機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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エピローグ、アンジュ編です。

恋愛要素はなくとも、最後はやはり主役で幕を閉じるのが物語というものでしょう。これにてこの物語も本当に終焉です。

では、最後のエピソード。お気に召しますかはわかりませんが、どうぞ。


Final Epilogue Ange

幾多の艱難辛苦を乗り越え、ノーマは勝利と自由を手にした。そしてその側には、彼女たちをいつも支え、導き、救ってきた一人の男の姿があった。

その男…皮肉な運命に弄ばれたシュバルツ=ブルーダーはこの世界で彼女たちと共に歩むことを選んだ。

だがそれは、シュバルツを巡っての女の戦いが始まるということに他ならなかった。シュバルツに想いを寄せる女性陣のアピール、そしてその純粋で真っ直ぐな想いをぶつけられ、シュバルツは大いに悩むことになる。

そして幾多の紆余曲折、すったもんだの末、シュバルツはその中から一人を選んだ。選ばれなかった他の女性陣には、幾度となく土下座をして許しを乞うたのはご愛嬌というものである。それでも諦めきれない様子の女性陣だったが、シュバルツの真剣な想いが徐々に彼女たちを軟化させ、大分時間はかかったものの理解はしてくれた。(注:納得はしてくれてはいないので、選ばれなかった女性陣が隙あらば虎視眈々とその座を狙っているのは秘密である)

そんな中、シュバルツに想いを寄せていた面々以外との連中の縁が切れてしまったわけでは勿論ない。パメラたちオペレーター組や、マリカたちルーキー組、メイを始めとするメカニック班の連中といった面々は、ちょこちょこシュバルツの元を訪れては他愛もない時間を過ごすということがあった。

それについて、シュバルツがパートナーに選んだ女性はどちらかといえば面白くなさそうだったが、そんなことを正直に言ってシュバルツとの関係が拗れるのは嫌なため、口を挟まなかった。(その代わり、二人っきりになった時、それを取り戻すかのようにうんと甘えられているのであるが)

そして今日もまた一人、来客がシュバルツ…いや、キョウジの元を訪れる。

 

 

 

 

 

「ふむ…」

 

色々な機械音が研究施設内に響き渡る中、キョウジは目の前の実験結果に目を走らせていた。そして、表示された数値をコンピューターへと打ち込んでいく。

 

「少しは進展したか。…まあ、まだまだ先は長いがな」

 

軽く頬を掻きながらそんなことを呟き、引き続き先を進めようとする。と、

 

「ちょっと! いる!?」

 

不意にドアが開くと、けたたましい怒鳴り声が聞こえてきた。その声色で誰だかわかったキョウジが、やれやれと言った表情になるとふーっと大きく息を吐く。そして、

 

「ああ」

 

と、億劫そうに顔を上げた。視線の先には当然というか予想通りというか、怒気を孕んで仁王立ちしているアンジュの姿があった。

 

 

 

「それで? 今日は何が気に入らなくてここに来た」

 

研究を一時中断したキョウジがコーヒーを淹れると、キョウジの側に座ったアンジュの目の前にそれを差し出す。

 

「何よ、それ」

 

対してアンジュは面白くなさそうにムスッとした表情でキョウジに悪態をついた。

 

「まるで私が何か気に入らないことがあって、それの愚痴を言いに来たみたいじゃない!?」

「違うのか?」

 

キョウジが先ほどと同じ椅子に腰を下ろすと、アンジュに対して正対する。そして、自分用に淹れたコーヒーに軽く口を付けたのだった。

 

「違わ…ないけどさ」

 

アンジュがブツブツと文句を言う。今言ったように、ここに来た目的はキョウジが今言ったことで間違いない。だが、見透かされているのは内心面白いものでもない。不満気な表情はそのままに、アンジュはカップを手に取ると、コーヒーをグイっと仰いだ。

 

「ふぅ…」

 

半分近くまで一気に飲み干したところで多少なりとも心が落ち着いたのか、アンジュが大きく一息ついた。と、

 

「どうせ、タスクのことだろう?」

 

そのタイミングを見計らったかのようにキョウジがアンジュへと声をかけた。

 

「な、何でよ!?」

 

そのことを指摘されたアンジュがアワアワと泡を食った。まだ正式な回答こそしていないものの、 これでは認めたも同然である。

 

「先のことはともかく、現状、お前が機嫌を損ねるような理由はタスクぐらいしか浮かばんからな。それに、もう何度となく同じ理由でここに来ただろうが。流石にわかる」

「う…」

 

思い当たる節があり過ぎるために、アンジュはそこから先は何も言えなくなってしまう。そう、今キョウジが言ったように、これまで何度もアンジュはこうやって研究室に肩を怒らせたまま乗り込んできたのである。そして、そのほぼすべてがタスクに関しての愚痴だった。

アンジュはエンブリヲとの戦いの後、タスクが語っていた夢…喫茶アンジュにて店員として働いていたのだが、そこでのタスクに不満を持っていた。

 

曰く、お客にデレデレし過ぎだの

曰く、お客に鼻の下を伸ばし過ぎだの

曰く、お客にラッキースケベし過ぎだの

 

こういった類のことを散々キョウジに訴えるのである。そして今日も、先ほどのキョウジの指摘通りタスクに関する不満をぶちまけ始めた。まあもっとも、実にそれらしい言い方をするのだが、簡単に言えば他の女とイチャイチャしている(ように見える)のが気にいらないという、実に乙女チックな理由といえば乙女チックな理由だったのだが。

 

(とはいえ、それを指摘したところで絶対に認めないだろうし、話がややこしくなるだけだから言わんがな)

 

もう随分と長い付き合いとなったため、大分アンジュの扱いがわかってきたこともあり、キョウジは黙って聞いていた。余計な口を挟めば更に拗らせるだけである。そうなってしまうと、少々面倒臭いのだ。そのため、聞き役に回っていた。

 

「ねえ、聞いてる!?」

 

が、アンジュはそれでもご不満なようである。あまりに聞き役に徹していたために、何の反応も示さないことが引っかかったのだろう。

 

「ああ」

 

キョウジが同意の相槌を打つ。が、

 

「ふーん…。ホントのところはどうだか」

 

アンジュが不満気な様子を隠すこともなくコーヒーに口を付けた。だが、本当に怒っているというよりはどちらかと言うと拗ねていると言った方が正しいだろうか。

 

(どうせ、言いたいことを好きなだけ言えばいつものようにスッキリして帰るからな)

 

これまでの経験から、その時まで我慢していればいいと思っていたキョウジだったが、残念ながら今日は少し風向きが違った。あらかた愚痴を吐き出したのに、アンジュは帰ろうとしないのだ。

 

「いいのか?」

 

そのことに気付いたキョウジがアンジュに声をかける。

 

「? 何のことよ?」

 

あらかた不満を吐き出したとはいえまだ不満が晴れないのだろうか、アンジュがぶすっとした表情のまま呟いた。

 

「いつまでも店を開けていても…だ。人出は足りているとは思うが、看板娘が長期不在では華が足りぬだろう」

 

遠回しにだが帰るように勧めてみる。が、返ってきたのは、

 

「いいの!」

 

不満気な表情と吐き捨てるようなこの一言だった。

 

「今度という今度はあったまに来たんだから! 暫くほっときゃいいのよ!」

 

散々愚痴を言っただろうにまだ随分とおかんむりである。

 

(やれやれ…)

 

根の深いことになってるなと、キョウジは内心で溜め息をついた。タスクも都度、フォローはしているだろうが、それで押さえられないほど今回のアンジュはご立腹のようであった。

 

「それより、あいつはいないの?」

 

今まで怒り心頭だったからかようやくそれに気づき、アンジュは研究室内を見回した。アンジュが今言った通り、室内にはアンジュとキョウジ以外の姿はなかった。

 

「ああ」

「ふーん。…上手くいってるの?」

「お陰様でな。理解のあるパートナーで助かっている」

「あっそ。仲が良くって結構ね」

「ま、流石にいつも変わりなくというわけにはいかんがな。それでも、よくやってくれているよ、あいつは」

「ふーん…」

 

アンジュが口を尖らせて面白くなさそうな表情になった。自分たちがちょくちょく喧嘩するのに、キョウジたちからはそういう雰囲気が見えないのが面白くないのだろう。と言っても、アンジュたちが喧嘩する原因は主にアンジュの嫉妬にあるため、そこを我慢すれば劇的に減るのだろうが、それが出来ないのがアンジュである。

 

「あーあ…」

 

面白くなさそうにアンジュが伸びをすると、そのまま近くにあるソファーに飛び込んで寝転がった。

 

「もういっそのこと、あいつなんか捨ててやろうかしら…」

 

思わず呟く。無論本心ではないが、そんな言葉が口をついて出るほどに今のアンジュは鬱屈した状態だった。と、そんな不貞腐れたアンジュの耳に忍び笑いが届いた。

 

「…何よ」

 

上半身を起こすと、その忍び笑いの発信源に目を向けた。

 

「いや、すまんすまん」

 

忍び笑いの発信源であるキョウジが謝る。もっとも、この研究室にはアンジュとキョウジしかいないので、誰が笑っているのかなどは明白だが。

 

「だがな」

 

謝罪した直後、キョウジが口を開いた。

 

「出来もせんことは言わんことだ」

 

そして、そう続ける。

 

「な、何がよ…」

 

バツが悪そうな表情になってアンジュがキョウジから視線を逸らした。

 

「エンブリヲにあれだけ弄ばれながらお前が篭絡されなかったのは、タスクの存在があったからだろう? そんなお前が、タスクを捨てることなどできるわけないだろうが。無論、逆もな。タスクもお前を捨てたりはせんだろうさ」

「う…」

「だから言っただろう? 出来もせんことは言わんことだと」

「…ふん!」

 

内心を、それも限りなく見透かされ、アンジュは面白くなさそうに不貞腐れて、再び横になってしまった。そして、乱れた心を落ち着けようと努めている間に、いつの間にかその意識を手放してしまったのだった。

 

 

 

 

 

「ん…」

 

心地よいリズムを全身で感じ、アンジュが手放していた意識を取り戻す。ゆっくりと明けた目にまず飛び込んできたのは、目の前を塞ぐ大きな何かだった。

 

(温かい…柔らかい…何だろう、落ち着く…)

 

そして次に感じたのは心を満たす温かな感覚。そうこうしているうちに意識がハッキリとしてきて、そして、

 

「な、何!?」

 

自分の今の状況に驚いたアンジュが思わず顔を上げた。

 

「気が付いたか」

 

振り返ると、そんなアンジュにキョウジが声をかける。が、アンジュが驚くのも無理はないかもしれない。今アンジュは、キョウジの背におぶさっているからだ。先ほど目を開けた時に飛び込んできた、目の前を塞ぐ大きな何かは、キョウジの背中だったのだ。

 

「え…あ…何で…!?」

 

自分の今の状況を把握しても何故こんな状態になっているのかわからず、アンジュは混乱した様子で呟いていた。と、

 

「覚えていないのか?」

 

キョウジが尋ね、顔を戻した。人を背に乗せたまま前を見ないで歩くのは流石に危険すぎるからだろう。

 

「お前がタスクのことで愚痴を言いに私のところに来て、そのまま不貞寝して本当に眠ってしまったのではないか。仕方ないので好きにさせていたのだが、結局今日の私の研究が終わるまで起きなかったからな。迎えをよこしてもらおうかとも思ったが、向こうの状況がわからない以上そうするのは躊躇われたので、こうして私がお前を送り届けているわけなのだが」

「あ…そ、そうなんだ…」

 

ようやく現在の状況が飲み込めたため、アンジュは頷いて再びキョウジの背に己の身を預けた。

 

「ああ。…で、どうする?」

 

キョウジが歩きながらアンジュに尋ねる。

 

「え? 何が?」

 

何のことかわからず、当然アンジュが尋ね返した。

 

「起きた以上はもう自分で歩けるだろう? 店まではもう大した距離ではないから、このまま私の背に乗っていてもいいが、降りると言うならここで降ろすが」

 

そう説明するとキョウジは足を止め、アンジュを窺うように再び振り返って見上げた。

 

「え…と…」

 

選択を振られて少しだけアンジュは逡巡する。だがすぐに、

 

「いいわ。このまま連れてって」

 

そう答えた。

 

「いいのか?」

「いいの!」

「ふむ。わかった」

 

お姫様の要望が出てところで、キョウジは再び顔を戻すと歩き始める。キョウジが先ほど言ったように店…喫茶アンジュはもう目と鼻の先だった。と、その名残を惜しむかのようにアンジュがギュッとキョウジの首筋に少し力を入れて抱きついた。

 

(温かい…)

 

そして、その温もりを惜しむかのようにキョウジの背中に顔を埋める。

 

(もし、もう少し違う出逢い方だったら…)

 

この温もりを独り占めしていたのは私だったかもしれない。不意にそう思ったアンジュだったが、心の中で慌てて頭を左右に振った。

 

(ダメね、こんなこと考えちゃ)

 

それはタスクにも、キョウジのパートナーである彼女にも、そして何よりキョウジ自身にも失礼な話である。だがそれでも、

 

(それでも、今だけは…独占してもいいわよね?)

 

この温もりは、もう自分には手に入らないものなのだ。それでも、今だけは…。そう考えて再びアンジュはキョウジの背中に顔を埋めた。

喫茶アンジュからタスクとモモカが姿を現すのを僅かに見ながら、アンジュはギリギリまでこの心地いい感覚に身を任せたのだった。




読了、ありがとうございます。作者のノーリです。

これにてこの物語は終了となります。ありがとうございました。

思えば完結まで三年以上かかりましたが、良く続いたものだと思いつつ、随分長くなってしまったなというのが正直なところです。それでも完結まで迎えることができたので、終わり良ければすべて良しというところでしょうか。

さて、何故私がこの物語を書いたかというと、勿論キャラとして兄さん大好きだったからです。何せ、こういう創作物を作るとき、非常に動かしやすいキャラなんですよね。

反則的に強いうえに物の道理や分別はわきまえているし、何より年齢が恋愛要素を絡めても何も不自然ではない年齢ですから、色恋沙汰にも絡めやすいという、実に(自分にとっては)動かしやすく魅力的なキャラでした。それに、どんな無茶でも“Gだから”の一言で(強引ながら)片付けることもできますしね。

ですが、兄さんをメインキャラにした二次創作はほとんど見たことがない(そもそもGガンを題材にした作品すら絶対数が少ない)ので、だったら自分で書いてやろうというのが根底にありました。つまり、自己満足に満ち溢れた作品だったのですが、それでも読者の皆様に楽しんで頂けたら作者として幸いです。

兄さんを主役にしたクロスオーバー物は、他のガンダム作品との物を始めいくつか考えているものがあるのですが、大体立ち位置が同じ感じになってしまうので、食傷気味になるのがわかっているので控えようと思っています。ただ、あと一つ、どうしてもクロスオーバーさせてみたい世界の作品があるので、そのうちそれなりに骨子がまとまったら書いてみようかと思います。それがいつになるかはわかりませんが、お待ちいただけるなら本当に気長にお待ち頂ければと思います。

またこの物語も、最初に書いたようにこれで終了になりますが、もし気が向けばおまけという形で他の人物のエピローグやエピローグのその後を書くかもしれません。ただ、こちらは現在のところ何の構想もありませんのであまり期待はしないでください。

では、ここまで長々とお付き合いくださりありがとうございました。重ねてになりますがこの物語は終了しますが、また違う作品を書き始めたので良ければそちらもどうぞ。そちらもこの作品と同じくクロスオーバーものです。(と言うより、私はクロスオーバーものしか基本的には書けないようなので)

そちらもまた、とんでもない御仁をとある世界に転生させましたので、元ネタがわかれば楽しんで頂ければ幸いです。

では、このお話と同時刻に投稿した次の作品でまたお逢いしましょう。作者のノーリでした。

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