機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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おはようございます。

今回は前回の話の裏側です。

第一中隊がドラゴンと戦っているとき、アルゼナルで何があったのか。御覧ください。

では、どうぞ。


NO.20 究極悪魔

時間は少し戻ってまだ第一中隊がシンギュラーから出てきたドラゴンと戦っている頃。

遠いアルゼナルの地ではシュバルツがシュピーゲルに乗り込んで待機していた。そして、司令部から送られてくる映像を見ながら戦況を分析している。

 

(相変わらず見事な戦いぶりだな)

 

スクーナー級やガレオン級を次々に墜としていくその戦いぶりに、シュバルツは素直にそう思っていた。

少なくとも、こういった集団戦闘においては自分たちガンダムファイターは彼女たちの足元にも及ばない。それを自覚しているからこそ、彼女たちの戦いぶりを賞賛していた。

そうしている間に露払いとでも言うべきか、スクーナー級やガレオン級のドラゴンは全滅した。残るは亀のような姿形の巨躯の一体だけ。

 

(司令部のやり取りだと、あのドラゴンは過去に遭遇例のない新種のドラゴンとか。油断はするなよ、ゾーラ、第一中隊)

 

初見の相手だけにどんな奥の手を隠し持っているかわからない。それは現場の第一中隊も同じなのか、様子を見るように遠巻きに旋回している。

が、やがて結論が出たのかゾーラがアンジュとヒルダを引き連れて突撃し、それ以外の面々は後方からの援護に回った。しかしドラゴンはまるでそれを待っていたかといわんばかりに己の頭の両側に生えている角を不気味に光らせる。すると、それに呼応するかのようにいきなり地面に魔方陣が浮かび上がった。

そしてそれと同時に突撃した三機は力を失って地面に墜ちて行く。まるで地面に引き寄せられるかのように。そして皮肉なことにそれは、決して間違った表現ではなかったのだった。

 

『新型ドラゴンの周囲に、高重力反応!』

(重力だと!?)

 

シュバルツの驚きに呼応するかのように魔方陣が広がって結界がそのテリトリーを拡大する。後方部隊もそれに巻き込まれ、程なく第一中隊は全機似たような状況になってしまった。

そんな中、ヴィヴィアンの機体が立ち上がって超鋼クロム製ブーメランブレードを振りかぶり、ドラゴンに向かって投げる。が、途中までは何とか飛ぶもののやはり重力には逆らえずに、角に命中することなく力なく地面に突き刺さる結果となった。

 

(っ! 見てはおれん!)

 

シュバルツは第一中隊の窮状に表情を険しくさせて舌打ちすると、司令部のジルに通信を入れた。

 

 

 

 

 

『ジル』

「わっ!」

 

突然入ってきたシュバルツからの通信に、エマが驚いてひっくり返る。が、本命の対象であるジルは特に驚く様子もなくいつものようにふーっとタバコの紫煙を吐いていた。

 

「シュバルツか、何だ?」

 

そしていつもと同じように口を開く。

 

『第一中隊の救援に向かいたい。許可をくれ』

「却下だ」

『何!?』

『し、司令!?』

 

ジルの拒否の言葉に、シュバルツだけでなくオペレーターたちも振り返ってジルを見上げた。

 

『何故だ!? あのままでは奴らは!』

「お前が今から救援に向かって、間に合うのか?」

『それはわからん。確かに間に合わないかもしれん。だが、やってみないことにはわからんだろう!』

「かもしれないな。でも私は今からお前が言っても間に合わないと判断した。だから、許可はできない。あいつらだけでなく、お前まで失うわけにはいかないからね」

『…それは、最悪第一中隊の面々を見捨てるということか?』

「お前こそ、あいつらを信じることが出来ないのか?」

『何?』

「……」

 

そこでジルはまたふーっと紫煙を吐き出す。

 

「私はあいつらを信じている。お前の中では、あいつらはそんなに弱いのか?」

『! それは、しかし…』

「それに、ここでお前が出て行ったら、ピンチになったらいつでもお前が助けてくれるといった認識を持ちかねん。だがそれでは強くはなれないし、心の中で甘えが生じてしまう。それがお前の望みか?」

『ぐ…むぅ…』

 

助けに行きたいのは山々だったが、確かにジルの言っているのは正論だった。返す言葉のなくなったシュバルツは短く唸るしかなかった。

 

「わかったらそこで、あいつらが無事に帰還できるように祈りでも捧げていろ」

『……』

 

理も分も明らかにジルにある。仕方なく、シュバルツは厳しい表情で通信を切った。ジルは椅子の背もたれにその身を預けると、ふーっと長く息を吐く。

 

「あの男、大人しくしていると思いますか、司令?」

 

エマが覗き込んで尋ねてきた。

 

「どうでしょうね。釘は刺しましたがシュバルツのことだ。無視して出て行くかもしれませんね」

「では、早急に対策を練ったほうが」

「いえ、それには及びませんよ」

「は、はい!?」

 

エマが目を白黒させた。

 

「ど、どういう意味です!?」

「…言葉が悪かったですね。それには及ばないというより、それは無駄だと言った方が良かったですね」

 

そこで一度言葉を切ると、持っていたタバコを灰皿で潰す。

 

「監察官殿もあいつの実力の高さは知っているでしょう? 今の人員で押さえ込もうとして、それが可能だと思いますか?」

「あ…」

 

そこでようやくエマはそのことに思い至った。

 

「ほぼ間違いなく蹴散らされて終わりでしょう。ですから、無駄だと申し上げたのです。うちの他の連中に余計な損傷を負わせるわけにも、無駄にエネルギーや弾幕を消費させないためにも、あいつに関しては放置しておくしかありません」

 

ジルの説明を聞いたエマがはぁ…と額を押さえて溜め息をついた。

 

「オリビエ、第二中隊、並びに第三中隊を招集。戦闘待機をさせておけ」

「は、はい」

 

ジルの指示に、慌ててオリビエが第二中隊と第三中隊に招集をかける。他二人のオペレーターも既に、戦闘や状況の分析で忙しなく働いている状況に戻っていた。

そんな眼下の三人を見下ろしながら、ジルは新しいタバコに火を点ける。

 

(釘は刺したがあいつのことだ。恐らく命令を無視して出るだろうな。だがそれならそれでいい)

 

ジルはシュバルツの顔を思い浮かべると、その次にシュピーゲルのことを思い浮かべた。

 

(そうなれば、命令違反の咎であの機体を接収するだけのことだ)

 

そしてジルは誰にも気付かれぬように口元を歪めたのだった。

 

 

 

 

 

(ジルの言っていることはわかる。わかるがしかし…)

 

一方シュピーゲルのコックピット内では、シュバルツが苦悶の表情を浮かべながら悩んでいた。救援に向かいたいものの諭され、踏ん切りがつかないでいたのだ。

ジルが情動的な見地からシュバルツに釘を刺したのは大正解だった。案の定、シュバルツは救援に駆けつけたい気持ちとジルの言葉との狭間で大いに悩んでいた。ジルとしてはここでそれでもシュバルツは救援に向かうと踏んでいたのだが、一つ誤算があった。それは、シュバルツが真面目すぎたことだった。

真面目ゆえに未だに踏ん切りがつかずに苦悩していたのである。だが残酷なもので、そうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。

 

『重力反応、さらに増大!』

 

聞こえてきたヒカルの報告にハッとなってシュバルツは慌ててモニターに目を向ける。するとそこには先程まで以上にひしゃげているドラゴンの周囲の地面と、圧によって悲鳴を上げているのが手に取るようにわかる第一中隊のパラメイルの姿があった。

 

(しまった!)

 

悪化した状況に歯噛みをする。事態は間違いなく悪い方向に進んでいた。モニターを見ながら、シュバルツは己の判断の甘さを悔やんだ。

 

(やはり、何と言われても行くべきだった!)

 

先程まででも間に合わない可能性のほうが高かったのだ。こうなってしまっては今から向かったところで、絶対に間に合わないだろう。そうこうしている間にもパラメイルはひしゃげていき、悲壮感の漂う悲鳴が聞こえてきそうな状態になっていた。

そして今のシュバルツは、その光景を愕然と見ていることしか出来なかった。

 

(何も、何も出来んというのか…? ここで、あいつらが無残な死を遂げるのを見ることしか…)

 

状況がそれをイエスだと言っている。いくら格闘戦や白兵戦で強くても、こうなってしまっては何も出来ない。己の無力さに絶望するしかなかった。

 

「っ!」

 

思わず拳を床面に叩きつけ、絶望に顔を伏せたその時だった。コックピットの中にいたシュバルツにはわかろうはずもないが、光が灯ったのだ、シュピーゲルの目に。まるでシュバルツの感情に呼応するかのように赤い光が。さしずめ生命が宿ったかのように。

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

最初にそれに気付いたのはパメラだった。

 

「どうした、パメラ?」

 

いきなり声を上げたパメラを訝しがり、ジルが尋ねる。既に第二中隊・第三中隊の招集は済んでおり、後は発進を待つばかりの状況になっていた。

表情にこそ出さないが、ジルも事態の急展開に歯噛みをしていた。シュバルツが未だに発進していないことにも、ドラゴンの更なる奥の手を切る早さも彼女にとっては計算外だったのだ。状況というのは自分の思惑通りに動くものではないのだが、それでも内心で舌打ちするのは止められないでいた。

そんなときだった、パメラが驚きの声を上げたのは。

 

「は、はい。膨大なエネルギー量の放出を確認!」

「何?」

 

想定外の出来事にジルがまた訝しがる。

 

「場所は…アルゼナル外部! ガンダムシュピーゲルからです!」

「ヒカル、モニターに出せ」

「は、はい!」

 

ヒカルが慌ててコンソールを操作してモニターにガンダムシュピーゲルを映し出した。そこに現れた光景に、司令のジルをはじめ司令部の面々は唖然とした。

 

「な、何よ、あれ…」

 

呆然と呟いたオリビエに、誰も答えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

ほぼ同じ頃、シュピーゲル内部のシュバルツも異変を感じ取っていた。拳を叩きつけたすぐ後だ、勝手に色々なシステムが起動し出したのだ。

 

「なっ!」

 

それに気付いたシュバルツが慌てて立ち上がって周囲に視線を巡らす。計器類、メーター類、エネルギー制御などが次々と自分の意思に反して起動を始め、所々でプログラムの文字がスクリーンに浮かぶ。その中には自分で組んだプログラムもあるが、全く目にしたことのないものも多少あった。

 

「一体何が…」

 

情報を得るために注意深く周囲に視線を走らせ続ける。すると、外の光景が見えたときに、目に見える異変を感じることが出来た。

 

(視界が…変化している?)

 

そうだった。先程まで見えていた視界が、今は明らかに変化していたのだ。先程までと違い、視界が高くなっていた。そしてそれは今も尚続き、ゆっくりとではあるがどんどんと視界が高くなっていたのだ。

 

(巨大化!?)

 

まず思ったのがそれである。しかし、それはありえない。…そう、普通ならばという修飾語が付くが。だがシュバルツは思い出していた。己が乗っている機体がどれほど特殊なのかを。

 

(DG細胞!)

 

それに思い至った瞬間、シュバルツはハッチを開いて飛び降りた。自分が本来いた世界の一連のことを思い出し、背筋に悪寒というか緊張が走ったのだ。

受身を取って地上に降り立ち、すぐに後方に振り返って自分の愛機であるシュピーゲルを見上げる。そこにあったのは…

 

「! こ、これは!」

 

その姿に、シュバルツは驚愕を禁じえなかった。自分の愛機は確かに巨大化していた。そのことについて、どういう理論が働いたのかという疑問はあるがそれはまあいい。

…いや、本当はよくないのだが、そんなことはどうでもいいと思えるほどの変化が生じていたのだ。

下半身はただ巨大化していたのでこの際除外する。問題は上半身だった。なかったのだ、常日頃見慣れているはずのガンダムシュピーゲルの姿が。その代わりにそこにあったのは、

 

頭の左右に二門ずつ、計四門備えられている大口径のバルカン砲。

両肩の数箇所から、まるで生えるかのように突き出ている砲口。恐らくあそこから発射されるのは拡散粒子弾だろう。

 

そして何より、シャイニングガンダムを思わせるようなその外観。慌てて飛び降りたために中途半端な姿こそしているが、もしもう少し乗っていたら胴体部分は蛇腹のように細長くなっていたのだろうと容易に推測できる。

 

そう、その姿は、

 

「デビル…ガンダム…」

 

忘れもしない、全ての始まりであり全ての元凶でもあるその姿を。巨大化し、上半身部分がデビルガンダムとなっていたシュピーゲルは相変わらずの迫力と、見るもの全てを威圧する絶対的なまでの威圧感を放っていた。その目は、ファイターがコックピット内にいないにもかかわらず、生命が灯っているかのように赤く光っている。

そのときだったのだ、遥か彼方で第一中隊と戦っていたあの重力ドラゴンが鎌首をもたげてアルゼナルに振り返り、そしてその存在感に慄いたかのように重力結界を解除して後退りしだしたのは。

 

 

 

「ど、ドラゴン、重力結界を解除! 後退を始めました!」

 

戦況の変化は司令部でも感知していた。パメラが報告する。

 

「第一中隊、総攻撃を開始。…生体反応、消失!」

 

続けてヒカルが報告し、戦闘の終了を告げた。そのまま今回の損害状況などを報告する。

 

「…オリビエ」

 

報告を聞いていたジルが紫煙をくゆらせながらオリビエの名を呼んだ。

 

「は、はい」

「第二、第三中隊の戦闘待機は解除。引き上げるように伝えろ」

「はい!」

「次いで警備班全員に集合をかけ、格納庫で待機しているように伝えろ」

「は、はい!」

「後は頼みます、監察官殿」

 

出すべき指示を出したジルが立ち上がると、そのまま振り返りもせずに司令部を出て行った。

 

「え、ちょ、ちょっと、司令!」

 

エマがビックリしてその足を止めようとするものの、振り返ることなくジルは司令部を出て行った。

 

(ねえ、司令が出て行ったのって…)

 

ジルがいなくなったことでパメラが声を抑えてオリビエとヒカルに話しかける。

 

(うん、間違いないと思うよ)

(だよね)

 

そこで三人はもう一度モニターに眼をやった。そこには、異形の変化を遂げたシュピーゲルを、未だ見上げているシュバルツの姿があった。

 

 

 

 

 

(シュピーゲル、お前は一体…)

 

戦いが終わり、シュバルツはいつものコート姿に戻っていた。あの後、程なくしてシュピーゲルは徐々に小さくなっていった。そしてそれと平行して、デビルガンダムと化していた上半身部分も少しずつ元の状態へと変化していき、最終的にいつものサイズのガンダムシュピーゲルに戻っていたのだ。目に宿っていた赤い光も、今は消えている。

 

(あんな機能は備わっていなかったはずだ。機体自体が別物に変化するなど…。少なくとも向こうでは…)

 

いつもと変わらぬ容姿に戻ったシュピーゲルを見上げていたシュバルツがゆっくりと近づく。そして、何かを確かめるようにシュピーゲルに触れた。

と、後方から数十人の足音が聞こえてきた。足音は自分を包囲するかのように周囲に拡散する。そして程なく、一斉に無機質な音が鳴った。

 

「シュバルツ」

 

ジルの声だった。顔を上げるとゆっくりと振り返る。そこで目にしたのは、自分の正面に立っているジルと、自分を取り囲むように周囲を固めている警備班の姿だった。皆、その手にはライフルが握られている。恐らく先程の無機質な音は劇鉄を起こす音だったのだろう。

 

「ジル…」

 

シュバルツがジルの名を呼ぶ。こんな状況下ではあるがシュバルツもこうなることは予想していたため、無駄に取り乱すこともなかった。

 

「お前を拘束する」

 

ジルが言葉を続けた。

 

「理由は、いわずともわかるだろう?」

「…先程の一件だな」

「そうだ」

 

いつものようにタバコを咥えながらジルが答えた。

 

(当然の措置だな)

 

シュバルツも納得する。先程の変化は間違いなく司令部も感知していたはずである。であれば、今のこの状況も納得がいくのは当然だった。

何しろ、異形の変化を遂げた機体がすぐ傍にあるのだ。人間は自分の理解できないものには恐怖する性質がある。その原因を取り除く、あるいは支配下に置こうとするのは仕方のないことだった。

 

「……」

 

周囲に視線だけ走らせる。包囲している警備班の面々からは、この状況に関してそれぞれ違う感情を抱いているのが窺えた。

 

「大人しく従ってもらえると助かるのだがな」

 

紫煙を吐きながらジルが言葉を続ける。そしてトントンと灰を地面に落とした。

 

(この程度の包囲網、破ろうと思えばどうということはない)

 

一方、シュバルツは冷静に現状をそう分析していた。

 

(だが…)

 

もう一度視線を自分を包囲している警備班の面々に走らせる。先程の変化を見たのか恐怖している者もいれば、見てないのか何故こんなことをといった感じの表情をしている者もいる。職務を忠実に遂行しようとしている者や申し訳なさそうに銃を構えている者もいる。

そんな中、当然だが顔見知りの警備班の隊員もいた。そして彼女たちは一様に苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

職務としては司令の指示には従うしかない。中には先程のシュピーゲルの変化を見たものもいるだろう。しかしそれでも、シュバルツには銃を向けたくない…そんな感情が読み取れる表情だった。

 

(…彼女たちに拳は…向けられんよなぁ)

 

この場にいる警備班のうち、何人かはわからないがこんなことをやりたくてやっているわけではないのがわかる。しかしそれだけで、シュバルツにそう決心させるのは十分だった。シュピーゲルを護ろうとするならばここで無理やりにでも離脱すべきだろう。

だがその過程で、彼女たちの中に何人かの怪我人が出ることは否めない。敵意だけを向けられているならばあるいはそれでも納得したかもしれないが、そうでないことはわかってしまった以上、力技を使うことはシュバルツにははばかられた。

甘い! と言われればそれまでだが、それでもどうしてもそんな気にはなれないのである。

 

(まあいい。幸か不幸か、備えは強化してある。技術力の勝負になるが恐らくは…)

(それに負けるような事態になれば、その時は…)

 

そこまで考えを纏めると、シュバルツはゆっくりと両手を挙げた。行動を起こしたことにその場に緊張感が走り警備班が一斉に銃を構え直したが、シュバルツは何もせずにその挙げた両手をゆっくりと前方に差し出した。

 

「おい」

 

ジルはすぐ傍らの警備班の隊員に手錠を渡す。その隊員は受け取ると、用心深く近づいてシュバルツに手錠をかけた。その瞬間、緊張感の中にも安堵感が広まった。

 

「大人しく従ってもらえて助かる」

 

隊員が退いたのを合図にするかのように、ジルがシュバルツの元へ歩み寄ってきた。ゾーラがよくやる、シニカルな笑みを浮かべている。

 

「業腹ではあるが、こうしたい気持ちはわからんではないからな」

 

そうして、シュバルツは拘束された己の両手に目をやった。

 

「ふ、心配するな。悪いようにはせん」

「それは私のことか? それとも、機体のことか?」

「両方だ。おい、連れて行け」

『ハッ!』

 

ジルの命令で二人の隊員がシュバルツを連行し始めた。

 

(遂に手に入れたぞ、ガンダムシュピーゲル)

 

遠ざかっていくシュバルツたちの足音を聞きながら、ジルはシュピーゲルを見上げる。そして、猛禽の様な獰猛な笑みを浮かべたのだった。


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