久しぶりの投稿で探り探りになってしまいました。
しかも、自分でも内容忘れてしまっている!
というわけで、執筆をやめたわけではありませんので、あしからず。
前髪が切っ先に触れる。
(今のは危なかったな………)
過去最強を誇る相手の斬撃を仰け反って避けると、ついでとばかりに通常通りにナイフを飛ばし、微量のダメージを与える。
「【薔薇】」
地面にナイフを飛ばし、それに触れる″ベリト″はそこから派生するナイフを受けながらも、意に返さず脳天に直剣を落とす。
それは見事に直撃したエイトは地面を転がり、削られていくHPを見ながら心の中で舌を打つ。
「【圧し切り】!」
ベリトの背後から攻撃を見舞った人物。
クライン率いる風林火山。
それを目にしたエイトは辺りを見渡すと、キリトとアスナは交戦中ではあるが、″リッパーウルフ″は片付き始めている。
「待たせたなぁエイト!」
「本当に待ったぞ」
皮肉で返して回復するエイト。クラインを先頭に錐形に陣形を整える風林火山。
何度か共に戦った風林火山の動きをある程度把握しているエイトは、風林火山の後ろまで後方支援に回る。本来これが投剣スキルの戦い方であるはずなのだが彼の性格を考慮すれば、些か難易度が高い。
「どっらあああああ!」
掛け声に合わせて振り抜かれる刀。クラインが出過ぎていても、他の仲間がフォローする熟練の連携が可能である。
「【朝顔】」
蔦のように不規則にうねる軌道はクリティカルの連続で″ベリト″に突き刺さっていき、HPを減らしていく。
元々のHPバーが少ないおかげなのか、残り1本となり雄叫びを上げると、増加する″リッパーウルフ″。理想を言えば、″リッパーウルフ″を狩ってから″ベリト″を総掛かりで打ち倒すのがベストである。しかし、そんな余裕は与えさせてはくれない。
時折、眼前の敵を無視して標的を離れたプレイヤーに移動して、襲いかかっては数を減らしていく。タイミングもランダムなので、対処の施しようがない。
「クライン。下がって″リッパーウルフ″を倒せ」
「いいのかよ?さっきまでギリッギリだったじゃねえか」
「今までも一人でも持ちこたえられたんだ。今更気にすんな」
「………わかった!速攻で片付けてくるからな!」
そう言って走り去る風林火山。
「わざわざ待っててくれたのか。AIに感情とかあったけ?それともそういうシステムのどちらかか。背後を襲ったり、新鮮にクラインを襲わなかったり、律儀なのか、律儀じゃないのか」
人外相手には饒舌に喋るエイトは、先日手に入れた残り100本のナイフを使い切る気持ちで、″ベリト″に挑む気であった。
彼とフロアボスの戦いに幕が閉じるのは直前。
両者が地面を蹴ると、たった1人の敵を対象に地面を蹴り飛ばした″ベリト″。鞘から抜いていないもう一本の剣を背負いつつも、未だ使う気配がない。
ソードスキルを使うモンスターはよくある話なのではあるが、エイトはアルゴから得た情報の中で最悪の展開を予想した。
(もしも、もしも俺の予想が正しければ軍の比にならないほどの被害が出るぞ………)
それはある限られた十つの特別なスキル。
各スキル1人しか得られないゲームバランスをも崩しかねない、バグともチートとも呼べるスキル。
具体的なものまでは情報屋のアルゴにも分からなかった。
″ベリト″の背にあるのは単に特別な武器なのかもしれない。それはそれで、厄介なのである。それでもエクストラスキルをも上回るそれに畏怖の念を抱いていた。
「【睡蓮】」
巨躯には釣り合わないだけの小さなナイフが、一本も外すことなく″ベリト″に襲いかかる。
リズベットから買ったナイフは攻撃力が高く、エイトの腕前でクリティカルの連続が表示される。が、普通のフロアボスならまだしも防御力も高い″ベリト″相手には分が悪い。
ナイフを放った瞬間、″ベリト″のモーションを察知し、反射に近い感覚でひざまづいて頭上から流れる風を感じ取った。ここで躱していなかったら、死にはしないまでも、吹き飛んだエイトから他のプレイヤーに目が移っていた。
が、次の攻撃に転じられた一突きの刃に地面を滑る。
「……クソ!」
体勢を立て直し″ベリト″に視線を戻すと、案の定他プレイヤーへと目指していた。
その時、背後から2人分の影が飛び出して、不意を打とうとする。それを察知したのか、剣の側面で攻撃を捉える。
「はやっ!」
思わずキリトとアスナに言ったエイト。彼の言うとおり、″リッパーウルフ″を倒すまではここには来れないハズなのである。
疑問を抱きながらも、回復を終えて2人の背後に移動した。
「早かったな」
「風林火山が無理してくれてるからな」
それを聞いて気の回るクラインを思い浮かべ、なるほどと納得した。その分、風林火山に負担はかかるが終盤なら問題はないとクラインは考えたのだろう。
のんびりと会話させてくれるハズもなく、巨体に似合わぬ速さで3人に突撃してくる。
「ちょっとまって」
エイトの裏声混じりの制止に従うわけもなく、左右に散った2人。一直線に標的として定めたエイトへと向かう″ベリト″。
てっきり他の2人が対処すると思っていた彼は、突き出された直剣を上体を仰け反らして回避。その隙を狙った2人は各々攻撃に転ずる。
攻撃力の高い直剣が深く″ベリト″を切り裂き、レイピアは輝きを放ちながら機関銃の如く速度で刺突の連続。
涙目で四つん這いで必死に遠ざかってからナイフを飛ばすエイト。
そして、″ベリト″HPバーが赤に染まった瞬間にそれは起こった。
衝撃にも近い方向が発せられると、もう一つの直剣に手を掛け、鼻息を荒くしている。2本の剣を持つ、その異様な姿にプレイヤーは呆然と立ち尽くす。
二刀流。
本来ありえない姿。しかし、元々仮説を立てていたエイトは素早く、切り替えナイフを放つ。
「タンク!前にでろ!!」
元来大声を出すことが苦手であるエイトだが状況が状況。その言葉に一斉に動き出したプレイヤー達。″リッパーウルフ″を片付け、この場にいる全部プレイヤーがベリトと相対する。
「……なん…だよ…これ」
誰かのかすれた声。彼等の目に映るのは2本の直剣による連撃で、前線にいる防御力の高いタンク隊が倒れている姿だった。
二刀流という速さを補い、高い攻撃力を持った″ベリト″。
彼等の頭の中に″死″の文字が浮かび上がった。
今までどこか人事に受け入れていた現実。攻略組という名誉に酔いしれ、実力を過信していたのではないか。自分でなくとも、他の誰かがやってくれる。
甘かった。
後ずさっていくプレイヤー達は恐怖に心を蝕んでいく。
「さてとぉ」
それでも尚、絶望に飲み込まれず、武器を構え戦う意思を捨てずにいたのは少数。
「逃げてもいいんだぞ?」
最初に声を発したのは、白い歯を見せて笑うクライン。風林火山の面々にだけでなく、前に進む覚悟を決めたプレイヤーに向けられたものだ。
「……余計なお世話だ」
唯一言葉を返したのはキリト。
「同時に攻めるぞ。間違っても単身で突っ込むなよ」
注意を促すエイト。何時でも投擲出来るようにとモーションを整える。
ベリトを中心とすると、向かいに風林火山。その後ろにエイト。右にアスナ。左にキリト。そして、僅かに残った勇気あるプレイヤーが各所に散らばっている。
「こうなったらキリトとフェンサーさんメインで行くぞ。俺たちはそのサポートだ」
実力がトップクラスに位置する2人。エイトの意見に異論を唱える者はいなかった。
「【睡蓮】」
エイトの攻撃を合図に動き出したプレイヤー達。
「「はぁあああああ!!」」
黒と閃光が息を合わせ、足並みを整え、怪物を退治にかかった。
「よぉお疲れだったな」
解放された25層。早々に去ろうとすると、クラインの腕が肩に回され捕まった。眉間に皺を寄せながらも、コイツ絶対いい上司になるな、と心中で呟く。
活躍したキリトとアスナは健闘を称えられ、集団の中心で苦笑していた。
「これで一気に名が上がるな」
絶望した時に活躍するヒーロー。上がらない方がおかしく、特にキリトは止めを刺した張本人。
「俺はあんな人混みごめんだ」
素っ気なく返すエイトはクラインの腕をどかし、新層に行く。
「風林火山に来ないか?みんな歓迎してくれるぞ」
頭領であるクラインは戦力の増強も考えなくはないが、ソロでいるエイトを心配していた。過去に何度か誘ったが断られる。
「ノーセンキュー」
彼は仲間を作らない。組こそすれど、仲間は作らない。作っても意味がないと知っているからだ。
嘘、欺瞞、裏切り。数々の経験に学び、辿り着いた結論は信用しないことであった。
それでも彼は優しくあった。信用しない癖に誰かを守ろうとする姿にクラインは不安を覚えたのだ。
過去、エイトに窮地を助けられたクライン。エイトに救われたのはクラインだけではない。
クラインはエイトの背中を見て、いつ崩れるか心配でならなかった。
そして、エイトこと八幡はこのSAO内にて思いもよらない再会を果たすことになるまで、あと少し。
そろそろ、もう彼女を入れます。
ネタバレになってしまうかもしれませんが、ゆきのんとガハマさんではありません。
別のキャラになります。
川なんたらさんかもしれませんし、彩ちゃん(笑)かもしれませんし、アラサーかもしれませんし、あざとい後輩かもしれませんし、めぐりんかもしれませんし、あーしさんかもしれませんし、腐女子かもしれませんし、ルミルミかもしれませんし、折本かもしれませんし、大穴で由比ヶ浜マかもしれません。
この中から出ます。出します。
ちなみにゆきのんとガハマさんを出さない理由としては、つまらないからです。