おまけの後日談のエクストラ・エピソード四本目。今回のテーマは雛祭りです。
タイトルにある通り、今回の主役は三人です。誰が主役かは本文を読んで確認してください。
今回で取りあえずネタがなくなったので、一旦終了です。またそのうちネタが浮かべば続きを書こうと思います。
では、どうぞ。
幾多の艱難辛苦を乗り越え、ノーマは勝利と自由を手にした。そしてその側には、彼女たちをいつも支え、導き、救ってきた一人の男の姿があった。
その男…皮肉な運命に弄ばれたシュバルツ=ブルーダーはこの世界で彼女たちと共に歩むことを選んだ。
だがそれは、シュバルツを巡っての女の戦いが始まるということに他ならなかった。シュバルツに想いを寄せる女性陣のアピール、そしてその純粋で真っ直ぐな想いをぶつけられ、シュバルツは大いに悩むことになる。
これはその最中のある一つの風景。そして、いずれ辿ることになるかもしれない一つの未来のお話。
三月三日、吉日。
その日、キョウジはとある場所にいた。大巫女たちが拠り、自身も縁のあるあの神殿である。ナオミと初めて引き合わされた場所でもあった。
(ここも、久しぶりだな)
そんな感慨にふけりつつも神殿内の用意された一室で、さて、何故こんな状況になったのだろうかと首を捻っている。とは言え、どうしてこういう状況になったのかは重々承知しているのだが。
(私も甘いな…)
己の甘さに内心で苦笑していると、近くにある襖が音もなく開いた。そして、
「ハロー」
「や」
「お待たせ」
良く見知った顔が三つほどそこから顔を現す。そこにいたのは、パメラ、オリビエ、ヒカルの旧アルゼナル組のオペレーター三人娘だった。装いは卸し立てなのだろうか、新調したと一目でわかるものを纏っており、三人とも同じような衣装で統一している。
「ああ」
キョウジが軽く手を挙げて応えた。
「用意に手間取ったのか?」
「うん」
「まあ、そうだね」
キョウジの問いかけにパメラとヒカルが答えた。と、もう一人の当事者であるオリビエがちょこちょこと歩いてきてキョウジの手を取る。
「ん?」
見ると、オリビエがニコニコしながらキョウジを見上げていた。
「そういうお話は、後で後で」
「そうだね」
ヒカルも同じようにキョウジの許へやってくると、オリビエが取ったのとは逆の手を取った。
「さ、今日は宜しくね」
「…お手柔らかに頼む」
「ダーメ♪」
「それは、困ったな…」
パメラの返答に苦笑するキョウジの顔を見て三人がクスクス笑うと、オリビエとヒカルがキョウジの手を引っ張って室内へと導いた。そして、パメラが襖をゆっくりと閉める。
三月三日、桃の節句。女の子の秘密のお祭りの始まりである。
二月中旬、バレンタインの喧騒も過ぎたがまだその余韻も冷めやらぬ頃、いつものように研究室でDG細胞の研究に励んでいたキョウジの許を訪れる来客の姿があった。
『や』
『ん?』
扉の開閉音とほぼ同時にかけられた声色が、よく聞く人物たちのものではないのにキョウジが気付き、顔を上げた。
『お前は…』
『お久しぶり』
視線を向けたその先にいたのはパメラだった。
『これは珍しい』
思わぬ珍客にキョウジも微笑む。
『お前一人だけか?』
『ハズレ』
『そんなわけないでしょ』
パメラの後ろからオリビエとヒカルもひょこっと顔を覗かせる。その姿にキョウジが苦笑した。
『相変わらず仲が良さそうで、結構なことだ』
『ふふ、ありがと♪』
パメラがニッコリと微笑んだ。そして、
『今、少しいい?』
と、キョウジに尋ねる。
『ああ、構わん』
『それじゃあ、お邪魔するね』
そうしてパメラを先頭に三人が研究室に入ってきた。
『楽にしていてくれ』
そう言うと、キョウジが一旦奥に引っ込む。そして、お茶とお茶請けのお菓子を持ってきた。
『わ♪』
『いいの?』
お菓子を目にして目を輝かせたオリビエとヒカルがキョウジに尋ねる。
『ああ、丁度一息つこうかと思っていたからな』
『そう。それじゃあ遠慮なく御相伴に預かるわ』
『そうしてくれ』
そこで三人はそれぞれ目当てのお菓子に手を伸ばす。その姿にまたキョウジは苦笑しながら、お茶をゆっくりと飲み始めたのだった。
『御馳走さま』
三人であらかたのお菓子を食べつくして満足したのだろうか、ふーっと一息つくと三人ともゆっくりとお茶を嗜んだ。
『いい食いっぷりだったな』
『あはは…』
オリビエが乾いた笑いで誤魔化す。年頃の女の子としてはお菓子の誘惑にはなかなか勝てないものだが、それでもそれを指摘されると恥ずかしいのだろう。
『そう言えばさ…』
オリビエを助けるため…と言うわけでもないのだろうが、不意にヒカルが口を開いた。
『ん?』
『他に誰もいないの? 司令とか隊長とか、他にも誰かしらいると思ったんだけど』
『そう言えばそうね』
パメラもヒカルのその意見に納得する。
『絶対誰かしらいると思ったんだけど…』
『うんうん』
オリビエもコクコクと頷いた。
『来ていた連中はもう帰った。まだ来ていない連中は或いはこれから来るかも知れないが、今日は来ないかもしれない』
まあ、その辺りはどうなのかわからんがな、とキョウジは続けた。
『そうなんだ』
パメラがフーンといった感じで頷いた。
『ああ。では、今度はこちらが尋ねさせてもらおうか。三人揃って何の用だ?』
キョウジが三人の顔を見ながら用件を尋ねる。と、
『あー…』
これまでの威勢が鳴りを潜め、三人揃って急に口篭もった。
(?)
所在なさげな、踏ん切りのつかなそうなその態度に疑問符を浮かべるキョウジだったが、自主的に話を切り出すを待つことにした。研究時間という観点では早く教えてほしいのは山々だが、やることは基本研究しかないので今日できなかった分は明日に回せばいいだけのことである。
それに、久しぶりの珍客なのだ。向こうの気が済むまで付き合ってもバチは当たるまいとキョウジは考えていた。
三人はしきりにアイコンタクトしたり、肘で突っつき合ったり、ゴニョゴニョと何か言ってたりと、中々進展が見られない。そんな三人を肴にお茶を飲んでいたキョウジだったが、
『あ、あのね!』
意を決したのだろうか、パメラが三人を代表して口を開いた。
『ああ』
返事をしてその先を待つ。だが、決意がしぼんでしまったのだろうか、その先が続かない。それでも急かすことなくじっと待っていると、
『そ、その…お願いがあるんだ』
と、意を決した表情でそう訴えたのだった。
『お願い?』
お茶を自分の側に置き、パメラに尋ね返す。
『あー…う、うん』
これまでと同じく態度がハッキリしないパメラ。
(余程頼みにくいことなのか?)
そう思いつつも、実際に聞くまではわからないため、
『内容にもよるのだが…』
と、キョウジが答えた。
『あー…まぁ、そうだよねぇ…』
引き続き、パメラが答える。
『その素振りからするに、余程頼みにくいような事柄なのか?』
『ん? まあ…』
やはりどうにも歯切れが悪い、オリビエやヒカルも同じように言いにくそうにしていた。
『そうか。だが、私としても聞かないことには返事のしようがないのでな。ハッキリ言ってくれた方が助かるのだが』
『そうだよねぇ…』
そう答え、それでも言いにくそうにしていたパメラだったが、やがて覚悟を決めたのか、ふうっと大きく息を吐いた。そして、
『あのね…』
キョウジにとあるお願いをしてきたのであった。
その日から暫く経った本日三月三日、キョウジは神殿内の一室で三人に招かれていた。そして、キョウジを部屋に引きずり込んだ三人は傍目にも嬉しそうにニコニコしていた。
「よく来てくれたね」
パメラがホッとしたような表情と共にそう言った。実感がこもっている口調ではあるが、それだけ実際にこうなってくれなければ安心できなかったのだろう。良く見れば、オリビエとヒカルも同じようにホッとした表情になっている。
「約束したからな」
キョウジのらしい回答に、三人はクスクスと笑った。
「? 何が可笑しい?」
笑われる理由がわからず、キョウジが首を捻った。
「ゴメンね」
パメラが非を認めて謝罪する。
「ただ、相変わらず律儀だなぁって…」
「そういうわけでもないのだがな」
「またまた♪」
オリビエが軽く肘でキョウジを突いた。
「でも、嬉しいよ。ありがと♪」
言葉通り、心底嬉しそうにヒカルがそう伝える。
「…まあ、他の連中の猛撃が続いていて、お前たちには随分と不義理をしていたからな」
『ふふふ…』
キョウジの正直すぎる感想に、三人がまたクスクスと笑った。
「それで、誰を選ぶのか決まったの?」
パメラが核心を突いた質問をしてきた。
「いや…」
しかし、キョウジは苦笑しながら首を左右に振る。
「絶賛、悩み中だ」
「そうなんだ」
「でも、早くしてあげた方が良いよ?」
「わかっている。わかっているのだがな…」
キョウジの眉間に皺が寄る。と、
「何なら、もういっそのこと全員有難く頂戴しちゃえば?」
オリビエがとんでもないことを言いだした。
「止めてくれ、考えただけで胃が痛くなる」
オリビエの提案に、キョウジが再度苦笑する。
「それに、私にそんな甲斐性はない」
「そうかなぁ?」
ヒカルが首を捻った。
「キョウジが言い寄ってるんじゃなくって、キョウジが言い寄られてるんだから、それも一つの解決策だとは思うけど。言い寄ってるって言うことは皆惚れ込んでるんだから、嫌われたくはないだろうし、キョウジが正直に誰も選べないって言ったら、案外皆で結託して上手いことやるかもよ? 自分が独占できないのは癪だろうけど、諦めることはなくなるわけだし」
「随分とズケズケと言ってくれるな」
キョウジがふぅと息を吐いた。
「しかし、そんな不誠実な真似は…」
「だから、今も言ったじゃない。無理やり今言ったような形にするんだったら大問題だけど、全員納得づくだったら何にも問題ないでしょ? 一人を選ぶっていうのは確かに誠実だけど、誠実だから正解かっていうと、必ずしもそんなことはないわけだし」
「耳が痛いな…」
キョウジが困った顔になった。ヒカルの言っていることも良くわかる。良くわかるのだが…
(やはり、私にはそんな真似はな…)
どうしてもその意識がついて回ってしまうのだった。と、そんな揺れ動く心中のキョウジにオリビエが追撃をかける。
「もし、皆有難く頂戴するんだったら、当然私たちももらってくれるよね?」
「…何?」
空耳かと思っていたが、三人の表情は期待に満ちている。その姿を見るだけで、今聞いたことが空耳ではないことがわかった。
「あー…と」
しかし発言の内容が内容なので、流石に釘を刺す。
「そういうセリフは、冗談でも言わない方が良いと思うが…」
「酷いな。こんな大事なこと、冗談で言えるわけないでしょ?」
「む…」
キョウジが言葉に詰まる。そのタイミングを見逃すことなく、三人が肩を並べてずいっと身を乗り出してきた。
「私たちは他に奥さんが何人いても気にならないしさ」
「もらってくれるよね?」
「それとも、私たちじゃ不服?」
「いや、そんなことは…」
「なら決まりね!」
何とかこの場を凌ごうと思っていたキョウジだったが、迂闊なことを言ってしまって言質を取られてしまった。逆に、言質を取った方である三人はきゃあきゃあと喜んでいる。
(…参った)
思わぬ展開にキョウジが内心で頭を抱えてしまった。今更取り消すわけにもなかったことにするわけにもいかなくなってしまい、連日頭を悩ませている問題が更に大きくなってしまったことに頭を抱えることしかできなかった。
「さて、そうなってくれることを祈りつつ」
パメラが、嬉しさを隠しきれないといった様子で口を開く。
「今日は今日で、私たちの相手をしてもらわないとね♪」
「そうだね」
オリビエとヒカルも同じように嬉しさを隠しきれないという表情で楽しそうに笑っている。
「そうだな」
そこでようやく、キョウジも何故今日ここに来たのかを思い出していた。
(正直、今後のことはあまり考えたくないが…)
自分に思いを寄せてくれている他のアルゼナル組の面々の顔が思い浮かんだが、とりあえず今やるべきことをやろうと気持ちを切り替え、三人に導かれて室内に更に足を踏み入れたのだった。
「あっ…」
パメラの色っぽい声が聞こえ、直後、物憂げな吐息がその口から漏れた。
「どうだ?」
尋ねたキョウジに、
「あっ、そこ、そこぉ…」
と、パメラがおねだりする。少し後、
「き、気持ちいい…」
と、至福の表情になってパメラがぐったりと布団の上にその肢体を投げ出していた。
「ふぅ…」
対称的にキョウジは汗を滲ませ、それを拭っている。
「それじゃあ、次は私」
オリビエがチョコチョコと小走りでやってきて二人の傍らに腰を下ろした。
「さ、早くどいてよ」
「もうちょっと~」
「ダメ! 私だって気持ちよくなりたいんだから!」
「ダメ~、気持ちよすぎて身体に力が入んない」
「ううー!」
お冠な表情でオリビエがパメラに詰め寄り、パメラはぐったりとしながらも気持ちよさそうな口調でのらりくらりとオリビエの追及をかわしていた。と、
「キョウジ」
少し離れた場所からヒカルがキョウジを呼んだ。
「何だ?」
キョウジが尋ねると、
「肩揉んで」
と、自分の肩をキョウジに向ける仕草をした。
「わかった」
キョウジがすぐにヒカルの許に行き、その肩を揉み始める。と、
「あぁー!」
オリビエがむくれた。
「ずるいー! 次は私の番だったのに~!」
「でも、その状況じゃすぐには無理でしょ?」
夢見心地な表情で布団の上でグッタリとしているパメラを指さしながらヒカルが尋ねた。
「だから、そっちが片付くまでこっちで借りるね♪」
「うぅー…もう!」
我慢できなくなったオリビエがパメラに更に食って掛かるが、至福の表情のパメラはまだまだ上の空だった。そんな二人を尻目に、キョウジはヒカルの肩を揉んでいた。
「あぁー…気持ちいー…」
心底吐き出すようにそう言いながら、ご機嫌な表情でヒカルは寛いでいた。そんな女三人姦しい状態の中、キョウジは、
(相変わらず仲のいいことだ)
と、内心で苦笑していた。さてここで四人が何をしているか。そしてキョウジが何をさせられているか。それは先日、キョウジのところに三人がやって来たことに起因していた。
『あのね』
『ああ』
『その…随分前になっちゃうけど、アルゼナルでビリヤードして私たちが勝った時のこと、覚えてる?』
『ああ、勿論』
キョウジが頷いた。実際、あの一件はなかなか強烈なイベントだったので忘れようがないのだが。
『それで、それがどうかしたか?』
単に思い出話をしに来たというわけでもなさそうだが…と、三人の様子から判断したキョウジがそう尋ねた。
『うん、単刀直入に言うね』
そこでパメラが息を整える。そして、
『あのとき聞いてもらったお願いを、もう一回聞いてほしいかなって思って』
『何?』
驚きながら三人を見ると、すかさずオリビエとヒカルがずずいと詰め寄ってきた。
『ねぇー、いいでしょ? いいでしょ?』
『お願い!』
『……』
二人に頼み込まれ、正面にいたパメラも同じような表情をしていたので、自然と、
『何故だ?』
と、キョウジは尋ねてしまっていた。
『もう…』
その返答を聞いたパメラが呆れたような仕方ないなぁというような表情になる。
『当たり前じゃない。最近は司令や隊長たちばっかり構ってて、私たちはほったらかしだったんだもん』
『そうそう』
オリビエも我が意を得たりとばかりに頷いた。
『だから、たまには私たちも構ってよ』
ヒカルも更なる追撃をする。
『む…』
三人の主張を聞いたキョウジが黙ってしまった。確かに彼女たちの言うようにここ最近は特に自分にアプローチをかけてくる連中の相手に手いっぱいで、それ以外の連中の相手をしていなかったからだ。
その鬱憤が溜まっていたのだとしたら確かに責任はキョウジにもある。
『あの時の…ということはつまり、側仕えしてお前たちをお姫様扱いしろということだろう?』
『うんうん♪』
三人が声を揃えてコクコクと頷いた。
『…わかった』
少し考え、キョウジが頷いた。
『確かに、お前たちに不義理を働いていたのは事実だからな。それで納得してくれるのならそれでもいいだろう』
『やった!』
交渉が成立し、三人がお互いの顔を見合わせてサムズアップする。
『それで、何時にすればいい?』
『慌てないでよ。ちゃんと舞台は考えてあるんだからさ
そうして三人が指示してきたのが今日、三月三日の桃の節句。そして神殿内のこの一室なのであった。
「しかし…」
ヒカルがご満悦な表情になったのを確認してからそっとその肩から手を放す。そして、部屋のある一角に目を向けた。
「まさか、こんなものまであるとはな」
言葉通り、まさかといった表情でそこにあるものに視線を向けていた。そこにあったのは雛人形である。それも、通常よくある五段飾りのものでなく、七段飾りの少し豪華なものであった。
「凄いよね」
いつの間にか復活していたパメラがキョウジの許へとやってきた。
「お前たち、元々雛祭りとか雛人形を知っていたのか?」
キョウジがそう尋ねると、
「ううん」
ヒカルが首を横に振った。
「こっちの世界に来て初めて知ったの」
「ちょっとした話の流れから雛祭りの話になってね。それで、雛祭りがどういうものかっていうのを知ったから、言い方は悪いけど今回のことに便乗させてもらおうと思ったわけ」
「成る程な」
そしてキョウジが左右にいる二人に視線を送る。
「では今日、三人揃って同じ衣装を着ているのはそういうことか」
「そ、あれ」
ヒカルが指差した先は上から二段目、三人官女だった。
「ちょうど三人だからね。飾りつけをしてる時に色々聞いたし、だったらついでに同じような衣装に揃えよっかって話になってさ」
「で、どうせなら雛人形と似たような衣装にってことで、こんな格好ってこと」
「そういうことか」
そこでようやく、三人が今日同じような和服をモチーフにした衣装に身を包んでいる理由がわかった。と、急に示し合わせたように左右からパメラとヒカルがくっついてくる。
「? どうした?」
急にこんな態度を取られて、キョウジが首を捻った。と、
「どう?」
「少しは魅力的に映るかな?」
そう言いながら一方はキョウジにしなだれかかり、もう一方はチラッと胸元を開けさせた。
「む…」
目のやり場に困ったキョウジが返答に詰まり、どうしたものかといった表情になる。そして、その隙を逃がすまいと更に迫った。
「さっきの話だけど、まだ誰にするか決めかねてるって言ったよね?」
「ああ」
「それなら、私たちの目もあるわけだ」
「…まあ、な」
「ふふーん♪ いいこと聞いちゃったぁ♪」
パメラとヒカルの目がキラリと光った。と、
「ちょおっとぉ!」
突然、後方からブンむくれた感じの抗議の声が聞こえてきた。声の主は勿論、この場にいないオリビエである。
「早く私も気持ちよくしてよぉ!」
「おっと」
これ幸いとキョウジは立ち上がると、そそくさとオリビエの許へと向かった。そして先ほどのパメラと同じように、布団に寝転がっているオリビエにマッサージを施していく。
「あらら」
「逃げられちゃった」
残念そうに、しかしそれ以上に楽しそうな口調でパメラとヒカルがボヤいた。今は逃げられても、時間はまだタップリあるのだ。
パメラとヒカルは顔を見合わせて微笑みながら頷くと、ちょっかいを出すために揃ってキョウジの許へと向かった。女の子のお祭りはまだ始まったばかり。三人官女は嬉々として、お内裏様を仕留めるために行動を開始したのだった。