機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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おはようございます。

さて、今回は中盤の大きな山場の一つ、アルゼナルでの攻防戦ですね。

どんな感じに纏められているかは、是非本文を読んでご確認下さい。

では、どうぞ。


NO.32 終わりの始まり

『こちらは、ノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です。ノーマの皆さん、ドラゴンとの戦闘ご苦労様でした』

 

先程ジルの目の前に開いたウィンドウは、今はアンジュたちの前にも現れていた。燃え盛るドラゴン…いや、火葬されている大量の人の死体の前で、まるで似つかわしくない暢気な放送が流れている。

 

『これより、皆さんの救助を開始します』

「アンジュリーゼ様、助けです! 助けが来ましたよ!」

 

モモカが嬉しそうにはしゃいだ。この放送を鵜呑みにしているのだとしたら、なんともおめでたい限りである。現にアンジュを初めとする第一中隊の面々は歓声を上げるでもなく、表情を綻ばせるでもなく、疑いの眼差しでウインドウを見ていた。

 

『全ての武器を捨て、脱出準備をしてください』

「耳を貸すなよ、戯言だ」

 

司令室で同じようにウインドウを見ていたパメラ、オリビエ、ヒカルの三人が振り返った。そこには、司令部に戻って来たジルの姿があった。

 

「対空防御体制」

『イエス、マム!』

 

三人がジルに敬礼を返すと、矢継ぎ早にその指示をアルゼナル全域に伝える。程なく、先程と同じように防衛の準備が整った。

 

 

 

「アルゼナル、対空兵器を起動!」

 

対して放送を流し、アルゼナルへと向かっている救助艦隊…らしきもの。兵員の一人がアルゼナルの変化を報告した。

 

「やれやれ…」

 

報告を受けたジュリオが疲れたような表情で首を左右に振った。

 

「平和的にことを進めたかったというのに」

 

ジュリオは立ち上がると、マイクを手に取った。

 

「旗艦、エンペラージュリオⅠ世より全艦艇へ。たった今ノーマはこちらの救援を拒絶した。これは我々…いや、全人類に対する明確な反逆である。断じて見過ごすわけにはいかん! 全艦攻撃開始!」

 

号令と共にジュリオの指示通り、全艦隊がアルゼナルへ向けて攻撃を開始した。もっとも、先程の各国首脳会談の悪巧みの結論から、遅かれ早かれこうなっていたのだろうが。

その頃アルゼナルでは、ジャスミンの飼い犬であるバルカンが攻撃の気配を察知したのか、空を睨むと立て続けに吼えたのだった。

 

「! 小娘ども、来るよ!」

 

そのバルカンの姿にいち早く危険を察知したジャスミンがその場を離れる。

 

「え…?」

 

何のことかわからないのだろうか、一人モモカが首を傾げた。が、すぐにその意味するところがわかることになる。ミサイルの雨がアルゼナルに降り注いだのだ。

ある程度は対空防御によって着弾する前に処理出来るものの、それでも全て落とせたわけではない。対空防御の網の目を掻い潜った幾つかのミサイルがアルゼナルに着弾し、爆発して施設を壊し隊員たちの生命を奪っていく。まさに地獄絵図の様相を呈し始めていた。

アンジュたちも悲鳴を上げながらジャスミンに続いて施設内へと避難する。そして、そんな彼女たちの許へと向かおうとする機影が一つ。

 

「くそっ、遅かったか!」

 

タスクであった。

 

「無事でいてくれ、アンジュ!」

 

祈るようにそう言うと、タスクは機体のスピードを上げたのだった。

 

 

 

 

 

アルゼナル内部。

何とか施設内に逃げ込んだアンジュたちだったが、一息つく暇もなかった。艦隊からの攻撃が止むことなく続いているからである。何処も彼処も建物は揺れ、爆音が耳を支配している状態だった。エルシャだけは一人離れ、子供たちのところに様子を見に行って彼女たちを落ち着かせていた。

 

「攻撃してきやがった!」

「救助なんて嘘だったんだ…」

 

ロザリーが歯噛みし、クリスが顔を伏せる。と、

 

『諸君』

 

ジルからアルゼナル全域へと通信が入った。

 

『これが人間だ』

 

恐らくは地下へと向かっているのだろう、囲いのない形だけのエレベーターに乗って下りながら通信を続ける。

 

『奴らはノーマを助けるつもりなどない。物のように我々を回収し、別の場所で別の戦いに従事させるつもりなのだ』

 

ジルの表情は険しい。状況が状況なのだから当然かもしれないが、それでも今までの中で一・二を争うぐらいに表情も雰囲気も険しかった。

 

『それを望む者は投稿しろ。だが、抵抗する者は共に来い。これより、アルゼナル司令部は人間の管理下より離脱。反抗作戦を開始する。…作戦名は、リベルタス』

 

決して望んだタイミングではなく、状況に迫られての側面は多々あるが、それでもここにアルゼナルの最後の作戦である“リベルタス”が発動されたのだった。それを聞き、この作戦の中心人物たちの表情が鋭さを増した。

 

『志を同じくする者は、武器を持ち、アルゼナル最下層に集結せよ。それと一つ朗報だ』

「朗報?」

「こんな状況なのに?」

 

ロザリーとクリスが眉を顰める。だが、それは他の隊員たちも同じだった。艦隊からの攻撃を何とか凌いでいるこの状況下で、朗報などあるとは思えない。が、ジルのもたらす報せは確かに朗報だった。

 

『シュバルツから通信が入った』

 

その一言に、アルゼナル全域が一瞬でざわめき立つ。

 

「静かに! 続きが聞けなくなるよ!」

 

一瞬で気色ばんだ隊員たちを落ち着けるようにヒルダが声を張り上げた。もっともな意見のため、隊員たちはすぐに口を噤む。が、隊員たちが色めき立つのはジルもわかっているのだろうか、すぐには続きを口にせず、少し時間を空けてから次の言葉を口にした。

 

『今、こちらに向かっているそうだ。追々合流できるとのことだ。以上だ』

 

ジルの通信が切れる。すると隊員たちは次々に立ち上がった。

 

「どうする?」

「勿論、行くわよ」

「だよね」

「ええ」

 

こういった感じの前向きな言葉が其処彼処から上がる。そしてそんな会話を交わす隊員たちの表情は皆一様に明るかった。そしてそれが、朗報の効果であることは疑う余地もなかった。

 

「ミスター…」

 

エルシャは子供たちを落ち着かせながら感極まり、

 

「よっしゃ!」

「やった!」

 

ロザリーとクリスは明るい表情でガッツポーズをとっている。ヒルダも声を上げることすらしなかったが、実に嬉しそうな表情で小さくガッツポーズをとっていた。

 

「良かった…本当に…」

 

サリアは不覚にも思わず涙ぐみ、

 

「アンジュリーゼ様!」

「…全く、人騒がせなんだから」

 

満面の笑みを浮かべて歓喜の声を上げるモモカの傍らで、軽く毒づきながらもアンジュが微笑んだ。朗報を起爆剤とし、隊員たちは次々に最下層へと向かい始めた。

 

 

 

「お前たちはどうする?」

 

ジルと共にエレベータにー乗っていたパメラたち三人のオペレーターに、ジルが尋ねた。一瞬、三人は互いの顔を見合わせたが、それは本当に一瞬だった。

 

「共に参ります、司令と」

 

パメラが答えたのに同意するように、オリビエとヒカルも強く頷いた。

 

「サリア」

 

三人の返答を聞いたジルが、サリアに個人的に通信を入れた。

 

「アンジュは必ず連れて来い」

「わかってるわ…」

 

通信を受けたサリアはターゲットに気付かれないようにゆっくりとアンジュに視線を向けるとそう答えた。

 

「ふぅ…」

 

これで出すべき指示は全部出したのだろう、ジルが通信を切ると大きく溜め息をついた。と、

 

「あの、司令…」

 

おずおずとパメラが口を開いた。

 

「何だ?」

 

ジルが口を開く。

 

「その…先程のことですが、本当なのですか?」

「何のことだ?」

「その、シュバルツの…」

「…ああ」

 

パメラが何を言いたいのか理解したジルが声を上げる。が、これは何もパメラに限ったことではなかった。オリビエとヒカルも同じようにジルの返答を心待ちにしている。しかし、三人がこういった態度を取るのも無理はなかった。何故なら司令室にジルが戻ってきてからずっと行動を共にしていたが、その間、外部から通信が入ってきた様子はなかったからだ。

無論、司令室に戻ってくるまでの間に通信を受けたという可能性もある。そして三人共、それを期待していた。だが、

 

「すまんな、あれはハッタリだ」

 

返ってきたのは三人を…いや、アルゼナルの全ての人員を裏切る返答だった。

 

「ど、どうしてそんな!」

「何故です、司令!」

 

オリビエとヒカルが非難の声を上げた。パメラも口にこそ出さないが、一気に表情が沈んでしまう。そんな三人に平然と、

 

「犠牲者を少なくするためさ」

 

と、嘘をついた理由を説明した。

 

「え?」

 

ジルの返答を聞いたオリビエが呆気に取られた表情で小首を傾げた。

 

「お前たちも十分に肌で感じただろう? 奴が攫われた後のこのアルゼナルの惨状を」

「それは…はい」

 

ヒカルが頷いた。

 

「泣きっ面に蜂というわけではないが、この最悪のタイミングで人間共が攻めてきた。今の状況では通常の状況より被害が大きくなることは目に見えている。ならばどうすればいいか、皆の士気を揚げればいい」

「それが、先程のハッタリだと…?」

「そうだ」

 

パメラの言葉にジルは頷いた。

 

「お前たちを始め、このアルゼナルの人員は殆ど全てシュバルツを慕っている。その本人が攫われたものの、合流するためにこちらに近づいてきている。であれば隊員たちはどうする?」

「合流するために、集合場所へと急ぐ…」

「そういうことだ」

 

オリビエの答えにジルが頷いた。

 

「生気を取り戻せば行動は迅速になるだろう。また、規律だって行動することにもなるはずだ。そうなれば予想以上に速いスピードで大勢の人員が集結することになる。その短縮された時間が命運を分けることにだってなりうる」

「だから、あんな大ボラを?」

「その通りだ」

 

ヒカルの問いかけにジルが先程と同じように同意した。

 

「で、ですが!」

 

尚もパメラが食い下がった。

 

「何だ?」

「皆が集まって、その後はどうするのです? いつまでもシュバルツが合流しなければ、皆だって不審に思うはずです!」

「そ、そうですよ! どうやって誤魔化すんですか!?」

 

追随して声を上げたオリビエにヒカルもうんうんと頷いた。だがジルは、

 

「隠すつもりも誤魔化すつもりもない」

 

と、これまたこともなげに返答した。

 

『え…』

 

あまりに普段通りの様子で返した返答に、三人の方が固まってしまった。そんな三人にジルが落ち着いた口調で語りかける。

 

「無事に逃げおおせた後なら、こんな頭でよければいくらでも下げてやるさ。それにどの道、生き延びねばあいつと再会することさえままならんのだからな」

『……』

 

ジルの返答に三人は顔を見合わせてそれ以上何も言えなくなってしまった。確かにジルの言う通りだからである。

シュバルツが攫われ、考えたくもないことだが生死不明の状態である。だがもし生きていたとしたら、再会するためにはこちらも生き延びる必要があるのだ。死んであの世で再会…という筋書きもないではないが、それもシュバルツが死んでいれば、の話である。

先述の通り現在は生死不明ではあるが、もし生きているのであれば再会するためにも死ぬわけにはいかないのだ。そしてそのための先程の隊員たちへの大ボラ…ハッタリだったのである。

それがわかってしまったため、三人はそれ以上何も言うことが出来なくなってしまったのだった。

 

「……」

 

ジルは三人の表情から自分の言わんとしていることを理解したのを悟ると、いつものように懐からタバコを取り出した。そして徐に火を点ける。

立ち上った紫煙をボンヤリと見ながら、ジルはリラックスに努めたのだった。

 

 

 

 

 

アルゼナル最下層。

目的の場所に着いたジルがコツコツと歩を進める。

 

「いつの間にこんな…」

 

対照的に、パメラたち三人は辺りをキョロキョロ見渡していた。が、それも当然である。何しろ、ここに来るまで知りもしなかった施設の中にいたのだから。そして程なく、一向はアルゼナルの司令部によく似た場所に辿り着いた。

 

「パメラ、操縦席に座れ」

 

ジルはそんな三人に答えることもなく矢継ぎ早に指示を出す。

 

「ヒカルはレーダー席、オリビエは通信席。全システム起動、発進準備だ」

『イエス、マム!』

 

三人の返答が揃った。彼女たちのいる施設…それは巨大な戦艦の内部だった。一方、上階の施設内部では、

 

 

 

「反抗ってどういうことだよ!」

 

声を上げたのはロザリーだった。

 

「司令に従って死ぬか、人間共に殺されるか選べってことでしょ」

 

ヒルダがインカムをつけながらそう答えた。そして、

 

「ヒルダ了解。指揮下に入ります」

 

インカムに向かってそう告げた。恐らく通信先はジルか、通信席にいるオリビエだろう。その回答に、ロザリーとクリスは驚いてヒルダを見た。

 

「人間たちには怨みも憎しみもある。反旗を翻すにはいい機会さ。それに、シュバルツももうすぐ合流するんだ。反る理由なんかないだろ?」

『間もなく敵の第二波がくる。パラメイルで迎撃せよ』

「イエス、マム」

 

指揮下に入った理由を二人に説明した後で、ジルからの指令を了承するとヒルダは通信を切った。

 

「私も行くわ、ヒルダちゃん」

 

声をかけられ、ヒルダとロザリーとクリスの三人が振り返った。

 

「護らなくちゃね、大切なものを」

 

そこにいたのは、決意を固めた表情のエルシャだった。そしてその周りには、彼女の言うところの大切なもの…幼年部の子供たちが十重二十重に彼女を囲んでいた。

 

「人間に刃向かって、生きていけるわけないでしょ!」

 

そう叫んだのはクリスである。が、

 

「やってみないとわからないさ」

 

ヒルダが不敵な笑みを浮かべた。もう随分、いつもの調子が戻ってきたようである。

 

「ええ。それに分の悪い賭けなのは間違いないでしょうけど、絶望的じゃないんじゃない? こっちにはミスターがいるんだし」

 

エルシャが同意すると、子供たちが喜んだ。絶望的じゃないという発言に対しての側面もあるのだろうが、それ以上にシュバルツが話題の俎上に上がったことに喜んでいるのだろう。そこかしこで、お兄さん? 本当? といったざわめきが上がっている。

 

「そーゆーことさ。そうだろ、アンジュ?」

 

ヒルダが同意を求めるように振り返った。が、

 

「あ…?」

 

そこには先程まで確かにいたはずのアンジュの姿はなかった。

 

 

 

「ヴィルキスが最優先だ! 弾薬の装填は後回し! 非常用エレベーターに載せるんだ!」

 

整備デッキ、メイの指示が飛ぶ。その指示の下、整備班の隊員たちは一丸となってパラメイルの修理と補給を行っていた。

 

「メイ、発進準備は!?」

 

そこに、パイロットスーツに着替えたヒルダたちがやってきた。

 

「えっ? ああ、いつでもいけるよ!」

 

メイが答える。ここでもシュバルツ復帰の好影響か、メイの表情は先程までと違って非常に明るかった。声にも張りがある。と、

 

「あたしらもね」

 

彼方から声が上がった。ヒルダたちが視線を向けると、生き残った第三中隊の面々が同じようにパイロットスーツに着替えて、ヒルダたちに向かって敬礼した。

 

「ヒルダ隊長。ターニャ以下五名、出撃準備完了です!」

「よし」

 

頼もしい援軍に、ヒルダが満足げに頷いた。一方その頃、姿の見えなくなったアンジュはと言うと、サリアに後ろからライフルを突きつけられ、地下へと下りているところだった。

 

『第一中隊、出撃!』

 

オリビエの号令の下、オールグリーンとなった整備デッキで第一中隊が出撃し始める。まずは、新たに編入された五名が空へと舞い上がった。

 

「マジで人間と戦うのか?」

 

ロザリーが不安を口にする。パイロットスーツに着替えてここまで来たものの、やはり不安は拭いきれないのだろう。と、

 

「何、あれ?」

 

半壊している整備デッキから空を見ていたクリスが何かを見つけて指差した。ロザリーも視線を向けると、青い空を埋め尽くすかのように小型の何かが無数に浮かんでいたのだ。

円盤状のそれは暫く浮遊していたが、遠隔によるスイッチでも入ったのか上下が展開し無数の刃が飛び出た。そしてそれが高速回転して嫌な機械音を上げる。まるで空中浮遊する丸のこのようだった。

と、それが次の瞬間には降下してきてアルゼナルの地表に次々に突き刺さって削っていく。その影響で、整備デッキの一部が爆発、炎上した。

 

「! 退避!」

 

ヒルダが慌てて指示を出してその場から離れる。そのため人的被害はなかったものの、噴煙が収まった後の整備デッキには瓦礫が散乱してすぐには仕えない状態となってしまっていた。

 

「チッ!」

 

思わず舌打ちするヒルダ。

 

『た、隊長!』

 

そんなヒルダに通信が入った。

 

「どうした、ターニャ」

 

ヒルダが応答する。と、

 

『空に、空一面に未確認機が!』

 

先に出て迎撃に当たっているターニャたちが件の小型円盤と戦闘しながら、応援を要請するかのように叫んだ。そのうちの一機、イルマの乗るパラメイルが小型円盤から発射されたワイヤーに絡め取られて自由を奪われる。

 

「た、助けてー!」

 

恐怖に顔を引きつらせながらイルマは助けを求めたが、それは実ることなくイルマは無理やり空域を離脱させられたのだった。

 

『隊長! イルマが、イルマが連れて行かれた!』

「連れて行かれた…? どういう」

 

詳しい状況をヒルダが聞こうとしたその時だった。周囲が一瞬で真っ暗になったのだ。何が起こったのか…それは一足先に艦に乗り込んでいたジルたちが把握していた。

 

「発電システム、反応消失。基地内の電源、全てダウンしました」

「補助電源機動。攻撃による損傷か?」

「侵入者による攻撃です!」

 

状況確認のために尋ねたジルにオリビエが答えた。遂に到着してしまったのだ、人間たちの先鋒隊が。そしてそれによって、惨劇がそこかしこで繰り広げ始められた。

 

 

 

ジャスミン・モール。

つい先日までは大勢の隊員たちの憩いの場として賑やかだったここも、今では瓦礫の山に埋もれかけた廃墟になっていた。その中で、逃げ遅れた隊員たちが一箇所に集められ、跪かされて両手を頭に置かされている。そんな彼女たちを抑え込むように、何人かの武装した兵士たちがその周囲を囲んでいた。隊員たちは強要されているのか皆一言も喋らないものの、その表情は恐怖で満ちている。

そんな中、武装した兵士の一人がウインドウを開きながらそこに記された情報を滑らせていた。そこにあったのは、メイルライダーたちの一覧表だった。

 

「該当者、ありません」

 

その兵士がウインドウを閉じる。メイルライダーたちにとっては幸いだったが、兵士たちにとっては不幸なことにお目当てのメイルライダーはその隊員たちの中にはいなかった。

 

「本当に、殺すんですか?」

 

ウインドウを閉じた兵士が傍らの兵士に尋ねる。言葉遣いから、恐らく上官なのだろう。

 

「第一目標、アンジュリーゼ。第二目標、ヴィルキス。第三目標、メイルライダー数名。それ以外は処分だ」

 

何の慈悲もなくその兵士はそう告げると銃を構える。そして何一つ躊躇なく発砲した。結果、当然のことながらその場の彼女たちは短い生を強制的に閉じさせられたのだった。

 

『敵がアルゼナル内部に侵入! 襲撃目的は、人員の抹殺! 総員退避! 逃げてーっ!』

 

パメラの悲痛な通信がアルゼナル全域に響き渡る。その間も、火炎放射や銃撃などで隊員たちが次々に若い生命を散らしていった。

 

 

 

「エルシャ!」

 

整備デッキでは通信を耳にしたエルシャが慌てて走り出した。その彼女をヒルダが呼び止める。

 

「ゴメン、すぐ戻るから!」

 

一瞬だけ足を止めて振り返ってヒルダにそう答えると、エルシャはすぐに再び走り出した。

 

「ったく!」

 

不満げな表情になって吐き捨てるヒルダ。と、

 

『デッキ上の各員に告ぐ!』

 

ジルからの管内放送が響き渡った。

 

『敵の狙いはヴィルキスだ。対象の地下への運搬を最優先事項とせよ!』

「整備班集合!」

 

ジルの通信を聞いたメイが整備班に集合をかけた。

 

「ヴィルキスは手動で降ろす!」

『イエス、マム!』

 

メイが判断を下すと整備班はすぐさま手動降下の準備に入り始めた。が、そうしようとした整備班の一人が不意に横から発砲されて絶命する。とうとう、整備デッキにまで攻めてきたのだ。そして時を同じくして医務室前。そこでも銃撃戦が繰り広げられていた。

 

「重傷者の搬送が最優先だ! ちょっとぐらい内臓が出てても我慢しろ!」

 

瓦礫に身を隠してマシンガンで兵士たちを牽制しながらマギーがそう指示を出す。その指示に従い、ここに身を寄せていた隊員たちは重傷者から搬送していた。

 

(ったく、きりがないね!)

 

ドンパチをしながらマギーが内心で悪態をついた。こちらは一人で向こうは数人。状況が不利なのは誰の目にも明らかだった。

 

(あいつを行かせたのは間違いだったかね。少しこちらを手伝わせてからにすれば良かったか!)

 

そう思い、舌打ちするも後の祭り。今更弱音を吐くわけにもいかず、マギーは辛抱強く応戦を続けていた。と、

 

「助けて私、ノーマじゃない!」

 

パニックになっているのだろうか、助けを求めてエマが銃弾飛び交う中、兵士たちに駆け寄ろうとする。

 

「バカ!」

 

マギーが飛び掛ってエマを押さえ込む。その直後、その拍子に宙を舞った、いつも彼女が被っている帽子の中心を弾丸が正確に撃ち抜いた。

 

「殺されたいのか!」

 

マギーが吐き捨てた直後、その穴の開いた帽子が目の前に転がり、エマは顔を引き攣らせた。

 

「チッ! ここはもうダメか」

 

状況の悪化でマギーはそう判断すると、マシンガンを構えたまま医務室内へと滑り込んだ。

 

「撤退する! ヴィヴィアン!」

 

医務室で未だ意識を失っている彼女を起こそうと、マギーがヴィヴィアンの名前を鋭く叫んだ。が、

 

「該当あり。メイルライダーです」

 

いつの間にやってきたのか、医務室内部にも数人の兵士たちの姿があった。

 

「その子、どうする気だ!」

 

マギーがマシンガンを兵士たちに向ける。だが、僅かに兵士たちの発砲のほうが早かった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

慌てて医務室を出たマギーがヴィヴィアンに呼びかける。だが、ヴィヴィアンの意識は戻らなかった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

室外からもう一度叫ぶものの、やはりヴィヴィアンの意識は戻らなかった。数名の兵士たちが銃を発砲してマギーを牽制し、残りの兵士がヴィヴィアンを拘束して窓面から室外へと連れ去っていったのだった。

 

 

 

他方、整備デッキ。

乗り込んできた兵士たちと第一中隊は他の場所と同じように銃撃戦を繰り広げていた。と、当たり所が悪かったのか、一機のパラメイルの一部分が爆発して装備が吹き飛ぶ。

 

「あーっ! おニューの連装砲が!」

 

悲鳴を上げたのはロザリーだった。全く運のないことである。

 

「この野郎!」

 

この恨み晴らさでおくべきかとばかりにロザリーがマシンガンを発砲した。ヒルダも同じようにマシンガンをぶっ放す。

 

「もうダメだよ。私たち、死ぬんだ…」

 

一人、悲観的なのがクリスであった。彼女の場合は、もともとの性格に起因しているというのもあるのだろうが。

 

「死の第一中隊が、こんなところでくたばってたまるかってんだ!」

「今更隊長ヅラしないで!」

「はいはい」

 

激高したクリスを軽く受け流すヒルダ。と、その視界が正面に、こちらに向けてライフルを構えている兵士の姿を捉えた。

 

「危ない!」

 

思わず身を挺してクリスの盾になるヒルダ。身を貫く痛みを覚悟していたが、しかし覚悟とは裏腹にいつまでも銃撃は飛んでこなかった。

 

「あ、あれ…?」

 

恐る恐る振り返るヒルダとクリス。そこには、血を流して地面に横たわっている先程の兵士の姿があった。

 

「一体何が…」

 

わけがわからず呆然とヒルダが呟く。と、

 

「フッ!」

 

誰かが気合を入れたのと時を前後して手榴弾が彼女たちの上を通過して兵士たちの近場に落ち、爆発した。

 

「えっ!?」

 

予期せぬ光景に驚きの声を上げたのはロザリーだった。そんな彼女たちの背後から、

 

「しっかりしな! 死にたいのかい、お前たち!」

 

良く聞き慣れた女傑の声が聞こえてきたのだった。

 

『お姉さま!』

「ゾーラ!」

 

その姿に三人が歓喜の声を上げる。遅ればせながらゾーラが整備デッキへやってきたのだ。

 

「待たせたね」

 

ヒルダたちと同じようにパラメイルを遮蔽物にすると戦線復帰の挨拶を告げる。

 

「お姉さま、もう大丈夫なんですか?」

「ああ。心配かけたね」

「そんなこと!」

「フッ…で、シュバルツは!?」

 

ロザリーとクリスに応じながらもやはり一番気になるのはそのことなのだろうか、ゾーラが三人に尋ねた。

 

「そのこと、知ってるのかよ!?」

 

ヒルダが驚く。少なくともつい先程までは寝ていたであろうから、まさか知っているとは思わなかったのだ。

 

「ああ、ここに来る前にドクターが教えてくれたのさ。で、シュバルツはどうなんだい!?」

 

銃撃戦をこなしながら重ねてゾーラが尋ねた。

 

「まだ合流してない!」

 

ヒルダも同じように兵士たちに応戦しながら答える。ロザリーとクリスもゾーラが合流したことで勇気付けられたのか、先程よりやる気を漲らせて応戦している。

 

「そうかい。それじゃああいつが合流するまで、あたしらの意地を見せてやろうかね! ぬかるんじゃないよ、お前たち!」

『イエス、マム!』

 

そして第一中隊は再び必死の防戦へと突入したのであった。

 

(誰も死なないし、死なせない。それが、あたしら第一中隊)

 

ライフルをぶっ放しながら、ゾーラはそう強く心に誓う。そして、

 

(だから、早く帰ってきておくれよ、シュバルツ!)

 

死と隣り合わせの状況の中、…いやだからこそ、応戦しながらゾーラは切にそう願ったのだった。

 

 

 

 

 

「ヴィルキスがまだ整備デッキに…」

 

アルゼナル施設内のどこか。インカムで通信を受けながら、サリアが通信先の相手にそう返した。誰と通信しているのかはわからないが、その内容から恐らくジルかメイのどちらかであろう。

 

「アンジュを届けたら、私もデッキに戻るわ」

 

その言葉通り、サリアはアンジュの背後に回って後ろから銃を突きつけながら進路を誘導していた。先程から構図は全く変わっていない。そして彼女の前には先導するかのように、モモカを抱えたジャスミンとバルカンの姿があった。

 

「…ここ、危ないんでしょ? 逃げる準備なんてしてる場合?」

 

不満げな表情でアンジュがサリアに言葉をぶつける。

 

「言ったでしょう? あんたには、大事な使命があるの」

 

そう返すサリアも、アンジュに負けず劣らずの険しい表情だった。

 

「あんたとヴィルキスは必ず無傷で脱出させる。…それが私の、多分、最後の使命」

 

最後の方は自嘲気味になってサリアが呟いた。

 

「そのためには、仲間の生命も見捨てるってこと?」

「…仕方ないわ」

 

サリアの返答を聞くと、アンジュは歩みを止めた。そして、

 

「あの女そっくり」

 

サリアに向かって振り返ると、侮蔑したようにそう吐き捨てたのだった。そう言われ、サリアは思わず息を呑む。

 

「わけのわかんない使命感や、無意味な絵空事に酔いしれてるだけの偏執狂。巻き込まれて死んでいく方は、堪ったもんじゃないわね!」

 

そこまで言ったときサリアから平手が飛んできた。

 

「あんた何もわかってないのね! 自分がどれほど重要で、恵まれていて、特別な存在なのか!」

「わかりたくもないわ…」

「では、息を止めてください。アンジュリーゼ様!」

 

アンジュが吐き捨てた直後、今までされるようにジャスミンの肩に担がれていたモモカがそう言うとジャスミンから飛び退った。恐らく今までは機会を伺ってタイミングを待っていたのだろう。

 

「せい!」

 

着地の寸前、何か缶のようなものを地面に投げつける。すると、その缶から粉状の中身が一気に周囲に飛散した。

 

「何だいこりゃ!」

 

ジャスミンが悲鳴を上げ、バルカンも同様に苦しそうに吼えた。

 

「アンジュ! 何処に…くしゅん!」

 

口元を押さえながらアンジュを探すサリアだったが、思わずくしゃみが出てしまう。そう、モモカが叩きつけたのは塩コショウの缶だったのだ。

モモカの指示に従ったアンジュは寸でのところで息を止めていたので、被害は最小限に抑えられ、何とか脱出できたというわけである。

…それにしても、実にやり方がレトロな上に都合のいい展開であるが、まあそこは突っ込まないのがお約束であろう。

 

「いつでもお料理できるように…くしゅん! 塩コショウを用意しておいて良かったです…くひゅん!」

 

今来た道を戻りながらモモカが嬉しそうにそう言った。

 

「随分大胆なことするようになったわねえ…はっくしゅ!」

 

後ろを走るアンジュは随分嬉しそうだった。被害は最小限とはいえ、サリアたちと同じようにくしゃみをしているのはご愛嬌だろう。

 

「アンジュリーゼ様の影響で…くしゅ!」

 

モモカも微笑みながらくしゃみをした。

 

 

 

「サリア、何があった?」

 

インカムの先にいるサリアの様子がおかしいことに気づいたジルが通信を通じてサリアに尋ねた。やはり先程の通信の相手はジルだったようだ。

 

「アンジュに、逃げられた」

「連れ戻せ!」

 

回線の先で何故かくしゃみをしているサリアにそう命令する。と、そのとき、何かのコールが鳴った。

 

「指令、外部から指令宛ての通信です」

 

オリビエがジルへと振り返る。

 

「外部?」

 

その報告にジルが怪訝そうな表情になった。

 

「周波数、1・5・3」

「私の回線に回せ」

 

周波数を報告したヒカルにそう命じ、自分の回線に通信を回させる。

 

『久しぶりだね、アレクトラ』

 

回線の先から聞こえてきた声は、その通り久しぶりで彼女も良く知る人物の声だった。

 

「タスクか」

『アンジュは無事か?』

 

アルゼナルにようやく辿り着いたのだろう、いの一番にアンジュの安否を確かめる。

 

「たった今逃げられたところだ。捕獲に協力してくれるか?」

 

とりあえずアンジュが無事なことにタスクがホッと一息つく。そして、

 

『わかった』

 

そう、返した。一方、整備デッキから立ち去ったエルシャは、こちらもまた銃撃戦を繰り広げていた。通路の曲がり角部分を遮蔽物としながら、マシンガンを連射して敵兵士を倒していく。

 

(皆、無事でいて!)

 

それだけを願いながら、エルシャは渡り合っていたのだった。そしてアンジュたちはと言うと、

 

「アンジュリーゼ様、ここから行けそうです!」

 

ようやく食堂まで戻ってきたアンジュとモモカ。電源が落ちて薄暗くなった周囲をモモカがマナの光で照らす。と、次の瞬間とんでもないものが目に入ってきた。

そこにあったのは、幾つもの人の死体だった。それもただの死体ではなく、黒焦げの消し炭状態にされたものである。

殺されてから焼かれたのか、あるいは生きたまま焼かれたのかはわからないが、どちらにせよ黒焦げの死体には違いなかった。その凄惨な光景に、アンジュもモモカも思わず絶句して何も言えなくなってしまう。そしてアンジュの脳裏に、先程の人の姿に戻ったドラゴンの死体が炎上している光景がフラッシュバックし、アンジュはその場で膝をついて嘔吐してしまった。

 

「アンジュリーゼ様っ」

 

慌ててモモカも屈んで主人を労わる。

 

「お水、お水取って来ます!」

 

そして、厨房へと走っていった。

 

「……」

 

何とか気を取り直したアンジュが立ち上がると、眉を顰めながらもう一度周囲に視線を走らせた。しかしアンジュは知る由もないが、実はこれでも被害は抑えられている方なのだ。シュバルツというイレギュラーによってジルの思惑通り隊員たちの行動が迅速なものとなり、本来辿るべき歴史から比べると犠牲者は随分少なくなっているのである。が、そんなことは今のアンジュにとって何の慰めにもならないだろうが。と、

 

「大切なものは失ってから気付く」

 

不意に、予期せぬ方向から声が…それも男の声が聞こえて振り返る。シュバルツともタスクとも、そして自身の兄であるジュリオとも違うその声色の持ち主は、アンジュが会ったことのない人物…エンブリヲだった。無論、この時点ではアンジュがそれを知っているわけはないのだが。

目の前にいる男がジルが言っていた神様であり、自分たちの倒すべき相手などとは。

 

「何時の時代も変わらない真理だ」

 

アンジュから視線を受けたエンブリヲはそのまま眼下の数多の死体へと視線を送る。

 

「全く酷いことをする…こんなことを許した覚えはないのだが」

 

心からそう思っているようなエンブリヲの口調に、しかしアンジュは警戒を緩めることなくその視線は厳しさを増していた。

 

「君のお兄さんだよ、この虐殺を命じたのは」

「えっ…?」

 

その言葉に、思わずアンジュは息を呑んだ。

 

「北北東14Kmの位置に彼は来ている。君を八つ裂きにするために。…この子たちはその巻き添えを食ったようなものだ」

「お兄様…っ!」

 

アンジュが拳を握り締め、ギリッと唇を噛んだ。己の兄が犯したこの蛮行に、アンジュは今ほどジュリオと自分が血の繋がった兄妹だということを呪ったことはなかった。

 

「それからもう一つ」

 

アンジュはそんな様子だったが、それを無視してエンブリヲが言葉を続ける。

 

「彼は来ないよ」

「えっ?」

 

ジュリオに対する怒りの炎に身を焦がしていたアンジュだったが、その一言に思わず声を上げていた。

 

「彼って…シュバルツのこと!? どういうことよ! 来ないってどうして!?」

 

アンジュがエンブリヲの一言に耐え切れずに堰を切ったように矢継ぎ早にエンブリヲに尋ねた。が、エンブリヲは薄く笑うだけで何も答えようとはしない。代わりに、

 

「きゃーっ!」

 

銃声と、モモカの悲鳴が聞こえてきたのだった。アンジュはそれにすぐさま反応して振り返る。そしてすぐにエンブリヲに視線を向けたが、その時にはもうそこにエンブリヲの姿はなかった。

 

「くっ!」

 

さっきの、恐らくシュバルツのことだと思われることをエンブリヲに問い質したかったが後の祭り。アンジュは急いでモモカの元へと走ったのだった。

 

 

 

「う、ううっ…」

 

厨房へと向かったモモカは尻餅をつきながらもマナの力でシールドを展開させていた。その正面には兵士が二人いる。そしてモモカの左肩は鮮血に染まっていた。何が起こったのか一瞬でわかる構図である。と、不意に横から銃声がして二人の兵士のうち後ろの兵士が横に吹き飛んだ。もう一人の兵士も、銃声がした方向に振り返った瞬間、同じように銃弾を浴びて吹き飛ばされる。

 

「あなたたちがやったの…!?」

 

そこには、銃を構えながら兵士たちとの距離を詰めるアンジュの姿があった。

 

「お兄様の命令で!」

「お前、アンジュリーゼ!」

 

アンジュを確認した兵士が銃を構えて発砲しようとするが、その前にアンジュがその銃を吹き飛ばした。

 

「痛ーっ!」

 

思わず兵士が悲鳴を上げる。

 

「ま、待ってくれ!」

 

丸腰になり、アンジュに銃口を向けられた兵士が、先程までとは打って変わって弱気な口調になった。

 

「俺は、隊長とジュリオ陛下の命令に従っただk」

 

その先は言えなかった。何故ならアンジュが引き鉄を弾いてその生命を終わらせたからである。

最初の一撃で絶命したのだが、アンジュは構わず何発も発砲した。その表情は憎しみに駆られ、鬼気迫るものがあった。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

主人の異常な状態に気付いたモモカがアンジュを止めようとその腰に抱きついた。ただ、その時にはもう弾奏が空になって、弾切れの音が空しく響くだけだったが。

 

「大丈夫です! モモカはここにいます! もう、大丈夫ですから!」

 

モモカの訴えによってようやく落ち着きを取り戻したアンジュが今一度、先程エンブリヲがいた場所へと振り返る。だが当然、そこにはやはりその姿はなかった。

 

「行かなくちゃ」

 

それを確認した後、アンジュが口を真一文字に結ぶ。

 

「えっ?」

 

モモカはその言葉の意味がわからず、ただ戸惑うだけだった。


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