機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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エピローグ、ゾーラ編です。

個人的に真・ヒロインを一人選ぶなら彼女なので、トリを務めてもらいました。

では、どうぞ。


Epilogue Zola

幾多の艱難辛苦を乗り越え、ノーマは勝利と自由を手にした。そしてその側には、彼女たちをいつも支え、導き、救ってきた一人の男の姿があった。

その男…皮肉な運命に弄ばれたシュバルツ=ブルーダーはこの世界で彼女たちと共に歩むことを選んだ。

だがそれは、シュバルツを巡っての女の戦いが始まるということに他ならなかった。シュバルツに想いを寄せる女性陣のアピール、そしてその純粋で真っ直ぐな想いをぶつけられ、シュバルツは大いに悩むことになる。

そして幾多の紆余曲折、すったもんだの末、シュバルツはその中から一人を選んだ。選ばれなかった他の女性陣には、幾度となく土下座をして許しを乞うたのはご愛嬌というものである。それでも諦めきれない様子の女性陣だったが、シュバルツの真剣な想いが徐々に彼女たちを軟化させ、大分時間はかかったものの理解はしてくれた。(注:納得はしてくれてはいないので、選ばれなかった女性陣が隙あらば虎視眈々とその座を狙っているのは秘密である)

そして、シュバルツが選んだのは…

 

 

 

 

 

 

「ふむ…」

 

モニターを見つめ、常人よりはるかに速いスピードでキーボードを叩きながら、キョウジは実験の進行を見つめていた。これまで中々思うような結果にはならず、あちらを立てればこちらが立たずというような状況がしばらく続いていた。

 

(一進一退といったところか…)

 

順調な進捗状況とはいえず、キョウジは少し不満そうな顔をする。

 

(とは言え、どう転んだところで一足飛びにできるようなものでもなし。焦れたような時間はしばらく続くが、仕方のないことか)

 

元々、簡単に解明できるようなテーマではないのは重々承知していたことである。改めて長く腰を据える覚悟をしたのだった。と、不意に研究室のドアが開く。

 

「ん?」

 

思わず顔を向ける。と、

 

「よう」

 

軽く手を挙げるゾーラの姿があった。

 

「ああ」

 

手を挙げてキョウジが答える。そして、

 

「どうしたんだ? その姿は」

 

と、尋ねた。だが、それもそのはず。ゾーラはパイロットスーツに身を包んでいたからだ。エンブリヲを倒した今となっては、必要のないはずの代物である。と、

 

「誘いに来たのさ」

 

当然のようにゾーラがそう答えた。

 

「誘い?」

 

キョウジがその言葉に怪訝な表情になる。

 

「ああ」

「何のだ?」

「気分転換だよ」

 

そしてゾーラは親指で自分をクイッと指さした。

 

「この格好、見ればわかるだろう?」

「ああ」

「お前の研究が大事なのは重々承知しているさ。けど、たまには気分転換も必要だよ? どうだい? 軽くひとっ飛びしないかい? きっといい気分転換になるよ」

「成る程」

 

そこでようやく、ゾーラが何故パイロットスーツに身を包んでいるかキョウジは理解した。

 

「いいかもしれんな」

「だろ?」

 

ゾーラが楽しそうに微笑む。

 

「だがゾーラよ、お前、仕事はいいのか?」

 

キョウジが尋ねる。ゾーラはパラメイル部隊で隊長をやっていた経験を買われ、引き続きアルゼナル陣営の纏め役を担っていた。そのため、ゾーラがいなくなると多かれ少なかれアルゼナル陣営には支障が生じるのである。が、

 

「そっちは他の奴らに任せてきた。あいつらもそろそろ独り立ちしてもらわないとね」

 

よく見せる不敵な笑みを浮かべてゾーラが答えた。これだけ聞けば成る程もっともな意見かもしれない。だがしかし、キョウジには公私混同しているような気もしないでもなかった。

 

(まあ、ただの邪推だがな。いや、自惚れか?)

 

何となく…本当に何となくだが、自分に逢いたくてゾーラは仕事を他の連中に頼んだような気がしてならなかったのだ。本来ならそれを問い質し、そしてその通りだったら戻るように説き伏せるべきなのだろう。だが、キョウジは何故かそんな気になれなかった。

それはキョウジもまた、そんなゾーラの気遣いが嬉しいと思ってしまったからだった。

 

(惚れた弱みというやつか。それは否定しないが、節度は心掛けねばならんな)

 

とはいえ、パイロットスーツに着替えて、その気満々で来ている今日のゾーラである。ここで追い返すのもまた気が引ける。ということで、今回は応じることにした。

 

「では、お願いしようか」

 

キョウジの返答を聞き、ゾーラはぱあっと表情を輝かせた。

 

「オッケー。それじゃあ、さっさと行くよ!」

 

そうしてキョウジに近寄ると、その手を取って引っ張る。

 

「わかったわかった。そう急ぐな」

 

苦笑しながら立ち上がると、キョウジは各種システムをダウンさせる。そして、着ていた白衣を脱いで椅子の上に掛けた。

 

「では行こうか」

「ああ」

 

非常に楽しそうに、ゾーラには珍しく鼻歌を歌いながら二人は連れだって研究施設を後にした。

 

(今度、あいつらに差し入れでも持っていくか)

 

ゾーラに仕事を押し付けられたであろうアルゼナルの面々に申し訳なく思い、そう考えながらキョウジは隣のゾーラに視線を向けた。ゾーラは上機嫌で引き続き鼻歌を歌いながら、キョウジの腕に自分の腕を絡めていた。

 

(ここまでしなくても、後でいくらでも二人で過ごせるだろうに)

 

ゾーラに気付かれぬように苦笑しながら、二人は歩調を合わせて外へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

一日の予定が終わり、キョウジは家に帰るとそう声をかける。するとすぐに、

 

「お帰りなさ~い♪」

 

パタパタと足音を立てながらゾーラが走ってきた。そして、そのままキョウジの首筋に抱き着くと、当然のように唇を重ねてくる。

 

「んっ…」

 

ウットリした表情になり、ゾーラはキョウジと交わしている口付けに夢中になっていた。キョウジとしても、流石にこの状況下で無理やり引き離すような無粋な真似はせず、取りあえずゾーラの成すがままに受け入れている。やがて、

 

「ふぅ…」

 

ゆっくりとキョウジから離れると、ゾーラは大きく息を吐いた。そして、表情そのままの熱っぽい視線をキョウジに向けてペロリと舌なめずりをする。

 

「御馳走さま」

「ああ」

 

“御馳走さま”と言われても何と答えていいかわからず、キョウジは無難な返事を返した。そして、ゾーラの姿を見て呆れたような溜め息をつく。

 

「ゾーラよ、何度も言っているが」

「うん?」

「いい加減、裸エプロンで出迎えるのはやめろ」

「ええ~っ」

 

キョウジが指摘した内容に、ゾーラがあからさまに不満の声を上げた。だがキョウジも負けず劣らず困ったような表情を見せている。

大巫女から宛がわれたこの家で同居するようになってから、ゾーラは帰宅するキョウジを迎えるときは必ず裸エプロンで迎えていた。が、残念なことにゾーラの目論見とは大きく外れ、その姿を始めて見たキョウジは面食らったような表情になり、そしてすぐにこんこんと説き伏せたのだった。

だが、ゾーラも女の意地があるのか、それとも上手くいかなかったことで逆に燃え上がったのか、決してやめるようなことはなかった。キョウジが先に帰っている時はともかく、自分がキョウジを迎える立場の時は必ず裸エプロンでお出迎えするのである。

 

「いいじゃないか。こういうの、嫌い?」

 

そう言って、ゾーラはエプロンを捲り上げた。最初こそその行為に慌てたものの、最後の貞節というべきか、ゾーラは下着だけは着けていたのである。

もっとも、着けているのは下半身に身に着ける下着だけで、上半身に身に着ける下着…つまりブラは外していたので、少し大きな動きをしたらもろに胸が露出することになるため、それはそれで頭痛の種だったが。

 

「いや、好きか嫌いかと言われたら嫌いではないが…」

 

正直な感想である。向こうの世界では色恋に現を抜かしているような暇はなかったため、こんなふうに女性と楽しむ機会はなかったが、キョウジも健康な男性である。興味がないわけはないのだ。

 

「じゃあ、いいだろ?」

 

その逡巡を突くようにしてゾーラが突っ込んできた。

 

「むぅ…」

 

キョウジが押し黙る。ある意味いつものやり取りではあるが、今日も説得は失敗したようだった。

 

「まあ、安心しなよ。あたしだっていつまでもこんな真似はしないさ。ただ、それまではあたしの好きなようにさせておくれ」

「む」

 

しかし説得は失敗したものの、ゾーラが初めてその先に対して発言した。それをもって、キョウジは取り敢えず納得することにする。

 

「わかった」

「オッケー、そうこなくっちゃ」

 

嬉しそうに微笑むとゾーラはすぐさまキョウジの腕を取る。そして、室内へと引っ張った。

 

「さ、いつまでもこんなところに突っ立ってないで、さっさと入んなよ」

「わかったわかった」

 

苦笑しながらキョウジが外履きを脱いで室内に入る。ゾーラは先ほどから変わらず、実に嬉しそうな表情で自分の腕をキョウジに絡めていた。

 

(いつもながら胸の感触が非常に生々しいが、わかっててやっているのだろうな…)

 

言うなれば、“当ててんのよ”というやつである。とは言え、無理やりゾーラを引き剥がすのはためらわれたし、説得しようにもいい言葉が思い浮かばない。そのため、顔を赤くしながら無愛想な表情になって視線を外すしかキョウジにはできなかった。

 

(ふふっ、赤くなっちゃって。可愛いねえ)

 

そんなキョウジの様子に、ゾーラはキョウジに気付かれないようにほくそ笑んだ。初めてのことでもないのに、未だに馴れることなく戸惑っているキョウジの姿に、ゾーラはキョウジに対する愛情が更に増していくのを感じていた。

こうして、いつものようにゾーラのペースに巻き込まれ、キョウジは家の中に入ったのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

風呂上り、キョウジはソファーに座るとグラスの酒を煽りながら一息ついていた。と、

 

「何だい、薄情だねえ」

 

ゾーラが不満気な表情でキョウジの許にやってきた。同じように風呂上りということで、火照った佇まいでキョウジの隣に腰を下ろす。

 

「一人で先にお楽しみだなんて、それはないんじゃないかい?」

「すまんな」

 

苦笑しながらキョウジが答えた。謝られてもゾーラはまだ怒りが収まらないのか膨れていたが、キョウジから酒を注がれたグラスを自分の前に置かれると、それに手を伸ばす。

 

「私は別に茶でもいいのだが、お前はそれでは納得せんだろう?」

「ああ。風呂上りはアルコールって決まってるからね」

「酒の強さではお前には勝てんからな。どうせなら先に酔い潰れてしまおうと思ったのだが」

「おや、そんなのあたしが許すとでも思ったのかい?」

「ノーコメントだ」

「ふふっ」

 

今のやり取りですっかり機嫌の治ったゾーラがグラスを手に取ると、それをキョウジに近づける。その意図を理解したキョウジがグラスを持つと、ゾーラのグラスと合わせた。

 

「乾杯」

「乾杯」

 

カチンと小気味いい音が鳴り二つのグラスが離れる。そしてお互い中の酒を煽った。

 

「ふぅ…」

「はぁ…」

 

そして、ほぼ同時に一息つく。それが可笑しくて二人は顔を見合わせると、クスクスと笑ってしまった。

 

「今日も一日お疲れ」

「ああ。お前もな」

 

そして、お互いの労をねぎらう。直後、

 

「んふふ♪」

 

嬉しそうな、楽しそうな表情になってゾーラがその身をキョウジに預けてきた。

 

「おいおい、またか?」

 

その行動に、呆れとも諦めともつかない様子でキョウジが傍らのゾーラに尋ねる。

 

「いいじゃないか。お互い仕事してるときは会えないんだよ? その時の穴を埋めようとして何が悪いのさ。それとも…迷惑かい?」

 

ゾーラが顔を上げた。その瞳が不安げに揺れている。

 

(全く…)

 

ゾーラに悟られないように内心で苦笑しながらキョウジは視線を向ける。これでは大きな子供と変わらんなと思いながらも正直にそう言うのは憚られ、またキョウジとしても特に迷惑とは感じていないので首を左右に振った。

 

「別に、そんなことはないがな」

「本当かい?」

 

それでもやはりゾーラは不安なようだった。念を押すようにキョウジに尋ねる。

 

「ああ」

「それなら、構わないよな」

 

念を押したことで不安が払しょくされたからか、ゾーラは表情を輝かせて再びキョウジに己の身を預ける。その表情は、心の底からこの幸せを噛み締めているというものだった。

 

(やれやれ…)

 

軽くゾーラの髪を撫でながら、キョウジはもう一度ゾーラに視線を向ける。その姿は、少し前まではパラメイル部隊の隊長だったとはとても思えないものだった。

 

(変われば変わるものだな…)

 

キョウジは思わずそんなことを思ってしまう。ゾーラをパートナーとして選んでからというものの、ほぼずっとこんな感じである。とにかく一緒に居たがり、そして甘えたがるのだ。

ただ、自分の仕事を放り出してまで一緒に居たがるような真似はしないので、それに関しては安心していた。公私のケジメはしっかりとつけているからだ。だがそれだけに今日、仕事中に誘いにきたのは驚いたし、少し釘を刺しておかないとと思っていたが。

それは言い換えれば、ゾーラの中の比重が仕事よりキョウジに傾いているともいえるが、それでも公私混同は歓迎すべき事態ではない。だがそれより何より、そんなゾーラの行為を少なからず喜んでしまっていた自分自身にもキョウジは戸惑いを隠せなかった。

 

(変わったのは私も同じなのかもしれんな…)

 

そう思う。何より向こうの世界でもこっちの世界でも、今までの日々は擦り切れるような緊張感の連続だった。それから解放され、ようやく人間味が出てきたのかもしれない。それを考えると今日の一件で頭ごなしに注意するのはどうも違うような気がして、どうしたものかとキョウジは悩んでいた。と、

 

「あふ…」

 

ゾーラが口に手を置いて欠伸をした。どうやらお疲れのようである。コックリコックリと頭が上下に動いていた。

 

(久しぶりにパラメイルに乗って疲れたのか?)

 

だったら、そうさせた責任は自分にもある。ならばということでキョウジはそのままゾーラをお姫様抱っこの形で抱え、寝室へと足を向けた。そして、ゾーラを起こさないようにゆっくり静かにベッドの上に横たわらせる。

 

「ふぅ…」

 

軽く息を吐いたところで引き続きゆっくりと自分の腕を引き抜くと、キョウジはその場から離れようとした。が、

 

「何処行くんだよ」

 

ゾーラが早業でキョウジの首根っこを掴むと、あっという間に引っ張って口付けをした。

 

「んんっ!?」

 

予想外の展開に目を白黒させるキョウジだったが、かと言って力づくで振りほどくわけにもいかず、しばらくそのままの状態になってしまう。

たっぷりと堪能した後で、ゾーラがようやくキョウジから離れた。

 

「ゾーラ、お前、起きてたのか?」

「さあ…ね?」

 

はぐらかすように答えると、ゾーラはそのままキョウジを自分の胸元へと引き込む。

 

「っぷ!」

 

ゾーラの豊満な胸元に引き込まれ、キョウジは一瞬だが呼吸ができなかった。

 

「それより、何処行こうとしてたんだよ」

「いや、何処と言われてもな…」

「夜はこれからなんだよ? あたしの言いたいこと、わかるだろう?」

 

そしてキョウジは蜘蛛の巣に搦め取られた獲物のようにゾーラに引きずり込まれた。ゾーラの言った通り、夜はまだ長い。これからなのである。

そして今日も、いつもと同じ光景の一夜が過ぎて行ったのだった。


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