機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

41 / 84
こんばんは。前回の続きです。

黒幕さんによって起こされた天変地異対処の回ですね。

どんな感じになってるかは本文を読んでご確認下さい。

では、どうぞ。

※投稿日時を来週だと勘違いして、いつもの時間に投稿できませんでした。どうも失礼しました。
※非常にどうでもいいことですが、少し前の前・中・後編の三作、あれのタイトルは『さそわれて』ではなく、『いざなわれて』と読んでください。


NO.40 共鳴戦線+α

ナオミたちと共にサラたちの言うとことろの古代の競技場の屋上に出たアンジュたちは、そこで信じられないものを見ることになった。

 

「あれは…エアリアのスタジアム?」

 

アンジュが呆然としながら呟いたその視線の先で、プラズマのようなものを発生させながら巨大な竜巻が発生していたのである。だが、その形状からしてどう考えても自然発生したものには思えなかった。

何故なら、プラズマのようなものを伴っているということもあるが、その中心部に何故か違う世界の光景が広がっているからである。そのことに気づいたからだろうか、アンジュに少し遅れてその光景を目の当たりにしたサラが思わず息を呑んでいた。

 

「何だー?」

 

家が震え、母親のラミアと共に外に出て様子を見に来たヴィヴィアンが目の前の光景に思わず呟いた。と、その竜巻が浸食…この表現が正しいかどうかはわからないが、それでもこれが一番しっくり来るような表現である…していく場所が、竜巻の中に見える世界と重なっていた。そしてそれに巻き込まれた者は、驚いたことに融合していく世界の瓦礫の中に飲み込まれてその生命を落としていくのであった。

 

「ミィ、こっちよ!」

 

竜巻の影響で崩壊していく街並みにドラゴンの女性たちの悲鳴が上がる中、ラミアがヴィヴィアンの手を引いて走り出した。

 

「うわぁ! 街が!」

 

ラミアに手を引かれて走りながら振り返るヴィヴィアンは、竜巻の影響によって上書きされていく街並みに驚きを隠せなかった。

 

「焔龍號!」

 

事態を重く見たサラが空を見上げて愛機の名前を呼ぶ。すると、彼女の額の赤い宝玉が輝き、それに呼応するかのように彼女の愛機、焔龍號がフライトモードの形態で姿を現した。

 

「カナメは、大巫女様に報告! ナーガとナオミは、お二人を安全な場所に!」

『はい!』

「了解!」

 

焔龍號に乗り込んだサラが矢継ぎ早に指示を出した。そうしながら、コンソールを叩くなどして出撃の準備を整えていく。

 

「アンジュ、勝負の続きはいずれ」

 

そして最後にそれだけ言い残すと、コックピットを閉めてサラは飛び立った。空を飛んで逃げるドラゴンの女性たちが衝撃波に吹き飛ばされながらも必死に竜巻から距離を置く中、アンジュたちもドラゴンに乗って神殿まで戻ってきたのであった。

 

「大巫女様に報告したら、私たちも出ましょう」

「わかってる。お前たちはこっち…」

 

カナメの言葉に同意したナーガが振り返ったが、そこに居るべきはずのアンジュたちの姿はない。

 

「あ?」

「え?」

 

二人が驚いて周囲に視線を走らせると、アンジュたちは当然のように自分の愛機に乗っていた。

 

「な、何してるんだ貴様!」

「ヴィヴィアンを助けに行くのよ!」

 

ナーガが咎めるが、当然のようにアンジュが答えた。

 

「ナオミ、貴方まで!」

 

タスクの背後で、タスクの機体に跨っているナオミをカナメが見つけた。

 

「ごめん! でも、ヴィヴィアンは見捨てられないよ!」

 

かつてアルゼナルで共に戦った者同士、その友情は健在であった。

 

「待てその機体は、まだ修理が!」

 

ナーガが叫ぶものの、だからといって大人しく従う三人ではない。二機とも、先程のサラと同じように次々に大空へと飛び立ったのだった。

 

 

 

 

 

相変わらず竜巻が猛威を奮う中、とりあえず避難した女性たちが不安げな様子で一箇所に集まっている。と、竜巻の影響で建物の一部が不意に彼女たちの上に落下してきた。

悲鳴が上がって彼女たちを押し潰そうとしたその落下物は、不意にどこからか放たれたビーム砲によって粉砕される。

 

『ここは危険です! 神殿に避難を!』

 

彼女たちの危機を救ったのは駆けつけたサラだった。

 

「サラマンディーネ様!」

 

その勇姿に歓声がそこかしこから上がる。

 

『さあ、急いで!』

 

サラの指示に従い、避難していた女性たちが一気に神殿に向かって走り出した。必死になって逃げる彼女たちだが、そんな中、どうしても逃げ遅れたり躓いて転んでしまう者たちがいる。そうなった彼女たちの運命は一つ。

 

「た、助けてーっ!」

 

助けを叫びながら、しかし無情にも生きたまま瓦礫に埋め込まれて死んでいくのだ。そしてここでも又一つの生命が失われようとしていた。が、

 

「ふっ!」

 

誰かの声がしたかと思うと、瓦礫に飲み込まれる寸前でその身体が宙に舞う。そして少し離れた場所にいつの間にか移動していた。

 

「…?」

 

わけがわからずおっかなびっくりゆっくりと目を開ける。と、

 

「走れ!」

 

男の声だけが聞こえたが、そこにはもう誰もいなかった。わけがわからなかったが生命拾いしたことに安堵して、彼女は又走り出したのだった。そしてそんな、廃墟と化していく瓦礫の街を走る黒い人影が一つ。

 

(きりがない!)

 

苦虫を噛み潰したような表情で疾走するその人影はシュバルツだった。シュバルツはこの異変に気づいた後、人が瓦礫に飲み込まれていくのを見て単身で救助活動を行っていたのだ。街を駆け巡りながら、逃げ遅れて竜巻に飲み込まれそうな者がいたら救い、そして又街を駆け巡るということを繰り返していた。

 

(こんなものはただの自己満足の上、根本的な解決にはならん)

 

それはわかっていても、それでも救える生命があるだけにやるしかない。だがそうしながらも、

 

「何なのだ、あの竜巻は!」

 

舌打ちをしながら悪態をつくのを止めることはできなかった。そんな中、ヴィヴィアンたちも必死に逃げている。ある程度距離を取ったところで確認のためにラミアが後ろを振り返ると表情を強張らせた。そして、

 

「ミィ!」

「うおーっ!?」

 

ヴィヴィアンをいきなり突き飛ばしたのである。

 

「あたたたたっ…」

 

突然のことに頭を左右に軽く振りながらヴィヴィアンが半身を起こす。と、

 

「大丈夫だった? ミィ…」

 

か細いと言っていいラミアの声が聞こえてきたのだった。ヴィヴィアンが振り返ると、ラミアは瓦礫の下敷きになり、動けなくなっていた。

 

「お母さんさん?」

 

慌ててヴィヴィアンが駆け寄る。まだ言葉遣いがおかしいが、そんなことは今はどうでもよかった。地上でそんな状況になっている中、上空では駆けつけたサラが必死に竜巻に対処しようとしている。

 

「このっ! このっ!」

 

ビーム砲を放って、竜巻自体は無理にしてもせめて侵食だけでも遅らせられないかと奮闘している。しかし、竜巻は何の変化も見せず、状況はまるで変わらない。

 

「どうすればいいのですか!?」

 

何も有効な手立てが取れないことに思わず歯噛みするサラ。そんな折、

 

『撤退するのじゃ、サラマンディーネ』

 

不意に通信が入ってきた。

 

「大巫女様!?」

 

不意の撤退命令に、サラが驚きの声を上げる。

 

『龍神器はアウラ奪還の中心戦力。万が一があってはならぬ』

「ですが!」

『ビーベルの民が、そちらに向かっておる』

 

その言葉通り、焔龍號のモニターには確かにこちらに向かって飛来してくるドラゴンの編隊の姿があった。

 

『後は彼らに任せるのじゃ』

「それでは間に合いません!」

 

命令とは言え、サラにとっては簡単には承服できないものだった。納得できない様子がありありと窺えている。

 

『撤退せよ』

 

しかし、モニターの向こうから聞こえてくる大巫女の言葉の内容は、何も変わりはなかった。

 

「民を見捨てるなど、私には!」

『これは命令じゃ』

 

無情にも、そこで通信は切られた。

 

「くっ!」

 

重ねて命令されても納得はできず、思わず歯噛みするサラ。だからだろうか、気づいたときには自分に向かって飛んでくる瓦礫がもうすぐ目の前にまで迫っていた。

 

「はっ!」

 

彼我の距離がどうしようもないところまでせまり、思わず固まってしまうサラ。と、

 

「何をボケッとしてるのよ! サラマンドリル!」

 

不意に現れたヴィルキスがその瓦礫を真っ二つに両断してその危機を救った。よく見ると、先程のナーガの、まだ修理が、の言葉通り左腕を欠いた状態だが。

 

「アンジュ!」

 

予期していなかった援軍の姿にサラは当然のように目を見張った。そうしている間にも竜巻の浸食はどんどんと広がっていき、逃げていく女性たちが次々に竜巻に飲み込まれていく。

 

「く、このままでは…」

 

一人瓦礫の街を駆け巡り、救助活動に今も勤しんでいるシュバルツも流石に弱音を隠し切れなくなっていた。と、その視界の端にヴィルキスを始めとする三機の姿を捉える。

 

「! 来たか!」

 

その姿に、これから竜巻に飲み込まれていってしまうであろう、まだ見ぬ女性たちに内心で謝りながらシュバルツはある方向に向けて舵を切った。

 

「何? あれ」

「エンブリヲだ」

 

シュバルツが行動を移し始めた中、アンジュが思わず発したその絶句に、タスクが心当たりがあるのだろう、苦々しい表情になってそう答えた。その名を聞いたアンジュとサラが息を呑む。

 

「エンブリヲは、時間と空間を自由に操ることができる。俺の父さんも、仲間も、石の中に埋められて死んだ。あんなふうに!」

 

そのときのことを思い出しているのか、タスクが悔しそうな表情になって歯噛みをする。

 

「…! ヴィヴィアン!」

 

呆然としながらタスクの通信を聞いていたアンジュが、目の端にお目当てのヴィヴィアンの姿を捉え、思わず叫んだ。

 

「どうして、こんな危ないことしたの。あたしなら、訓練を受けてるからへっちゃらだったのに」

 

ラミアの脇で膝を突いてヴィヴィアンが責めるような口調でラミアを問い詰めた。

 

「子供を護るのが…お母さんのお仕事だからよ…」

 

そんなヴィヴィアンに弱々しく微笑みかけながら、ラミアはその頬をなでた。

 

「お母さん…さん」

 

母のその言葉に、思わず涙ぐむヴィヴィアン。

 

「ヴィヴィアン!」

 

その姿を捕捉したタスクが自機を滑らせて二人の近くに降りる。

 

「ヴィヴィアン!」

 

着陸したところでナオミがすぐさま二人に駆け寄った。すぐ後ろにタスクも続く。

 

「どうするのよ、サラマンド!」

 

他方、空中ではこの場の対処についてアンジュがサラに詰め寄っていた。が、

 

「事態の原因がわからない以上、どうすることも!」

 

サラにはこう返すことしかできなかった。どうにかできるのならとっくにどうにかしているはずだからその言葉は正しいのだろう。だがそれは、この場では最悪の選択でしかなかった。そうこうしている間に、浸食はどんどん広がっているからだ。

 

「! そうよ、あれがあるじゃない!」

 

歯噛みしながら崩壊していく街並みを見ていたアンジュが不意に声を上げた。

 

「え?」

 

何のことかわからず、思わずサラが聞き返す。

 

「アルゼナルをぶっ飛ばしたあれ! あいつであの竜巻を消してしまえば…」

 

その言葉を聞き、少しの間考えていたサラマンディーネだったが、

 

「ダメです」

 

と、アンジュの意見を却下した。

 

「どうして!?」

 

当然、納得のいかないアンジュが理由を尋ねる。

 

「威力が足りないのです。収斂時空砲だけでは、あの竜巻を消せません!」

「なら、ヴィルキスも力を貸すわ!」

「ですが困ったことに、それでは今度は威力が余りすぎるのです。それでは都はおろか、神殿ごと消滅してしまいます!」

「威力落として発射すれば良いでしょ!?」

「そんな都合よく調節できません!」

「融通利かないんだから、もう!」

 

激論を交わすアンジュとサラの下で、ヴィヴィアン、タスク、ナオミの三人は瓦礫に押し潰された格好のラミアを救助しようと、必死になってその瓦礫をどかそうとしている。

 

「早く逃げなさい、ミィ!」

 

ラミアがそう促す。が、

 

「行かない!」

 

ヴィヴィアンは目に涙をためながらそれを拒否した。

 

「お母さんと一緒じゃなきゃ、行かない!」

「ミィ…」

 

娘の決意に母はそれ以上何も言えなかった。そうしながらも、何とか三人で瓦礫をどけようと奮闘する。が、残念なことに瓦礫は相当の重量があるのかビクともしなかった。

 

「どうしようタスク、このままじゃ」

 

思わずナオミが弱音を吐いた。が、タスクにしても何かいい考えがあるわけではないのだ。難しい顔をして瓦礫を睨みつけることしかできない。と、

 

「どけ!」

 

不意に、背後からよく知った男の声が聞こえてきた。

 

『! シュバルツ(さん)!』

 

思っても見なかったその姿に三人は驚いたようにシュバルツの名を呼んだ。

 

「早く!」

 

シュバルツはそんな三人に返事を返そうとはせず、そう指図する。その語気に圧されるかのように、三人は慌ててその場をどいた。と、

 

「はああああっ!」

 

三人がどくのを待ってましたとばかりにシュバルツが背負っていた刀の柄に手を掛けると走り出す。そして、ラミアを押し潰している瓦礫を真っ二つに切り捨てた。

 

「はあっ!」

 

そしてその後、刀を鞘に納めながら軽くジャンプをすると、未だラミアの上に覆いかぶさっている瓦礫を蹴り飛ばした。シュバルツに蹴り飛ばされた瓦礫は恐ろしい速さで吹き飛び、近くの壁に激突して四散した。

 

「後は任せるぞ!」

 

それだけ言い残すと、シュバルツは見向きもせずにそのままある方向へ、まるで風のように走り去っていったのだった。

 

『……』

 

取り残された四人…タスクたちとラミアは少しの間呆然としていたが、状況が状況なだけに慌ててその場から逃げ去ったのだった。そんなこともあり、タスクたちは何とかヴィヴィアンとラミアを保護して撤退したのだが、アンジュとサラはまだ行動を決めかねていた。

 

「どうするのよサラマンリキ! 退くの!?」

「それはできません! 退いたところであれが自然消滅してくれるわけはないですし、放っておけばさらに被害は拡大します! 援軍はこちらに向かっているのですが…」

「そんな悠長なこと言ってる場合!?」

「わかってます! 私だって出来ることならどうにかしたい!」

「だったらやっぱり、私たちがあれをブチ込むしか!」

「しかしそれでは、先程も言った通り威力が強すぎて神殿をはじめ都までも消滅してしまいます! それでは『いや、その手で行こう!』」

『!』

 

不意に、通信に乱入してきた思いがけない人物の声にアンジュとサラは固まった。が、それも一瞬。

 

「シュバルツ!」

「何処行ってたのよ、全く!」

 

驚きとも歓喜ともつかない声を上げるサラとアンジュ。

 

『すまん! だが、話は後だ!』

 

通信先のシュバルツは一言、彼女たちに謝った。そしてこの場を打開するべく言葉を繋ぐ。

 

『サラ、お前とアンジュのあの両肩から放たれる砲撃なら、この竜巻を吹き飛ばせるのだな!?』

「え、ええ。でも、貴方が聞いていたのかはわかりませんが、それでは神殿をはじめとする都までも吹き飛ばしてしまうのです! ですから…」

『心配いらん、それは私が何とかする!』

「し、しかし「オッケー!」アンジュ!?」

 

シュバルツの言葉に躊躇するサラだったが、横から割り込んできたアンジュの発言に、思わず言葉を失わざるを得なかった。

 

「時間がないわ、すぐやるわよ!」

『承知した!』

 

そこでシュバルツからの通信が途絶えた。

 

「やるわよ、サラマンティス!」

 

アンジュはこれ以上は無意味とばかりに攻撃態勢に入ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

そんなアンジュを慌ててサラが制した。

 

「何よ!」

「そんな簡単に安請け合いしてもらっては困ります! 万一のことが「バカ!」」

 

これまでで一番といってもいいアンジュの怒気に、サラは思わず息を呑んだ。

 

「あんた、何もわかってない!」

「な、何がですか!」

「あいつが『何とかする』って言ったのよ! だったら、何とかなるに決まってるじゃないの!」

「!」

 

アンジュが見せたシュバルツへの無条件の信頼に、サラはそれ以上何も言うことができなかった。

 

「それに、貴方お姫様なんでしょ、サラマンマン!」

 

続けて、サラの決意を促すかのようにアンジュが言葉を重ねる。

 

「危機を止めて民を救う! それが、人の上に立つものの使命よ!」

「っ! わかりました、やりましょう」

 

事ここに至って、ようやくサラも覚悟を決めたようだった。それにしてもアンジュは気づいているのだろうか。自分が、さっきシャワーを浴びていた時言ってたのとはまるで正反対のことを言っていることを。

悪ぶっていたり斜に構えていても、結局根っこは大きく変わらないということだろうか。

そして二人の姫は紡ぐ。それぞれの機体の真の力を発揮できる鍵…永遠語りのメロディを。

 

風に飛ばんEl Ragna 運命と契り交わして…

風に征かんEl Ragna 轟きし翼…

 

自身の焔龍號をパラメイルで言うところのアサルトモードに変形させる。並行して、永遠語りに呼応するかのようにサラの額の宝玉が輝きを増して光を放つ。そして、前部モニターに収斂時空砲の文字が躍った。

 

始まりの光 Kirali…Kirali

終わりの光 Lulala lila

 

そしてこちらも、アンジュの永遠語りに呼応するかのようにアサルトモードになっていたヴィルキスが金色に染まり、両肩のギミックが展開されていく。その頃には、サラの焔龍號も同じように両肩のギミックを展開させていた。

光の粒子が二機の両肩に集まり、そしてまずは、サラの焔龍號が収斂時空砲を発射させた。竜巻に直撃し、そして、

 

「アンジュ!」

 

片割れの、その名を叫ぶ。わかってるとばかりに頷いたアンジュだったが、修理の済んでいない機体故に負荷に耐えられなかったのか、小型だが爆発を起こして制御を失って落下し始めた。

 

「アンジュ! 落ちてますわよ、アンジュ!」

「見ればわかるわよ!」

「早く立て直しなさい!」

 

言われずとも必死に立て直そうとしているが、ヴィルキスは言うことを聞いてくれない。

 

「この大事な時に!」

 

そしてアンジュはヴィルキスを睨みつけた。

 

「貴方、世界を滅ぼした兵器なんでしょう!? 気合入れなさい、ヴィルキス!」

 

そのアンジュの叫び…想いに反応するかのように今度は彼女の指輪が輝く。そして、それに応えるかのように、何と瞬時にヴィルキスはその姿を元通りに復元させたのだ。そして、アンジュの魂を乗せたディスコード・フェイザーが放たれた。

二人の機体の最強兵器の直撃を受けた竜巻は予想通り跡形もなく吹き飛んだ。が、こちらも予想通り相殺し切れなかった二機の砲撃が、着弾点を求めて飛んでいく。

 

「! 行けない!」

 

思わず叫んだサラだったがその直後、その進行を遮るかのようにまた竜巻が地上から巻き上がった。だが今度のものは先程のような何でも飲み込むブラックホールのような凶暴なものではない、漆黒の旋風だった。

 

「頼んだわよ、シュバルツ!」

 

その姿に、アンジュは思わず祈りを込めて応援する。暫くせめぎ合っていた黒い竜巻とディスコード・フェイザー、収斂時空砲の連弾だったが、やはり荷が重かったのか黒い竜巻が弾かれそうになった。

 

「っ!」

 

何が出来るかはわからないが、その状況に思わず駆けつけようとするサラ。だが、その瞬間、両者のせめぎ合っている地点が眩いばかりに光りだした。

 

「きゃっ!」

「な、何!?」

 

その強烈な光に、思わず目を背けたり手を翳したりするサラとアンジュ。だが光は輝きを増し、そして、爆ぜた。

 

『……』

 

光の影響が失くなったのを感じ取ると、アンジュとサラは恐る恐る目を開けた。すると、そこにはディスコード・フェイザーと収斂時空砲の連弾の姿は影もなく、神殿も都も無事な姿で残っている光景を確認することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

全てが終わり、瓦礫の街。

 

「お母さん、お母さん…」

「ミィ…」

 

ヴィヴィアンとラミアは泣きながら抱きしめあってお互いの無事を喜んでいた。その姿を、タスクとナオミが羨ましそうに、眩しそうに見ている。

 

「何とかなったみたいね」

「貴方のおかげで、民は救われました。感謝します、アンジュ」

 

そこから少し離れた場所で、今回の立役者二人が自分の機体の上に乗ったまま、対峙していた。

 

「友達を助けただけよ」

 

照れ臭いのか、視線を外すとぶっきらぼうにアンジュはそう言った。

 

「それに、一番の功労者は私じゃないし」

「そうですね」

 

二人の脳裏に、同じ人物の顔が浮かんだのは当然のことだった。

 

「…しかし、まさか、あの歌に助けられるとは」

「え?」

 

サラの呟きの意味がわからず、思わずアンジュが尋ね返した。

 

「貴方が歌ったのは、かつてエンブリヲがこの星を滅ぼした歌。貴方は、あの歌を何処で…」

「お母様が教えてくれたの」

 

少し間を置いてアンジュが答えた。

 

「どんなときでも、進むべき道を照らすようにって」

「私たちと一緒ですね」

 

サラが軽く微笑む。

 

「星の歌。私たちの歌も、アウラが教えてくれたものですから」

 

そして、その微笑が少しだけ寂しげなものになった。

 

「教えられました、己の未熟さを。皆を護って危機を止める。指導者とは、そうあらねばならないのだと」

 

そして、今度は少しはにかんだ表情になった。

 

「私も、貴方の友達になりたい。共に学び、共に歩く友人に」

 

サラの告白を黙って聞いていたアンジュだったが、不意に、

 

「長いのよね、サラマンデンデンって」

 

腰に手を当ててそう口を開いたのだった。

 

「え?」

「サラ子って呼んで良いなら」

「…では私も、貴方のことはアン子と「それはダメ」」

 

まるで漫才の掛け合いのようなやり取りを見せた二人だったが、こうしてお互いにかけがえのない友を得ることになったのだった。そこに、最後の役者が現れる。

 

「雨降って地固まる…といったところか?」

『シュバルツ!』

「シュバルツさん!」

 

アンジュとサラが友情を結んでいるところに、シュバルツがタスクたちの下に歩いて現れた。そして、アンジュとサラの様子を見てそう評する。と、

 

「シュバルツ~♪」

 

ヴィヴィアンが勢いよくその胸に飛び込んだ。

 

「っと」

 

少々驚きの表情を見せたものの、ガンダムファイターであるシュバルツがその程度でビクともするわけはなく、力強くヴィヴィアンを受け止めた。

 

「スリスリ♪ スリスリ♪」

 

自分で言いながら、その擬音どうりにシュバルツの胸板に顔をスリスリと擦りつけるヴィヴィアン。

 

「どうした、ヴィヴィアン?」

 

普段と比較しても少し度が過ぎるその行為に、シュバルツが思わず尋ねた。

 

「お母さんを救ってくれてありがと! シュバルツ、だ~い好き♪」

 

シュバルツが顔を動かすと、目尻の涙を拭いながら軽く会釈をするラミアの姿があった。

 

「そうか、無事で何よりだ。それにお前も、答えは見つかったみたいだな」

「うん!」

「良い子だ」

 

いつもの元気一杯のヴィヴィアンの笑顔を見たシュバルツがその頭をなでる。ヴィヴィアンはくすぐったそうに、しかし嬉しそうにしていた。

 

「さあ」

 

シュバルツは自分の胸の中に未だ頭を埋めているヴィヴィアンを優しく引き剥がすと、母親の元に向かうように促した。

 

「うん!」

 

そしていつものように元気良く返事をすると、ヴィヴィアンはラミアの元へと走っていったのだった。

 

「お前たちも無事で何よりだ」

 

そのまま今度は、その視線をタスクとナオミに向けた。

 

「正直、少ししんどかったですけどね」

「でも、さっきヴィヴィアンが言った通りシュバルツがあの瓦礫を何とかしてくれたからだよ。ありがと」

「いや、お前たちが無事なのはお前たちの力さ。私は何もしてはいない」

 

その言葉に照れ臭くなったのか、タスクは照れた笑みを浮かべながら頬をポリポリと掻き、ナオミはえへへとはにかみながら笑ったのだった。と、

 

「シュバルツ!」

 

遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてシュバルツが振り返ると、そこには嬉しそうな笑顔でこっちに走ってくるアンジュの姿があった。

 

「はあ…はあ…もう、今まで何処に行ってたのよ!」

 

目の前まで走ってきてから荒い呼吸を整え、アンジュが毒づく。

 

「すまんすまん。ちゃんと仕事はこなしたのだから、それで勘弁してくれ」

「もぅ…」

 

毒づいてはいるものの、アンジュのその表情は嬉しそうなもののまま変わっていなかった。その姿から、本気で言っているのではないというのがわかる。

そんな和気藹々とした一団を、少し離れた場所から見ている人影が一つ。

 

「……」

 

サラであった。彼女はシュバルツたちに駆け寄る素振りもなく、ただ少し離れたところからジッとその光景を見ているだけに留まっていた。

そして少し後、身を翻して自分の愛機の許に戻っていったのだった。

 

(…どうやら、まだ私にはあの人の隣に立つ資格はないようですね)

 

思い出すのは先程のワンシーン。シュバルツが自分たちの攻撃を何とかすると言ったときのアンジュの一言だった。

 

『あいつが『何とかする』って言ったのよ! だったら、何とかなるに決まってるじゃないの!』

 

どれだけ相手の実力をわかっていれば、そしてどれだけ相手を信頼していれば言えるセリフなのだろうか。そしてアンジュはそれをこともなく言ってのけたのだった。

しかしサラは、それに同意することが出来なかった。故に、

 

(この場は、あなたたちに華を持たせましょう、アンジュ)

 

その信頼関係に割って入れるほどの関係をまだ築けていないサラは、大人しくこの場を立ち去ることにしたのだった。

 

(ですが、諦めたわけではありませんよ)

 

歩きながら振り返り、背後のシュバルツと、アンジュを始めとする周囲の面々に視線を送る。

 

(いずれ、その場に立つのは我ら。そして、私ですわ)

 

今一度そう決意するとサラは焔龍號に乗り込み、空へと飛び立ったのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。