最終決戦五話目です。エンブリヲとの決着回ですね。
今回は、エンブリヲとの決着だけですので、非常に短くなりました。恐らく今までで一番短いと思いますが、最後の仕上げだけですのでご了承ください。
そして、投稿がいつもから一週間遅れまして申し訳ありませんでした。言い訳するわけじゃないんですが、何があったかというと…。
【先々週土曜日】
さて、投稿するか。→(カチカチ…)あれ? 出来てない。 …おかしいな、完成させてあったと思ったけど。…どっちにしろ今からじゃ間に合わないから、来週に延ばすか。
【先週】
カキカキ…あれ? 今書いてる話と、前回の投稿が繋がらない? まさか!→(ガサゴソ…)Oops…。(とっくに完成していた、今回投稿分のファイルが見つかる)
…まあ、こういうことです。先週投稿予定だった今回の投稿分はとっくに出来てたんですが、勘違いで次回投稿分のファイルを開いてしまい、それが完成してない状態だったため投稿しなかったわけです。誠に申し訳ありませんでした。(汗)
お詫び…と言うわけじゃないんですけど、その分次回投稿分はほぼ完成してますので、そっちは二週間後ではなく来週の投稿にさせていただこうと思います。
それまでは、今回の非常に短いお話でご容赦ください。
では、どうぞ。
虚数空間の海に遂に真の力を覚醒したヴィルキスが降り立つ。その正面には、エンブリヲの愛機であり、エンブリヲ自身でもあるヒステリカが立ちはだかった。
「皆、時空を操っているのはあのラグナメイルよ!」
アンジュからの通信を受け取り、救援の面々が次々と己のラグナメイルをフライトモードからアサルトモードへと変形させる。
「それをエンブリヲが操作している」
そのエンブリヲは今、タスクと激しく鍔迫り合いをしていた。
「両方倒さない限り!」
「世界は護れないということですね!」
タスクとサラがアンジュからの通信を受け取り、タスク以外のラグナメイル軍団が一堂にヒステリカに対峙した。
『まだ私を倒すなどと言っているのかね、アンジュ?』
ヒステリカからエンブリヲの声が聞こえてきた。
「っ!」
思わずアンジュが息を飲む。
『わからせなければいけないようだね。力づくでも!』
そしてヒステリカが己の左手を開いて前に突き出した。と、アンジュたちの前にあるものが次々と現れる。
『っ!?』
その姿に、サリアたちを始めとするラグナメイル部隊の面々が息を飲んだ。それは、自分たちが今乗っているラグナメイルだからだ。
とは言え、自分たちが今ラグナメイルに搭乗しているのは紛れもない事実。であれば、
「フン、二番煎じかい」
いち早くそれに気づいたのがゾーラだった。
「こんな真似してくるってことは、いよいよ後がなくなったみたいだね、あのムカつく神様も」
「ああ」
「そうですね」
ヒルダとサリアも同意する。ナオミは言葉こそ出さないが、呆れたような表情をしていた。
「力づくでわからせる…ですか」
サラが侮蔑したようにクスッと笑い、そして、
「やってみなさいよ!」
アンジュが啖呵を切ってそのコピーの集団へと突っ込んだ。そして、小手調べとばかりにライフルを射出する。コピーのラグナメイルたちはそれを難なく回避すると、散開してそれぞれのオリジナルへと突っ込んできた。
「アンジュはあの機体を!」
「こいつらはあたしらが引き受けるよ!」
「そういうこった!」
「スカッと決めてきちゃって!」
サラ、ヒルダ、ゾーラ、ナオミからの露払いの申し出を受け取ったアンジュは力強く頷くとコピーラグナメイルたちの間隙を縫ってヒステリカへと向かった。そんな中、
『おかえり、サリア』
自機であるクレオパトラのコピーと相対しているサリアに、その機体を通じてエンブリヲが声をかけたのだった。
「許さんぞ、貴様だけは!」
一方、地上では相変わらずエンブリヲとタスクが激しい剣戟を繰り広げていた。激昂からかエンブリヲが一方的に攻めており、タスクは防戦一方だった。
右肩に深手を負っており、実質左手一本で斬り結んでいるのに互角以上に戦っているのは、腐っても調律者といったところだろうか。(まあ実際は、既に腐りきっているのだが)
だが、タスクも決して攻撃に回れないわけではない。
「それは、こっちのセリフだ!」
エンブリヲの攻撃をいなしたタスクがエンブリヲに斬りかかった。そしてタスクの気迫が勝ったのか、エンブリヲを袈裟斬りにすることに成功する。
「うっ!」
傷口から鮮血が迸るが深手というわけにはいかず、エンブリヲがタスクから距離を取った。だが、いつもならすぐに完治するはずのそんな刀傷が、今回に至っては治っていなかった。それは、シュバルツによって負わされた右肩の傷も同様だった。
(不確定世界の自分と入れ替わらない)
そのエンブリヲの姿に、タスクはある確信を抱く。
「お前が本体のエンブリヲか!」
刀を構え直すと、タスクがエンブリヲに突っ込んだ。が、
「っ!?」
刀を振り下ろした瞬間エンブリヲはその場から消えていた。そして、
『我が妻を穢した罪、無限に殺し続けてくれる!』
シュバルツのお株を奪うかのように消えては現れてを繰り返し、その都度エンブリヲはタスクに発砲した。持ち前の身体能力と技量で何とか致命傷は受けずに済んでいるものの、タスクは再び防戦一方となったのだった。
『戻ってきてくれると信じていたよ、サリア』
上空では相変わらずラグナメイルたちの激しい戦闘が繰り広げられている。そして、エンブリヲは引き続きサリアに語り掛けていた。が、
「ええ、貴方を倒すためにね!」
サリアはハッキリとそう言い切ると、エンブリヲが操るコピーのクレオパトラを弾き飛ばす。そして、
「これは、アレクトラの仇!」
ブレードを振りかぶると突っ込んだ。が、
『フッ、可愛いサリア。君は私に従っていればいいんだよ』
エンブリヲがそう言い終わった直後、コピーのクレオパトラの目が光った。そしてその直後、サリアが操るクレオパトラの目も光る。と、サリアの操るクレオパトラが他のラグナメイルたちに向けてライフルを構えた。
「避けて!」
「!」
それに気づいたサラがすぐさま今の自分のいる場所から退避する。その直後、その場所をサリアのライフルが放ったビームが突き抜けたのだった。
「くっ!」
サリアが表情を歪めながら必死でコントロールを取り戻そうと試みる。だが、それはできなかった。そしてそれは、他の面々も同じだった。
「何だよ! どうしちまったんだ、これ!」
「わわっ! コントロールが!」
「ホント、いやらしい仕込みだよ! 性根の腐りっぷりを反映してるじゃないか!」
ヒルダ、ナオミ、ゾーラもサリアと同じように必死で立て直しを図るが、これもサリアと同じようにコントロールが効かなくなっていた。
唯一の例外はラグナメイルではなく龍神器に搭乗しているサラだったが、彼女にはエルシャやジルが乗っていたレイジアが相対しており、サリアたちの援軍には簡単に迎えなかった。
「ふっ!」
上空で女性陣が頑張っている一方、地上では同じようにタスクも頑張っていた。エンブリヲに向かって手裏剣を投げつけるが、当然のように姿を消してそれを避ける。
「何故、アンジュを抱いた!」
そして、怒りの表情を向けながらエンブリヲはタスクへと近づく。
「女など現実の世界にはいくらでもいる! いくらでも選べたはずだ!」
刀の切っ先をタスクに向け、そう詰問するエンブリヲ。タスクはそれに答えることなく発砲するが、エンブリヲはタスクの背後に現れてその肩を貫いた。
「わっ!」
痛みに顔を歪めるタスク。
「私は千年待った! 私にはアンジュしかいなかったのに!」
未だに気持ち悪い恨み言を言うエンブリヲだが、不意にその動きが止まった。そしてゆっくりと下に顔を向けると、タスクの刀が己の腹に突き刺さっている光景を目にすることになったのだった。
「ぐうっ!」
「がはっ!」
両者痛み分けの形で、互いの身体に刺さった刀を抜き合った。エンブリヲの本体がそうした状況下にある中、もう一人のエンブリヲであるヒステリカはアンジュのヴィルキスと組み合っていた。
『アンジュ、君も人間だ』
組み合っている最中、ヒステリカ…エンブリヲが話しかけてくる。
『私が導かねば幸福にはなれない』
「っ!」
ヒステリカのパワーに押されているのか、それともそのセリフに怖気が走るのかはわからないが、アンジュが顔を顰めてヒステリカを鋭い視線で睨んだ。と、
『だから無理やり拐し、暴力で支配しようとした…と』
横からサラが口を挟んできた。そして、己と相対しているレイジアを圧倒し始める。
「恥ずかしい男ですね、調律者よ!」
「サラ子」
「そんな卑怯な男にコマされるアンジュじゃねえっての!」
「ヒルダ」
二人の言葉に勇気づけられ、そして、
「その通りよ!」
アンジュが視線を鋭くすると、ヴィルキスでヒステリカの腹に蹴りを見舞った。
「私は、誰の思い通りにもならない!」
「!」
そしてその言葉が、サリアを勇気づける。
「そうよ、私だって」
表情を引き締め、今一度気合を入れ直す。
「アウラが言ってた。ラグナメイルは、人の想いに応えてくれるって。私は私よ、もう誰の支配も受けない!」
その想いに応えるかのように彼女の指輪が輝くとクレオパトラが光を纏い、青く輝く機体へと変化した。そして、
「あたしも、クソみたいな男の思い通りにはならねえ!」
ヒルダの想いにも応えるかのようにクリスから託された指輪が光り、テオドーラが赤く輝く機体へと変化したのだった。
「ヒュウ!」
変化した二人の機体を見てゾーラが口笛を鳴らす。そして、彼方のエンブリオ…ヒステリカに鋭い眼差しを向けた。
「あたしはこいつらとは違って、支配されてもいい男はいるんだよ。けど、それはあんたじゃないね、キモい神様!」
そしてまた、ゾーラの想いに応えるようにターニャから拝借した指輪が光り、ビクトリアは白く輝く機体へと変化したのだった。
「私たちやドラゴン…ううん、それだけじゃない。調律者としてこれまで散々世界を弄んで好き勝手してくれた落とし前、つけてもらうよ!」
最後にナオミの想いに応えるようにイルマから拝借した指輪が光り、エイレーネもまた白く輝く機体へと変化したのだった。
そして四機は、そのまま各自己のコピーラグナメイルへと突っ込む。
『何ッ!?』
四機のその変化に、エンブリヲは驚きを隠せない。
『はああああああっ!』
そして四機は各自、己のコピーラグナメイルを一刀両断して一瞬で勝負を決めたのだった。
『何故だアンジュ!』
エンブリヲはいよいよ余裕がなくなってきたのか、彼女たちには構わずにアンジュのみに襲いかかる。
『無限の時間に無限の愛! 私に支配されることの、何が不満だというのだ!』
それにアンジュが出した答えは、
「人間だからよ!」
この一言だった。その答えに一瞬言葉が詰まったエンブリヲ…ヒステリカに、再びアンジュが蹴りを入れる。
「支配をブッ壊す、好戦的で反抗的なイレギュラー! それが人間なの!」
そのまま迫ると、ヒステリカのライフルの砲弾の雨をかいくぐりながらアンジュはブレードでヒステリカの右腕を斬り落とした。
『ぐうっ!』
エンブリヲ…ヒステリカが苦悶の声を上げる。それとほぼ同時に、残っていた最後のコピーラグナメイル、レイジアをサラが墜とした。
「今ならわかるわ、何故ノーマが生まれたのか。人間は、貴方なんかには操作されないという遺伝子の意思!」
「何故ノーマが女だけだったのか。愛する人と子を成し、貴方の世界を否定するため!」
「だからお母様は、歌と指輪を託してくれたのね…」
今までの鬼気迫る表情から一転、慈しむような顔になってアンジュは己の指に光る指輪に視線を向けた。が、それも一瞬。すぐまた表情を引き締めると、キッとエンブリヲを睨む。
「そんな創造主が創った、腐りきったこの世界を壊すために!」
「…千年の中から選んでやったというのに」
真っ向から否定され、苦々しい表情になって呟いたエンブリヲは遂に形振り構わなくなったようだ。今まではアンジュを手に入れようとしていたのに、ここで方針を転換する。
「私の愛を理解できぬ女など、最早不要!」
切り捨てたのだ。先ほど自分が見捨てたサリアたちダイヤモンドローズ騎士団の面々と同じように。世界に君臨する調律者として、余程自分に刃向かうアンジュたちが看過できないのだろう。ディスコード・フェイザーを展開させてアンジュを葬り去ろうとする。
「何が愛よ!」
が、アンジュも怯むことなく、真っ向から受けて立った。
「キモい髪形でニヤニヤしてて、服のセンスもなくていつも斜に構えてる、恥知らずのナルシスト!」
余程鬱憤が溜まっていたのか矢継ぎ早にエンブリヲ罵倒すると、ヴィルキスもヒステリカと同じようにディスコード・フェイザーを展開させる。
「女の扱いも知らない、千年引き篭もりの変態親父の遺伝子なんて、生理的に絶対無理!」
これまでの仕打ちを考えれば仕方ないかもしれないが、良くもここまでと言えるほどの罵詈雑言を重ねて、両者は共にディスコード・フェイザーを発射した。当然、中間地点でぶつかり合ってせめぎ合うことになる。まるで、ランタオ島でのドモンと東方不敗の石破天驚拳の打ち合いのように。だが、
「塵に帰れーっ!」
押し切ったのはアンジュ…ヴィルキスだった。ディスコード・フェイザーの渦がヒステリカを飲み込み、爆発を起こしながら機体を崩壊させていく。そしてディスコード・フェイザーの圧が過ぎ去った後には、ヒステリカは胸から上の上半身部分しか残っていなかった。
「ば、馬鹿な!」
その、調律者としては信じられない光景に、エンブリヲがよろめきながら後退した。その機を逃さず、タスクが刀を構え直す。
「父と母と仲間の無念! 今こそ受けろーっ!」
エンブリヲに向かって走りながら跳躍すると、万感の思いを乗せてタスクが勢いよく刀を振り下ろした。咄嗟に剣で防御したエンブリヲだったが、その剣はもろくもタスクの刀を受けきれずに折れた。
「お…おおお…」
ゆらゆらよろめきながらたたらを踏み、エンブリヲは真っ二つになって血を吹き出しながら倒れた。そして、
『アンジューっ!』
最後の悪あがきか、ほぼ全壊状態のヒステリカが残った左腕を伸ばしてアンジュに…ヴィルキスに迫ろうとする。だが、アンジュがそれを甘んじて受け入れるわけがない。
「私を抱こうだなんて、一千万年早いわ!」
ヒステリカに突っ込むと、そのまま展開したブレードで、奇しくもタスクと同じように真っ二つに叩き切った。
『ぐわあああああっ!』
断末魔の悲鳴を上げると、ヒステリカは爆発炎上して滅んだ。世界に君臨し、世界を弄んだ調律者の本当の最期だった。と同時に次元の狭間もほころび始め、戦士たちを暖かい光が包む。そして、戦士たちは己の世界へと戻ってきたのだった。
己たち自身の手で、全てのケリをつけて。