。あと俺はアルレッキーノ派だ」

 

 

「にゃハハハハ!冗談だ冗談。1割」

 

 

高確率で本気じゃねえか。

 

 

「ほらよ」

 

 

「悪いネ。そうダ、前言った礼にオイラの髭の秘密教えてやろうカ?」

情報一つ無料してやるってやつか。タダほど怖いもんはないし、鼠なら尚更だ。

 

 

「いいよ。【体術】スキルだったりとか?」

 

 

「…………………」

 

 

「図星じゃねえか」

 

 

βテスターの時から付けてたって聞いたから、まさかのまさかとはなぁ。

 

 

鼠はうわーこいつ当てやがったよというような、なんとも微妙な表情をしている。

 

 

「用ないなら帰んぞ」

 

 

そう言うと真剣な表情をさらす鼠。

 

 

「エイト。お前どうしてあんなことしたんダ?」

 

あんなことってどんなことよ?心当たり多すぎて分からないよ。

 

 

「1層のボス攻略。キー坊から聞いてる。それに他のプレイヤーからの評判も。オイラ結構怒ってるぞ」

 

 

独特な喋り方も、あざとい性格も消え失せ真っ直ぐに向けられた瞳から逃れられず、渋々答えることにした。

 

 

「ゲームクリアに必要なことだろ。一致団結。いいことじゃねえか」

 

 

「他にもっとやり方があるはずだろ!?」

 

 

「かもな。けどさ、それってなに?」

 

 

「そ、それは…………」

 

 

「あの時、俺は俺のやり方で場を治めたんだ。臨機応変って言葉あるけど、ありゃ理想論だ」

 

「…………………」

 

 

「時間は限られてんだから、頭を回す余裕なんてない。選択肢が多かったら逆にどれを選ぶか迷ってしまう。

 

そういう奴に限って頭が固いとか人を批判するんだ。でもよ、頭固いってのは自分の考え方を持っていて即決する判断力があるってことじゃねえか」

 

 

「なにが言いたいんだよ?」

 

 

「答えは誰にも分からねえ。あとであれこれ言うのはズルいだろって話」

 

 

「それでいいのか?敵だらけなるぞ」

 

 

「現実と変わらなくなるだけだ」

 

 

鼠が口を開く前に言葉を吐いた。

 

 

「俺達の関係は打算だろ?ここまで言われる筋合いはない。余計なお世話だ」

 

 

そう、最初から決めていたことだ。俺は鼠にコルを、鼠は俺に情報を。そこに仲間意識や友情は存在しない。

 

 

互いにメリットがあるから組んでるのだ。

 

 

 

「なんだよ………それ……!」

 

 

「鼠のアルゴ。決めごとも守れない奴はビジネスじゃ終わりだ。じゃあな」

 

 

フレンドリストから鼠の名を削除。

 

 

「ふざけるな!」

 

 

ふざけてなどいない。

 

 

俺は優しい女の子が嫌い。

こいつは優しい女の子。

 

 

これ以上の理由があるだろうか。

 

 

出会って1ヶ月やそこらの俺にここまで言うのだ。その甘さがSAOでは命取りになりかねない。

 

 

俺の評判はもっとよくない方向へ進むだろう。

 

 

情報は信頼が大事。重要な職に就いている彼女が俺と関わっていると知られれば、信頼が失われかねない。

 

 

人と関わらないことこそ、俺の役割とも言えよう。

 

 

これはいつぞやの由比ヶ浜とのすれ違いではない。

 

 

鼠のアルゴがなにを考えてようと俺の理論を押し付け、関係を絶てば攻略が早くなる。

 

アルゴは情報屋のトップ。この先も攻略に不可欠な人員になる。

 

 

俺の代わりなんてわんさかいるのだ。

 

 

働かざること山の如し。

 

 

十分頑張った。これからは適当に金を稼いで、ゲームクリアをひたすら待つのみ。

 

 

もう会うことはないであろう鼠に背を向け、森から抜け出し近くの村までゆっくりと歩く。

 

 

追いかけてくる気配はない。

 

 

それでも分かってしまう。

 

 

涙を浮かべる鼠の姿が。

 

 

勘弁してくれ。勘違いしちゃいそうになるだろ。








私はジョージ派です。


「私は……またピアノを弾いてねって言われたんだ、拍手と共に言われたんだ!

ピアノを……また弾いてねって」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。