機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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望外に時間が取れたので今週も投稿します。

この後は又しばらく時間が空くと思いますが、なるべく早く次話を投稿しようと思いますのでご容赦下さい。

それとは別に驚いたのが、この一週間でUAが3000を突破し、お気に入りが80件以上増えたこと。

活動報告にも何も載せずに三ヶ月も放り出していた作品に、まさかまだこれだけの数字が集まるとは思いませんでした。

続きを期待している人がまだいらっしゃると認識し、今後も頑張っていきたいと思います。

まだまだ長いお付き合いになるとは思いますが、良ければ今後ともお楽しみ下さい。

では、どうぞ。


NO.09 反逆と調和

(これは、やはり…)

 

ガンダムシュピーゲルに乗り込み、システムを確認したシュバルツが厳しい表情になる。

昨日の戦闘から一夜明け、シュバルツはシュピーゲルの元へと足を運んでいた。目的はただ一つ、自分の推論が当たっているかどうかを確認するためである。そしてそれは幸か不幸か当たっていた。メイが血相を変えて自分に報告してくれたからだ。

 

『損傷したはずの右拳がいつの間にか元に戻っていた』

 

と。

それを聞いたシュバルツは即座にシュピーゲルに乗り込み、そして今現在に至るということである。

あることを確認するために昨日の戦闘の前に行ったこと。それは以前のシュピーゲルには見られなかった、あの三本のゲージのうちの一つのORという表示のゲージに数値を全部割り振ったことだった。

その結果…かどうかは分からないが、損傷したはずの右拳は一晩で復活した。そしてそれによってわかったこと。

 

(自己再生…)

 

そう。父が提唱し、自分も助手として完成させたあの三大理論の一つである。それがこの機体にも搭載されていることが分かった。

 

(ならばあとの二つのゲージは当然自己増殖と自己進化。つまりこの三本のゲージは予想通り、三大理論とその占有パーセンテージを示したもの。この英字はOwn Revival・Self Multiplication・Own Evolutionのそれぞれの頭文字か)

 

三大理論の好きな指標を強めたり弱めたりすることが出来るという機能は以前のシュピーゲル…というよりデビルガンダムにはなかったが、取り敢えずそれはこの際どうでも良い。重要なのはこの機体にも三大理論が搭載されているということだった。三大理論が搭載されているということは当然、

 

(DG細胞…)

 

そこに行き着く。それは間違いないことだろうが、唯一つだけ気がかりなことがあった。他に侵食した様子が見られないのだ。

 

(ここに落ちてきて既にもう何日も経つ。これだけ時間が経っていればDG細胞がどこかに侵食していてもなんら不思議ではないし、下手をすればこのアルゼナルごとDG細胞に飲み込まれていてもおかしくはない。が、そんな様子はどこにも窺えん)

 

無論、シュバルツ自身が気付かないほど周到に、少しずつ、それこそ水面下でじわじわと侵食しているのかもしれない。そうなってしまってはお手上げだが、この世界にこれを持ってきてしまった責任として、そうなった場合シュバルツは己の生命を賭してこの世界からDG細胞を殲滅するのを決めていた。

しかし表面的には、このアルゼナルは平和そのものである。生命のやり取りをする場で『平和そのもの』などという修飾語を使うのもおかしな話だが、実際にそうなのだから仕方がない。

 

(ことはDG細胞に関わる。楽観視は禁物だ。慎重になりすぎて悪いことはない。だが…)

 

自分が本来いた世界でのことを思い出してDG細胞の特性を考えてみるに、ここまで大人しいのはハッキリ言ってありえなかった。本来ならばとっくに何らかの異変が起こっていてもおかしくはない。しかし、それらしい異変はシュバルツの知る限りでは一つとしてない。

シュピーゲルに登場する前にメイにも、念のため最近アルゼナル内で何か変わったことはないか尋ねてみたが、そんなことはないと言っていた。

無論、メイがシュバルツに内緒にしているという可能性も考えられるのだが、そうしたところでいずれ必ず表面下に現れる。あまり歓迎したくない事態だが、そうなったらそのときに対処すればいいと思っていたし、そうするしかないとも思っていた。

 

(このシュピーゲルが以前のものと同じようにDG細胞で構成されているのは分かった。だが、以前にはなかったこの違和感は一体…)

 

考える。だがいくら考えたところで正解が出るわけない。紙の上のテストや計算問題ではないのだ。どこかに模範解答があるわけではない。結局のところ、諸々の事実を手がかりとして推論を立てて、それから正解の方向を模索するしかないのだ。そして現時点では、まだ判断に足るほどの手がかりはなかった。が、

 

(もしや…)

 

それでもシュバルツは一つの仮説を立てていた。それが正解かどうかは分からないし、その仮説は実に都合の良いものだと自分でも思っていた。

 

(取り敢えず、今度は)

 

一息つくと今日はこれまでとばかりに今度は自己増殖に全ての数値を割り振った。これが三大理論を表すゲージだと確信が持てたことで、もう一つシュバルツには確かめたいことが出来たのだ。システムをダウンさせて外に出ると、メイがじっとこちらを見ているのが一番に目に入った。

 

(さてさて、メイをどうやって説得したものかな…)

 

ある意味先程まで以上の難題に、シュバルツは内心での苦笑を禁じえなかった。

 

 

 

 

 

数日後深夜、ジルの私室。そこにはジルをはじめ、ゾーラ・サリア・メイ・マギーにジャスミンと彼女の愛犬バルカンという、このアルゼナルでの重要人物の面々が首を揃えていた。

 

「三度の出撃でこの撃墜数。結構結構」

「今まで誰もまともに動かせなかったあの機体を、こうも簡単にねえ…」

 

ジルが満足そうに首肯し、マギーが驚きとも呆れともつかない感想を述べている。対象になっているのはアンジュ。吹っ切れた元皇女様だ。

 

「多分、ヴィルキスがアンジュを認めた」

「じゃあ、あの子が?」

「要というわけですね、司令?」

 

メイの呟きにサリアが訊ね、ゾーラの言葉にジルが頷く。

 

「始めるとしようか、『リベルタス』を」

 

彼女を取り囲む全員を見渡すようにして、ジルはそう告げた。そしてそのままサリアへと顔を向ける。

 

「不満か、サリア?」

 

水を向けられたサリアはそのことについて表面上は文句は言わない。その代わり、

 

「すぐ死ぬわ、あの子」

 

とだけ話して返答とした。

 

「まあ確かに、今までの戦いを見ていると長生き出来そうな感じじゃありませんがねえ」

「皆の隊長を負傷させ、可愛い新兵を殺したド悪党。恨まれて当然だわな」

 

アンジュが参戦したこれまでの三度の戦闘を思い出してそう判断するゾーラとそれに追随するマギー。彼女達の言葉通り、アンジュはこれまでの戦闘でとにかく連携というものをしていなかった。正確に言えば自分からしようとしていなかったし、隊の約半数…具体的に言えばヒルダ・ロザリー・クリスは彼女との連携を拒否していた。

エルシャとヴィヴィアンについては問題なかったのだが、彼女達との連携はアンジュのほうから拒否している。結果、アンジュが好き勝手に戦線を引っ掻き回す形になっており、ドラゴンの…言い換えれば報酬の奪い合いとなっていて、チームとして結果こそ残してはいるものの、部隊としてはバラバラで纏まってはいなかった。

 

「まあ、フレンドリーファイアしなくなっただけまだマシになりましたよ」

 

ゾーラが髪を掻き揚げると、彼女にしては珍しく力なく笑った。最初の戦闘でロザリーとクリスはアンジュを背中から撃ったのである。

無論、それとはわからないように、表向きは援護をすると見せかけての砲撃だったが、見る人間が見れば悪意をもって背中を狙ったのがわかる射撃だった。

その戦闘後にヒルダも含めた三人を呼び出して説教したのが効いたらしく、最初の戦闘だけでその行為は形を潜めたが。

 

「申し訳ありません隊長。自分の力不足です」

「副長…おっと今はあんたが隊長だったね…のせいじゃないさ。今までのあいつのノーマに対する言動や、戦闘における強引なドラゴンの撃破を考えれば、最初から足並みが揃うわけないんだ」

「ですが暫定的とはいえ隊を任されている以上、纏められない責任は自分にあります」

「相変わらず真面目だねえ。責任感が強いのは良いけど、何でもかんでも背負い込むのは良くないよ。あの機体の…ヴィルキスのことだってそうさ」

「ですが、私なら上手くやれます!」

 

ヴィルキスのことに話がいき、サリアがジルに訴えた。彼女にはヴィルキスに対して並々ならぬ思い入れがあるのだ。それを新人の、しかも問題児に奪われては納得できないのも当然だろう。

 

「私なら、もっとヴィルキスを使いこなしてみせる! なのにどうして…?」

「適材適所ってヤツさ」

 

ジルが立ち上がると、サリアの元へと歩み寄った。

 

「ヴィルキスに何かあったら!」

「そのときはメイが直す! 生命を掛けて! それが、私達一族の使命だから!」

 

「メイ…」

「お前は、お前の使命を果たすんだ」

 

サリアの隣まで来たジルがその肩にポンと優しく手を置いた。

 

「いいね、サリア」

「……」

「良い子だ」

 

サリアは答えず、表情を曇らせながら俯いた。

 

「忙しくなるな、これから」

「ああ」

 

マギーに同意してジルが頷く。

 

「くれぐれも気取られないようにな。特に監察官殿には」

 

メイがドアを少しだけ開けて周囲に視線を走らせる。見た限り、周囲に人はいなかった。

 

「メイ」

 

メイがドアを閉めた後、ジルが声を掛けた。

 

「何?」

「シュバルツの方はどうだ、その後何かわかった…あるいは聞き出せたか?」

 

その言葉に、その場にいた全員の視線がメイに集中した。しかし、

 

「ううん」

 

申し訳なさそうな表情でメイは首を左右に振るだけだった。

 

「これまで報告した以上のことは、まだ何も…」

「そうか」

 

元からあまり期待してなかったのだろうか、ジルは特に落胆した様子もなく頷いた。

 

「でも、あの機体にはやっぱり何かあるよ。それは間違いない」

「だろうな。最新の報告を目にしたときは疑ったぞ。損傷が自動的に回復したとはな」

『えっ!?』

 

ジルの呟きに、ゾーラとサリアの驚きの声が重なった。

 

「司令、今のは本当なのですか?」

「ああ。その場面を実際に見たわけではないが、一晩明けたら被弾した損傷部分が綺麗に修復されていたそうだ」

「貴方たちは手を出していないのね、メイ?」

「うん、シュバルツに頼まれたんだ。一日だけ故障箇所に手を出さないでくれって。どういうことかと思ってたけど、翌日になったら損傷が直っていたんだもん。ビックリしちゃったよ」

「そんな…」

「どういうことなんでしょうかね、司令?」

「さてね…」

 

ゾーラの質問に首を左右に振り、ジルがタバコに火を点けた。

 

「知りたいのなら方法は二つ。聞くか、探るか。だがどちらにしてもシュバルツが立ちはだかる。…ゾーラ、サリア」

『はい』

「お前達、あいつと正面から渡り合って勝てる自信はあるか?」

「いえ」

「ありません」

「だろうね」

 

ゾーラとサリアのいっそ清々しいまでの回答に、ジルがくつくつと咽喉の奥で笑った。

 

「バカ正直に真正面から聞いたところで答えてくれるはずはないだろうし、目を盗んで探ろうとしてもまずそれが可能かどうか。仮に上手く探れたとして、ロックやシステムいじってダミーのデータ流してるぐらいのセキュリティーはしてあるだろうからね」

「お手上げってわけかい」

「ああ」

 

マギーの言葉にジルが頷く。

 

「この件に関しては引き続きお前に一任するよ。何とかしてみてくれ、メイ。手段は選ばなくていい」

「う、うん…」

 

了承の返事はしたもののメイの歯切れは悪く表情も曇っている。そんな彼女をジルが見逃すわけはなかった。

 

「どうした、嫌そうじゃないか?」

「そ、そんなこと…」

「情が移ったか?」

「……」

 

答えない。そしてこの場での沈黙は肯定を表していた。

 

「メイ、自分の成すべきことを忘れたわけじゃあるまい」

「わかってるよ。でも…」

「姉の敵をとると言ったお前の誓いは偽りだったのか?」

「そんなことない! だけど…」

「つい先程サリアにも言ったし、自分でも言っていたじゃないか。お前は、お前の使命を果たすんだ」

「……」

「いいな、メイ」

「あたしは反対だね」

 

押し切ろうとしたところで、思いがけない方向から声が上がった。

 

「ジャスミン…」

「ジル、前にも言ったけどあの男は敵に回すべきじゃない。対立関係を生むような行動は慎んだほうが良い」

「根拠は前と同じく、長年の勘…かい?」

「ああ、その通りだよ。それにあんたさっきゾーラとサリアに正面から渡り合って勝てるのかと聞いたね?」

「ああ」

「じゃあ、同じ質問をしてやるよ。ジル、あんたならあの男と正面から渡り合って勝てるのかい?」

「……」

 

沈黙。先程は肯定を表す沈黙だったが、この場合は否定を表す沈黙に他ならなかった。

 

「自分が出来ないことを他人に望むもんじゃないよ」

「…ふぅ、わかったよ」

 

暫くして諦めたように溜め息をつくと、決まり悪そうな表情でジルは頭をガシガシと掻いた。

 

「じゃあこうしよう、折衷案だ。シュバルツの扱いは当面は現在のスタンスで行くとする。時が過ぎていく中であいつが我々の計画に力を貸してくれそうならこちらから打ち明けて協力を求める。…それならいいだろう?」

「あ、う、うん。それなら喜んで!」

 

嬉しそうに、本当に嬉しそうにメイが微笑んだ。

 

「言うまでもないがこの場合、お前の仕事は一つ増えることになる。シュバルツという人物を見極めることだ。もっともこれは我々にも言えることだがな」

 

言葉を切ると、ジルはゾーラとサリアに視線を向けた。

 

「出来るな? ゾーラ、サリア」

「了解しました」

「はい」

 

ゾーラは敬礼をし、サリアは静かに頷いた。

 

「よし。では解散!」

『イエス・マム!』

 

ゾーラ、サリア、メイが敬礼するとそのままジルの私室を後にした。

 

「さーて、それじゃああたしも戻るかね」

「あたしも帰ることにするよ」

 

マギー・ジャスミンの年長組も同じくジルの私室を後にする。

 

「ジル」

 

最後の一人、ジャスミンが部屋を後にしようとしたところで立ち止まると振り返った。

 

「ん?」

 

紫煙をこゆらせながらジルがジャスミンに視線を向ける。

 

「あたしは、あんたがリベルタスに賭ける思いは知ってるつもりだ」

「ああ。それで?」

「何だって利用する覚悟があるのも知ってる」

「地獄にはとっくに堕ちてるからね」

「だが、皇女殿下はともかく、あの男を手駒として利用するのは止めたほうがいい」

「……」

 

再び紫煙をこゆらせる。そして答えない。

 

「さっきメイたちに言ったことが建前じゃなくて本音であることを祈ってるよ」

 

それだけ言い残すと、ジャスミンはバルカンを引き連れて出て行った。

 

「……」

 

ジルは随分と短くなってしまったタバコを義手で握り潰すとそれを灰皿に投げ捨てた。その表情からは遂ぞ、何を考えているのか読み取ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「撃破、スクーナー級6。ガレオン級へのアンカー撃ち込み。弾薬消費、燃料消費、装甲消費をマイナスして、今週分30万キャッシュ」

「チッ、これっぽっちか」

 

今週分の報酬を手にしたロザリーが悪態をつく。ジルの執務室で水面下の会合があった日から数日後、戦闘を終えて帰投した第一中隊は支払い窓口で週に一度の報酬分を受け取っていた。

 

「十分だよ。あたしなんて20もないよ」

 

慰めるためだろうか、クリスが力なく告げた。

 

「ヒルダは?」

 

ロザリーが訊ねる。ヒルダは何も言わず、二人に今週分の報酬を見せた。

 

『おぉー!』

 

その分厚さに、ロザリーとクリスはまるで拍手でもしそうな様子で羨ましそうな声を上げる。と、

 

「今週分、650万キャッシュ」

 

桁違いの報酬が彼女達の背後から告げられる。振り返ると窓口に立っていたのはアンジュだった。

 

『……』

 

無言ながら面白くなさそうな顔をする、ヒルダ・ロザリー・クリスの三人。

 

「アンジュ、やるぅ」

「大活躍だったものねえ」

 

対照的に素直に感想を述べるヴィヴィアンと褒めるエルシャ。が、アンジュは表情一つ変えずにそれを全額預金へと回し、そのままその場を後にしようとした。と、その時、

 

「すまんが、そこをどいてくれんか」

 

彼女達は背後から声を掛けられた。掛けられた声質の持ち主はアルゼナルの中には一人しかいない。思わず足を止めたアンジュも含めて第一中隊の面々が振り返ると、そこには果たしてその人物が立っていた。

 

「あ、シュバルツ!」

 

振り返ってそこにいた人物…シュバルツを見ると、ヴィヴィアンの顔がパーッと明るくなった。

 

「あらミスター」

「お疲れ様、シュバルツ」

「ああ、そちらもな」

 

エルシャが朗らかに微笑み、サリアが労をねぎらう。それに対しシュバルツは同じように労をねぎらって返礼した。が、友好的なのはこの三人まで。

残りの四人…アンジュ・ヒルダ・ロザリー・クリスはそれぞれ敵愾心や恐怖心などを持ってシュバルツを迎えていた。それがため、必然的に仏頂面や厳しい表情・怯えた表情となり、言葉を交わそうとはしなかった。

 

「さっきの戦闘でも、支援ありがとね!」

 

そんな中、良くも悪くも空気の読めないヴィヴィアンが積極的に話しかける。今回の第一中隊の出撃では戦闘空域が近いこともあって、シュバルツも参戦していた。

 

「いや、お互い無事で何よりだ」

「そうですね。それで、ミスターもキャッシュを受け取りに?」

「ああ」

 

頷くとシュバルツが窓口に立つ。と、

 

「いらっしゃいませ!」

 

受付の職員が立ち上がってお辞儀した。そしてとびきりの笑顔をシュバルツに向ける。先程までとは一味も二味も違った接客に、第一中隊の面々はムッとするよりも呆れていた。

 

「宜しく頼む」

 

が、シュバルツがそんな態度の違いを知るはずもなく彼女に一声掛ける。

 

「はい、少々お待ちくださいね!」

 

ニコニコ顔の職員はすぐさまシュバルツのキャッシュを計算し始めた。

 

「撃破、0。変わりにクラス関係なく飛び道具の撃ち込みによる援護173。損耗はないため、今週分は丁度100万キャッシュになります!」

 

そして計算されたキャッシュをトレーに載せてシュバルツに差し出す。

 

「どうぞ!」

「ありがとう」

「いえいえ。又来週もお待ちしております!」

「ああ」

 

軽く礼を言うと、シュバルツはキャッシュを受け取って懐へと入れた。

 

「ハッ。何だ、随分と少ないじゃないか、イレギュラーさんよ」

 

支払われた金額が自分以下だったため、ヒルダが挑発するように揶揄する。

 

「そうか」

 

が、そんな安い挑発に乗るほどシュバルツは底の浅い人物ではない。簡単にいなす。それが気に入らないのか、ヒルダが続けて挑発するように揶揄した。

 

「初出撃のときは随分とご活躍だったけど、あれはまぐれだったんじゃないのかい?」

「お前…一体何がしたいのだ」

 

対してシュバルツはやはり挑発に乗ることなく軽く溜め息をつく。

 

「私を無駄に挑発してどうしたいのだ? 怒らせたいのか? 羨ましがらせたいのか? 私がお前の望み通りの反応をしたとして、その後どうするつもりだ? 意味も目的もサッパリわからん」

「…チッ!」

 

理詰めで返され、ヒルダは面白くなさそうに舌打ちした。

 

「そうよ。下らないことは止めなさい」

 

サリアが二人の間に割って入る。

 

「金額の多寡よりむしろ、戦績の内容に着目するところでしょう? 撃破無し、後方からの援護だけで100万キャッシュ達成したのよ」

「そうね。100体以上のドラゴンを負傷させ、自身の損耗は無しっていうのもすごいわ」

 

エルシャもサリアの意見に追随してシュバルツを褒める。

 

「まあ、最初に後方支援しかしないと宣言しているしな。私は己の職分を果たしているに過ぎん」

「それでも、やっぱり凄いことですよ、ミスター」

「ええ、そうね」

「よせ、面映い」

 

軽く微笑む。が、すぐに真面目な表情になった。

 

「お前達が他人のことを気にしている暇はないだろう。私のことより、お前達は自分達のことをどうにかするのだな」

「は? 何のことだよ?」

 

ヒルダが食って掛かる。

 

「決まっている、お前達の戦闘内容だ。何だあれは」

 

そこまでで一度言葉を切ると、シュバルツは続きを口にする。

 

「集団で陣形を組み、連携して敵を撃破するのがお前達の…パラメイルの戦い方だろう。だが私が立ち会った戦闘では、お前達第一中隊にはそのような気配、微塵も感じられなかったぞ。第二・第三中隊にそんな問題点は見られなかったとは言わないが、どうとでも成る程微細なものだ。翻ってお前達は戦績は確かに上げているが、最近は多少ましになったとはいえ、部隊間の連携という意味ではマイナスがようやくゼロになった状態といっても過言ではないだろうが」

 

そしてシュバルツはまず視線をロザリーとクリスに向けた。刺すような視線に射抜かれ、ロザリーはヒッと軽く悲鳴を上げ、クリスはロザリーの後ろに震えながら隠れてしまった。

 

「何故撃った」

「な、何のことだよ」

 

ロザリーが虚勢を張る。が、そんなものはシュバルツには何の意味も持たなかった。

 

「皇女殿下が髪を切ってから臨んだ最初の出撃で、何故皇女殿下を背中から撃ったのかと聞いているのだ」

 

その言葉に、アンジュの眉がピクリと動く。が、何も言わずに黙ってシュバルツ達のやり取りを聞いていた。

 

「そんなに気に入らんか、皇女殿下が」

「あ、当たり前だろ! こいつはお姉さまを負傷させて、新兵共が死ぬ原因を作った奴だぞ! 気に入るわけないだろ!」

「そ、そうだよ」

「その気持ちはわかる。だが、だからと言って背中から人を撃って良いという理由にはならんだろう」

 

そう言うと、シュバルツはロザリー達の目の前から消えた。そして次の瞬間、

 

「っ!」

「ヒッ!」

 

ロザリーとクリスが声にならない悲鳴を上げた。何故なら二人は背中に何かを押し当てられた感触を感じたからだ。丁度心臓の真裏部分に。

 

「背中から人を撃っていいのは、自分が背中から撃たれても良い覚悟を持っている者だけだ」

『あ、ああ…』

 

声が彼女達の耳朶を打つ。その声は直前まで自分達の目の前にいた人物の…シュバルツのものだった。

 

「背中から撃たれるということがどれほどの恐怖かわかるか?」

 

そう言いながら、シュバルツは彼女達の背中に押し当てた何かを押し込める力を強くする。実際にそんなことがあるわけはないのだが、たっぷりと恐怖を味わっているからだろうか、ロザリーとクリスはそのままその何かが背中を突き破って心臓を突き刺すのではないかという強迫観念に襲われた。結果、

 

「わ、わかったよ!」

「もうしないから! だから許して!」

 

取り乱して必死になって許しを乞うた。その直後、二人の背中から圧が消える。恐怖から解放された二人は腰が抜けてしまったのだろうか、へなへなとその場に力なく座り込んでしまった。

 

「今の言葉」

 

いっそ哀れなほどビクッと身体を震わせ、ロザリーとクリスは恐る恐る顔を上げた。そんな二人の各々の額に、シュバルツは両手の人差し指を突きつける。

 

「忘れるなよ」

 

涙目になりながらロザリーとクリスはコクコクと何度も頷いた。そこで二人は自分の背中に押し当てられたものが何のことはないシュバルツの人差し指だったと気付いたが、押し当てられていたときは本当に怖かったのだ。

 

(少し、脅かしすぎたか…)

 

そんな二人の様子に、今更ながら少しやりすぎたとシュバルツは後悔した。フレンドリーファイアも今話しに上げた戦闘であっただけで、その次の戦闘以降はピタッと止んでいる。恐らくゾーラから叱責を受けたのだろう。それがわかっていながら少しお灸を据えすぎたことに、いずれフォローしておかねばなと思いながら次にヒルダとアンジュに視線を向けた。

 

「な、何だよ」

「何」

 

この二人はロザリーやクリスと違って肝が据わっているため、怯まないどころか面と向かって食って掛かってきた。

 

「最前線で得物の奪い合いとは、お前達は生き死にの場で随分と余裕があることだな」

「チッ…あんたには関係ないだろ」

 

忌々しそうにヒルダがそう吐き捨てる。

 

「確かに私には関係のないことだ。だがな、お前達に振り回される他の連中はいい迷惑だ。少しは弁えるのだな。いずれ手痛いしっぺ返しを喰らうぞ」

「余計なお世話よ。私は一人でいいの。あんたなんかに指図される覚えはないわ」

 

フンと鼻を鳴らすと、これ以上は付き合ってられないとばかりにアンジュは身を翻してこの場を去っていった。

 

「…あの痛姫様と意見が同じなのは癪に障るけど」

 

ポリポリと頭を掻きながらヒルダが口を開いた。

 

「ほんとに余計なお世話。ハッキリ言ってウザイんだよ、あんた」

 

そしてヒルダはシュバルツに向かってペッと唾を吐いた。無論、そんなものがシュバルツに当たるわけはなく、高速でかわす。

それは予想していたのか、面白くなさそうにこちらもフンと鼻を鳴らし、

 

「行くよ、ロザリー・クリス」

 

と、未だへたっている二人に声を掛け、さっさとその場を後にした。

 

「ヒ、ヒルダ!」

「待ってくれよ!」

 

お互いを支えにして慌てて立ち上がるとロザリーとクリスも後を追う。結果、残ったのはシュバルツと、サリアにヴィヴィアン・エルシャという、現時点でシュバルツと良好な関係を築けている者だけになった。

 

「あ、あの、ミスター…」

 

何と言えばいいものかといった感じでエルシャが恐る恐る声を掛ける。だが、シュバルツはアンジュやヒルダの言動に特に気分を害した様子もなく、

 

「やれやれ、嫌われたものだな」

 

と、苦笑しただけだった。

 

「ごめんなさいシュバルツ、うちの隊員が…」

 

サリアが申し訳なさそうに頭を下げる。が、

 

「気にするな」

 

と一言だけ言ってサリアに頭を上げるように促した。

 

「内部事情を良く知りもしない部外者にあれこれ指図されれば気分が悪くなるのも当然だろう」

「でも…」

「だからお前が気に病むことではない。それに忠告はした。それを受け入れるも蹴飛ばすも後は本人次第。その結果どういう事態を招こうともそれは自分の蒔いた種だ。きっと素直に受け入れることだろうよ。…それより私の方こそサリア、お前に詫びねばならん」

「えっ!?」

 

まさかそんなことを言われるとは思わず、サリアは驚いた表情になった。

 

「部外者が首を突っ込んだせいで余計に収拾がつかなくなるかもしれん。差し出がましい真似をしてすまなかったな」

「そ、そんな! それこそシュバルツが気にすることじゃないから。…でも、一つだけ聞いていい?」

「何だ?」

「その…どうしてアンジュ達にあんなことを言ってくれたの?」

「ふむ、そうだな…」

 

少しの間考える。が、すぐに答えは出た。

 

「投影…かな?」

 

そしてそう、シュバルツはサリアに告げた。

 

「投影?」

「ああ」

「どういう意味?」

「お前が部隊を纏めるのに苦労しているのは傍目で見ても良くわかったからな。気苦労の絶えない苦労人というのは、どうも他人のような気がせんのだ。だから差し出がましいと思ったが、あのような真似を…な」

「そうなんだ…」

 

そう言われてサリアは嬉しくなった。と同時に、計画の協力を仰ぐに値する人物という評価も一段階上がっていた。

まだ全てを話して協力を仰ぐには早い。だが少なくとも、

 

(メイが情が移っただけのことはあるみたいね)

 

という判断を下すことは出来た。

 

 

 

 

 

その後、アンジュがいつの間にかビリビリに破られた己の制服の報復をロザリーに果たし(これをやった時はまだシュバルツのお仕置きを受ける前だったので、実質これがロザリーとクリスによる最後の嫌がらせとなった)、その制服を着て歩いていたところをエマに見つかって叱責を受け、その際のとある発言が元で他のノーマ達から更に反感を買うようになるのだった。


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