機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続きです。今回はタイトル通りですね。

前回の前書きでも書きましたが、今回はいつも以上に原作をなぞるだけの上に、異様に短く収まってしまいました。

ですので、今回もさらっと読み進めてください。慌しくなるのは次回からです。

では、どうぞ。


NO.31 明かされる真実

「ロザリーとクリスは居住区。あたしとアンジュは整備デッキ。エルシャは、サリアを出してジャスミンモールを捜索」

 

管内放送を受けて集合したメイルライダーたちにヒルダが指示を出す。そして、反省房の鍵が入っているのであろう鍵束をエルシャに投げて渡した。

 

「イエス、マム」

 

鍵束をキャッチしたエルシャが了承の意を返す。シュバルツの一件で雰囲気はいつもと比べればまだ暗いが、それでも何か行動をしていると気が紛れるのだろうか、隊員たちは底の状態よりは幾分か持ち直しているようであった。

 

「残りはここで警備。…ヴィヴィアン、ヴィヴィアンは何処だ!?」

「それが、部屋にもいなくて」

 

エルシャが表情を曇らせながらそう答えたのと時を前後して、アンジュがこの場に現れた。

 

「アンジュリーゼ様」

「遅い! 何処行ってた!?」

 

ヒルダが叱責したのと、モモカがライフルを差し出したのはほぼ同時だった。

 

「よし、総員かかれ!」

『イエス、マム!』

 

メイルライダーたちが敬礼するとそれぞれの職分を果たすために散っていく。

 

「アンジュリーゼ様、お気を付けて」

 

モモカに無言で頷いて答えると、アンジュもこの場を後にしたのだった。

 

 

 

「おい、マギー」

 

医務室。こちらに来たのはジルである。浴場でアンジュと別れた後、真っ直ぐここに来たのであった。

そしてその口調、その表情から少し焦っているかのような色が見える。

 

「抑制剤をかき集めておけ」

「! わかった」

 

言葉の意味を理解したマギーも一瞬表情を強張らせたが、すぐに大きく頷いたのだった。

 

 

 

反省房に辿り着いたエルシャは鍵を開けると、サリアにライフルを手渡す。そして二人は連れ立って自分たちの持ち場…ジャスミンモールへの探索へと向かったのだった。

同じ頃、ロザリーとクリスも居住区へ。ヒルダとアンジュは整備デッキに向かっているところだった。

 

 

 

(お腹空いた~…)

 

その頃、サリアとエルシャが向かっているジャスミンモールと隣接した食堂に、管内放送の対象であるドラゴンの生き残りが迷い込んでいた。が、ドラゴンの生き残りというのはさにあらず。

いや、姿形こそ確かにスクーナー級のドラゴンなのだが、その正体は第一中隊の元気印、ヴィヴィアンだった。とはいえ、今の姿からは誰もそれがわかるはずはないだろう。

何しろ先述の通り、今はいつもの自分の姿ではなく、スクーナー級のドラゴンそのものであるのだから。

 

(うう~…何でこんなことにぃ…)

 

考えてところで理由がわかるわけはないのだが、それでも考えずにはいられない。と、

 

(ん? んんっ?)

 

その鼻が何かの匂いを嗅ぎ取った。そして、その匂いの元へと顔を向ける。

 

(やっぱりカレーだ!)

 

巧みに身体を厨房内部へと滑らせると、寸胴鍋の中にあった対象物を発見して腹ペコのヴィヴィアンが歓喜の声を上げる。

 

(いっただっきま~す♪)

 

寸胴鍋を持って食べようとしたヴィヴィアンだったが、鍋は不快な音を立てながら変形して口の部分が潰れてしまった。

 

(あれ?)

 

首を傾げたヴィヴィアンが、今度は床に落ちていたスプーンを拾い上げようとするものの上手く掴めない。

 

(ありゃ、おかしいなぁ…)

 

何でだろうと不思議がるヴィヴィアンだったがすぐに、

 

(あ、おかしいのあたしだ…)

 

自分の姿がいつもの状況でないのに気づいてポリポリと頭を掻いた。と、いきなり横から狙撃され、悲鳴を上げて慌ててその方向に顔を向ける。

 

「いたわ!」

 

そこには、自分に向けて銃を構えているサリアとエルシャの姿があった。

 

(サリア! エルシャ!)

 

二人の名前を呼ぼうとするも、その口から発せられるのは雄叫びといって差し支えのないものだった。

そのため二人が気づくはずもなく、サリアとエルシャは容赦なくライフルを発砲する。気持ちが沈んでいてもしっかりと任務を遂行するところは流石である。

そして、ドラゴンと化したヴィヴィアンはこれはたまらんとばかりに慌ててその場を逃げ出したのだった。何発も撃たれたが、被弾しなかったのは不幸中の幸いというべきか。

だが、標的を仕留めそこなった形になるサリアとエルシャにとっては、そのことを受け入れられるわけもない。

 

「クッ!」

「追うわよ!」

 

ドラゴンと化したヴィヴィアンを仕留めるため、二人はその後を追ったのだった。

一方ドラゴンと化したヴィヴィアンはそのまま空へと舞い上がる。人語を発して誤解を解こうとするものの、その口から出てくるのは雄叫びの咆哮だけだった。

そんな時、雄叫びを聞きつけからだろうか、外に出てきたアンジュがドラゴンと化したヴィヴィアンに向けてライフルを構える。そして、トリガーに指を掛けようとしたときだった。ヴィヴィアンがあるリズムで咆哮しだしたのだ。

 

「! これって…」

 

そのリズム、音程に聞き覚えのあるアンジュがライフルを下ろす。そして、

 

返さんEl Ragna 砂時計を…

 

そのリズムに合わせて歌いだしたのだ。そう、ヴィヴィアンが発していたのは永久語りだった。

 

(どうしてこの歌を…)

 

事情がわかってないアンジュが訝しがるのも仕方がない。そう思いながらも引き続き歌を紡ぐ。と、不思議なことが起こった。上空を旋回しながら飛行しているドラゴンにヴィヴィアンの姿が浮かんだのだ。

 

(! 今のは!)

 

それを感じ取ったアンジュが引き続き永久語りを歌いながら彼我の距離を詰め、近くにある少し小高い丘の上に立つ。そしてそのままドラゴンと化したヴィヴィアンに語りかけるように、アンジュは永久語りを聞かせ続けたのだった。

 

「何やってんだ、あのバカ!」

 

その頃には他の隊員たちも現場に駆けつけ始めていた。ヒルダが悪態をつく横で、ロザリーがライフルを構える。と、ロザリーが発砲するより早く、その足元に弾が撃ち込まれた。

 

「うわあっ! こ、殺す気か、あのクソアマ!」

 

ロザリーが言っている通り、勿論発砲したのはアンジュである。永久語りを歌いながら三人を牽制すると、元のようにドラゴンと化したヴィヴィアンに向かって歌の続きを紡ぐ。そしてドラゴンと化したヴィヴィアンはそれに招かれるかのように高度を下ろすと、ゆっくりとアンジュの目の前に着地した。

 

「アンジュ!」

 

遅まきながらサリアとエルシャも現場に着く。そしてサリアがライフルを構えた。

 

「離れなさい!」

 

だが、それを制した者がいた。

 

「ジル…」

 

いつの間にかこの場に来ていたジルがサリアに並ぶと、無言で腕を上げてライフルを下ろさせた。

 

「……」

 

文字通り手の届く距離になったアンジュは恐る恐るその手を伸ばしてドラゴンと化したヴィヴィアンに触れる。すると次の瞬間、ドラゴンと化したヴィヴィアンは一瞬で白煙となった。

 

「ここでクイズです。人間なのにドラゴンなのって、な~んだ?」

 

白煙が晴れ、その中から現れたのは人に戻ったヴィヴィアンの姿だった。そして半ば予想していたとは言え、実際にその姿を見てアンジュは絶句する。

 

「あ、違うか。ドラゴンなのに人間? …あれれ? あれれ? 意味、わかんないよ…」

「わかったわよ、私は。ヴィヴィアンだって」

 

涙ぐむヴィヴィアンを諭すようにアンジュが優しく語りかけた。

 

「おかえり、ヴィヴィアン」

「っ!」

 

そのままヴィヴィアンはアンジュの胸の中へとその身を躍らせた。受け止めると、アンジュはその身を包むように抱きしめる。

と、いつの間にか傍らにやってきたマギーが何かを手にするとそれをヴィヴィアンの腕に打ち込んだ。恐らくは注射の類だろう。そしてその中身は、先程ジルが指示していた抑制剤だということも容易に想像できた。ヴィヴィアンは一瞬で意識を失うと脱力する。そしてその身体を、マギーが受け止めたのだった。

 

「アンジュリーゼ…様?」

 

少し離れて様子を見ていたヒルダたちと共にアンジュに駆け寄ったモモカが呆然とアンジュの名前を呟いた。が、それも仕方のないことかもしれない。

 

「お、おい、どうなってんだ今の…」

「ドラゴンから、ヴィヴィアンが出てきたように見えたけど…」

 

ロザリーとクリスのこの発言が全てであり、駆けつけた全員の心中を代弁するものだった。マギーはそのままヴィヴィアンを抱えると、もうここには用はないとばかりに早々とその場から離れていった。

 

「……」

 

無言のまま二人を見送るアンジュ。と、視界の端に何か動くものが入った。振り返ると、重機を操ってドラゴンの死骸を、それように掘ったのか大きな穴の一箇所に集めているジャスミンの姿があった。

 

(人間なのにドラゴンなのって、な~んだ?)

(ドラゴンなのに人間? …あれれ?)

 

不意に、先程のヴィヴィアンの言葉がアンジュの頭を横切った。

 

「あっ!」

 

それで何かに思い至ったアンジュが驚愕に瞳孔を開くと、ライフルをその場に投げ捨ててジャスミンの元へ走ったのだった。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

モモカが自身の名を呼ぶが無視してジャスミンの元へと駆け寄るアンジュ。当のジャスミンはというと、全部のドラゴンの死骸を集め終えたのか、その大量の死骸に油を撒く。そしてジッポーに火を点けた。

そこでアンジュの気配に気がついたのか、いつものように傍らにいたバルカンが振り返り、アンジュに向かって吼える。

 

「来るんじゃないよ!」

 

ジャスミンもチラッと視線を向けた後アンジュを制し、ジッポーをドラゴンの死骸へと投げ込んだ。事前に油を撒かれていたドラゴンの死骸は一瞬で炎上する。その現場近くまでやってきたアンジュが歩を止めると、赤々と燃え盛るその光景をジッと見つめていた。すると程なく、炎上している死骸に変化が現れ始めたのだ。

 

「一体どうし…」

 

遅れて駆けつけたヒルダだが、それ以上言葉を発することは出来なかった。

 

「何…これ?」

 

後を継いだエルシャが表情を曇らせながら一歩後ずさる。だが、二人がそんな反応を見せるのも仕方のないことだった。何故なら、炎上している死骸はその過程でドラゴンから姿を変えていたからだ。

 

「ドラゴン…だよな?」

 

ロザリーがそう呟いたが、彼女に反応するものは今は誰もいない。

 

「どう…なってるの?」

 

次いで、アンジュも目の前の光景を呆然と見ながら呟いた。と、

 

「よくある話だろ?」

 

後ろから聞こえてきた声に振り返るアンジュたち。そこにあったのは、悠然と歩を進めて近づいてくるジルの姿だった。

 

「化け物の正体が人間でした…なんて」

 

いつもと変わらずに紫煙を燻らせるジル。

 

「えっ…?」

 

明かされた真実に戸惑いながらアンジュが再び目の前の火の海に視線を向ける。そしてあの漂流して辿り着いた無人島での、生身でのドラゴンとの対峙が思い起こされた。

あの時、自分は何も出来なかった。血の海の中に佇んでいるのはシュバルツである。だが、首を切断されているドラゴンが一瞬で人間の姿に変換され、そして、

 

「うっ! ぐえっ! うえっ!」

 

口元を抑えたが耐え切れず、アンジュは嘔吐してしまった。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

慌ててモモカが主人の背中を擦る。

 

「私…人間を…殺していた?」

 

ヨロヨロと頭を上げながらその事実に絶望するアンジュ。

 

「この手で…この手で…」

「気に入ってたんだろう? ドラゴンを殺して金を稼ぐ。そんな暮らしが」

「くたばれクソ女!」

 

揶揄するように告げたジルに、アンジュは敵意を剥き出しにして噛み付いた。

 

「もうヴィルキスには乗らない! ドラゴンも殺さない! リベルタスなんてクソ食らえよ!」

 

その一言でジルがアンジュにリベルタスのことを告げたのを悟ったサリアが息を呑んだ。

 

「…神様に飼い殺されたままで良いなら、そうすればいい」

 

対してジルは何の痛痒も感じていないのか、淡々とそれだけ告げる。そしてアンジュたちに背を向けるとその場を去っていった。

 

 

 

 

 

「神様か…」

 

帰路。アルゼナルと向かって歩を進めているジルの耳に、不意に何処からともなくそんな声が聞こえてきた。

 

「!」

 

その声色に表情を強張らせると、ジルは声の聞こえた方向に顔を向ける。

 

「私は自分から名乗ったことは一度もないぞ。創造主という意味では、正解かもしれないな」

 

そこにいたのは先日の各国元首たちが集まった円卓会議で唯一敬称を付けられて呼ばれていた人物…エンブリヲだった。その姿を見止めたジルは瞬時に銃を抜くと、問答無用でエンブリヲへと発砲した。が、弾はエンブリヲを捉えない。

いや、正確には捉えているのだが傷を負わせてはいないのだ。何故なら着弾点の部分の身体が消えた…つまり映像だったからである。

 

「エンブリヲっ!」

 

ジルが銃を構えたまま、憎しみの篭もった口調でその名を吐き捨てた。いつも沈着冷静なジルとしては非常に珍しい光景である。

 

「怒った顔も素敵だな、アレクトラ。今は司令官のジル、か」

 

対してエンブリヲはそんなジルの怒りなど一行に意に介した様子はなかった。と、何かに気付いたのかエンブリヲがジルから視線を外した。

 

「来たようだ」

 

エンブリヲがそう言った直後、ピン・ポン・パン・ポンと、アルゼナル全域にチャイムが響き渡る。ジルも銃を外すと、辺りの様子に気を配った。と、

 

『こちらは、ノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です』

 

いきなりそんな放送がアルゼナル全域に開かれた。一瞬、それに気を取られたジルだったがすぐに視線を戻す。

だが当然と言うべきか、そこにはもうエンブリヲの姿は微塵もなかった。

 

「チッ!」

 

舌打ちするとジルは銃を収める。そしてその場から走り去った。

 

『ノーマの皆さん、ドラゴンとの戦闘ご苦労様でした』

 

そうしてる間も、アルゼナルの現在の状況にはまるでふさわしくない暢気な放送が垂れ流されていた。

 

『これより、皆さんの救助を開始します。水、医療品、温かい食料も十分用意されています。全ての武器を捨て、脱出準備をしてください』

 

その放送を裏付けるかのように、一個艦隊がアルゼナルへ向けて洋上を推進していた。そして、その指揮を執る人物が徐に呟く。

 

「最後の再会といこうじゃないか…アンジュリーゼ」

 

獰猛な笑みを浮かべたその人物はジュリオその人だった。艦隊は先の放送通りアルゼナルを目指す。だがそれが放送の謳い文句通り救助のためのものではないということは、ジュリオの表情が何よりも雄弁に語っていた。


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